ガンダムSEEDが始まらない。   作:捻れ骨子

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閑話・腹黒盟主とガンギマリ歌姫

 

 

 

 

 

「……そのようなわけで、今回オブザーバーとしてまいりましたムルタ・アズラエルです。よろしく」

「プラントの特使を務めております、ラクス・クラインです。実りある話になることを期待しておりますわ」

 

 笑顔で交わされる挨拶。にこやかにそれを見守るユウナの内心は。

 

(せめて平穏無事に終わってくれないかなあ。無理だよなあ)

 

 波乱の予感に戦々恐々としていた。

 部屋にいる人間は大体笑顔。(穏健派代表の顔が微妙に引きつっているような気はするがそれは良いとして)その裏で緊迫感が半端ない。隣で涼しい顔をしているマルキオ導師はやはり大物だなあと、場違いな感想を抱くユウナであったが、現実逃避していても話は進まない。気は進まないがと、彼は口を開いた。

 

「では、時間も限られておりますので早速始めるといたしましょう。まずはラクス・クライン殿、何やら配付の資料があるそうですが」

「はい。ではまずこちらの資料をご覧ください」

 

 傍らのハイネから受け取ったファイラーから紙の資料を取り出すラクス。そして彼女はそれを自ら目の前の二人に差し出した。何の害もないというアピールのつもりなのかも知れないが大胆なことだと、ユウナは微妙に呆れる。

 アズラエルは平然と、代表は恐る恐るそれを受け取る。ラクスはにっこり笑って

 

「ご安心を。カミソリやガラス繊維は仕込んでいませんわ」

 

 などと宣いやがる。笑えない。

 そんなブラックジョークを受け流して資料に目を通していたアズラエルの眉が、ピクリと動いた。笑顔のままのラクスが話を続ける。

 

「ご覧の通り、この資料は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()です。予想に関してはいくつかのパターンを考慮いたしましたが、大幅に外れてはいないかと」

 

 唖然とする穏健派代表。対してアズラエルはふむ、と頷いた。

 

「なるほど、かなり精査した物のようですね。なぜならば()()()()()()()()()()()()()()()()()ですから」

 

 特に驚く様子も見せていない。あるいは表面に表さないだけなのかも知れないが。

 ラクスの笑みは変わらない。だがどこか雰囲気が変わった。

 

「意外でしたよ。ここまでの数値が上がってくるとは」

「もっと楽観的な物、と考えておられましたか?」

「まあ数字だけで止まるような方々でもないでしょうがね、プラントのお偉方は」

 

 皮肉めいたアズラエルの言葉に、ラクスは肩をすくめる。

 

「その通りでしょう。恐らくはプラントのシンクタンクも正確な数字は出せないかと。内心はともかく今の政府の意向に逆らうとは思えませんから」

「ほう? ではこの数値は貴女が独自に算出した物だと?」

「生憎わたくしにはそのような才能はございませんので。中立国の経済研究者の幾人かに依頼いたしまして。その結果をこちらで纏めさせて貰ったものですわ」

 

 中立国にそれなりのコネがあると匂わせる。なるほど、かなり強かな人間だとアズラエルは判断した。

 

「それで、貴女はこれを我々に見せてどうしようと? 先ほどからの語り口を見ると、貴女はプラント上層部と大分考え方が違うようだ。それでは特使として、いかがな物かと思わないでもありませんが」

 

 最早完全に穏健派代表から話の主導権を奪ったアズラエルが、揶揄するような口調で言う。ラクスの方は飄々とした物で。

 

「これはあくまで参考資料に過ぎません。この『事実』を踏まえた上で、どうするべきか、どうなさりたいのか。そう言ったご意見をお伺いしたいと」

 

 そう言ってから「もっとも」と続ける。

 

「これを見せつけたところで、プラントの上層部は早々考えを改めたりしないでしょう。それは重々承知。……ですが、()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 この戦争が馬鹿げた物であると理解した上で、それでも続けるという選択肢がとれるのかと突きつける。これはつまり、『お前たちはプラントと同等以上に馬鹿なのか?』と問うているような物だ。それを理解したユウナは背筋に怖気のような物を感じていた。

 

(このお嬢さん怖いよ!? ちょっとガンギマリすぎてない!?)

