オーブにもたらされた俺の見合い話は、上層部に混乱をもたらした。
緊急で開かれた首長の会合では、皆が喧々囂々と意見を交わしている。
「正気かスカンジナビアは」
「いやリョウガ殿の外面に騙されてるんだろう」
「顔は良いからな顔は」
「だが中身知ったら拒絶じゃすまんぞ。賭けてもいい」
「詐欺罪で訴えられるかもな」
「だがユーラシアにおけるスカンジナビアのコネクションは美味しい」
「……どこまで騙す?」
「最低でも婚礼の時まで保たせられれば、なんとか」
「身内にさえしてしまえば、後はリョウガ殿の手腕か」
「……あれ? スカンジナビア手中にできるんじゃね?」
「最低でも見合い相手の家は取り込むことができよう」
「「「「「よしリョウガ殿、見合い相手コマしてこい」」」」」
「あんたらな」
頭が煮えているのかとんでもない方向に話が突っ走ろうとしていた。俺は額に青筋が浮かんでいるのを自覚しつつ言う。
「現実逃避したいんだろうが、そう簡単にいく話じゃなかろう。向こうだってあの立地の中、中立を保ってきた狸だ。十中八九俺がどんな人間か知ってて話を持ち込んできたんだろうさ」
俺もスカンジナビアの正気をちょっと疑ったが、冷静さを取り戻せば、向こうもそれなりの考えがあってのことだと推測できる。
俺の人格はともかく功績と能力は買っているようだ。その上で『鈴を付けたい』と見える。見合いが上手くいくかどうか以前に、それを口実として俺と親しい間柄を作り、ついでに動向を監視できればと思っているのではないだろうか。あるいは上手くいけば儲けものと考えているかも知れないが。
「うちも王制に近いと言えば近い。色々と思うところはあるが妥協してもいい、くらいには危機感を覚えているんだろうさ」
国家の体制よりも現在の危機を乗り切ることを優先とした、そう言う考えかと思える。まあ見合いの相手は王族の『本家』ではなく末端の『分家』に近い血族のようだ。流石に本格的な血縁の繋がりは躊躇したらしい。
「俺個人としてはあまり受けたくない話ではあるんだが、さっきも誰かが言ったとおりユーラシアのコネクションに食い込むことができれば旨い話だとも思える。……
俺の言葉に首長連中は眉を顰めた。スカンジナビアが現在向かい合っている危機。そのことを思い出したようだ。
原作でもスカンジナビアは連合の圧力に屈した。裏ではオーブ……というかラクス一行に協力していたようだが、その動きが大幅に制限されたことには違いない。現状でも彼らが連合に屈すれば、オーブにとって戦力の低下にも等しい。
だからと言って下手な介入をすれば、連合はそれを口実にオーブへとちょっかいをかけてくる事は目に見えている。今回の見合い話を彼らがどう見るか。そういったことも考慮に入れねばならなかった。
話を聞いていた親父殿が、ふむと鼻を鳴らす。
「簡単に乗っていい話でもないが、突っぱねるというのも上手くはない、か。……して、お相手の姫君はどのような人物なのだ? ユウナ特使」
親父殿に促され、一時帰国しているユウナが応える。
「見た目は見目麗しいお嬢様ですよ。内面はその、まあ……大変乗り気だったというところから察して欲しいですね」
困ったような表情で言葉を濁す。ユウナをしてそう言わせると言うことは。
「つまり、リョウガと同じような毒劇物か」
「僕の口からはよく言えませんが」
「あんたらな」
自覚はあるが人から指摘されるとむかつくな。それはともかく、どうやらお相手も一筋縄ではいかないようだ。まあ俺との見合いに乗り気という相手だ。まともじゃないとは思うが。
「最低でもリョウガの見てくれに騙されるような人間じゃないし……口車も通用するようなタマじゃなさそうですよ。逆に考えれば……というか正直パートナーとして考えたらうってつけかも知れません」
