出勤前にスマホの通知を確認していると、愛バの一人、アルからメッセージが届いた。
グループに投稿しなかったということは個人的な話か。
『マサキさん。今日の放課後、お時間をいただけないでしょうか?』
『かまわんよ。みんなで鍋でもやっちゃう?』
『いえ、出来れば二人きりで・・・ダメでしょうか』
『全然オッケー。予定を空けておくな』
『ありがとうございます。シロさんたちには私から丁寧に説明しておきますので』
『穏便にな』
『はい、穏便になるよう努力します』
真面目なアルのことだ、俺に相談したい事でもあるんだろう。
とはいえ、愛バから二人で過ごしたいとのお誘いだ・・・オラなんかすっげぇワクワクしてきたぞ!
これで今日のお仕事にも身が入るってもんよ。
「仲のよろしいことで。はい、こっちもチェックして」
「愛バがいるって本当に幸せだよな。えーと、これでいい?」
「おkおk、入力漏れはないみたい。後は本登録用のページで"チーム名"を入力して申請すれば登録完了だよ」
「いろいろありがとな、ミオ」
「この位どうってことないよ。あっ、入力ミスには注意して、一度申請したチーム名を変更するのは時間も手間もかかるらしいから」
「わかった。一発でいい名前をつけてやるぜ」
「私を名付けたときみたいに中二病が炸裂したヤツを期待」
「期待されても困るぞ。チーム名は愛バたちと相談して決めるよ」
同僚のミオからの説明を受けながら、学園より支給されたタブレットを操作する。
場所は学園敷地内に存在する施設、クラブハウスと呼ばれる建物の一室だ。
ここはミオが代表を務めるチーム"スピカ"の根城であった。
「まさか、お前が操者になるとはな」
「ホントホント、人生何があるかわかんないもんだよ。自分の可能性にビックリだ」
「7人も面倒見れているのか、覇気とか大丈夫?」
「マサキと違って常時接続していないから心配ご無用。それに、愛バたちはどの子も優秀だからさ」
雑多に物が詰め込まれた棚の空きスペースにはミオとチームメンバーの集合写真が飾られている。
これがまた、全員知ってる顔なんだよな。
ミオがお茶を入れ直して来るといって席を立った直後、部屋の扉が勢いよく開かれた。
「ちーっす、愛バが今帰ったぜ~。お、ロリコン保険医がいるじゃねぇか!暇か!」
「養護教官な。まあ、保険医でも間違ってはないけど」
「こいつロリコンは否定しなくなったwなあなあ、特にケガしてないけどヒーリングしてくれよ~」
「いいぜ、悪いのは脳だな」
「あ゛~頭がポカポカするんじゃ~」
年齢不詳のウマ娘ゴールドシップは、ちゃっかりミオの愛バとしてスピカに所属していた。
冗談めかしてヒーリングをねだって来たが、本当は疲れているのかもしれない。
養護教官としてのプライドもあるので丁寧にヒーリングを施す。
目を細めて気持ち良さそうにしているゴルシ、黙っていれば美人なんだよなホントに残念。
学園に通いながら仕事をしている生徒は沢山いるし、学園側もその辺は融通を利かせてくれる。
俺の愛バたちも家業を優先して学園を休むこともあるので、ゴルシもファイン家の仕事が立て込む日もあるだろう。
「本業の方はどうよ?」
「まあ、ボチボチだボチボチ。無駄にできるハゲゾールが頑張ってるみたいでな、一昔前に比べたら楽チンな方だぜ」
「ルクスは」
「ムカつくことに、あのクソ仮面の情報はさっぱりだ。そのせいか御三家はどこもピリピリしてやがるな」
「進展があれば教えてくれ。だけど、無理だけはするなよ」
「こっちのセリフだ。クソ仮面にロックオンされてるのはマサキ、お前なんだからな」
姿は見えないのに気配だけは感じる不気味さ。
殺虫剤を取りに行ってる間に家具の裏側に逃げ込んだゴキブリのようなヤツだ。
マジキモイから滅んでくれませんかねぇ。ゴキジェット顔に噴射してやろうか。
ルクス=ゴキブリの公式をゴルシと練り上げていると、ミオが奥から戻って来た。
お盆の上には人数分の抹茶ラテだと!?こやつめ小洒落おってからに、利休激おこ!
