俺がトレセン学園の教官になってから一週間が経過した。
愛バたちとの関係は良好そのもの、頼りがいのある同僚たちにも恵まれて、とても良いスタートを切れたと思う。
気合十分、よっしゃー!やああってやるぜぃ!
学園の配慮により医務室のリフォームは滞りなく完了した。
俺好みでめっちゃええ感じ、何なら家よりこっちの方が居心地がいいぐらいだ。
人工呼吸や心肺蘇生術なら任せてください、え?やましいことは考えてませんよ。
ケガ人でも何でも来いや、急所をぶち抜かれたとかじゃなかったらヒーリングで治せ・・ごめん!さすがに言い過ぎた。千切れた手足ぐらいは元に戻せると思うんだけど。
それだというのに、どういうことなの。
「まだ一度も養護教官らしいことやってない!」
来ないの、俺に看てほしいって患者が誰一人こないのよ。
ずっと待機してるの結構つらい。掃除した所をまた掃除するのもうやだよぅ。
ケガをした生徒を颯爽と治療!「お大事に」と一言告げてクールにキメる!脳内シミュレーションは完璧だったのに。
俺の教官人生、早くも暗雲が立ち込めているみたいで(/ω\)イヤン。
「出番が・・・出番がほしいです」
今までここを訪ねて来たのは愛バと、面倒見のいい姉さんや同僚たち、冷やかし目的のネームドウマ娘がチラホラだけ。
全員健康体だね、献血とかに行けばいいと思うよ。肝心の患者は一人も来てない。
わかってるよ、俺が暇で傷病者がいないのは本来喜ぶべきことなんだって。
だけど、せっかく立派な医務室を用意してもらったのに、何にもお役にも立っていないようで心苦しい。
もういっそのこと、学園内外を自主的にパトロールでもしようかしら、警備スタッフの仕事を奪ったら怒られるかな。
雑用でも何でもいいから理事長に仕事をくれ!と直談判するべきか。
なんて思っていたらノックも無しに扉が開いた。
「カピバラ君暇かい?暇だね。邪魔するよ」
「邪魔するならお帰りください」
「すみません。私は止めたのですが、どうしてもと聞かなくて」
「カフェは全然いいよ。タキオンは帰って、どうぞ」
「扱いの差が激しいね。実に嘆かわしい」
「嘆かわしいのはお前の存在だ」
「カフェ、とりあえず紅茶を入れてくれたまえ。今はミルクティーの気分だ」
「午後ティーでも飲んでろ」
「残念、私は紅茶花伝派だ!」
「知らねぇよ。マサキさん、いい豆が手に入ったので一杯ご馳走したいのですが」
「いいね。コーヒーブレイクしちゃいますか、ちょっと片付けるから待ってね」
テスラ・ライヒ研究所に勤めていたはずの、アグネスタキオンとマンハッタンカフェ。
彼女たちもトレセン学園に招待され、学生兼研究員として活動している。
武力と知性を兼ね備えた二人を誘致するにあたり、トレセン学園とテスラ研の間で何らかの取引があったらしい、金の匂いがしますね。
多分、二人が在籍することで研究資金を融通してもらったとかだろう。
納得して学園生をやっているのであれば、俺からは特に何も言うことはない。
来客用のカップにコーヒーや紅茶を入れる道具類は一通り揃えある。
慣れた手つきでハンドドリップに取り掛かるカフェをお手伝いしながら見守ることにする。
彼女が入れると同じ材料や道具を使っても味と香りが全然違う。
少しでも技術を盗んでやろうとガン見する俺に苦笑するカフェ。
一体何が違うんだろうなあ、やっぱり経験とコーヒー愛のなせる技か。
その間、タキオンは「早くしたまえ」とふんぞり返っていた。
こいつなんなの?制服の上から羽織った白衣の袖が長すぎるのもなんなの?
