ウマ娘 ワールドダービー 凱旋門レギュ『4:25:00』 ミホノブルボンチャート 作:ルルマンド
アンケート終了しました。
執筆時間が取れない&毎日投稿したい都合上普段の投稿はこのまま18時になります。
が、アンケートの結果時間をとって書く凱旋門賞のレースは15時に投稿します。
「なんとか勝ったか……」
当初の計画では、強制的にスプリント戦に引き摺りこむなどという予定は無かった。あくまでもスローペースの中でリードを保ったまま騙し続け一人勝ちする。
だがミホノブルボンからスノーホワイトの本を返してもらったとき。
引き出しを開けて日記帳を取ったあと、下からボールペンの芯を差し込んで二重底となっている扉を開けたときに、気づいた。
これは作戦に使えるかもしれない、と。
前半をスローペースに保ち、余ったスタミナで後半を圧倒する。
それに加えて、もうひとつ。何かあった方がいい、と。
(なにせ相手はシンボリルドルフだ)
警戒してもしすぎることはない。自分の策は全て見抜かれる。その前提で動くべきだ。
なら、最後はブルボンに頼る。そういう発想で、今回の勝利は生まれた。
刻まれたタイムは、当然レコードではない。前半のタイムは、歴代でも屈指のトロさである。
だが後半のタイムは、これから10年は抜かれようがない程に圧倒的なものだった。
「負けたか」
自滅以外での、初敗戦。
全知全能を懸けて全力を出させないことに注力された。そしてその罠を食い破った頃には相手に有利な形態で戦わざるを得なくなっていた。
「……」
天を仰いで、息を吐く。
勝つことが当たり前になっていた。そして成長が頭打ちになっていた。だからこそ最近は競技者と言うより運営者として、トレセン学園に関わってきた。
だが、違う。まだまだ伸びる。それが、わかった。わからされた。他でもない彼と、彼の技術の粋を集めて育てられたウマ娘によって。
「ブルボン。ありがとう」
自ら滅びた哀れな敗者としてではなく、全力を尽くしてなお届かなかった堂々たる敗者として。
シンボリルドルフは、いつも差し伸べていた手を高みへ伸ばした。
「私は他の誰でもなく、君にこそ敗れた。そのことを心に刻ませてもらう」
「いえ。ルドルフ会長に勝ったのは、あくまでもマスターです」
「参謀くんならこう言うだろう。立案者よりも実行者の方が遥かに価値があると。確かに罠を張り巡らせたのは、彼だ。勝利への道筋を立てたのは彼だ。だが計画の齟齬を現場でその都度修正し、信じ抜き実行した者の方が偉大だと」
それは、自分にできることとできないことを弁えている彼らしい言い草だった。
「確かに、そうかもしれません」
「まあ真実は君たちだからこそ勝てた、というところだろう」
基本的にお互い、自己評価が低い。低いというより、自分にできないことをできる相手を評価しているからこそ、比較法で自己評価が下がると言うべきか。
「また走ろう。共に」
「はい」
これから、どうなるか。
シンボリルドルフは予測できるこれからを――――多少なりとも時間を重ねあった仲であるからこそわかる強さを、厳しい未来を予測したように顔をしかめた。
「私を打倒した後……」
そこまで言って、口を噤む。
これは自分ではなく、彼こそが言うべきだ。そう思ったのかも知れない。
「ルドルフ会長?」
「ん……いや、ともかく、頑張れ。君に孤独は似合わないからな」
触れ合っていた白と白の手袋が離れ、シンボリルドルフの視線が後方へ向く。
つられて向いた先には、彼が居た。
「勝者はその勝負を讃え合ったあとは、勝利をこそ讃えられるべきだ」
勝利。
自分と常に共にあったそれが、今やミホノブルボンの手にある。
少し上の空気味な参謀と、飼い主を見つけた犬のようにぱたぱたと尻尾を振って突っ込んでいくミホノブルボンの背中を見つめながらそんなことを思って、シンボリルドルフは身を翻した。
