「お初にお目にかかる。オーブ代表首長補佐官、リョウガ・クラ・アスハだ」
「初めまして。ラクス・クラインと申します」
言葉を交わし、席に着く。俺の傍らには護衛を兼ねてリシッツァが、対面のラクス嬢の傍らには黒服サングラスの護衛官が控えている。
互いに用心のためだ。最低でも
この対談で運命が変わる……かどうかは分からないが、今後に一石を投じる重要な局面だ。最低でも俺はそう信じているから内心気合い入りまくりだ。表に出すようなへまはしない……つもりだが、はてさて。
「今回のことは不運だったが……体の方は問題ないかね?」
「ええ、おかげさまで。オーブの皆様の救援が手早く、大事ないうちに保護されましたので」
精神的にも身体的にも問題はなさそうだ。軽く微笑しているその腹の底は窺えない。
この少女は原作でも色々とやらかしてくれたが……あれだけのことをしでかすには、相当のコネクションが必要となる。それを作り上げるためには相当前から準備しておかなければならないはずだが、原作とかなりの相違点が生じているこの世界で、この少女がどこまでやっているのか判断がつかない。そこまで深くプラントに手を伸ばしているわけじゃないからな。
……実のところ、俺は原作での彼女の行動を
俺だってある意味原作の彼女らより酷い行動をしている。結果的にマシに見えるだけで、原動力は個人的な都合だ。人のことを頭ごなしに否定できるほど立派なもんじゃない。
それらを踏まえた上で、目の前の少女が何を考えているのか、これから先どう動くつもりなのか。それを少しでも見極め、己がどう動くべきなのか。世界にとっても俺にとっても、ここが分水嶺になるかも知れなかった。
「大事ないとは言え、窮屈なところに軟禁状態でそう気も休まないだろう。すまないが、事故とは言え我が国の領海に許可無く入り込んだ形になってしまった都合上、色々と面倒なのだよ。今しばらく我慢して欲しい」
「心得ておりますわ。むしろご迷惑をおかけした上で、保護していただいているのですから、贅沢なことを言えば罰が当たります」
「痛み入る」
軽く頭を下げる。ラクス嬢一行はザフトのアフリカ方面軍――バルトフェルド隊が引き取る事になった。現在地球でもっとも安定して勢力を維持しており、現地政府との関係も良好。その上抵抗勢力とも和解を模索しており治安も向上しているとなれば、白羽の矢が立つのも当然であろう。ま、俺が少し後押しした(彼らくらい安全なところじゃないと安心して送り出せないとごねた)ってのもあるだろうがね。今頃はラクス嬢を迎え入れるために艦隊が出航しているだろう。
それはさておいて。
「では本題に入ろうか。……まあこれは非公式なもので、表沙汰にはならないから気を楽にして欲しい。一応記録はされるが、それを何かに利用することはないと約束しよう」
「信じましょう。リョウガ・クラ・アスハという人間は、約束を違えないと」
「過分な期待だな。それを裏切らないように努力させて貰う」
事情聴取という名の会談。俺はそれを行おうとしていた。先に宣言したとおり、あくまでこれは互いの腹を探るもの。この会談の内容を何らかの形で利用する気は無い。今後の俺の行動を決めることにはなるだろうが。
「早速だが、まずは貴女の目的を聞きたいところだ。少数の護衛だけを引き連れて非公式に地球へと赴いた。多分密使かなにかだとは思うが、いかがか?」
「慧眼ですわね。その通りです、わたくしはプラントに対し友好的な中立国に対する特使として、地球に参りました。表向きは非公式な、各地に対する慰問の名目で」
存外さらりと目的を明かす。あるいは隠しても無駄だと思ったのか、それともまだ隠していることがあるのか。
……いかんね、どうにも疑い深くなってしまう。ある意味原作知識が邪魔をするなあこう言う場合。
「何を目的とした特使かは……聞かない方が良さそうだな」
「貴国に悪いようにはならない、とだけ申しておきますわ。プラントにとっても命綱の一つ。害するわけにはいきませんもの」
ふむ、気のせいか妙に上機嫌にも見える。表情は微笑のままだが、口調が僅かに明るい。導師を通じて俺の話は聞いているだろうが……彼に何か吹き込まれたか?