カフェの入れてくれたコーヒーをチビチビ飲みながら談笑する。ああ、いい香りだ。
先ほどは帰れと言ったが、話相手になってくれるのは嬉しい。
タキオンとカフェは暇を持て余す俺を気遣ってくれたのだろう。そこは感謝しておく。
「今日も医務室は閑古鳥が鳴いているねぇ。社内ニートならぬ学園ニートまっしぐらな気分はどうだい、カピバラくぅぅぅんんんん!!」
「頑張って教官になったのにニート呼ばわりはキツイ」(´;ω;`)
「死にたいのですか?マサキさんをいじめたら、愛バたちに抹殺されますよ」
「それは勘弁してほしいね。だがしかし、弱ったカピバラ君を弄り倒す愉悦には抗えない!」
「この腐れ外道が、何があっても私は助けませんよ。後で後悔しないでください」
「カフェ、仮にも君は私の助手だろう、上司に対する態度は改めた方がいい」
「下剋上の準備は既に出来ています。いつまでも上からものを言わないでくださいね」
「こやつ涼しい顔をして、謀反を企てていたのか!」
「因みに下剋上してやろうと思い立ったのは、あなた初めて会った瞬間から5分後です」
「そんなに早く!?」
「医務室ではケンカご法度よ。やるなら外でやってね」
もし学園で二人が問題を起こした場合は、カフェを全力で弁護しよう。
カフェに何かあったら、操者のレーツェルさんに申し訳が立たないからね。タキオンは知らん!
「タキオンさんよぉ、医務室に人が寄り付かない原因の一旦はお前にもあるんだぞ」
「心当たりは皆無だねぇ」
「どの口が言うのか」
隣室の「テスラ研トレセン支部(仮)」看板を見たとき嫌な予感がしたんだよな。
医務室の隣が何故かタキオンの研究室だったのがマズかった。
時折怪しい閃光や異臭が発生、成分不明ガスが漏れ出して騒ぎになったこともあった。
そして、不定期で起こる爆発、ビックリするからホントやめてほしい。
これらの所業に対して学園側は見て見ぬふりを決め込んでいる。サイアク!!
身の危険を感じた生徒たちはそもそもこの場所には近寄らない。
触らぬタキオン(迷惑)に祟りなし、目的地が遠回りになろうとも迂回するぐらいには警戒されている。
その煽りを受けて俺の医務室に患者が来ないと考えるのは至極真っ当だと思うのよ。
「本当にすみません。私がついていながら」
「いや、カフェがいなければとっくの昔に学園バイオハザードが発生していた。悪いのは全部タキオンだ」
「言い掛かりだねぇ」
「「お前マジで反省しろ」」
「はっはっは、二人とも顔が怖いぞう」
一応助手であるカフェが研究室の半分を占拠しつつ、危険な実験を行わせないように注意してくれているんだが、その目を盗んでやっちまうのがこの腐れマッドなわけで・・・はぁ~。
まあいい、せっかくなんで二人と意見交換してみよう。現状を打破する手がかりが見つかるかもしれない。
「ちょっと聞きたいことがある」
「学園ニートの解消方法をご所望かい、アドバイスぐらいならしてあげよう。言ってみたまえ」
「なあ、トレセンの皆は修練中にケガとかしないわけ?急な体調不良なんて皆無なの?」
「戦闘を生業とする騎神養成校だよ。ケガなんて日常茶飯事だし、お腹が痛くなることだってあるさ」
「先日もクラスメイトが「教官にヒーリングしてもらった」と言っていました」
「あれ?そんなことあったけか」
「君ではなく、もう一人の養護教官にしてもらったんだろう」
「・・・ウエンディ教官!」
「当りだ。生徒たちは新参者の君より、信頼と実績のある彼女を頼りにしているのさ」
ウェンディ・ラスム・イクナート教官。
学園で生徒たちのカウンセリングを担当している、臨床心理士。
高学歴な才女で、学会に論文を提出したり博士号をいくつか取得していると聞いたこともある。
ウェーブのかかった青い長髪の美女で、ゆるふわな雰囲気が素敵なお姉様。
世界線が違えば「惚れてまうやろー!」していたかもしれない。
なーんて思ったりして、ほっこりした。
「ほっこりしている場合じゃないぞ、彼女は君の商売敵だ」
「嘘やん」
「本当だ。君が来る前に医務室を担当していたのはカリスマ鍼灸師(自称)の安心沢教官だ。彼女が失踪してからというもの、ウエンディ教官こそが学園の医療系を一手に引き受けていたんだ」
「本業はカウンセラーですが、医師免許や治療師の資格も持っているそうです」
「親身になって生徒の相談に乗り、的確に傷病へ対処できる確かな腕を持ち、簡単なヒーリング(覇気治療)も会得している。トレセンの養護教官としては非の打ち所がない人材だ」