でも、美味しそうなので頂きます。インスタントだけど(゚д゚)ウマー
「お帰りゴルシ。他の皆は?」
「ギルドにクエスト完了の報告して来るってよ。寄り道してなきゃもうすぐ帰って来るんじゃね」
「ラテご馳走様。そんじゃ、俺はそろそろお暇するわ」
「待てよ!まだブラッシングが済んでないでしょーが」
「そこにキミの操者がおるじゃろ。ミオ、愛バがブラッシングをご所望だぞ」
「嫌だよめんどくさい」
「うぃぇぇー!?!?」
ソッコーでお断りしたミオに引いた。そして変な声が出た!
いくらゴルシとはいえ、愛バのおねだりを断るなんて・・こんな操者が存在していいのか!?
俺だったら絶対無理だ、ありえない。
風呂上りのブラッシングで俺のブラシテク上昇率はとどまることを知らないというのに!
「ちっちっち、操者と愛バの形は人それぞれ。私は愛バの自主性を第一に考えているからね。自分のことは自分でやれ!無理なら私以外の誰かにやらせろ!がミオちゃんのモットーなんだ」
「ひでぇだろwwマジウケるよなww」
「お前ら、それでいいのか?ああもう!ブラシ持って来い、やってやらぁ」
「マサキのそういうとこ好きだぜ」
「やめてよ。ちょっとドキッとしちゃうじゃないの」
「「キンモ~www」」
キモくても愛バ4人いますけどね!
普段がアレな分、イケメンムーブゴルシの不意打ちは刺さる。
サラサラの長い髪をブラシで梳いている間、ミオは楽しそうにこちらを見ていた。
ゴルシは開始2分で鼻提灯を出しながら寝やがった。リラックスしすぎや!
「ただいま戻りました。あらマサキさん、いらしていたのですね」
「ただいまー。て、えぇ、ブラッシング!?ボクにもやってよー!」
「ゴルシ寝てんじゃねーか」
「それだけリラックスしてるんでしょ「下手な高級サロンに行くより、私はカピバラ君にやってもらう方がいい!」てタキオンさんたちも言ってたから」
「そんなすげぇのか、頼めば俺にもやってくれんのかな」
「愛バ優先になるけど空き時間があればやるぞ。今の内に予約しとく?」
「予約制なの!?」
経験者からの口コミで広まったのか「へアサロン・マサキ(無料)」の開店を望む声は多い。
高等部の連中、おそらくチケ蔵あたりがバラしているのではと推測する。
もし教官試験に落ちていたら真面目に美容師を目指していたかもしれんな。
そんなこんなでスピカのメンバー、メジロマックイーン、トウカイテイオー、ウォッカ、ダイワスカーレットがご帰還だ。
「改めて、みんなお帰り。お邪魔してるぜ」
「お帰り~。およ?スぺちゃんとスズカは」
「追加の学内クエストが入りましたので、そちらへ向かいましたわ。案件は迷子のペット探し、お二人だけで十分だと申されましたので、私たちは一足先に帰還いたしました」
「なんでも、エルコン先輩が飼ってる白猫が脱走したんだってさ」
「あれペットだったの、自立AI搭載型の特殊デバイスだと聞いていたのだけど」
「確かグラス先輩の蛇と同じヤツでチョウキジンとかいう。いいよな、新型のテスターに選ばれるなんて羨ましいぜ」
コンドーさん何やってんスか!後、猫と蛇は大分無理があるが誰も指摘しないのか?
今頃涙目で探し回ってる光景が目に浮かぶ、見つからないようだったら俺もお手伝いしよう。
ダメそうなら俺を呼べとグラスとコンドーにメッセを送っておく。これで良し。
「客の前でスマホをいじるなよ。おめぇ、それでもプロか!」
「起きたのかゴルシ、プロじゃない素人だ。友人の覆面レスラーが相棒を逃がし困ってるんだとよ」
「そんなん、逃げた白虎はお前の覇気を餌にしておびき出せば解決だろ」
「聞いていたのかよ。まあいい、はい、仕上げ完了」
「うっし、ゴルシちゃんの美しさが5上がった。そして、マサキのロリコン度が3上がった」
「いらんパラメータを上げるな」
「こいつは礼だ。とっときな」
「マーキングするなら軽めにね、ホント軽めにお願いします!この間、姉さんの上書きで愛バが凶悪な顔芸披露して大変だったの!」
「嫁VS小姑戦争勃発中かww。心配すんな、私の刻んだ暗号は「品行方正な素晴らしい男」だからな」
「それなら安心だ・・・おい」
お礼のつもりなのか、ブラッシング後にライトなスリスリ(マーキング)をしてくる子は多い。
専門家によるとウマ娘独自の習性で信頼の証らしいので素直に嬉しい。だけど、俺は知っている。
マーキングはウマ娘の暗号通信も兼ねていると、俺に内緒でコソコソ言いたい放題していることを知っているんだぞ!
