オーブ議事堂。その円卓を備えた会議室で、五大氏族を含めた氏族首長が勢揃いしていた。
議長席に座る親父殿が、よく通る声で言う。
「それでは補佐官、説明を頼む」
「は。……では皆、手元の資料を見て欲しい」
俺の言葉に従い、一同は資料を手に取る。この会議は忌憚なく意見を述べるためという名目で、上下の関係なくざっくばらんに発言出来るようになっている。俺が普段通りなのはそのせいだ。
「資料にあるとおり我が国の技術開発目標の一つ、小型核融合炉の開発に目処がついた。現在クーロン商会にて試作を始めている。今月中には形になる予定だ」
ほう、と幾人かが声を漏らした。期待と不安の視線が向けられる中、今回の議題の一つ、
実のところ炉心自体の小型化には成功していたんだ。だが発生するエネルギーを電力に変換する発電機構と、炉の熱を処理する冷却システムの小型化に難航していた。このままだと、たとえ無理矢理MSに積み込んだとしても、発電冷却の機構をでっかい背負い物にするか、あるいは機体そのものを大型化するしかない。……それはそれでロマンだが、そこまでするメリットはないだろう。それに元々
しかし今回、意外な方向から技術的ブレイクスルーがもたらされ、さらなるコンパクト化を可能とする目処が立ったのだ。その要因となったのが
PS装甲――フェイズシフト装甲は、装甲に用いられる金属の分子構造レベルで相転移を起こし、電力の消費と引き換えに物理衝撃を無効化する。物理エネルギーを変換して消し去っているのだ。これを応用すれば、刀剣などの攻撃力を向上させることも可能で、ただ防御だけに限定された技術ではない。
ヴァレリオを筆頭とする商会の変態ども技術者たちはこの技術に目を付け、その派生を研究した。結果分子レベルのエネルギー変換の応用技術を生み出すことに成功する。ようするに
結果生み出されたのが、炉心の熱エネルギーを直接電力に変換できるシステムである。分子レベルの熱発電機と言っても良い。これを炉心外殻に組み込むことで、複雑なウォーターバイパスやタービンを備える必要がなくなったのだ。しかしまだ、発生する莫大な熱と放射線をどうするかという問題は残っていた。
そこで今度はヤタノカガミの出番である。この装甲、ナノスケールのビーム回折格子層と超微細プラズマ臨界制御層から構成されているという、よく分からんがスゴイ装甲だ。
まあぶっちゃけると、
核融合炉の熱と放射線を封じ込めるには、うってつけだった。
こうして、CEが誇る謎技術をアレでナニな連中がいぢくり回した結果、主要部分が2メートル四方にすっぽり収まる小型核融合炉の開発に目処がついちゃったわけである。
……自分でやらせておいてなんだが無茶苦茶だなおい。一部の氏族首長も眉唾物だと言わんばかりの表情だ。
「冗談……ではなさそうだな」
1人がそう言う。俺は頷いて見せた。
「ここまでの開発が進むとは私も思っていなかったが、紛れもなく事実だ。……この技術のおかげで、【コミティスプロジェクト】が繰り上がることになる」
ギリシャ語で彗星を意味する言葉を冠する計画。それは
単純に今までの動力と積み替えると言うことではない。まあ俺の前世たる世界で、原子力空母は大体10万㎾のくらいの原子炉を2基くらい積んでいた。この世界でも艦船は(宇宙艦を含めて)それくらいの動力を搭載している。比して今回の小型核融合炉は、設計上で1万㎾前後。とてもじゃないがそのまま積み替えても、出力不足どころの騒ぎではない。
ではどうするのかと言えば。
「この核融合炉をコアとした
俺がD.S.S.Dを手中に収めた理由がこれである。かの機関が開発している光波推進システム、ヴォワチュール・リュミエール。これと小型核融合炉を組み合わせ
元々のヴォワチュール・リュミエールは、太陽光や外部からのレーザー、荷電粒子などをエネルギー転換して推進力とする、
このアイディアはD.S.S.D開発主任であるセレーネが、技術的に問題なしと太鼓判を押している。クーロン商会に組み込まれる形となった彼女らは、現在全力でヴォワチュール・リュミエールエンジンの開発に取り組んでいた。程なく形になってくるだろう。
