さて色々あったが、ついにレセプションの日がやって来た。
会場はアメノミハシラ。本来衛星軌道上に位置する宇宙ステーションは、防衛拠点としては欠点が多い。しかしアメノミハシラはそれを補って有り余る人員、戦力が揃っていた。
当然である。何しろここはオーブの重要拠点で、なおかつ宇宙軍の総司令部だ。
「まあそれでも油断ならんのだがね」
「色々打てる手はありますものねえ」
俺の左隣で言うのはリシッツァ。いつもと違いフォーマルなドレス姿だ。艶やかな装いがよく似合っている。
「できうる限りの防衛シフト。装備。設備。用意はしましたけれど、それを上回る最悪が起こるのは世の常ですし」
今度は左隣のチヒロだ。こちらはフォーマルスーツ。一応仕事であるという建前だが、彼女の本音は「ドレスとか恥ずか死にます(真顔)」と言ったところだ。式とかどうするつもりかね君。
それはさておき、次々と招待客は訪れる。当然ながらその中にはこんな人たちがいるわけで。
「これはこれはわざわざのお出迎え、痛み入ります」
慇懃に頭を下げるのはムルタ・アズラエル。彼はアズラエルグループの重鎮とロゴスメンバーの一部、そして元ブルーコスモス穏健派を幾人か引き連れて現れた。
自らエサになる気満々である。
「ようこそアメノミハシラへ。貴方は2度目だったか」
「ええ、その節はお世話になりまして」
流石に奥方と娘さんは連れてきていない。今頃彼女たちはオーブ国内でがっちりとガードされている。具体的には某サングラスの傭兵を筆頭とした戦力にて護られていた。うちの親父殿より警備は厚い。
「今回のことは我々にとっても今後の方針を決める重要な物となります。納得いくプレゼンを見せて貰いますよ?」
「期待に応えられる物であれば良いがね」
言いながら握手。彼の言うプレゼンは、
弾よけとして、そして投資先としてどれほどのものか。もしお眼鏡にかなわなければ、俺達とは
それもこれも、この場を無事凌げればの話だが。
「さて、レセプションの本番までは少し時間がある。それまで少し展示物を見て回ってはどうかな?
「なるほど、お言葉に甘えましょう。ではまた後ほど」
アズラエル氏はお供を引き連れ展示会場であるホールに向かう。そこではオーブや中立国から招待した人々が、すでに展示物を見学したり歓談したりしていた。その中には将来有望な企業や投資家などが含まれている。もちろん俺が招待した連中だ。一癖も二癖もある。中にはアズラエル氏と気が合う者もいるだろう。
そうこうしている間に次の客だ。
「お待たせしましたリョウガ様。我が国の招待客をお連れしました」
現れたのは、薄いピンクの清楚なドレスを纏った
「ようこそおいでくださいました、王国の皆様。そして招待に応じて頂き感謝いたします。
そうなんだよなあ。前もって俺の『悪巧み』は姫さん通じて伝えていたんだけど、王国の皆さんなんかノリノリで、王太子よこしてきやがりましたよ。いやむしろ本人が一番乗り気だったかも知れねえ。
見た目はダンディなおじさまといった感じの王太子は、鷹揚に笑みを浮かべて応える。
「いや、なかなかに大胆なことを企てるものだと感服したよ。画に描いた餅ではなく、実現の目処がある程度立っているのが良い。そしてその過程にある障害をどのように排除していくのか。しかと見届けよう」
こちらも俺を見定める気満々だ。スカンジナビア王国を受け継ごうという御仁だ。当然一筋縄でいく人間ではない。精々高く売りつけられるよう、見せつけておかねばな。
「では私も展示物を見学させて貰おう。……我が血縁を頼んだよ」
しばし会話を交わしてから、王太子も供を引き連れホールへ赴く。姫さんを俺の側に残して。
「ご苦労だった姫さん。先導役を引き受けてくれて感謝する」
「いえいえ、うちの国の事ですから当然です。お役に立てて何より」
ニコニコと笑顔を見せる姫さん。彼女の期待していることを察して、俺は言う。
「そのドレス、かわいらしいな。貴女に似合っている。……イヤリングは新品か?」
「えへへ、お気に入りのヤツです。こういうときのためのとっときで」
はにかむ姫さん。あざといが可愛いから良しとする(←色々開き直ってる)