「それじゃあ俺はいらない子ですか?もうウエンディ教官だけでいいんじゃね」
「君の採用を後押したのは彼女だと聞いている。自分以上に強力なヒーリング能力者がほしかったんだそうな、彼女の負担も相当なものだったし、本来ならば君に仕事を割り振りたかったのだろうね」
「商売敵どころか恩人じゃないか」
「ウエンディ教官もマサキさんの現状を憂いていましたよ「どうしましょう、私がマサキ教官の仕事を邪魔しちゃってる。こんなはずでは」だそうです」
なるほど、よくわからない謎の店より、元々の評価が高い既知の店に行くよね。安心感が違う。
カウンセリングルームは医務室から少し離れているが、生徒が入りやすいように場所もよく考えられている。
人通りが多すぎず少なすぎず、フラッと立ち寄ってもいいかなと思える絶妙な位置(角部屋)。
隣にマッドな危険人物は巣くっていないし(ここ重要)。
ウエンディ教官の人柄も相まって「ちょっと行っとくか」てな具合に気軽に立ち寄りやすい条件が整っている。
これじゃあケガをしたとしても、ウエンディ教官のところに行くよ。誰だってそうする俺だってそうする!
情けない、恩義があるというのに、彼女の負担を全然軽く出来ていない。
メンタルケアは無理だとしても、応急処置ぐらいは十分にできるのにな。
「全ては俺の至らなさが招いた結果か」
「マサキさんが男性というのも要因の一つですね」
「う、確かに俺では女性特有の悩みには対処できないかも、勉強不足だ」
「ウマ娘には男性不信者も珍しくはない、君への警戒心や単純な照れもあって医務室へは行き辛いといった具合かな」
「なんだかもう、挫けてしまいそう」
「絶望するのは早計だ、なんだかんだで君に興味がある生徒は多いはず。そういう子たちに自身の有用性を売り込むことに尽力したまえよ」
「ウエンディ教官とも話し合った方がいいと思います。カウンセラーである彼女なら、マサキさんの相談にも快く応じてくれるはずですから」
「わかった。さっそくウエンディ教官の所へ行ってくる」
冷めてしまったコーヒーを飲み干して席を立つ。
思い立ったが吉日です。今は行動あるのみだ。
「コーヒー美味かった。二人とも話に付き合ってくれてサンキューな」
「少しは元気が出たようだね。さあ、行って見事玉砕してきたまえ」
「玉砕は勘弁な」
「いってらっしゃい。後片付けは任せてください、タキオンさんにやらせますので」
「ああ、行ってくるぜ」
医務室の扉に下げてある札を裏返し「マサキ不在」にしておく。
タキオンとカフェを残していっても悪さはしないだろう。
今気づいたが、二人は授業を受けていないのか?
休憩時間はまだ先だと思うのだが、二人とも頭がいいから免除されてると思うことにしよう。
♦♦♦
「失礼しまーす。今日もセイちゃんがやって来ましたよ~、おやおや?コーヒーの香り」
マサキが去った後の医務室に訪問者あり。
「君は確か・・スカイ君」
「はいどうも~、セイちゃんことセイウンスカイです」
「スカイさん、生憎ですがマサキさんは今席を外しておりますよ」
「そうなんですか、でもいいです。用があるのはマサキさんじゃなくて、そこのベッドですから」
そう言って備え付けのベッドに寝転ぶセイウンスカイ。
「あふぅ~最高~。前のベッドは堅かったからなぁ、マサキさんがグレードの高いベッドを発注してくれてセイちゃん嬉しいです」
「そうか、サボり魔の君にとって、ここは都合のいい避難所なのだね」
「へへへ、このベッドはもうセイちゃん専用と言っても過言ではないのです」
「スカイさん、授業は真面目に受けた方がいいですよ」
「ええ~、お二人がそれ言っちゃう。特待生は自由奔放で羨ましい限りですね~」
「その分、一定の研究成果を求められているんだがね」
目をつむり完全に昼寝の体勢に入ったスカイを見て、やれやれと首を振るカフェとタキオン。
「質問だスカイ君、君以外でここを訪れる生徒はいるかい?」
「ふわぁ~、え・・・そうですね。スぺちゃんたちとはよく会いますよ」
「そうなると、スピカのメンバーや黄金世代は取り込めていると考えていいようだ」
「マサキさんを気にかけているウマ娘は思ったより多いのかもしれませんね」
「なんの話ですか、お暇なら子守歌がわりの小話を披露してくださいよ」
「それならば、フェルマーの最終定理について語ってあげよう」