よからぬ文字を付けられたことは、テイオーたちが肩を震わせて俯いている時点で明らかだ。
こいつマジで信用ならんな。
「嘘をおっしゃい!「幼女命(ガチ)!!!」と読めますわよ!」
「「「「「あはははははははwwww」」」」」
「やっぱりか、消せ!今すぐ消せ!」
「本当のことなのに何を恐れる必要がある?もっと自分に正直になれよ!」
「やかましい!このまま愛バとエンカウントしてみろ、皮膚が無くなるまでスリスリ(地獄摩擦の刑)されるわ!」
「「「「「こっわぁッッ!!」」」」」
ほらドン引きされた!火起こしか!てぐらい擦られる俺の気持ちがわかるか。
「ミオ!バカウマの責任は操者のお前がとってくれるんだよな」
「えーと・・・ははは、抹茶ラテおかわりする?」
「ほうじ茶ラテで頼む。嫌だ、摩擦熱で火傷したくない誰かお助け―」(´;ω;`)
「はあ、仕方ありませんわね。マサキさん、こっちにいらしてくださいな」
「僕も手伝うよ。何て書こうかな~」
「あの、消すだけにしてくれる」
マックとテイオーが消しゴム役になってくれるようだ。
この子たちには助けられてばっかだな。今度甘い物でも差し入れしよう。
「おいおい、他の操者にマーキングするなんてアリなのかよ!////」
「何照れてんのよ、ピュアか!まあ、マサキは例外なんじゃない。ミオさん的にはどうですか?」
「マサキはセーフ!!これが他の男だったらミオちゃん激オコ!」
「動かないでくださいまし。こうして、こうですわ!」
「ならボクはこっちをやるぞー」
「本気でやらなくていいんからな。あ、そこは触らないでいただけると」
「と言いつつ、ロリコン度を10上げるマサキであった。この浮気者!!そしてゴルシちゃんが再び参戦するのであった!」
「モノローグやめろ!お前はもう帰れ!!」
「どこに!!」
「自分の星に!!」
「ゴルゴル星はいつもみんなの心に輝いているのさ。エピソード1~ゴルゴル星は妄想だった~」
「知らん!」
「因みにエピソード22まであるからな」
「思ったより長編んんん。全く興味ないわ!」
ラテとお菓子をご馳走になりつつ、ゴルシのマーキングを消してもらった。
スピカの部屋を後にしてすぐコンドーさんからヘルプ要請が来たので、脱走した白虎の捜索に付き合うことにした。ゴルシの言う通りにするとアッサリ解決したぜ。
当然の結果なのだが、愛バたちからはたっぷり上書きマークキングを食らいました。
特にクロとシロが憤慨していたけど、なんて書いてあったのかは教えてくれなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「チーム名を決めたいと思います」
「「「「はい、喜んでーー!!」」」」
「元気でよろしい」
居酒屋の元気定員みたいなノリ?下戸だから詳しくは知らない。
昼休憩中、クラブハウスの一室を借りて会議を行うことにした。
議題は俺と愛バたち、5人のチーム名をどうするかだ。
「何か思いついたらどんどん挙げていこう。言ったもん勝ちだ」
「ボケてもいいですか?」
「いいよ。でも採用するかは別問題」
「ですよねー」
準備のいいシロがサインペンとフリップを持参して来たので、芸人大喜利のようなものがスタートした。
とりあえず俺は進行役に徹しよう。
「いずれこうなる『アンドウ家』」
「気が早い!」
「『おしどり夫婦と邪魔ウマ3名』でいいと思います」
「はい、どうどう。ケンカを売らない買わない!」
「『装甲悪鬼マサキ』血生臭い所が素敵です////」
「それだと敵を倒す度にお前らの首をチョンパせなアカンよ。善悪相殺は嫌や!」
「『真剣でファインに恋しなさい!』ヒロイン全員武士ウマ娘。ただし小姑はいない」
「超好きだけどさぁ。ゲームタイトルじゃなくてチーム名をだね」
「『マサキと愛バと野良猫ハート』猫に変身したマサキさんを思う存分可愛がる神ゲー」
「うん。一旦、エロゲから離れよっか」
愛バたちの間で何故かエロゲが流行っている。
そっと目をそらしたシロが布教活動でもしたのか?
