さて、いつものごとく俺の執務室。
その床に、俺は正座していた。
「で、どういうことなのか説明しろ」
多分ものすごく目つきの悪くなった状態の俺に問われるのは、頭にたんこぶ作って(俺が拳骨落とした)同じように正座したカガリ。萎縮した感じで、か細く答えを返してくる。
「その、向こうについてしばらくしたら、父様の知り合いだって言うゲリラのリーダーから連絡があって……話を聞いたら、ザフトに土地を占拠されてて、圧政を強いられてるって言うから……」
「言うから?」
「ザフトの指揮官に、食ってかかってしまいました」
つまり原作でも出てきたレジスタンス、【夜明けの砂漠】のリーダー【サイーブ・アシュマン】の話を聞き、アンドリュー・バルトフェルドに喧嘩腰で噛み付いたということだ。ふむ、と頷いてから、俺はカガリの隣で背筋伸ばして正座している男にも問うた。
「そんで、これは拙いと、慌ててこいつ国に送り返したわけだな?」
「はっ、小官らの不注意でした。処罰はいかようにも」
【レドニル・キサカ】一佐。オーブの軍人だが、出身地は今回カガリを送り込んだ辺りで、土地勘があるから案内を兼ねてカガリにつけた。恐らくはカガリの行動にも関与していたのだろう。
まったく……
「気持ちは理解できる。キサカ、貴官もだ。故郷が占拠されて、良い気分がするものではあるまい」
「はい、いいえ。小官はオーブの軍人です。そうである以上、個人的な感情に流されるのは不適切かと」
「そういうことにしておこう。ともかく感情的には理解できるが、自分たちの立場を忘れたのが問題だ。我々はあくまで戦災に対する救助、復興支援を目的として軍を送り込んでいる。見逃せなかったからと現地勢力のどこか一つ所に肩入れするのは、よろしいことじゃない」
現状はあくまで中立という立場からの介入だ。そして原作みたいにカガリがゲリラに参加していたりすれば、本来大問題である。何かをするとしても、
「問題を感じたというのであれば、最低でも本国に連絡を取り、指示を仰ぐべきだった。感情にまかせて行動すれば自分の身だけではない、派遣した軍全員、下手をすれば現地の人間にも累が及んだ可能性があっただろう。……即座にお前を国に送り返した軍の司令官に感謝するんだな」
これで問題を起こした兵を更迭するという形に出来たのはファインプレーだった。幸いバルトフェルドの方も大きな問題にするつもりはないようで、現地のオーブ軍に対し何かアクションを起こす様子はない。
しかしこのままで済ますというわけにも行かないだろう。
「まあこちらにもザフトと繋ぎを取らなきゃならない理由がある。今回のことは俺が何とかしよう」
「に、兄様? いいのか?」
「妹がやらかしたことを兄が補うのは当然だろう。その代わりに、だ」
ぱちん、と指を鳴らす。さすれば執務室のドアがばあんと開いた。
現れたのはカガリ付きの侍女である【マーナ】を筆頭にした侍女一個小隊。
「え゛?」
「お前にはしばらく礼儀作法とか叩き込んでやる。これまでサボってた分しっかり学んで貰うぞ」
「い、いや、兄様、ちょっと待って……」
有無を言わさず侍女たちがカガリの肩を掴む。足がしびれてるカガリは逃げられない。何のために正座させてたと思っているんだ。
「ま、まて、マーナ! 話せば分かる!」
「カガリ様、その言い訳は聞き飽きました。これからみっちりたっぷりと淑女としての教育を受けていただきますからね」
「ちょ、離せ! やめろ淑女教育なんて嫌だあ! 兄様の鬼畜ー!」
そのままずるずると連れ去られていくカガリ。心の中でドナドナを奏でつつ見送ってやった俺は、気を取り直して考え始める。
いやいやアスランとイザークを捕らえちまったと思ったら、間髪入れずにこの騒ぎとは。だがこれで、
それに……
俺は次なる行動の算段を考え始めた。
「で、キサカ。貴官はそこでしばらく正座な」
「アッ、ハイ」
そういうわけでやってきましたアメノミハシラ。
……なんかひっさしぶりに執務室の外に出た気がするなあ。
「そんで、ギナはどこよ」
「いきなりそっちか」
