羨望の影   作:希(マレ)

8 / 10
作品:食物語(二次創作同人)(全年齢)
人物:德州扒鸡(とくしゅうぱーじー/兄)と
   符离集烧鸡(ふーりーしゅうしょうけい/弟)の物語
設定:食魂の理想郷、空桑(くうそう)に行く前の世界線
OoC等:寛容な心で読んでね

※公式設定で血の繋がりはないとされています
※「食魂(しょくたま)」についてはあらすじの設定説明を参考にしてください
※流血表現があります。


羨望の影 - 七

 各自が配置についてから少し時間が経ち、朝日が顔を出したので辺りはすっかり明るくなっていた。

 徳州は峠を一望できる高い場所に隠れながら、山道の様子を見張っていた。山賊たちが登ってくれば道中ですぐに発見できるだろう。

 徳州は待ちながら、自分のモーゼル銃の予備のクリップを作成していた。とはいえ、弾薬の余裕はない。最多でも10発以内に勝負をつけなければ、符離たちが危険に晒される。その展開は避けなければならなかった。山賊を制圧できなかったとしても、少年たちだけはなんとしてでも守り、逃がさなければならない。そのためには、手を汚す覚悟も徳州にはあった。

 彼はモーゼル銃のスライドを引き上げ、安全装置をかけたままホルスターにしまった。——彼の大事な存在のためにも、最善を尽くさねばならない。

 

 待つことしばし、やがてその時はやってきた。

 峠道のカーブを曲がり、一団が姿を現す。全部で四人。武装は斧や刀剣、そして棟梁らしき男のみが短銃をホルスターに吊っている。

 しかし想定外がひとつだけあった。彼らは二頭の馬を連れていたのだ。

 おそらく強奪した荷を運ぶためだろう。そのうちの一頭には棟梁が跨っており、今のところ人間に歩調を合わせているようだが、もし馬を走らされた場合、あっという間に間合いを詰められ戦闘慣れしない少年たちは蹴散らされてしまうことだろう。

 徳州は難しい顔でベージュのフードを被り直すと、一団の映像を頭に焼き付け、ひっそりと足早に移動を始めた。

 

 少年たちの隠れ場所を順々に尋ね、徳州は敵の編成と、銃器を持っていることを伝え、馬を狙うように指示する。

「的が大きくなって当てやすくなったと考えましょう」

 徳州なりに子供たちの気を楽にできそうな言葉を考え、励まし、また次の場所へ向かう。

 符離の待機場所へは最後に寄った。

 彼は望んで敵に一番近い場所を選んだ。もし居場所に気付かれ反撃に遭えば一番危険な場所であるため、徳州はあらかじめ退路の枝払いを済ませておいた。そして符離には撃ったらすぐに逃げるよう伝える。

 しかし何を考えているのか、彼は徳州には視線もくれずに真剣な顔でライフルを構え、ただ集中しようとしているようだった。

「……。」

 やはり嫌われているのだろう。

 徳州は一瞬感じた悲しみを、すぐに頭から追い出し、何も感じなかったかのように気を取り直して自分の待機場所に戻った。

 徳州の待機ポイントからは、少年たち三人全員の様子が確認でき、どのポイントにもフォローを飛ばすことができる位置取りだった。

 徳州はモーゼル銃の安全装置を外し、すぐに両手で保持できる姿勢を保って道に視線を注いだ…。

 

 一方符離は、敵に一番近い場所で緊張とともに奇妙な高揚感も感じていた。

(やってやる…敵を倒して、俺のことを徳州に認めさせてやるんだ!)

 これは彼の意地とプライドを賭けたチャンスでもあるのだ。

 そしてその時はやってきた。

 油断した四人の屈強な男たちが、一人は馬に乗り、残り三人は徒歩で峠を登ってきた。何が面白いのか彼らは談笑しているようだった。その笑顔は、符離を苛立たせた。

 彼は片膝をついた姿勢でライフルを保持し、棟梁の頭部に狙いをつけた。

 符離の待機場所は峠道の曲がり角に位置し、彼が敵を十分に引き付けて撃てば、他三人の射線上で大きな隙を作ることができる重要なポジションであった。徳州の心配をよそに、符離は進んでこの役を引き受けた。

 符離はプレッシャーにじっとりと汗ばんだ手を引き金にかけた…。

 距離は100メートルほど。サイトを使えば高い精度で命中させることができる。慣れた者なら何も考えなくても当たる。

 一団が角を曲がろうとしたところで、符離はついに緊張した手に力を籠め、トリガーを引いた!

 ——しかし、銃は反応しなかった。

(嘘だろ⁉)

 符離は焦ってもう一度トリガーを引く。

 すると、派手な発砲音だけを残して銃弾は明後日の空へと飛び去った。

(暴発⁉)

 その音を聞いて、他の二人の少年も発砲しようとするが、符離の発砲タイミングが早く、射線はまだ障害物に遮られたままだった。しかし、それでも少年たちは引き金を引いた。

 発砲音が重なる中、身を低くした男たちに銃弾が当たることもなく、辺りは再び静けさを取り戻す。

(早い…)

 徳州は初撃のミスを冷静に分析する。初撃が失敗すれば奇襲は自動的に失敗する。あとは一目散に逃げるしかない。徳州はそのように符離に教えたつもりだった。

 しかし符離の様子は違った。徳州の視点から見えた符離は、教えたことに反してボルトアクションで次弾を装填していた。周りを見回すと、他の少年たちも再び撃とうとしているようだった。

 徳州は内心ほぞを噛んだ。そして声を張り上げる。

「次弾発砲後、即座に撤退!」

 声を張り上げることで、敵が自分に注意を向ければ好都合だ。

 しかし、男たちの立ち回りは早かった。武器を盾に馬にまたがるや否や、符離の隠れ場所を特定し、猛烈な勢いで突進を始めた。

 敵の動きを確認した徳州は、体軸をまっすぐに保つと呼吸に合わせて銃のブレを抑え、冷静にその瞬間を待った。

 走る馬を少年たちが撃つ。しかし銃弾は地面や後方の木々をえぐり取り、本体にはかすりもしなかった。符離はまた不発のライフルを抱えて焦っているようだった。

 そこに棟梁の男が馬に乗って刀を振り上げ、突進する。

 ——タァン!