「うちは婿入りも大歓迎なんで『サトノマサキ』なんてどうでしょう」
「『メジロマサキ』もアリですよ」
「決めるのはチーム名であって、俺の姓ではないぞ」
「『俺とアルダンとモーション』これでよくない?」
「旧題をリスペクトしたのですね。いいと思います」
「よくない!」
「追加ヒロイン(笑)はお黙りください。あなたたちのせいで創造神(作者)も結局タイトル変えたんですよ!」
「メタい発現は世界の法則が乱れるので禁止だ!いいね?」
「「「「あ、はい」」」」
よくない流れになったので慌ててストップをかける。
難航してきたので俺も案を出した方がいいのか、そう思った時、クロがボソッと呟いた。
それは聞き捨てならない単語だった。
「『シュロウガ』は?」
「ちょw待てバカクロ」
「・・・クロ」
「何かな、マサキさん?」
「アレを見たんか?正直に言いなさい」
「実家の天井裏、封印されたノート、びっしり書かれた設定、凄かった!」
「シロ?」
「私のメモリーにバッチリ記録されてますね」
「マサキさん?どうしたのですか顔色が」
「何?何が始まったの!それとも終わったの!」
シュロウガとは俺が中二病を患っていた時に脳内で組み上げたキャラクターで、他にもアサキムとかミュステリオンとかあがががががが。
バレた、見られた、呪物と化したあの黒歴史ノートの中身をクロとシロに見られた!!
何も知らないアルとココが俺を心配する中、クロとシロが労わるような視線を向けてくる。
頷き合った二人が久々のハモり会話を繰り出す。やめろぉ!お前らがそれやるとき碌なこと言わないだろ。
「「マサキさん」」
「何だよ」
「「お可愛いこと・・・」」
「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーー!!!あうえいぁへあぼぬわんごぉぉぉーーー!!!」
「マサキさん!?待って!何処へいかれるんですか?」
「奇声を上げて逃亡した!?コラッ!クロシロちゃん、マサキに何をしたのか白状しなさい!」
「ホント可愛いなぁ。そういうところも大好き」
「ちょっとやりすぎましたかね。でも、なんだかSッ気に目覚めそうです」
俺、会議から逃亡!かぐや様は告らせたい!俺は現実から逃げ出したい!てか逃げてる真っ最中。
バカバカバカ俺のバカ!なんで、なんであんな爆弾(中二ノート)の処理をしなかったんや!
恥ずかしいーーー!恥ずかしすぎるよぉぉぉーーー!
心と言う器はひとたび、ひとたびひびが入れば二度とは、二度とは、うぉぉぉんんんん。
10分後
「「申し訳ありませんでした!」」
「もういい、もう・・いいんだ・・はは・・・ははは」
「酷いよね。若気の至りを嘲笑うなんて、愛バの風上にも置けないよね」
「まあまあ、クロさんとシロさんも反省しているようですし」
「「アル姉とココも事情を話したら笑ってましたぁ!!」」
「「あ!コラッてめぇら」」
アルとココにもバラされた。もう終わりだぁ!マサキは目の前が真っ暗になった。
ここら辺から記憶が無い。
「大きなクロが点いたり消えたりしている……あはは、大きい!シロかな?いや。違う……違うな。シロはもっと、バァーッて動くもんな」
「マズい!マサキさんの精神が危険域に突入した」
「これは・・・今こそ愛バの力を見せるときです!」
「こんなに早く使う事になるとは、訓練通りやるよ!フォーメーションα!!」
「「「合点承知!!」」」
「暑苦しいなぁ、ここ。うーん……出られないのかな?おーい、出してくださいよ。ねぇ?」
「はーい、マサキさんの大好きなおぱーいはこっちだよ~」
「この状況、小姑様たちに見られたら退学ものですね」
「部外者が入って来ないよう、オルゴナイトで施錠しておきましょう。窓のブラインドも下げてと」
「よしよし、怖かったね。嫌なことは全部忘れよっか」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「俺は正気に戻った!」
「「「「やりました!!」」」」
よく覚えてないんだが、俺は謎の精神攻撃により深いダメージを負ってしまったらしい。
そこを頼もしき愛バたちに救われたのだった。
これも全部ルクスって奴の仕業らしい、くっ!姑息な手段を使いおって絶対にゆるさんぞ!
