ガンダムSEEDが始まらない。   作:捻れ骨子

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閑話・とらぬたぬきのかわざんよう

 

 

 

 

 

 ムルタ・アズラエルが()()()()()()()()()という情報は、関係各所に密やかに流布していた。

 曰く、妻子をオーブに疎開させた。曰く、資産をオーブに移した。曰く、オーブを通じてプラントに情報を流している。等々。調べればいくつかは事実だと容易に知れるので、何かを企んでいるのは確実だった。

 だからロード・ジブリールは吠える。

 

「貴様が地球を裏切ろうとしていることは明白! 言い逃れは最早できんぞ!」

 

 その言葉をモニター向こうで受けたアズラエルは、いつもの胡散臭い笑顔で答える。

 

「証拠というのもおこがましい言いがかりですねぇ。そも私は最近ブルーコスモスの活動自体を疑問視していると再三訴えているのですが。裏切るも何も勝手な行動をとり続けているのは末端の構成員でしょうに。それがどれだけの損害を出しているのか、知らないとは言わせませんよ」

 

 ネットワークでの会議。ブルーコスモスの幹部と連合の関係者、そしてロゴスの構成員をも参加させたこの会合は、ジブリールが音頭を取って行われた物だ。無論アズラエルをやり玉に挙げ断罪するためである。

 根回しはしていた。多くの参加者は自分に賛同するはずであった。しかしアズラエルはそれを上回る。

 

「戦いを続けることでどれだけの損害が生まれるのか。お送りした資料にはそれが記されています。これは悲観的な予測ではありません。現在までの明確な数字から産出された『事実』です。……その上で制御の利かなくなった末端が好き勝手やってくれた結果、多くの計画や策略が無に帰しました。その損害を加えたらどれほどのものになるか、考えたくもない」

 

 前もって関係各所に対し、自身の訴えと共に無慈悲なまでの損失が記された資料を送りつけていた。利益を甘受させる事を(口)約束したジブリールとは逆のやり方である。関係者たちの危機感を煽ったのだ。

 しかしジブリールは己の優位を疑わない。

 

「それと地球を裏切りプラントにつくことに何の関係がある! 薄汚いコーディネイターに媚びへつらいプライドを売り払った分際で!」

「何か勘違いしているようですが、私はコーディネイターどもの味方になったつもりなどありませんよ。むしろ奴らを憎むからこその行動です。簡単に滅ぼしてなどやる物ですか」

 

 嫌悪感を隠していない言葉。これもアズラエルの本心である。

 

「奴らを滅ぼしたところで損失は帰ってきません。業腹ですが、奴らには償いをして貰わなければならない。最低でも生産力は残し、搾り取れるだけ搾り取らなければ。そのためにはある程度の余力は必要。こちらが有利な条件で停戦に持ち込めるのであれば『あり』ではないでしょうか」

 

 本来であれば完膚なきまでに勝つのがベストと思っているアズラエル。だが状況によっては妥協するくらいの柔軟性があった。対してジブリールにはそれがない。

 

「何を甘いことを! そんなことをすれば奴らはつけあがるだけだ! 隙を窺いこちらの寝首をかく事くらい考えよう! 皆もそう思われるであろう!」

 

 熱弁を振るう。しかし。

 

「だが戦況はさほど好転もしていない。まあザフトも攻めあぐねてはいる。一度停戦し戦力を蓄えることも考慮するべきではないかな?」

「MSは生産できても、それを操る兵の熟練には時間がかかる。戦力を整える手間が必要だ」

「プラントはこれ以上の戦力増強は難しかろう。時間はこちらの味方だよ」

 

 どうにも継戦に乗り気ではなさそうな雰囲気が漂っていた。それもそのはずで、この会合に参加している多くの人物がジブリールに疑いを持っていた。

 原因はアズラエルが配付した資料にある。その中にはある情報が加えられていた。()()()()()()()()()()()()()()()()()と言う情報だ。嘘ではない。ただし末端が暴走しだしたのが先で、ジブリールはそれを受けて煽りだしたと言うのが正確なところだが。しかしぱっと見はジブリールが首謀者のようにも見える。アズラエルはそれを強調して資料に載せた。それを見た者がどう判断するか。

 混乱を招いておいて何を言うか、そう考える者も出てくるということだ。その上でアズラエルはこう切り出す。

 

