ガンダムSEEDが始まらない。   作:捻れ骨子

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20・どうしたもんだかと言わざるを得ない

 

 

 

「……落ち着かれましたか?」

「うう、良い考えだと思ってるんですけどぉ……」

 

 のしかからんばかりの勢いで俺に詰め寄ってきたクリスティーヌを、おつきの黒服と共に何とか宥めた。黒服のサングラスの奥、その瞳は酷く疲れたものだった。そっか~、大体日常茶飯事なんだ。俺は何かを一つ諦める。

 宥められてしょんぼりと肩を落とすクリスティーヌ。だが聞き逃してねえぞ、『思ってる』っつったな? 考え改めてねえな諦めてねえな!? ちっとも油断ならねえぞこの女。

 ……仕方がない、ペース掴むためにも『斬り込む』しかねえか。

 

「そう言う話はひとまずおいておきましょう。……いや、貴女にはもう少し『素』のほうがいいか」

 

 語り口を変える。手を組んだ姿勢で俺は問うた。

 

「単刀直入に聞かせて貰う。この話、()()()()()()()()()()だ?」

 

 睨むように視線を向ける。さすればクリスティーヌは――

 特に動じるでもなく、こてんと首を傾けて、ん~と僅かに考えてから口を開いた。

 

「半々、ってところでしょうか」

「国の思惑と貴女の思惑が合致した、と言ったところかな?」

「そんなところです。もう言うまでもないと思いますけれど、我が国の思惑は生存戦略。現状の血統を重視した国の継続という方針を多少なりとも転換しなければ、今後生き残るのは難しいと判断した派閥があります。その思惑に便乗させて貰った次第で」

 

 大体が俺達の予想したとおりだ。しかしこの子もぶっちゃけるなあ、今回の話を進めたのが『一部の派閥』だって事を隠しもしてない。その通りなのか国がそう思わせたいのか、いや十中八九スカンジナビアも一枚岩ではないと言うことだろう。それをさらりとさらけ出せる。並大抵の胆力じゃない。

 と、クリスティーヌがすぴしと人差し指を立てて、いたずらげな笑みを浮かべた。

 

「ちなみにアストリアという家自体が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だったりするんですよね。それをオーブに置いて保険をかけたいと言ったことも考えてますよ」

「……国家機密だろうそれは」

 

 またぶっちゃけたなおい! 彼女が言ってることは、要するに他国の王族の血を取り入れて、万が一の場合その国の血統を主張し介入する用意があると言うことだ。旧EU域で混乱が起こり、主権がぐちゃぐちゃになったときとかな。そのために用意されたのがアストリアという一族と言うことだ。

 普通に言っちゃダメな領域である。スカンジナビア王国の切り札とも言える話なのだから。それをさらけ出したと言うことは、()()()()()()()()()()()()()()()ということだな!? 胆力すげえどころじゃねえぞ!? 

 内心戦慄を覚える俺。クリスティーヌは話を続ける。

 

「つまり国のもう一つの思惑は、『アストリアの人間をオーブに保護して貰う』というものです。一応アストリアもスカンジナビア王家の血統。国に何かあればそれを理由にオーブの助力を願うこともできるだろうと。……まあオーブ自体に影響力を持ちたいという考えもあるんですが」

 

 ……ここまで俺にぶっちゃけることも、スカンジナビアは計算に入れているようだな。単純に持て余しているわけではなく、俺に当てられるだけのアクの強い人間だから、か。

 俺は一息吐いて口を開いた。

 

「抜け目がないな。スカンジナビアという国も、貴女も」

「でなければ生き延びられませんから。……私の事情も、大体分かっているのでしょう?」

「ああ、調べさせて貰った。100年に一度の天才。陳腐だがそうとしか言いようのない経歴だな」

 

 うん、ユウナが調べ上げた彼女の経歴は、簡単に言えばびっくり人間大賞だ。学業、知性に関してはかなり優秀と言った程度だが、そのフィジカルが桁違いだった。数多のスポーツで上位の成績を収め、非公式だがレコードホルダーも一つや二つではない。軍事訓練すらも受け、そして相当な結果を出している。コーディネイターである疑いもあったが、彼女は紛れもないナチュラルだ。