まあそれはそれとして。
「しかし大した人物だ。軽々しく命をかけて良い立場じゃあるまいに」
「「「それを貴方が言いますか?」」」
三人が一斉にツッコミを入れてきた。いや俺は国を背負うような立場……だったわ。己の命を的に……してたわ。
「……自分で企ててるからセーフと言うことで」
「セーフじゃないが」
「むしろアウトですわね」
「ごめんなさい私もやらかし組なんでフォローできません」
三人がそれぞれ言う。まあその通りなんだが。
「冗談はさておき、俺の企みに乗らなくてもよかったのは確かだ。アズラエル氏やラクス嬢と同じような肝の据わり具合じゃないか。よくもまあ他人が胴元の大博打へ賭ける気になるものさ」
そういう意味では
俺の言葉に応えたのは姫さんだった。
「そりゃあ
そう言われると面はゆい。俺は俺のために必死になってただけなんだがな。世界を平穏にしようとして、命まで賭けようとしているのはついでだついで。
……ついででなんか嫁さん4人ももらう羽目になっちまったが、もうその辺は諦めた。
「期待されたのであれば、それに応えるようにしなければな。……それで、どうだった?」
俺は背後に向かって声をかける。それに応えるのは。
「伝を頼りに食いつきそうなジャーナリストやマスコミに情報を流しておいた。それなりに『鼻薬』はばらまいたが、予算範囲内だ」
こつ、と微かな靴音を立てて現れたのはマティス。黒に近い濃い紫色の、タイトなドレスを身に纏ったその姿は、リシッツァに負けず劣らず艶やかで妖艶だ。普段のポン……様相からすると恥ずかしがりそうな物だが、本人曰く「こういう格好で参加する席も多かったしな。わりと慣れている」だそうだ。実際物怖じもせずに堂に入ったものだ。
……そうしていると普通に美女なんだがなあ。
「ご苦労、助かった。流石に各国の報道関係までは伝はなかったのでね」
俺が彼女に頼んだのは、方々の報道関係者に情報を流すこと。このレセプションのことではない。
奴らの行動予測や判明している拠点などをリークし、その見返りとして情報を流して貰う。もちろん危険は伴うが、彼らは特ダネのチャンスを掴み、我々は諜報を関することなく情報を収集できる。そういう取引をやってもらったわけだ。
ジャーナリストとしてそれなりに名が売れている
メインの目的は
おそらくはジブリールあたりに協力し便乗してくると見た。一網打尽にする……とまでは言わない。だが連中の力を削ぎ、地下に潜った残党の幾ばくかの尻尾を掴むことはできるだろう。どうせ長く続く戦いだ。イベントがあるごとに派手にモグラ叩いてくれる。
「なんかまた悪いこと考えてるぞこの男」
「いつものことです慣れてください」
「慣れてもため息は出ますわよねえ」
「ああいう悪企む顔も格好良いと思うんですけど」
嫁たちは好き勝手言ってる。まあ言う分にはタダだし、それで気が晴れるんならいくらでも言ってくれい。
さて、そうこうしているうちに、最後の客が到着したようだ。
「ようこそラクス嬢。お待ちしておりました。そして導師。ご足労痛み入ります」
「わざわざのお出迎え、感謝いたしますわリョウガ様」
「ご苦労様です。助力になれれば幸いですが」
ドレス姿のラクス嬢と、付き添いの少年を従えた導師。その二人に率いられてきたのはジャンク屋協会の代表……
いやホントに半分はジャンク屋協会の重鎮なんだが。残りの半分については最早言うこともあるまい。
彼らはコペルニクスを仲介し、極秘でここまで赴いている。プラントは今回の催しについて、表向きは無視するように見せかけていた。裏ではラクス嬢を通じ密やかなやり取りを行って、人を送り込んできたわけだ。先にラクス嬢と話し合ったとおり、政治的な有名人は含まれていない。だが将来的にプラントを背負うような人材が選ばれているはずだ。
とはいえ彼ら自身がどのような思惑を持っているか、それで随分と話は違ってくる。テロリストのシンパでないことを祈りたいが、ね。
「【チュウジ・サケイ】でございます。お見知りおきを」
丁寧な言葉で頭を下げる男。事前に知らされた情報では、クライン派で経済に詳しいという話だが……はて、どこかで聞いた声だな?
