ウマ娘 ワールドダービー 凱旋門レギュ『4:25:00』 ミホノブルボンチャート   作:ルルマンド

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感想返信は明日やります。申し訳ないです。


サイドストーリー:激烈!メジロ見舞団!

 賑やかさというものを感じたのは、リギルというチームに加入してからのことだった。

 それなりにデカい家に生まれた東条隼瀬は、やはりそれなりに親戚が多かった。そして本家と呼ばれる家に生まれた以上、親戚の会合に使われることも多かった。

 音を音で塗り替えてやろうという子供たちのキンキンとした、あるいは腹から出るような声の大合唱。そういうものを常に、『うるさい』と感じていた。だが今は、違う。

 

「ひもQです」

 

「おお、懐かしいですわね……」

 

 ――――ひもQは端っこから食べるのも単純に美味しいけれど、コーラとソーダのコントラストを楽しみ、いっぺんに食べるのもまた通なのですわ!

 

 ――――なるほど

 

 そんなにぎやかな会話が繰り広げられる、後ろの席。

 色々と言いたいことはある。なんでメジロ家のお嬢様がそんなにも駄菓子に詳しいのかとか、太りやすい(らしい。スピカのトレーナーが言っていた)のにパクパクしてていいのか、とか。

 

「他にどんなものを購入なさったのですか?」

 

「こんな感じです」

 

「むっ……しょっぱさと甘さ。異なる味をバランス良く混ぜ込み、そして予算以内に抑える。まさしく達人の技ですわね……」

 

 キャベツ太郎に代表されるしょっぱい駄菓子。

 ひもQに代表される甘い駄菓子。

 あんずぼーに代表される中間の駄菓子。

 

「そういうマックイーンさんも駄菓子道を極めてらっしゃいますね」

 

「ふふ……答える必要はありませんわ」

 

 妙に所帯じみた――――庶民的なお嬢様とガチガチの平民を乗せた車を運転していく。

 天皇賞春のあと、仲良くなったとは聴いていた。だがこのふたりが絡んでいるところをあまりイメージできていなかったのもまた事実。

 

 だがなんというか、今わかった。

 

「抜けている者同士、仲が良いわけだ」

 

 ――――大概だぞ、トレーナーくん

 

 ワイワイと話す2人に聴こえない程度の声量も、車のバックミラーにぶら下がるしょんぼりたぬキーホルダーには届いたらしい。

 もっとも、運転する彼には聴こえていないわけだが。

 

「あそこ、ですわね?」

 

「はい。あそこの駄菓子屋で買いました。帰りに寄りますか?」

 

「…………いえ。駄菓子屋さんに行くときに許される乗り物はセグウェイまでですわ。車ではいささか……かなり、礼を失するというものです」

 

「さすがです。マックイーンさん。さすがメジロ家」

 

「ふふ……自分の家を褒められて悪い気はしませんわね」

 

 正統派の旧家の令嬢・トウカイテイオーがいたら八面六臂、阿修羅の如き働きを見せていたであろうこの空間。まさしくツッコミ不在の恐怖。

 

 レイギッテナンナノサー!!→メジロケッテソレデイイノ!?→ワケワカンナイヨーの黄金コンボが炸裂していたことに疑いはないが、本人がいなくてはどうしようもない。

 その点では、レースと同じである。

 

 そうこうしている内にも車は静かに駐車場に止まり、首に紐をくくられて吊り下げられているしょんぼりたぬきがぐわんぐわんと揺れた。

 

「着いたぞ」

 

「今までスルーしていましたけど、貴方運転が抜群にうまいですわね」

 

「まあ一応、そういう職業に就こうとしてたこともあったからな」

 

「ああ……そう言えばそうでしたわね」

 

 聴いたことありますわ、と。

 左耳だけを器用にピコピコと動かしながら、メジロマックイーンは自ら降りた。

 

「じゃあ、見舞い予約を確認してくるから待っていろ」

 

「了解いたしました」

 

「わかりましたわ」

 

 車のキーを指にはめてクルクルと回しながら去って行く男の可聴範囲から自分たちが外れたのを確認して、ミホノブルボンは口を開いた。

 

「そうだったのですか?」

 

「え? ……ああ、ええ。彼は小さな頃病気がちだったのですわ。だから執事にしようという、そういう話もあったのです」

 

 結構主語やら何やらをすっ飛ばすあたりに、ミホノブルボンらしからぬ積極性が窺えた。

 なにせ彼女はそういったことをあまり知らず、ここまでの2年半を駆けてきたのである。

 

 急かしはしないものの、知りたいという気持ちはある。

 

「そこまで知ってらっしゃるということは、マスターはメジロ家ゆかりの方なのでしょうか?」

 

「ゆかり。まあゆかりと言ってもいいかもしれませんわね。なにせ旧家や貴門というものは遡っていけばどこかしらで血を混ぜているものですから」

 

