軟禁されている部屋の中。マティスは暇を持て余していた。暇を持て余していたと言うよりは――
「……おかしい」
身柄を拘束されたとき、彼女は弁護士を呼ぶように要請し、後は黙秘を貫いた。だが弁護士とは連絡がつかないと一方的に告げられ、後は尋問されることもなく軟禁状態に置かれた。当然ながら私物は全て没収されている。
そこまでは良い、想定の範囲内だ。ネットやTVは使うことを許可されているが、入力はできないようにされているため外部との連絡を取ることは不可能。これもまた想定内だ。
そもそもの計画ではジャーナリストとしてオーブで実績を作ると同時に、一族の者を手引きして国内に橋頭堡を築く。その上で取材などを名目にリョウガとの接触を試みる……と言った予定だった。その際何らかのミス、あるいはそれ以外の事情で身柄を拘束されることも想定していた。そのためにいくつものプランを用意していたのだが。
自分の手の者が動けば、TVやネットでそれが分かるようなアクションを取るよう指示を出していた。だがそれと分かるような情報は欠片も出てこない。オーブ当局による情報規制も疑ったが、一族の行動を把握しているはずは……。
「いや、
実の兄であるマティアス。彼から情報の提供を受けて対処した可能性があると思い当たった。であればあの過剰なまでに用意周到なリョウガ・クラ・アスハが、その采配を振るったのだろう。用意したプランは全て潰されたと考えた方がいい。
だが、そこまでされたとなれば一族も反応する。曲がりなりにも
「今は待つ、か」
一族が動くことを信じ、マティスは虎視眈々と機会を窺う。
なお一族が空中分解してると知って愕然とするまであと1週間。
さて、作戦が失敗し尻尾を巻いて逃げ帰ったネオことクルーゼ。さぞかし苛ついていると思いきや。
「ブルーコスモス過激派の勢いは落ちたか。世間では盟主が穏健派に鞍替えし、時勢が変わると見ているようだが、まあ事はそう容易くは運ばないだろうな」
なんかニュース見ながらくつろいでいた。
随分と余裕である。もしかしたら一周回って開き直りすぎたのかも知れないと思われたが。
傍らのタブレット端末が、受信音を奏でる。クルーゼはそれを手に取った。相手はいつもの顔を見せないスポンサーであった。
「やあ、加減はどうかな?」
「すこぶる順調だとも。気分も悪くない。……まさかこのように穏やかな気分になるとはね」
完全にリラックスした様子で応えるクルーゼ。実際彼はサングラスに緩い格好というバカンスモードだった。
何でこんなにユルいことになっているのか。しばらく彼らの会話に耳を傾けてみよう。
「休暇だとでも思いたまえ。どの道しばらくは我々も身動きが取れない」
「随分と忙しそうだな。何の力にもなれなくてすまなく思うよ。私は戦うことしか能が無い男なのでね」
「ご謙遜を。戦いの才能だけで白服は着られまい。……まあそれはいい、本題に入ろう。
「……いよいよか」
クルーゼの笑みが深まる。
「こちらから提案しておいてなんだが、良いのだね?」
「もちろんだ。むしろ感謝しているよ。最初は今更と思っていたが……しかし気が変わった。私はどうやら生き汚いようだ」
「以前も言ったが、実験的要素もある。そういう意味でも君を自由にさせるわけにはいかなくなるが」
「構わんよ。今更ザフトには戻れんし、かといって連合につく気もない。それにあなたたちと連む方が面白そうだ」
本心を語っているのかどうなのかは分からない。だが表面上、クルーゼは心底楽しそうであった。正直不気味ですらある。
「首尾良く施術が成功した暁には、あなた方に全面協力すると約束しよう。どの道上手くいかなければ死ぬだけさ。気楽な物だよ」
「全力は尽くさせて貰う。……正直使える戦力は喉から手が出るほど欲しい。君を失いたくはないのだよ」
「信じるさ。後がないのは私も同じだ」
「痛み入る。……では詳しい日時と流れ、注意点などを纏めて送る。目を通しておいてくれ」
その後いくつか言葉を交わして、通信は終わった。会話を終えてからもクルーゼの機嫌は上々のようで、くつくつと笑い声すらこぼしている。
「……ひょんなことから
どうやらクルーゼは後援者の手引きで何らかの手術を受けるようで、それは彼の延命のための物のようだ。
クルーゼはある人物の『不完全なクローン』である。急速に成長するよう『加工』され、それがゆえにテロメアの寿命が短く、現在急速に老化しつつあった。だが彼の出自を知っているらしい後援者は、延命の手段があると持ちかけてきたのだ。
本来であればもう少しクルーゼが『使えるか』確かめてから話を持ちかけようとしていたようだが、どうやら彼らの組織自体に何らかの致命的なことが起こり、戦力を含む勢力が激減したらしい。ゆえに予定を繰り上げ、クルーゼを本格的に取り込むため、延命の用意があると明かした。
