どうやらやっとプラントが重い腰を上げたようだ。
友好的中立国を通した非公式の接触。まだ交渉とかそういう段階ではなく手探り――情報収集と言ったところか。悠長なことをと思う者もいるだろうが、これまで散々あったんだ。慎重にもなるだろうし用心深くも疑い深くもなる。
この様子だと、ラクス嬢も流石にコーディネーター関連の話をぶっちゃけたわけではなさそうだな。だったらもっとてんやわんやしているだろう。時間をかけて……と言うわけにはいかないが、焦らず機を見て情報を小出しにしていくつもりと見た。何しろプラントの首脳陣は、自分たちが仕組まれた存在である可能性など認めがたいだろうからな。ある意味他人事であるアズラエルとは根本が違っている。慎重であるに越したことはない。
このまま交渉に持って行ければいいが、欠片も油断ならん。プラントも地球も爆弾と地雷がそこらに埋まっているし、一族は崩壊したとはいえその残党は雲隠れ。とりあえずめぼしい所に経済的な攻勢をかけているが、どこまで効果があるか分からん。仮にも長い歴史のある存在。俺が手出しできない財源がいくつかあってもおかしくはなかろう。
色々と用意がいる。と、その前に。
「いい加減、会わなきゃならんだろうなあ」
ため息と共に呟く。これまで中々時間が取れなかったが、先延ばしにするにしても限界がある。情報部にも悪いしな。
「それに、聞き出しておきたいこともある」
決意を固めるためにも口に出し、タブレットを取った。そしてある人物に連絡を取る。
さて、鬼が出るか蛇が出るか。いずれにせよろくな展開にはならないだろうなあと予感しつつ、俺は席を立った。
「直接会うのは初めてだな。リョウガ・クラ・アスハだ」
対面に座る人物は、睨み付けるような表情で俺と相対している。そして。
「立ち会いをさせて貰うわ。文句は……無いわよねえ?」
俺の傍らにはマティアスの姿。苦笑しているが、本人複雑な思いだろう。そう、俺が相対しているのは一族の『元』党首、マティスだった。
彼女と直接対峙することに周囲はいい顔をしなかった。当然のことだと思うがしかし、他の人間が尋問しても口を割らないだろう。もっとも俺が尋問を行うことで余計にこじれる可能性もあるのだが、状況を進める一手として、そして『世界の裏側を暴き出す』きっかけになるやも知れない。やらないという選択肢はとれなかった。
一応腕利きの護衛官が後ろに控えているし、俺も服の下は本気武装なので大事には至らないと思う。油断はならんけど。
「さて、素直に喋ってくれるとは思わないが、貴女には色々と聞きたいことがある。……その前に、言いたいことがあれば聞こうか」
通常であれば容易く揺さぶりをかけられる人物ではないが、今の彼女は足下が崩れ去った状態だ。精神的に弱っているだろう。そこに付け入ることは不可能ではないと見る。
油断ならないことには変わりないけど。
ともかく俺の言葉に対して、マティスは睨み付けるような表情のまま、唸るように言葉を発した。
「……私をどうするつもりだ」
「貴女の対応にもよるな。もっともこちらとしては無体なことをするつもりはない。最低でも捕虜としての権利は守ると約束しよう」
情報部としてはスパイ扱いで人権も取り上げたい所だったろうが、この扱いは何とか飲ませた。場合によっては味方に引き入れることも考えているからな。本当に無体な扱いはできん。
さてどう出るかと考えていたら、マティスはこう出た。
「白々しい……どうせ私を慰み者にし、肉欲で縛って己がハーレムの一員に仕立て上げようとしているのだろう。分かっているぞ」
ぎ、と俺の身体が傾いだ。そ~くるか~。
「……そういうのも含めて無体なことはしないと言っているんだが」
「最初はそう言って騙すのだろう。身体は汚されても心までは思い通りになると思うなよ。……はっ! まさか
あんなことからそんなことまで!? ああ! などと言いながらくねくねもだえ始めるマティス。俺は深々とため息をついた。
「……身体張ってるところ悪いが、
ぴたりとマティスの動きが止まる。そして居住まいを正し再び睨むような目つきとなった。
「……この程度では動揺もせんか」
そう、今の会話
が、流石生き馬の目を抜く世界で生きてきたのは伊達ではない。半分ポンコツに侵食されつつも、捕らわれの身かつ先行きが分からぬこの状況で、『次の身の振り方』を考えていたようだ。何で分かるのかって? 彼女の立場でこの状況で取れる手段ってのは限られてくるからだよ!
