さて、俺との会談を終えたラクス嬢は、何事もなく迎えの艦隊と共にクーロンズポートを発った。
「……で、
「潜水母艦が3。水中用MAらしきものが6。それを囮にしたらしい潜入工作員が15。といったところですわね」
俺の問いに答えるリシッツァ。それはラクス嬢を保護してからこれまでの間に、クーロンズポートへとちょっかいをかけてきた存在の数だった。
「存外少ないな。……捕虜なんかは皆無か」
「ええ、母艦はこぞって撤退。MAは自沈。工作員はご丁寧に全員自決しましたわ。なかにはテルミット爆薬を使った者もいたようで」
「あわよくば巻き添えを狙って、だな。こっちの被害は?」
「負傷者が数人。とはいえほぼ軽傷です。全て水面下で片付けられたので、まずまずの成果かと」
「そうだな。ボーナスと見舞金ははずんでやってくれ」
CSSと、密かに配備していたMS部隊の手によって、不埒者どもは退けられた。しかし。
「どうにもぬるい攻め手だ。あるいは本命ではなかったか」
「そうかも知れませんわね。もしかしたら今頃ザフト艦隊が襲われているかも」
「だとしてももう手は出せんし、これ以上は大きなお世話どころではないさ。後は彼らの奮戦に期待しよう」
今回程度で終わるはずがないという予感があった。だがこれくらいは乗り切って欲しいし、乗り切れなければそこまでだ。
と、リシッツァがどこか咎めるような雰囲気で言う。
「彼女らもそうですけれど、ご自身の周りも気を付けてくださいませ。
「……一族、か?」
「ええ。装備品は連合のものでしたが、そっちの工作員を装った可能性もあります」
ふむ。そろそろ動き出す頃だと思っていたが。連中の動きは未だ不明な部分が多い。オーブの諜報部とCSSが探っているが、敵も然る者で中々尻尾を掴ませない。
まあそっちの方は『伝』ができそうだから、もう少ししたら状況が改善するかもだ。それに俺を狙っているのは一カ所や二カ所じゃきかないからな。今更だ。
リシッツァも分かっているのか、ため息を吐く。
「
「ふっ、自慢だが軍主催のサバイバル競技会でレコードホルダーになっているのは伊達ではないからな」
生憎忙しい合間を縫って鍛えるのを怠ってはいないし、それで慢心するような事もしない。何せ人生綱渡り。己の肉体や技術だって研ぎ澄ましておかなければ、いつ何時、何があるか分からない……っていうかしょっちゅうあるし。
「だからって調子に乗って袖口に銃を仕込もうとかしないでくださいません? なんですのがんかたとかいう怪しい武術流布したりして」
「うむ、半分冗談だったんだが、軍の教練に取り入れようかという動きが出るとか俺も思わなかったわ」
鍛錬ついでに某りべりおんじみた真似をやったりもしたのだが、軍の連中がかなり本気で興味を持つとは。割とこの世界じゃ有効かも知れんけど。MSでやりそうなヤツも何人かいるけど。
「まあそれはそれとして。アークエンジェルの方は、やっぱりアレか」
「ええ。大西洋連邦の方はどうにも乗り気ではないようで、護衛艦2隻だけをよこすそうですわ」
ザフトに対して連合――アークエンジェルが所属する大西洋連邦の動きは鈍い。と言うかどうにも内輪もめが酷そうだ。
元々アークエンジェルとガンダムは、ハルバートン提督の肝いりで開発された物だが、あくまでハルバートン提督の派閥が推進していたと言うだけで、
要は足の引っ張り合いが存在していると言うことだ。前にも言ったが原作よりも余裕ができたせいで、その辺が激化してきたという事情もあった。
で、とばっちりを食らったのがアークエンジェルである。本来はもっと護衛の船がよこされるはずだったのだろうが、内ゲバの影響でこのざまだ。まあ原作みたくろくな補給もなく単艦でアラスカに来いと言われるよりはマシである。五十歩百歩だけど。
ザフトもラクス嬢が地球に来たことで警戒態勢を変えなければならないから、アークエンジェルを襲っている余裕なんてないとは思うが、クルーには分かるまい。俺も情報漏らすつもりはないし。
「こっちの方も我々が手助けするわけにはいかん。精々よき航海を、と祈るだけさ」
「フラガ大尉がいますから、簡単には沈みませんでしょう。無事にたどり着けるかまでは分かりませんけれど」
肩をすくめるリシッツァ。彼女からすれば、アークエンジェルにはあまり思い入れがないのだろう。どうでもいいとまでは言わないが、沈んでも仕方ないくらいに考えているようだ。
事実ここでアークエンジェルが沈んでも、大勢に影響はあまりない。原作を見ていた身からすれば少々複雑な気分だが、あの船には