「実は現在、オーブを通じてプラントの人間と接触を図れないか打診しているところです。元々戦争の鎮静化を訴えていたオーブは協力的ですし、プラントの穏健派なら乗ってくる可能性も高い。これで和平に持って行けるとは思えませんが、とっかかりになる」

 

 さも自分の主導であるかのように言う。全部が嘘ではないが物は言い様だった。

 

「それは明確な離反ではないか!」

「何をおっしゃいますやら。撃ち合って殴り合うだけが戦争ではありません。交渉もまた駆け引きの一つ。そして口車は私の得手。これは私なりの戦い方ですよ。最終的に勝利を掴むためには、様々な手段を模索していかなければならない。その一手でしかないということです」

「今更和平など! 死んでいった者たちに顔向けができないとは思わないのか!」

 

 ちゃんちゃらおかしいことを、とアズラエルは内心で嘲笑う。自身でも思っていないくせによく口に出せる物だ。まあそれは己も大して変わらないが。

 

「確かに地球の人的被害は座視できる物ではありません。しかるべき報いをという気持ちも分かります。しかし今現在兵士は死に続け、資源は浪費され続けている。無念を晴らす前に我々が力尽きたでは話にならないのですよ。勝つなら効率よく、完璧にです」

 

 実際のところ、アズラエルは基本的にN()J()()()()()()()()()()()()()()()()()。自分自身と身内、そして商売に関係ない人間などいくら死んでも他人事だ。そも兵器産業を生業とする人間が『些末ごと』なんぞ気にするはずもない。

 彼にとってはこの戦争によりプラントを占拠され商売が無茶苦茶になったことが重要で、コーディネイターに対する私怨は二の次だ。(逆に言えば妻子に被害が及べばそれどころではなくなるが)最優先は妻子で、その次が損失を補填し利益を取り戻すこと。今現在も兵器を売りまくって儲けてはいるが、プラント関係で負った損失を補填できるほどのものではない。結局戦争を続けてもさほど儲けがないと判断したのだ。

 そういった諸々の損得勘定の上でリョウガの話に乗った事をおくびにも出さず、アズラエルは会合に集まった面々に視線を巡らせ、問う。

 

「さて皆さん。泥沼の戦いを続けるか、それとも仕切り直すか。どうなさいます?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アズラエルめが日和見よって! 今ここでプラントのコーディネイターどもを殲滅しておかねば禍根を残すとなぜ分からん!」

 

 会合が終わった後、自室をめちゃくちゃに荒らしながら、ジブリールは怨嗟の声を上げる。

 プラントとの交渉を試みるというアズラエルの発案は、集った多くの人間から支持された。反発したのはジブリールを含む、少数の過激派急先鋒の連中だけだ。ただ和平を試みると言うだけならここまでではなかっただろうが、プラントに償いをさせるべきと言う発想を盛り込んだアズラエルの言葉は、それなりの説得力を含んでいた。事前にジブリールの『失策』を知らしめていたというのも大きい。

 加えて二人には決定的な差があった。それはアズラエルが『経営者』であるのとは違い、ジブリールは『資本家』であり『出資者』であると言うところだ。

 同じように事前の根回しをした2人だが、ジブリールは不完全な状況証拠でアズラエルをやり玉に挙げることしか考えていなかったのに対し、アズラエルは明確な数値と資料を出して和平という具体的な目標を示しプレゼンを行った。黙っていても金が転がり込んでくる立場で、命じて周りにやらせるのが本分の男と、自ら先陣に立って(立ちすぎかも知れないが)経営を回している男の差。どちらの言葉が説得力があるか言うまでもあるまい。

 当のジブリールはそのようなことに気づいていないようだ。ただひたすらにアズラエルと賛同した多勢に対しての呪詛をがなり立て続ける。

 ややあってやっと落ち着いたのか、肩で息をしながら虚空を睨んだ。

 

「おのれ……このままではすまさん……」

 

 呪い殺さんばかりの目つきで思案する。ややあって、彼は声を張り上げた。

 

「誰ぞ! 車を回せ!」

 

 荒々しい歩調で部屋を出る。この後、ジブリールは同調する者を集め、アズラエルに対抗するべく動き出す。

 だがそれはアズラエルの狙い通りであり――

 ある者たちに筒抜けの行動であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モニターの明かりだけが灯った暗い部屋。その主は部下からの報告を聞いている。

