※リョウガ視点
戦闘は、そろそろ終盤にさしかかかっている。
敵MS部隊のバッテリーと推進剤が尽き始めたのだ。こちらのアストレイシリーズは基本増加バッテリーと増槽を備え、長期戦にも対応できるようになっている。おまけに艦隊にはほとんど損害がないため、補給に戻ることも可能だ。
対して敵は空母を含む艦艇をかなり損失し、そろそろ半数以下になろうとしている。撤退不可能になってやけになられたら困るから、わざと空母などをいくつか残しているんだが、いい加減潮時と考えられるかどうか。
「逃げる艦を追うつもりはないが、追撃を恐れているのかもしれんな」
「あるいは頭に血が上って撤退命令どころではないとか」
「ありそうで困る」
どうせ向こうの艦隊指揮官はバリバリのブルコス過激派だろう。連中揃いも揃ってプライド高くて他者を見下しているからな。なめてかかってたオーブにしてやられて躍起になっているはず。冷静さを失っているのは十分に考えられた。となれば生半可なことでは退くまい。それこそ指揮官本人がくたばるまで戦い続けるやも知れぬ。
ああいうのが戦いをやめる理由はそう多くない。
「想定以上に一方的だからなあ。おかげで仕込みがほとんどパーだ。やり過ぎたかもしれん」
「他国に対する牽制となる……には少々派手に過ぎましたな。むしろ警戒が増すのではと愚考いたします」
「全くもってその通りさ。まあ上の動き次第じゃ、こっちにかまけている余裕はなくなるだろうが」
そう言葉を交わしている中、通信機のコール音が響いた。
「私だ。……ああ、上手くいったか。ならばそろそろ幕だな」
「また策謀ですか?」
「まあな。……状況は分かった。引き続き工作と情報の監視を頼む」
通信を終える。相手は裏方で動いているリシッツァだった。内容はなんと言うことはない。
タネを明かせばわざと作った諜報の穴、そこにリシッツァの手のものを食い込ませた。諜報という物は何も自分たちの人員だけでやるものではない。『外注』も当然ある。正規の(と言うのも変だが)諜報は全て目をつけられていると悟った連合側も、そう言った手段を利用しようとし、それをこっちがさらに利用してやったというわけだ。
まあ正確な情報は流してやってる。大概どうでもいいものではあるが。今回も嘘は言っていない。ただ本当はどこに居るか知らせてないだけで。
このまま戦いを続けていれば単なる大損。それが理解できないようなら本当に壊滅だ。はてさてどうなるか。
ややあって。
「撤退信号を確認。敵艦隊、後退を開始する模様です」
ようやく動きがあった。敵艦隊が信号弾を上げ、後退する様子を見せたのだ。
「さてこのまま素直に帰ってくれればいいが。……各セクション、警戒を怠るな。国元に帰還するまで油断はできんぞ」
帰還しても油断はできないんだけどな~。しかし配下にまで常時警戒を強いるわけには行かない。人材を使い潰すつもりはないからな。適度に交代させながら働いて貰おう。
それはそれとして、この後色々奔走せんといかんなあ。今回のことで各方面に色々と無茶をさせた。特に
……しかし、結局の所
何で分かるかって?