 符離に近づき減速した一瞬を狙って、徳州は正確に馬の腹を撃ち抜いた。

 馬がいななきとともに棟梁を振り落とす。男は頭から地面に落ちて動かなくなった。

 徳州は続けてもう二発、馬に撃ち込んだ。馬はどうと倒れ、口から泡を吹いて動かなくなる。男も動かないことから、しばらくは無力化できたと考えていいだろう。

 徳州は他の少年二人が場を退いたのを横目で確認すると、木々の間を縫って符離の場所へと急いだ。

 符離はまだその場に固執していた。彼には、どうしても戦果をあげなければいけない理由があったからだ。

 視界の隅に、坂を駆け上ってくるもう一人の男の姿が映り込むことで、徳州にもおおよその理由は察せられた。

 符離は恐れをどこかに忘れてきたようにその男に向かって照準を合わせ、再び引き金を引いた。

 ——が、今度は銃身から余分なガス圧が漏れ、衝撃で部品が吹き飛ぶ。暴発に次ぐ暴発で、部品が緩んでいたのだ。

「うわっ!」

 トリガーガードに手を酷く挟んでしまった符離は、痛みでとっさにうずくまった。

 その無防備な姿に向かって、間合いを詰めた男が刀を振り下ろそうとする——

 あわやという瞬間に、突如として地面から飛び出してきた金色に輝く鎖が、男の武器と手足を拘束した。

 男は電流を流されたようにびくりと震えると、大きく見開かれた瞳でぼんやりと宙を眺めた。

 

 ——タン!タン!

 

 そこに容赦なく叩き込まれた.45ACP弾の銃弾二連射は、二発とも吸い込まれるように男の顔面に命中し、顔だった場所を紅い飴細工のように華々しく吹き飛ばして霧にした。

 痛みにうずくまる符離の目の前に、大量の血と脳漿をまき散らして死体が派手に倒れ込んだ。

 その様子を遠くから目撃した残り二人の男たちは、争うように一頭残された馬に飛びついて、逃げ去っていった。

「…符!」

 手を抑えてうずくまる符離に、徳州が駆け寄る。

 彼のために整えた後退経路は、結局徳州が自分で使うことになった。

「符、怪我をしたの、見せて!」

 徳州が彼の手を半ば強引に引き寄せ、開かせる。

(4、5…3、4、5…)

 徳州は数を数えた。

 よかった、ちゃんと指は10本ある。

 血が出て青黒く変色しているが、骨が折れているわけではなさそうだ。おそらく、ひどい打撲と内出血だろう。

 そこまで確かめて、徳州はやっと安心して肩の力を抜き、大きく息を吐いた。

 痛みで涙目になっていた符離は、徳州の様子を見ていなかった。

 ただ、掴まれた手が温かくなっているのには気づいた。

 何度も瞬きをして視界を確保すると、自分の手と、徳州の手の接点から、淡く金色に輝く光が流れ込んでいるのが確認できた。痛みもゆっくりと溶かされていくようだった。

「…何してるんだ?」

 徳州が村に来てから初めて、符離が彼に向かって口を開いた。

「傷の治りを助けている」

 これは以前、徳州が幼い符に試した方法の応用だった。

 透けて消えてしまう符離の体をなんとか助けてあげたいと考え、徳州は彼に魂力を融通してみたことがあった。同じ個体ではないから伝導率は悪いが、注意深く注げば伝わることを発見したのだ。融通できる量はごく僅かであるため、徳州が望んだ結果は得られなかったが、このように役立てることができるならば、怪我の功名ともいえよう。

 痛みが引いて余裕が出てきた符離は、もじもじと居心地悪そうにしだした。

「も…もう放せよ。大した怪我じゃねえし…」

 そう言うとそそくさと徳州の掌の中から手を引っこ抜いて、そっぽを向いてしまった。

「……。」

 その様子を見て、やはりまだ嫌われているのだと思い込んだ徳州は少し気落ちした。この先彼が自分を許してくれることはないのかもしれない。

 悲しい気持ちを抱え、それでも徳州はフォローを忘れなかった。

「あとでちゃんとした手当てをするから、それまで動かさないで」

「いいよ。子供じゃねーんだから」

 符離は強がって怪我をした手で壊れたライフルを拾い上げようとして、再び走った痛みに銃を取り落とした。

「——…」

 その様子を見せられた徳州は、呆れてため息をつく。

 相変わらずやっぱり、言うことを聞かない。




※食魂が何度も生まれ変わりながら成長していく、というのは筆者の妄想のオリジナル設定です。
※徳州扒鶏という人物は几帳面でちょっと変わった面を持つキャラクターです。彼の素です。
※pixiv(https://www.pixiv.net/users/26779358)にも同じ内容の小説を掲載しています。
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