俺の話を聞いた首長たちは考え込んだり頷いたりと様々な反応だ。
「まるでSFだな。これが実用化すれば、宇宙船舶は推進剤のくびきから解き放たれることになる。そうなれば宇宙でのイニシアチブを我々が握ることも可能となる、か」
1人が思案しながら言う。それに対して親父殿が厳かに答える。
「そうだ。プラントと連合が削り合っている隙に、我が国は
オーブは経済的にはともかく、地理的には小国である。もちろん国土を広げるなどの野心は持たないが、四方は海で攻め込まれれば弱い。山ほど防衛計画を考えても、隙を見せれば突き崩せる物だ。
だから
地上で国土の拡張など望めないが、宇宙なら切り取り放題だ。しかも先住民とか居ないからそういったトラブルとか起こらないぜヒャッハー! ……などと先人たちが考えたのかどうかは知らないが、ともかく国家事業としてかなりのリソースを注いでいるのは確かだ。なにしろ他の勢力に先駆けて軌道エレベーターの建造手前まで至っているのだから。 しかしそれも戦争が起こったせいで中断と路線変更を余儀なくされた。まずは生存戦略を立てること、そして可能であれば戦争の終結に力を尽くすこと。そういった方面にリソースを振りわけなければならない。宇宙開発は軍事に転用される部分が多くなり、本来の『開拓』は後回しにされることとなった。
宇宙開発の遅れは、オーブの停滞を意味する。しかし今起こっている戦争を放置するわけにもいかない。ジレンマである。それを解決する一助とすべく俺が立ち上げた一つがコミティスプロジェクトだ。
この計画は、
まあまだ核融合炉開発の目処が立っただけだ。問題はいくらでもある。そも現時点で試算された小型核融合炉一基のお値段は、初期GAT-X 5種一揃いと大体同じだ。PS装甲とかヤタノカガミとかの技術をぶっ込んだんだから当然というか、むしろ安く上がっているんだが、だからといってそうポンポン生産できる物でもない。金があるとは言え物には限度という物がある。開発が進めばコストも下がってくるだろうけど、それにはしばらく時間がかかる。
「……など、まだ幾ばくかの問題点はある。この辺りはクーロン商会の技術陣と、宇宙開発局の手腕にかかっている。期待させて貰おう」
「ここまでお膳立てを整えて貰っておいて、大した成果も上げられないなど言わせんよ。鋭意努力するよう、開発局局長には言い含めておくさ」
俺の言葉に
十分な下地は作った。後は俺でなくとも続きは出来るはず。と言うかして貰わないと困る。いい加減でかい仕事を受け持って貰わないと体がいくつあっても足らないんだ。寝ないで仕事してるとあちこちから止められるしな。
それはさておき、大がかりな計画と宇宙開発局、宇宙軍という重要な組織をサハク家預かりにすることに難色を示す者もいる。今まで裏の仕事に携わってきた実績とイメージがまだ根深いと言うことだが、これはこの先の働きで払拭して貰うしかない。
……ゆくゆくはミナあたりに代表首長やってもらえねーかなーとか個人的には考えているが、まだそう言う流れを作るのは難しいか。俺を代表首長に推す声も多いが、むしろ俺としては今のように動きやすい立場で裏から国に関わる方が性に合っていると思っている。どうにもままならない物だ。
……ユウナ辺りでも良いから、代表首長やってくんねーかな。
そんな俺の本音は置いておこう。会議は次の話題に移っている。
「……このように税収は増加傾向にある。多くの企業や資本家が当国に拠点を移したのが要因だな。この傾向はしばらく続くと思われるが楽観視はできん。逆にこの好景気が、他国に目を付けられるとやっかいだ。かといって軍備にだけ金を突っ込むわけにもいかん。そのことは理解されていると思うが」
そのように報告するのは【ウナト・エマ・セイラン】。経済産業関係を任せている、ユウナの親父さんだ。