 

 喧嘩売ってるどころの話じゃない。人によっては即座に交渉決裂しかねない挑発行為だ。つーか身内をこき下ろしすぎである。下手をすれば世界中を敵に回しかねない危険思考と言えた。

 別の世界線(原作)では実際にそれと似たようなことをやらかしたと知る由もないユウナは、余裕ぶった表情を顔に貼り付けるのに全力を尽くすしかなかった。

 果たしてアズラエルは、軽く鼻を鳴らして応える。

 

「中々踏み込んだことをおっしゃる。……ですが、僕を揺るがすには()()()()()()

 

 え? ちょっとこの人何言ってんの、みたいな顔をしている穏健派代表を余所に、アズラエルは続ける。

 

「ここで貴女の挑発に乗って、和平に動くと言うのは簡単だ。ですがそんなお為ごかしで誤魔化される貴女ではないでしょうし、認めたくはないが我々の方にもこの資料を鼻で笑うような人間はいる。何よりも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()のに頷ける話じゃない。……これ以上の『何か』。プラントも連合側も動かせるだけの理由がなければ、怖くて乗れませんねえ」

 

 挑発し返す。何しろ自分も出して、なおかつ聞く耳を持たれなかった実例がある話だ。動く材料たり得ない。

 まあ当然ながら、ラクスの『爆撃』は、まだここからが本番だ。

 

「なるほど、もう少し踏み入った話をする必要がありますね。……ではこういうのはいかがでしょう。『コーディネイターの欠点』についてのお話なのですが」

 

 思わず吹きそうになるユウナ。おいおいさらにぶっ込んで来やがったぞこのお嬢さん。ちょっとそこの砂漠の虎さん、止めてくんない!? と助けを求めるような視線をバルドフェルドに向けるが、虎さんの方は素知らぬ顔だ。あるいは彼も内部で現実逃避しているのかも知れないけれど。

 アズラエルはと言うと、どうやら少し興味を引かれたようだ。

 

「ほう? どのようなお話で?」

 

 促されたラクスは――

 

「ご存じでしょうが、コーディネイターはその能力と引き換えに生殖能力が低下いたします。そしてそれは世代を重ねるとより顕著に表れるのですが……()()()()()()()()()()()()()?」  

 

 ()()()()()()()()()()

 

「それはやはり、コーディネイトという技術が神の摂理に反した物であり、不自然で不完全であると言うことの証明では?」

 

 ここぞとばかりに口を挟む穏健派代表だったが。

 

「ええ、『不自然』なのです」

 

 ラクスの言葉にどういうことだと眉を顰める。

 

「ジョージ・グレンが公表したデータを基に、数多のコーディネイターが生み出され、後の騒乱の原因となったわけですが……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 その言葉に、アズラエルがはっと気づいた。

 

「そうか……コーディネイトで施される遺伝子改造は多種多様。だというのに差異はあれども皆一様に生殖能力が低下している。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とみているのですね。貴女は」

 

 得たりとばかりにラクスは頷く。

 

「はい。わたくしは意図的なものだと思います。しかも世代を重ねなければ、その事実が露見しないという巧妙な手口をもって隠蔽されたものだと」

 

 ラクスの言葉を聞いたユウナは、もうどうにでもな~れという心境だった。

 

(リョウガと同じ結論出しちゃってるよこの人! この先どうなってもオラ知らねぇだよ!)

 

 混乱しながら匙投げてる。以前リョウガにコーディネイターに関する危惧を概要のさわりだけ聞いていたが、ラクスの言ってることはほぼそれと同様の内容であった。はっきり言って今の世の中が根底からひっくり返るような話で、さすがのリョウガも全容を語るのは躊躇われるほどのものだ。それをぶっこんでくるこのお嬢さん怖いもの知らずか。いやそこまで言わなきゃ動かせないからってのはわかるけど。

 現実逃避どころじゃないユウナの心境なんぞ置きっぱなしにして、話は進む。

 

「そしてさらに不可解な点ですが……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それを探り出そうという動きすらない、いえ、あったのかもしれませんが全く表ざたになっていないというのは、不自然にもほどがある。そう思うのですが、いかがでしょう?」

「なるほど。コーディネイターに関する一連の流れ。いや()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と、貴女はそう言いたいわけですね?」

「机上の空論ではありますが。ですがそう考えれば辻褄の合うことも多いかと」

 

 ふむ、とアズラエルは顎に手を当てて考える。ただの小娘ではないだろうと考えていたが、なるほど予想以上に『難敵』だ。こちらの予想以上で、しかも否定しにくい話をぶち込んでくる。並大抵の人間であればそのショッキングな内容にのまれて同調してしまうかもしれない。

