※端っから他者視点いくぜェ
プラントを発ったラクス一行は、途中小惑星を加工した前線基地へと立ち寄り、降下輸送船に乗り換え地球へと向かっていた。
降下輸送船とは、まあ言ってみればでっかいスペースシャトルである。宇宙と地上を行き来し、物資を安定して輸送するための物だ。地上に物資を降ろすだけならHLV(重量物打ち上げロケット。この場合は降下カプセルも兼ねている)と言う物もあるが、一度に輸送できる重量は200トンに満たない。ゆえにできるだけ少ない回数で多くの物資をと考案されたのが降下輸送船であった。
まあコストとか色々な面でHLVより秀でているかと言えば微妙なところだが、ラクスの護衛であるヴェステンフルス隊の装備と、その他諸々の物資を一気に纏めて運べるというのは確かに便利である。さらに言えば、乗り心地はHLVと比べものにならない。要人を地球へ降ろすのに都合がよいのは間違いなかった。
「すまねえな副長、貧乏くじ引かせて」
「これもお役目です。むしろ隊長の方が苦労されるでしょう」
モニター越しに言葉を交わすハイネとアデス。地上に降りるのはヴェステンフルス隊の中でもハイネ直下のMS部隊と整備兵だけで、アデスたちはヴェサリウス、ガモフ共々宇宙に残る。
ヴェサリウスとガモフは地球近海までの護衛だ。シーゲルら上層部としてはもっと多くの戦力を付けたかっただろうが、予断を許さない状況の中、割ける戦力には限度がある。それに大部隊は目立ち、行動が鈍る。お忍びというわけではないが、わざわざ要人が動くと宣伝してやるいわれもない。最終的にはエースが率いているんだしこのくらいが妥当だろうという結論に落ち着いた。
「にしても副長、俺の方が年下なんだから、もっとざっくばらんでいいんだぜ?」
「けじめですので」
気軽な人間関係を好むハイネと、堅物のアデスはそりが合わない……と思わせておいて、結構上手くやっていた。
これはハイネが軽薄に見えて気配りの利いた人物であることが大きい。有能であるが何を考えているか分からないところがあり、ちょくちょく無茶振りをするクルーゼと比べて、非常に人間が出来ている。アデスからしても仕事がしやすい上司であった。
ハイネにとってもアデスはできた副官である。実直で堅実。冒険はしないタイプだが、その分定石の行動に関しては非常に優秀だ。そして元々同じ部隊に属していただけあって、赤服の少年たちの扱いを心得ている。自分のサポート役としては上々の人間であった。
まあ堅物で、どれだけ言っても歳下どころではない若輩者の自分に、慇懃な接し方をしてくるのは玉に瑕であるが。
「……まあそれはおいおい解決するとして、そろそろ地球近海だ。ザフトが制空権取ってる空域から地球に降りるが、余計な邪魔が入る可能性はゼロじゃないからな。最後まで油断しないでおこう」
「大気圏突入前、降下軌道付近での戦闘は自殺行為に等しいと思いますが、仕掛けてくる可能性があると?」
「ないとは言えないな。何しろ名高きザフトの歌姫だ。それを仕留める、あるいは手中にする機会ともなれば、かなりの無茶でもやりかねん」
正式な交戦協定などはないが、地球への降下軌道上での戦闘はタブーとされている。当然の話で危険極まりないからだ。メタな話ガンダムではよくやることであるが、本来自殺行為と言っても過言ではない。
だがハイネはその可能性があると考えていた。連合、特に大西洋連邦を牛耳っているブルーコスモスはまともじゃない。必要とあらばいかなる犠牲を払ってでも目的を果たそうとするだろう。死兵を送り込んでくるくらい平気でやる。
一応今回の行動は機密であり情報は制限されていた。だがこういうのは漏れる物だ。連合にはこちらの動きが筒抜けと考えていい。
ここまでの航海で襲撃などがなかったから情報は漏れてない……などと考えられるほどハイネは脳天気ではなかった。
(いざとなれば……覚悟を決める必要があるな)
