マティスの身柄が確保された。
うん何を言っているのか分からないと思うが俺にも分からん。警戒している中、単身で乗り込んでくるとか何考えてんだ。
「ホント、我が身内ながらなりふり構わないというか。あんなアホの子じゃなかったはずなんだけどねえ……」
ため息混じりに言うのは、ソファーで優雅に紅茶を傾けていたマティアス。なんで彼がここにいるかというと、拠点をオーブに移したからだ。
一族対策のため、いくつかの拠点を渡り歩く形だったマティアスだが、オーブがかなり本気で一族の対策を考え、おまけに自分と協力体制を築こうとしている事実を踏まえ、だったらオーブにいた方が安全じゃないと方針を変えたのだ。もちろん俺の正体は明かしてある(ってか前から感付いていた)ので、こうやって直接会うこともしてる。
今回はクーロンズポートでマティスのカウンターとして出張ってくれていたわけだが、結局出番なしでくたびれもうけさせてしまった。当然俺が頭を下げた一人でもある。
で、頭下げた端から
「アタシもこんなんなるとは思ってなかったわよ。ともかく事の成り行きは大体こんな感じね。……はい回想シーン、ほわんほわんほわんほわんほわ~ん」
「自分で言うのか、それ」
※他者視点
マティアスはオーブ内のホテルにしばらく滞在していた。
拠点をオーブに移しはしたが、まだ全ての環境が整っていない。そのためリョウガの用意したホテルで待機している状態だ。
(彼も気を遣いすぎよねえ。半分はアタシが望んだことなのに)
ラウンジでくつろぎながら、マティアスはなんとなく考え事をしている。
先だってのクーロンズポート攻防戦において、彼は潜入してくる可能性が高いと目されていたマティスと相対するため現地に赴いていた。リョウガからの頼みと言うこともあったが、何より自分が望んだのだ。決着を付けられるのであれば早いほうがいいと。
結局は無駄骨に終わってしまったわけだが、まあこういうこともある。マティアスはさほど気にしていなかったが、リョウガはわざわざ彼に頭を下げに来た。律儀というか何というか、やらかしが酷くとも信用されているのはこういう所かも知れない。
まあ付き合ってて退屈はしない人間よねえと、面白がっている風のマティアス。お互いに損得勘定で付き合っている相手だが、それなりに腹を割って話せる人間はそういない。結構貴重な知人となったリョウガに多少の手助けをしてやろうと思うくらいには、情が出てきたマティアスだった。
(……さて、のんびりしたいのはやまやまだけど、少しは野暮用を片付けないとね)
席を立つマティアス。拠点を移すのに際して、準備することは山とあった。大方は配下に任せ片付きつつあるが、それでも自分でやらなければならないことは多々ある。また今のうちに先立って用意しておかなければならないこともあった。季候のいいオーブでのんびりできるのは随分と先のことになりそうだと苦笑しながら、部屋に戻るためにロビーへと足を踏み入れる。
そこでチェックインを終えたらしい客の一人と目が合った。
「「あ」」
思わず双方間抜けな声を上げて固まる。それもそのはずで、目が合った相手はキャリーバッグを転がしていたマティスだったからだ。
鉛のような沈黙。雰囲気的に二人の間を風が吹きすさんでいったかのようだ。
ややあって。
「……なぜここにいる」
真剣な表情を取り繕ったマティスが問うてくる。この流れでシリアスするのぉと、内心げんなりしたマティアスであったが、表面上には出さずに軽い態度で返す。
「なぜって滞在してたからよ。ちょっと早めのバカンスってところね」
「これを偶然だと宣うか。何を企んでいる……と言ったところで素直に答えるはずもないか」
ふん、と鼻を鳴らす。マティスにとって兄であるマティアスは、色々な意味で裏切り者であり不倶戴天の敵であった。しかし心の奥底では憎みきれないという非常に複雑な関係だ。色々とこじらせているとも言う。
しかしながら、現在彼女には優先するべき物があった。ぶっちゃけリョウガ以外は些末ごとと思っている節がある。本人が自覚しているかどうかは分からないが。
ゆえに。
「……ここは見逃そう。私の邪魔にならない程度に好きにするがいい」
本人は鷹揚と思っている態度で言い放つ。言うように本人は見逃したつもりなのだろう。なんて言ったら良いのかしらと、少々気まずい思いでマティアスは応える。
「あ~、まあ、アタシはいいんだけどね。……『周り』がそれじゃ収まらないのよ」
さて、件の攻防戦が収まっても、年がら年中気を張っているリョウガは欠片も油断をしていなかった。当然ながら要人の周囲には気を配っている。
つまりは、だ。
『ガシャガシャガシャガシャガシャッ!』
ロビーやラウンジに屯している客や従業員、
