本年もどうかよろしくお願いいたします
※他者視点
激闘。そう言って差し支えない。
機動性ではハイペリオン・アベンジが。火力では圧倒的にプロトデストロイが、それぞれ上回っている。そして互いに決め手がない。
「よく動く。それにあのシールド、こちらの物より性能は上か」
「くそ、懐に入る隙が無い。アレを一人でコントロールできているというのか。コーディネーターでも難しい所業だぞ」
スウェンは呻くように言い、カナードは舌を打つ。ハイペリオンに圧倒的な攻撃力と機動力、あるいはトリッキーな戦術を使える機能があれば話は別であっただろうが、高性能で纏まりは良くても、決め手となるダメージソースがない。
デストロイは火力こそ圧倒しているものの、小回りが利かずハイペリオンの機動に追従しきれない。例え当たるような火線でも、両肩のバリアシールドで防がれる。
そして双方ともにエースパイロットが操っている。デストロイは3人での操作だが、むしろその多機能を持て余しつつあった。結果五分の戦いを繰り広げている。
「当たれよ!当たれよこの野郎!」
「ハエみたいにブンブンと! うざったいのよぉ!」
スウェンと同乗している二人は苛立ちまくり、担当している武器を撃ちまくっていた。スウェンの方で出力を調整していなければ、早々にバッテリーの心配をしなければならなかったかも知れない。
(積み込むだけ積み込んだおかげで、今はまだ余裕があるが……この調子だと、遠からず撤退しなければならなくなる。最低でもフェイズシフトダウンだけは避けたい物だが)
プロトデストロイには、その火力を支えるために多量のバッテリーと燃料電池が追加で搭載されていた。加えて各武器の出力を絞っていることで、派手な攻撃の割には十分な活動時間を得ることができていた。しかしそれも無駄に撃ちまくってしまえば台無しである。
推進剤も同じ事だ。メインコントロールをスウェンが担当することで機動に無駄はないが、無限の搭載量を持つわけではない以上、いつかは限界が来る。撤退できるのか、そも撤退できる余裕があるのか。それ以上に撤退する艦、いや
もちろんカナードの方も余裕はない。
「無茶苦茶に撃ってるように見えて正確な射撃だ。懐に飛び込めやしない」
冗談抜きで全方位に攻撃を放ってくる。下方から攻めようとしても、切り離されワイヤーでつながれた両腕が、死角を埋め砲撃してくる。幸いにして友軍にその矛先は向かず、自分に集中しているようだが、だからこそ余計に攻め入る隙が無い。周囲の被害を抑えているとも言えるが。
「バッテリー切れを待つのも手だが。あの図体じゃすぐさま補給はできまい」
巨体ゆえの欠点を看破する。自分もそれほど余裕があるわけではないが、あれだけばかすか撃っているのだ、消費は生半可なものではないだろう。もちろんそれなりの対策は取っているはず。こちらが息切れするより先に力尽きるかは……。
「正直賭け、だな。こっちも消費が軽いわけじゃない」
以前に比べアルミューレ・リュミエールの負荷は減ったものの、それでも他のMSに比べれば消耗は激しい。最新式のパワー何ちゃらを搭載しているとは言っても、限度はあった。
千日手。状況としてはそれが近い。あるいは大胆な手を打てば状況の打開につながるかも知れなかったが。
「それも賭けか。一か八かに打って出るほど追い込まれているわけでもない。冒険はしない方が良さそうだ」
この場では五分の戦いが繰り広げられているが、全体的にはオーブ側が有利である。艦艇、MSの数。継続戦闘能力。そのどちらもが襲撃者側を上回っている。時間が経てば経つほどその差は如実に表れてくるだろう。焦る必要は無いと、カナードにも理解できていた。
しかし。
(けどなんだ? どうにも嫌な感じがする)
脳裏にこびりつくような悪寒。目の前の敵に何かを感じ取っているのか。それとも。
不快な感覚の源が分からず、カナードは顔をしかめていた。
「ここまでは順調だが……」
「こういうときに限って余計な物が来る、と言うのがお約束だな」
ミナとギナが同時に呟いていた。新型艦に乗り込んだら敵襲受けたり、コロニー解体の現場視察してたら襲撃受けたりした人たちの言うことは説得力が違う。
実際に機会を窺っている第三者がいるのならば、背後を突く絶好の機会であろう。
作られた隙ですらない。艦隊が展開していないから何の対策も取っていない、と言うわけじゃないのだから。
わざわざそこを狙うというのは、こちらのことを理解していないか、逆に理解していて仕掛けてくるかのどちらかだ。後者の方がより質が悪いが、いずれにせよ迷惑である。さて次に仕掛けてくるのはどちらのタイプか。逆に面白くすらなってきた2人であった。
「……ミナ様、索敵網にこのような物が」
オペレーターの一人が、ミナに声をかけた。
「どうした」