今更とも思ったし、眉唾物の話であるとも思った。だが詳しいことを聞きだしてみれば興味が湧いた。不完全なクローン技術に代わる、
話の全てを信用したわけではないが、どの道放っておいても長くない命だ。それにこのままでは己が企んだことも上手くいきそうにない。まあとんでもない方向に突っ走っていく可能性が大きいわけだが、どうせならば自分の手で状況を引っかき回し、その行く末を見てみたいという欲がある。そのために寿命を伸ばせるのであれば、そう考え直した。開き直ったというか、生き延びることに前向きになったようだ。その原動力はろくでもない物であったが。
そうなると現金なもので、多少浮かれたような気分になっている。これまでも開き直ってはいたが、苦しみの中いつ果てるとも分からないという状況にやはりストレスを感じていたのだろう。全てが取り払われたわけではないが、気持ち的にはかなり楽になっている。
後援者の裏切り……と言う面に関しては、実のところあまり心配はしていない。先も言ったとおり、彼らの勢力は減じている。使える駒は喉から手が出るほど欲しいだろう。先のことは分からないが、現状ではまだ自分を切り捨てる事は考えていまい。『首輪』くらいは付けられるだろうが、その程度なら許容範囲だ。
精神的に余裕ができてくれば、色々と思うところはある。世界に対する復讐的な気持ちは変わらないが、それ以外のことも視野に入れられるようになって来た。
「そうだな、件の技術。その存在を機会があれば
何やら新たな企み的なことも考え出したようだ。明るく楽しく生きる方じゃなく、ヤバそうな方ヤバそうな方に舵を取るのは、最早習性と言えるかも知れない。
とにもかくにも、クルーゼはしばし活動を控え、地下に潜ることとなる。その再起の時は、いつになるのか。
ロード・ジブリールは憤っていた。まあその要因の大体が自業自得による物なのだが、本人は欠片も理解していない。
「おのれアズラエル! 裏切り者の分際でよくも臆面無く謀ってくれた! それにオーブめ! たかだか小国家風情がこの私にたてつくとは!」
先のクーロンズポート襲撃にて、散々戦力を磨り潰された挙げ句、とんでもない無駄足だったと理解して彼は怒り狂った。おまけにアズラエルが意気揚々と引き上げてきて、『ある程度の成果があった』と報告までした物だからさらに倍。アズラエル本人は「まだとっかかりにもなりませんよ」などと謙遜していたが、ブルーコスモスの人間としては初の交渉であり、また今後の展開も見込めると言うことで、穏健派をはじめとした多くの人間からは好意的に受け止められていた。ブルーコスモスだけでなくロゴスの中でも、利に聡い者はアズラエルの派閥に鞍替えすることを考慮しているようだ。
面白くないどころじゃない展開だった。どいつもこいつも日和見で、誇りの欠片もない。コーディネーターごときになぜ妥協せねばならないのか。地球が一つになれば連中など一掃できるというのになぜそれが理解できない! そう思考し言葉に出しついでに周囲の物に八つ当たる。
ジブリールに誇りなんて物があるのかどうかはさておいて、いくら憤ろうが彼は
さらには支援をしていた後援者の一部と連絡が取れなくなっていた。先の戦いで一部の戦力を提供したのは彼らであるが、その戦力は引き上げられており弱体化の要因の一つとなっている。早々に見切りを付けて手を引いたのかも知れない。風見鶏どもがと、また一つジブリールはへそを曲げた。
もちろん一部の後援者とやらは一族の手のもので、連絡が途絶えたのは内部分裂でゴタゴタしているからなのだが、そんなことをジブリールが知るよしもない。いずれにせよ彼には時間が必要であった。
もっとも時間があったからといって立ち直れるかは別問題だが。
「何とかして損失を取り戻さなければ……こんな時にどいつもこいつも役に立たん!」
役に立たないのではなく、そっぽを向かれ始めているのであった。沈没する船から逃げ出すネズミのように、ジブリールの周囲から人は距離を取り始めていた。結構長く彼に仕えていた者すら職を辞したりしている。残るのは彼と同様に時流の読めない者か、前任者ほどの技能や才能を持っていない者たちばかりだ。
周囲の人間の質は落ちる一方で、それがまたジブリールを苛立たせる。負のスパイラル一直線である。彼に与する派閥の人間も同様で、ブルーコスモス過激派は段々と追い込まれつつあった。
まだ一般人のブルーコスモス支持者はいるだろう……と思われるかも知れないが、実はそう簡単にはいかない。
エイプリルフール・クライシスの後、被害を受けた国や人々は憤り、ブルーコスモスはそれを煽って戦意を高めた。そこまではいい。だがブルーコスモスは戦争に駆り立てるだけで、アズラエルや穏健派などの一部の例外を除いては、