そう、彼らはマティアスを警護するためのシークレットサービスである。マティアスをキーマンの一人だと認識しているリョウガは、これでもかと人員をつぎ込んでいた。
あまりにもあんまりな状況に、マティスは唖然とする。マティアスもどこか引きつった笑みを浮かべるしかなかった。
「うん、これはどう考えても過剰よねえ」
問答無用の詰み。再び鉛のような重い空気が流れる。
ややあって、そろ~っと両手が挙げられた。
※リョウガ視点に戻るよ
「ほわんほわんほわんほわんほわぁ~ん。……というわけよ。正直ちょっとやり過ぎだと思うんだけど」
咎めるようなマティアスの言葉に応えてやる。
「それだけの重要人物なんだよ、アンタは。下手するとうちの親父殿よりもな」
「もうちょっとお父さん大事にしてあげなさいよ。それはそれとして、これからあの子をどうするつもり?」
マティアスの問い。その答え如何によっては敵に回る可能性もあるだろう。しかし嘘をつくつもりもない。この場合にはそれが誠意だと俺は信じる。
「しばらくは軟禁状態だ。困ったことに彼女の名義、ローラ・ロッテは
マティスの表向きの顔。実はそれも結構な容疑がかかっていた。何しろ彼女が出没したあたりには様々な機密情報が流出した形跡があり、何かしらの諍いが起こっている。はっきりとした容疑が固まっているわけではなかったが、勘働きの良い者は薄々疑ってかかっていた。俺がそれを知ったのはつい最近である。
「アンタと話をしてから調べてみて分かったことだ。彼女も欺瞞工作をしていたようだが、うちの連中の勘が上回ったようだな。諜報部は拷問も辞さない構えだったが、頭を下げて止めて貰ってる」
元々知ってたけれども、マティアスからローラの名を聞いて調べてみたらうちの諜報部にめっちゃ目ェ付けられてんじゃん。しょっ引こうとした連中に土下座らなかったらマジで拷問コースだったかも知れん。俺が頭を下げたことでめちゃくちゃ恐縮してビビりまくった諜報部の連中には二重で悪いことをしてしまったかもしれんが、放っておくと目の前の御仁がどう動くか分からんからな。完全に情を断ち切っているわけでもないだろうし。
「今のところは手荒なまねをするつもりはないが、状況によって扱いは変わるだろう。特にこれから一族とやらがどう動くかによってな」
「確かに、党首が捕らえられたとなったら動かざるを得ないでしょうね。下手をすれば全面戦争よ? ……って言いたいところだけれど」
マティスが率いている一族。普通に考えれば党首がこちらの手中に落ちているのだ。奪還などを考えないはずはない。だが、マティアスは何か懸念があるようだ。そして
そんなことなど欠片も表に出さず、俺は「何か?」と問いを投げかけた。
「ここ最近の一族、どうにも妙なのよね。いやあの子がポンコツになってるってのが最大の要因かも知れないけれど、それにしたってあの子を
後で配下と合流する予定だったのかも知れないけれど、とマティアスは結ぶ。実際原作でもマティスはジャーナリストとしてそれなりに痕跡を残しており、裏では自ら特殊部隊を率いるようなこともしていた。組織の長としては確かにフットワークが軽いが、それは俺やマティアスも人に言えた義理じゃない。そのあたりは何とでもなる。
が、原作ではマティスが消えた途端、一族は瓦解している。特撮の悪役組織じゃあるまいし、ボスが消えたら即解体というのは極端すぎる。しかし逆に考えれば、
大方実は一枚岩じゃなかったとか、理由はあるだろう。今はその予想をおいといて、マティアスに対応する。
「……となると、この後の行動がどうなるか、だな。彼女を救出する方向に動くのか、それとも……」
「見捨てる、あるいは一族の機密が漏洩するのを防ぐために……」
そこまで言ってマティアスは、指で自分の首をかっ切る仕草をした。まあ、普通に考えればそうなる。
「マティスの身柄が確保されたのは、連中も知るところだろうな。表裏で警戒はさせているが、出し抜く手段くらいはあるだろう?」
しれっととぼけて俺は言う。
「……アタシが頭目だったら、いくつか思いつくわね。今の一族がどれほどできるか分からないけれど」
「破廉恥だと思われるかもしれんが、一つ頼まれてくれないだろうか」
「みなまで言わなくて良いわよ。一族対策に協力しろってことよね? もちろんOKよ」
「即断か。気前がいいな」
「これはアタシ自身の身を守るためでもあるわ。それに、アナタに貸しを作っておくのも悪くないし」
茶目っ気たっぷりにウインクするマティアス。打算はあるだろうが。
「精々利子を付けて返せるように努力するさ」
互いに苦笑。こうして俺達は共同戦線を続行する運びとなった。
「一族が内部分裂したわ」
「……マジか」
そして何もしないうちに片がついた。
唖然とした顔を繕って……いやあながち演技でもなく俺は応える。うすうすそうなるんじゃなかろうかな~って思ってたけど、展開が早すぎませんかねえ!?
