僕のおしごと 作:駒木
二週間はあっという間だ。今日はマイナビの一斉予選なのでまた天衣ちゃんと晶さんと東京に来ていた。実は最近盤王戦の予選の関係で東京に来てる。出席数が……。義務教育だし大丈夫か。
八・九月も一般棋戦やタイトル戦の関係で東京に来る回数増えそうなんだよね。移動費は連盟から出てるから新幹線使ってるけど、飛行機とどっちがいいだろ。
大阪駅が近いから新幹線の方が早いな、うん。
新幹線の中で頭の準備運動として僕と一戦だけする天衣ちゃん。全然緊張してないな。
来るのも三回目だから会場については全然迷わなかった。もちろん今日も僕は変装済み。というか今日こそ一般客が会場に詰め寄るので顔を隠さないといけない。
お仕事以外で女流の棋戦に来る棋士、特に新人なんていないから、目立つ。鹿路庭さんにも確認を取ったら絶対バレないようにしてくださいって言われたし。
そんなわけで会場に入って、マイナビ名物らしい「個人スポンサー」を示すボードが受付近くにあった。受付を済ませて連盟職員にまた来たって苦笑されて、なんとなく見てみたら凄い数字になっていた。
夜叉神天衣……154(通常46、特別108)
3桁。鹿路庭さんだって女流では二番人気の人なのに、合わせて47だ。お金を払って近くで対局を観れたり記念撮影ができる制度らしいけど、通常で一万、特別で一万五千円払わないといけない。
お金持ちが多いんだなあ。あ、晶さんが特別スポンサーになって一つ増えた。そんなお金を払わなくても生写真くらいいつでも撮ってくれるだろうに。
僕は首から関係者札を下げることで晶さんの隣で観戦できるらしい。お金を払ってる人と一緒のところで観るのはちょっと心苦しい。お金払ってないし。
天衣ちゃんは棋士控え室へ。僕たちは観覧スペースへ行く前に対戦表を見ていた。知ってる人もいるけど、直接的な対面はないからなあ。棋譜を並べたことのある人も何人かって感じだし。
「あ。祭神女流帝位が同じブロックにいますね。二回戦です」
「む。お嬢様が熱心に棋譜を並べていた人だな。覚えてるぞ」
「女流では焙烙女流三段に続いて警戒すべき相手ですからね」
「あ〜れ〜?こっち知ってる?しかも〜あれあれ〜?暁人きゅんじゃね?」
「はい?」
誰だろう、人の名前に、中学二年の男子にきゅんなんて付けちゃう痛い人は。
そう思って振り返ったら痛い人がいた。話題に挙げていた祭神女流帝位が棒付きの飴を舐めていた。
「やっぱり〜。なになに?女流の将棋に興味あんの?知らなかった〜」
「祭神女流帝位、初めまして。碓氷暁人四段です。あと、あのできれば人が多いのであまり僕の名前を呼ばないでいただけたら」
「あ、お忍び?オッケオッケ!だからそんなカッコしてんだ〜。ま、可愛いからオッケ!」
「はぁ」
なんというか。ちょっと前のギャルのような。いや、ギャルと分類していい人を見たことがないから新しいか古いかなんてわからないんだけど。
受付から離れて、一応話をする。
「いま時の人が女流の大会にどしたん?」
「知り合いの応援です。指導対局もしたことがあるので」
天衣ちゃんは僕との関係をまだ隠すつもりらしくて、そういうことにした。嘘は言ってない。本当のことも言ってないだけで。
「へ〜!裏山!暁人きゅんってばやいちをボコっちゃうから、一回指してみたいんだよね〜。でも二回じゃどっちが強いかなんて言えないし、やいちとどっちが強いんだろ?」
「……九頭竜七段のことですか?」
「そ!やいち!やいちの弟子になりたいんだけど、つうか彼女?そうしたら毎日将棋指せるじゃん?もうそれだけで幸せじゃん?暁人きゅんってやいちと仲良かったりする?」
「すみません……。研究会とかしたことがなくて。それに九頭竜七段は今竜王戦で忙しいですし」
