人物:德州扒鸡(とくしゅうぱーじー/兄)と
符离集烧鸡(ふーりーしゅうしょうけい/弟)の物語
設定:食魂の理想郷、空桑(くうそう)に行く前の世界線
OoC等:寛容な心で読んでね
※公式設定で血の繋がりはないとされています
※「食魂(しょくたま)」についてはあらすじの設定説明を参考にしてください。
手を引かれて着いた先は、木造二階建てのアパートだった。
お世辞にも綺麗とは言えない外観だったが、幸い時刻は深夜に近づいており、暗いお陰で少年の目に建物の古さは映らなかった。
青年は静かにドアを開けると、少年を中へ導き入れ、再び静かに閉めた。
まっすぐに伸びた廊下には、弱々しく輝く電球がひとつかかってるきりで、薄暗かった。廊下は板張りで、歩くたびにギシギシと音が鳴る。それに、地面からの湿気で底冷えがした。
少年は少し気味悪く思った。
そんな中を青年は慣れた足取りで進むと、いくつか並んだドアのうち奥から二番目に鍵を差し込み、開けた。
きしんだ音を立てて扉が開き、真っ暗な空間が現れた。
「入って」
青年は少年を招き入れ、ドアを閉めた。一瞬真っ暗になった視界は、徳州が電気を点けたことですぐに明るくなった。
照らし出された部屋は、広くはなかったものの、簡素に整えられていた。掃除の手入れも行き届いているようで、部屋主の几帳面な性格を表している。
「靴を脱いであがって」
青年は洗面所に向かうと、蛇口をひねって手を洗った。
少年は言われたとおりに靴を脱いで部屋にあがったものの、初めて見る場所に戸惑っていた。
その前を青年が横切り、ガスストーブに火を入れ、部屋を暖め始めた。穴から温風が噴き出したことに驚いて、少年が近づいて手をかざす。
「ああ…それは熱いから直接触らないで。」
青年が思い出したように注意する。
しかし少年は、言われたことに反して指の先でちょっと触って確かめると、すぐに手を引っ込めた。背後で青年が渋い顔でため息をつく。…本当に言うことを聞かない。
青年はひとくちコンロで湯を沸かすと、温かい茶を淹れはじめた。
しばらくやかんが熱で震える音が部屋を支配していたが、気まずい沈黙にしびれを切らし、少年のほうから話しかけ始めた。
「なあ、ここはどこなんだ?なんで俺をこんなところに連れてきた?」
それを聞いた青年は少しの間、言葉を選んでいるようだった。
「…あのまま凍えるつもりだった?」
感情の感じられない平坦な声。少年はむっとして反駁した。
「あの穴なら温かいし、眠れる。余計な世話なんだよ」
青年が顔を向けた。髪の隙間から冷たい銀の瞳が覗く。黒い衣装をまとっていたときと、同じ目つき。
「今日がよくても明日は?来月はどうする?」
声は平坦だが、突き刺すような言葉だった。
「ここは雪が降る。気温は氷点下まで下がる。いつまで暮らせる?」
「大丈夫だって…」
少年は責められてるようで気まずくなり、そっぽを向いた。
「……」
その様子に青年は黙り込む。
静かな間を、やかんの蓋がカタカタと音を立てて埋めた。
青年は黙ってお茶を淹れた。
「どうぞ」
少年に手渡す。
少年は黙って受け取った。容れ物は熱かったが、冷えた手を暖めるにはちょうど良かった。
青年は立ち上がって、壁にかかったカレンダーをめくって何やら考え事をしているようだ。
無言の間は、急に少年を心細くさせた。
この人は自分のことが嫌いなのかもしれない。どうしてついてきてしまったのだろう。
青年は少年を見ないまま、言葉を紡いだ。
「お茶を飲んだら風呂に入って温まるといい…ああ。」
青年は思い出したように呟きを漏らした。
風呂は共用で、いったん外に出ないといけない。その上この子は風呂の使い方がわからないかもしれない…。
「困ったな」
そう言いながら振り返って目にした少年の表情に、青年は胃を掴まれたような気分になった。
頼りなさそうにコップのお茶を見つめるその目は、今にも泣きだしそうに見えたのだ。
青年は青ざめた。
なんらかの誤解を受けたことはすぐに分かった。
なんと声をかけていいかわからず、しばらく言葉を舌の上で転がし、迷った末に青年はまず謝った。
「悪かった」
「…?」
少年が顔を上げる。本人は気付いてないのかもしれないが、少し眼が潤んでいた。
「その…事情も説明せずに悪かった」
少年は気まずく視線を逸らす。
「べつに…」
青年は聞かれたことを思い出し、順番に答えることにした。
「ここはオレの家だ。正確には公舎で、上から割り当てられている」
「公舎ってなんだ?」
「…そこは気にしなくていい。ここで寝泊まりしていると理解しなさい」
少年は上目遣いでやや不満げに青年の顔を見返したが、何も言わなかった。
「お前をここに連れてきたのは…」
青年は顎に手を当てて考え込み、慎重に言葉を選んでいるようだった。
「しょうかい?の時間とやらで誰かが俺を見つけにやってくるからだろ。聞いてたよ」
青年は少し驚いたように目を開いた。この子は自分が思ってるよりもずっと賢い。
青年は口元をほころばせる。
「そうだ」
「何笑ってんだよ」
「ああ、いや…」
青年は慌てて口元を隠す。彼は咳払いをしてお茶を濁した。
「あのままずっと駅で暮らすわけにはいかないだろう。身を寄せさせてくれる人に心当たりがある。ちょうど男手が足りないと言っていた。明日、連絡してみるつもりだ。シフトの休みが取れたら、一緒に行こう」
少年は長いその言葉を聞いて、下げていた視線を再び上げ、青年を見つめた。
「…一緒に?」
「ああ」
「…うん」
そしてお茶の湯気を吹き、気恥ずかしそうに顔を隠した。
この人が一緒に居てくれるなら。
それ以上は何も話さなくなった少年を見つめて、青年は黙って部屋の角にある備え付けの机に寄りかかった。
どうやら誤解は解けたようだ。あとは彼に身なりを整えて、ゆっくり休んでもらうだけだ。
青年はクローゼットの引き出しからタオルや着替えを取り出し始めた。
「ねえ」
そこに再び少年が声をかける。
「なに?」
「名前」
ぶっきらぼうに少年が尋ねた。
「名前、教えてよ」
青年は少し迷ってから、こう答えた。
「徳州」
「とくしゅう…」
少年は口の中で名前を繰り返した。
「…君は?」
本当は知っていた。だが、徳州はあえて聞き返した。
「符離」
——予感は正しかった。
※食魂が何度も生まれ変わりながら成長していく、というのは筆者の妄想のオリジナル設定です。
※徳州扒鶏という人物は几帳面でちょっと変わった面を持つキャラクターです。彼の素です。
※pixiv(https://www.pixiv.net/users/26779358)にも同じ内容の小説を掲載しています。