「うちの連中にめぼしいところ張らしてたんだけどね~。なんかそれぞれがあの子そっちのけでばらばらに動き出しちゃって。なんか内部抗争始めたところもあるみたい。こっちに手を出すどころじゃないわねこれ」
元々一族とは敵対しており、命を狙われていたがゆえに、マティアスは一族の情報を可能な限り集めていた。そんな彼が言うことだ、まず間違いなく一族は空中分解している。
う~む、内部分裂自体は予想通りなんだけど。一族の瓦解自体は原作通りの展開だし。しかし展開が早すぎる。捕らえられているとは言えまだマティスは無事なんだから、奪還なり何なりアクション起こさずに、原作みたく速攻で瓦解というのはおかしいと思う。
ともかく原作知識を余所においといて、俺はマティアスに問うた。
「党首の存在を放っておいて内部分裂? 彼女を捕らえて一月も経っていないぞ。元々権力争いとかあったのか?」
「そういうわけじゃないのよ。ほら、一族の様子がおかしいって言ったじゃない。あれどうも
……あっるぇ? どっかで聞いたような話なんだけど。思ったより連合の財界にダメージ与えてねえなあ(注・リョウガ主観)と思ってたら、そっちに影響与えてたんかい。
これは流石に予想外。まあマティスの身柄確保からの流れが全部そうなんだが、うれしい誤算とは言えんなあ。
「……これってひょっとすると、状況が落ち着いたら分裂した派閥のそれぞれが人類の管理を名目にして、好き勝手に動いたりせんか?」
「………………あ”」
マティアスも気づいたようだ。そも一族は世界各所に分散している。分裂してそれぞれ勝手に動き出したら、とてもじゃないが手を回せん。対症療法しか打つ手がなくなるわ。
つーかこれ、外伝のカーボンヒューマン騒動とか前倒しにならんか? まだ戦争の行く末も定まってないのに益々混乱するじゃねえかクソが。
マティスがいない今のうちに各個撃破……といけばいいが、生憎はっきりとした敵対行動を取ってもいないのに、こっちから手を出すわけにはいかん。……いや待てよ?
「……さっきの話から考えるに、経済的な打撃を与える方向なら弱体化を狙えるか?」
「なんか邪悪な顔になってるわよアナタ!?」
なぜどん引くかマティアスさんよ。このくらいなら普通だろう普通。
ともかく改めて一族残党に対する方策は決まった。資金源をそぎ落とし、実力行使に出るならモグラたたきだ。もちろん油断はできないが、優先順位はかなり下がることとなる。各勢力にかなり食い込んでいるだろうから、完全な殲滅は難しいだろうし、いきなりわけの分からんびっくりドッキリ技術持ち出してくる可能性はある。だが組織としての規模は分裂して小さくなっているだろう。脅威度は低い……といいなあ。
結局地雷が増えただけのような気がするが、前向きに考えんとやってられん。マティアスも動きやすくなったし、どうにかしてみせるさ。
……どうにかなるといいなあ。
全ミッションクリア~。そして対戦にハマりつつある。
勝率3割ってところですが、まだアセンが煮詰まらない。対戦相手は当たるのに自分で使うと当たらない武器の多いこと多いこと捻れ骨子です。
さて愚痴はさておき、一族編開始! そして終了! なお話。まさかナレ死するとは誰も思うまい。俺も思わなかったわ。当初は引っ張ろうかと思ったんですが、また延々と長くなりそうだったので手短にしようとしたらこの有様だよ。多分今後はひょっこり思い出したかのように一族残党の技術が出てくる……かも知れません。最低でも考えていた分は出てくると思います。ただしナレ死するかもですが。
いい加減この戦争も終わりに向かうのか。それとも変な方向に向かうのか。期待せずに次回を待て。ってなところで今回はここまで。