「そっか〜。橋渡ししてもらおうかと思ったけど、残念」
また九頭竜さんの周りの女性が増えたぞ?どうなってるんだ。今日空さんがいなくて良かった。喧嘩勃発するところだったよ。
モテモテだなあ。僕って女流の方と縁があったのは鹿路庭さんだけだ。大槌師匠はお歳だからあまり女の子の弟子をとってなくて、繋がりがなかった。
九頭竜さんは同門に二人も女性がいるからこそだろうな。
「ところで、教えてたのって誰?」
「夜叉神天衣という子ですよ。この方は彼女の保護者で、一緒に来たんです」
「ああ、一番人気の!」
知ってたんだ。てっきり女流棋士なんて眼中にもないと思ってたのに。
この人、女性タイトルホルダーとして棋士の方と色々な棋戦で戦うのだけど、結構勝っている。空さんを倒せるかもしれない女流の一人だ。
焙烙さんよりは安定しているし、実際空さんとの将棋も途中までは優勢だったから女流で一番強いのは彼女かもしれない。
「フーン……。その子って、見えてるの?」
「……?ああ、脳内将棋盤のことですか?それとも読み筋の話です?」
「君にも見えてる世界のこと。どうなの?」
「うーん……。入り込めば、確実に。普段はどうでしょう?でも強いですよ。僕も負けます」
「……!キヒッ!最・高!こんなトーナメントクソつまんねえって思ってたけど、楽しみできたァ!ありがと、暁人きゅん!」
とてもいい笑顔(可愛らしいとは言わない)を浮かべて控え室へ向かう祭神女流帝位。煽っちゃったかな。けど良い将棋になると思う。
最後のが本性かな。ずいぶん猫かぶってたんだなと、その豹変っぷりに驚いた。
「先生、あんな言い方して良かったのか?」
「天衣ちゃんが勝つか負けるかは置いておくとしても。良い経験になると思いますよ。だから本気で指してくれるなら天衣ちゃんとしても本望だと思いますけど」
・
「あら、鹿路庭女流二段。おはようございます」
「あ、天衣ちゃん!おはよう」
この二人、例の名人による研究会を一緒に経験したためにそこそこ話す仲になっていた。とはいえ、それは天衣が他に女流で知り合いがいないため唯一顔を知っているから話しているだけでもあるが。
将棋をすれば天衣が吹っ飛ばしていたが、それはそれ。暁人に言われて礼儀を気にしていたため女流の先生相手には下手に出ていた。
「山刀伐先生が会えなくて寂しいって言ってたよ?あと名人も」
流石にあの研究会のことを大っぴらに言うわけにはいかなかったので、名人のことは小声で告げていた。鹿路庭が山刀伐と懇意にしているというのは有名だったが、天衣はほぼ無名の人間だ。
山刀伐の名前を出しただけで周りの女流棋士はどういうことかと聞き耳を立てていた。
「これに集中したかったので。東京に来るのは師匠の考えで控えていました。研修会で大ポカもしちゃいましたし」
「なるほどね〜。お師匠さんによろしく伝えておいて?」
「はい」
鹿路庭はこれだけの会話で師匠のことをまだ隠しているのだと察して名前を出さなかった。できる女である。謎の師匠が山刀伐と関係を持っていると思われる程度だろう。
「……それとは別件で。碓氷四段にニコ生であーんをしようとしたのは何故ですか?」
「あ、やっぱり気にしてた?スタッフさんの悪ふざけだったの。碓氷四段の人気のおかげでいつもより視聴者多かったみたいで、バズらせようとしたスタッフが何か話題を作ろうとしてて。本当に困っちゃったわ」
「碓氷四段に止められてなかったらしてましたよね……?」
「それが女流の聞き手の辛いところなのよ。あそこで私が断っちゃうと視聴者に怪しまれちゃうし、仕事の話も来なくなっちゃう。そういう意味じゃ碓氷四段は最高の対処をしてくれたわ。炎上もしなかったし」
