しん、と場が静まりかえった。
良かった、想定範囲内だ、と胸をなで下ろしているのは俺一人のようだ。いやマッドサイエンティストの研究としちゃ、わりと普通だと思う。
「ふむ、察するに他の部署や上層部と折り合いがつかなくなって出奔する羽目になった、といったところでしょうか」
「普通に話続けるの!? この状況で!?」
ヴァレリオがツッコミ入れてきた。いやそこは流しておこうぜこれくらい。
「言いたいことは色々あるでしょうけれど、それは後でお願いします。……大人しくしてないと股間ですよ?」
俺の言葉に「ひんっ!」と小さく悲鳴を上げて股間を押さえながら下がるヴァレリオ。他の人間もどことなく引いている。邪魔しなきゃ何もしないから。コワクナイヨー。
それは置いといて、俺はやはりどことなく引き気味のモンド氏に問うた。
「それで、実際はどのような顛末で?」
「アッハイ。上層部というか、組織そのものの考え方と合わなくなってきまして。私たちのチームは主に機械化による延命。人間の肉体を機械に置き換え、最終的には不老不死を果たすと言う目的の下、技術開発を行ってきました。しかし組織は我々の技術には『欠陥』があると」
「欠陥、ですか」
「はい。それは『コスト』。単純に金銭面というだけでなく、メンテナンスの手間、保全環境の整備などです。加えて現在以上の技術がなければ、維持することは不可能に近い。そう主張されまして。いや実際そう言われればそうなんですが、これまで研究を推し進めておいて手のひらを返したかのような路線の変更具合でした。そりゃ反感を覚えますとも」
ふむ、一族内で何か方針を変更しなければならない事情があったか。これは後でマティスに確認してみた方が良さそうだな。
モンド氏はどこか疲れた様子で続ける。
「結局意見のすり合わせはできず、我々は組織から離れざるを得ませんでした。その時点でもう、機械化による不老不死の実現という目的を果たす気力は失せましたがね。しかしその後、一族の関係者から似たような研究を行っている民間企業を勧められまして。しばらくはそっちで研究を続けていたのですが」
そこでため息。
「ブルーコスモスの襲撃で職場ごと吹っ飛びました。ご丁寧に連中、研究資料の残骸などを一切合切強奪していきまして。命があっただけ儲けものでしたが、全てご破算ですよ」
……なるほど。ブルーコスモスが生み出した中に、『人の脳を制御機構として使ったMA』と言った物があったが、そのあたりから技術を持ってきたのかもしれんな。アズラエル氏に確認が取れるかねえ。正直に話すとも思えんけれど。
「それが20年ほど前の話です。幸いにと言うか、それまでの働きによって結構な財産を築く事は出来ました。その後はしばらく研究から離れ、これからの身の振り方を考えていたのですが」
「そこでジョージ・グレンの考え方に感銘を受けた、と?」
「ええ、我々は彼に希望を見ました。いや、
だんだんとどんよりした空気を背負っていくモンド氏。気の毒そうには見えるけどな。
「彼の後に生まれたコーディネーターは、どれもこれも見た目や能力だけを向上させようとした、可能性を見いだせない者ばかりでした。あんな物は人の進化とは言えない。ジョージ・グレンの意思は蔑ろにされていると」
ま、原作みてても分かるけど酷かったからなあ。気持ちは分かるんだよ気持ちは。
「その上であの凶報、ジョージ・グレンの暗殺です。それを知って私は自分を抑えられなかった。同志と共に無理に無理を重ね、彼の脳を確保しました。褒められたことではない、いや狂っていると言われても仕方がないでしょう。ですが、ジョージ・グレンが失われることは耐えられなかった。彼の脳を何とか確保して……後は先ほどまで語ったとおりですよ」
力なく笑う。うん、気持ちは分かるが出発点から到達点まで大体マッドサイエンティストなんだよなあ。正直フォローのしようがない。ほらみんなドン引いてんじゃねえか。(←半分は股間襲撃宣言したこの人のせい)
まあともかくだ。俺は小さく咳払いしてから言う。
「お話は分かりました。貴方には貴方なりの考えがあったのでしょう。その上で……ジョージ・グレンの復活を望みますか? 我々は我々なりに利用価値があるから手を貸そうとしています。そして貴方の言う可能性の見いだせないコーディネーターを多量に雇ってもいる。そんな我々の手を借りることを許容できますか?」
問いかける。無理矢理彼の手からGGユニットを取り上げるのは可能だ。だが俺は個人的にそんな真似はしたくなかった。
だって超マッドサイエンティストから恨まれるとかヤダ。
「あなたは……」
神妙な顔でこちらを見るモンド氏。俺の内心が分からんから、言ったことに戸惑っているのだろう。力尽くや脅しではなく、自身で考えさせるような言葉に。
やがて彼は力ない言葉を吐く。