俺の言葉に呆れたような態度で言うミナ。彼女は鼻を鳴らして答える。
「新造艦で帰還したと思ったら、すぐさま傭兵とジャンク屋引き連れて試験航海とか言って出かけたぞ」
「あのやろう、逃げたな」
流石にまた股間を攻撃されたらたまらないと思ったのだろう。ガキのころ、コトーに師事してから何かと絡んでくるので揉んでやったら、股間襲撃がトラウマになってしまったようだ。身体的スペックはあいつの方が上だが、俺は前世でクソ二人を動かなくなるまでしばき回した影響かどうにも凶暴性が増し、さらに兵士に混ざって軍隊流の戦闘訓練も受け続けてきた。その上で卑怯な手段を堂々と使うからな。高性能とはいえ慢心しまくりだったかつてのギナでは、分が悪かった。
まあ今じゃ真面目にやり合ったらどうなるか分からんがね。
「帰ってきたら鼻毛毟っちゃる」
「地味に痛そうなのはやめて差し上げろ。精々額に肉と書いてやる程度にしてやれ」
「……お前自分と同じ顔なのに勇気あんな」
「区別がついて丁度良かろう」
いやその立派な胸部装甲で区別つかないはないだろう。と思ったがセクハラ扱いされるのはなんなので黙っておく。
まあそれは置いておいて。
「冗談はここまでにして本題に入ろう。例の二人は?」
「士官用の個室を貸しておいた。捕虜用ではなく我が軍のな」
「上出来。流石に気が利く」
「むしろ爆弾を扱う心持ちだったわ。ザフトの連中よほど人手不足か」
「国力じゃ連合に比べりゃ象と蟻さ。手段が卑怯すぎるが、それで五分以上まで持って行けたのは大したものだとも言えるがね」
「だが長続きはせん、か」
「当然。そこを理解しているかどうかが今後の分かれ道になるだろうな。誰にとっても」
俺達は歩きながら言葉を交わす。ややあって目的地にたどり着いた。ドアの両側に立つ2人の警備兵が敬礼し、俺達もそれに応える。
「今はここで2人揃って待たせてある。中にも警備の者はいるが、油断するなよ?」
「肝に銘じておくさ」
ドアがスライドし、俺は室内に足を踏み入れる。
「待たせてしまったようですまないね。初めましてと言っておこう」
小さな会議室のような部屋。その四隅にはサブマシンガン提げた兵が佇み、中にはテーブルと、その向こうに座する2人の少年の姿がある。
アスラン・ザラとイザーク・ジュール。ふむ、アニメではなく実際の人間として相対してみても、なかなかの美少年ぶりじゃないか。なんかぽかんと間抜けな顔になっているが。
「……オーブの、龍……」
間抜けな顔のまま、アスランが唖然とした声で言う。次の瞬間、少年2人は揃って椅子を蹴倒して直立不動となり、めっちゃ緊張した表情で、びしすと敬礼して見せた。
「じ、自分はザフト、ラウ・ル・クルーゼ隊所属、アスラン・ザラであります!」
「同じくラウ・ル・クルーゼ隊所属、イザーク・ジュールであります!」
……いやさ、有名人って自覚はあるし、悪名轟いてるって知ってるよ? けどここまでビビることないんじゃない? 特にイザークさ、君そんなキャラちゃうやん? 思わず言いたくなったがそこは堪えて、俺はよそ行きの態度で2人に語りかける。
「そう緊張せずに楽にしてくれたまえ。……その様子ならもう知っていると思うが、リョウガ・クラ・アスハだ。オーブ代表首長補佐官なんてものを務めている」
2人に椅子を勧めてから、俺も用意された席に座る。とりあえず座ったものの、2人はガッチガチに緊張したままだ。別にとって食いはせんのだが、この子ら一体俺にどんなイメージを抱いているのか。
「ふむ、そんなに怖がられるようなことをした記憶は……ないでもないが、プラントに直接何かをしでかした事はないはずなんだがね?」
むしろプラントには裏で協力してきたぞ? 打算ありまくりだったが。
と、そこで意を決した表情となったようなイザークが、口を開いた。
「し、失礼ですが、発言をよろしいでしょうか!」
「イザーク!」
「構わんよ。何かね?」
小さく咎めるアスランを手で制して、俺は促す。
