羨望の影   作:希(マレ)

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作品:食物語(二次創作同人)(全年齢)
人物:德州扒鸡(とくしゅうぱーじー/兄)と
   符离集烧鸡(ふーりーしゅうしょうけい/弟)の物語
設定:食魂の理想郷、空桑(くうそう)に行く前の世界線
OoC等:寛容な心で読んでね

※公式設定で血の繋がりはないとされています
※「食魂(しょくたま)」についてはあらすじの設定説明を参考にしてください。


羨望の影 - 二

 日も暮れ、真新しい駅舎は暗い影を背負い、その内部に煌々とした人々の営みの光を湛えていた。

 少年は下がり始めた気温に身震いし、白い息を吐きだした。

 手足は冷たく、ベンチで寝ていた酔っ払いからくすねた大きめのジャケットに足を畳み、前を閉じ合わせる。

 少年のいる場所は真っ暗だった。頭上から人々の足音が近づいては通り過ぎてゆき、唯一の入り口の穴からは、時折轟音を立てて列車の車輪が通り過ぎて行った。

 列車が通り過ぎるたびに黒い煤が穴の中に充満し、這い出て呼吸しなければならない以外は隠れるのに都合の良い場所だった。

 今もそうして貨物列車が通り過ぎ、新鮮な空気を求めてしばらく呼吸を整えたのち、少年は再び穴蔵に戻った。

 

——トツ、トツ。

 

 時刻は深夜に近づいており、そろそろ人通りが途絶えてきたころだ。

 穴蔵の真上を歩く足音が響く。

 少年は、膝を抱えてうとうとしていた。

 

——トツ。

 

 足音が、真上で止まった。

 音には気づいていたものの、少年は構わず目を瞑って眠りに堕ちようとしていた。

 

——ジャッ。

 

 穴蔵の前の砂利が、音を立てて散った。何か重くて大きな物が落ちたようだった。

 最初は気にしていなかった少年だが、穴の入り口から差し込む光量が減ったことで、不自然さに気付き顔を向ける。

 入り口には誰かがしゃがみ込んで中を覗いていた。その人物が吐く息が、鈍いスモークとなって風に流されていく。

(気づかれた?)

 少年は緊張して抱えた膝を握りしめた。

 次に響いたのは、聞き覚えのある声だった。

「出てきて。」

 昼間の青年だ。

 少年は警戒してしばらく黙っていた。こんな暗闇で、こちらを見つけられるわけない…。

「もうすぐ哨戒の時間になる。見つかれば警察じゃ済まないよ。出てきて」

 明らかに相手は、確信をもって話しかけているようだった。

 少年はしぶしぶ穴から這い出した。

 少年が姿を現したのを見て、青年は素早くホームの上に体を持ち上げた。そして振り返り、膝をついて少年に手を差し伸べる。

 昼間と違い、青年は暗い色のフードジャケットを着ていた。足元は簡素なスラックスに運動靴。フードを被っているのでやはり表情はよく見えない。

 少年は少し躊躇ったものの、おずおずと手をさし伸ばし、握った。

 手袋越しではないしっとりとした素手の感触に、少年は心臓が早鐘を打つのを自覚した。お互いの手は冷たかったが、繋いでいるうちにじんわりと温かくなっていった。

 青年は無言で少年を誘導し、水飲み場の前に来て手を離した。

 そして背中に背負っていたらしい小さなリュックを地面に下ろす。中からタオルを取り出すと、流れ出る水で布を湿らせる。

「足を出して」

 大人しくついてきた少年だったが、さすがに言いなりにはならず、ここにきて反抗の態度を示した。

「何するつもりだよ」

「足を拭くだけ。そこに掴まって、片足を上げて」

 青年は辛抱強く少年が従うのを待った。

 少年の心にはまだ警戒心が残っているようだった。一歩近づいたものの、足を上げようとはしない。

 青年はため息をつくと、膝を進めて少年の足を取った。

 バランスを崩しそうになって、少年は慌てて水飲み場の台座に掴まる。

 青年は構わず少年の足の裏からくるぶしまでを念入りに拭いた。

 そして足首を持ち上げたまま片手で保持し、もう片方の手でリュックを探って折りたたまれた靴下と真新しい運動靴を取り出した。

 少年は予想外のことに驚いて再び心臓が早鐘を打つのを聞いた。

 青年はよく拭いた足に手早く靴下を履かせ、最後に靴をかぶせた。

「…ごめん。少し小さかったかもしれない」

 靴の紐を調節しながら、何故か青年が謝った

「身長からサイズを割り出したのだけども。将来は背が高くなるね」

 穏やかな口調は、不思議と少年を安心させた。

 もう片方の足も同じようにして、青年は両足に靴を履かせた。

 跪いて紐を調節してる青年を上から見下ろしながら、少年はふと不思議な気持ちが沸き上がるのに任せ、青年のフードに手をかけ、めくった。

 フードをめくられ銀色の髪が露わになった青年が、不思議そうに面を上げる。

 さらさらと首元の髪が揺れ、鈍い銀色の瞳が少年の赤い瞳を捉える。

 言いようのない気持ちが、少年の胸に温かく広がった。妙に心地よかった。

 しばらく目を合わせていたが、青年は再び靴に顔を戻し、しっかりと履かせることに集中した。

 満足のいくようにできたのだろう、青年はやっと立ち上がった。

「行こう」

 リュックを背負い、少年の手を引き、青年は歩き出す。

 少年は今度は反抗しなかった。

 手を引かれながら胸に広がるその感情が、”懐かしさ”というのだということを、この先長い年月を経ても少年が知ることはなかった。

 

 

 

 




※食魂が何度も生まれ変わりながら成長していく、というのは筆者の妄想のオリジナル設定です。
※徳州扒鶏という人物は几帳面でちょっと変わった面を持つキャラクターです。彼の素です。
※pixiv(https://www.pixiv.net/users/26779358)にも同じ内容の小説を掲載しています。
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