宝塚記念を勝った。これでミホノブルボンは、GⅠ10勝目。
重賞10勝ではなく、GⅠ10勝である。この上に立つのはシンボリルドルフしかいない。
そしてミホノブルボンは今回、そのシンボリルドルフに勝ったのだ。
シニア級に昇格してから大阪杯・天皇賞春・宝塚記念を立て続けに勝利。名だたるウマ娘たちを連破し、これで春の三冠達成となる。
このまま秋の三冠も獲り、前人未踏のグランドスラムを達成するのではないか。そんな声すら上がっている。
シンボリルドルフとは、何もかもが対極の存在。それがミホノブルボンだった。
ミドルステイヤーとしての才能は皆無。
圧倒的な寒門出身。
父はトレーナーではあるが実績は少なく、名門でもなければ連枝の家でもない。
短距離路線に進むべき。そんなふうに言われていたことが忘れられる程に――――某掲示板では『ミホノブルボンは短距離路線に進むべきと言ってた無能ww』という過去の発言の蒸し返しスレや自虐スレが立ったりするが――――彼女は立派なミドルステイヤーとしてやれていた。
だが業界に詳しい人間であればあるほど、シンボリルドルフに勝つのは無理だと思っていた。少なくともシンボリルドルフが衰えはじめなければ無理だろうと。
だが、勝った。
シンボリルドルフの強さはわかりにくい。見てて強いだろうなーとはわかるが、圧倒的だ、とは見られない。
逃げ、追い込み。それがトゥインクルシリーズの華である。
なにせ、この2つの脚質は観ていて派手で強さがわかりやすい。
逃げは、最初から最後まで先頭を走る。つまり、そのウマ娘は最初から最後まで誰よりも強かったということがわかりやすく理解できる。
追い込みは、ぽつんと最後尾に居る状況から一気に捲って上がってきて最後に全てぶち抜くハラハラ感、爽快感が堪らない。
だから素人であればあるほど――――特に寒門の才能に恵まれない娘が頑張って名門貴門の恵まれた強者を圧倒するというカタルシスに惹かれて大量に流入した新規ファンであればあるほど、ミホノブルボンの勝利を疑っていなかった。
こういった意味でも宝塚記念は、見る人間によって大きく意味が変わってくるレースだったのである。
――――前人未踏のグランドスラムに挑戦されますか?
――――未定です
――――トレーナーとしての見解をお訊きしたいのですが、勝因はどのあたりにあったのでしょうか?
――――他の強豪あたりの不在です。特にメジロパーマーとトウカイテイオー。強い逃げウマ娘がふたりいると、単純な実力勝負になります
――――では、トウカイテイオーは?
――――シンボリルドルフは私というフィルターを通してミホノブルボンを見ます。その被写体の歪みを利用して、今回は勝ちました。ですがトウカイテイオーは逆です。ミホノブルボンというフィルターを通して私を見る。彼女ならからくりを早期に見破っていたでしょう。となると、やはり展開が違ってきます
――――そのふたりが居れば勝てなかった、ということでしょうか?
――――それならそれでやりようはありますが、勝率は下がっていたであろうと考えます
――――皇帝を倒し、ミホノブルボンは最強のウマ娘になった。そう考えてもよろしいでしょうか?
――――今のところは。ですが今回は別に偶然勝ったわけでもなく、実力で勝ったわけでもない。よく言っても精々なんとか勝ったというあたりで、次に同じことをやったら負けるでしょう。1枚しかアタリが混ぜられていない10枚の中から、たまたまアタリを引けた。無論引くための努力はしましたが、結局はそれにつきます
ありがとうございました、と。
ひとりでほぼ全部訊きたいことを訊いて、月刊トゥインクルの記者は下がった。
そしてその後の質問は、たった一つ。
――――トウカイテイオーは引退報道も出てきていますが?