「とても恥ずかしい事と素敵な事があったような・・うーん、わかんね」
「無事ならそれでいいじゃない」
「そうです。深く考えてはいけません」
目覚めた時、何故か愛バと俺の衣服が乱れていたのは気のせいだったんだな。
みんな妙にツヤツヤしているのも気になるが、きっと俺を助けるために尽力してくれたんだろう。
「助けてくれてありがとな」
「「「「こちらこそ!ごちそうさまでしたぁ!!」」」」
「???」
何かされたようだ・・・まあいい、気持ち切り替えていこう!
「今度こそチーム名を決めるぞ!」
「「「「仰せのままに!」」」」
「では、ご意見をどうぞ!」
「『寝てても凄い////』」
「『ご立派ですね////』」
「『お元気で逞しい人////』」
「『暴れんぼうさん////』」
「俺のどこを見て何言ってんの?目つきがやらしい、てかエロいぞ」
「「「「エロいのはあなたですよ!!」」」」
何故キレる?これはアレか、思春期を飛び越えた先の突発性発情期の到来か!
ウマ娘の生体については論文漁る程読み込んだけど、新たな発見があるもんだ。
ここは養護教官として適切に対処すべし!
「ちょっと頭冷やそっか・・・ウンディーネアクセル!」
「「「「ぎゃぁぁぁ、冷たいぃぃーーー!!」」」」
水の覇気を足に集中して横薙ぎの回し蹴りを宙に放つ。
愛バの頭上に降り注いだ冷気が4人のウマ耳をちょっぴり凍らせる。これ位でいいよな。
ごめんよガッちゃん。水の加速技、こんな初披露になってしもうた。
「冷えたか」
「「「「ヒエヒエです!!」」」」
「落ち着いたらないい、はい、全体ヒーリング~」
「「「「うわーい」」」」
愛バの回復は操者の務め、耳が凍結した程度なら触れるまでもなく秒で完全回復させてみせる。
「ベホマラーすごいね」
「これを無詠唱で連発するのですから、驚きです」
「あんま褒めないでくれ。こんなん操者なら誰でもできる」
「最早恐怖すら感じる無自覚」
「それでこそですよ」
発情期を落ち着かせて本題に入る。今日中に決めたいから、こっからはマジでいくぜ!
「あれタブレットは?タブレット~」
「はい、どうぞ。一連のゴタゴタで床に落ちてたよ」
「ありがとう。壊れてはないよな、入力は・・・はぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「どうしたの?」
「こ、これ」
「「「「んんんん?」」」」
全員で画面を注視する。
タブレットの画面に表示されていたのは『申請ありがとうございます』の一文。
入力した覚えもタップした覚えもないのに、なんで?
そのまま続きの文字を追っていくと・・・
『あなたのチームは正式に登録完了致しました』
『チーム名【ああああ】』
『チームああああ様の今後のご活躍を心よりお祈り申し上げます』
『なお、万が一決定したチーム名を取り消したい場合は数ヶ月経過した後に再設定可能になります』
『例え「ああああ」というふざけた名前でも自業自得ですので我慢してお使いください』
『じゃあの「ああああ」のアホどもwww』
なん・・・だと・・・。や・・・
「「「「「やっちまったぁーーー!!!」」」」」
どうしてこのような結果になったのだ。推理する必要が、ないね!
どうせアレだろ、俺が精神攻撃されている間のひと悶着中に起こった出来事でしょ。
タブレット落下→愛バが俺に何かしてる→なんやかんやで「ああああ」と入力申請しちゃった。
テヘペロですまねぇよ。
お祈りメールみたいな文章送って来た人?(もしくはAI)が最後の方キレ気味だし。
自動返信じゃないのかよ!アホどもって言われた(´Д⊂グスン
「きっと、アル姉がハッスルしてる時だね」
「私のせいにしないでください。タブレットの一番近かったのはココさんでしょう」
「し、知らないよ。そもそも「ああああ」とかどうやって入力するの」
「犯人捜しはやめましょう。これは我々全員が愚かだった故に起こった事故です」
「シロの言う通りだ。この責任は操者である俺の不始末が原因だ。みんなすまん・・・」
「頭を上げてくださいマサキさん」
「そ、そうそう「ああああ」とか逆に斬新でいいかも」
「「ああああ」とかゴルシちゃんでも躊躇するレベルだし・・・言ってて悲しい」
「ふぅ、皆さん肯定的で安心しましたよ。まさか、おふざけで事前入力していたなんて言い出せな・・・」
「シロ、お前って奴は」
「あ、やべ」
「「「「クレイジーダイヤモンドォォォーーー!!」」」」
「マサキさん。どうかベホマのご用意を、ご、ごめんなぎぃゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーー!」
おバカなシロが仲間の手で吊るし上げられた。
俺が止めなかったら耳と尻尾を引っこ抜かれていたかもしれない。反省するように!