 要は劉氏だから漢王朝の末裔だ、と名乗るくらいのガバガバさではあるが、繋がってはいる。そんな感じ。

 

 背が高くて病弱なあたりはらしい特質と言えば特質ですわ、と。

 自分の家の共存共栄の仲の家の者を思い浮かべながら、メジロマックイーンは答えた。

 

「私などは分家ですし、最初は怪我がちでしたから西園寺の方からお声がけされることはありませんでしたが、ライアンやパーマーなどは名門らしく小さな頃からゆかりの家のトレーナーが付いていましたわ。思い返してみるにこれは名門の有利な点、その最たる例だと言えるかもしれませんわね」

 

 寒門のウマ娘は基本的に小さな頃はひとりで自分を鍛え、学校に入ってからは教官による十把一絡げな教育を受けて育つ。

 

 それはトレーナーという職業が極めて能力の高い人間しかなれない上に、門外不出の蓄積されたノウハウが幅を利かせるものであるからして、仕方ないことでもある。

 トレーナーとしての力がつくための血を紡ぎ、百年単位の積み重ねを教え込まれ、名門としての教育を受けてもなお、重賞に勝てない。そういうことが頻発するのが、この世界なのだ。

 

 どんなに努力しても、生まれてからこの方トレーナーとしての教育を受け続け、努力を続けても、勝てない。そういう残酷な世界であればこそ、そんな勝てないトレーナーのもとにはウマ娘も集まらない。

 名門ならばそれなりのバックアップやこれからの進化を期待して集まることもあるが、実績のない寒門出身のトレーナーであれば集まる理由が見つからない。

 

 本来は『優秀なトレーナーであれば複数のウマ娘を担当できるだろう』という感覚で作られたチーム制が、戦力の一極化と一流とその他だけという歪な分布を引き起こしている。

 

「最初に担当したウマ娘でなんとかして重賞を勝つ。そしてチームを組んで自分なりのノウハウを見つける。名門であればここで自分の家のノウハウを組み合わせて、チーム全体でGⅠをひとつ勝つことを目指す。これがいわば王道の流れなのですわ」

 

 ほんの数年前まではリギル・スピカ・アンタレスなどの群雄が割拠していた。だからこそ新規のチームが食い込む要素もあったし、近頃GⅡの雄になりつつあるカノープスなどは新興チームの代表格である。

 しかし今や強豪リギル・スピカの連合軍対ブルボン=バクシンオー枢軸という図式が描かれつつある。

 

 海外に積極展開しているが故に国内がやや空き気味になったリギルの版図を食いつつあったスピカが後ろからブルボン=バクシンオー枢軸にふっとばされる。

 中長距離はミホノブルボンが、マイル短距離はサクラバクシンオーが。

 

 そういう同盟でもしているのではないかと思わせる程見事に、この同期の両者はGⅠを効率的に取り続けている。

 そもそも負けなしのブルボンと、短距離で負けなしのバクシンオー。両者が強いのは当然と言うべきだが、それにしても環境を支配しすぎている。前者は苦戦こそしても負けはしないし、後者は短距離1200メートルで5バ身差勝ちとかいう意味不明なことをしている。

 

 サクラバクシンオーは唯一の空白地帯であるマイル路線への侵出を決めたようだし、もはや天下は統一されつつあった。

 

 チームではない個人軍がここまで環境を支配するというのは、ある種異様なことである。

 

「その点でも貴方がたは、特異的と言えるのでしょうね。GⅠを10個勝つというのは、歴史に残る偉業ですわ」

 

「はい。ありがとうございます」

 

「新人トレーナーの記録としても傑出したものが――――」

 

「はい。マスターはすごい方です」

 

 自分が褒められても淡白ながら、飼い主――――もといトレーナーが褒められたことで胸に手を当ててふんすふんすと尻尾を振り回す姿は、まさに犬。

 

「まあ、すごい方と言えばそうなのでしょうけれど……」

 

 貴方も同じくらいすごいと思いますわよ、と。

 そう言いかけたところで、予約していた面会の確認を終えた男が帰ってきた。

 

「確認してきた。一人増えても問題ないようだ」

 

「色々とお手数おかけしました」

 

 ターフの名優などという愛称にふさわしい涼やかな顔で一礼し、右手にメロンと菓子折り、左にはちみーボックスをがっしと掴んで歩いていくマックイーン。

 

「話し相手が増えたようだな」

 

「はい。お父さんからのオーダー『社会性の向上』を達成できたものと自負しています」

 

 ライバルのライスシャワー、ルームメイトのニシノフラワー、同じクラスのサクラバクシンオー、あとはテイオーやらマックイーンやらのレースで対局した猛者たち。

 

「社会性の向上ね」

 