 

「……報告は以上となります」

「アズラエルがプラントと接触を図ろうとしている、か。にわかには信じがたい話だ。罠かも知れんな」

「我々に対するもの、でしょうか?」

「いや、彼はまだ我々の存在に気づいている様子はない。恐らくはブルーコスモス内の別勢力……ジブリールの一派に対する物だろう」

 

 だが、と続ける。

 

「アズラエルは最近ブルーコスモス末端の行動に手を焼いていた。宗旨替えしてもおかしくはない。我々の策が少し効き過ぎたか」

「介入なさいますか?」

「そうだな、アズラエルの周辺を探れ。それとラクス・クラインの監視を密に」

「アズラエルが接触しようとしているのは、彼女だと?」

「それは不確定だが、ラクス・クラインが話を聞きつければ、介入してこようとするだろう。そうなれば状況を利用できる」

「心得ました。……ではリョウガ・クラ・アスハに関してはいかがいたします?」

 

 ぴくり、と部屋の主は反応した。それは自覚していないことであったが。

 

「ふむ……秘密裏にアズラエルの妻子を匿っているところからすると、一枚かんでいるのは間違いない。だがオーブを監視するのは難しいな。こちらの手のものがほぼ全て排斥されている」

 

 オーブ周りの情報統制はどんどん厳しさを増している。アズラエルの妻子について情報を得られたのは僥倖……とは言えなかった。

 得られた情報は、()()()()()()()()可能性がある。これまでもあったことだ。以前クリスティーヌがオーブを訪れたときに、まんまと一杯食わされた事例が代表的なところだろう。わざと防諜に穴を開け、敵を引きずり込む。その手腕は神がかりと言って良い。

 数度。罠であることを知りつつ威力偵察もかねて戦力を送り込んだが、その全てが壊滅させられた。これ以上直接的に手出しをするのは危険と見る。

 直接的なアプローチがだめであれば、()()()()()()()()()()()()()()()。その判断は至極当然の物であった。

 

「……ブルーコスモスに情報を流す。これまでのような下位組織ではなく、ロード・ジブリールに近しい者にだ」

「アズラエルを排除させようというのですね? 軍も動くと思いますが、プラントとの戦いに影響が出るのでは」

「こちらの手のものに、プラント近海で海賊のまねごとをさせておけ。一時的にでも気を逸らせれば十分だ。ジブリールがアズラエルを排除するまでで良い」

「は、承知いたしました」

 

 その他にも細々とした指示を下し、通信は切られる。

 部屋の主――言うまでも無いが一族の党首マティスは、消えたモニターを睨みながら考えていた。

 どうにも最近一族の活動が上手くいっていない。その原因は分かっている。リョウガ・クラ・アスハという男の存在だ。彼が中心となって動き、それによってこちらの計画がかき乱されていた。

 危険だとは分かっている。だがマティスはリョウガを始末するという決断を下せずにいた。

 なぜ。自問自答するが答えは出ない。それは自分が意識していない感情からの物だったが、指摘されても彼女はそれを認めないだろう。自身の本心に蓋をしたまま、マティスの思考は巡る。

 

「厄介な……やはり『キング』に相応しいと言うことか」

 

 彼女が独自に危険人物をカテゴライズし、トランプのカードに割り当てて示した『イレギュラー13』。リョウガはその中でキングに位置していた。妥当というかさもありなんと言った感じである。

 それはそれとして、マティスは()()()()()()()()()()()()()を思いついていた。

 

「……厄介な男だが、『ヤツの血』、有用だろう」

 

 コーディネイターをも上回る才覚と能力。それを一族に取り込めれば。そう考えたのだ。元々一族は優秀な血筋を取り入れて能力の向上と研鑽を図ってきた存在だ。その集大成とも言えるマティアスが「コーディネイター以上に命を弄んでいる」と自嘲気味に揶揄するところからも、その『手段の選ばなさ』が窺える。

 もちろんまともな手段はおろか、相当イリーガルな手段でも彼の身柄を確保することはかなうまい。大概は返り討ちだ。本人も相当の物だが、周りに集っている人間も優秀な者ばかり。慎重にならざるを得ない。

 だが切り口はあるとマティスは考える。

 