女流ならではの苦労話だ。天衣はまだ経験していなかったために実感しづらい話だが、どこで炎上してどこで仕事を回してもらえなくなるかわからない。
特に鹿路庭のように見た目も込みで仕事を手にしている人間にとっては。
「そうそう!個人スポンサー凄かったね!昔の空女王よりも多かったわ!」
「……そうなんですか?あの制度についてもさっき知って」
「あー。あんまり興味なさそうだもんね。多分天衣ちゃんのチャレンジマッチの後の記事でファンが増えたんだと思う。今は空女王のおかげもあって女流の棋戦を観に来る人も増えたから、それで上回ったんじゃないかな」
銀子の頃はそこまで女流の棋戦に注目されていなかった。銀子という圧倒的スターが産まれて注目され始めたのだ。
特に今のタイトルホルダーは見目も優れている人が多い。そのため観客はかなり増えた。この勢いがなければ天衣でもそこまで数字は伸びなかっただろう。
一方天衣からすれば注目された理由が泣き崩れたインタビュー記事となると、素直に喜べないものがある。
「わたしは、わたしの将棋を指すだけよ。注目なんて関係ない」
「ふふ。やっぱりそっちの口調の方が天衣ちゃんらしいわ。対戦表は見た?」
「いいえ。受付の方に、こっちにもあると言われたから」
「私とは別ブロックだから本戦じゃないと当たらないね」
そう言われてようやく天衣は対戦表を見た。自分の名前を見付けてその対戦相手を見て。
天衣は笑った。
「すごいよ、あなたは。彼女と当たるってわかって笑えるんだもの」
「当たり前じゃない。棋士を吹っ飛ばした?捌きの雷?──もっと凄い人を知っているもの」
(名人じゃなくて暁人君なんだろうなあ)
鹿路庭はおそらく正解だと思っていても口に出さなかった。そしてそれは正しい。
天衣が今一番尊敬している棋士は暁人という事実は一切変わっていない。
そんな時、控え室に入って来る人物がいた。その人物は辺りを見回した後、天衣を見付けて口角を三日月のように吊り上げた。
「みっけ。楽しませてよね……!キヒヒッ!」
・
「お、先生!お嬢様が勝ったみたいだぞ!」
「ですねえ。……完勝譜です」
晶さんが言うように天衣ちゃんは勝った。めちゃくちゃな人数の観客に見られながら指していつも通りに戦えるかなと思ったけど、天衣ちゃんは会場で二番目に早く終わらせて勝った。メンタル面は問題ないみたいだ。
ちなみに一抜けは祭神女流帝位。すっごい笑顔でバシバシ指してた。途中歓声が上がってたのは凄い。
天衣ちゃんも勝った今、めちゃくちゃ野太い声援を受けてるけど。
勝った天衣ちゃんはこれから個人スポンサーたちと記念撮影をしてお昼休憩を挟んで二回戦をやって今日は終わり。
すっごく人が多いから気疲れしないといいけど。
天衣ちゃんは愛想良く記念撮影をしていたけど、晶さんの番になったら露骨に顔を歪めていた。自分のお付きがわざわざ高額支払ってまで記念撮影に来るとは思ってなかったのだろう。
僕は関係者札を下げているからって控え室に行ったりはできないので晶さんと適当に近くの牛丼チェーンに行った。さっさと食べて帰ってきて余裕を持って場所の確保をする。
二回戦の時間になって、天衣ちゃんと祭神女流帝位がぶつかる。やっぱり彼女たちの会場前はかなりの人だかりができていた。
天衣ちゃんは後手。そして今回も扇子を出して左手に持っていた。どうなるかと思って見ていたら、お互いが振り飛車の準備をしていた。
「相振り飛車か!イカちゃん相手に振り飛車は無謀じゃ……」
「まあ、女流は振り飛車多いからな。夜叉神ちゃん、さっきは居飛車だったけど」
「でも焙烙女流三段とも相振り飛車になってただろ?天衣ちゃんって振り飛車の方が得意なんじゃないか?」
