天災の問題児がヒロアカの世界で自由気侭にヒーローを目指す 作:びっくり葉加瀬
「おはようございますマスター。」
「ん、うぅん……。」
「既に起床予定の時刻を32分37秒オーバーしております。このままでは、御母上に叱られるかと。」
「あと……5分……。」
「その命令は5度目ですが、問題ないのでしょうか。」
「今日はやすみ……だか……グゥ。」
「承知致しました。」
何やら懐かしく聞き覚えのある声が俺を揺り起こしている。誰の声だっけ……。母さんか……父さんか……。
いや違うこれは夢だ。この声はリゼの声。前世の夢の続きのようだ。耳元で囁かれるそのハスキーボイスに身体は自然と安心してしまう。
夢ならばもっと彼女と触れ合いたい。なのに身体は重く、眠たさが我慢できない。うっすらと開けためから
ハッ!と目を覚ます。キョロキョロと俺の部屋を見渡すが、そこに懐かしいメイド姿の女性はいない。やはり夢か、ととても悲しい気分になった。
転生してから4年経つが、前世では彼女を造ってから死ぬ直前まで彼女と一緒にいたのだ。その為、4年間という一緒にいた期間に比べれば短い時間も、いつもものたりない間隔が続いていた。
時間を見るといつも母さんから起こされる時間より1時間も過ぎていた。叩き起されないのを不思議に思いながら、朝の挨拶の為にリゼの姿を確認しようとして――、
「いない。」
え?いない?何故?昨日の夜は確かに彼女が居ることは確認していた。しかし、確かにいない。
地震でもあったか?と周辺を慌てて探して見るがそのような形跡はない。
いや、まさか。機械いじりや研究が好きな父、母がそんなことする訳はないよな?と信頼はしているが、ここにいない、ということはそれを疑うしか無かった。
「母さん!俺の部屋にあった人形知らない!?」
慌てて俺の部屋から飛び出して階段から転げ落ちるように親の元へ向かう。リビングの扉を開けながらそう、問いかけて――、
「あら、リゼさんと言うのね。」
「はい。マスター葉加瀬唯我様より作成された戦闘用ガイノイドです。何故素体が小さいのか、何故武装が無いのか、何故精密な構造になっていないのか、等と少々疑問が残りますが、それはマスターの素晴らしい技術によるものだと推測されます。」
「へー。確かに凄いな。ウチで作ってるAIとは大違いだ。」
「勿論でございます。マスターの技術力は世界、いえ宇宙一と言っても過言ではありません。」
「流石唯我ね!4歳でAI自作しちゃうなんて!」
「はい、マスターは素晴らしい方でございます。恐らく、素体の不完全さは素材や資金が問題でしょうが、マスターであれば迅速に解決なさることでしょう。そうなれば御母上や御父上の手伝いなど出来るようになるかと。」
「あら〜!それは助かるわぁ〜!」
そこには食卓で会話する3人がいた。2人は俺の両親。今日は研究所での仕事はいいのか休日モードで寛いでさいる。そしてもう1人。これが問題だった。
俺の部屋から消えた人形のリゼ。この世界では、意志のない思い出のような存在だったもの。それが優雅にテーブルの上で綺麗な立ち姿で、恥ずかしい程俺を褒め称えている。
「リ……ゼ……?」
「これはマスター、おはようございます。」
「お、おはよう……。」
リゼは俺に気づくと立ち上がり、綺麗なお辞儀を披露する。続いてリゼと会話していた両親が俺に気づいて笑顔を浮かべた。
「凄いじゃない唯我!こんなにハッキリと応答出来て、会話出来るAI……リゼちゃん造っちゃうなんて!」
「何やら機械いじりが自然とやりたいみたいだから好きにさせてたけど、まさかこれまでとはな……。」
「あ、あぁ、うんありがと……。」
「あんまり夜遅くまで起きてるのは許せないけど、こんなに凄いもの造れるならたまになら許しちゃおうかしら。」
「どうだ?父さんの研究所で手伝いとかしないか?小遣い……というか給料もきちんと払うからさ。」
「あー、うん、考えとく……じゃなくて!ちょっと来てリゼ!」
テーブルの上で悠然とした佇まいで直立していたリゼを手で抱えリビングの外へ出る。そしてリビングから近くも遠くもなく、声も聞こえない場所……と脱衣場に入り、扉を閉める。
「リゼ!?なんで動いてるの!?」
「何故……とは?マスターがプログラミングしたのでは無いのでしょうか?」
「いやいや、そんな小さい躯体であのリゼの性能を開発出来る設備なんてないし、AIなんて
「
「いや、そういうのいいから……。違和感とか感じてるでしょ?」
「はい。マスターが何故そのようなお可愛いらしい姿になっているのか。