「zzz・・・」
「聞く気はないみたいですね」
「カフェ、コーヒーのおかわりを頼む。糖分多めのミルクたっぷりで」
「それもうコーヒー牛乳ですね。たまにはブラックを味わってくださいよ」
「またの機会にするよ」
その後、マサキの様子を見に来たたづなに発見されたスカイは、生徒指導室に強制連行された。
とばっちりを察知したカフェとタキオンは隣室に退避済みで事なきを得たのだとか。
♢♢♢
「よし、メンバーチェンジだ。次は「クロとアル」VS「シロとココ」でやってみよう」
「よろしくアル姉」
「こちらこそ、頑張りましょうね」
「足引っ張らないでくださいよ」
「それはこちらのセリフかな」
「準備はいいな、構えて!よぉ~い・・・スタァットゥッッハァッッッンンン!!」
「「「「スタートの言い方狂ってるwww」」」」
「この程度で動揺するな。目の前の敵に集中しろ!」
「「「「理不尽なあなたが好き!!」」」」
本日も旧校舎ダンジョンにて修練中。
2チームに分かれて模擬戦を繰り返し行っている。たまに俺も混ざる。
「遅い!そんなんじゃすぐ終わっちゃうよ」
「わざと遅くしてあげてるの。わかんないかなぁ」
「っ!堅いです」
「アル姉さんの剛力でも簡単には抜かせません」
近接格闘戦チームと遠距離砲戦チームに分かれた。
おや、開始早々シロたちが自ら突っ込んだか。
意外だとは思わない、シロとココならそうするだろうと思った。
あの二人は接近戦が苦手というわけではない。
なんとなく「ここは私が援護射撃を担当した方がいいかな」ぐらいの気持ちでやっていることを知ってるぞ。
今回はクロとアルの得意とするレンジで勝って「ざまぁ」したいのだろうな。
我が愛バながら嫌らしいなぁ。そんなところも可愛いと思ってしまう、親バカならぬ操者バカ。
4人の戦いを観察していると、それぞれの秀でた能力が大体わかってきた。
リンクすればまたステータスの変動や補正がかかるだろうが得意分野は伸ばしていきたい。
「苦手な項目も平均以上は十分クリア出来ているんだよなあ、優秀優秀」
操者の贔屓目になるけど、全員どこに出しても恥ずかしくないウマ娘だと思う。
だがその更に上を狙えるはずだし、目指してもらう。
見てろよルクスのクソボケが、この子たちは俺やお前が想定した以上に強くなる。
今の内に焼き土下座の練習でもしておくことをおすすめする。
勝負はシロとココに軍配が上がった。
いがみ合っているようで思考が似ている二人の相性は悪くない。
アルとクロは出鼻を挫かれ相手のペースに飲まれてしまったのが敗因だ。
「悔しい~。"イモラーメンズ"に負けるなんて」
「変なチーム名つけるのやめて」
「シロさんココさんチームは、どんな外道プレイを繰り出してくるか未知数で怖いです。警戒し過ぎて思うように踏み込めませんでした」
「今気付きました。アル姉とクロはチーム"ブラックサンダー"じゃないですか」
「「「本当だww」」」
「全員ナイスファイト、中々良い勝負だったなぞ。では、今の戦闘について振り返ってみよう――」
模擬戦の後は休憩がてら反省会を行う。
良かった点と悪かかった点を洗い出し改善案を皆で相談する。
ルールを変え、メンバーを変え、いろいろなパターンを試してみる。
そうやって全員が各自の特性と能力を理解し、チームとしての力をつけていく。
勝利に向けて一歩一歩、確実にコツコツと積み上げる。愛バたちと一緒に強くなっていこう。
最早当たり前の技術となったデバイスについても勉強した。
革新的技術の導入で一気に普及したもの、その名は戦術武装端末ことデバイス。
トレセン学園でのデバイス普及率は8割、生徒や職員の大多数が何かしらの携帯武装を使える状態にある。
銃社会より怖いだって?存在そのものが凶器のウマ娘がいる世界では今更だ。
通常は腕輪や首飾り等個人の趣味に合わせた装飾品の形態をしているが、覇気を通わせ活性化(スイッチオン)させると数秒で武装展開状態になる。
単純に装備品を取り出すものから、全身を覆うパワードスーツタイプのものまで種類は様々だが、手甲と足甲プラスαの組み合わせが最もポピュラーで人気がある。
他者との覇気循環を可能とするコネクター(若しくはリンカー)と呼ばれる装置も組み込まれているヤツもあったりする。
学園側が支給する量産型デバイスを使用している者が殆どだが、それなりの実力者になると特別な専用機を持っていると考えていい。