「分かっては、いるのです。自分のやっていることが狂っている上に無意味であることは。ジョージ・グレンをよみがえらせたところで、それがなんだというのか。……ですが、それしかすがる物がなかった。無意味で無駄だとしても、これまでを否定したくないと、なけなしの何かが未練がましく残っているのです」
そう言ってから、彼は俺を真っ直ぐ見る。
「たとえ夢の残骸でも、目の当たりにする機会を得たのです。最後の未練、叶えてくださいませんか」
深々と頭を下げた。
うん、シリアスなシーンなんだが。
ごめん、この後全部ぶち壊しになるんだ。
俺は心の中で謝るしかなかった。
GGユニットが機器に接続され、いよいよ起動の時を迎える。意思疎通のためにと用意されたホログラム通信ユニットの目で、居並ぶ人間が固唾を呑む中、ヴァレリオが厳かとも言える態度でスイッチを入れる。
そして。
「颯爽登場! 満を持してっ! お待ちかねのおおおおおおお、キャプテーーーーーーーーーーン! GGっ!!」
ずばしゃんっ! とばかりにポーズを決める、立体映像の残念イケオジ。
当然のように、空気は凍った。
「……え? あの、え? ……ジョージ・グレン、さん、ですよね?」
呆然としたまま、おそるおそる問うモンド氏。そりゃ20年近くも命を賭けて守り抜いた結果がいきなりコレなんだから、信じがたいだろう。
彼の問いに、船長服に身を包んだその人物は、ふっ、と気障ったらしく笑みを浮かべた。
「その名はすでに過去の物。君たちのおかげで命を長らえ、生まれ変わった私は、これからキャプテンGGと名乗らせて貰う! 是非ともそう呼んでくれたまえ!」
無茶言うなし。内心でツッコミを入れてから、俺は眼鏡を人差し指で押し上げる。
「……色々と言いたいことはありますが、キャプテン、貴方がジョージ・グレンと呼ばれた人物本人であることに、相違ありませんね?」
この男なんで平気な顔なの、ってな感じの視線が四方から突き刺さるが無視無視。
「イエースその通り! まさかこのような形で復活するとは私も思わなかったがね! どうだろうかつかみはOKだろうか!?」
「何一つ掴んでいないような気がしますがそれは置いておきましょう。……ところで、テンション爆上がりな所を申し訳ないのですが、どうやら貴方は状況を把握しておられる様子。
「「「「「あ」」」」」
俺の問いに周囲が揃って声を上げる。そう、GGユニットは当然ながら感覚器官などを備えているわけではない。外部接続用の端子などは備えているが、機器に繋げていなければデータのやり取りなどはできまい。たとえユニットの中で意識があったにしても、周囲の状況を把握することなどできないと思うのだが。つーか普通に正気保っているのも難しいのでは。
そんな俺の疑問に対する答えは。
「うむ、実のところ大半は休眠状態にあったのだが、時折モンド氏がチェックのためにPCなどに接続してくれたときは覚醒していてね。その折に
「「「「「はい?」」」」」
今度は俺も揃って呆けた声を上げざるを得なかった。
「……え、え~っと、その……確かにコミュニケーションや義体などの制御のために電子的な情報のやり取りはできるようになってはいますけれども……何でそんなことできるんですか」
モンド氏の言葉が全てを表している。そうなんだよ、いくら性能的にできるようになっているとは言え、何も分からん状況、つーか手足どころか感覚もない状況でいきなりハッキングとかできるものなのか。
その問いに、キャプテンは良い笑顔で歯をキラーンと光らせつつ(この時点でめちゃくちゃ器用だと思う)サムズアップして見せた。
「うむ! 超頑張ったからね!」
……頑張ったらできるのか~。そうなのか~。っと、いかんいかん、思わず現実逃避してしまうところだった。ともかくこんな状態でもジョージ・グレンは侮れない能力を持つと言うことは分かった。本人の資質……というか
まあそのあたりは原作標準と言うことで良いだろう。モンド氏が「なんか思ってたのと違う……」とか呟きつつがっくり項垂れているのはそっとしておくとして。
「個人的には興味を惹かれるところですが、一旦おいておきましょう。貴方には聞きたいことが山とあります。できればご協力をお願いしたいのですが」
「良いだろう! 何でも聞いてくれたまえ! 何しろ今まで暇だったので喋りたいことはたくさんあるぞう!」
微妙に不安が漂っているが、こうして俺達とジョージ・グレンとの対話は開始された。
で、話を聞いてみた結果だが。
「結局彼も、詳しいことは知っていませんでしたか」
ソファーに座した俺は深々とため息を吐いた。
「期待していなかった、と言えば嘘になりますが……経緯を考えると当然のことではありますね」
対面に座している導師もどこか疲れた様子だ。
ジョージ・グレン――GGとの対話で分かったことだが、彼は己の背景について多くを知らなかった。と言うか指摘されるまで深く考えたことはなかったようだ。