そう思っていたらば。
「わたくし個人としては、
「……私との対面が目的であったと?」
「願わくば、と言ったところだったのですけれど。人生何がどう転ぶか分からない物ですね」
確かに俺は、派手に状況を動かしているという自覚がある。ラクス嬢に目を付けられても致し方ないとは思うが。
「随分と思い切ったことを。まさかとは思うが、特使の話は私と対面したいが為に無理矢理ねじ込んだ、とか言う物ではあるまいね?」
「あら、よくお分かりで」
マジかい。いや本音言ってるかどうか分からんが、この子の行動力から考えるとあながち嘘でもないかも知れん。これは益々下手は打てないな。
「そこまでして私と話したいことがある、とでも言うのかね」
「ええ、それだけの価値があるとわたくしは思っていますわ」
「買いかぶりではなさそうだ。確かに現状、世界の動きに幾ばくか関わっているという自負はある。私の思惑を知りたいと考えるのは、貴女だけではなかろうさ」
「ご理解いただけたようですわね」
「それで、貴女は私に何を聞きたいのだろうか」
俺の問いに対し、ラクス嬢は微笑のまま――
目の奥の光だけが変わった。
「そうですわね、色々とありますけれど……『ザフトと連合の戦争を終わらせるにはどうすればよいか』、というのはいかがでしょうか」
いきなりぶっ込んでくるなこのお嬢さん。
「終わるだけなら簡単だろう。どちらかが負ければいい。だがそれはとても解決と言えるものじゃない。待つのはろくでもない結果だけだ」
こう返す。身も蓋もない言い様だが、もっとも単純な終わり方とはこう言う物だろう。共倒れというオチも考えられるがな。
「まあこれは、貴女が求める答えではあるまい。正確には戦争を終わらせるために『我々は』どうすればいいのか。そういったところかな」
「……ええ、そう。そういうことだと思います」
妙に歯切れの悪い答え方だ。この子自身にまだ迷いがあるのか、あるいは考えが完全にまとまっていないのか、そういったところだろうか。
ただ何かをするべきという意志だけが、見受けられる。
「恥ずかしながら、わたくしはたいしたことのできる人間ではありません。プラント評議会の議長の子供、そのような立場をなくせばただの小娘に過ぎない。そういったことも頭をよぎります。そして何かをしなければならないという思いはありますが、どう動くのが最もよい結果につながるのか、それが見えてこないのです」
原作のような経験をしていないせいか、ラクス嬢はまだはっきりとした方針と自信を持っていないようだ。弊害であるともいえるし、俺にとっては都合のよい考えを植え付けるいい機会であるかもしれない。しかし油断をすれば喰われるのはこっちだ。何を語るにしても、慎重にやらなきゃな。
「ふむ、私の言動が迷いないように見えたかね?」
「ええ。その上で強い意志を持って事を推し進めているように見えます。そこまで強くモチベーションを保てるのはなぜなのか、お聞かせ願えれば」
「たいした理由じゃないさ。やらなければ国が滅ぶかもしれなかった。それだけだ」
ホント何もしなかったら滅んじゃうからね。難易度ルナティックなんだよこの世界。
「私にも迷いはあった。だが世情は待ってくれやしない。迷いなんぞ振り切り、がむしゃらにやるしか道は開けない。それが未だに続いているから、モチベーションを保つしかないということだ。血を吐きながら続けるマラソンのようなものだよ」
「己の身を削ってでも、なさねばならぬと」
「そこまでたいしたものじゃない。ベットする元手が、己の心身一つしかなかったというだけさ。何しろ最初は、オーブという国の中もバラバラだったんだ。それを一つにまとめ上げるところから始めなきゃならなかった。10年かそこらでやっとここまでだよ」
一応一つの国、一つのイデオロギーで固まっている勢力をまとめ上げて対策を練るだけでここまでかかった。世界規模ともなればいかほどの手間になるものか、想像に難くはない。
「今の戦争は、これまでの歴史の中であった独立戦争、その延長線上だ。だからといってこれまでのような駆け引きで終わるものではない。双方血を流しすぎた。まともな終結に至らせるためには、これまでにない苦労をする必要があるだろうな」