「【アルバート・ハインライン】です。画期的な技術を導入し運用するよう勧めたリョウガ・クラ・アスハ氏にお目にかかり、光栄です」
早口気味に言うのは、ザラ派でMSや艦船の開発に携わっているという人物。なんだろう、キャラが濃そうな予感がするぞ。
ジャンク屋協会重鎮に交じるように自己紹介したこの二人。どうやら向こうさんの中心人物となりそうだ。俺が見せることに何を感じ、そしてどのように報告するか。こっちに都合の良いように見てくれるとは限らないからな。どれだけ目の鱗を引き剥がせるかだ。
「さて、レセプションの開催までは少々時間がある。良ければ展示ホールを……と言いたいところだが、
「ええ、心得ておりますわ。ねえ皆様?」
にっこりと笑って柔らかな釘を刺す。返ってくるのは苦笑いと真面目くさった頷き。最低でも見た目にやらかしそうな人間はいない。
物怖じせずに供を率いてホールに向かう。それを見送ってから、俺は残った人たちに向き直った。
「改めて、礼を言わせて貰う。面倒ごとを引き受けてくれて感謝する」
俺が頭を下げると、協会の幹部の一人がかぶりを振った。
「いえいえ、こちらもプラントとの商売にご助力をいただいている身。お互い持ちつ持たれつですよ」
今回のことは、こちらにもプラントにも『貸し』を作る良い機会だとみたらしい。ある種の博打だが、勝ち目はあるとみたか。俺は導師の方をチラリと見たが、彼はにこやかに笑っているだけだ。どうやら相当の『選りすぐり』らしい。度胸が据わっているようだ。
これでこちらの役者は揃った。さて、
※他者視点
アメノミハシラ中央官制セクション。
スタッフが忙しなく作業する中、ミナは静かに待っていた。
そして、レーダーに感。
「ミナ様! 軌道上に所属不明の熱源が複数上がってきます! 識別コード、通信の呼びかけ、ともに反応無し!」
「来たか……弾道弾の類いか?」
「いえ、速度から大型艦艇と見られます! ……数が出ました、艦影8!」
「ふん、マスドライバーを使わず、旧式の発射台方式で打ち上げたか。……総員戦闘態勢を第3種から第2種に引き上げ! 待機している宇宙軍艦隊につなげ!」
慌ただしく状況が動き出す。通信がつながれ、正面のモニターにはギナの姿が映し出される。
「お待ちかねの客だ。だが
「状況は聞いている。南米の旧打ち上げ基地からとはご苦労なことだ。……もう片方は様子見か。指をくわえて見ているだけではすむまい」
くく、と笑うギナ。
「地上からの客はどれ位で展開を終える?」
「10分と言ったところか。連中の的が絞れたところで第1種戦闘態勢に移行する。現時点で発艦を許可。出迎えの用意を任せたぞ」
「承知した。盛大に歓迎しようではないか」
通信を切り、ギナはクルーに指示を飛ばす。
「発艦用意! 先ずは地上から上がってくる連中が相手になるだろうが、乱入者を常に想定し、警戒を怠るな! 準備が調った艦から順次発艦。パーティーの用意をしておけ!」
「ギナ様、我々に振る舞い酒はないのですか?」
クルーの一人が冗談めかして声を上げる。ギナはにやりと笑って応えた。
「安心しろ。祝勝会の用意は調えてある。楽しみにしておけ」
笑い声と歓声が上がった。彼らハガクレのクルーは冗談を言い合う余裕があり、自信に満ちあふれている。
そしてその格納庫では。
「テストは良好でしたが、実戦では何が起こるか分かりません。特にOSはうちのモノと入れ替えてありますので、予期しないトラブルが起こる可能性もあります」
MSのコクピットに乗り込んだパイロットに、整備兵が声をかけていた。
「それも含めての実戦テストだろう? それにユーラシアよりはマシだ。向こうじゃろくなテストもさせてもらえなかったんでな」
「はは、それを言われるとね。……うちの司令とやり合って生き残ったんです。運があるはずですよ、
「信じさせて貰うさ」
「ご武運を!」
ハッチが閉じられる。即座にシステムを立ち上げ。モニターにGeneral Unilateral Neuro-Link Dispersive Autonomic Maneuver Synthesis Systemの文章が表示され、機体が目を覚ます。
「さて、改装されたこいつと渡り合えるような相手はいるかね?」
かつてハイペリオンと呼ばれた機体は、薄暗がりの中力強くカメラアイを点した。
宴の幕は、上がる。
色々と面倒ばかりが増えていくこのご時世、皆様いかがお過ごしでしょうか。
ワタシは元気です。ええ、ゲンキデストモ。(ハイライトオフ)捻れ骨子です。
さ、色々あって遅れに遅れましたが更新です。やっと話が進みそうだ。そしてバトルが書けそうだ。しかしつづきはいつになるか分からない。
……今年度中にもう一本書けたらいいなあ。(遠い目)
ともかくやっと山場までたどり着きました。回収されてない伏線? 知らんなあ(外道)。運が良ければ後数回で無印は終わるはずです。多分、きっと、恐らくは。
そして運命に続くのか自由まで至るのか、それは誰にも分からない。筆者にも分からない。相変わらずのノープランでお送りしております。
で、突如現れたプラント側の新キャラは一体何者なんだー(白々)。片方は皆様お分かりでしょうが、もう片方は半オリキャラです。ヒント・中の人。果たしてどのように関わってくるのかな?
さてさて方向性が行方知れずになってるこの話の明日はどっちだ。と言ったところで今回はこのあたりで。