「イリアン? いきなり失礼なことをしてはダメと言ったでしょう?」ギリギリギリギリ
「いたいいたいママギブですギブ」
穏やかな笑みを浮かべ額に青筋を立てたサリーさんが、イリアン嬢の頭を掴んで片手で持ち上げていた。意外と力あるなあと、半ば現実逃避しつつ思う。サリーさんの手の下でイリアン嬢の頭が嫌な音を立てているのは聞かなかった方向で。
え? さっきからなんでさん付けなのかって? だって怖えぇもん。
「……大変失礼をいたしました。後できちんとちょうきょ……言い含めておきますので、ご容赦くださいませ」
「ううう……ごめんなさいです」
調教って言おうとしたか今? ともかく神妙な顔で頭を下げるサリーさんと、涙目になりながらそれに渋々倣らうイリアン嬢。うむむ、見た目と違って肝っ玉母ちゃんエアーをビリビリ感じるぞ。さすがは盟主王の嫁と言うことか。
微妙に戦慄しながら、俺は「……中々個性的なお嬢さんで」と返すしかなかった。さすればサリーさんは、ため息を吐いて困ったような様子で言う。
「本当に、どうしてこんな娘になったのやら。なぜか乳幼児の頃から見目麗しい男性に目がなくて……」
どっかの幼稚園児の妹かよ!? 事実はフィクションよりも奇なりって言うけど、奇過ぎるわ。
「特にリョウガ様をニュースで見かけてからは、もうぞっこんで……今日も面会させるかどうか悩んだのですけれど、こんな子だと知らしめておいた方が対処しやすいのではと思いまして」
やらかす前提なんだなあ。ともかくアズラエルが心の中で血涙流している理由がよく分かった。問題はあれど可愛い我が娘が、よりにもよって潜在的敵対関係になってる男にご執心ともなれば苦悩するわ。むしろ原作張りにカチキレてもおかしくないだろこれ。
俺に交渉を持ちかけた鋼の自制心には感服する。そうするのが現在もっとも安全性が高いと分かっていても、中々やれることじゃない。心の中で彼の評価を一つあげて、俺は口を開いた。
「まあ、はしかのような物でしょう。そのうち落ち着くと……思いますよ?」
我が事ながら微妙に疑問符を付けた回答である。うん正直歳を取ったからと言ってこの子が落ち着くところが想像できない。むしろはっちゃける姿が目に浮かぶ。
と、イリアン嬢はぷくーっと頬を膨らませた。
「はしかなんかじゃありませんのです! がちらぶですさいおしなのです! わたしはしんけんにけっこんをいたいいたい」
「イリアン?」ギリギリギリギリ
再びのアイアンクロー。ダメだこの娘ちっとも反省がねえ。彼女らの護衛についてきた黒服たちは、何もかもを諦めきったような無表情だった。気持ちは分かる。
「本当にもう、いい加減になさい。そんなことではお世話になる以前に追い出されてしまいますよ?」
「ううう……おいだされるのはいやなのです」
頭を押さえて涙目になるイリアン嬢。嫌とは言ったが反省しているとは言っていない。しおらしい様子を見せ、上目遣いで訴える。
「ならばせめて、せめてさいんだけでもいただきたいのです」
「サイン?」
「ええ、こちらのほうに」
そう言いつつ肩から下げていたポシェットから一枚の紙を取り出し、こちらに差し出してくる。
婚姻届だった。
………………。
ゴリゴリゴリゴリゴリ。
「いたいたいいたいうめぼしははんそくなのですママ」
やっぱり懲りてなかったか。無言でイリアン嬢を折檻するサリーさんの様子に、俺は深々とため息を吐く。
やれやれ、また濃っゆいのが関わり合いになったもんだ。そう思うと同時に、俺は『ある懸念』を抱かずにはおられなかった。
「奥方とお嬢様、特にお嬢様の方を重点的に監視しろと?」
「ああ、表と裏双方でな」
アズラエル夫人&娘を要人警護プログラムに組み込んだ後、俺はリシッツァに指示を出していた。
二人に対する監視の強化。俺はそれが必要であると感じている。特にイリアン嬢には、だ。
「あのお嬢さんは『やらかすタイプ』だ。かつて国家元首の股間を襲撃したどっかのガキと同じくな」
「だとしたら確かに危険ですが……まだ5歳児ですのよ? 大それた事が出来るとは思えませんけれど」
「油断してたら斜め上の方向にかっ飛ぶぞ。ある意味そこいらの大人より注意が必要と思っておいた方が良い」
……とかいうのは表向きの理由である。実のところ、俺はイリアン嬢にある疑いを持っていた。
発想がぶっ飛んでいるので分かりづらいが、彼女はかなり聡明に見える。あるいはそのぶっ飛んだ発想も演技である可能性があった。随分と身体を張った演技ではあるが。