「理を持って説くことは難しい、と?」
「互いのやらかしで頭に血が上りまくっているからな。しかも間に立つ宗教やなんやの権威ってものがないと来ている。我々中立国の働きかけも、決定打とは言えんだろうさ。それでも粘り強く働きかけなければ、終わるものも終わらない」
「平定には時間がかかるとおっしゃりたいのですね」
「双方を黙らせる武威でもあれば話は別だろうが、オーブにもよそにもそれほどの力はあるまいよ」
横から思いっきりぶん殴ることはできるだろうがな。それで双方に致命打を与えることも不可能じゃないが、そこまでばらすつもりはない。
「それに無理矢理殴りつけて戦争を終わらせたところで、遺恨は残るだろう。普通に終わったって残るんだ。納得のいかないまま消化不良で終わらせたところで、恨み辛みが積み重なるだけさ。最低でも双方がある程度の納得いく結果が得られなければ」
実際のところ、
ラクス・クラインという人間を、俺は完全に信用し切れていない。あるいは敵に回るかもしれないという可能性は、常に考慮している。正直キラよりよほど危険な人物だと考えていた。だから全てを明かすことはない。
「ではリョウガ様の考える、双方が納得のいく和平条件とはどのようなものでしょう?」
「あくまでオーブから見た都合だが……プラント側は独立と引き換えに、これまでにかかった建造費、維持費と賠償金の支払い。そしてNJの機能停止。連合の方はプラントに与えた損害の賠償と、独立、自治権の容認。それとブルーコスモス過激派のテロリスト認定と国際指名手配。こんなところかな」
「……妥当なところですわね。
流石に理解できるか。プラントからすればNJの効果による優位点は是非とも残しておきたいだろう。対策が取られつつあるとは言え、その効果は未だ連合の枷となっている。機能を停止させればプラントは一気に不利な立場となるだろう。独立と引き換えにするにしてもリスクが大きすぎる。
連合は連合で、過激派とはいえ政治、経済の中枢に入り込んでいるブルーコスモスのメンバーを、そう容易くは切り捨てられまい。できるとすれば穏健派が主流となり、過激派の存在が邪魔と判断されるような状況になれば、だろう。よほどのことがなければ、そんなのはありえないだろうが。
つまり俺の提示した条件には、双方が絶対に譲れないところが入っている。しかしそこがなければお互いの国民を納得させることは難しいだろう。どっちも国民を煽りまくっての戦争だ。それを鎮めるためには相当の理由が必要となる。原作ではなんかうやむやになった感があるが、だから火種が残りっぱなしだったんじゃなかろうか。
まあ俺が提示した条件でも火種は残りまくるんですがねー。怨恨なんかは簡単に晴れることはないだろうし、火種を煽るどころか作ることもやりかねない存在(どこぞの一族とか)がおるからな。原作より条件がいい終わり方をしても、絶対原作より状況がよくなることはなく、ほぼ間違いなく次の戦火が巻き起こる。賭けてもいい。
「当然だが私もこのような条件で纏まるとは思っていないさ。だからどこかで妥協しなければならない……のだが、まだ双方中立国の言葉を聞き入れる耳を持たない。未だ和平の道は遠いということだ」
俺の言葉にラクス嬢は考え込む。俺のこれまでの言動から、『時間をかけて和平の道を探る方針』だと察したのだろう。実際そのように動いている部分もある。各国にじわりと浸透していく我が国や商会の手を通じ、民衆の間に厭戦感を広げ、政府への圧力を高めていく。そういった手段も取っていた。
しかしそれでは――
「
俺の言葉にラクス嬢はピクリと反応する。
そう、時間をかけて和平の道を模索する、そのような余裕はプラントにない。元々の国力の差を、NJと言う反則技とMSという予想外の兵器でもって優位を確保したが、戦争が予想外に長引き、NJは徐々に対策が取られつつあり、さらにMSが生産され実戦投入も始まったとなれば、程なく優位は覆される。