「は、こちらをご覧ください。月軌道上ですが、不自然に軌道を逸れたデブリを発見いたしました」
映像がクローズアップされた。そこに映るのはコロニーの破片だろうか、巨大な構造物の姿である。
それを見てミナは顎に手を当てた。
「巡洋艦クラスなら、十分に姿を隠せるか。遠回りすれば、こちらの警戒網もすり抜けられよう」
決めつけは危険だがと自戒しながらも、目を離すなと指示を出す。
「あれの後ろに艦が潜んでいたとして、どれ位でこちらの戦闘圏内に入る?」
「現在の速度であれば3時間と言ったところでしょうか。ただ軌道の変更に動力を用いたとすれば、加速する可能性があります」
「で、あるか」
微妙な位置だ。このままでは今行われている戦闘には間に合わず、加速してもどうかといったところ。こちらの監視網をくぐり抜けようとした挙げ句の、間抜けな結果であれば大したことはなかろうが、何かの狙いがあるとすれば……。
「早々に出回っている艦隊を向かわせるか? 目標の位置に近い艦隊は?」
「現在展開している艦隊では、最速でも1時間はかかります。
「ふむ、それもまた微妙な時間だな。怪しく思えば何もかもが怪しく見える。さて、どうするべきか」
取れる手段はいくつかあるが、どれを選ぶべきか。ある種の贅沢な悩みを抱いていたミナの元に、一つの連絡が入った。
※リョウガ視点
会場のモニターには、現在の戦況と簡略された戦術画面が映し出されている。戦術画面の方は分かる人にはどのような状況か手に取るように分かるが、素人にはさっぱりだろう。もちろん理解できる人向けだ。
「ふむ、ここに来て異常が発見される。……わざとかな?」
スカンジナビア王太子が、顎に手を当てて言う。
「あら、そういうものですの?」
同じように画面を見ていたラクス嬢が尋ねる。
「そうとも考えられる、と言うことです。わざと目立つような真似をして注意を引くなど、よく使われる手ですね」
解説しているのはアズラエル氏。
なんか予想外の三人が仲良くしている光景だった。いや腹の底では何を考えているか分からんけれど、表面上は刺々しい気配もない。
中立国の中でも影響力が大きい存在。プラントの歌姫。元ブルーコスモスの盟主。今までであればあり得ない三人が肩を並べているという光景は、周囲の人間に様々な憶測をさせるだろうが、今は置いておく。
しかし、わざとやっているのだとすれば、嫌な位置だ。完全に無視もできず、なおかつ手を出すには少々手間。嫌がらせとしては上出来だな。もっともただの嫌がらせとは思えんが。
「打てる手はいくつかあるが……さて、うちの連中はどう判断するかね」
「それなんですがね、一つよろしいでしょうか」
俺の呟きに、アズラエル氏が反応した。
「何か?」
「いえね、丁度良い位置で
不敵に笑みを浮かべて言った。ふむ、戦術画面を見れば、確かに月軌道上で連合の艦船の反応があるな。位置的には目標に結構近い。アメノミハシラから向かうより遙かに速くたどり着ける、か。
どうやらアズラエル氏、今回のことに乗じて自分の所の戦力や技術力をアピールする気満々だったようだ。相変わらず抜け目のない。
「なるほどな。……では、そちらの商品も見せて貰おうか」
「聞き届けて頂き感謝感激」
芝居がかった様子で頭を下げるアズラエル氏。
こうしてアズラエル氏が持つ手札を一つ、俺達は目の当たりにすることとなった。
※再び他者視点
「機関出力最大。第一戦闘速度へ」
「アイサー、機関出力最大。第一戦闘速度」
ブリッジで声が響く。命を下した人物はキャプテンシートに身を預け、深々とため息を吐いた。
「……なんで私この席に座っているのかしらね」
その言葉に、傍らの人物が応えた。
「巡り合わせが悪かったのでしょう」
慰めるような口調であったが、ちっとも心が晴れない。少佐の階級章を付けた人物――――マリュー・ラミアスは、疲れたような諦めたような、げんなりした顔を見せていた。
そんな彼女をちょっと気の毒に思っているような表情で見るのは、副官であるナタル・バジルール大尉であった。
さて、技術士官であったはずのマリューがこの艦――アークエンジェルの艦長をやっているのは理由がある。先のオーブ領落下事件で、アークエンジェルの艦長と副長は、任務に支障をきたす負傷を負った。そこから緊急的な措置として、無事なクルーの中でもっとも階級の高かった(鷹さんは原作通りパイロットという言い訳で逃げた)マリューが、一時的に艦長代理として連合軍基地まで艦を預かることとなった。
しかし、連合軍内の派閥争いとオーブへのちょっかいがけなどのごたごたが重なり、正式な後任の艦長が決まらないまま、アークエンジェルの試験運用が始まってしまったのだ。
