オーブ軍司令本部。
スタッフがせわしなく動き、緊張感がそこはかとなく漂う中、俺は参謀長官と言葉を交わしていた。
「冗談のような展開ですな」
「俺もこんなんなるとは思わなかったわ」
正面のモニターには、防空システムのレーダーの映像。そこには落下の軌道が『二つ』描かれている。
「落下予想位置は我が国の領内でほぼ確定か。……救助の手はずは?」
「すでに救援部隊を編成し、該当の海域へと向かわせています」
「よろしい。連合、ザフトの双方が手出しをする前に救助。クーロンズポートに放り込む」
「本土だと介入の口実になるから、ですな?」
「その通りだ。現状生半可な戦力なら何とかなるが、連合ザフトの双方が同時に本腰を入れたら流石に面倒なことになる。今はまだうちの本気を見せるわけにはいかん」
「心得て。……まあそれ以前に無事で済めばよろしいのですが」
「砕け散ってしまえ、とは言えんなあ。軌道から見れば何とかこなしているようだが」
全く面倒なことになった。なんでまた
俺は苦虫を噛み潰す心境で、事の推移を見守る。
※他者視点ですだよ
時間はしばし遡る。
衝撃の任務が言い渡された後、ヴェステンフルス隊は新たな機体を受領するために、軍部の工廠へ赴いていた。
「これは……ジンの改装型に、シグー? それと見たことのない機体が……」
ハンガーに並ぶ機体を見上げて、ディアッカが声を漏らす。
数種類の機体。3機はジンを改装した物……機動力を向上させた【ジン・ハイマニューバ】2機と、追加装甲を纏った【ジン・アサルトシュラウド】1機だ。
そして指揮官機であるシグーだが、これも
最後はディアッカたちも見たことのない機体だ。ジンやシグーの発展系に見える。
「こいつは【ゲイツ】。ビーム兵器の運用を前提とした、次期主力予定の先行生産型だ」
「ビーム兵器!? ザフトも小型化に成功したのか!」
ハイネの言葉に驚いたような声を上げるラスティ。これまでは小型化に難航しているという話しか耳にしたことがなかったのだ。
「お前さんらが持って帰ったオーブ機のデータが役に立ったらしいぜ。……もっともまだオーブほど小型化は出来てないが」
言いながらハイネは視線を別な方向に向ける。そこには壁面に固定され整備を受けている武器の姿があった。
試作ビームライフル。ゲイツの全高に匹敵する長さを持つそれは、確かにアストレイの物と比べればかなりの大きさだ。
「こいつが隊長の機体ってわけか」
「いや、こいつはミゲルに任せる」
「はァ!?」
ハイネの言葉に、当のミゲルが驚く。
「最新鋭機だろ? 何で俺に!?」
「お前さんが隊の中で一番射撃の腕が良いからさ。それに俺はどっちかって言うと接近戦の方が得手だ。下手すりゃ戦ってる最中
冗談めかしているが、これはハイネが考えた末の判断だった。自身の適正と気性を客観的に見て、現在のゲイツを扱うには不向きだと見て取ったのだ。そういった判断をできる人間は中々いない。
さすがは名だたるエースと言うことかと、ニコルは内心で感嘆している。クルーゼとは違ったタイプの人間だった。どちらが優れているというわけではないが、中々出来ない判断をさらりと下せる。自分たちのようなひよっこなど到底及ばない人物だと、感じ入っていた。
「ハイマニューバはラスティとニコル、アサルトシュラウドはディアッカだ。俺はシグー・アサルトを使う。シミュレーターで機体になれておけ。……これだけの機体が回された意味、理解してくれよ?」
「「「「……了解」」」」
神妙な顔つきで敬礼するヴェステンフルス隊の面々。
ハイネが匂わせたこと。その意味が分からない隊員たちではない。
ただの姫様の護衛ではない。プラントのこれからを左右するかも知れない任務。彼らはそれに挑まんとしていた。
「あとさ、折角だから部隊のカラーをオレンジで統一しねえ?」
「おー! それいいな賛成!」
「「「いやそれはちょっと」」」
プラントのこれからを左右するかも知れない任務に挑まんとしているのだ。多分。
出立の用意を調え、ラクスは息を吐いた。
「ここまでは何とか上手くいきました。問題はこの先ですね……」
彼女が地球に赴く理由。表面上は地球上に展開しているザフト部隊に対する慰問である。しかしその実態は、