 実際大事である。隣の穏健派代表などは今にも意識を飛ばしてしまいそうだ。そしてアズラエル本人からしても座視できることではない。もしこれまでのことが何者かによる策略であるとするならば、『腑に落ちる』ことも多々あった。例えば血のバレンタインの件。あれは自分の指示ではなかったが、()()()()()()()()()()()()()という部分に関しては、曖昧なところが多い。これまでは過激派に煽られた現場の暴走とみていたが、今の話を聞けば見方が変わってくる。それだけではなくすべての流れが疑わしく思えてしまう。

 アズラエルもラクスも知らないことであったが、事実裏で一族という存在が状況を動かしている部分もあった。だがそれはすべてではない。彼らは発生した状況をうまく利用する術に長けてはいるが、すべての火種を生み出したわけではなかった。彼らの手の届かなかった部分はあるし、あるいは彼ら自身も利用されているのかもしれない。

 それはともかく、グレートプレーヤーの自覚があるアズラエルとしては、実に面白くない話であった。世界を手玉に取っているつもりが逆に踊らされていたなど、腹が煮えくり返るでは済まない。だからと言ってはいそうですかとラクスの話に乗るのもためらわれた。彼女がコーディネイターだからではない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ラクスの推測をプラント上層部が知れば揺れる。そりゃもう震度なんぼやってくらい大騒ぎになることは間違いない。そしてラクスはその状況を十分に利用できるだろう。その上で自分たちが同調するとなれば、これはもうラクスの掌の上で転がされているようなものである。イニシアチブが自分以外のものに握られているというのは、個人的なプライドが許さなかった。

 だが、ラクスの仮説は()()()()()()()。真偽はどうでもいい。この泥沼の戦いから目をそらせる何か、自分たちとコーディネイター以外の『戦争の原因を押し付けられる存在』を作り出せる可能性があった。一歩間違えればただの陰謀論だが、陰謀論なんぞ自分は頭がいいと思い込んでる連中ほど引っ掛かりやすい物だ。ブルーコスモスの多勢、そしてプラントの首脳陣なんか大概は引っかかる。賭けてもいい。

 ラクス自身もそれがわかっている。わかっていてこの話を持ち掛けた。油断のならない人間だ。さて目の前の女からどう主導権を奪うか。アズラエルは思考を巡らせる。

 

「実に興味深い話です。……ですが、『確証』がない。心当たりが多々あるという状況証拠だけで、裏で糸を引いている何者かが存在するという証拠がありません。動くにはどうにも心もとない」

 

 わざとらしく肩をすくめてやれやれとかぶりを振って見せた。安い挑発だ。この程度でラクスを揺るがせるなどとは思っていない。情報を引き出せるだけ引き出す。その駆け引きの一手だ。

少しずつ揺るがして……などと考えていたアズラエルだがーー

 

「ええ、ですので……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 ラクスはまた斜め上の方向にぶっこんで来た。

 

「「……………は?」」

 

 アズラエルと穏健派代表は間の抜けた声を出した。出すしかなかった。

 ラクスの背後に佇むバルドフェルドとハイネは動じていない。事前に聞かされていたのか、それともなんかこう色々と諦めているのか。聞かされて色々と諦めたのかもしれないが。

 なおアズラエルの後ろの三人はというと。

 

(なんか難しい話してんなー)

(たいしょーがなんとかするんでしょ)

(きょうみなーい)

 

 ってな風にマイペースだった。強い。

 ともかく呆気にとられるアズラエルだったが、はたと我を取り戻しラクスに問う。

 

「それは我々に危ない橋を渡れと言っているも同然のことだと理解していますか? もしも貴女がおっしゃるような存在があるとなれば、それは我々のような人間にも感付かれることのない、深淵に居る。手を突っ込めば火傷ではすまないでしょう」

 

 言い訳である。実際の所アズラエルは話の主導権を握りたかっただけで、事実を調べる必要は無いと考えていた。この件は『匂わせるだけ』で疑心暗鬼を生める。現状でも十分駆け引きの材料となるのだ。

 そして言ってること自体は嘘でもない。そのような存在があれば根っこは相当深く各所に食い込んでいるだろう。ただでさえ不安定な状況の中、下手をすれば自分たちの足下すら崩れるような真似は避けるべきだと、アズラエルは考える。

 対するラクスは。

 