専用機を入手方法は大まかに分けて3通りの方法がある。
①企業や研究機関からテスターとして選ばれること
②金と権力にものを言わせて入手すること
③自作すること
しっかり実績を積んで世に力を示していけば①の方法で専用機を入手できるし、学園もそれを推奨している。
プライバシーに抵触しない程度に、生徒の情報を公開したり外部からのクエストを受注しているのにはこういった理由もあるんだろうな。
②は家柄が裕福であったり名門と呼ばれる家の出身者なら普通のこと、学園在籍前から持ってることが多い。
③の方法で見繕っている奴らも意外と多い、うちで言えばシロがそういうのやっちゃう子だ。
ブランド物で自らを着飾るように、専用機を持つことは強者であることを主張する一種のステータスだ。
うちの子たちは、どれどれ・・・
「本来ならデバイス要らずなのですが」
「「なんで持ってないの?絶対使った方がいいって!」て何回もウザいから、一応コレ使ってることにしてる」
「学園支給のゲシュペンストMk-Ⅱ改か」
「覇気で爆裂しないよう、耐久性のみを追求したカスタマイズを施してあります」
「それでも煙吹いちゃうこともあるから、困った困った」
「私は専用のライフルとハンドガンを自作しましたので、これも使用してます」
クロとシロは量産品にシロが手を加えてた物を使ってる、ように見せかけていた。
プラズマステーク等の武装はハリボテ同然、素手で殴った方が早いらしい。
オルゴナイトを使えるクロとシロは無理にデバイスを使う必要がない。
むしろ、下手な性能のデバイスはかえって戦闘の邪魔になる。
防御面もオルゴンクラウドの障壁があれば十分カバーできるので問題ないんだと。
「とは言ったものの、私たち用の専用機も鋭意製造中です。気を長くしてお待ちください」
「開発難行中?私が要求するスペック、そんなに無理言ったかな」
「クロのバカ力と覇気に完全追従するヤツ、言うだけなら簡単ですが素材を準備するだけでも一苦労ですよ」
「アレを使ったのにダメだった?」
「もう一体、いや、せめて劣化する前のフレーム構造詳細がわかれば・・・」
唸りながら考えを巡らせるシロ。
愛バたちも戦力強化に向けて色々やってくれている、ありがたいが無理だけはしないでね。
二人の専用デバイス、お披露目の機会は無い方がいいのだが、もしもの時用に準備だけはしておいても損はないだろう。
「わかった。二人はこのままオルゴンエナジーを強化していこう。もし結晶について誰かに突っ込まれたら「操者のせい」とでも言っておけ」
「了解・・て、それでいいの!?」
「大丈夫、多分だけど「まあ、マサキだからなあ」で終わる。自分で言っていてなんか悲しい」
「マサキさんがよろしいのであれば、私は従うだけです」
オルゴナイトを実際に目撃されたところで手品や幻術の類だと思ってくれるはず。
バレたらその時に考えればいい、知っている奴は口裏を合わせてくれることを祈ろう。
「バスカーモードの限界時間は?」
「節約して、およそ18分といったところでしょうか、リンクしていただければ30分は持たせてみせます」
「俺のエネルギー供給次第ではあるが、息切れしないよう十分注意してくれ」
「わかったよ。切り札の使いどころは考えておくね」
「本当にわかってますか?接敵即ぶっ放し!はやめてくださいよ。見張ってますからね」
二人はできる子なので心配はしていない。きっと上手に使いこなす。
「私のデバイスは雷鳳(ライオウ)ダイナミックゼネラルガーディアン3号機になります」
「やはり正義マフラーはカッコイイ!擦り切れた感じの加工がたまらん」
「ありがとうございます。私も気に入っているポイントです」
雷鳳を顕現させたアルの姿は美しくも勇ましい。
白銀の装甲と雷属性の覇気がより一層彼女の存在を際立たせる。
後から聞いたことだが、雷鳳はビアン博士が俺用に調整する予定もあったのだと。
大事にされているようなので、アルに託されたことは雷鳳的にも良かったと思う。
「雷は完全にものにしたようだな。デバイスもよく似合ってる」
「今更ですが、雷の覇気も雷鳳もあなたから奪ったようなものです。それを使って調子に乗っていると思われても仕方ありません」
「奪っただなんて思わなくていい、俺からのプレゼントだと考えてみてはどうかな」
雷をプレゼントした男なんて俺ぐらいのもんじゃね?
