さて、アズラエルとの密約は成ったわけだが、すぐさま状況が動くわけではない。こちらとしてはまず彼の妻子の安全が最優先。そのため受け入れの準備に追われている。アズラエルはアズラエルでしばらくは水面下での動きに徹し、派手な行動は控えるようだ。
当然この件に関しては公表を控えている。とはいえ情報は漏れているだろう。俺もそれを積極的に防ごうとはしていない。オーブ側だけで全てが防げる物でもないし、またこの情報には利用できる部分もある。偽の情報も混ぜれば良い攪乱になるだろう。
簡単に事は進まないというのは分かっている。今まで戦争を推していた立場の人間が、交渉を視野に入れているというのだ。そうそう信用できるものではないし、影響も大きければそれに付随する諸々の問題も多い。戦争を続けるよりも手間がかかるのは明白だった。
この機に我が国は中立国との関係を強める。具体的には輸出仕様のアストレイ(シビリアンアストレイに匹敵する物)や武器関係の輸出を開始することになった。元々自国の戦力が不十分で、連合軍が手を引いたからザフト寄りになったという国もある。そういった国々が戦力を欲するのは当然の流れだった。
それと同時にMSパイロットとしての技術や戦術を学ぶため、軍人の交換研修を進めている。これは前々から計画されていたことだが、クリスティーヌとのお見合い騒動などの影響もあって、他の中立国から次々と要請が入ったのだ。
技術的なことだけじゃなく、コネ作りと言うことも考えているようだ。中にはあからさまに俺や要人に対するハニトラじみた人選をしているところもあったからな。もちろん却下してやったが。これ以上問題増えてたまるかい。
とまあオーブを中心とした動きはこのような物だが、問題はプラントだ。積極的な攻勢は控えているが、未だに交渉の窓口を開こうとしない。これに関してはバルトフェルドも頭を抱えているようだ。
多分向こうは意見が分かれているのだろう。攻勢に出るか、それとも交渉に応じるべきか。まだ攻勢を強めるべきだという意見が強いから、交渉に応じる動きに出られないと見た。
かといって攻勢に出るのも躊躇われる。本来電撃戦で一気にマスドライバーを制圧するはずが、今の今まで手こずっている。タカ派の中にもそろそろ現実が見えてきている者も出始める頃だ。もたもたしている間にも連合は戦力を整えていくが、かといって今の戦力で攻めきれるかどうか。それにどこまで連合に情報が漏れているか分からず、これまで立てていた計画を練り直さなければならないという状況でもある。攻勢に出たくても出られない、と言うのが正確なところであろうか。
その代わりといっては何だが、中立国との関係は強まり、戦力的にも物資的にも余裕ができてきている。棚ぼた的な結果であるが、バルトフェルドを筆頭とした現場の穏健派と、ラクス嬢の尽力も大きい。プラント寄りの国家から働きかければ、交渉の席に着こうという方向に流れる可能性もある。
とはいえこのあたり何の安心もできんのだよなあ。地上から戦力を引き上げてないから、ジェネシスを含む大がかりな作戦はまだ用意できる段階にないのだろう。その分時間をかけて何か画策していないとも限らない。様々な手段で監視させているが、それだけで全てをフォローできるでも無し。
う~む、プラント内に情報の伝が欲しいところだが。無理はできんか。マルキオ導師の伝はそういった方面ではあまり食い込んでいないからな。精々がプラントの表面的な内情しか分からん。導師はむしろジャンク屋とかの関係で動いて貰う方が良いし、あまり無茶なことは言えん。
今のところはバルトフェルド頼りだ。彼には負担をかけてしまうが、ザフトで信用できる人間が他にはいない。将来的にはともかく、現在はプラントを丸裸にできるほどの情報を得ることはできなかった。原作知識と先読みで何とか先手を打ててはいるがな。
ともあれ嘆いていても問題は解決しないし、見えなくとも事態は動く。今はできることをやるしかない。
やるしかないんだけど。
「リョウガ様リョウガ様、MSって面白いですね!」
「……気に入って貰ったようで何よりだよ」
キラッキラした笑顔で楽しそうに報告するのは、
うん、それはいい、それはいいんだけどさ。
正 直 う ら や ま し い