「はい。三冠ウマ娘とはすなわち、スターウマ娘です。私は別にスターになりたいわけではありませんが、お父さんのオーダーにはそのような裏があったと思われます」

 

 別にそんなに深い意味はないのではないか。単に乏しいコミュニケーション能力を改善させるために、友達を作りなさい。人生の財産になるような、大切な人をつくりなさいと言うことなのではないか。

 

(まあコミュニケーション能力に関しては俺もひとのことは言えんが)

 

 隣を歩くミホノブルボンの栗毛の尻尾がバッシンバシンと膝裏を叩く。

 別に破壊的な威力ではないが、普通に痛い。そんな感じである。

 

「お見舞いに来ましたわ、テイオー」

 

「マックイーン!!」

 

「お見舞いにきました。テイオーさん」

 

「ブルボン!」

 

「やあ、クソガキ」

 

「げ……」

 

 そうこうしている内に、トウカイテイオーの寝るベッドの横、机の上にはちみーボックスがドン。はちみーボックスの上にメロンがドン。

 苦手なものを見るような眼で見ていたトウカイテイオーがその異音に釣られて視線が誘導され、ええ……みたいな眼でとんでもない量の見舞い品を見る。

 

「ほら、枇杷だ」

 

「……枇杷。なぜ枇杷!?」

 

「テイオーさん。あんずぼーです」

 

「え、ええ……ありがと」

 

 メロンからの落差が凄まじい。

 それでもなんとかお礼を言って凍ったあんずぼーをチューチューしはじめるトウカイテイオー。

 

「テイオーさん。これ、メジロ銘菓のお饅頭ですわ。メロンとはちみーは冷蔵庫に入れておきますが、これは机の上でそのままにしておきますわね」

 

「メジロ饅頭?」

 

「ええ。メジロ防衛隊の中でしか流通していないレア物でしてよ」

 

 メジロ防衛隊ってなんだ。

 そう思わないでもなかったが、メジロ防衛隊は実際存在する組織である。メジロ王国とメジロシティはないが、メジロ防衛隊は存在する。

 

 『食べだしたら止まらない永久機関! パクパクですわ!』という宣伝文句が包装紙に踊る長方形の箱の中には、8個の饅頭。

 

(あれ……おかしい……)

 

 なにかおかしい。このお見舞3人衆のまとう空気が自分とは違う、そんな気がする。結構真面目に頑張ってきた自分とはまた違った空気を、この3人は纏っていた。

 

 なんか3人が同じ方向を向いている。そして放っておくと変な方向に突撃してきそうな気もする。

 

「マックイーン?」

 

「ええ、わかっています。ちゃんとメロンは切ってきますわ」

 

 メジロ流包宰術をご覧あれですわー!と。

 性能的には2番目に頼りになりそうな人物が早々に離脱したのを見て、トウカイテイオーは必要のない使命感に燃えた。

 根はいい子なのである。唐突に煽ってきたりする――――それでいて自分の尊敬する人に信頼されてた男に嫌悪感をいだきつつも、枇杷をくれたことやお見舞に来てくれたことに関しては感謝しているし、その実力を認めてもいる。

 

「ええーっと、そうだ、ブルボン! 宝塚記念、見たよ! すごかったね!」

 

 カイチョーを倒すなんて、とは言えなかった。シンボリルドルフに勝つのは自分だと、そういう思いがあったからである。

 ブルボンの勝利と偉業を祝福しつつも、やはり心のどこかで『自分こそが』と悔しがる思いはあった。

 

「私の力ではありません。マスターによるものです」

 

「いや。お前の力だよ、ブルボン。お前でなければ勝てなかった」

 

「確かにそうですが、マスターあっての私です」

 

「いや、それは逆だな。お前あっての俺だ」

 

「いえ。主はマスター、従は私です」

 

「うん。どっちも必要だったってことだよね。わかるよ」

 

 打ち切りの鬼と化して無限会話編をぶった切ったトウカイテイオーは、真面目な空気を放った。

 どうにもちゃらんぽらんしているこのふたり――――マックイーンはメロンを切りに行っている――――とは、真面目に話したいという気持ちがあった。

 

「あの宝塚記念の策、すごかったよ。ほんとに」

 

「お前、見抜けなかったのか? 俺としてはお前なら容易に見抜けると思ったのだが……買いかぶりだったかな」

 

「見抜けてたよ! でもそれはそれとしてすごいよねってこと! なんでこっちが素直に褒めたら即座にそう喧嘩を売ってくるわけ!?」

 

 どうにも噛み合いが悪いのか、あるいはいいのか。

 あんずぼーをチューとやりながら、ミホノブルボンは虚空を見た。




52人の兄貴たち、感想ありがとナス!

こもにうむ兄貴、くろばる兄貴、zs6008兄貴、しを兄貴、凍幻兄貴、評価ありがとナス!

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