それに、俺自身雷の覇気を全て失ったわけじゃない。
アルのより見た目も出力も大分劣るが、今だってまだちょっとぐらいは出せる。
「それプラズマビュートだ。小さっ!?それにショボい!久しく使ってなかったから予想以上に衰えている」
「フフ、笑っては失礼ですが、なんだか可愛らしいです。この雷こそがあなたと私を繋ぐ絆の証明ですね」
そう言って俺の頬に手を添えるアル。
もう一つの共通点、頬の切り傷を愛おしそうに撫でる。
真っ直ぐな眼差しを向けてくる彼女の瞳に吸い込まれそうだ。
うわああっ!この子マジで綺麗でクソ可愛いぃぃ!
ごめんなさいね、彼女俺の愛バなんですよ。ぐへへへへ~。
「二人の世界長くね?」
「マズい「目と目が合う~瞬間すーきだと気づーいたぁ」状態だ!」
「これは武力介入してもいいのでは?」
アル以外の愛バたちがヤキモキしだしたので現実に戻される。
「続きはまたにしましょうか」
「先の展開を期待してもよろしいかな?」
「全てはあなたの望むままですよ」
「マジで!?」
「「「このドスケベ、グイグイ攻めよるわ!!」」」
「外野うるさいです」
雰囲気に流されそうになったが軌道修正、雷鳳について検証していこう。
基本は体術(蹴り技主体)による近接格闘戦、雷の覇気はメイン武器ではなく、あくまでも補助装置。
雷撃鞭による引き寄せと捕縛、攻撃ヒット時の追加ダメージ、歩法に組み合わせて加速力アップ、放電による牽制と索敵に使用している。
殺傷力のある雷撃を直接当てるような攻撃を繰り返せば、一気に覇気が底をついてしまう。
燃費の悪さはリンク時の覇気供給と、調整で何とかやり繰りすることにする。
調整はビアン博士やタキオンならやってくれるはず、いいや、絶対やってもらう。
気になったらのは、感情の揺らぎやが現れやすいことだろうか。
本人は隠しているつもりだろうが、僅かな動揺ですら技のキレや覇気出力にもろに影響している。
元々の気質か、以前に患った神核異常の後遺症かは不明。
安定性を欠いているとはいえ悪いことばかりじゃない、気力が上がれば戦闘能力も上がる。
その上昇率は4人の中でも随一だ。
「パワーは十分、スピードはまだ改善の余地ありだな。歩法の練度を上げて加速技を身に着ければベストだ」
「はい、私もそう思っていました」
「ムラっ気に関しては、メンタルトレーニング・・瞑想でもやってみるか?」
「精神力を鍛えろと仰るのですね。了解致しました」
心技体が整えばアルを止められる奴はそういないだろう。今後も成長が楽しみだ。
「3人の後で私のデバイスを披露しろと?ホントやめてほしい」
「いいからはよしろ。ほら、マサキさんも待ってる」
「そんな大したものじゃないのに、えーとね、今持ってるのはアシュセイバー、アンジュルグ、ラーズアングリフ、ラピエサージュは調整中で、ヴァイサーガはメインウェポンが間に合ってない。ソウルゲインはゴルシちゃん専用になっちゃったし、あ、でもでも、エクサランスはもうすぐロールアウト予定だよ」
「なんか多くね?」
「明らかに多いな、デバイスって一人でそんなに使えるもんなのか?」