――――2度あることは3度あると言うでしょう。怪我を補えるだけの才能があるし、才能を活かすための努力ができる。彼女がそういうウマ娘であることを一番よく知っているのは、他ならぬ貴方がたなのではないか、とも思いましたが違うようですね
そんなライブ後のインタビューを終えて、東条隼瀬はミホノブルボンと新幹線に乗ってその日の内に学園へ帰還した。
珍しく車ではなかった理由は皇帝との戦いの前に余計な頭を使いたくなかったと言う、ただそれだけの理由である。
「マスター。今日はこれからどうしましょうか」
「風呂に入って寝ろ」
双方の牙が折れ砕けるほどの戦いであったし、精神力が相当消耗した。
しかし、走った距離はあくまでも2200メートルである。春天3200メートルに比べれば肉体的疲労は薄い。
「了解しました。オーダー、実行します」
そんなふうにとことこと帰っていくミホノブルボンの後ろ姿に、東条隼瀬は声をかけた。
「明日、空いているか?」
「? はい」
脳内でカレンダーアプリを起動し、スケジューラーを閲覧してから答えを返す。
明日は、練習はお休み。そのことは予定を立てた他ならぬ彼自身が知っているはずだった。
「では、付き合ってくれ。行きたいところがあるのでな」
「了解しました。集合時刻・場所はいかがしますか?」
「正門に17時でよかろうと思う」
授業が終わり、少しして後。身だしなみを整える時間も充分にある、そんな時刻。そして正門に集合するのはやはり、車を使ってどこかへと行くからだろう。
「復唱します。正門に17時。これで間違いありませんでしょうか?」
「ああ、問題ない」
「わかりました。おやつの持参は可能ですか?」
「300円までならな」
「予算の増額を要求します」
それはまさしく、才能のきらめき。脊髄反射の抗議だった。
「お前は3年生だから300円までだ」
「まけてください」
「まからん」
今日1日で3億5000万(内訳:宝塚記念で1億5000万、春シニア三冠の賞金で2億)稼いだコンビとは思えない程低次元な会話を繰り広げながら、この銭闘は432円で決着した。
まさしく、宝塚記念に勝るとも劣らない激戦であった。
「で、その激闘の後に君たちは駄菓子屋に行っていたと」
「いかにもそうだ」
夜。呼び出されていることを今更ながら――――帰ってきたら部室の扉に突き刺さっていた矢文で知った男は、結構な深夜に生徒会室の扉を潜った。
「トレーナーくん。カロリーはまあ別にして、金銭の制限はいるのか? もう立派に自分で稼いでるわけだし、いいのではないかと思うが」
「お前……駄菓子屋とは金銭制限を設けてこそのものだということを知らないのか?」
「……うん。知らない」
「知らないのか、あの限られた予算の中で最善を尽くすという行為がもたらす効能を」
「と、と言うか君も金銭感覚については私のことを言えないだろう?」
「俺はやったことがある。限られた手札の中で目標を達成する。経済感覚を養う。トレーナーに必要なそれらの訓練になると、父は言っていた」
これだからお嬢様は……という深いため息をつかれ、シンボリルドルフはちょろっと凹む。
それこそホームランボールを食らった車のボンネットの如く凹んだが、同じくボンネットと同じようにバコンとその凹みを跳ね返した。
「……それにしても帰ってくるのが遅くはないか?」
「駄菓子屋に車で行くのは礼節に悖る。自転車で行こうかとも思ったが、やはりここは堂々たる徒歩でと決めた結果、こうなった」
「そ、そうか。礼節なら仕方ないな……」
そうとしか言えない。なにせシンボリルドルフは、駄菓子屋に縁がない生活をしていたのである。
何も知らない人間は、その場をよく知る人間が正しいと信じる礼儀にとやかく口を挟めるものではない。
このとき、シンボリルドルフは崩れていた。彼女の本質を覆う防壁を硬軟織り交ぜた攻撃で打ち砕いた男は、何気なく言った。
「まあトレーナー業のために駄菓子屋に行ったりしていたが、その後病気が重くなってな」
「うん。大変だったらしいね」
「ああ。だがお前のおかげでこうしていられる。ありがとう、ライオン丸」
「ああ。私は確かに貴方を激励した。だが実際にトレーナーになったのはひとえに貴方の努力の――――」
ぴたりと、ふふんと胸を張りながら誇らしげに言うシンボリルドルフは、ピタリと止まった。
「やはりか……」
だが、間抜けは見つかったようだな。
そう言わんばかりの参謀を前に、シンボリルドルフは耳をペタリと萎れさせた。
その明くる日もるなは、だじゃれを持って、参謀の家へ出かけました。参謀は物置でなわをなっていました。それでるなは、うら口から、こっそり中へ入りました。
そのとき参謀は、ふと顔を上げました。と、うまむすめが家の中へ入ったではありませんか。こないだ勲章をぬすみやがった、あのうまむすめめが、またいたずらをしに来たな。
「ようし。」
参謀は、立ち上がって、納屋(なや)にかけてあるかなだらいを取って、ドリフをつめました。
そして足音をしのばせて近よって、今、戸口を出ようとするるなの頭を、ドンとうちました。るなはばたりとたおれました。参謀はかけよってきました。家の中を見ると、土間にだじゃれが固めて置いてあるのが目につきました。
「おや。」と、参謀はびっくりしてるなに目を落としました。
「るな、お前だったのか。いつもクソくだらないだじゃれをくれたのは。」
るなは、ぐったりと目をつぶったまま、うなづきました。
「しょうががないなんて、しょうがないなぁ……」
参謀は、かなだらいをばたりと取り落としました。面白いだじゃれが、まだ口から細く出ていました。
(おわり)
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