そうなった原因は、巡り巡って俺にある。ちょっとだけ悪いことしたかな~とか考えつつ、俺は思い返す。
ラクス嬢との会談の後しばらくして、今度は医療施設に運び込まれたアークエンジェルの艦長たちと面会する。
まあほとんど形だけだ。艦長はあわや失明かと言うほどの怪我を負ったし、副長も似たようなものである。どっちかと言えばお見舞いに近い。
表向きには遭難したアークエンジェルをオーブ領海内で保護し、製造元であるクーロン商会に押しつけた。と言う形だが、実際のところは推して知るべし、だ。彼らのバックであるハルバートン提督とは友好的でありたいし、オーブとしてもそれなりに気を遣う。
折角生き延びてんだから、
「しばらくすれば彼らは動けるようになる。それと同時にアークエンジェルもだ。大西洋連邦の返事待ちだな」
「あまりよい返事は聞けそうにありませんけれど」
リシッツァと言葉を交わしながら、俺は自販機コーナーに向かう。俺だって喉くらいは渇くからな。一息つこうというわけだ。
と、自販機前の談話コーナーに、屯っている男女の姿があった。
「あれは……」
ふむ、『実写』にはなっているが、雰囲気はまるでそのままだ。恐らく間違いあるまい。
知らんふりして立ち去ろうかとも思ったが、彼らの動向も気になる。俺は意を決して声をかけることにした。
「失礼。販売機を使いたいのだが、よろしいかな?」
そう言うと、
「りょ、リョウガ・クラ・アスハ……氏!?」
『金髪の男性』が、ちょっと焦ったような声を出す。ここまでくればもう誰だか分かるだろう。
「そういう貴官は、
「存じておりますわ。CSSの代表を務めておりますリシッツァ・コチャンスキーと申します。お見知りおきを」
ここで男性――ムウは居住まいを正し、敬礼してみせる。
「失礼しました。連合宇宙軍大尉、ムウ・ラ・フラガであります」
そして残りの2人の女性もそれに倣う。
「しょ、小官は連合宇宙軍技術大尉、マリュー・ラミアスであります!」
「同じく連合宇宙軍中尉、ナタル・バジルールであります」
そう、原作メイン大人組が勢揃いだった。アークエンジェル落ちてきたんだから、そりゃこの人らと遭遇する可能性はあった。多分艦長の様子を見るのと、今後の方針について話し合っていたのだろう。タイミングがよかったのか悪かったのか。
「通りすがっただけだよ、楽にしてくれたまえ。……リシッツァ君、何か飲むかね?」
「それでしたらレモンティーをお願いいたしますわ」
目を丸くする三人の前で、俺は自販機にコインを入れる。程なくして出てきたカップをリシッツァに手渡し、自分はブラックコーヒーを選んでカップを手に取った。
……むう、香りは悪くないが、やっぱり薄いな。
所在なげに手を下ろす三人。なんと言って良い物だか戸惑っているようだ。まあいきなり国の重鎮に出会ったらこうなるのも仕方ないが。
「邪魔をして悪かった。アークエンジェルの処遇について艦長殿と話をしに来たところだ。……色々な都合上、大した手助けもできないが、そこは勘弁して貰いたい」
「はっ、お気遣いありがとうございます。ご面倒をかけた上でのご助力、感謝の極みであります」
「まあ個人的にはエンデュミオンの鷹に貸しを作れた、というので御の字だろう。貴官のネームバリューにはそれだけの価値はある」
「……小官は1パイロットに過ぎません。過分な評価かと」
流石に地のキャラではなく、堅い感じで言葉を発するムウ。どうにも本音は聞き出せそうにないが。
「そうかね。私は貴官を買っているのだがな。できれば我が軍に引き抜きたいほどには」
「張り子の虎ですよ、小官は。たいそうな二つ名も、敗戦を誤魔化すためのプロパガンダにすぎません」
「だが生き延びた。無難に100の勝利を重ねた兵よりも、惨敗を生き延びた上でまだ立てる兵の方が価値があると、私は考える。実際に矢面に立っている人間からすれば、失礼な話かも知れんがね」
俺の言葉にムウは困ったような表情となる。まあ、俺があえて反応しにくい言葉を選んでいたというのもあるだろう。こんな状況でスカウトじみた真似なんか、普通せんからな。
む、ナタルが睨むような視線をこちらに向けているな。彼女としては裏でこそこそやっている中立国とは名ばかりの国家の人間が何を言うか、とでも言いたいのだろう。流石にここで食ってかかるほど無謀ではないようだが。
マリューの方はと言えば、所在なげに視線を彷徨わせているだけだ。原作のように修羅場くぐってないせいか、さほどの度胸はないようだ。いずれにしても彼女らからは有効な情報を聞き出せはしまい。