「多くても一人2、3個が限界ですよ。そもそも調整が間に合いませんし、神核に掛かる負荷が膨大でまともに動かせないでしょう。普通はね」
ココは普通ではないらしい。
何かと器用な子だとは思っていたがここまでとは、技量がカンストしているのかな。
「できるからやるだけ。3人に比べて足りない私はやれることは全部やるつもり」
「足りないとか言うな。お前の良さは俺がちゃんと理解している」
「その一言でどこまでも頑張れちゃう。私ってばチョロイン!」
状況に合わせ戦闘中に装備を換装できるのが、どれだけのアドバンテージになるかちゃんとわかってらっしゃる。
ちょっと拝見したところ、デバイス1つにつき数秒かかるはずの展開時間が、ココにいたっては1秒にも満たなかった。早着替えならぬ瞬間換装で弱点になるような隙をも無し。
遠近中あらゆる距離から手を変え品を変え攻撃くる相手などやりにくいったらない。
それがココとい騎神の強みだ。
「ストライカーパックやシルエットシステムみたいですね」
「私は平成仮面ライダーのフォームチェンジだと思った」
換装システムいいよね。
個人的に好きなのはライガーゼロのチェンジングアーマーシステム・・・ゾイドまたスパロボ参戦しないかな。
それにココの神核は特別製、時流エンジンの名を冠したそれを宿す彼女にラースエイレム(時間停止チート)は効かない。
契約者の俺にも効かないことは証明済み、上手くいけばリンクすることで他の愛バにもその恩恵にあずかれるかもしれない。
「お前がいてくれてよかった。これからも出来ることをガンガン増やしていこう、戦術の選択肢は一つでも多い方がいい」
「了解。総合力を上げつつ、私なりに創意工夫してみるから期待してて」
みんな賢い子たちだ。
愛バたちの強化プランは「俺の言う通りにしろ」ではなく「思う通りにやれ」が正解。
今日は確認をしただけ、何かあればその都度修正、改善していけばいい。
一通り話し終えると、各自がそれぞれのデバイスやオルゴナイトに意見を物申している。
俺は少し距離をとってその様子を眺める。賑やかでいいわね、しっかりコミュニケーションしなさい。
「いつ見ても綺麗な結晶ですね。私にも使えないかしら」
「アル姉の雷と交換なら考えてもいいよ」
「で?どの武器があなたの本命なのですか」
「なんのこと?」
「しらばっくれインモーめ。鉄パイプから重火器まで難なく使いこなすの知ってますよ。それも器用さの成せる技ですか」
「よくわかったね。そんなに私のことが気になっちゃう」
「わからいでか!三節混やトンファーを振り回したかと思ったら、手裏剣やマニアックな暗器をチラつかせる癖に!」
「攻撃前の軌道を見てる視線、ココの場合は線だったり点だったり無茶苦茶なのはそれでか」
「私が見たところでは刃物、刀剣類に一番適正があるように思うのですが」
「ほ、本当によく見てるなあ。一番得意なのは剣だと思う」
「だったらそれをメインで使わんかい!出し惜しみしてんじゃねーよ」
「うーん、まあ考えておくよ」
少々歯切れの悪いココ。得意武器だという剣を使えない理由があるのだろうか?