以前ユニウスセブンの追悼式典が中止されてから、ラクスは自分に何が出来るのか考え、密かに情報を集め、信頼できる人間に相談した。
その中の一人が、マルキオ導師であった。ラクスとは慈善事業などを通じて交流があるのだが、導師は彼女に自分の思惑の多くを告げていた。
導師なりの期待の表れであった。彼はこれぞと見込んだ人物に嘘偽りなく思想と理念を語る。賛同者や協力者になって欲しいのではない。己の考えを聞いて貰い、そして考えて欲しいのだ。自分に何が出来るのか、自分がどうしたいのか。
誰かに言われたからではない。己が決め、やり抜く意思。見込んだ人間にそういった物を持って欲しいという想いがある。
ラクスからの相談を受け、導師は微笑みを浮かべたまま応えた。
「戦いの中で己が出来ること、ですか。……
意外な言葉であった。
「今までと同じく慰撫の活動を続け、少しずつ影響を与えていく。あるいは思い切って政治の世界に飛び込み、国政に関わっていく。その他にもあなたの立場であれば、色々と取れる手段はあるでしょう」
その言葉に軽い失望のようなものを覚えるラクス。言っていることは正しいが、彼女の求めているのはそういった答えではなかった。だからと言ってどのような言葉が欲しかったのか、自分でも分からないけれど。
もやりとした何かを心に感じる少女に対し、導師は続けた。
「しかしそれらが
はっと、ラクスは顔を上げる。導師は微笑みのまま。
「脇目を振らずに最善を求めるのであれば、先に言ったような手段で突き進むのもよろしい。ですが人間は心の生き物。義務感や責任感だけで突き進んでも良い結果が得られるとは限りません。ましてや迷いがあるのであれば、道が歪むこともあり得る」
きっとラクスは大きな物を背負って進んでいける人間だと、導師はそのように見ている。だが義務感だけで事を運べばそれは人形と変わらない。クライン派の中には彼女のネームバリューを政治的に利用したい者もいるという話も耳にした。そういった人間に祭り上げられて進んでいくことは良いことなのか。そこに彼女の意思はあるのか。そういった懸念もあった。
先にも言ったが導師が望むのは己で考え、己で決め、やり抜く意思を持つ者だ。そう、例えば――
「私はある人物を知っています。その人は己を悪人と嘯き、事実後ろ暗い手段に手を染めてもいます。ですがその人の行動は、己の国を、そして結果的に世界を良い方向に導いているように見える。彼の原動力は己が平和な世界で怠惰を享受したいと、そういった極ささやかな望みです。それだけで世界を相手に足掻き続けている」
その人物が誰なのか、ラクスも思い当たった。
「リョウガ・クラ・アスハ。彼ですね?」
「ええ。国家元首の子であり、その条件を存分に利用できる立場にある。……誰かに似ていると思いませんか?」
「わたくしに、彼のようになれ、と?」
「そこまでは言いませんし、彼のような真似は然う然う出来る物ではありません。ですがその生き様から、何かを学べるのではないでしょうか」
導師の言葉に、ラクスは考え込む。
「彼だけではありません。多くの人間が、『それぞれの良き方向』を目指して舵を取り、進んでいます。その中には決して世界のためにはならないものもある。あるいは善意からであっても良き結果を生むとは限らないものもある。多くの思惑が今の世界を形作り、蠢いています」
それらを見て、知り、学ぶ。今のラクスに必要なのはそのようなことではないかと、導師は助言した。
「その上で選択し、決め、進む。そうして向かうのが良き方向であることを、私は願っていますよ」
得心があった。今のラクスはプラントから見た情報、知識しか持っていない。マルキオ導師などから得た情報もあるが、それとて人の又聞きだ。己の目で見て感じ取ったものではない。
自分自身が感じ取り、そこから考え、選択し、決める。そのためにはどうすれば良いのか。ラクスは思案の末、まず父であるシーゲルと話して説き伏せ、彼と共にパトリックの元を訪れた。
「わたくしを特使として地球へ派遣してはどうでしょうか」
渋い顔のシーゲルを伴ったラクスの言葉に、パトリックは面食らった。何を言い出すのだこの娘はといった呆れのような気持ちも湧いてくる。