ぐだぐだな会議はボロボロになったシロの治療をして解散となった。
それから・・・
姉さんと理事長には怒られるし、ヤンロンたちには呆れられるし、生徒たちには笑いものにされて散々だった。
ち、違うんです、悪ふざけじゃないです。
ちょっと事故がありましてね。はい、わかってます!全部俺の責任です!
こうして俺たち5人はチーム「ああああ」としてスタートすることになった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「なんて日だ!」
放課後、日課の修練を終えて帰路に着く。隣にはアルも一緒だ。
珍しく声を荒げてプンスカするアルを宥める。
「よしよし、こういう日もあると思うしかないよな」
「さすが、マサキさんは達観されてますね」
「悟り、もしくは諦めともいう」
「ああああですよ。ああああ、ああああ、あああああああああああああああああ、何なんですか!」
「待て待て待て!お前が壊れたらブレーキ役がいなくなる」
「気付いてないのですか?私はこう見えてアクセル側です!」
「うん!知ってた!でもアクセル踏みこむ前にね、ちょっと深呼吸して」
「クラスメイトにチーム名「ああああ」て言った時の反応、知りたいですか?」
「もういい!アルは頑張った、お前は今泣いていい!泣いてもいいんだ!」
「マサキさ~ん~。うぇ・・うう‥‥ぐすっ」
「おーよしよし。大丈夫大丈夫だからな、お前は何も悪くない」
きっと腫れ物に触るような対応をされたのだ。
ドン引きして苦笑いを浮かべる友人たちを前に申し訳ないやら、恥ずかしいやらでストレスがマッハ!
アルはちょっと壊れてしまった。いや、これがこの子の素なのかも?
この分じゃ他の3人もメンタルが心配だ。後でフォローを入れておくか。
家に到着した頃にはアルも落ち着いていた。
「すみません。取り乱してしまって・・お恥ずかしい」
「謝らないでいい、こっちはお前のいろんな表情が見れて嬉しかったりするんだ」
「もうっ///そうやってあなたは・・・」
シワにならないよう上着をハンガーにかけ、座布団に着席。
家には和室と洋室があって和室には丸テーブルのちゃぶ台と座布団完備だ。
緑茶を入れて湯呑をアルに進める。あ、茶柱!ラッキー!
「それで今日はどうした?俺に相談でも」
「はい!大事なお話があります」
湯呑をガッと掴んだアルはあったかい緑茶を一息で飲み干す。ぬるめに入れといてよかったぁ。
「ん・・・ぷはっ・・・マサキさん」
「はい」
「アンドウマサキさん」
「はい、何でしょう!」
「私と、このメジロアルダンと正式に契約してください!」
「え、はい、喜んで」
あれ?あれれ?契約は既に済んでいると聞いていたような。
正式にという単語を強調したところをみると、俺とアルって仮契約止まりだったの!?
「それは私が悪いのです。実は・・・」
仮契約の経緯について説明を受ける。
アルと会って神核のパズルを解いたあの日、俺はパズルの完成と同時に気絶してしまった。
その時、頬にできた擦過傷からアルが俺の血を舐めとってしまったのだという。
「本当に、本当にッッ!申し訳ありません!余りに卑しい行為でしたので、明るみに出るのが恐ろしく今まで黙っていました。無許可で血を摂取するなんて・・こんな騎神、気持ち悪いですよね」
「そんなことない。俺の方こそ今まで気付かなくて悪かった」
「今からでも遅くありません。あなたが嫌だというのなら遠慮なく契約を解除して・・」
「それだけは絶対に断る」
解除したらどうなるか知ってるか?お前、俺の事忘れちまうんだぞ。
マックたちから聞いた話だと、解除後の忘却症状は御三家の血筋に連なるウマ娘だと特に顕著らしい。
優秀な血だからこそ、釣り合わない人間の事はサッサと忘れて次に行けってこのなのかね。
「ココからお前が愛バになってると聞いた時、驚いたけど「やった!」て思ったんだ」
「・・・・」
「これで見ず知らずの操者に嫉妬しなくてすむって、心底安心したんだ。クロやシロがいるってのに、そんな事考えていたんだぜ。マジでサイテーだと思うわ・・・で挙句にココとも契約して」
「・・・・」
「俺はこんなフラフラした男で、今でも足りない情けないばっかだけど、それでも、お前を手放したくはない。お前はどうなんだ?後悔・・・してるか?」
目を見てしっかり伝える。言葉は途切れ途切れで語彙も貧弱、でも伝われ、伝わってくれ。
「後悔なんてするはずない、あなたを困らせてしまったのではないかと、ずっと不安で苦しくて。血を舐めた事、あれは衝動的な・・・でも、本心から行為でした」
「うん。凄く嬉しい」
「私、このままじゃ嫌です。もっとちゃんと繋がっていたい、あなたが、マサキさんが欲しい」
「今更だが照れる」
「フフッ、私もです。でも、なんだかスッキリしました」
ようやく笑ってくれたので、俺も一緒に笑う。どうやらお互いに緊張していたようだ。
なんかこの部屋熱くね?そうだお茶飲もうお茶、茶柱が立ってるうちに飲んじゃえ。
ぐいっとな。
「マズっっっ!よくコレ一気飲みしたな!」
「確かにちょっと苦かったような、緊張で味を気にしてませんでした」
お茶の入れ方がどうこうじゃなくて、茶葉が終わっとる!