 あるいは彼女に流れる各国の王侯貴族の血が、何らかの形で作用しているのかも知れない。俺のような反則技(転生)とは違う、紛れもない天賦の才。それが表に出ていなかったのは、アストリアという一族があまり表沙汰にしたくない存在だからだ。何らかの功績があっても、それは隠蔽されてしまう。

 そして成績では計れないこの強かさ。なるほど、この子の思惑もなんとなく読めてきた。

 

「貴女は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということか」

「そんなところです」

 

 得たりとばかりににっこり笑う。

 

「アストリアはその特異性から、表に出てこられなかった一族です。基本王侯貴族の血筋を収集するために存在し、政にも関わることができなかった。そんな中で、私のような『異物』が出てきたらどうなると思います? 正直、窮屈でしかありませんでした」

 

 色々口を出されたり叩かれたりしたこともあっただろう。アストリアという家、そしてスカンジナビアという国は、クリスティーヌにとって狭すぎたのだ。

 

「飼い殺しのまま一生を終えるなど勘弁。私は常々そう思っていました。アストリアという一族の在り方に不満を覚えていた人たちと接触し、主流派ではない派閥の思惑に便乗したのは、国から解き放たれたかったという、ごく個人的な理由です。……貴方になら、理解してもらえるかと」

 

 俺と違う理由ではあるが、個人的な思惑を元に国を利用したという点では似たようなものだ。確かに理解は出来る。

 ふん、と俺は鼻を鳴らした。

 

 

「国の機密、そして貴女の事情。聞いたからには……と言うことでもないだろう。あくまで私にどうするか判断を委ねるつもりか」

「ええ。お見合いという話よりも、私という人間を受け入れてくれるかどうか。国としてはどういう形にしろ貴方と繋がりを持ち、なおかつ監視しておきたい。そして私は己の才を生かしたい。こちらの事情をお話ししたのは、誠意であり打算でもあるというわけです」

「婚約という形でなくても構わない、ということかね」

「あ、できれば婚約だと嬉しいですが。嫁に行きたいというくらいには好意を抱いてますよ?」

「私の実情をそれなりに知っていてそれが言えるとは、中々図太い」

「そちらの二人を愛人として認めて良いというのもガチです」

「それはいいから」

 

 隙あらばそういう話をねじ込んでこようとするのはやめなさいつーの。何がこの子をそこまでさせるんだ。俺は愛人あてがってなければならないほど股間が緩い男だと思われてんのか?

 しかし……とんちきな面を差し引けば、頭の回転も悪くないし度胸もある。同時に油断のならない人間と言うことでもあるが、スカンジナビアに情報を流す伝と考えれば側に置いておく価値もあるか。

 この子をどう扱うべきか思案し始めたところで、隣のリシッツァがぴくりと反応した。

 

「失礼いたします」

 

 席を離れ、部屋の入り口付近で呟くように襟元のインカムへと語りかける。それから部屋の扉を少し開け、外の護衛と何やら会話を交わした。

 そうしてから彼女は戻ってきて、俺の耳元でささやく。

 

「リョウガ様、()()()に引っかかった獲物がいるそうですわ」

「……ほう?」

 

 俺は僅かな驚きを覚えた。実はこの見合いを行うに当たって、俺は会場となったホテルの警備にわざと『穴』を作らせた。これは見る者が見ればあからさまな罠だと分かる程度のものだ。

 実際このホテルは従業員から何からCSSの者か本格的な訓練を受けた人間で構成されており、本当に罠として機能する。いかにも罠を張っているぞと見せることによって、逆に手出しを躊躇わせるようにしたわけだが……本気でそれに引っかかった馬鹿でも出てきたというのか?