ここで注目すべきは、オーブは表向き『連合とプラントの双方を非難した』ことだ。中立だから当然と言えば当然だが、リョウガは血のバレンタインとエイプリルフール・クライシスの情報を多く流布させた。その上で「ビームも出せないようなのを新人類とか化け物とかプークスクス」(意訳)と煽ったりしたわけである。プラントはともかく、地球側は自業自得どころか、多くの国は巻き込まれただけと言っても過言ではなかった。で、実情を知ってしまえば、かなりの民衆が「どっちもどっちやないかい。両方とも大概にせえよ」ってな気持ちになっても致し方あるまい。
そしてザフトは占領した地域、プラントよりの国家と協力関係を結ぶ。まあ多くは地球のナチュラルを見下していたりもするが、損得勘定で付き合う以上あまりあからさまな真似はできなかったし、中にはバルトフェルドのように地域との融和に尽力する者もいたりした。『何もしないで煽るだけのブルーコスモスよりはマシ』。該当地域ではそう言った空気も出てくる。
結果、民衆の中でブルーコスモスを支持する者は、原作に比べ驚くほど少ない。そしてその少ない狂信者とも言うべき人間たちは、すぐテロに奔ったり自爆したりするものだから、すごい勢いで数は減っていくわブルーコスモスの悪評を高めるわで、実は足を引っ張りまくっている。そりゃアズラエルもキレる。キレて見限ろうとする。
そんなわけで、ブルーコスモス過激派は実際風前の灯火まっしぐらだったりした。
「絶対にこのままではすまさん……必ず私を虚仮にした連中に鉄槌を下してくれる!」
そんな事実を理解したくないのか見たくないのか、ジブリールは気炎を上げ続ける。
どう考えても詰みつつある彼の明日はどっちだ。
「お前の娘、正気か?」
「……最近いまいち自信が無い」
そんな言葉を交わすのは、プラント国防委員長パトリック・ザラと、プラント評議会議長シーゲル・クライン。彼らはクライン邸にて密かに会合していた。
話題はラクスの行動。シーゲルとパトリックのみに伝えられた
「勝手なことを……と言いたいところだが、彼女に全権を与えたのは我々2人だ。それにオーブの介入があったと言う事実を無視するわけにもいかん」
「意外に冷静だな。もっと憤慨する物と思っていたが」
シーゲルの言葉に、パトリックは不服そうに鼻を鳴らす。
「ふん、機嫌は損ねているさ。だがそうも言っておれんだろう。ラクス嬢の話が本当であれば、向こうはある程度の妥協も考えている。あるいは屋台骨が揺るがされているのかもしれん」
「そこにつけ込める、かも知れないと言うことか。だがそのように誘導されている可能性もある」
「油断のならぬ相手というのは重々承知している。だが、このままではらちがあかぬと言うことはお前も理解しているだろう」
渋面ではあるが、随分と理性的な台詞である。原作とは大分違うようだが、それも当然かも知れない。
何しろ原作では息子がやらかしたり、その婚約者がやらかしたり、無敵の人が暗躍したり、作戦が失敗したり、機密情報が流出したりと散々で追い込まれていたが、そのほとんどがない。
アスランがオーブに捕らえられるというハプニングこそあったものの、彼自身は何の問題も起こしておらずラクスに振り回されていて、パトリックの胃にダメージを与えていない。戦況も膠着状態であるが、原作ほど戦力は減じておらず――何しろバルトフェルド隊を筆頭とする主戦力は健在な上、オペレーション・スピットブレイクをやってないので地上の戦力はかなり保持している――中立国との関係も良好になりつつあり、支援もあってプラント内には多少の余力が生じていた。『いくつかの問題』はまだ残っているものの、まだ追い込まれるほどではなく、精神的にも余裕がある。
……こうなると大体の問題の起点となっていたアークエンジェルって、相当に疫病神だったんじゃなかろうかと思える。まあ当の足つきは現在大西洋辺りをたらい回しにされているようなので、関わり合いになる予定は今のところ無い。
ともかく原作ほどにパトリックは苛ついていなかった。怒りと憎悪が収まったわけではない。ただ余裕が出てきたことで『頭が冷えてきた』らしい。
「私が言うことではないが、プラント市民を煽り戦意高揚を図ったことで戦時以外のことがおろそかになりつつある。圧倒的に人手が足らん。かといって交渉しようにも落とし所が難題だ。生半可な妥協では市民は納得せんだろうし、今の状況を優位だと勘違いしている者もいる。
「……
シーゲルが重々しくため息を吐く。無責任な話ではあるが、彼は地球が受ける被害をもっと軽く見ていた。なぜならば
