僕のおしごと 作:駒木
「何というか。去年は二人の年だったわね」
「いやー。僕がいくら話題を作っても、その先を行くんだから。九頭竜竜王は凄いよ」
年が明けて指し初め式。僕と天衣ちゃんも参加していた。僕は去年から参加していたんだけど、天衣ちゃんは今年初参加だ。
僕も色々将棋界を騒がせる記録を残したんだけど、九頭竜さんはそれを上回る偉業をやってのけたからなあ。史上最年少のタイトル挑戦者、史上最年少タイトル保持者。しかも将棋界で最強と呼ばれる竜王に新人がなっちゃうんだから。
八段の段位記録、一生破られないんだろうな。十六歳四ヶ月?無理無理。この年数より年下で竜王になるとか不可能でしょ。
僕と天衣ちゃんは並んで指し初め式に来たんだけど、僕は黒い袴を、天衣ちゃんは赤い鮮やかな振り袖を着ている。なんとこれ、どっちも弘天さんからのプレゼントだったりする。
僕は去年制服で参加したんだけど、あまり好評じゃなかった。だから今年は和装をしようと思ったんだけど、そうしたらいきなりプレゼントされて驚いた。誕生日プレゼントということだったのでありがたく受け取ったけど。
僕たちが将棋会館に向かうと、既に酔っ払ってる人が。そんな人たちに絡まれている九頭竜さん。天衣ちゃんを見せないために手を取ってさっさと上の階へ駆け上がることにする。
今日天衣ちゃんは髪をお団子に結っている。シニョンって言うんだったかな。普段に増して可愛いから危ない。
「お、お兄ちゃん?」
「ちょっと急ごう。アレに絡まれたくない」
先輩をアレ扱いしたくないけど。この年末年始、竜王になったから天衣ちゃんの写真ちょうだいというメールがめっちゃ来た。
ムカついてそれを無視したら痛電してくる始末。僕の中であの人の株が一気に下がった瞬間だった。
なにが研修会に顔を出しても話しかけてくれないなんだか。他の子達は史上最年少タイトル挑戦者ともなれば近寄るけど、天衣ちゃんは将棋をするために将棋会館に通っているわけで有名人に会いに行ってるわけじゃない。
だから将棋に集中していただけ。それに天衣ちゃんにだって肖像権がある。そんなに写真が欲しければマイナビで個人スポンサーになれば良かったんだ。
他の人はお金を払っているのに、竜王だからと写真を求めてくるなんて。竜王になったら写真をあげるなんて約束もしてないし。
メールに金髪外国人幼女の写真を添付してきて、彼女の写真をあげたんだから天衣ちゃんの写真をくれとか言ってきた。
空さんにチクったよ。あと晶さんにも要注意人物として話してある。そのおかげでメールはなくなった。
けど今日は親交を深めるためとか理由をつけて近寄ってくるかもしれない。晶さんも来られないから僕が守らないと。
「お、レコードホルダー二人組じゃないか。明けましておめでとう」
「生石玉将。明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
「ああ。いやあ、似合ってんな。黒と赤で二人ともよく映える。レコードホルダーとしても注目されるだろうから、挨拶回り大変だろうけど頑張れよ」
生石玉将にそう労われる。記録持ちだったりタイトルホルダーだったりすると色々な人に囲まれるのは目に見えている。
天衣ちゃんという可愛くて史上最年少女流棋士というのは、それだけで話題になる。研修会を突破して規定の級になったために女流として登録した時は結構騒がれた。今日もそうなるだろう。
関西の指し初め式は結構適当だ。好きに指して好きに話して、好きにお酒を飲んで。記者が来たら答える。それだけ。
特別な用事や東京の将棋会館に行かない限り、原則参加ってこと以外はゆるい集まりだ。
僕と天衣ちゃんは知り合いの棋士や職員さんに話しかけられて、新年の挨拶をする。もう皆さん僕と天衣ちゃんの関係性を知っているから一緒にいても特になにも言われない。
女流棋士になった際、公表したからだ。