もしかしたらまだ記憶がちゃんと戻っていない状態なのかも知れない。俺も前世の記憶が戻ったのは10歳かそこらだ。無意識にあのような行動を取っている……だったら元々ぶっ飛んだ人間である可能性もあるんだがそれは置いておいて。
ともかく俺達2人の共通点は、『原作には登場していない人間』というところだけだ。まだ断定できるようなものではないし、疑念があるというレベルだが、用心に越したことはない。最悪原作知識を総動員して邪魔されたら目も当てられないからな。かといってその立場上簡単に処理できる物でもない。やったらアズラエルが敵に回るどころではすまない。なりふり構わず全力で俺を潰しに来るだろう。ひょっとしたら、彼の変貌もイリアン嬢の思惑による物かも知れない。
イリアン嬢の行動を制限しつつ、転生者であった場合は何とか説得したい。敵に回すのは最終手段。願わくばそうならないことを祈りたいところだが。
……そう考えると姫さんも転生者の可能性があるわけだが……。
ね え わ。
姫さんが転生者だったら、転生者にしか分からないネタ振ってきて、後でこっそりぶっちゃけるだろう。仮に敵だったとしてもそれを最大限に利用しようとするはずだ。まだ前世を思い出していないと言うことなのかも知れないが、イリアン嬢ほどの危険性を感じない。なぜならば姫さんは
などと考えていたら、リシッツァがジト目でこちらを見ているのに気がついた。
「? どうした?」
「いえ……なんかイリアンお嬢様をやけに気にするな~とか思いまして」
「言ったろう、あの子は油断ならん。正直姫さんよりも厄介かも知れん。性格的に」
「ふうん、そうですの。……まさかと思いますけれど、『そういった趣味』がありまして?」
そんな疑いを持たれてるだろうとは思ったけどな。
「あるんならもっと前からそっちの方向で動いてたわい。何のための権力者だ」
「権力使う方向性が間違ってますわね。……それはそれとして、クリスティーヌ姫を筆頭とした我々のアプローチに欠片もなびかないのは、ちょっとムカつきましてよ」
「チヒロが時々こっち見ながら「今更コレに粉かけるとか……けれどこのままだと独身お局一直線だし……」とかブツブツ言っているのはアプローチなのか?」
ホントにもーこいつらは。姫さんに変な影響を受けてるんじゃないよ。
……まあ本音言うと姫さん含めて、どっちかと言えば好みではあるんだよ。もう少し性格が抑え気味だったらな。手ェだせるもんなら出したいわい。出せる状況じゃねっつの。
俺は深々とため息を吐いて言う。
「そんなに手ェ出して貰いたいわけか? お前さんなら他にもいい男見繕って堕とすのは容易いだろうに」
「わたくしにも意地がありますもの。難攻不落のリョウガ様を堕として溺れさせて凄絶に振るまでは、余所の男に目を向けるなんてとてもとても」
「そこはかとなく本音が漏れてるじゃねえか。そういうとこだぞ」
鼻を鳴らしてから席を立つ。そうしてからリシッツァのもとに歩み寄り、顎に指をかけくいっと上げてやった。
「まあもしも色々面倒が片付いてしがらみもクソもなくなった上で、それでもまだ手を出して欲しいってんなら……そんときゃ腰が抜けるまで手ェ出してやる」
そう言ってやったら、リシッツァは目を丸くした後にっこり微笑んで。
「言質を取った、ということでよろしくて?」
そう言って胸元からマイクロレコーダーを取り出して見せた。
俺もにやりと笑って。
「給料と引き換えで良ければな」
同様にポケットからマイクロレコーダーを取り出してみせる。
リシッツァはちょっとだけ悔しそうな表情になって言う。
「くっ、手強いですわね」
「お互い様だろ。……ちっとは頭が冷えたか?」
「ホント質の悪い男。……まあ給料分の仕事は真面目にやりますわ。奥様とお嬢様についてはお任せを。そちらはそちらでもう一人のお姫様への対処、よろしくお願いいたしますわよ?」
では失礼いたしますわ、そう言い残してリシッツァは颯爽と去る。毒気を抜かれたというか、これ以上妙なアプローチをするつもりはないようだ。今日のところは。
やれやれ、これで少しは冷静になってくれりゃあいいんだが。
※ちょっとだけ他者視点
リョウガの執務室を出たリシッツァは歩む。
その様子は普段と全く変わりないように見えた。
彼女はまっしぐらに女子トイレに向かうと個室に入り、ドアをロックして周囲の気配を窺ってから――
ごっ、ごっ、とショートリーチのボディーブローで壁を殴り始めた。
「あんなエロい表情と声で不意打ちとか、卑怯……卑怯すぎる……っ!」
ブツブツ言いながら壁を殴り続ける彼女の表情は、俯き気味なのもあってよく分からない。
だが、耳は真っ赤に染まっていた。