ふむ、あまり深入りはできなさそうだ。
「ともかく貴官を買っている人間がいる、というのは覚えておいて欲しい。いずれ何かの役に立つかも知れないしな」
「は、心に留め置きます」
「補佐官、そろそろお時間です」
「む、そうか。……では名残惜しいが、この辺りでお暇させていただこう。よき航海を祈っているよ」
「それでは失礼いたします」
飲み干したカップをダストボックスに入れ、敬礼する三人に見送られながら俺達は踵を返し、その場を後にする。
しばらく歩いて距離を取ってから、リシッツァが口を開く。
「もう少し探りを入れるつもりだったのでは?」
「あの様子だと、そう大した話は聞けそうになかったからな。ショートカットの士官を見たろう、警戒心の塊だった」
「それは当然、下手をすれば敵に回すかも知れない相手ですもの。警戒はしますでしょう」
「取り繕うぐらいはして貰わないと。しかしこれで一つ分かったことがある」
「なんですの?」
その問いに、俺はすぴしと人差し指を立ててみせる。
「ハルバートン提督周りは、
本来よりも酷い目に遭っていないせいだろうが、荒んだり落ち込んだりしている様子はない。だからと言ってそれがいい方向に向かうとは限らないけれど。
「敵に回ったら厄介かも知れんな。だが下手な小細工もできん。そもハルバートン提督は連合じゃ珍しい理性的な人物だ。できれば敵に回したくないもんだ」
「そう思ったようにいかない世の中ですものねえ」
肩をすくめるリシッツァ。全くもってその通りだよ。
さて、彼らはどのような役割を果たすことになるやら。できれば戦場で相まみえることがなければいいが、何がどう転ぶか分からん。いざというときに、引き金を引くのを躊躇わないくらいの覚悟は決めておこう。そう思った。
※他者視点
敬礼してリョウガを見送ってしばらく。ふう、と息を吐いてムウは力を抜いた。
「……ビビったぁ。あんな大物が出てくるとは思わなかったよ」
割と図太い神経をしてるムウだが、さすがにリョウガとの遭遇は予想外であったようだ。事故とは言え領空、領海への侵入だ。取り調べじみた捜査は入ると思っていたが、最後の最後で国の重鎮が出てくるなんて予想がつくものか。
もっともリョウガからすると、アークエンジェルのクルーとの遭遇は、ラクスとの面会のついでみたいなものであったが、そこまではムウに分かるはずもない。そも彼らは一緒に落ちてきた降下船にラクスが乗っていたなどと欠片も思っていないのだから。
ムウたちは艦長らの具合を確認し、今後の方針を相談しに来たわけなのだが、それが終わって駄弁っていたらばこれだ。不意打ちというのも過言ではない。
「あれがオーブの龍と呼ばれる方なのね。言っては何ですけれど、意外に普通というか……」
驚きはしたものの、気圧された様子のないマリュー。修羅場をくぐっていないせいか、彼女の感性はさほど研ぎ澄まされていないようだ。
その逆というか、順調に軍人としての鍛練を積んできたナタルはと言うと。
「『大人しくする演技』くらいはできるということでしょう。噂が本当であれば……いえ、話半分としても相当の人物ですよ」
その言葉にはどこか刺々しいものがある。ムウは片眉を上げた。
「おや、中尉は彼のことがお気に召さないようだな」
「色々と後ろ暗い話のある人物ですから。それに……」
「それに?」
「……いえ、個人的に好きになれない人物だと思っただけです」
言葉を飲み込む。
はっきり言ってしまえば、ナタルはリョウガの、
軍人として、己に与えられた任務を完遂するのが本分と考えているナタルだが、オーブに関してはどうにも感情的な部分が揺り動かされる。彼らのおかげで今の戦況が成り立っているという事実を踏まえても、嫌悪感じみたものを覚えずにはいられなかった。
「珍しいわね。ナタルが他人の事をはっきり嫌うのは」
数少ない女性の士官同士と言うこともあって、マリューとナタルはそれなりに友好的な関係であった。少なくともマリューは呼び捨てにするくらいには心を許している。
「私も、人間ですから」
小さく苦笑して言葉を返す。マリューは基本的に善性の人間で、割と感情が顔に出るタイプだ。感性としては普通の人間寄りだが、軍人としてはいささか人が良すぎる。それが好ましいと思う部分もあるが、リョウガのような輩に警戒心を抱かないのはどうにも危うい。なんか騙されそうな気がする。
(あのような輩と関わり合いにならなければ良いのだが)
正直自分も関わり合いになりたくないのだが。ナタルは心の中でため息を吐いた。
さて一方。
「海風とはもっと爽やかなものだと思っていましたわ」