「一枚かんでいるのであれば、ヤツは必ず動く。そして己を餌として罠を張るくらいはやるだろう。……だがヤツとて人間。年がら年中気を張っているはずもない。『事が終わった後』などは油断もする」

 

 そう、マティスは起こるであろう一連の騒動が集結した直後、リョウガの気が緩んだところでその身柄を確保する事を目論んでいた。

 リョウガがジブリール()()()に後れを取るとは思っていない。事実ではあるが、無自覚に贔屓目で見ている感があった。それでいて、自分自身が動けば油断したリョウガを確保できるとたかをくくっている部分もある。要するに、リョウガに関しては冷静な判断が鈍っているようだ。

 まあ確かに、マティスはマティアスに次ぐ一族の最高傑作だ。その能力はリョウガに勝るとも劣らない。状況次第ではリョウガを出し抜くことも可能だったろう。

 マティスの誤算は一つ。

 生憎と()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ただそれだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その指示を受けたとき、クルーゼは眉を顰めた。

 

「ムルタ・アズラエル、プラントの交渉人、そしてリョウガ・クラ・アスハを『暗殺』しろと? 随分と贅沢な注文だな」

 

 未だ顔も見せない雇い主。行動に制限はあるものの比較的不自由ない生活を送らせて貰っているが、感謝の念など一片たりとも抱いていないクルーゼは、やや皮肉めいた反応であった。

 

「もちろん君一人というわけではない。中隊規模の手勢を用意した。君にはその指揮を執って貰う」

「中隊規模? その程度の戦力でオーブを相手取れと?」

「まさか。そこまで楽観的にはなれんよ。君たちを連合の秘匿部隊に編入する。そこはブルーコスモスのロード・ジブリールが影響下にあるところだ。……後は分かるな?」

「なるほど、その思惑に便乗する。全ての責任はジブリールにと言うことか」

 

 にやりとした笑みを浮かべるクルーゼ。ジブリールとアズラエルの不仲は意外に知れ渡っている。アズラエルがプラントと何らかの形で関わり合いを持とうとすれば、ジブリールは必ずちょっかいをかけようとするだろう。それを利用して事を為せと言われている。そう得心した。

 

「話が早くて助かる。頃合いが来れば君を招聘させて貰おう。そのときに部下との引き合わせと、君の機体を渡す」

「まともな機体を使わせて貰えるのだろうな? 今更ジンやシグーなどでは格落ちも良いところだ」

「それについては期待して良い。君も気に入るはずだ」

 

 気を持たせるように言った雇い主は、「そうそう」と思い出したかのように付け加える。

 

「任務の最中、あるいはジブリールの策が失敗し撤退を余儀なくされた場合、リョウガ・クラ・アスハの身柄を確保しようとする動きがあるかも知れん。そうなった場合、()()()()()()()()()()も始末して欲しい」

 

 妙な指示だなと、クルーゼは思う。目標の一人であるリョウガを、混乱に乗じて始末しろというのであれば分かる。だがリョウガの身柄を狙う人間を始末しろ、と言うのはいささか不可解だ。

 もしかしたら別系統の人間が介入しようとしているのかも知れない。しかし雇い主はそれを詳しく説明しないだろう。クルーゼはただ短く「了解した」とだけ応えた。

 

(ふん、私を上手く使い潰すつもりだろうが……こちらも状況を利用させて貰おうか)

 

 内心で暗くほくそ笑み、企みを巡らせる。

 ラウ・ル・クルーゼは未だ暗き恩讐の炎を燃やし続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 薩摩ホグワーツというパワーワード。
 正直ハリポタに限らず薩摩付けるとなんでもパワーワードになる気がする。薩摩水星の魔女とか。チェストスレッタ見たいような見たくないような。
 鎌倉平安源氏でも可捻れ骨子です。

 はいそんなわけで閑話更新。うんみんな分かってると思うけど、こいつら全員酷い目に遭うんだ。特にジブリール覚悟しとけ。お前バックボーン分からねえから筆者に好き勝手されるぞ。しかもノープランだぞ。己のキャラの薄さを恨むが良いわ。
 次回からクライマックスに向かう……感じでしょうか。ですが捻れ骨子のやることだから多分まともには進まない。ってか今まで思い通りに進んでない。終着点が見えんなあ原作のCEもそうだけどさ。

 そんなこんなで若干じゃない不安を抱えつつ、今回はこの辺で。
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