なお後に似たようなことをやられたチヒロは、真っ赤に染まって「ぴぃやあああああああああ!!」と悲鳴を上げつつ脱兎のごとく逃げ出したそうな。
姫さん? やった途端にベッドに引きずり込まれるのが目に見えてるから、やるわけないじゃん。
※視点戻るよ~
さて、そんなこんなで、ラクス嬢と対談する日が来た。
会談の場所に選んだのはアカツキ島。ここはアスハ家の所有地であり、色々と都合が良い。親父殿はなぜかがっくりしていたけれど些細なことだ。
見た目には分からないようガッチガチに警備が固められた中、訪れるラクス嬢。
そして彼女と共に現れるのは、それぞれスーツを着こなしたイケメンどもだった。
……護衛って言うよりはアイドルグループにしか見えんなあ。西川声のオレンジ頭を筆頭とした一団は、もちろんアスラン・ザラと愉快な仲間withハイネである。つーか全員無事だった上、ハイネ隊長にしてんだなあ。クルーゼいなくなったからか。
「ご無沙汰しております。そちらはお変わりありませんか?」
「おかげさまでね。貴女も無事で何よりだ」
軽く挨拶を交わす。そうしてから後ろの連中にも声をかけた。
「イザーク・ジュール君、アスラン・ザラ君、二人も健勝なようだな。……そちらは新しい隊長殿かな?」
「はっ、ハイネ・ヴェステンフルスであります。現在はラクス・クライン嬢の護衛を任されております」
キリッとした様子で敬礼するハイネ。当然原作で見せた人なつっこいような様子はない。俺は「君たちの働きに報いられるような結果を出せるよう、努力させて貰おう」とか何とか適当言って、ラクス嬢を迎える。
用意された部屋には俺につくCSSの護衛2人と、ラクス嬢の護衛につくハイネとアスラン。(他のメンバーは別室で待機)そして俺とラクス嬢。対面で座り会談が始まる。
「さて、ブルーコスモスとの対話をご所望とのことだが……まずはなぜその発想に至ったのか、説明頂きたい」
俺がそう問うと、ラクス嬢は穏やかな笑みでこう答えた。
「はい、これまで地球上の各所を巡り活動してきて、プラントにもっとも敵対行動を取ってきたのがブルーコスモスの方々でした。もちろんそう名乗っているだけの方もいらっしゃるのでしょうが、彼らならやりかねないと、そう思われているのは間違いないでしょう」
気づいているか。ブルーコスモスを名乗る者の背後に、別の存在があることを。
「ともかく、実質的に彼らが連合の中核になっていることは間違いありません。つまり彼らを何らかの形で鎮めることができれば、戦いの収束も見えてくるのではと、わたくしは考えました。もちろんそのためには、プラントも譲歩……いえ、それではすまない物が必要となるでしょう。互いに譲れぬ物はあります。ですがただぶつかり合うだけでは、戦いは終わりません。互いに憎悪しあい思うところはあっても、歩み寄りの可能性を諦めないことは必然となるのではないでしょうか」
ラクスの後ろの二人がピクリと反応したが置いておく。ともかく大分理想論に傾いた意見を述べたラクス嬢だが、それだけではない何かを俺は感じていた。
「若い意見だ。理想だけでは人は動かせない。それは貴女も分かっているだろう。……
その言葉にラクス嬢は目を丸くしてから、納得したような表情で言葉を放つ。
「焦り……そうですね。わたくしは焦っているのだと思います」
続いた台詞は俺の予想通りの物で。
「なぜならば、
やはりその結論に至ったようだな。
時間があっても気力が湧かないと人間何もしないと言うことがよく分かりました。長い休みも考え物ですね。(社畜発想)
皆さんはこんな大人にならないように注意してください捻れ骨子です。
さて更新です。正直前半は筆が滑りました。なんなのこの母子。勝手に動きまくるんですけれど。
だが私は謝らないむしろ助けてください。姫さんと同じエアーがプンプンします。つか某かすがべの園児まんまじゃねーか。なんか重要そうな情報がありましたがキャラで全て流されたような気がします。果たしてイリアン嬢は転生者なのか。それは筆だけが知っている。(つまり考えてない)
そしてリシッツァさん顎クイ。チョロいように見えますが愛染様似のイケメンが速水声でエロく迫ればああも成ろう。自分は女の子になっちゃう自信があります。(問題発言) 果たして彼女はヒロインレースで勝ち上がることができるのか。(なんか違う)
で、後はラクス嬢ですが、波乱の会談になりそうな予感が。最低でもまともに終わるとは思えない。だって捻れ骨子の話ぞ? 本人すら行く先が分からないというのに。(問題発言2)
そう言ったところで今回はこの辺で。