そんな声が観客席から聞こえてくる。お客さんたちも将棋を理解して見に来ている人が結構いる。明らかに容姿に釣られてる人も若干数いるけど。
天衣ちゃんは四間飛車、祭神女流帝位は中飛車。どちらも飛車を振り、相手の陣地へ突き進む。城門を削り、敵の勇者を跳ね飛ばし。雑兵を狩っていく。
持ち時間が三十分しかないからか、指す手が早い。それでもお互い齟齬が出ないほどやりあっている。そのせいで観客のボルテージが上がっていく。
本来、将棋は静かな場所でやる競技だと僕は思っている。これから一般棋戦に参加して僕も観客に囲まれるだろうけど、その時どれだけ自分を出せるかわからない。
けど、目の前の二人は。周りの声など聞こえないかのように盤面に集中していた。
「いい!凄いな!お前、銀子より良い!こっちについてこれるとかさあ、これから女流棋戦に力入れる理由ができちゃった!」
「違う、違う。……違う。これ!」
女流帝位の叫びが響き、天衣ちゃんの否定の声が静けさを引き出す。全く違う様子の二人ながら、その局面は激しく移り変わる。
持ち駒を投入して、奪われて。奪い返して使われて。まだ一分将棋に入り込まないのにゆうに100手を超えた。
この一斉予選から解説がつくけど、その速い展開に解説が追いついていなかった。
これは女流の棋戦だ。だけど、この棋譜は棋士のものだ。それだけ白熱した戦い。
「違う、違う……。違う!まだ、まだ……違う。ここ!」
「なっ!」
「飛車を、切った!?」
振り飛車だというのに、もう終盤だというのに。
天衣ちゃんは飛車を切った。それは誰をも驚愕させ、しかし最善手だった。そうすることでしか、彼女に勝ち目はなかった。
けど、その先を女流帝位は読んでいた。即座に飛車を食い潰し、更なる天衣ちゃんのと金による攻撃を受け潰す。
そう、飛車を与えても、使わせる場面を作らなければ良い。その前に詰ませてしまえばいい。僕がよくやる手だ。
「これでぇ!」
女流帝位の攻防一体の馬の一手を、歩一枚で躱す。そして奪った飛車をとうとう、投入した。
だけど、天衣ちゃんはそれを無視した。自分の防衛網を信じて。
「ここっ!」
中飛車をすることによって空いていた中央。そこに香車を突っ込ませる。その攻撃にまた攻防が入れ替わり、女流帝位は防衛を一手だけ加える。
そこから天衣ちゃんは攻め続ける。攻めて攻めて、攻めて。
きっと彼女は、気付かない。
自分の認識と、目の前がズレていることを。
天衣ちゃんが駒台に手を触れる。このまま攻めようとしたのだろう。
だけどそこに。駒は一つもない。
「あ……」
呆然とした天衣ちゃん。そう、そこに銀があるはずだと思っていたはずだ。
だけどそれは、七手先のこと。今は銀を取るために桂馬を動かさなければいけない。
けれど、その止まった思考が、彼女から時間を奪い取る。
電子時計が、彼女の持ち時間がなくなったことを示すブザー音を鳴らした。それに肩を大きく震わせて、持ち時間がなくなったことによる負けを告げる鐘を聞き入れる。
天衣ちゃんの動きが止まったんだけど、女流帝位が何故かブザー音のうるささに電子時計を思いっきりぶっ叩いた。ドガっ!とかいう大きな音が聞こえて電子時計が落ちたほど。
その行動に会場はどよめいたが、それ以上の叫びを放つ。
「さっさと指せ!夜叉神天衣!」
「……負けました」
「あ?……ああ〜?ええー……?」
天衣ちゃんの方が先に冷静になったみたいだ。女流帝位は周りを見渡して、落ちた電子時計を見て。
盤面を見て、天衣ちゃんの顔を見て。
対局が終わったことを理解した。
「ウソ〜!?あんな盛り上がってたのに!?最高にハイだったのに!時間切れぇ!?ありえないんですけどぉ!とにかく続き!」
「え、はい……」