自分の命を賭けてでも、ラクスは無事地球に送り届けねばならない。普段は軽薄さを装ってはいるが、ハイネはすでに歴戦の戦士であった。
一方アークエンジェルであるが。
「ここまでは順調だが……地球に近づいたからといって、安心もできんな」
艦長が呟くように言った言葉に、ナタルは内心で同意した。
地球近海での勢力圏争いは激しい。双方ともに物資や兵力の輸送路を確保しなければならないのだから当然だ。軌道上での戦闘こそないが、そこに至るまでの航路、空域の取り合いは熾烈である。
今使っている航路は比較的安全が保たれているが、それでも油断して良い物ではない。地球に近づくにつれNJの妨害も強くなるため、長距離の電磁波レーダーの効きも悪くなり、遠距離の索敵がしにくくなる。頼りになるのは目視とレーザー索敵だ。量子レーダーの開発も進んでいるが、まだ完全に実用化には至っていない。(その分野でトップをひた走っているオーブも、流石にその辺の技術は出し惜しみしていた)
結果ナタルたちCICのクルーは緊張感とプレッシャーの中で索敵管制をこなしていた。アークエンジェルは月の艦隊と共に幾度か小競り合いに参加したが、本格的な戦闘はまだ未経験だ。当然地球への降下も。
嫌というほど訓練は積んだし、自分たちならできるという自信もある。だが実際に時が迫ればやはり緊張する物だ。その上でナタルたちは艦の『目』そして『頭脳』として周囲に気を配らなければならない。精神的な負担は相応にある。
(降下軌道に乗れば襲撃の心配はないと思うが……それも確信は持てない)
CICの総括として戦術理論を鍛えまくったナタル。その彼女は僅かな危惧を覚えていた。
この世界では、大気圏突入軌道上での戦闘という物は前例がない。せいぜいがザフトのHLVを迎撃するために連合が攻撃を加えた程度の物だ。(しかもそれはNJの影響もあってほぼ失敗した)
ザフトもそれは理解しているはずだし、兵の無駄遣いとも言える無謀なミッションを強行する余裕があるとは考えにくい。それに
確かにアークエンジェルは最新鋭の艦だし、試作と先行生産型のMSを積んではいる。だがそのデータは完全では無いにしろ、全て連合の本部に送られ、それを元に大西洋連邦を中心とした各所でMSの生産が始まっている。アークエンジェル自体も同型艦が月と地上で建造されていた。ここでアークエンジェルを墜としたとしても、幾ばくかの影響があるのみで、戦況は大きく変わりはしないだろう。それに狙うのであればこの航海中にいくらでも機会はあった。危険を冒してまで降下軌道上で襲撃する理由はない。
しかし、それでも。
(連合の上層部に揺さぶりをかけるつもりなら、わざわざ呼び寄せたこの船を墜とすのは効果的ではある。それに見合うコストかどうかは別として。大気圏突入寸前を狙えば、確実性は増す)
そもそもが無謀な戦争だ。今更無茶の一つや二つやらかしてもおかしくはない。ザフトにはそう感じさせる『怖さ』がある。
しばしの思考。そして。
「艦長、具申いたしたいのですが、よろしいでしょうか」
ナタルは席を立ち、声を張り上げた。
嫌な予感は、当たる。これは世界の摂理である。
……なんて大げさなことでもないが、大体世の中無常な物で。
「索敵班より報告! こちらと接触するコースで船影を確認! 識別信号確認できません!」
「隊長の予想通りとはな。……MS隊を出し、迎撃態勢を取れ! 重力に捕まるなよ!」
ヴェサリウスが正体不明の目標を捉えた。識別信号も出さずに近寄ってくる船など敵以外にないとアデスは判断。即座にMSを出撃させる。
地球近海での戦闘を考慮して大型のバーニアパックを追加されたジンが発艦し、降下輸送船を護る位置につく。
そして、謎の船からも艦載機が放たれるが。
「この反応。まさか、
近づくにつれそのシルエットもはっきりと見て取れる。それはカラーリングこそザフトの物とは違っていたが、間違いなくジンであった。
「鹵獲機! 連合のコーディネイターか!」
