ウマ娘 ワールドダービー 凱旋門レギュ『4:25:00』 ミホノブルボンチャート   作:ルルマンド

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レーン・エイエイムン「ガンダムだと!?」

アンケートやってます。締切は本日22時です。詳しくは後書きにあります。よろしければご参加ください。


サイドストーリー:Most ValuaBourbon

 年度代表ウマ娘というものを目指すウマ娘は、意外と多い。

 

 そんな彼女らは、年度代表ウマ娘とはなんぞや?と問われればこう答えるだろう。

 

 ――――直前に過ぎ去った1年の主役だ、と。

 

 要は、MVPみたいなものである。

 そしてこのMVP賞に参謀が直接関わっていたウマ娘が選出されたのは、これまでに3回。

 1回目。クラシック級時代のシンボリルドルフ。2回目。シニア級1年目のシンボリルドルフ。それまでになかったこの連覇にはMVP(Most Valuable Player)ではなくMVR(Most Valuable Rudolf)にするべきだと呆れられたが、それほどまでにあの時のルドルフはあまりにも圧倒的だった。

 

 3回目が、シニア級1年目のサイレンススズカ。彼女は無敗でこそ無かったが、年間を通して無敗だった。最後の最後で、どこかの無能のせいでケチが付いたが。

 

 そして4回目は、ミホノブルボン。寒門の出である彼女だった。

 

「……で、勝負服を新調したわけか」

 

「はい。マスター、どうでしょうか」

 

 事前に新デザインを提出していたらしい新勝負服を早速、部室で装備してみせたミホノブルボン。

 誇らしげに、嬉しそうに。彼女はくるりと回って片足で立ついつものポーズをして、右手をひょいと突き出した。

 

 肩付近を浮遊する、2枚の盾。翼?

 まあどちらでもいいが、謎の物質。それがふわふわと、彼女の周りを浮遊している。

 ブルボンの勝負服は、割と物理法則を無視する傾向にある。

 

 流星のような形をした簪のようなパーツ、尻尾を囲む複数のリング、腰をくるりと覆う謎の部品2つ。

 全部、謎の力で浮かんでいる。彼女自身が謎の電磁波を出しているから、それを利用しているのだと思われるが、ともかくURA驚異のメカニズムが使用されているのは間違いない。

 

「かっこいいな」

 

 ミホノブルボンはちょっと抜けてる感じの仔犬みたいなかわいい顔と、精悍で冷静且つ智性溢れる顔のふたつを持っている。

 持っているが、このメカメカしい勝負服はどちらの顔をしていてもとても似合っていると言えた。

 

「はい。私もかっこいいものに仕上がったと自負しています」

 

 むふー、と。

 まあ実際にそういったわけではないが、どやっとしている。そんなミホノブルボンは、妙に庇護欲をそそる。

 庇護欲というか、疲れて帰ってきたときにちっこい仔犬がおかえりー!と尻尾をふりふりして突っ込んできて、足元にまとわりつくあの感じ。

 

 明らかに無邪気に邪魔なことをされても、なぜだか微笑ましくて許してしまう。

 

 マスターマスター、と。

 後ろからとことこ付いてくるウマ娘。冷静で無表情、クールで口数が少なそうに見えて結構たくさん喋ってくるウマ娘。

 

「表彰されるのもいいだろう。新しい勝負服を喜ぶのもいいだろう。栄光を振り返るのもいいだろう。だが明日からは、来年もここに立てるように努力する。栄光は過去の扉に置き捨てて、未来に向かって走れ」

 

「はい、マスター。勝って兜の緒を締め、がんばります」

 

 突き出した右手には、壊れた時計。あげて早々に壊してしまい、凹んでいたそれを勝負服につける。

 大事にしていたのだろうと言うことが伝わってきて、東条隼瀬はなんとなく嬉しくなった。

 

 プレゼントなど、あげて終わり。大事にしようが何をしようが、気にならない。

 何故ならば、贈呈とは所有権を移す行為だから。だからその後がどうなろうと、知ったことではない。

 

 ……そのはずだった。

 

「その時計、俺が渡したやつか」

 

「はい。生きてるならば許可はできないが壊れているならば、と。URAも許可してくださいました」

 

「そうか」

 