平穏無事は遠いなあ。俺は心の中で深々とため息を吐いた。
※ 他者視点
信号弾が上がったことを確認し、交戦中のネオは舌を打った。
「ちっ、頃合いか。何もさせてもらえずにっ!」
荷物――恐らくは特殊工作部隊をクーロンズポートに送り込むのが、彼らの第一の使命であった。だがそれはふざけた乱入者により阻まれ、個人的な目標であったリョウガ・クラ・アスハの殺害は成すどころか近づくことさえできてない。多くの難関をかいくぐり生き抜いてきた身からしても、中々にない敗北だと感じていた。
策謀で敗れ、戦闘でも押されている。やはり他人任せの策など上手くいくはずもないと、心の中で吐き捨てる。
自分の策がたまたま上手くいっただけと言う事実を棚上げし、次からは自分で動かなければなどと考えている。リョウガにメタ張られている時点で上手くいくはずがないとは気づいていない。
「その前に、ここを生き延びねばな!」
眼前の敵に攻撃を加えようとして――たたらを踏む。
「!?」
敵が後退したのだ。そのまま距離を取った敵機は、右手の武器を下ろし、「行けよ」とでも言いたげに顎をしゃくる動作をした。
「……私を見逃すとでも言うのか」
ぎり、とネオが歯噛みする。周囲の配下は撤退信号が上がるやいなや、牽制の攻撃を放ちながら撤退を開始していた。やはりいざというときはネオの指揮に従う気が無いと言うことだがそれはいい。ともかく情けをかけられたことに屈辱を感じていた。
しかしここで躍起になれるほど冷静さを捨ててはいない。僚機がいても五分だったのだ。
再び舌を打ち、機体を翻す。背後から追撃の様子はない。そのことにまた苛つきを覚えた。
「……この屈辱、忘れんぞ」
悔しげな呟き。彼の雪辱が果たされるか、それはこの先の運命がどう転ぶかによって決まるだろう。
見通しは非常に暗いと言わざるを得ない。
一方見逃した方である仮面の助っ人()であるが。
「やっと退いてくれましたか。おやつが切れる前に終わって何よりです」
ふう、とため息をはいてサラミソーセージの封を切る。それをむぐむぐと頬張りながら、レーツェルは呟く。
「次に相まみえる時があるかはわかりませんが……楽はできないでしょうねえ」
刃を交えて感じたことだが、あの灰色の機体を駆っていた人物には、なにか怨念じみたものがあったような気がする。ああいう人間は視野が広いようで狭く、うまくいかなくなるとなりふり構わなくなることが多い。多分この敗退で自分の望むことをあきらめることはないだろう。
「確実に討てればそれでよかったんですけれど。私の技量では取り逃がしていたでしょう」
勘である。確証はない。ここでけりをつけておいたほうが良かったかもという感覚もある。だが下手を打てばもっと大きな災いとなるという予感のほうが勝った。だから逃すという判断を下したのだ。
「……もっと強くならないといけませんね」
人一人が強くなったところでできることはたかが知れている。だが強くなることで確実になせることはあるのだ。
一人の男の意志を貫かせ、守るために。まだ少女の面影を持つ女は決意を改め。
サラミソーセージを嚙みちぎった。
さて、ギナを相手取っていたスウェンたちであるが。
「撤退信号!? ふざけんな! まだこいつを殺ってないのに!」
信号弾が上がるのを見た女性パイロット――【ミューディー・ホルクロフト】がヒステリックな声を上げる。彼女やスウェンを含むファントムペインの何割かは強化措置を受けていない素のナチュラルであった。しかし通常の軍人を上回る過酷な訓練や洗脳教育によって、コーディネイターと同等以上の能力を持つに至っている。
その代わりといっては何だが思考などに偏りを持ち、局所では精神的なもろさを発現する者も多い。ミューディーもそのような部分があった。
「コーディネイターのくせに! とっとと死んじゃえよォ!」