連合に与する、所謂『裏切り者のコーディネイター』が敵だと判断された。事実様々な事情で連合軍に入隊しているコーディネイターはそこそこいる。そういった人間は大概ザフトに対し強い敵意や恨みを抱いている場合が多い。
しかしながら、今回の場合は少々事情が異なっていた。
「目標を捕捉。各機は攻撃に移れ」
『了解』
無機質なやりとりが行われる。それを成したのは白を基調にしたカラーリングのジンを駆る者たち。
そのパイロットたちは全て、整った容姿に青みがかった銀髪の男性……ぶっちゃけ同じ顔をした連中であった。
【ソキウスシリーズ】。地球連合軍が秘密裏に生み出した、戦闘用コーディネイターである。
服従遺伝子を利用した刷り込みによる心理コントロールが施されており、『ナチュラルのためになること』を最優先とした行動を取るように調整されている。だが服従遺伝子による制御という物を信用しきれなかった軍上層部により、ほぼ使い捨てのような形で激戦区に送り込まれたり戦闘訓練のテスト相手として
ほとんどの場合薬剤投与などによって自我が抑制されているため、彼らはどのような無茶な命令にも従う。それが自殺行為に等しい物であってもだ。
今回のようなミッションにはおあつらえ向きの人材であった。
そのようなこと、ザフトのパイロットたちには分からない。だが機体の動きから、なみなみならない相手であることは予想できる。
「各機、連中をこの先に一歩も通すな!」
隊長が吠え、護衛のジンは一斉に敵へと躍りかかった。
そして同時刻。
「目標、真っ直ぐこちらに向かってきます!」
「……バジルール中尉が予測したとおりになったな」
別の軌道から降下態勢に移ろうとしていたアークエンジェルにも、敵が襲いかかってくる。相手の船籍は不明。ただ確実にザフトのものではないことは分かる。
「偽装か。それとも傭兵でも雇ったか。……ともかく遠慮無しに来るぞ。【ブルーリーフ】と【アンブレラ】は迎撃態勢に移れ! MAを深入りさせるなよ!」
僚艦に迎撃を命じる艦長。それに応じて僚艦2隻は向きを変えて砲口を目標に向け、MAを出撃させる。アークエンジェルはそのまま降下態勢に――
いざというときは降下を中断し離脱を行い、一度近隣の基地へと撤退する。ナタルが具申した策はそのようなものだった。元々上層部から無理矢理下された命である。本来予定されていたより強行軍で、システム的にアクシデントが起こる可能性もあった。その上で、敵襲を受けた状況で無理矢理地球に降下するのは危険ではなかろうかと、ナタルは指摘したのだ。
そも乗り気ではなかった艦長以下クルーはその意見を取り入れた。折角ここまで『育てた』艦を墜とさせるような真似をしたくはないし、命を懸けてまで無理をする理由もない。敵の襲撃を言い訳に、無謀を回避しようと考えるのは当然のことであった。
そして降下軌道から外れるのであれば、
「MS部隊はどうか」
艦長の問いにオペレーターが答える。
「エールストライカーを装備した
「よろしい、303はフラガ大尉に任せろ。出撃可能な機体はスタンバイさせて待機。連中の攻勢が激しいようであれば、出すぞ」
降下しないのであれば、迎撃のためにMSも出せる。もちろん地球に近いので重力に引かれる危険性はあるが、大気圏に突入しながら戦闘をするより遙かにマシだ。
衛星軌道に乗った状態で戦闘を行い、頃合いを見てスイングバイで軌道を離脱。近隣の連合基地に向かうというのが大まかなプランだった。当然その状態のアークエンジェルも狙われるだろう。そうなれば迎撃は必須である。そしてそのプランはパイロットたちにも通達されていた。
「装備の追加は無しか。……できればガンバレルくらいは付けて貰いたかったな」
「無茶言わんでください。105用のストライカーパックだってまだ開発中なんですよ」
MA形態に変形したイージスを調整しながら、ムウとコジローが言葉を交わす。元々MA乗りであるムウにとって、イージスをMS形態で使うメリットはあまりなかった。