剣、剣か・・・人斬り抜刀斎な姉さんに聞いたら何かアドバイスしてくれるかな。
ココは嫌がるかな、愛バたちと姉さんには仲良くなってもらいたいので、いいきっかけになるかもしれない。
まだ眠っている力があるのか、それを呼び起こせるのか、全ては俺と彼女たち次第だ。
「最後は俺のバスカーモードをどーんと見せちゃう!」
「「「「ウェーイ!!」」」」
覇気解放、粒子散布開始、出力調整、このくらいでいいか。
「惚れ惚れするような覇気の本流いただきました」
「そうこれ!この力、この圧、この輝き、これがマサキさんの真骨頂」
「ん?銀髪ロングのお義母様リスペクトスタイルはどうしたの」
「あれはには事情があってな。今すぐ自由に変身できるわけじゃないんだ」
「それは残念です。あの時のマサキさんは最高でした///」
「何!何があったの?アル姉とココは何を見たの」
「銀髪ロングとは一体、尋問の必要がありますね」
あの時、見た目が変化していたのは2ndに帰還する前"あの男"に会ったのが原因だ。
あの姿は母さんを真似たものではなく、俺が奴に近づいた。
つまり、元に戻っただけ。いや、よく知らないけどさぁ。
オルゴンブラスターにスレイブ、フィンガークリーブ、オルゴナイトバスター、テンペストランサー。
メルアから受け継いだものに、俺流のアレンジを加えた技の数々も見てもらっておこう。
「ドリル来たぁ!」
「ランサーて言ってるから、手持ちのは槍じゃないの」
「もうドリルでいいよ」
「ブラスターは私やクロにも吐けそうですね。こう、胃酸を逆流させる感じで」
「それだと食道炎になりそう。無理してやらなくていいからな」
「操者と同じ技を使ってみたい愛バ心、わかってほしい」
各自のオルゴナイト及びデバイスのお披露目はこれにて終了だ。
「明日からはリンクを試す。お前たち準備はいいか?」
「「「「待ってました!!」」」」
「異常があればすぐに報連相!隠してもわかるからな。自分だけじゃなく、仲間の状態にも気をつけるように」
「はい、肝に銘じておきます」
「うん。また眠っちゃうのは嫌だからね」
「循環によって何かしらの影響があると思う。特にアルとココは注意してくれ、クロとシロが爆発的成長をしたように何が起こっても不思議じゃない」
「いよいよだね。とっくの昔に覚悟完了してるよ」
「不安はありません。マサキさんの覇気は私たちを強くしてくれる、そう信じていますから」
可能な限り常時リンクして5人で覇気を循環させる。
また愛バを昏睡状態にしてしまうことがないように、小まめな状態チェックを心がけよう。
俺も自分の体調には気を付けないと。
「予定もあることだし、今日はこれにて終了する。お疲れ様でした」
「「「「お疲れ様です!!」」」」
「忘れ物はないな。速攻で地上に帰るぞ、俺に続け~」
「「「「どこまでもついていきます」」」」
雑魚を蹴散らしながらダッシュ。
旧校舎ダンジョン25階層からの帰還、最速タイムを叩き出しました。
息切れしながら旧校舎から飛び出したところを何人かに目撃されたがスルー。
お家帰るんだから邪魔しないで。
学生寮の前で愛バたちと別れる、不躾な視線にも大分慣れた。
「俺の用事に合わせてもらってすまないな。埋め合わせは、また後日な」
「お気になさらず、大人の付き合いが大事なのは理解してますので」
「飲み過ぎないでよ。二日酔いになったら付きっ切りで看病しちゃうから」
「俺は飲まない飲めない男だから安心しな」
「大人になったら私たちも飲み会をしましょうね。その時が楽しみです」
「え!?アルは今でもたまに飲ん・・・痛い!」
「ココさん。あれはメジロ家に代々伝わる健康飲料"メジロ水"だと言ったはずです。アルコールではありません!」
「そんな言い訳が通るはずなぁぁぁ!やめてー!尻尾千切れるぅ!」
「アル中のアル姉ww」
「アルだけにですかww」
「やかましいですよ。メジロ水は百薬の長なんですからね!」
「中毒者の言い訳来たな」
突発的な秘密の暴露、愛バたちと会話中にはよく起きる現象だから今更動じないよ。
「アル、程々にな。一升瓶片手に悪態をつくお前なんて見たくない」
「何のことか存じませんが、今日の晩酌・・じゃない!メジロ水を飲むのは自粛しておきます」
「晩酌って言っちゃってるよw」
「因みにお前たちは?」
「メジロ水飲む暇あるならラーメン飲むよ」
「何が美味しいのかわかんない。あ、でも香りや風味は嫌いじゃないかな、ジージも飲んだくれだったし」
「私はそれなりにいける口です。もちろんメジロ水の話ですよ」
ショットグラスで飲むサトノ水もあるとかで、愛バたちがアルコールの話で盛り上がってる。下戸の俺は置いてけ堀です。
おいコラ未成年んんん!だが、ウマ娘には何事も例外があるというのか!
まったくもう、はちみーでも飲んでなさいよ。肝臓悪くしてもしらないわよ。
さて、今日は前から予定していた、俺の教官就任祝い飲み会の日だ。
参加メンバーは大人のみ、ノンアルコールでお願いします!
愛バたちは、早く寝なさい!!