「……それ、リョウガが2人になる、と同義ではないのか?」
親父殿の言葉に、首長連中がびき、と固まる。そしてぎぎぎと軋むような動きで視線をこっちに向けた。
「「「「「やめて」」」」」
「あんたらな。ホントにな」
そんなに俺みたいな人間が増殖するのは嫌か。自分で考えても嫌かもしれんとは思うがもう少し取り繕えよ。
と、そこでため息が一つ。発したのは
「問題は、あるかも知れん。だがユウナ特使の見立てが確かであれば、使い方を間違えなければ有益な人間だと言うことだ。この話、ある程度は進めておくべきと愚考するが、いかに?」
次いでウナトが口を開く。
「こちらとしても有能な人物であれば、欲しい。リョウガ殿を押しつけ……げふんげふん、サポートできるような人材が増えれば、負担も軽くできるだろう」
おいちょっと本音が漏れそうになってたな? とは指摘しない。実際俺も使える人材は欲しい。チヒロやリシッツァ、その他の連中も頑張っているが、やはり負担は大きいのだ。幾ばくかの仕事を押しつけられるのであればと思わなくもない。
ユウナを困らせるほどの者が無能とも思えんしな。引き入れることができればオーブの力になる。が、俺と比肩するかも知れないほどの毒劇物だ。使いこなせなければ、逆にオーブの害となろう。
2人の言葉に、一同はむう、と唸って考え込む。
リスクとメリットを天秤にかけているのだろう。蓋を開けてみなければ分からない部分も多いが……静観だけはできない。仕掛けたヤツ、かなり分かっているな。さすがは生き馬の目を抜く環境の中で生き抜いてきただけはあるか。
「……やはり気は進まないが、受けてみるしかないだろうな」
俺の言葉に、一同が再びざわめく。ユウナが肩をすくめながら問うてきた。
「腹を決めた?」
それに対して俺はにやりと笑ってみせる。
「食うか食われるか、ってところだな」
やると決まったら、次は情報収集だ。俺は自分の執務室にユウナとカガリを呼び出し話を聞くことにした。
「【クリス】のことか? ……う~ん、良い奴だとは思うんだが」
問われて困ったような表情を浮かべるカガリ。クリス――【クリスティーヌ・ティアナ・アストリア】。スカンジナビア王家の末席に属する一族、アストリア家の姫君で、御年18才。俺のお見合い相手(予定)は、どうやらカガリにかなり接近していた様子だ。
「随分と親しくなったみたいだな」
「なんかぐいぐい来るタイプで、気がついたら名前呼びする仲になってた。私とは別な意味でお嬢様らしくないというか。……お忍びで買い食いとかにも連れ出されたし」
ふむ、カガリのキャラに引くどころか距離を詰めるか。将を射んとすればと考えたのか、それとも単純に波長が合ったのか。
……割と後半もあり得るからこえーわ。知識や技能と人格は一致しないもんだからな。ましてや俺と見合いしようって話に前向きな人間だ。素でカガリと仲良くなってもおかしくはない。しかし。
「何か気になることがあると?」
「気になるというか、あいつの周囲がどうにもよそよそしいというか、腫れ物を扱っているような感じを受けた。なんとなく雰囲気的な物なんだけど」
カガリの勘はたまに鋭い。そういえばこいつSEED持ちだったな。となると件の姫君、国元でも持て余されているということか? 益々ただ者じゃない疑惑が膨れ上がってくるんだが。
「ユウナ、お前さんから見てどう思った。さっきみたいな誤魔化しはなしだ」
ユウナに話を振って見せたら、彼は小さくため息をついた。
「表向きはテンション高くて疲れる。裏はどうにも事情が面倒くさそうで疲れる」
そう言って、懐からメモリーカードを取り出した。
