画像を含んだデータが知らしめていたのは、密かにプラントを発つクルーゼの姿だった。
隊長を降ろされ謹慎していたが、どうやら国防委員から密命を受けたらしい、とのこと。いつもの仮面ではなくサングラスをかけ私服という、お前変装舐めてんのかと言いたくなるような格好で宇宙港のロビーを歩む姿が画像の中にある。
「目的地は……コペルニクスか」
月面都市で唯一自由中立都市を名乗り、限定されているとは言えプラント、連合の区別なく受け入れている場所だ。なんでかって?
原作ではどうだったか知らないが、この世界でのコペルニクスはオーブを中心とした中立国が出資して建造された月面都市だ。ゆえに中立とすることが出来たわけだ。おかげでプラントと連合の交渉の場となったのだが……所謂【コペルニクスの悲劇】事件が起こり、国連事務総長を筆頭とした地球側代表は軒並みお陀仏。国連という枠組みは破壊され、開戦のきっかけとなった。
その後コペルニクスは、顔に泥を塗られてかちキレた中立国連中の肝いりで警備体制が見直され、現在は月面で一番安全な都市とすら評されている。何しろPMCや警備会社の看板下げた各国の軍や情報機関が駐留しているのだ。(もちろん音頭を取っているのはCSSである)最早軍事施設並みと言っても良い。
そういった経緯からテロリスト絶許と言った姿勢であるが、諜報関係は逆に緩い。プラント連合の区別なく民間人を受け入れているという体制もあるが、
中立の立場である我々としても情報源となるからだ。元々コペルニクスは他の都市に比べ娯楽の施設も多い。お忍びで軍人や要人が訪れることも少なくないし、情報戦の舞台とするにはおあつらえ向きである。そう言ったわけで今日もコペルニクスは各勢力の諜報員たちが裏で跋扈していたりするのだ。
そこに密命を帯びたクルーゼ。何も起こらないはずはなく。
「連合の情報を受け取る、と考えて間違いはないか。だが『手土産』はどうするつもりだ」
恐らく入手するのは連合のガンダムとこれからの戦略の情報。それと交換に連合側へ渡す情報があるはずだ。ザフトの戦略は当然として、もう一つ二つは何かがあると思う。
切り札たるガンマ線レーザー砲【ジェネシス】ではあるまい。あれは戦乱を望むクルーゼにとっても秘匿しておきたい情報だろう。他には【ニュートロンジャマーキャンセラー】なども考えられる。その名の通りNJの効果を打ち消すシステムだが、時期尚早……というか
あれはニコルの父親、【ユーリ・アマルフィ】が開発した物だが、原作ではニコルが戦死したおかげで彼がパトリックの派閥につき、開発を急いだという経緯があったはずだ。現時点ではまだニコルは戦死しておらず、そして高効率の発電施設があるおかげでプラントにエネルギーの問題はあまりなかった。そして地球の方もオーブの働きによってエネルギー問題は何とか解決の方向に向かいつつあり、ユーリが中立派で良心的であったとしてもNJCの開発を急ぐ理由はない。こちらも考慮から除外して良さそうだ。
ただでさえ原作とは大幅に戦略が変わっているはず。原作では地球上のマスドライバーのほとんどを占拠するため計画された【オペレーションウロボロス】は、パナマを残してあと一歩と言うところまで来ており、それを逆手にとってパナマを狙うと見せかけ連合軍統合最高司令部が存在するアラスカに奇襲をかけるという、【オペレーションスピットブレイク】が敢行されたが、情報のリークによりザフト軍は大半が基地ごと吹っ飛ばされるという目に遭った。
しかしこの世界だとマスドライバーはまだ複数残っており、その攻略にザフトは手間取っている。原作のような真似をするには、まだ条件が整っていない。らちがあかないとアラスカを狙うことも考えられるが、それは連合も予測しているだろう。不意打ちは難しい。
俺ならばいくつか打つ手を考えるが……パトリックがそこまで考えるかどうか。まあ最悪の状況は想定している。出来れば無駄になってほしいものだ。
「可能であればクルーゼの持つ情報がどのような物か確かめたいが。いやそれより始末したいが」
いくらヤツがアレでナニな人物であったとしても、尻尾も出さないうちから始末するのは難しい。事故を装ってとも考えたが、あれでヤツは超人的な勘と戦闘能力の持ち主だ。下手に手を出せば対処した人間が返り討ちだろう。余計な人材の損失をさせるわけにはいかん。
「となると、ヤツと、ヤツに接触した人間を追わせるしかないか。尻尾は……出さないだろうなあ」