 ぱたぱたと尻尾が振れて、耳が左右にぴこぴこと揺れる。

 チカチカと白い光が瞬く青い瞳の中には具体的な感情というものは読み取れないが、なんとなく温かい光があるように見えた。

 

 そんなミホノブルボンがちょこんとベッドに座ると共に、腰のあたりで浮く謎の機械が2つシーツの上に沈む。

 

 東条隼瀬が、椅子の向きを逆に変えてベッドの方を向く。

 ミホノブルボンが、ベッドに腰掛けて机の方を向く。

 

 この二人が部室で話すときは、大抵こうだった。

 

「それにしてもその勝負服はかっこいいが、何故そういうデザインにしたんだ?」

 

「はい。これは――――」

 

 一生懸命、身振り手振りを交えてミホノブルボンは話す。

 耳と尻尾の動きから、説明するという――――ともすれば面倒くさい行為を楽しんでいるということを確認しながら、参謀こと東条隼瀬は頷き、返事をして相槌を打った。

 

 東条隼瀬は、実に話しにくい相手である。

 第一に表情に乏しく、第二に眼の強い光がある。要は、何を考えているかわかりにくいし、独特の圧がある。

 

 だが、彼はこの上なく聞き上手だった。相手の理想、意見、思考法。これを茶化さず否定せず肯定し、間違えた理解をすることなく自分なりの見方を伝え、新たな側面を話し相手に見せる。

 

 ――――話している内に、髪を結うかのように考えを纏めさせてくれる

 

 シンボリルドルフはそう言ったがまさにそうで、東条隼瀬は全身で聴こうとしてくれる人間だったし、全身で『どうか理解させてほしい』と言う態度をとる人間だった。

 

 ――――決して愛想は良くないが、必要以上に喋ってしまう。喋りすぎたかなと思う程に喋ってしまう

 

 そう評したシンボリルドルフの言葉は、正しい。東条隼瀬は、他人の話を聴くことが好きなのである。

 見ず知らずの無愛想な人間に、いきなり熱心に話しかける人間はいない。だからこそこの長所は数少ない友人たちにしか発動しないわけだが、それでも彼の長所だと言えた。

 

「時計は、マスターにいただいたものです。だから付けたいということもありましたが、その思いは有馬記念後により強くなりました。動機は不明ですが、願望に従った形になります」

 

「なるほど。それは時計というものが、君のこれまでの象徴だったからではないかな」

 

「象徴……ラップ走法のこと、でしょうか」

 

「ああ。ラップ走法を超越する。無論君は俺からもらった時計を勝負服につけたい、という思いはあったのだろうが、その時計をつけたいという欲望にはいくつかの原因が推察できる」

 

 第一に、これまで二人三脚で築き上げてきたラップ走法ができなくなったことへの罪悪感。

 第二に、破壊されたラップ走法を受け入れて前に進むと言う決意。

 第三に、正確な時を刻んでいた自分の象徴である時計を見て、見るたびに思い出されるいつかの正確さを取り戻すという決意。

 第四に、時計など必要としないなにかを探っているという深層心理。

 

「なるほど……」

 

「まあ必ずしもあっているとは言えないだろうが、そういう可能性もあるのではないか」

 

「そうかもしれません」

 

 寧ろそうだろうと思っていたが、ミホノブルボンは彼が自分の意見を鵜呑みにされることを嫌うことを知っている。

 かもしれないで一旦喉元に留めて、咀嚼して飲み込む。そうしてほしいと思っていることを、知っている。

 

「マスターは、私と話していて楽しいですか?」

 

「ああ。君は一生懸命話してくれるから、とても楽しいよ」

 

 そして何よりも、話し方や話の切り口、好みからは人格を知ることができる。

 大抵はそれらを無視して最効率の方法をとるが、理解しておいて無視するのと理解せずに無視するのでは大きな差があるのだ。

 

 尻尾の揺れる速度が加速し、明瞭な発音と機械的な話の組み立てで実にわかりやすいお話がミホノブルボンの口からノンストップで話される。

 

 そんな中でふと出てきたのが、ライスシャワーの話題だった。

 

「最近、ライスの調子がおかしいようです。冷めている、というか」

 

 外食に行ったら常にご飯が冷えている、というわけではない。ミホノブルボンの数少ないお友達であるライスシャワーがなんとなく冷えているということである。

 

 一緒に練習しているからこそわかることもあるらしい。或いは、ライバル同士だからか。

 ライスシャワーは菊花賞以降、レースに出ていない。理由は単純、疲れていたから。

 