 最低でもオーブ内部の者じゃないな。今のオーブでそう言う馬鹿は勢力を保てない。何か企みがあっても実力行使に出るような間抜けを曝せば早々に潰されると、皆骨身にしみて理解しているからだ。実際やったし。

 であれば外。大西洋辺りか? スカンジナビアとの関係強化に危機感を覚えた一部が動いた可能性はある。ここまであからさまな罠に食いつくような馬鹿をやらかす……かも知れんなあ。何しろこの世界だ。斜め上に最悪な行動を取る輩は枚挙に暇がない。

 そんなことを考えていたら、クリスティーヌが少し眉を寄せてこう尋ねてきた。

 

「もしかして、襲撃でもありました?」

「……なぜそうだと?」

 

 リシッツァの言葉は聞こえなかったはずだ。勘にしても鋭い。何か心当たりでもあるというのか。

 果たしてクリスティーヌは、困ったような表情で応える。

 

「実はですね、こちらに赴く前に、リョウガ様との見合いをやめろ、さもなくば殺す。ってな感じの脅迫電話を受けまして」

「おいちょっと待て」

 

 思わず本気の素でツッコミを入れてしまう俺。

 

「なんでそう言う大事なことを黙ってるかな貴女は」

「こういった脅迫は結構何回も受けてますので。今までは実力行使に及ばないブラフ(はったり)ばっかりでしたから、今回もてっきりその類いかと」

「どういう人生を送って……()()()()()()か」

 

 邪魔に思う人間も多くいた、ということだろう。それをはねのけ己を通してきた人間だから気にも留めなかったと言うことだ。今回はそれが裏目に出たか。

 つまり狙いは彼女と俺。あわよくば双方を一網打尽にできればと考えたらしい。ふん、嘗められたものだ。

 ……丁度良いかもしれんな。このクリスティーヌという女性の肝がどこまで据わっているか、見極めるのに好都合だ。

 

「……リシッツァ。丁重にお出迎えして差し上げるぞ。俺も出る」

「は? いくら何でもふざけてます? わざわざ罠に飛び込んでくるようなボーナスチャンスごほん、木っ端の相手を貴方がする必要もないでしょう」

 

 自分の手柄にしてボーナス狙ってたらしいリシッツァ。気持ちは分かるがな。

 

「たまには動かんと体が鈍る。それに良いストレス解消の相手だ。日頃の鬱憤を晴らさせて貰うさ」

 

 そう言って腕を振るう。さすればかしゃりと小気味良い音を立てて、袖口から小型のフルオートハンドガン(マシンピストル)が飛び出してくる。

 

「あー! 本気でそんな物仕込んでこの人は!」

「リシッツァリシッツァ」

 

 俺に小言を言おうとするリシッツァに、チヒロが声をかけた。

 

「言っても無駄だと思います。それに……我々のお給料、この人が握ってるんですよ?」

「フ●ック! なんて時代かしら!」

 

 何かを諦めたかのようなチヒロの言葉に、口汚く吐き捨てるリシッツァ。いいじゃんかロマンなんだから。

 と、クリスティーヌがくすりと笑う。

 

「いい空気の職場ですね」

「笑顔の絶えないアットホームな職場だよ」

 

 即座にそう返してやれば、チヒロとリシッツァは揃って青筋立てた笑顔になる。

 

「「ええまったく!」」

 

 同時にそう吐き捨てて、まずリシッツァがビジネスバッグからメカニカルな弁当箱のような物を取り出し、がしゃっと変形させる。FPG(フォールディングポケットガン)。折りたたみ式のサブマシンガンだ。なんだかんだ言ってロマン分かってんじゃねえか。

 チヒロの方は、タブレットを取り出しインカムを付けている。

 

「ホテルのメイン電源とダミーは落とされて、ジャミングが展開されています。秘匿回線と各所の隠しカメラ、センサー類は無事。当方の援軍は10分で到着する予定ですね。相手は分隊規模で散開し侵攻。先行している者たちがこちらに向かっています」

「先行の連中とは8階辺りで鉢合わせるか。残りを5階のパーティ会場に誘導するようオペレートを頼む」

 