原作では宰相の地位にあり、オーブを実質的に支配していた野心家だが、たった2年でマスドライバーとモルゲンレーテ本社を失ったオーブを立て直したという『実績』がある。それに目を付けた俺が推して、彼は今の立場にあった。実際国の経済関係は彼に任せてから好調を保っている。もちろん状況が有利に働いたというのもあるが、それを差し引いてもウナトはよく働いてくれていた。
彼の言葉に俺は頷く。
「もちろんだとも。連合が軍備拡大に躍起になっている隙を突いて、各国に経済的な『侵略』を行っているが、そっちも好調だ。流石に民間のシェアを全て奪うというわけにはいかんが、軍需産業の足を引っ張るくらいはできるさ」
オーブを目の敵にしているのは、主に軍需産業複合体【ロゴス】や、国防産業連合理事でありブルーコスモスの盟主であるムルタ・アズラエルなどだ。まあ最近アズラエルはどうにも様子がおかしいようだが、立場的にはまだ敵意を持っているとみた方が良いだろう。言ってみれば経済的に一人勝ちをしているオーブが気に食わない。俺達にも美味しいところをしゃぶらせろというところか。国の中枢にも影響力を持つ彼らとのパイプがあるウナトとしては、危惧を覚えているのだろう。
その不安は当然のことだが、
……それでも油断ならんのがこの世界なんだがね。
「軍事的なことを言えば、現在予算範囲内で予定通りに事は進んでいる。連合がこっちに目を向ける前には準備は整う。ザフトと睨み合っている状態で、早々我が国に手も出せんさ。出せたとしても情報戦とちょっとした嫌がらせ程度だろう。早期の大規模侵攻でもない限り、この国は落とせん」
皆の不安を払拭するためにも、あえて強気で言い放つ。やれるだけのことはやるし、原作でオーブに差し向けられた戦力ならば十分に対処できるだけの物は揃える。……とはいえ自分でフラグ立ててしまったような言い様になってしまったが。
そんな俺の言葉でも、ウナトは一応の安心を得たのだろう。少しだけ表情を和らげた。
「ならば良し、と言うことにしておこう。……国債の値も上がっており、各方面からは追加の要望もある。が、現状では早々外に買わせるわけにもいくまい。制限するよう国会に働きかけるが良いな?」
「皆、異論はないか? ……ないようだな。ならばこの件はあなたに預ける。良いように回してくれ」
「承知」
オーブの国債は何割かが氏族の手にあり、それ以外は国内と海外の投機ファンドに購入されていた。まあその投機ファンドに購入されたものはかなりの割合で俺に把握されてるけど。つーかぶっちゃけ俺の手による物だけど。以前アフリカとかでやった復興バブルの金をロンダリングさせる必要もあったしな。
経済的なマッチポンプは基本。いいね?
ともかくオーブの技術開発と経済は順調。大体予定通りに事は進んでいる。とはいえ国だけ順調でも、戦争が終わるわけじゃない。
一歩一歩、少しずつ、根回ししながら進めていくしかない。この戦い、そしてその先に待ち受ける戦い。それらを生き抜くために。
俺の思惑だけじゃなく、各氏族の思惑もあり、それをすりあわせつつ国の行く先を舵取っていく。平穏という目的地はまだ見えない。
たとえ平穏を手に入れたとしても、それは仮初めの物になるかも知れない。だが、それでも。
カウチでごろ寝しながら映画でも見つつピザを暴食してビールを痛飲して、挙げ句に泥のように爆睡するためには何だってやってやる。
(↑働き過ぎで変な方向にガンギマってる)
氏族会議を終えた後、俺は普段の仕事に戻った。そして職務に就いている最中にある知らせが届く。
「アークエンジェルが、地球に向かう、か」
「はっ、プトレマイオス基地でのデータ取りを終え、地球での運用テストを行うためと推測されます」
報告するのは軍情報部の士官だ。リシッツァを筆頭とするCSSの猛者を教官役に鍛え上げた情報部は、かなりのレベルに仕上がった。もたらされる情報の信用度は高い。
まあそれ以前に予想されたことではある。
「となると、基本的なテストとデータ取りは終わったと言うことだな。程なく連合製MSの生産が開始されるだろう。……大西洋連邦の企業の動きは?」