もちろんマリューは再三早期に後任を派遣するよう具申したが、艦長職は壮絶なまでの引き抜き合戦が行われており、言っちゃ何だがドサ回りの実験艦に回せるだけの余裕がない。元々の艦長と副長も、怪我が治った途端最前線に引き抜かれてしまった。ハルバートン提督も手を尽くしたのだがない袖は振れず、結局なあなあのままマリューは艦長を続けるしかなかった。
で、試験運用という名目であちこちをたらい回しにされるうちに、それなりの戦果を上げたのがまた拙かった。
マリューの手腕は評価され、人手もないし君マジモンの艦長やってくんない? と命じられるに至ってしまった。それを拒否することもできず、マリューは佐官となって正式に艦長席に座ることとなってしまったのだ。まあ一人で死ぬかよとばかりにナタルを巻き込んだりしている。このくらいは罰も当たらないだろう。
なお戦果を上げるのに貢献したのは、ほとんどが某ナチュラル詐欺の操舵士だったりするが、幸か不幸かその功績は目立たず未だ彼は一介の操舵士のままだったりする。マリューがずるい~と思ったかは定かではない。
ともかく艦長となったマリューは、相も変わらずこき使われている。今回もまた無茶振りをうけ、月軌道上までやって来たわけだ。
「目標に未だ熱源反応無し。動力を落としているのならばおかしくはありませんが」
オペレーターからの報告に、マリューは眉を顰めた。
「ここまで来て何もないのであれば、それに越したことはないけれど。……動力を落として潜んでいるとなれば、厄介ね」
「厄介、とは? デブリの大きさから予測される艦の数は、多くても2隻程度だと考えられますが」
戦力が潜んでいてもそれほど数はない。ナタルはそう考えるが、マリューの見解は違った。
「ナタル、あなた
「っ! なるほど」
マリューの指摘にナタルは得心した。目標のデブリ、その影に潜んでいる艦があるとすれば、少なくとも数日は動力を落としオーブの警戒網から逃れる必要があったはずだ。ただでさえ閉鎖空間である宇宙艦はストレスが溜まる。加えて数日とはいえ船内活動もまともにできない状況であれば。
軍人でも相当のストレスになるだろう。耐えられるとすれば、相当の訓練を積んだ者だ。
「特殊部隊。あるいはそれに類する存在が待ち構えていると?」
「その可能性もあると言うことよ。できれば外れて欲しいわね」
言いながらも、望みは薄いなあとマリューは思った。地球に落っこちてからこっち、嫌な予感だけは外れたことがない。今回も多分面倒なことが待っている。そう信じて疑わない。
そんな彼女と同じ釜の飯を食ってきたナタルも、どうやら同じようで。
「具申します。MS部隊には対艦、対MSの用意をさせておくべきかと。索敵はアークエンジェル自身とドローンに留め、先行偵察は行わない方が良いと愚考いたします」
「そうね。危険はできるだけ避けるべきだわ。……MS部隊に通達。対艦、対MS装備を選択。出撃準備を整えて待機するように」
「復唱します。MS部隊に通達……」
貴重なパイロットを損耗することはできるだけ避けたい。罠があると予測されるのならなおさらだ。ゆえにナタルはMSによる偵察を行わないよう具申し、マリューもそれを受け入れた。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか。……デブリおよび全周囲の索敵を密に。ドローンの射出準備を」
緊張感が高まる中、目標のデブリは徐々に近づく。
そして、戦闘域ギリギリまで接近したとき、動きがあった。
「熱源反応2! パターンからローラシア級2隻と思われます!」
「やはり動力を落としていたのね。総員第1戦闘配備! MS部隊は発艦スタンバイ。目標のMS展開を確認すると同時に順次発艦! バジルール大尉、艦の武装の指揮を任せます」
「了解。各砲座展開。照準はまだ向けるな。ECM、ECCMスタンバイ」
戦闘の準備をしながら、ナタルは頭の隅で考える。
(ローラシア級ということはザフトか? 確かにプラントの人間であれば宇宙に耐性はあるだろうが……何かが妙に引っかかる)
違和感とも言えぬ、胸騒ぎ。しかしそれを口に出す理由は未だ無く、ナタルは気になりながらも戦いに意識を向けた。
目標は、近い。
年明けからこっち色々とあるのですが、忙しいと言うほどでは無い微妙さ。
できればのんびり過ごしたいのですが、そうも言ってはおられんのですよなあ。
宝くじが当たれば絶対引きこもりたい捻れ骨子です。
はい今回の更新です。アメノミハシラでの戦闘は続き、そして何者かの影が……と言ったところで満を持してアークエンジェルの登場です。結局マリューさんは運命から逃れられませんでしたとさ。まあこの話ではナタルさんが離脱しそうにないのでまだマシじゃないですかね。追い込まれてないし。酷使はされてるようですがw
果たして戦いはどうなっていくのか。と言ったところで今回はこの辺で。