敵はコーディネーターだと決めつけて(実際そうであるが)両腕のビームを乱射する。放たれたビームはそも真っ直ぐ飛ばず、でたらめな軌道を描いてギナのスサノオを襲う。だがそれを難なく回避しながら、スサノオはミューディーの懐へ飛び込んだ。
「お帰り願おうか。それとも黄泉路への旅立ちがお好みかな?」
ギナの言葉。それと共に
「ミューディー!」
スウェンの機体に蹴り飛ばされて、難を逃れる。
「おいおい乱暴だな!?」
「普通の手段では間に合わん。悠長なことをさせてくれる相手でもない」
咎めるように言うもう1人、黒人の青年【シャムス・コーザ】に素っ気なく返し、スウェンは改めて言い直す。
「撤退だ。この状況では仕切り直さなければ、コーディネイターを殺せない」
スウェン本人はコーディネイターに対する敵意などほとんど無いが、同僚たちは『教育』の成果により憎悪を滾らせている。こういう言い方でもしなければ引かないという判断からの言葉だった。
「……ちっ、そう言うことなら仕方ないか」
「アタシはまだっ! こいつをっ!」
シャムスは不承不承ながら指示に従おうとするが、ミューディーは機体を立て直して戦いを続けようとする。心の中でため息を吐き出すような気持ちになりながら、スウェンはシャムスに指示を飛ばす。
「シャムス」
「あいよっ!」
左右からミューディーの機体に組み付き、そのまま離脱を図る2人。
「このっ! 離せっ!」
「はいはい大人しくしてくれ」
「こちらファントムペイン01。帰投する」
ジタバタ暴れるミューディーの機体を引きずるようにして、3機は去って行く。それを見送ったギナは、ふ、と呼気を漏らした。
「いまいち不完全燃焼ではあるが、やむかたなしか。……総員、深追いはするな。撤退する艦隊は放置し、洋上に逃れた者たちを救助してやれ」
残るは後始末。こちらに損害はほとんど無かったが、敵味方区別無く救助を必要とする者はいる。
分け隔て無く手を差し伸べるのは勝者の義務だ。それに追い打ちをかけるよりよほど有意義であろう。ギナは逃れる敵艦隊に脇目も振らず、てきぱきと指示を飛ばす。
「……ま、後の政治や何やらはリョウガの仕事だ」
完全に他人事で、そう呟くギナであった。
連合(というか大西洋連邦)のクーロンズポート襲撃は、凄絶に大失敗で終わった。
関係各所は喧々囂々。特に大西洋連邦内部とブルーコスモスは阿鼻叫喚である。軍部は責任の押し付け合いとなり、政府は反戦派の突き上げとオーブからの猛抗議によっててんやわんや。勝手な行動を取ったと言うことで、同じ連合であるユーラシア連邦と東アジア共和国からの突き上げも激しい物となった。
ジブリールは言うに及ばず。ブルーコスモス内部から非難され、ロゴスメンバーからも厳しい言葉をかけられる。急速に求心力を失う中足掻いているようだが、その立場は悪くなる一方であった。
こうして大西洋連邦は混乱し、オーブとプラントは幾ばくかの余裕を得た……
かに見えた。
※リョウガ視点
後始末と土下座行脚が一息ついた後、俺はユウナから報告を受けていた。
「……大丈夫か?」
「……死にそうだよ」
精根尽き果てたというか、雰囲気的に干からびてるユウナの姿。うん、正直すまんかった。流石にあの2人相手は荷がかちすぎたか。
「すまんな。お前以外にあの場を任せられる人間がいなかったんだ。首長連中は今手が離せんし、下手な人間だと話がこじれてたかも知れん」
「分かってるよ、分かってるんだけどね……」
そこでユウナはがばっと身を起こして吠えた。
「なんなのあの子!? ガンギマリすぎてない!?」
「だから言っただろうが、一筋縄じゃすまないどころじゃないって」
「ああすまなかったよ、すまないどころじゃなかったよ。まさかリョウガの近似種だとは思わなかった」
「まてコラ」
俺はあそこまでガンギマって無いぞ多分。
「自覚がないのってたち悪いよ?」
「失礼な。ただ平穏な生活を求めているだけだというのに」
「その平穏を求めるために石橋を叩いて壊してトラップだらけの鉄橋を作るってのはどうなんだろうね」