 マチカネタンホイザも菊花賞以降出走登録をしておらず、菊花賞でレコードを叩き出した3人のうち2人が疲れ切って年内いっぱい休んだ、ということになる。

 

 ミホノブルボンもジャパンカップでこそレコードを出したものの、有馬記念ではレコードとまではならなかった。

 これはやはり、疲労していたからではないかというのが評論家たちの主な意見である。

 

「あいつならなんとかするだろ」

 

 将軍への信頼というものが、その単純な返答には表れていた。

 

 展開が高速化してしまったレースに出たウマ娘は、故障しやすい。それはよく言われていることである。

 ウマ娘たちには、本能的な闘走心がある。ひとりのウマ娘が絶好調でレースを牽引すると、その負けたくないという気持ちが限界を超えた速度を出して付いていき、結果としてこれまで更新されていなかったレコードが一気に更新されることがある。

 

 例えばミホノブルボンの菊花賞であればミホノブルボン、ライスシャワー、マチカネタンホイザの3人が一気に菊花賞3000メートルのレコードを更新した。

 

 だが限界を超えているわけだから、当然かかる負荷は半端ではない。故にその後故障したり、脚に残ったダメージからか本気が出せなくなる。そういう例があるからこそ、将軍はライスシャワーを、カノープスのトレーナーはマチカネタンホイザを休ませたのである。

 

 

 ――――実力以上の物を見せたウマ娘は、それを忘れないうちに走らせたほうが良い

 

 

 その方が、壁を超えやすい。身体が覚えた経験が染み込みやすい。そういう論調もある。

 その論旨を支持する評論家たちはミホノブルボン陣営の決断を支持した。菊花賞での勢いそのままにジャパンカップと有馬記念を制覇したのはこの論理を補強するものだ、と。

 

 だが実際、ミホノブルボンは実力を超えた力を出したことは1回しかない。そしてそれは有馬記念であり、菊花賞ではないのである。

 菊花賞はあくまでも、レコードを出せる程度の速度を刻み続けるラップ走法を貫いた。その結果、実力通りに勝てたのだ。

 

 だから、ミホノブルボンは春の重賞戦線をほぼ休むことになる。彼女が新年度のシニア戦線に顔を出すのは、4月。大阪杯でのことになる。

 休暇期間は3ヶ月。これはライスシャワーの去年最後のレースである菊花賞から、出走を公言している目黒記念までの3ヶ月半と似たような期間である。

 

「闘志に欠けるというのだろう」

 

「はい。冷静さこそが信条の私とは違い、ライスの持ち味は燃え上がるような闘志です。理性を溶かし切る蒼い焔のような闘志こそが、ライスシャワーの長所なのです」

 

 だが今は、とても理性的になっている。元々通常時は理性的なウマ娘であったから、今のところはそれほど変に思われてはいない。

 ミホノブルボンであっても、11月からちょこちょこと一緒に練習していたにも拘わらず、気づいたのは現在、1月。

 

「ですが現在はどうも燻っているというか、湿っているというか、そんな感じがします」

 

「まあ、言わんとすることはわかる。だがライスシャワーは才能豊かなウマ娘だし、将軍も極めて優秀なトレーナーだ。第一、俺などお話にならない程の戦術眼を持っている。だからまぁ、なんとかなるさ」

 

 とは言う。

 だが、参謀は知っていた。ライスシャワーは互角の相手と、自分より強い相手には強い。自分より弱い相手にも、もちろん勝てる。

 

 ライスシャワーの強みは、勝負根性。勝ちたいという気持ちの強さ。

 自分よりも格上に対する対抗心、闘走心が肉体を超えて実力として発揮される。その脅威を、誰よりも参謀とミホノブルボンは知っていた。

 

 だが自分よりちょっと強い相手には、割とコロッと負けるだろう。特に、精神的優越を失った今となっては。

 なんとなく、そんな気がした。




87人の兄貴たち、感想ありがとナス!
イツイチ兄貴、yuuki100兄貴、牛肉popopo兄貴、Windowegg兄貴、グルタミン酸素評価ありがとナス!

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因みに目黒記念の描写多めだとバレンタインが少なめ、目黒記念の描写少なめだとバレンタインが多めになります。

目黒記念の描写の濃度比率について

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