さて今回の交渉だが、俺は一応声を変え、フェイ・クーロンとして対峙している。バルトフェルドと同様に隠蔽工作という意味合いもあるが、謎の投資家の情報を餌に、マティアスを釣り出したようなものだからだ。もっとも向こうも色々調べてるだろうし、こちらの正体が割れているのを前提としてこの席を設けている。裸一貫から一族に匹敵するコネクションを作り出した人物だ。舐めてはいない。
「早速ですけど、一族に関する情報が欲しい、とのことでしたわね。その前に一つよろしいかしら」
「ふむ、答えられることであれば」
「では単刀直入に。
ストレートに来たな。予想範囲内だが。
「我が手のものが、一族の存在を察知したのが10年近く前だ。それ以降かの組織を危険視し、その動向を追っている」
「我が手のものが優秀だった……というだけではない。どちらかと言えば、かの組織の防諜に『綻び』が生じたおかげだ。そしてそれは組織内で何らかの混乱が起こったせいだとみられている」
師匠やうちの諜報関連、リシッツァなどが分析した上で出した結論である。そしてその要因を、俺は予想できた。
「それとほぼ同時に頭角を現し、あっという間に一大勢力を築き上げた人間がいた。私と違い何の後ろ盾もなく、な」
調べればマティアスの事はそれなりに知れる。が、そこから一族との繋がりを見出すのは無理がある。そして俺はその理由を予想できても口にすることはできない。原作知識がありますからと言っても誰が信じるか。
だからこう言ってやった。
「
絶句したのだろうか、しばし無言が続く。
ややあって。
「……誤魔化してるとも、真実を言っているとも取れるところが難しいところね」
呆れたような声で言う。やはり俺という人間をよく調べているようだ。勘で乗り切ってきた部分があると知らなければ出ない台詞だからな。
「全てを語っても、逆に信用はできまい?」
「お互いに、ね。……いいでしょう。深く聞くのはやめておくわ」
「痛み入る。そちらにも事情があることは重々承知だ。だがそれを踏まえてなお、貴方からの情報が欲しい。手遅れにならないうちにな」
「よほど一族を危険視してらっしゃるようで」
「当然。彼らは我らが拠点に、しかも要人が逗留している時に襲撃を仕掛けてきた。見過ごせるものではなかろう」
クーロンズロック、オーブ。双方の意味を込めて言う。どっちにしても見過ごせないというのは理解できるはずだ。
「もっとも、一族からすればこちらの方が危険な存在なのだろうがな」
「その口ぶりからすると、一族の目的もご存じって事?」
「大したことは分かっていない。世界の調律者を気取っているという事くらいか」
「……ちょっと違うのだけれど、まあ大まかにはそんな感じね」
俺はもうちょっと詳しいけどな。そこまで言う必要もない。
「彼らの望むやり方と違う方法で、彼らの望む進路と違う方向に舵を取っている。面白くはなかろうさ。……と、そこまでは理解できるのだがな」
「あら? 何か疑問でも?」
「最近の彼らのやり方だ。一方で殺意満々かと思えば、もう一方で妙な気の使い方をしている。ちぐはぐというか、違和感がありすぎるのだ。だから情報を集めたかったという理由もある」
この間の襲撃における疑問点。俺の周囲の人間には手加減をしないが、俺本人は狙おうとしていない。そこのところが理解できなかった。まさか俺を生け捕りにするつもりでもあるまい。そうだとしても理由が分からん。マティアスとの交渉で、何らかのヒントでもつかめれば、そう思っていた。
いたのだが。
「……あ~……」
マティアスはなんというか、色々悟ったような、何かを諦めたような、力の抜けた声を漏らす。
なんかすごく嫌な予感がするんだけど。
「そこ突いちゃうかあ~……いや気づくわよねえ……」
シリアスな空気が、いきなりダメエアーになったような感覚。ものすごく迷っているようなマティアスの声がそれを加速させていた。
ややあって、マティアスは語り出した。
「……大まかにはそちらが予想している通り、一族がそちらのことを危険視して実力行使に出ているようなのだけれど……」
そこから何か、言いにくそうな気配。
「………………ここから先はアタシの推論も混ざっているし、とっても馬鹿馬鹿しい話になるのだけれど、それでも聞く?」
超迷うんですけど!? いや迷うけど、答え一つしかないじゃん。
「正直聞きたくはないところではある。だが聞かねば対策も取れないだろう。気は進まないだろうが、お願いする」
通信向こうから、微かなため息。そしてマティアスは話を続ける。
「現在、一族の党首は【マティス】という女性が務めているわ。彼女はその……アタシの肉親なのよね」
「ふむ」
知ってるけど知らんふり。
「だからある程度人となりを知っているのだけれど……あの子の理想の男性像って、基本高性能で頭も切れて経済に強くて戦略眼があって強い意志で困難を乗り越え障害を打倒し戦わせれば一流でついでに美形、って感じなのよね」
「いきなり何を……って、ちょっとおい、まさか……」
そんな漫画みたいな人間、すごく心当たりがあるんだけどなー!?