「ペースを崩そうというのは交渉手段の一つだからな。私の周囲を知っているのであれば、そう言ったやり方を選んでも不思議じゃない」
主にどっかの姫さんとか姫さんとか姫さんとかのせいだ。端から見れば俺との距離はものすごく近しいだろう。恥も外聞も捨てる気ならば、そのようなキャラで迫って来てもおかしくはない。そして今のマティスはそれができると言うことだ。
だがそう簡単には通じないと理解したようで、普通の態度で話を進める。
「言いたいことは山とあるが、それは後回しにさせて貰う。……単刀直入に聞こう。私に何を望む? 情報を引き出すだけではあるまい」
まあ分かるわな。彼女自身も『売り時』は考えているだろうし。
「こちらの条件と貴女の要望のすり合わせができるのであれば、
隠すことなく言う。仮にも一族を率いていた人間だ。その才能が失われるのは惜しい。毒劇物ではある。だがこの先はまだまだ面倒ごとが待ち構えている。彼女の才能はそれを切り抜ける力となるはずだ。
……ぶっちゃけ俺の苦労を少しでも肩代わりする生け贄が欲しいんだよ! マティスなら能力的には十二分というか、俺に匹敵するかも知れない。性格的なことや色々なしがらみがクリアされれば、即戦力になるのは間違いない。
逃がさへんでぇぐへへへへ……と内心思っても俺は悪くない。悪いのはこの世界だ。(←かなりマジ)
そして多分、マティス自身も自分を売り込もうと考えているはずだ。何しろ一族は瓦解しているし、下手をすれば残党から邪魔者として命を狙われかねない。身の安全を図るためにもこちらの庇護下に置かれようと画策していたのだろう。まあ初っぱなからあの言動は、不意を打つにしてもアレではあったが。油断を誘うつもりだったと好意的に解釈しておこうお互いのために。
さてマティスの反応はというと。
「……随分と破格な待遇だな。確かに私は相当優秀だという自覚はある。だがそれを差し引いても、身内に引き入れるデメリットは多い。どちらかと言えば、『その男』を引き込んだ方が良いのではないか?」
マティスが指すのは傍らのマティアス。うん、確かに能力的にはマティスと同等かそれ以上なんだけどね。
答えはマティアス本人が肩をすくめながら出す。
「アタシは自前の勢力持ってるから。今それをやめるわけにはいかないし、とてもじゃないけど二足のわらじ履いている暇なんて無いわよ」
なにしろマティアスいなくなったら暴走しかねない勢力だもんなあ。彼がそういう風に作り上げたってのもあるけれど、いきなり解体というわけにはいかないだろう。一族じゃあるまいし。
未だ残党から命を狙われる可能性がある以上、彼自身の安全のためにもしばらく組織は維持していく必要がある。協力関係にはなれるが本格的に引き込むのは当面難しい。
「そう言うことだ。だが同等の能力を持つ人間が、フリーで目の前にいる。諸々の問題に目を瞑れば、スカウトしたくもなるだろう」
「いけしゃあしゃあと……私がフリーになったのはそちらのせいだと思うのだがな」
俺達だけのせいじゃないと思うぞ~、組織ちゃんとしてなかったからじゃないかなって。
まあそれは棚に上げておこう。まだスカウトできると決まったわけじゃないからな。
「邪魔であれば対策をする。そちらの組織も散々やって来たことだと思うが、まあそれはいい。……本題に入ろう。先にも言ったが少々聞きたいことがある。スカウトの話はそれ次第だな」
「ふん、素直に応えなければ……ということか」
「精々一生自由がなくなる程度さ。で、聞きたいことと言うのは
『覚えている前世の記憶』では、そこら辺はっきりしていなかった。しかし『例の件』に関して一番の容疑者は一族であろう。それができるだけの技術、財力があり、
……面倒なことになる予感がすごくするなあ。
といった俺の内心はさておいて、少し考えるそぶりを見せていたマティスが口を開く。
「ふむ、なるほど。党首を継げなかったその男の知識は不完全だったと言うことか」
「まあね。引き継ぐべき全ての情報、知識をアタシは得ていない。一族の全てを把握しているとしたら、党首であった者だけよ」
そう言うことだ。まあマティアスも隠していることの一つや二つはあるだろうが、無理矢理それを引き出そうとして敵に回すつもりはない。
「買い被ってくれるな。私とて一族の全てを把握していたわけではない。でなければ捕らえられた程度で空中分解などする物か。……それにコーディネーター問題などと、ある種『一族のタブー』を突いてくれる」
「タブー? 語れないと言うことか?」
俺の問いにマティスはかぶりを振る。
「いや、もう一族と言うしがらみがないのだから、意味のないものだろう。……確かに一族は、コーディネーターを生み出すことに関わっていたらしい。だが、
「ほう? 貴女が知らないと言うことが、タブーにつながるというわけか?」