「はっ! ありがとうございます! ……恐れながら、国際問題になるような事を自分たちは行いました。そのことで軍事裁判などの処分を受けるのであれば納得が出来ますが、
……ああ、なるほど! この子ら俺という存在自体にビビっていたのではなく、
それはそれとして実質上の首相とか言い過ぎだとは思うが、俺が直々に出てくるのはそれなりの理由がある。
「プラント国防委員長の息子と、最高評議会議員の息子。相対するにはそれなりの立場の人間が必要だと思わんかね?」
「じ、自分は母とは!」
「関係ない、と言いたいだろうが、政治はそれを許してくれん。君たちを無下に扱うことは出来んのだ。納得は出来なくても理解はして欲しい」
反論しようとしたイザークを押さえ込む。必要なのは
気持ち的には2人の身柄と引き換えに、クルーゼを主犯としてこちらに引き渡せと交渉したいところだが、原作では
「ともかく報告書は見させて貰った。君たちは
「っ!? それは!」
「そういう形で納めたいのだよ、アスラン・ザラ君。君の父君、そしてエザリア・ジュール議員はタカ派だと聞く。そして現状のプラントは彼らが主流派だ。下手なことをすれば彼らは我が国を敵と見なすだろう。だがこちらはプラントを敵に回すつもりはないのだ。事が波風立たないように収まるのであれば、それに越したことはない」
嘘だがな。いざとなったらプラントを敵に回すプランの3つや4つはある。願わくばそれを使う羽目にならないようにとは思っているが、それだけだ。
納得いかないような表情で黙り込む2人。自分たちが置かれた立場と心情に折り合いがつかないのだろう。気持ちは分かる。しかし悪いが
「……とは言っても、君たちを素直に帰すと言うわけにも行かない」
「? それはなぜかと、聞いても?」
俺の言葉に、アスランが問うてくる。頷いて俺は答えを返した。
「我が国にもうるさいのがいる、と言うことさ。死者も出ず被害もほぼなかったとは言え、我が国の船が襲撃されたのは事実だ。国防の観点から見ても捨て置けぬ、などと言う者もある」
いやおらんけど。つーか黙らすけど。詐欺師になった心持ちで、俺は話を続けた。
「そういった者を納得させるためにも、君たちには
そこで俺は、にやりと笑った。
「地上へ、降りて貰おう」
2人との面談と、これからの説明を済ませ、俺は部屋を後にしミナとともに歩む。
「思った以上に大人しかったが、何をやった?」
「ギナが懇切丁寧に状況を説明してやっただけさ。銀髪の小僧は威勢が良かったようだが、流石に理解してからは青くなっていたぞ」
なるほど、ギナは良い仕事をしたようだな。
……いぢるのは勘弁してやるか。
「そういうお前も今回は随分と控えめだな。私はてっきりあの二人を丸め込んで、引き込むのかと思っていたが」
「時期尚早だよ。あいつらはまだまだ若い、もちっと熟成せにゃ色々と使い物にならん」
「お前の判断基準はよく分からんな」
大体原作知識と勘だよ、と言う事実は言わないでおく。それはまあ半分冗談として、今あの二人を口説き落とす気にはなれない。特にアスランは無理矢理仲間に引き入れても、後で裏切る可能性がある。そういった場合、裏切られた勢力は大概酷い目に遭っているからな。験を担ぐわけではないが、味方に引き入れるのであれば自らそう望んだ場合だけだ。そのときになって考えるというレベルだろう。今は2人の心に楔を打つ程度でよかろうさ。
「それはそれとして、あの2人をどこへ連れて行く気だ? マルキオ導師に任せるとでも?」
「いや、別口だ。行く先は――」
目的地を告げたら、ミナは少し眉を寄せた。
「並の人間なら気が狂ったかと疑うところだが、お前のことだ、何か考えがあるのだろう?」
「もちろん。
にやりと笑う俺に対し、ミナは渋い表情になる。
「……時々思うが、お前実はアスハではなく、
「褒め言葉と受け取っておくよ」
その後、準備を整えた俺は、幾人かを伴って地上に降りる。
「あなたが頭おかしいのは分かっていますけど、今回はまた格別に頭おかしい事考えましたわね」