俺の推測を裏付けるかのように、開き直った声でマティアスは告げた。
「多分
「マジすか」
完全に取り繕うことを忘れて、俺は思わず呟いていた。
……ってことは、今までの襲撃って。
「つまりお……
「大体そんな感じかと」
……え”ェ~~~~。内心でそんな声を上げた俺の気持ちは分かってもらえると思う。ダメじゃねえか一族。
「もちろんリョウガ・クラ・アスハにはまだ利用価値がある、とか何とか言って指示出してるんでしょう。見事に藪をつついて蛇を出している感じだけど」
そう言ってマティアスは再びため息。
「たちの悪いことに、あの子
「一体全体どういう人間かね」
「あたしが言うのもなんだけど、すっごく面倒くさい子」
原作そんなんだったかぁ!? ……いや、マティアスに対する感情といい、確かに面倒くさい感じがあったような気はするけど。
「でもって指摘したら絶対認めないし逆ギレするわね確実に。そこから先どう行動するかが読めなくて、周囲の人間が気づいても怖くて指摘できないんじゃないかしら」
こじらせすぎてない? 確かに超面倒くさそうなんですけど!? 別な意味で一族の対策が難易度上がってるじゃねえか。
どないせいっちゅうねん。そう言いたいのをぐっと堪え、俺は口を開く。
「……場合によっては話し合いの席を設けるつもりもあったのだが、そのような人物では交渉は危険と言わざるをえんな」
「ややこしい事になるのは目に見えてるわねえ。……で、でもアレよ? 今の話アタシの推論がだいぶ入っているから、実情は違うかも知れないし、ね?」
「実情はもっと酷い可能性もあるわけだが」
「ですよね~」
確かに鵜呑みにするのも危険だが、現状を鑑みた結果マティアスの話が一番ありそうなんだよなあ。俺の勘もそうじゃないかなと言ってる気がするし。
しかしそうなると、どうしたもんだかホントに。俺に女性が近づくたびに騒動が起こると確約されたようなもんじゃねえか。しかもそれをやらせてる人間は色々こじらせてるときてる。一族と敵対することは覚悟していたが、ちょっとこれはないんじゃない?