プラントの弱体化は俺としても望むところだが、それは同時に連合の弱体化も併せて、と言うのが前提条件だ。一方的に弱体化し滅んで貰うのは困る。ゆえに戦力の調整のためにも助力しているわけだが、それにも限界はあった。
もっとも、立て直しができてきたことで連合内での対立も激化しつつあるわけだが、そこまでラクス嬢には分かるまい。いずれにせよプラントにさほどの余裕はないのは確かなのだから。
「プラントのお偉方も分かっているはずなのだがね。他はともかく停戦の交渉に関しては頑なだ。我々としても手を焼いているところさ」
「……父は停戦も視野に入れていますが、プラントの首脳陣の多くは徹底抗戦を主張し、譲る様子を見せません。父と数少ない穏健派も努力はしているのですが」
「有利な内に手打ち、とは考えられないか。もっとも連合の方だって現状を覆さない限りは聞く耳を持たないだろうな。難しいところだ」
現状の難しさは理解しているだろう。さて、ここからどう判断するラクス嬢。
「……他の中立国も、それぞれの思惑があるでしょう。その中で停戦を望んでいるのはどれほどあるのでしょうか」
ふむ、
「公平な停戦を望んでいるのは、我が国とスカンジナビア王国くらいか。後の中立国は多くがプラント寄りだな。ややもすれば、このまま連合が敗退してくれればその分の利権をかっさらえると考えているところも多いだろう」
うちの場合は公平に弱体化してから停戦して欲しいところだがね。純粋に戦争やめて欲しいのはスカンジナビアくらいだろう。あそこは今でさえユーラシアや大西洋から難民が押し寄せてるんだ。これ以上の面倒は勘弁して欲しいというのが本音じゃないかな。
それはともかく、俺はラクス嬢の考えが大体読めてきた。
「中立国同士の連携を強め、第三勢力として連合とプラントの間に立てる。そう言ったことを考えているのかな?」
「お分かりですか。とは言ってもわたくしもはっきりと考えが纏まっているわけではないのですけれど」
「まあ似たようなことなら私も考えていたからな」
中立国同士の関係を深め、
「とはいえまだ足並みは揃わない。どこまで協力体制を築けるかは未知数だよ。今のところは連合、プラント双方を留めるだけの勢力は無い」
「……あなたは、随分と先を見て、進んでいらっしゃるのですね」
どことなく気落ちしたようにも見えるラクス嬢の言葉。自分の考える先手先手を行っているように見えるのだろう。
「言っただろう、がむしゃらに走り続けるしかないと。貴女より前から走り続けているんだ、先を行くのは当然さ。そして……」
俺は表情を真剣なものに変えた。
「
焦ることはないと語外に含め、言う。ぶっちゃけ、俺達の利になるのであれば原作通りの動きをしてくれても構わないんだ。だがその方向に導くのは非常手段としておきたい。状況が制御できなくなるだろうから。
今は状況を見極め、よく考えて欲しい。そして導き出した結論が俺の害にならないよう、祈りたいところだ。
俺の言葉に、神妙な表情のラクス嬢は眉を寄せる。
「わたくしに、見えることとできること、ですか……」
「そう難しく考えることはない。そうだな、とりあえず」
俺はそこでにやりと笑って見せた。
「折角地球に来たんだ。『ここ』からなら、また新たに見えるものがあるかも知れないぞ?」
なぜ俺は帰省してんのに仕事してたんだろう。(遠い目)
盆と正月が忙しいってどういうことなの。どういうことなの。いや今年が特殊だと信じたい捻れ骨子です。
大変お待たせして申し訳ない。仕事が忙しいから遅れた……わけではありません。リョウガさんとラクス嬢の対話に悩んだ末のことです。
結果……何の成果も得られませんでした! というのは冗談ですが、原作と違いドラマチックな出会いとか悲劇とか無いんで、ラクス嬢まだ迷いっぱなしな状態です。果たしてここからガンギマリまでもっていけるのか。そもガンギマるのか。原作主人公と出会う様子なんかこれっぽっちもないぞおい。
結局今回の対話で何がどう決定づけられたわけでもないのですけれど、果たしてこれが今後に影響を与えるのでしょうか。なんかラクス嬢の事ですから予想外の方向にすっ飛んでいくような気がしますが。(偏見)
それでは今回はこの辺で。