天衣ちゃんが困惑しながらも続きを指す。ズレたのは十三手前だろうか。そこから一切駒台を見なくなったから、そのまま頭のイメージ通りに指したんだろう。そしてその考え通りに女流帝位も指した。
途中で女流帝位が間違えてたら、ズレにも気付けたんだろうか。
この対局そのものは133手で終わったけど。最後までいっていればもうちょっと続いた。いや、持ち時間各三十分の早指しでそんな長丁場に普通ならないはずなんだけど。
お互い集中しすぎて一分将棋になってたのに気付いてなかったんだろうな。
そして進めていって。天衣ちゃんが銀の存在を確認して。
九手詰が現れた。
「はあああ〜。気付かなかった!負けました〜」
「いえ、あの。勝ったのは女流帝位です……」
「夜叉神ちゃ〜ん。こっちまだ『ありがとうございました』って言ってないけど?」
「あの。それを言ったらわたしは『負けました』と言ったのだけれど……」
「持ち時間あと三十分あったらこっち負けてんじゃん!こんなので勝ち拾えとか無理〜。誰だよ、この棋戦の持ち時間考えたやつ」
うわー。とうとう大会規約に愚痴を言い始めた。すごいなあ、女流帝位。自分が勝ったことを認められなくてスポンサーに喧嘩を売るなんて。
でもそんな姿を見て「さすがイカちゃん!」「痺れる〜」「潔い!」などなど好評なのか野太い声が聞こえる。
いや、潔いかな?勝ちを認めなくて駄々こねて、多分うるさかったからって電子時計ぶん殴ってたけど。
「ああ〜もう!何で負けてんのに……わかりましたっ!ありがとうございました!」
感想戦をやりながらずっとぐちぐち言ってたら流石に職員さんに止められたらしい。女流帝位にありがとうございましたと言われて天衣ちゃんは頭を下げる。それでようやく対局が終わったと見做され拍手が起こる。
溢れんばかりの拍手が会場を包む。最後まで対局をしていたのはこの二人だ。そして一番凄い棋譜も。
「これ女流迷譜100選に選ばれるっしょ」
「お前、絶対迷う方で言ったな?最後のあれがなくて棋譜だけ見たら名前の方の名譜100選に入れられるだろ」
そんな声が聞こえてくる。時間を告げる電子音がうるさかったからぶん殴りました、なんて後にも語られる所業だよなあ。
でも、そんな破天荒なことを結構してきたからか、女流帝位を見る目はまたかくらいに済んでる。棋士も変わり者多いけど、観客も変わってる人多いよね。
「お嬢様が負けたことには変わりないんだな?」
「はい。時間切れによる負けです。勝負に勝って試合に負けた形ですね。もしあと三分、持ち時間が余ってたら勝ってたかもしれません」
「それも勝負の世界か……」
「でも、やっぱり天衣ちゃんは強くなってますよ。空さんと戦えなかったのは残念ですけど」
もしタイトル戦になっていればどうなっていただろうか。黒星のない真っ白な白雪姫に、墨をつけられたか。三勝される前に一戦は抗えただろうか。
それは、来年に持ち越しだ。
「僕も頑張らなきゃな」
天衣ちゃんは帰りの新幹線で気付かなかったことに悔しくて泣いてたけど、すぐに僕と将棋を指したいと言ってきた。だから僕はそれに従う。
この悔しさもバネになる。研修会じゃなく、大会での初めての負けだ。しかも勝てた勝負に負けた。
大会独特の空気もある。それに勝ち進めば天衣ちゃんの目標である女王に近付けた。なれていたかもしれない。
今回負けたら、もう次は来年だ。来年になるまで待たなくちゃいけない。約束を一年先延ばしにしてしまう。それが悲しかったんだと思う。
来年はちゃんとタイトル挑戦できるように、僕も指導に力を入れよう。
そう考えていると僕は。青竜戦とチャレンジ杯で優勝して勝利数の関係で五段に昇段。そのまま毎朝杯で名人に勝って優勝、六段に昇段した。