「もちろん私たちも可能な限り手を尽くすつもりですが、残念ながら地球では伝がなさ過ぎます。それに……これを利用して()()()調()()()()()のでは?」

 

 微笑みながらとんでもないことを言う。つまりこの件を調べるという建前で自分に都合のいい情報を集めるよう動いてもかまわないし、その逆で他の情報を集めると見せかけて裏の存在を調べてもいい。 そう告げているのだ。

 

「そこまで考えなくとも、この会合でこの先のことが決まるわけではないのですから、何かの機会、とっかかりと割り切る考え方もあると思いますわ。わたくしといたしましてはムルタ・アズラエルという人物を見知っただけでも十分な収穫かと」

 

 言ってくれる。こちらを揺るがすだけ揺るがしておいてのうのうと。そう思わないでもなかったが、分が悪いと認めざるを得ない。こちらが拒否しにくいように追い込んでくる。突っぱねればいいのだが、この会合はプラントとの『蜘蛛の糸』だ。簡単に手放すような真似をするわけには行かない。その上相手の提案は魅力的だった。身内であれば容易く乗ってしまうだろうと思わせるくらいに。

 さてどう切り返すかと思っていたらば、意外な方向から声が上がった。

 

「失礼。発言してもよろしいですかな?」

 

 発したのはマルキオ導師。何のつもりかと訝しがりつつも、時間稼ぎにはなるかと考えて先を促す。

 

「その調査の話、私の方でも手伝えると思います。いかがでしょう?」

 

 意外な申し出だった。仲介役に徹するかと思っていたら、ここで口を挟むとは。以前からプラントとも交流があると調べはついていたが、ラクス・クラインと共謀でもしているのだろうか。そのような疑いが胸中に浮かぶ。

 見ればラクスも驚いたような表情をしているが、それが本心かどうか。疑念を持つアズラエルの視線に気づいた風もなく(盲目なので当然だが)導師は続けた。

 

「私にはアズラエル氏にもラクス嬢にもない伝があります。それこそジャンク屋関係ならお二人の手の届かないところまで調べることも可能でしょう。それぞれが調べたことを照らし合わせる、あるいは都合のいいように話をすりあわせるのもよろしいですが、第三者の視点から見た物も何らかの使い道があるのではなかろうかと」

 

 差し出がましいことですがと話を締めくくるが、そういえばこの人物はただの宗教家崩れではなかったなと思い直す。ナチュラル、コーディネイター……どころか国家人種を問わず信奉者を持つ、新たな宗教界のカリスマだ。既存の宗教が権威を失う中、その勢力を伸ばしつつも決して派手に表に立たない、時流を読める宗教家というある意味厄介な存在であった。利用するつもりが利用されると言うこともあり得る、油断のならない相手だ。

 

(やれやれ、まだ『前哨戦』だというのに、どうにも骨が折れそうだ)

 

 一癖も二癖もありそうな者たち。それと相対しながら内心苦笑するアズラエル。

 久しくなかった感覚に戦きとも何ともつかない感情が揺さぶられている。

 こと対人の交渉においては相手を手玉に取る事が多かったアズラエルは、互角以上の交渉相手と巡り会うことはまれである。ここ最近ではリョウガくらいであった。その彼と相対したときでもこのような感覚を味わったことはない。

 これまでとは違うアプローチが必要になるかも知れないと、彼は覚悟を改めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ルビコンではアツさが増しておりますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。わたくしは落下で死んだり砲撃で死んだりブレードで切られて死んだりしております死にすぎ。
 最初のヘリで心折りに来るとはさすがフロムだ勘弁してもらえませんかね捻れ骨子です。

 さ、AC沼にはまりつつも何とか更新です。今回は交渉中な2人の話。ネチャァとした話しぶりのアズにゃんをのらりくらりと翻弄する歌姫さん。やたらと深みにはまっていくンですがどうなるんでしょうね。SEEDの闇に突っ込んで大丈夫なのか捻れ骨子。うん自分でも大丈夫じゃないような気がするし話のコントロールができなくなりそうな気もするが何とかなる。きっと。
 なおこの話は、今度の劇場版を一切合切無視します。だってどう考えても整合性取れないもの。ただでさえ本編から大幅にずれまくってんのに。種本編の終わりすら見えてないんだぞこちとら。
 そんなわけでノープランのまま進みます。そしてルビコンでの戦いに没頭しない限りはいつも通りの更新のはずです。無理かも知れない。(諦め早い)

 こんなところで今回はこの辺でお開き。
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