「各地の工廠に多量の物資が納入されたのを確認しています。生産体制はすでに整っている物かと。逆にコロニーなどでの生産は控え気味のようですが」
「ふむ」
生産拠点は地上をメインに、ということか。確かにコロニー群だとザフトの襲撃に遭う可能性があるからな。地上で生産した物を艦艇などと纏めて宇宙に上げる腹づもりなのだろう。現時点で連合にはまだパナマとカオシュン、そしてジブラルタルのマスドライバーが残っている。原作とは違い月の基地が干上がりそうになっている、などという状況ではなかった。それでも大分苦労はしているようだが。
折角自力で戦力を宇宙に上げる余裕を
……うまくいかねーだろーなー。余裕出来て内ゲバ始めても先ず間違いなくこっちに絡んでくるだろうし。準備はしているとは言っても気が重い。
ま、それはともかくとしてアークエンジェルだ。地球に向かうのはただ地上で実戦テストを行うだけではない。
不思議に思ったことはないだろうか。アークエンジェルはMS母艦として
戦艦以上の火力を備え、大気圏突入能力を持ち、おまけに大気圏内での飛行も可能と来た。その性能ゆえにMSの搭載数は10機前後と少なめな弊害もあるが、実験的な要素があるとは言え機能を詰め込みすぎだ。
ガンダムシリーズの母艦ってそういう物じゃないと言ってしまえばそれまでだが、実際このような設計になっている以上、目的がある。
はいここで考えてみましょう。衛星軌道上からでっかい大砲ついた戦艦(MSの護衛付き)が空飛んで強襲してきます。
……どれだけ脅威かおわかりだろうか。大気圏内で陽電子砲を使うと云々? そんなこと気にするヤツは最初からこんな戦艦設計しない。そう、アークエンジェル――強襲機動特装艦とは、
敵陣要点にピンポイントで戦力を叩き込む。そういった戦術を前提にしたものだと俺は思っている。核が使えない、あるいは使うわけには行かない状況下では有効な戦術ではなかろうか。同じようなことを考えたザフトは後にミネルバでその設計思想を丸パクリし、さらに俺が丸パクリしたわけだが、それも俺自身が使える戦術だと判断したからだ。
果たしてその戦術が有効なのか、大西洋連邦は確信には至っていても、実証がない状態なのだろう。だからこそのアークエンジェルだ。MSの実戦テストと纏めてやってしまおうという考えとみた。
要はこの先の大西洋連邦の戦術ドクトリンを左右することになるかも知れない存在なのだ。その行く末は注視しておく必要があると俺は考えている。
……別に隙があったらガンダムごとパクれないかな~、なんて考えていないぞ。本当だぞ。
「恐らくアラスカを含む西海岸のどこかを拠点にするつもりだろうな。CSSからも人員を出す。協力して洗い出せ」
「はっ!」
指示を出して情報部の士官を下がらせる。アークエンジェルの行方についてはひとまずこれで良かろう。
ハルバートン提督が生きてるから、原作みたくアラスカごとどーん! っていうことはないと思いたいが、
とか何とかやってたら、別な方向から新たな知らせが入った。それは。
「……ふん、動いたか。ラウ・ル・クルーゼ」
クーロン商会を通じアンドリュー・バルトフェルドからもたらされた、ラウ・ル・クルーゼの動向だった。
コロナ2回目無事しゅーりょー。
そして寝込む。
幸い1日で何とか回復しましたが。脅されていたよりマシな状況でほっとしている捻れ骨子です。
はい副反応とは関係なく遅い更新ですすまぬ。リョウガさん真面目に仕事をする&オーブの企みが一部明かされるの巻。小型核融合炉の前振りがここで拾われました。え?小型すぎないと思われる方も居るでしょうが、創作物によってはパワードスーツクラスの物に搭載されるんだ核融合炉。2メートル四方ならいけるいける。
そして勝手にアークエンジェルの設計思想を考えてみるテスト。アレ絶対そう言うこと考えてるでしょ。でなきゃあんなコストかかる船作らないでしょうし。戦後はお金なかったんやろうなあ、と。
さて最後辺り狂うぜサンが何やら動きを見せたようですが、はたしてどうなりますやら。
そういったところで今回はこの辺で。