こちとら仕事に追われてMS操縦関係全く手を出せないんだぞ!? 折角ガンダム世界に生まれてんのにMS動かせてないじゃん。ないじゃん! いや生身の訓練時間減らしたら余裕できるかも知れないけれどなあ、俺の立場でMS操縦する機会ねえだろってことで、後回しに後回しにしてきた。俺の立場で生身の戦闘すんのもどうかと思うが襲ってくる奴らがいるから仕方ないじゃん。そっちの方はやたらと経験値積んだが。
……それはともかくとして、姫さん以下交換研修の人員は順調にカリキュラムをこなしている。むしろ姫さんはこなしすぎてるような気がするがそれはいい。この様子なら、MS戦闘に関しては程なく実戦投入レベルに仕上がるだろう。
この研修を元に、他の中立国に対しての教育プログラムが構築される。輸出されるMSの扱い。それを用いた戦術、戦略の基礎を叩き込むのだ。これからはMSありきの戦場に移り変わっていく。どこもそれに乗り遅れまいと必死になる。中立国の戦力の充実は、寄り多くの戦乱を招く恐れもあったが、中立国が力を持つことはオーブにとって有利に動く。この機会を利用するだけ利用して、後々のためにしなければならない。スカンジナビアとの交換研修はそのための第一歩だった。
「レポートは見せて貰った。特に問題はなさそうだな。姫さんの目から見て、研修のメンバーはどうだ?」
「若手の選抜ですからね、飲み込みは良いです。できれば実戦を経験させておきたいところですが」
「CSSの伝で傭兵として戦場に送り込めないでもないが……色々と勘ぐられると厄介だな。精々がジャンク屋関係の小競り合いや、海賊討伐程度だ。それでも実戦には違いないが、経験が積めるかどうか」
うちの軍の特殊作戦群なんかは、こっそり傭兵として各地に派遣していたが、それと同じ事をスカンジナビアの面子にさせるのは流石に無しだ。姫さんなら平気でこなしそうな気はするけれど。
「まあ、うちでやれることはやったつもりだ。後はタスクをこなした者から順次本国の人間と交代していくわけだが……姫さんは当面戻る気はないんだろう?」
「ええ、貴方を口説き落とさなければなりませんから」
「それはいいから。つかうちのチヒロとリシッツァに変なこと吹き込むのはやめてくんないかなあ」
「え? 普通に3人で爛れた関係に移行しないかと誘っているだけですよ?」
「普通じゃねえよ」
ホントもうこの子は通常運転だよなあ。(通常運転=リミッターなし)最近チヒロとリシッツァの俺を見る目がおかしいんだけど、洗脳とかされてないよな? 勘弁してくれよマジで。
「そこらあたりはホント自重してくださいお願いします。……とまあ俺の本音は置いといて、国元からの情報は何かあるか?」
「そうですね。国ではリョウガ様とアズラエル氏の関係が気になっているようで」
「ほう、目端が利くな」
「積極的に隠す気はなかったのでしょう? それで、そのことに関して何かお手伝いできることがあれば、と言っています。要は『一口かませて頂きたいと』、そう言うことらしいですね」
「ふむ」
スカンジナビアがアズラエルとのことを探り当てるのは想定内。絡んでこようとするのもだ。彼らとしては早々に戦争が終わって欲しいし、その後の政治的イニシアチブも取りたいところだろう。一口噛もうとするのは当然のことだった。
こちらとしてもスカンジナビアの助力があれば事を運びやすい。プラントに寄った中立国に働きかけるには、オーブ以外の国にも動いて貰う方が良いからな。まずは交換研修を口実に、それぞれの国家と対話を行うか。スカンジナビアからもそう言ったところから働きかけて貰うとしよう。
……などと考えて実行し始めたのだが。
「……それはまた、突飛な」
ロン・ヤアとして連絡を受けた俺は、自分の表情が微妙な物になるのを自覚していた。
「まあそういう反応になるだろうよね。俺もそうだった」
画面向こうのバルトフェルドと、多分同じ表情になっているのだろう。2人揃って何でこんな顔になっているのかというと……原因は一つしか無いわな。
「非公式で
これである。あのお姫さん、またとんでもないことを思いつきやがった。ことごとくこっちの予想を外してくるのはもう、ヒロイン補正なんだろうか。その割にはキラ君ガンダムに乗ってないし主人公補正発動している様子はないが。
とにもかくにも、ラクス嬢はとんでもないことを思いついた。不倶戴天の天敵であるブルーコスモスの人間と直接会談を望むなど、正気の沙汰ではないように見える。だが彼女は物狂いの類いではない。歴とした(最低でも彼女の中で成立している)理由があるはずだ。