といっても現状が変わるわけじゃないから仕方がないんだが。どうにか対策を練らなければ。そのためにも、マティアスとは友好な関係を築いておきたいんだけど。
「いっそのこと、あの子口説いてくれないかしら」
「無茶言うなし」
マジ声で言うマティアスの様子に、前途多難なことを思い知らされる俺だった。
その後、俺はマティアスと交渉し、いくつかの契約を結んだ。
大まかには一族の情報と引き換えに、CSSから身辺警護の人員を提供。場合によっては商会にて彼の身柄を保護するという物だ。元々マティアスは一族から命を狙われやすい立場にあった。一族に匹敵するようなコネクションを作り上げたのも、一族とは違う方法で目的を果たすという理由の他に、自分が暗殺されれば悪意がある者がその後を継いで、世界の脅威となる可能性があるという状況を作り上げるためだった。つまり『まだ死ぬ気はない』と言うことだ。生存率が上がる手段があるのなら、それを利用することも考えるだろう。
俺としても彼の才能は惜しい。身内に引き入れることはかなわずとも友好的な関係を結べれば、この先を乗り切る力になるだろう。そのためにも一族は何とかしなきゃいかん。
……とは言ってもどうしたもんよ。マティスのキャラが完全に予想外だったわ。いや対策はいくつか考えられるんだけど……どれもやりたくねえなあ。こう、なんていうか、精神的にきつい。
前世では女性と付き合ったこともあったが、あくまで普通の女性だ。こじらせた面倒くさい人間の相手なんぞ経験がない。始末してしまうのが一番確実な方法なんだが、そう簡単に尻尾出す相手でもない……あ、結構頻繁に偽名使って顔出ししてたわ。とは言っても暗殺に対する備えくらいはしているはずだ。本人が目の前に現れたからと言って即どうにかできる物でもない。
今はマティアスからのものと、師匠やうちの諜報関連から上がってくる情報を照らし合わせ、対策を考えていくしかあるまい。一族ばかり相手をしてるわけにはいかないからな。ホントCEは地獄だぜHAHAHAHAHA。
笑い事じゃないが。(←自分自身に逆ギレ)
で、ホントに一族のことをいったん置いておかなきゃならないことが起こった。
「
その知らせを聞いて、素っ頓狂な声を上げた俺は悪くないと思う。
知らせてきたのはバルトフェルド。火急の用件だと聞いて通信を繋げてみればこれだ。寝耳に水どころではない。
「元々連合に情報を流している疑いはあった。連合からも有益な情報を得ていたからダブルスパイのような形で見逃され泳がされていた部分もあったんだが……流石に最重要の機密情報まで流出させようとしたならば、捨て置くわけにもいかなかった。いったんは確保されてプラントに移送しようとしたんだが……何者かの手引きによって逃亡したようだ」
深刻な様子で言うバルトフェルド。俺は深呼吸して心を落ち着かせ、口を開いた。
「あまり良くない知らせですね。……しかし、この情報をこちらに渡してよろしかったので?」
「本当は良くないな。箝口令が敷かれている。しかし危ない橋を渡ってでも貴方には知らせておくべきだと判断した。互いに必要な情報だろう」
「双方に累が及ぶ可能性がある、と」
「手引きをした者がいると言うことは、裏がある。そして心当たりはお互いありすぎるくらいだ。協力できるところは協力したいね」
「了承しました。CSSにも情報を共有させます。それと、不確定ではありますが一族に関する情報が……」
互いに情報をやりとりし(マティス関係については流石にぼやかした)、今後の対応を話し合い、通信は終わる。そうして俺は深々と息を吐いた。
まったく、マティスといいクルーゼといい、こじらせてるやつぁろくなことしねえ。大番狂わせも良いところだ。非常にはた迷惑である。
おかげさまで、もう原作から乖離しているどころではない。完全に
楽しめるほど余裕はない。だが切羽詰まって焦れば、事をしくじるのは目に見えている。
俺の転生人生。どうやらここからが本番のようだ。
暑くなってまいりました。筆者は茹で蒸しにされそうですが皆様お元気でしょうか。
今年は猛暑か熱中症には注意しましょう捻れ骨子です。
はい更新です。マティアスさんちの妹さんがアレだった話。まあ大体皆さんが予想したとおりです。がっしゃんがっしゃん原作キャラが壊れてますが、姫さんに比べたらマシじゃないかなあと、自分で自分の作品に毒されてます。ダメじゃねえか。
そしてこいつは予想できなかっただろうクルーゼさん逃亡。そりゃ目を付けられてるのに機密流し続けてたら尻尾掴まれるよ。そんなわけで彼はしばらく退場することに……なるのか? 新しい仮面付けて出てきたりしてな。
そう言ったところで今回はこの辺で。