うげっ!「クスハ印の緑茶風青汁」てパッケージに書いてあるし!結局青汁じゃないか!
ノーマルクスハ汁よりマズいってどうかしてる。道理でワゴンセール品だったわけだ。リピしません。
「今から正式契約するってことでOK?]
「はい、そのつもりで来ました」
「血吸う?」
「吸いますね」
「そうか・・・ちょっとトイレ行ってきていい?」
「どうぞ」
「・・・なんでついてくる?」
「信用してないわけではないですよ。ただ逃げられては困るので」
「悲しいほどに信用されてないね」
ココの時は痛みが無かったが、アルの場合がそうであるとも限らない。
クロとシロの時の激痛がフラッシュバックして、少々怖気づいてしまっても仕方なかろう。
えっとぉ、うちのトイレに窓は・・ないね!扉の前で待ってるし、もう逃げられないぞ。
やだ///出すときの音とか聞かれた恥ずかしい(/ω\)
「耳は塞いでおきますので、存分になさってください」
聞こえてるじゃねーか!どうしてウマ娘すぐ嘘つくのん?
嗅覚にしてもそうだし、本当は匂いでモロバレだけど優しい私はスルーします的な案件多くね?
トイレから出て手洗い中も監視されてる。ニコニコ顔が怖い。
これ他の3人に助けを求めるべきか?いやいや、ここまできてそれはちょっと・・・
「マサキさん。こっちです、こっち」
「はいはい、もう好きにしてくれ」
俺の家なのに迷いなく誘導するってなんなの?
そしてここは、洋室のベッドルーム。俺は畳にお布団派なので余り使用しない。
だけど、愛バの好みがありましてね。こうして家具屋ら私物やら着替えやらを置いていくわけよ、どうしてかは察して!
先にベッドへ腰かけたアルに手招きされるたのでお隣に座る。
「そういえば、テスラ研でもベッドに座ったな」
「そうですね。懐かしい」
「・・・・」
「・・・・」
「今日めっちゃ天気よくない?」
「はい、快晴ですね」
「・・・・」
「・・・・」
「晩御飯、何食べようか」
「よかったら私が作りましょうか?リクエストして頂ければ何なりと」
「アルの料理は上手いからな。何にしよう、この間ヤンロンが麻婆豆腐を、いや、今日はカレーの気分かも」
「では、折衷案でマーボーカレーでも」
「そんなんできるの!すげぇ」
「・・・・」
「・・・・」
「か、買い物行くか?」
「いいですね。今日は近所のスーパーがお安くて」
「・・・・」
「・・・・」
う、動けねぇぇぇーーー!
あの激痛が来るかもと身構えてしまい、不毛な会話をただ繰り広げるのみ。
アルも距離の詰め方がわからず戸惑っているようだ。
こんなんじゃダメだ!ええい!覚悟を決めろ俺!