何とも歯がゆいが、下手に手を出せない以上監視に留めるしかあるまい。まったく、MS に乗っていなくても鬱陶しい男だ。
などと俺がクルーゼに注視していたのが悪かったのか、
※はい他者視点ですよ~
待機を命じられていた元クルーゼ隊の面々は、アプリリウス市にあるザフト統合司令本部に出頭を命じられた。
「いよいよ年貢の納め時、ってヤツかぁ?」
「縁起でもないことを言わないでくださいよ」
赤服を纏ったディアッカとニコルは揃って現れた。ディアッカは気楽な調子……というか開き直った感がある。ニコルは普通に緊張しているようだ。
「よう、遅かったな」
「ラスティ、先に来てたんですか」
エントランスで2人を出迎えたのはラスティだ。ニコルの言葉に、彼は頭をかきながら答える。
「まあ俺は親父と折り合いが悪いんでな。とっとと家出るに越したことはないのさ」
「……気持ちは分かりますけれど」
色々と事情があって、ラスティは自分の父親と微妙な関係となっている。ファミリーネームが違う、と言えば大体察してもらえるのではないだろうか。
そこら辺をつついて蛇を出す気はないディアッカは、話を変えることにした。
「ミゲルはまだ来てないのか?」
「ああ、俺と同じくらいに来たんだが、野暮用があるとか」
「そうなんですか……」
ニコルは少しだけ眉を寄せる。以前町で出会ったとき、ミゲルは何やら現状に思うところがあったようだが、まさか何かを探っているのでは。そのような不安があった。
ニコルの不安を理解しているディアッカは、ミゲルを探しに行くかどうか迷う。しかし彼が行動を起こす前に。
「おう、みんな揃ったか」
当のミゲルがのんきに現れた。ニコルはほっとした様子を見せたが、今度はディアッカが眉を寄せる。
「どこで油売ってきたんだよ」
厳しい目線を向けられてもなお、ミゲルは飄々とした様子で。
「ちょいと知り合いのところに顔を出してたんだ。なかなか会いに行く暇もないんでな」
「そういやあんた顔広かったな」
ラスティがそう言う。ザフトに入る以前から、ミゲルは個人的なチームを作り様々な業種の人間と交流していた。そのおかげで彼は結構多彩なコネを持っている。そういったコネの一つに挨拶にでも行ったのだろうとラスティは納得した。
ディアッカは益々渋い表情となる。それとなくミゲルと距離を詰め、小声で問うた。
「おい、大丈夫なんだろうな?」
それに同じく小声で答えるミゲル。
「ただの挨拶さ、何もしちゃいないよ。
それはこれから何かをやると言うことじゃないだろうか。ディアッカの不安は増した。
と、そこで集まった面子に声をかけてくる人物がいた。
「全員揃っていたか」
「アデス副長!?」
現れたのはクルーゼの副官であったアデスだ。慌てて敬礼を行う青年たちに対し、「楽にしろ」と軽く手で制する。
「揃っているなら丁度良い。諸君らの処遇が決まった。辞令と共に次の任務が言い渡される」
「次の任務……ですか」
皆を代表するかのようにミゲルが言う。
「そうだ。詳しくはこれから聞かされるだろう」
ついてこいと、アデスは素っ気なく身を翻す。どうにも様子がおかしいなと顔を見合わせながら、4人はアデスの後をついて行った。
果たして通された部屋で待っていたのは。
「お前らが噂のやらかしルーキーか。思ったよりも普通だな」
いきなりざっくばらんな言葉をかけてくる青年。赤服を纏ったその青年は、不敵な笑みを見せていた。
その姿を見た瞬間、ミゲルが目を見開きわなわなと震え出す。
「は、【ハイネ・ヴェステンフルス】!? 本物かよ!」
ミゲルの言葉に残りの面子も驚きを見せる。
「え!? 【
「地球降下作戦のエースじゃないか!」
「どうしてここに……あっ……」
ニコルが何かに感付いた。それを見て取ったハイネはにやりと笑みを浮かべる。
「今日から
「「「隊長!?」」」
ニコル以外が驚きの声を上げ、アデスが密かにため息を吐く。
「そう言うことだ。諸君らは本日よりヴェステンフルス隊として再編成される。以後彼の指示に従い、任務に当たれ」
ハイネはまだ二十歳そこそこと言った若さであるが、クルーゼに勝るとも劣らないエースである。立場的には隊長を務めてもおかしくはなかった。
しかしそうだとしても突然の話だ。再編成されるのはまだ良い、月軌道の戦線でドンパチやってるはずのエースを連れ戻して自分たちの隊長に据えるというのはどういうことなのか。それが分からない。彼を隊長に据えるのであれば、それこそ前線の猛者たちを集めて編成した方が戦力として確実な物となるし、宣伝にもなる。言っては何だが一度失態を犯した兵の隊長を務めさせるには、勿体ないとも思えた。