言うようになったなこの野郎。……ま、この分なら少しは気が晴れたか。
「それで、報告書は読んだが実際の所手応えはどうだ」
「切り替え早いね。とりあえず物別れには終わらなかった、ってところかな」
居住まいを正し、ユウナは真面目な顔で報告する。
「大筋はラクス嬢の提唱した『仮説』。まずはそれを双方ともに調べていく方向で話が進んだよ。あの仮説がどういう扱いになるかは、この先次第だねえ」
「毒劇物だ。そう簡単に切り札にはできんよ」
「良くて詐欺師扱い。悪けりゃ抹殺されるかもだからね。状況証拠だけじゃカードには弱いか。……でもあの2人ブタ札をジョーカーに見せかけるくらいはしそうだよ」
「できるだろうな。が、容易くはやらんだろ。確たる物がなければ後が続かん」
結局の所、新たな問題が生じたけどそれはそれとして、それぞれの勢力で和平の動きを加速させる方向で動こうって感じで纏まったようだ。大体はラクス嬢の筋書き通りだろうが、アズラエルも『無理難題』をふっかけラクス嬢に圧力をかけている。流石転んでもただでは起きない男だ。恐らくは件の仮説も自分に有利なように利用するだろう。
「まあこれで時間は稼げるだろうが……結局何一つ問題は解決してないんだよなあ」
「密談の仲介はしたじゃない。それに襲撃を返り討ちにしたのは大西洋連邦にとって結構な痛手だと思うよ?」
「密談の方は種を蒔いただけで、芽が出るかどうかはまだ分かりゃしないさ。仮説の件も、あるいは余計な火種を投じてしまっただけかもしれん。返り討ちの件は……」
俺はため息を一つ。
「黒幕があれで諦めるような人間だったら楽なんだが、多分めちゃくちゃ逆恨みしてるぞ。賭けてもいいが絶対虎視眈々と復讐の機会を狙っている」
思い当たる人間がどいつもこいつもそんなキャラだからなあ。大人しく負けを認めるようなら原作ああなってないわ。
……しかしそれにしても、やはりアズラエルはどうにも
妻子を持つとこうも違うというのか。あの娘さんなら毒気も抜かれるとは思う――
「……そうか。もしかしたらそう言うことなのかもしれんな」
「ん? どうかした?」
「大したことじゃない。アズラエル氏の態度が軟化した理由を考えてただけさ」
俺の呟きに反応したユウナに、そう言って誤魔化す。まあそっちの方は置いておいて、大西洋連邦とその他諸々を注視しておかにゃならん。必ず動きがあるだろうからな。
……とか思ってたら、早速動きやがった。
※他者視点
オーブの国際空港に、一人の人物が降り立った。
サングラスをかけた女性。その人物はただ歩いているように見えて、サングラスの下で周囲に鋭い視線を飛ばしていた。
(追っ手も監視も無し。当然か、正規の手段で入国したただのジャーナリストを警戒する必要など無いからな)
彼女のパスポートの名義は【ローラ・ロッテ】。フリーのジャーナリスト……ということになっている。
はいもう皆さん分かると思いますが。
マティスさんがオーブにINしました。
ルビコンでコーラル漬け。
とりあえず1週目はクリアしました。ごすずんアンタ聖人か。余韻も覚めやらぬまま2週目中です捻れ骨子です。
はいそういうわけで予言通り遅れましたすんません。ド下手くそでも頑張ればクリアできるゲームバランスで素晴らしいですねいや違った。あっさり返り討ちが終わって次の段階へと言うところです。マティスさんが直接乗り込んできましたがなんか策があるんですかね。まさかノリと勢いでという筆者みたいな真似をしてくるはずはないと思うのですが。(ぴこん)
会談がどうなったのかはぼかしてありますが、そのあたり徐々に話へと影響してくるはずです。決して筆者が収拾付けられなかったわけじゃありません。(目そらし)まあ突飛な展開になるかも知れませんがこれも全部乾巧ってヤツのせいですいわれ無き冤罪がたっくんを襲う嘘です。
はたして急転直下となるのか、それともマティスさんのポンが炸裂するのか。次回以降をお楽しみに。
では今回はこの辺で。