「彼女の経歴と、家の周りの事情をこっちで調べさせた。参考にしてよ」
「おう、助かる。……その様子だと、振り回されたか?」
「カガリを出汁に近づいてきて、根掘り葉掘り質問攻めだよ。おまけに買い食いに連れ出されて財布のお役目さ。物怖じしないにもほどがある」
結構辟易したらしい。お忍びとはいえ他国の特使をいいように扱う。図太い神経のようだな。
と、ユウナが何かを思い出したように口を開く。
「そうそう、胸はリョウガ好みで大きめ」
「待てやコラ」
確かに嫌いじゃないが堂々と宣ってないぞ俺は。まずそこで人は見ねえよ。
「え? だってチヒロ嬢とリシッツァ嬢侍らしてるじゃん。二人ともご立派じゃん」
心底不思議そうに言うユウナ。こいつ嫌がらせとかじゃなくてマジか。
「別に胸の大きさであいつら採用してねえよ。有能なの引っこ抜いたら大盛りだっただけだっつーの。お前ら俺らをどう見てんだ」
「そろそろ爛れた関係に移行するんじゃないかってもっぱらの噂だよ?」
「本人たちの知らない間に外堀埋めようとすんなや」
締まらねえなおい。最後の最後で抜けた会話を交わす俺らを、カガリが「不潔だ……」とか呟きながらジト目で見てる。まだあいつらと不潔なことしてないし今のところするつもりもないわ畜生。
……まあしかし、そういった雰囲気は
数日後。オーブの某所にて、俺の見合いは密かに執り行われることとなった。
「展開早くありません!?」
「かなり無茶言ったら、向こうが全部飲みやがった。件の姫様をガチで押しつけようと考えてるんじゃなかろうな」
うん、時間がないから1週間以内、警備の関係で
まあいい、時間はなかったがそれなりに用意もした。流石に命の取り合いにはならんだろうが警備にも念を入れさせて貰ったし、大概のことには対処できる。人事は尽くした。さて天命がどう向くやら。
「ですが本当によろしいんですの? 我々が同席して」
俺の左隣を歩くリシッツァがそう問うてくる。右側を歩くチヒロも似たような表情だ。そう、俺は相手の出方を見るために、彼女らを見合いに同席させることにした。
「構わんさ。俺のことを正しく理解しているのであれば、何らかの思惑があると勘ぐってくれるだろう。色ボケとみるんなら、それまでのことだ」
まあ侮ってくれるようなことはないだろうがな。事前に側近を同席させると通達しているが、俺のこと知っているならこの2人を連れてくると予想できるはず。分かった上でどう出るか、だ。
「さて鬼が出るか蛇が出るか、ご対面といこうじゃないか」
警備を兼ねた控えの者が恭しく部屋の扉を開け、俺達は中に足を踏み入れた。
待ち構えていたのは、控えめなドレス姿の女性。ボディーガードらしい黒服を左右に従え、その女性は優雅に一礼した。
「お初にお目にかかります。クリスティーヌ・ティアナ・アストリアにございます」
「これはご丁寧に。リョウガ・クラ・アスハと申します。まずはそちらにおかけください」
俺の左右の2人を確認しているはずだが、特に何の反応もなく普通に挨拶を交わす。ここまでは予想の範疇である。
お気遣いありがたくと返して席に着く女性――クリスティーヌ。確かに見た目は極上だろう。左右の2人と比べ少し幼げに見える容姿は可憐であり、立ち振る舞いに上品さが見て取れる。その見てくれの中に何を秘めているのか、はてさて。
「このたびは無理を言って都合を付けていただき、感謝しております」
「こちらこそ無理難題を言って申し訳ない」
互いに頭を下げるところから始まった。そこから当たり障りのない会話。まだジャブの打ち合いですらない。
ややあって、仕掛けてきたのはクリスティーヌ。
「……そちらのお二方のこともよく存じております。リョウガ様の懐刀二人。噂は耳に届いています」