MAとしてもイージスはかなり高い性能を誇る。素の機動性に加え、ビーム兵器を標準装備とし、使用に制限はあるが対艦兵装である大口径ビーム砲【スキュラ】も備えている。ムウが以前使っていた【メビウス・ゼロ】よりも最大火力は高い。相性は悪くなかった。
「カタパルトに上げます! 大尉はスタンバイを」
「できれば出番がないに越したことはないんだが……そうはならないだろうな」
コクピットに潜り込み、ヘルメットのシールドを下げるムウ。パレットに乗せられた機体は、カタパルトデッキへと送られていく。アークエンジェルは着々と迎撃態勢を整えていた。
そして、それを相手取るのは。
「降下をやめた? 頭の切れるのがいるな」
アークエンジェルを目視で捉えられる位置まで距離を詰めた旧式艦、そのブリッジ、艦長席で呟くように言う男。
【レオンズ・グレイブス】。連合、ザフト双方に兵士を提供する
ナチュラルであるがその能力はザフトの軍人からも一目置かれるものだ。とはいえ危険な任務を押しつけられている時点で、その扱いも分かろう。
もちろんそれは自身も理解していることで。
「前金分の仕事はするか。上手いこと一当て出来れば御の字さね。……MS部隊、深追いはするな。増援が来たら速攻でケツまくるぞ!」
任務達成を半ば諦めた、消極的な指示を下す。レオンズはまだこんなところで死にたくはなかった。
その指示を受けるMSパイロットの中にも、一癖ある者がいる。
「目標捕捉。攻撃に移る」
ソキウス同様の無機質な声で言うのは、仮面を付けた男。
【スー】と名乗るその男は、レオンズと同じ企業に属する傭兵であった。苦も無くMSを操るところからコーディネーターだと推測されるが、それ以外の経歴は不明。必要最小限の言葉しか口にしないところから『沈黙の仮面』などとも呼ばれている。
彼の駆るジンは、なぜか重斬剣しか装備していない。スーは接近戦での戦いにこだわりがあり、重火器の使用を嫌う。それがまかり通っているのは、彼が相応の戦果を出しているからだ。傭兵になってまだ日が浅いが、それだけの技量はある。
「はっ、逃がすかよ」
「先行くぜ仮面野郎」
血気に逸った僚機が、スーを追い抜いていく。そのことに何の感慨を抱くこともなく、スーはゆっくりとスロットルを開けた。
※リョウガ視点
「なるほど、アークエンジェルとその護衛以外は
クーロンズポートであちこちから話を聞く合間に、俺はレポートに目を通す。
今回の件は不幸と偶然の折り重なりだ。タイミングの悪さ、判断の誤り、そういったものが交差してこのようなことになった。まあ多少できすぎの感はあるが、この世界何が起こるか分からない。複数の思惑が絡めばこう言う事もあり得る。
「で、アークエンジェルに襲撃をかけてきた連中は取り逃がしたが……ザフト側にきた方は、
戦闘不能になったジンが何機か軌道を外れ、様子を窺っていたうちの宇宙軍に確保されたようだ。これの詳細はまた後日に聞かねばならないようだな。
まあ向こうもそう簡単に情報は吐くまい。連合に連絡しても、恐らくとぼけられるだろう。その処遇も考えなければならない。
ともあれまずは話の続きだ。俺はレポートの閲覧を中断し、これから先の行動を考えながら腰を上げた。
ひっさっしっぶっりにっ! サバゲに行くことになりましたー!
と浮かれてるおっさんが、ニタニタしつつエアガンをいぢくりまわしている光景。キモいですね。
しかし反省などしない捻れ骨子です。
はい交戦開始……までいってないよ! すいませんすごく長くなりそうなので途中で切りました。次回こそ戦闘シーンになるはずです。ただしカオスだ。
なんかアストレイから色々引っ張られてきてますが、果たして彼らは活躍するのか否か。それとも出てきただけなのか。
なお盟主王原作ほどサハクさん家と仲良くないようで、ソウキスの譲渡はなかった模様。その代わりに……?
とまあヒキ=ジツを使ったところで、今回はこの辺で。