挨拶もそこそこに、開会式の挨拶も終わって僕達は別れて将棋盤の前で待っていた。複数ある将棋盤の前に好きに座っていいのだけれど、レコードホルダーということで僕と天衣ちゃんと指したい人がいっぱいいるらしい。去年も最年少だからって結構指した。
天衣ちゃんには職員さんがついてるからいいとして。
僕も何人かと指していると、新しい来客があった。空さんだ。
「空女王、明けましておめでとうございます」
「おめでとう。指すわよ」
「あの、いいんですか?女王ともなれば
「いいのよ。抜けてきた」
そういうわけで他の人が指した途中の盤面から続ける。僕たちが同い年だからか、写真を撮る記者の方も多い。空さんはいつも通りのセーラー服だけど、僕が和装しているためにフラッシュが多い。
「あの小娘の師匠だったのね。道理で」
「研修会で見ましたか?あ、まだ言っていませんでしたけど、二段昇段おめでとうございます」
「ありがとう。マイナビと他の女流棋戦の棋譜を並べたのよ。例会があるからって棄権する女流初めて見た」
「天衣ちゃんの場合今は数をこなすことが大事だと思って体調とスケジュールを見て棋戦に出場させていますから。それこそマイナビのように時間を把握できなくなったら勝てるものも落としちゃいます」
そう、あの悔しさがあって女流の棋戦にも数個参加させている。例会と被るところまで勝っちゃったら棄権するんだけど、それも一回だけ。
祭神女流帝位に毎回ぶつかって負けるか、焙烙女流三段に負けるためにタイトル挑戦までは行っていない。けどなんだかんだ勝ち上がった女流帝位の思考が早すぎて相手が追いつけず反則をやらかしてタイトル戦で負ける、ということを繰り返して去年から女流のタイトルホルダーの顔ぶれは変わっていない。
「あなた、女流帝位に何かした?」
「いえ?特には。影響を与えたとすれば天衣ちゃんだと思いますけど」
「そうよね。……去年より強くなってる」
「次に女流帝位が勝てば、女王挑戦ですからね。応援してます」
「……私の応援なの?」
「天衣ちゃんは、あなたから女王を奪うつもりですよ」
そう伝えると、空さんの手が止まる。天衣ちゃんにとって女王とは空さんなのだから、空さんが負けるなんて思いたくないのだろう。
「そう。頑張るわ」
「はい。で、来年は天衣ちゃんが女王に挑みます」
「……待ってるって、伝えておいて」
「ご本人から伝えた方が、思いも一入だと思いますが?」
「嫌よ。面倒臭い」
そういうものだろうか。よくわからないまま僕も将棋を進める。
「あと、あのメール。ありがと」
「ああ……。僕もメールと電話が続いて困ってたので。止めてくれてありがとうございます。……その、そんなに小さい女の子が好きなんですか?子供が好きとかではなく?」
「女の子限定ね。少年から声をかけられたらキリッとしてるけど、女の子だとニヘラってしてるもの」
重症だあ。清滝桂香さんと空さんがいて小さい女の子が好きって。なのに好きな人は清滝さんを公言している。空さんは清滝さん相手なら目くじら立ててないけど、他の女性が近くにいると警戒してるし。
女流帝位を始め、山城桜花や女流玉将とかと一緒に出かけている目撃情報多数。というか、鏡洲さんと椚君、それと神鍋五段以外の男性と一緒にいるところを見たことない……?
「……あの、色々頑張ってください。体調も、本当に気を付けて」
「ええ。ありがとうございました」
満足したのか、お互いお辞儀をして終わる。続いてやってくる人達相手に将棋を指したり、色々な人に挨拶したり。
一番若い将棋師弟ということで天衣ちゃんとの2ショット写真を凄く撮られた。
下の階がとても騒がしかったけど、多分大先輩方が酔っ払っているんだろうと思うことにした。皆さん飲兵衛だから暴れちゃったのだろう。
それからも僕達は結局将棋を指して棋戦に出て、学校に行ってお仕事をしていくという日常を過ごしていたんだけれど。
三月末に、事件が起こる。