彼との対話を思い返してみる。
「うむむ、考えると私は
腕を組んでGGは唸った。幾度かの質疑応答で背景のことを指摘され、そこで初めて疑問を抱いたらしい。話を聞いてみれば、実の両親や親族のことを尋ねれば煙に巻かれ、他のことに注意をそらされていたようだという。その上で段階的にコーディネーターのことを明かされ、それがいかに素晴らしいことであるかを教え込まれたらしい。
「何しろ最終的には技術データを即興で書き記す程度には暗記させられたからね。当時は自分の記憶力も相まって、そういうものかと思っていたんだが、今になって考えると明らかにやり過ぎだったな」
その他にも色々と偏向された教育を受けてきたようだ。元々細かいことを気にしない楽天家のような部分はあったらしいが、能力を伸ばしつつそう言った精神を維持するよう誘導されていたのではないかと、GGは自己分析している。
「木星から帰ってきてから色々慌ただしくて、かつての関係者と連絡を取る暇もなかった。だから余計に気がつかなかったのだろうね。まあ連絡が取れたとしても当時の私では何一つ気づかなかっただろうが」
その頃には関係者の多くは雲隠れしていたようだが。多分マティスが言ってた、一族の隠された部分と関係しているとは思うが、まだ知られていない勢力もあるだろうし、現状では候補者が絞れん。
ともかく黒幕の目的だけは分かる。GGの存在を表沙汰にし、コーディネーター技術を広めることだ。GGの名声が上がり、最高のタイミング――木星探査船の航海という、世界中が注目している状況での暴露。そうなるようにお膳立てし、GG本人にもそのタイミングで暴露するよう誘導した。俺はそう見ている。
「その通りだろうなあ。当時の私はそれが良いことだと信じ切っていた。君は素晴らしいと恩師や友人、周囲におだて上げられ調子に乗っていたというのもある。ファーストコーディネーターが聞いて呆れるといったところだね」
元々善人で、あまり人を疑わない性格なのだろう。誘導も容易かったに違いない。しかしおかげで背後関係などはさっぱりだ。なにしろここに至るまで、裏があったことに全く気づいていなかったのだから。
結局振り出しだ。GGの出自、背後関係については、今のところ地道に痕跡を追っていくしかない。
まあこんなことだろうとは思っていた。しかし徒労感はある。GGを手中に収めることができたと考えるのであれば、損はしていないと思うし……。
「それで、今後はどうなさるおつもりで?」
導師の問いに、居住まいを正して俺は答えた。
「ジョージ・グレン氏……氏と言って良いのか分かりませんが、彼はしばらくうちで預かるしかないでしょうね。表沙汰にするには危険すぎる。同時にモンド氏を含む友の会の人間、彼らも抱え込む必要がある」
「彼らも危うい立場ですからね。そうした方がよろしいかと」
「ええ。彼らを追い込んだ存在。あるいはそれが謎を解く鍵になるかも知れません」
GGユニットを制作してからモンド氏たちを徐々に追い込んでいった何者か。一族の手口と似ていると氏は言っていたが、それだけでは手がかりとしては弱い。まあブルーコスモスではないというのは断言できる。連中ならどんな手を使ってでも抹殺しようとするだろうから。
ともかくモンド氏を匿うことで、その何者かが手を出してくる可能性がある。そうすれば尻尾を掴む事が出来るかもしれん。それに彼らが持つ技術。流石に全身義体を研究させたりはしないが、義肢義足、人工臓器などを研究させればかなりの技術進歩が期待できるだろう。一石二鳥……と上手くいけば良いが。
こうしてGGは俺達の手中となった。……が、実質的には大した進展はないし、何の解決策も見出せなかったなあ。面倒を抱きかかえただけのような気がするぞう。
……まあアレだ。俺がこれからやろうとすることの障害にならなきゃいいや。(←匙投げた)
何の解決にもなりゃしないことだらけだが、状況は待ってくれそうにない。気を取り直して『蒔いた種』の収穫準備といこうかね。
一山越えたと思っていたら、次の山が待っていたときの絶望。
今年は誰か倒れるかもと思ってたらホントに戦線離脱者が出たよ。フラグ立てちまったか!? 捻れ骨子です。
ちょっと地獄の様相を醸し出してきたリアルの話は差し置いて更新です。また遅れ気味で申し訳ありません。そして話の内容も「何の成果も得られませんでしたっ!!」状態です。キャプテンGGは出てきましたが、すっとこ役に立たねえぞこのおっさん。まあRe・ホームに積まれてないからね。仕方がないね。
とはいえそろそろ話を動かさないといけないところです。できれば無印くらいは今年中に……終わると良いなあ。つかどーやって終わらせよう。次の回の展開も考えてないのに()
そんなこんなで暗雲しか漂ってないけど今回はこの辺で。