しかし静かながらも熱意を持って語るラクスの様子に、興味を引かれていった。
「現在戦況は膠着状態にあり、予断を許さないことは分かっています。そんな中、プラントに助力している国家群も不安を覚えているのではないでしょうか。プラント評議会理事長の娘が特使として訪れた、となればその不安を和らげる一助になるかと考えました」
意外にしっかりとした考えを持っていると、パトリックは少しだけラクスの評価を上げる。もちろん彼女の言っているのは『言い訳』だ。パトリックがどのような考えを好むか、彼女なりに推測した末の言葉である。
そして彼女はさらに畳みかけた。
「……正直なところアスランのことも気にかかる、という面もあります。彼も立場ある人間でありながら戦場に身を投じました。色々と不運もありましたが、生き抜き苦労を重ねていると聞いています。そんな彼の帰りをただ待つだけの者がパートナーとして相応しいと思えないのです」
少し目を伏せ、婚約者の身を案じる少女を演じる。女優もかくやというその様子に、パトリックも少し態度を和らげた。
「だがいきなり君を特使に、というのは唐突すぎる話だ。それに特使にするにも理由が要る」
「わたくしであれば、各地に慰問という名目を使うことが出来ます。それに……
「……なんと?」
パトリックは軽く目を見開く。自分を囮にしてそれを利用しろと、そう言っているも同然であったからだ。
見誤っていたのかも知れない、目の前の少女を。心根の優しい人物だと思っていた。だが今の彼女には、何らかの覚悟が見て取れる。プラントの現状を理解し、そのために身を捧げようとでも言うのか。パトリックはシーゲルの方に目を向けた。
「お前は許したのか、シーゲル」
「……止めたのだがな。アスランが苦心しているときにプラントでぬくぬくなどしていられるかと言われれば、強くも言えん」
どうやら押し切られたようだ。そしてアスランのことを出されたら強く言えないのはパトリックも同じだった。
それにラクスの申し出――彼女を囮にするというアイディアは、正直魅力的であった。ザフトにも
国防委員長としての冷徹な判断を内心で行い、パトリックは再び口を開いた。
で、結果はご覧の通り。ラクスの申し出はほぼ希望通り叶えられ、彼女は地球行きへの切符を掴んだというわけだ。
「首尾良く行けば良いのですが、安穏とした道行きにはならないでしょうね」
パトリックを乗せるために、彼の思惑に沿いそうなことを言ってみたが、実際何らかの妨害が入ることは否定できない。それを無事に乗り切っても、地球で海千山千の人物たちと渡り合う必要があるのだ。どれだけのことが出来るのか、無事で済むのか。不安はある。
だがそれでも行かねばならない。プラントで不安を抱える日々より、前に一歩進むことを選んだのだ。恐れるだけでは何も変わらないと、自分で決めたのだから。
「……願わくば、リョウガ氏にもお目にかかれれば良いのですけれど」
今回の外交でリョウガに会う予定はなかった。まずは実績を積むこと。何の力もない小娘と会うほど彼も暇ではあるまい。(実際は申し込まれたら真っ先に会いに行くかも知れないのだが)
一つ一つ積み上げていこう。余裕はないかも知れないが、焦る必要もない。順序というものが世の中にはあるのだと、ラクスは逸る気持ちを抑え込んでいた。
そんな彼女の思惑を余所に、リョウガとの対面は意外と早くに叶うこととなる。
妙に忙しい。仕事もプライベートも。
プライベートは自業自得ですがね、仕事は納得いかねえぞゴラァ。主に金銭的な面で。
金をよこせば良いって物じゃありませんが、やった分はちゃんと見返り欲しいやってなくても金は欲しい捻れ骨子です。
はいなんかヤバげな冒頭からラクスがぶっ込み(語弊)の準備始めたところの巻です。
なんかうちのラクス嬢こんなんなっちゃいました。原作よりはマイルドだと思いたいのですがいかがですかね。彼女の行動により物語がどうなるか。……不安だ。(おい)
あとハイネと愉快な仲間たちは適度に頑張ると良いさ。真面目にやると酷い目に遭うかも知れないぞう。手遅れかも知れないけど。
そんなこんなで今回はこの辺りで。