そんな戸惑いが顔に出ていたのか、ハイネはふふんと鼻を鳴らす。
「どうした、俺が隊長になるのが不服か?」
「いや不服どころか願ったり叶ったりというか個人的には大歓迎ですけど!? むしろ光栄すぎて尻込みするっつーか、なあ!?」
テンパった様子で周囲に同意を求めるミゲル。彼は新兵時代からハイネのファンであり、彼をリスペクトするあまり機体のパーソナルカラーを同じオレンジにするほどであった。
そんなミゲルの様子に、ハイネは苦笑する。
「黄昏の魔弾にそこまで崇められると、なんかこそばゆいもんだな」
「へ? お、俺を知って……?」
「そりゃあの叢雲 劾と互角にやり合ったってんだ。前線でも名が響くってもんさ」
どうでも良いがこの2人、声がそっくりで喋ってる分にはどっちがどっちだか分かりゃしない。
それはさておき、ハイネの言葉にミゲルは恐縮しているようだった。
「いやありゃあ、結局ヤツに出し抜かれちまったし、再戦でも勝負付けられなかったんで大したことは……」
「あの男と2回もやり合って五体満足ってだけで、十分だろう。他にもMA8機とか墜としてるじゃないか」
「MA30機以上に戦艦2隻の人に言われても……」
「あ、この間MA40になった」
「前線のエースパねえ」
なんか話が盛り上がりだした。アデスがコホンと咳払いしてそれを無理矢理止めたが。
「ともかく、任務が言い渡されると同時に、諸君らには新たな機体が配備される。引き続き小官が副長と諸君らの母艦の艦長を兼任する事となった。汚名返上の機会と思って誠心誠意努めて欲しい」
やっぱり何か変だ。ニコルは改めて思う。
アデスはどちらかと言えば堅物で、私情をあまり挟まない人物である。しかし今の彼は何というか……。
(諦観? 投げやり? 疲れているような、呆れているような)
勘弁してくださいとでも言いたげな雰囲気があるように思える。アデスは肝の据わった人間だ。よほどの事がなければこんな風にはならないだろう。
多分今度の任務に関わることだとニコルは推測した。つまり自分たちはアデスをしてげんなりするような任務に就かなければならないわけで。
(嫌な予感しかしないんですけど)
アデスの気持ちが感染したかのように気持ちが沈むニコル。そんな彼を置いておいて話は進む。
「……ん~、もうそろそろのはずなんだが」
ハイネがそう呟くと、計ったかのように呼び出しがかかった。
呼び出された一行が向かった先に待っていたのは。
「よくきた。貴官らの復帰を歓迎する」
国防委員長パトリック・ザラその人であった。ミゲル、ラスティ、ディアッカの3人はいきなりのことに身を凍らせているが、ハイネは涼しい顔で、ニコルは何かもう全てを諦めていた。
国防委員長直々の任務。それが何を意味するか。嫌な予感どころではなかった。
ニコルの心情を知ってか知らずか、パトリックは仏頂面で話を続ける。
「貴官らには特別な任務について貰う。ある人物の護衛任務だ。……入ってきたまえ」
「はい、ただいま」
パトリックに促され姿を現したのは。
「ご存じかと思いますが改めて。ラクス・クラインです」
優雅に礼をする少女。ミゲル以下3人は真っ白になっていた。作画的に。ニコルは「ああやっぱりか」といった顔で遠い目をしている。先に聞いていただろうアデスも同様の表情だ。平気なのはハイネだけだ。あるいは平気なふりをしているだけなのかも知れなかったが。
こうして、ヴェステンフルス隊は任務に赴くこととなる。
その行く先は、地球。
何かが起こるのは確定的であった。
なぜかいきなり自室の電波状況が悪化。Wi-Fi入れてみました。
5G当てになんねえな捻れ骨子です。
はいリョウガさんの知らん間に進む事態、そしてハイネさん登場の巻。中の人的にもミゲルとキャラ被りますが私は謝らない。もうこの頃にはエースだったようですし、隊長職についてもおかしくはなかろうと。
あとハイネさんの二つ名は適当です。正式な物はあったかも知れませんが大体ノリでこんな感じに。
そしていよいよラクスが動きました。果たして彼女の思惑は、そしてなぜ地球に向かうこととなったのか。その辺りは次回以降となるでしょう。
……捻れのやることだから多分ろくでもない展開だぞ。
そんなこんなで今回はこの辺で。