 言いながら両手の銃のマガジンをイジェクト。普段ならマガジン一つ分は手加減し(ペイント弾使っ)てやるんだが、客人がいる以上サービスはなしだ。2つの銃を右手でひとまとめに持ち、懐から取り出した実弾入りのマガジンを装填。両手持ちに戻してそれぞれ親指をフロントサイト辺りに引っかける形で片手スライド。初弾をチャンバーに送り込む。

 

「クリスティーヌ姫。貴女がたはこちらで待機を――」

「いえ、私たちもお手伝いします」

 

 そう言ってクリスティーヌはばさりとスカートを翻し――

 一瞬の早業で、隠し持っていたらしい銃を引き抜いていた。

 ……ってでかっ! デザートイーグルくらいあるハンドキャノンじゃねえか! 女性が隠し持つようなもんじゃないぞ!?

 目を丸くする俺を見て、お付きの黒服の一人が懐から銃(普通)を取り出しつつ、疲れたような様子で言う。

 

「申し訳ありません。うちの姫は襲撃に対する反撃が過激でして」

「脅迫はブラフって言ってなかったか?」

 

 そう問うてみれば、クリスティーヌはふふんとドヤ顔で言ってのける。

 

「今まで本当に襲撃してきた人は、脅迫なんかしませんでしたから」

「貴女ね、ホントにね」

 

 いろんな意味でなんつータマだ。肝が据わってるどころかガンギマリじゃねーか。

 予定とか調子とか色々狂いまくるなまったく。こうなったらとことん付き合って貰おうか。

 

「ではクリスティーヌ姫。俺とツーマンセルで先行して貰おうか。リシッツァ、そちらの二人と援護を頼む。チヒロは護衛と共に後方からついてこい」

「承知しました。……ふふ、初めての共同作業というわけですね」

「そういうのいいから」

 

 ちょっと肩を落とす俺の後ろで、チヒロとリシッツァが何やらこそこそ話している。

 

「リョウガ様が振り回されるという大変珍しい光景を目にしているわけですが」

「やりますわね。今後の参考になるかしら」

「……あのキャラ、真似できます?」

「今更天真爛漫系のキャラ作りは、こう、きつい物があるかと」

 

 何を言ってんだ本当に。こいつらも調子狂わされてんな。

 ともかく俺達は準備を整え部屋を出る。俺とリシッツァ、護衛に選抜した連中だけでも十分な戦力だが、それにクリスティーヌを加えればどうなるか。未知数ではあるが……悪いことにはならないだろうという予感があった。

 と、隣を歩くクリスティーヌが、俺の顔をのぞき込むように見上げてくる。

 

「? 何か?」

 

 問うてみれば、彼女は意味ありげな笑顔でこう答えた。

 

「さっきまでの紳士的な様子も魅力的でしたけど……今の貴方もワイルドで格好良いですよ」

「……そりゃどうも」

 

 答えに窮して適当に返す俺。本当に、どうしたもんだかなあこの人。

 全く、調子が狂う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ちょっと風邪気味になったら、自分の鼻の奥から卵の腐ったような臭いがし始めてダメージ。
 鼻うがい頑張ってます捻れ骨子です。

 はい更新です。さてこのお姫様どういう背景とキャラクターにしようと考えた末、天真爛漫ガンギマリ勢という謎の生き物が爆誕してしまいました。いや原作に沿う形にしようとしたらなぜかこうなったんですおれは悪くねぇ。ほんとこのキャラクター筆者の意思を無視して勝手に動いてる感があります。そりゃリョウガさんも振り回されるよ。
 そして次回はガンアクションになりそうな予感がひしひしと。サバゲの参考にとジョン・ウィックの動画とか見まくってたせいではありません決して。おれは悪くねぇ2。プロットを構築しないで書いているとこういうことになります。良い子も悪い子も真似すんなよ。話がどっちに向かっていくかわかんないから。

 いつになったら本筋の話が進むんだよと自問自答しつつ、今回はこの辺で。 
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