呆れ果てたと言った様子で毒舌かましてくるのは、妙に色っぽいスーツを身に纏った淡い金髪の女性。【リシッツァ・コチャンスキー】。商会の幹部の一人で、CSSの代表を任せている人物だ。
今回引き連れてきたのは彼女と配下の猛者たち。彼女自身もかなりの修羅場をくぐっている強者だ。まあ出番はないと思うが、念のため、な。
「まともな手段じゃ簡単に状況は打開できん。何しろ世界は戦争中だ、多少狂ってる方が通りが良いだろうよ」
「開き直りじゃなくてガチで言ってますわねこの人。平時だったら病院行きですわよ?」
まあ自分がアレでナニなのは自覚している。アレでナニで突き進まなかったらお先真っ暗なんでな。しかもこの後平穏は続かないと来ている。前世もそうだったが今回も人生クソゲーだ。
と、不意にリシッツァが俺の前に回り込み、上目遣いで顔をのぞき込んでくる。
「命がけで思い切ったことをするのであれば、思い残しの無いようにしたいとは思いません? ほら丁度目の前にいつでも手を出して良い美女とかいるんですけれど」
半分くらい露出した胸を強調するようにしながら言う。それに対して俺は、ものすごく冷めた視線を向けてやった。
「極上のフルコースに見えて実は毒入り、なんてものに手を出す気になれるかい」
この女ことあるごとに俺を誘惑してくる。
「そもそういう台詞は、仲間内で
言いながら周囲の連中に視線を巡らせば、全員が視線をそらしやがる。まったく、チヒロを胴元に変な賭けしやがってこいつら。余計に手を出す気になれんわ。
当の本人は悪びれる風もなく、いたずらげにウィンクして見せた。
「ちょっとした人生のスパイスですわよ?」
「香辛料効き過ぎてるわ」
退屈はしないで良い、と言えるほど大物じゃねえんだよ俺は。まあ気が楽になっている部分があるのは認めるけどな。今のも俺の緊張を解す為っていう理由もあるのだろう。多分。
「ともかくそれは横に置いておくとしてだ、多分相手は一筋縄じゃ行かない。心しておけよ?」
「お任せくださいませ。給料分の仕事はいたしますとも」
「結構。それじゃ、行ってみようか」
俺は整髪料を付けた髪をなでつけ、眼鏡をかける。
そして。
「お初に。
キャラ紹介
リシッツァ・コチャンスキー
クーロン商会の暴力装置CSSの代表を務める女性。
その名前から分かるだろうが、ユーラシア連邦の出身。そしてコーディネーター。実は元々連邦のイリーガルな工作員であり、かつてリョウガの命を狙ったが返り討ちに遭い、そしてスカウトされたという異例の経歴を持つ。
リョウガに対して気のある風を装うが、半分は意地とネタらしい。しかしもう半分は……?
なおチヒロとは普段結構仲が良いが、時々仲が悪くなる、らしい。
名前のリシッツァは、ロシア語で狐という意味。偽名バリバリだな。モデルは某FGOのTV・コヤンスカヤ。
あそこまでキット出すんなら、ショートアニメじゃないほうがよくない? 色々事情があることは分かりますが。リアルが売れてないのも分かりますが。
だから新作作った方が売れるってばよものに寄るけど。捻れ骨子です。
はい問題発生&悪巧みの回。カガリだったらやる。俺はそう信じている。そしてリョウガさんなら逆手に取って利用する。そんな感じでこんな展開に。バルトフェルトさんは逃げた方がよさげです。
アスランとイザークの扱いがあっさり目ですが、下手な利用の仕方をすると痛い目に遭いそうなので、リョウガさんはあまりペナルティ考えずに返す方向のようです。その分誰かが苦労するかも知れませんが彼は謝らない。だってあいつら抱え込んで苦労したくないもの。
そして意外に面白いキャラになりつつあるサハク姉弟。多分子供の頃からリョウガに付き合っていくうちに丸くなったんでしょう。きっと。
そういやリョウガの外観について言及していませんでしたが、某BLEACHの藍染 惣右介あたりをイメージで。ただし髪を下ろしてるときが目つき悪くて、セットすると眼鏡という感じで。つまり全体的に胡散臭い。声は速水さんか小杉さんを希望。
とにもかくにも次回はバルトフェルトさんが犠牲者。(酷)逃げてー。
つー事で今回はこの辺で。