「何事も実際体験しないと分からないものさ。俺も海は慣れてないけれどね」
ザフト艦隊旗艦の甲板上で、海風に目を細めるのはラクス。そしてその隣に立っているのはアスランだ。
アスランからすると、今回のことは色々目まぐるしかった。極秘でラクスが地球に訪れると聞いた後すぐに戦闘に巻き込まれたという報が入り、よりにもよってオーブの領海内に落ちたと聞いたときには卒倒しかけた。幸いにして無事合流することができたが肝を冷やしたどころではない。寿命が縮まった思いであった。
ラクスの方はと言えば、割とハードな目に遭ったというのにのほほんとしたものだ。気丈に平気なふりをしているのかも知れないが。
今周囲には人影もなく、二人きりの状態だ。バルトフェルドとハイネが気を遣った結果である。
「それにしても、見違えましたわねアスラン」
「バルトフェルド隊長にしごかれてるからな。それに地球は24時間重力がかかりっぱなしだ。鍛えられもするよ」
すっかり日に焼け、どことなく逞しくなったように見えるアスラン。実際にバルトフェルド隊にて鍛練を重ねた彼は、相当に実力も向上していた。
「地球に来たのは本意じゃなかったが……今になっていい経験をしたとも思う。プラントからじゃ見えないことも見られたしな」
「色々と出会いもありましたでしょう? 例えば、リョウガ・クラ・アスハ氏とか」
ラクスの言葉にアスランは眉を顰める。
「君も彼と会ったのか」
「ええ、お気を使わせてしまったようで。……アスランはあの方をどう感じました?」
「大した人物だよ。俺達を利用しようとすればできただろうに、それをしなかった。良心に従ったのではなく何かの考えがあってのことだろうが、それでもほぼペナルティなしで解き放つなんて中々できることじゃない」
「懐の深い人物……なのでしょうか」
ふと考え込むような様子を見せるラクス。それを見たアスランは問うた。
「何か気になることでも?」
「わたくしの気のせいかも知れませんが……リョウガ氏はどうにも、
直感か、あるいはラクスもリョウガの腹を探っていたのか。彼女はリョウガの内心を、一部ではあるが察しているようであった。
「評議会議長の娘だから、じゃないのか?」
「そうかも知れません。ですがあの方は、そんな立場で人を見るような方でしょうか。わたくしは違うように思うのです」
「それならば余計に分からないな。『ただのラクス・クライン』を、かのオーブの龍が警戒する理由が思い当たらない」
むう、と考え込むアスラン。当然ながらラクスにも分かるはずがなかった。自分のことはマルキオ導師から聞いているだろうが、それが理由とも思えない。
(リョウガ氏は、
リョウガの考えも、いや何もかも知らないことが多すぎる。まずは見て、知ることから始めていかなければ。
僅かではあるが、少女は一歩目を踏み出しつつあった。
※再びリョウガ視点
「……え~、悪い。もう一回言ってくれるか?」
スカンジナビア王国に滞在しているユウナからの連絡。その中で出た話題に関して、俺は思わず問い直していた。
「だよねえ耳を疑うよねえ。僕だって聞き直したさ」
ものすごく疲れた声のユウナ。交渉が芳しくないときとかこんな感じになるが、今回はいつにも増して脱力している感じだ。
受話器の向こうでため息を吐いて、ユウナは言葉を発する。
「信じたくもないだろうけどもう一回言うよ。
しばしの沈黙。そして俺は口を開く。
「誰が」
「
「誰と」
「スカンジナビア王族の姫君と」
しばしの沈黙。そして。
「はあああああああ!!??」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまった俺は悪くないと思う。
水星の魔女、どんな話になるのかな?
大体格好いいMSが出てきたら許すが鉄血の二の舞はかんべんな。捻れ骨子です。
はいアークエンジェル周りとラクスその後の話~。……と思わせておいて最後に爆弾投下ァ! うん、原作であんまり絡んでこなかったスカンジナビア王国を巻き込みたかったからこのようなことに。まさかこう来るとは思うまい。俺もこの間まで考えてなかったわ。(無責任)
もちろんスカンジナビア王国は独自設定という名の魔改造が施されます。中立で王制というだけでどんな国かよく分かりませんでしたからねえ。つまり好き勝手やって良いと言うことだな。(待て)
最低ででもオリキャラは出るはずです。さあどこから引っ張ってくるのかこうご期待。……って、ホントにガンダムの話なのか、これ?
ともかく今回はこの辺で。またの機会をごひいきに。