「のわぁぁぁぁぁんん!」
「きゃっ!マサキさんがベッド上でエビぞりに!?発作?それとも何かの儀式ですか!」
エビぞりから大の字にフォームチェンジ。まな板の上の鯉です。
「鯉というよりマグロでは?」
「そうかもね!何が正解でどうすればいいかわからん!アルの好きなようにやってくれ!」
「わ、私の好きなようにですか。えーと、ど、どうしましょう」
「クロとシロは首をガブリ!ココはおでこをペロペロしたぞ」
「まあ!それはそれは・・・決めました。覚悟はいいですかマサキさん?」
「一思いにやってくれい」
「では、いきます」
「・・・・」
「あ、すみません。もうちょっと待ってください、今向こうが片付きそうなんで」
「なんだよもう!」
痛いのは嫌だけど、アルを悲しませるのはもっと嫌だ。
また気絶すんのかなぁ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
少し前のこと
マサキの住んでいる部屋は角部屋であり、隣室は空き部屋のはずなのだが、今日は一味違った。
部屋の中に3名のウマ娘がいた。彼女たちはマサキたちが帰宅する前に先回りして潜伏していたのだった。
3人のウマ娘が持てる技能を駆使して隠形をし、気配を完全に遮断したままマサキの部屋の様子を伺っている。
壁に耳ピト状態のウマ娘たちは息を殺してその時を待つ。
「どう?始まった?」
「シッ!なんかトイレがどうとか」
「マサキさん、ヘタレてしまいましたか」
アルが今日、マサキに正式契約をお願いすることは本人の口から聞いている。
契約は神聖で特別な誓いの儀式だ。
それを邪魔するなんてとんでもない!だから、邪魔しないようにコッソリ見守ることにした。
これはマサキさんの愛バたる私たちの権利であり、重大任務である。
暴走したアル姉がマサキさんに危害を加えるような事が無いとも限らないから待機しているのであって「あのドスケベがどんなプレイをするのか見てぇ!」という野次馬根性など持ち合わせてはいないのだ!
「リューネさん、よく部屋を貸してくれたね」
「賄賂を少々と、今度お店のお手伝いをする約束で手を打ってくれました。ウエイトレスのバイト頑張ってくださいね、クロ」
「私だけかよ!バイトはシロとココも道ずれだからね」
「お、ベッドの方に行ったよ!」
「「キター!」」
声は最小限に抑えてますのであしからず。唇の動きを読めば大体わかる。
「天気の話とかどうでもいいよ!」
「アル何やってんの!いつものドスケベで押せ!」
「くそっ…じれってーな 私ちょっとやらしい雰囲気にしてきます!!」
「シロならそう言うと思った、お供するよ」
「同じく。マサキの愛バたるものやらしい現場に踏み込む時も一緒」
「クロ、ココ、二人が真性のゲスでよかったw」
「「お前もなww」」
「はーい、そこまで」
3人で突入の意思を固めたところで誰かが私たちのいる部屋に入って来る。
ちゃんと鍵は閉めたはずなのに、マスターキーを持っている人物だと!
「「「リュ、リューネさん!!!」」」
大家さん来ちゃった。もはやこれまでか、だが諦めませんよ。
「邪魔しないでください!今から我々は、隣の部屋をイヤンでウッフンな感じにしないとけいないのです」
「バカな事言ってないでずらかるよ。二人の邪魔しちゃダーメ」
「ちっ、アルめ!リューネさんに話していたなぁ」
「そういうこと、おバカな3人をある程度泳がせた後排除してくれってお願いされてんのよ」
「う、裏切りです!私からの賄賂と"クロの1日奴隷券"を受け取ったはずなのに」
「待てや!1日奴隷とか聞いてないぞ、この外道ダイヤ!」
「騒ぐとバレるよ。いいのかな~、これって盗聴というか質の悪いストーキングだよね。マサキに幻滅されちゃうなぁ」
「「「ぐぬぬぬぬ!」」」
「わかったなら部屋から出た出た。いい子には臨時収入で焼肉奢ってあげるからね」
「焼肉!?行こう行こう」
「それ、私の賄賂じゃないですか」
「こうなる予感はあったけどね。アル・・・応援してるから頑張ってね」
「アル姉にも幸せのお裾分け~」
「アル姉さん、無事契約を終えられるよう祈ってます」
大人しく部屋を退去する3人に胸をなでおろすリューネ。
最悪の場合は自らの愛バを招集するつもりだったが、何とか杞憂に終わってくれた。
(なーんだ、ちょっとアレだけど、いい子たちじゃん。ちょっとアレだけど)
「「「見逃すのは今日だけだけどな!!」」」ニヤリ
残念!かなりのアレだった。
二ヤリを通り越して、ニチャァァという粘っこい笑みに狂気を感じる。
(こりゃ、マサキも大変だな)
「リューネさーん。早く~」
「はいはい、今行くから待って」
「こうなればやけ食いです。待ってなさい私の特上カルビ!」
「焼肉店にラーメンってあるのかな?」
「「肉食えや」」