ふむ、そう踏み込んでくるか。俺に答えを返す間を与えずに、クリスティーヌは続けた。
「まるで東洋に伝わる将棋という盤上競技の……え~っと確か、金角銀角? でしたか?」
クリスティーヌの言葉に、チヒロとリシッツァが僅かに身じろぐ。条件反射的にツッコミを入れそうになったのだろう。
「……ひょっとして金将銀将のことでしょうか」
「そうそう、それです。まるでそのようだと」
素ボケか話のネタか判別つかんな。
「優秀な、自慢の両腕ですよ。彼女らがいなければ今の私は成り立っていない」
「まあ、素敵な。こちらは優秀な人材を中々引き抜くことは難しいので、羨ましくも思います」
わざと誤解を生むような発言をしても動じる様子はない、か。かなり正確に俺達の関係性を理解しているようだ。
……と思っていたら。
「それで結婚後は愛人として収まる方向で? それとも養子縁組という形で家名を同じくする感じでしょうか」
待てや。
「……いきなり何のお話でしょうか」
「ああ、申し訳ありません。事を急ぎすぎました」
思わずツッコミ入れそうになるのを何とかこらえ、すっとぼけて見せたら、向こうさんは申し訳ないように居住まいを正して言い直す。
「手を出していないのなら、今のうちに手を出しておいた方がよろしいかと」
「そうじゃないです」
おい斜め上の方向にぶっ飛ばし始めたぞこの人。左右の二人はツッコミ以前に唖然とした顔をしている。俺だって意識飛ばしかけたわ。
そんな俺らの様子など知った風ではなく、クリスティーヌは畳みかける。
「これは真面目な話です。そちらのお二人が優秀でありリョウガ様の腹心であることは百も承知。ですが人間何がきっかけで心が動かされるか分かりません。生き馬の目を抜く世の中、今の環境が良いからと言って油断はなりません。末永く手元に置いておきたいのであれば今までとは違う絆の形、具体的にはにくよ……こほん、情で縛り付ける、と言うのも有効な手段だと思うのですよ」
肉欲って言いかけたか? 今肉欲って言おうとしたな!? 至極真面目な顔で何言っちゃってんのこの人!? もう俺の頭からはチヒロとリシッツァを出汁にして相手を揺さぶる、なんて策はすぽーんと抜けている。つーかそれどころじゃねえ。
ああ分かった、なんでユウナが詳しいこと言わない……
素ボケでもわざとやってるにしても、難敵じゃねえかこの女ァ!
なんか久しぶりにオリキャラ設定
クリスティーヌ・ティアナ・アストリア
スカンジナビア王国王家の末席に位置するアストリア家のお姫様。リョウガのお見合い相手。
愛らしい容姿をしているが、その中身はご覧の通り。押しが強くぐいぐいと踏み込んでくるタイプで、リョウガをもドン引きさせる言動を取る。これから先どこまで行くか全く方向性が見えない人物。ある種リョウガの天敵。
外観のモデルはゲーム【プリンセス・コネクト!Re:Dive】の【ペコリーヌ】。もちろん巨乳。
最近仕事が増えててんてこ舞い。目も回るような忙しさです。
しかし給料は増えない。超過勤務手当もらえるだけでありがたい……それは当たり前だよ!
最近社畜の安寧に毒されつつあるような気がする捻れ骨子です。
さてやっとの事で更新ですが……どうしてこうなった。いやペコさんモデルのキャラにするつもりではあったんですが、なんでリミッターないのこの人。おかしい筆が滑ったにしても走りすぎだよ。これもワクチンの副反応か。(風評被害)
冗談はさておき、なんか筆者にもコントロールできなさそうなお姫様が爆誕してしまいました。この先どうなってしまうんでしょうか。オラもう知らね。
とまあ、かなりの不安感が漂っていますが、今回はこの辺で。
次回以降ホントどうなってしまうんやろか……。