「彼女は詳しいことを話すため、リョウガ氏との対面を望んでいる。こんな時期に何をと思われるだろうが……」
「
実際ブルーコスモスと対話する機会があるとすればこの時しかない。末端が暴走し盟主がそれを抑えるなんて状況だ。過激派にとってもそうだが、
ふむ……アズラエルとの会話に出た、『名を騙る偽物』をつり出す餌にもできるか。無茶振りではあるが、やってやれないことはないな。このラクス嬢の行動が、プラントを動かすきっかけになるかも知れんし。
安全性と利益を天秤にかける。まず間違いなくマティスは手を出してくるな。もしクルーゼの逐電が彼女の手引きだとしたら、いやそうじゃなくてもヤツが関わってくる可能性はある。名を騙る偽物ことロード・ジブリールを筆頭としたあほども過激派も。場合によってはプラントの連中もか。そういった連中を相手取って、どれだけの効果が見込める? 未知数ではあるが……今までに無い一手であることには違いない。
脳裏で算盤を弾き、勝算を見出してから、俺は返事を返した。
「……分かりました。オーブに渡りを付けましょう。マルキオ導師に立ち会いをお願いしようと思いますが、よろしいか?」
「感謝する。そのように伝えよう。こちらからは何人か護衛を出すことになるが、構うまい?」
「無論です。お互い用心に越したことはありません。石橋を叩くつもりでお願いいたします」
こうして俺は再びラクス嬢と相対することになった。とんでもない無茶振りをされることとなったが……俺にも考えつかなかった一手だ。状況を打開するきっかけに成りそうだという予感がある。あるいは悪手にもなり得る危険性もあるけれど、やってみる価値は十分にあると踏んだ。あとはこれをどう上手い方向に持っていくかだ。
しかし最近人の提案に乗ってばかりだな。いや、それぞれが考えて行動していると言うことだから悪いことばかりではない。それに俺は原作という筋から離れて状況が動いているという手応えを感じている。やはり世界は『生きて』いるのだ。そこにいる人間の行動で運命は変えられると信じられた。
ならば悪い方向に向かないよう死力を尽くすまで。俺は決意を改め一歩を踏み出す。
……と、その前に、アズラエルの妻子の受け入れ準備が整った。意外に早い展開だったが、できるだけ早く安全を確保したいというアズラエルの思惑が働いた結果だ。ホント家族第一主義だなあの男。
で、彼女らの出迎えは俺が直々に行うことにした。できるだけ余人を関わらせたくなかったし、アズラエルほどの人物が後生大事にしている人間だ。どういった人物か興味もあった。
「ようこそオーブへ。大した歓迎もできないが、そういう物だと理解して頂きたい」
「とんでもない。代表首長補佐官直々のお出迎え、痛み入ります」
謙虚な態度で頭を下げるのは、どこか儚げな様相を見せる美女。アズラエルの奥さんだ。
「【サリー・アズラエル】と申します。このたびはご面倒をかけることになりますが、よろしくお願いいたします。ほらイリアン、貴女もご挨拶なさい」
奥さん――サリーから促され、おずおずと前に出る幼女。5才くらいか、もじもじと上目遣いにこちらを見るその幼女は、しばらくして意を決したかのように口を開いた。
「け、けっこんしてください!」
……斜め上の無茶振りが来たぞおい。
俺はこの時、アズラエルがどういう心境で俺に頭を下げたのか悟った。
キャラ紹介
サリー・アズラエル
アズラエルの奥さん。儚げな印象の美女だが、実はかなり芯のしっかりした人物らしい。
どうやらほとんどブルーコスモスの思想に染まっていないようだ。アズラエルとは恋愛結婚らしいのでそのあたりに理由があるのかも。
モデルは某貧乏バイトヒロイン。旋風児の嫁だからね。
イリアン・アズラエル。
アズラエルの娘。5歳児。外見は母親似だが中身は……?
なお名前はギリシャ語のイリアンソス(ひまわり)のもじり。察しろ。
久々の模型イベントでテンションが上がる。
しかし来年参加できるかは分からない。作ってる間が捻出できるか怪しいから捻れ骨子です。
はいリョウガさんに対するラクス嬢の無茶振り~……と見せかけて別な方面から無茶振りが殴りかかってくる展開。だからアズにゃん心の中で血涙流してたんだよ。
思いついたはいいがこの後の展開何も考えてません。いつもだよ。どうせリョウガさんが苦労することになるんです。彼の手腕に期待しましょう。(ここでも無茶ぶる)
そう言うことで今回はこの辺で。