そもなんであれほどNJをばらまいたのかと言えば、戦略的に地球全土を麻痺させる必要があったのと、かなりの数が迎撃されると想定していたからだ。連合関係を麻痺させるのであれば、現状の2割もあれば事足りた。そも敵対してるプラントからの飛来物である。NJのようなものでなくともミサイルの類いだと疑って迎撃しようとするはずだろう……という目論見があった。
実際は思った以上に迎撃態勢が整っておらず、大被害を与えてしまったわけだ。プラント側が連合を過大評価していたのと、連合がプラントを寡兵だと舐めきっていたという、不幸どころか天災級の行き違いであった。
これによりシーゲルは二重の意味で頭を抱えることになる。想定以上の被害を与えたことにより地球の敵意は増大し、プラントには「連合恐るるに足らず」と言った空気が流れるようになってしまった。パトリックを中心としたタカ派はそれに乗じて戦意を煽りまくり戦争を推し進めたわけだが、ここに来てその『反動』が露わになった。
『人手が不足してきている』という単純ながら根本的な問題である。そもパトリックも電撃戦で連合を下す短期決戦を想定していた。だがオペレーション・ウロボロスは未だ成されておらず、現状を維持するためにも戦力を引き上げることができない。物資が何とか回っても人がいなければ生産も何もかもが後手に回る。そして市民の多くが戦争に傾注していく物だから軍事にばかり人手が回るという状況だ。流石のパトリックも問題視し始めているが、煽りまくった立場であるためそう簡単に意見を翻すことはできなかった。
今すぐではないがいずれ破綻する。それはパトリックも望むところではない。だからこそ二人して頭を抱えているわけだ。
「NJを停止させるわけにはいかん。あれがあってこそ互角に戦況を維持しているのだ。だが交渉するのであれば、あれの即時停止を連合は求めてくるに違いない。それを呑むとなれば……『別の切り札』が必要になる」
「【ジェネシス】か。だがあれはまだ
「うむ。情報の漏洩があることを鑑みて開発は慎重に進めているが、逆にそれが仇となって進まん。かといって無理に穏健派を取り入れれば反発を招く。危険を冒すわけにもいくまい」
どうもザフトの切り札たる兵器は、開発が遅れているようだ。原作との乖離が、このあたりにも影響を与えていそうである。
「であればまだ交渉の材料は心許ない、か。そも砲艦外交などやりたくはないが」
「無い袖は振れんよ。技術や素材は友好的な中立国に提供するので手一杯だ。それに中立国は中立国。いつ手のひらを返されるか分からん。オーブなどは仮想敵国と考えておくべきだろう」
「強く否定もできん。現にプラントへの対抗策を立てているからな。……加えてこちらには出生率の問題などもある。体外受精を推奨し、受精卵分割による妊娠率向上などを模索しているが、はっきりとした数値の向上は見られていない」
「腰を据えてかからねばならない話だ。かといって悠長に構えているわけにもいかん。場合によってはクローン技術の研究を加速させることも考慮に入れておかねば」
「やむをえん、か」
頭を悩ませながらも、シーゲルは内心安堵していた。パトリックは十分に落ち着きを取り戻し、地球側との交渉にも前向きな姿勢を示している。良い兆候だ。前途は多難だが、このまま和平にまで持って行ければと、淡い希望を抱いていた。
しかしパトリックの方はと言えば。
(このまま無闇に消費していくわけにはいかん。何とかして力を蓄え、討って出る機を掴まなければ)
そう、パトリックはナチュラルを叩き潰す事を諦めたわけではなかった。今は雌伏の時と判断しただけである。
未だ狂気には犯されていない。しかしそれ故冷静に冷徹に、確実にナチュラルへと痛打を与えるべく、彼は画策していた。
内心で決定的な齟齬を抱え、表面上は協力し合って事を成そうとするトップ2人。これがプラントの運命をどのように導くのか、まだ定かではない。
自分で自分にクリスマスプレゼントを買う! こんな空しいことがあるか!
いいんだよ好きな物が買えるんだから。ガスブロライフルは最高だぜヒャッハー! ……さて、AC6のランクマッチで負けたり負けたりしてくるか(現実逃避)捻れ骨子です。
はい大分遅れて申し分かりません更新です。もう題名そのまんまですね。特にクルーゼさん、なんかいい空気吸ってるぞおい。彼の後援者についてはおぼろげながら見えてきたと思いますが、多分皆さんの予想通りです。じゃあなんでマティスさんの命狙ってる様子を見せていたのか。それは多分未来の自分が考えてくれるでしょう。(無責任)
その他の人たちも色々ありそうですが、果たして物語はどうなっていくのか。それは来年を待て! と言うことで今年はこれが最後の更新となります。
本年も大変お世話になりました。皆様良いお年をお迎えください。