マティスは一族の権限を自身に一点集約し、組織を掌握していた。その彼女が全てを知らないと断言する。何かあるのは間違いない。
「そうだな、少し長い話になる。事の起こりは四代前の党首のころだ」
マティスの話によると、今から百年以上も前に一族で遺伝子デザインの研究は始まったという。元々一族は優秀な遺伝子を取り入れ選抜し、脈々とそれを続けてきた経緯がある。その中で、もっと効率よく優秀な能力を『生産』できないかと考えた人間が出てきたわけだ。
色々物議はあったようだが元々倫理観がどっかずれてるような連中だ。いくつかのセクションでその研究は行われ、その一つは外部の機関と共同で行い、そして……コーディネート技術の基礎となる物にまで至ったようだ。
だが
その後の展開、コーディネート技術の開発からジョージ・グレンの暴露、そして技術の拡散、コロニーメンデルの事件を経て一連の騒動。それらに関して裏で一族が関わっていたのか、それとも技術が流出したのか、四代前の党首、そしてその意を受け継いだ先々代、先代当主は一切明らかにしなかったという。
「私が党首を受け継いだ時には、全ての情報、資料は闇に葬られ、あるいは散逸していた。歴代が何を考え……いや、一族に何があったのか、なぜコーディネート技術の研究を打ち切った、あるいは闇に沈めたのか。一切合切が不明だ。もっともコーディネーターにまつわる一連の事件、騒動は十二分に利用させて貰ったがな」
自嘲気味に言い放つマティス。ふうむ、彼女は真実を全て話しているとは限らないが、俺の勘は最低でも嘘をついてはいないと訴えている。
とはいえ素直に信じてやると態度に出すわけにもいかんか。
「それがタブーとなった理由か。……にわかには信じがたい話だが、我々にはその真偽を確かめるすべはない。何しろ肝心の一族が崩壊しているのだから」
「まあそうだろう。私とて他人から聞けば眉につばを塗る。いずれにせよ私の口からはこれ以上のことは言えん。推論や適度な作り話ならいくらでもできるが?」
「いや、これ以上は聞かんよ。重要な件ではあるが、何よりも優先的に真相を探らねばならないというわけではない。地道に調査を続けるさ」
何が起こったのかは気になる。当時の党首の癇に障ったか、内部分裂でも起こしたか。当人も先々代、先代の党首も亡くなっている(マティアスから聞いた)以上、真相は闇の中だ。
コーディネーターに関しては振り出しに戻ったか。簡単にいくとは思っていなかったが、全く問題解決の糸口はつかめんなあ。下手をすると一族の残党と共にコーディネーターに類する物やその発展系の技術が拡散してるぞこれ。むしろ問題が増えてんじゃねえか。
まあその辺りは今更だ。切り替えていこう。
「さて、他にも色々聞きたいことはある。素直に協力してくれれば処遇も考えるが、いかがかな?」
情報収集とマティスの人となりを知るため、俺は対話を続けた。
ひとまず話は終わった。
マティスの話を精査するため色々と調べる必要はあるが、大まかに予想通りの展開だ。またあちこちに頭を下げにゃいかんけれど、マティスは俺の下につくことになるだろう。
「やたらとストレートに事を運んだけれど、いいの? あの子絶対一族の復興とか考えてるわよ?」
そう、マティスは素直にこちらへ協力しているが、腹に一物あることは間違いない。俺の庇護の下、何かを企む。そのために殊勝な態度を装っているのだ。
だが……。
「『あの状況』で出来るものならやってみるがいいさ。って所だよ」
そう言って、俺は
「……えっげつないわねえ」
「俺が意図しないでもそうなる。つーか俺でも止められん」
正直頭が痛くなりそうだが、有効な対策には違いない。ただし別な意味で予想外の事故が起こる可能性は高いんだけど。
止めるよりは突っ走らせた方が結果的に被害が少なくなる。その少ない被害は俺に向くんだろうが背に腹は代えられん。最悪の事態よりは遙かにマシだろう。
何を突っ走らせるのかって? そりゃもちろん――
※他者視点
「貴女も愛人にならないか」
「何言ってんのこの人」
マティスに
こうして、マティスはギャグ落ちした。
SEEDの映画が公開されましたが、それよりも勇気爆発の方が気になりすぎる。なんなんだよアレ。なんなんだよホント(褒め言葉)
同じように世界は大変なはずなのにどこで差が生まれたのか捻れ骨子です。
はい更新です。今回はマティスさんと質疑応答しているだけ。なお作中の一族とコーディネーターの関係性についてはオリジナル。実際どうなっていたのかはぼかしてあります。このまま誤魔化すもヨシ後で話を盛るもヨシよかあねえよ。
そしてマティスが味方になりそうな流れですが題名通り問題は減ってませんねある意味増えてる。うんあの人関わったらたいがいギャグになるわ。今回も気がついたら介入してきたので筆者はもう諦めています。少しじゃないどころのコメディになってきているような気がしますがタグ変えた方がいいのだろうか。
そんな感じで今回はここまで。