俺の掌の上で器用に立ち、1つ1つ指を折りながら数えるリゼ。お可愛いらしい、ってのは余計だが、この世界と前世との差異は感じているようだった。その姿は前世の立ち振る舞いと全く同じだが、小さくなっている分、気品や優雅さより可愛さの方が気になり……、
「違和感はあるのものの、マスターの不利になるような発言はしておりません。ご心配であれば、後ほどご確認を……、マスター?」
「あ、ごめんごめん。少し考え事。やっぱり身体は自由に動かせるの?」
「はい。可動域に限界は存在しますが、通常の業務、家事程度であれば問題は御座いません。戦闘、となると些か心配な点が浮上しますが……。」
「そんな身体で闘わせる訳無いでしょ。それにこの世界は前の世界と違う世界みたいなんだ。」
「違う世界、ですか?かの魔法世界のようなものでしょうか?」
「いや違う。今から説明するね。」
そして俺はリゼに1つ1つ説明した。俺が死んだ後、気づいたらこの世界に記憶を持ったまま産まれたこと。"個性"という特殊能力が存在していること。魔法は恐らく存在していないこと。そして――、
「俺の"個性"だが、4歳になる今日に発現するはずなんだ。」
「本日がマスターの御誕生日で御座いましたか。おめでとうございます。」
「あぁ、ありがと……じゃなくて!俺の"個性"は前世知識のせいで『瞬時理解』と勘違いされてるけど、本当の"個性"が判明した。分かるか?」
些細なことでもマスターである俺を褒めてくれる所なんかリゼらしい……と思いつつ、1番重要である"個性"について話題を振る。
「はい。先程のマスターの御説明でも1つだけ理解が及ばなかった事象――私のことで御座いますね?」
「あぁ。AIはおろか、不備だらけ、玩具レベルの躯体でも行動、発声、記憶、応答が出来ている。これは"個性"の発現と見て間違いないだろう。」
「となると、マスターの"個性"は仮定になりますが、『非生物の物体に限定して設定通りのAIを付与、且つAIは付与された物体を素体に自由に行動を行うことが出来る』という"個性"でしょうか?」
「恐らくな。リゼの設定や記憶は、俺が認識している前世のリゼそのものを想像していた。だから今日"個性"が発現した瞬間にその命が宿った、ってことなのかな……?」
「加えますと、マスターの御両親やマスターが本日以前に私にして頂いたこと、などとインプットされております。」
ほう。朝起こされた時、"母親に起こされて叱られる"という言動が出たのはそのせいか。前世でさえ姉ならまだしも母親に起こされるってのはありえないからな……。
「AIとして存在してないのに意思はある、か……。」
「やはり異様でしょうか?」
「あ、いや。"個性"として考えるなら不思議だけどおかしくはない。ただ――、リゼの状況が人間の誕生と同じに見えてな。」
「そうなのでしょうか?」
「あぁ、誕生前から母親の胎内にいる記憶を持つ子どもの話は前世からあったしな。それに今世では俺も記憶を取り戻したのは胎児の頃だ。」
「……たしかに、本日以前の記憶はどこか朧気である、と言いましょうか。機械である私の情報としてはノイズがあるような感覚が御座いますね。」
それを聞いて少し驚く。前世の時は未来技術により、完璧で瀟洒なAIとしてのガイノイドであったリゼは見聞きしたり受信した情報は全て完璧にインプットしていた。それが、かなり人間らしい発言をしているのは初めてだった。
「は、ははははは!」
「如何なされましたか?」
「いや、リゼも人間らしい発言するんだな、と思ってな。」
「申し訳御座いません。このような感覚は初めて御座いまして、上手く言語化が出来ません。」
「いや、いいよ。その方がずっと良い。」
「そうで御座いましょうか。」
「あぁ。ということはリゼも今日が誕生日、みたいなものか。」
「誕生日……。」
俺の発言に目を見開くリゼ。相当驚いたようで、少しの間顔を伏せフリーズしていた。そんなリゼの様子に大丈夫かと心配していると、再起動して顔を上げたリゼの表情に今度は俺がフリーズすることになる。
「マスターと同じ誕生日、で御座いますか。それはとても……幸甚で御座いますね。」
お世辞にもスペックの良い躯体とは言えないリゼの身体。顔のパーツは多少動くものの、とても細かい表情など作れない。しかし、リゼの表情は確かに少し笑っていた。ほんの少し上がった口角。ほんの少し閉じた眼。
そんなリゼに見惚れてしまい、手で包むように抱き締めた。
「マスター?」
「すぐ、お前の身体を造るから。待っていてくれ。」
「――はい。よろしくお願い致します、マイマスター。」