そこはN県に属する地方都市で幾度かの合併を繰り返して現在の形となった街だ。
事件らしい事件も起きず、災害にもしばらく見舞われていない平和な街だが、この日を堺に街は戦場へと変貌する。
『聖杯戦争』。
万能の願望器を求めて魔術師同士が相争う戦い。なんでも、英霊の座という場所からエーテルを肉に召喚された過去の偉人を戦わせるとかなんとか物騒な話だが、俺にはてんで興味はない。
扉座市の土地管理者としてアレコレ魔術の教育を受けた身ではあるが、魔術だとか神秘だとか胡散臭いモノに頼って生きていくなんてつまらない生き方はゴメンだ。
「そういうわけで、俺は聖杯戦争なんてものに関わらないからな」
「待ちなさい、
親父の言葉を背に、いつもどおり学校へ向かう。だが……。
「そうか、貴様がそのつもりなら儂も手段を変えよう」
「――!」
背後から、殺気。間違いない、これは本気の親父だ。
「っち、大人気ねえぞ!」
逃げるために急いで街中へ出ようとする。親父のような魔術師は、神秘の秘匿とやらで自らの能力が露見するのを嫌うらしいからな、家を離れればこっちのもんだ。
「!!」
……と思っていたのだが、そうは問屋がおろさず。門には結界が貼られて俺を逃がしてくれないようだ。
「ここまで……するか!」
「誘、お前の手の甲にある痣こそが聖杯戦争に参加する資格だ」
右手の甲に目を向ける。奇妙な形をした、3つの赤い痣。
「貴様は大人しくサーヴァントを召喚すればいい。興味がないならそこからは儂が引き継ごう」
魔術で構成された水の槍を構えつつ、親父は脅迫を続ける。さて、どうしたものか……。
ぶっちゃけここで親父の言いなりになったところで、俺にデメリットらしいものはない。かなり癪ではあるが一旦従っておくか?
轟音。
思案をしていると、突然倉庫の方から爆発音が響き渡り、黒い煙が見える。
「まずい、あそこには北欧から取り寄せた聖遺物が……!」
親父は俺への興味を捨てたのか、急いで倉庫へと向かう。逃げるなら、今だろう。だが……
「こんな、見逃された形で逃げるのはらしくねえよな!」
状況を考え、間違いなく聖杯戦争絡みの厄介事だ。倉庫に向かえば否が応でも聖杯戦争に関わる。そんな虫の知らせが俺に警鐘を鳴らし続けるが、ここで何事もなかったように立ち去るなんてのは論外だ。
走った先、倉庫はやはり爆発の影響で倒壊していた。
崩れた資材の中には男らしき影が立っており、何かを唱えている。
「我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――!」「まずい、間に合わなかったか! 構えろ、サーヴァントが来るぞ!!」
眩い輝きが放たれた瞬間、煙が立ち込める。いつの間にか、その中には小柄なシルエットが増えていた。
「あら、私は召喚するなんて珍しいじゃない。闘争をお望みかしら?」
「おう、俺は戦いが大好きだぜ。だから、まずはそこの二人を始末してくんな」
「人使いが荒いマスターね。いいわ、サーヴァントでもない人間二人くらい私でも簡単にひねられるって……」
煙の奥から物騒な会話が聞こえ、俺達には猶予が残されていないことを知ってしまう。
「教えてあげる!!」
黒煙から現れたのは、小柄な少女。一見すると愛らしい姿ではあるが、圧倒的な力の差を肌で感じてしまう。
「いかん、儂らで太刀打ちできる相手ではない! つべこべ言わずに何でもいいから召喚せい!」
「! わかった、死ぬんじゃねえぞ!!」
親父は不敵な笑みを浮かべるが、父と少女のソレは戦いにすらなっていない。
「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公」
聖杯戦争に向けてみっちりと教え込まれた呪文を唱える。
「降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
この身体に通る、僅かながらな魔術回路が励起する。
「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ」
親父と少女の戦いは既に趨勢が決まっており、少女はこちらに向かってくる。
「繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」
英霊召喚の触媒、そんなものはない。親父が用意していたものはたった今、闖入者に奪われたからだ。
「――告げる。」
だからといって、俺のようなろくでなしに近い英霊なんぞ信じられるわけがない。俺はとっさにかばんを開き、日本史の教科書を取り出す。
(せめて、坂本龍馬とか徳川家康とか来てくれよ! 信長は……怖いからやめてくれ!!)
地元の不良としてやんちゃしてる俺だが、信長は怖い。流石に彼には来てほしくない。
「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に」
少女は少しずつこちらに歩みを進める。それは死の宣告に等しいが、親父は地に伏している。俺を守ってくれる者などもうどこにもいない。
「聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
「さあ、これで死になさい」
少女はその手に生えた鉤爪で俺を突き刺してくる。これまで、か。
「――!!」
恐怖に、思わず目を瞑るが最後の時は訪れない。目を開けると、そこに立っていたのは……。
「続けろ」
腹部から大量の血を流す、親父の姿だった。
「親父!!」
「いいから、続けろ!」
「ッ! 誓いを此処に」
「邪魔が入ったわね。まさかここまで抵抗されるとは思わなかったわ」
「我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」
少女は父の亡骸を蹴り飛ばし、更に距離を詰める。
侮辱的だ。だが、その無駄な行為こそ俺に与えられた最後にして最大の猶予だ!
「汝三大の言霊を纏う七天」
「さあ、今度こそ死になさい!」
「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――!」
魔法円の光は輝き、祈りは届く。
既出情報
???陣営
名前:
容姿:髪を金髪に染めた不良少年
属性:混沌・悪・人・人型・極東
カウンター:黄金率カウンター3個
???陣営
サーヴァントの少女
容姿:邪悪な笑みを浮かべる少女
属性:混沌・悪・地・サーヴァント・猛獣・サーヴァント・北欧
カウンター:-
【レベル】10【筋力】D(20)【耐久】E(10)【敏捷】B(40)【魔力】D(20)【幸運】C(30)【宝具】D(20)【機先】A(50)
マスターの男性
名前:???
容姿:野獣のような瞳の壮年
属性:秩序・悪・人・人型・男性・中東
カウンター:-