シュウはいつも通りだった。
翌朝、硬い床の上で寝たにしてはグッスリ眠れたようだ。
ゆっくりと目を開けると・・・俺の首筋に顔を近づけるクロシロの姿があった。
とっさに二人の顔面にアイアンクロ―。
「おはよう、何してんだ二人とも?」
「はよー、朝から凄い握力だね。あはは、私の顔変形しそう」
「おはようございます、無防備な男性の寝顔を見てムラムラしただけ・・・割れちゃう!顔洗う前に、顔割れちゃいます!!」
アホ二人の顔面から手を離し起床する。
朝の身支度を整え中、洗面所は三人いるので仲良く順番に使用。
途中、俺の着替えを二人ともガン見してきたが無視した。
まだ頭が働いていないので、怒ったりツッコミ入れるのめんどくさい。
クロシロは着ているシャツを脱ぎ捨て、新しい装いに着替え始める・・・俺の目の前で。
ほーん、いいから続けたまえ。
こちらもガン見しなければ不作法と言うもの。
「今日は動きやすい服装がいいかも知れませんね、念のため」
「だねー。常在戦場~」
クロは昨日と同じく短パンスタイル。
シロは・・・ああ、レギンス(短いからスパッツ?よく知らん)履いてからのスカートなのね。
見せてもかまわんということですか?
レースに出場するウマ娘も見せパン?スタイルだよな・・・いいね!好き!!
「朝めしどうする?俺はいつも食べないか、クスハ汁だけなんだが」
「朝からあの汁はちょっと・・・」
「できれば軽く何か食べたいですね。今はパンの気分です」
「了解。ちょっと待ってろよ」
牛乳、卵、砂糖を混ぜた液体に食パン入れしっかり浸す。
お好みでシナモンパウダーやバニラエッセンスを加えてもいい感じ。
熱したフライパンにバターを入れて、食パンを焼く。
途中ひっくり返して両面焼けたら完成、生クリームやメープルシロップなんかを添えると見栄えが良い。
家にはハチミツしかないのでこれでいいよね。
料理をしている間、クロシロは興味深そうにこちらを見ていた
「殿方が自分のために料理してくれる・・・幸せです////」
「いい匂い~美味しそう!ねえ、早く食べよう」
簡単なものだが二人は気に入ってくれたようだ。
「美味い!」と言って追加した分もペロッと食べてくれた。
作ったかいがありましたな。
「お前らは料理とかしないのか?」
「うーん、興味なかったし、お腹に入れば何でもやいいと思ってたから」
「家はお手伝いさんが全てやってくれますし・・・やっぱ料理できる女の方がいいですかね?」
「まあ男でも女でも、できるに越したことはないと思うぜ」
「そっかぁ、チャレンジしてみようかな」
「花嫁修業の一環と思えば・・・検討してみます」
俺もそんなに得意じゃないが、最低限の家事スキルは習得済みだ。
一人暮らしだと否が応でもそうなります。
朝食後、俺が後片付けをしてる間にシロクロは荷物をまとめる。
そうか帰ってしまうんだな・・・うん、やっぱ寂しいわ。
「マサキさん、迷惑料としてこちらを受け取ってもらえませんか?」
そう言って札束をの一つを渡そうとするシロ。
「いや、受け取れねえよ!金額多すぎて怖いわっ!」
「遠慮しなくていいと思うよ、それぐらいお世話になったし、とっても感謝してるんだ」
「流石に現金は露骨すぎましたか?ですが、サトノ家の者として受けた恩を返さなというわけには・・・」
「いいって、ウマ娘をお泊りさせるなんて貴重な体験できたしな」
「でも・・・」
「それにな金を受け取ってしまうと、仕事だから報酬目当てでやったみたいになる。そういう風にしたくないんだよ」
「?」
「俺は昨日、幸運にも友人になることができた、ウマ娘をただ泊めただけ。友人だから何も問題ない」
「・・・・」
「仕事だからでなく、友人のよしみでやった事だ。そこに損得勘定なんかなくて・・・えーと、ただ俺がお前たちと一緒にいたかったからそうしただけ・・・なっ、これでいいだろ?」
二人の頭を撫でながら俺は本心を語る。
そうだ、大変だったけど凄く有意義な時間だった。
ウマ娘の子供とこんなバカ騒ぎをして笑い合う事ができた。
それはウマ娘の好きの一人として間違いなく幸福な時間・・・あ、シュウが血の涙を流す幻影が見えた。
「いいね、やっぱり・・・あなたはとてもいい人間」
「マサキさん大好きです~」
抱きついてきた二人が俺の体に頬ずりをする。
全身で嬉しさを表現しながら甘えてくる二人に苦笑して、しばらくその頭を撫で続けた。
これもまた幸福な時間。
あ、二人とも尻尾・・・尻尾がペシペシ当たって・・・イタッ!ちょ痛いって・・・これもうただの鞭じゃん。
クロシロは家に帰る前に、町を一周したいと言い出した。
わざわざ家出までしてきたので、今日こそは真面目にアレを探してから帰宅したいらしい。
「ねえ、探し物マサキさんも手伝ってくれないかな」
「わがままですよね。でも、ギリギリまで一緒にいたいんです・・・お願いできませんか?」
上目づかいでそんなお願いされたら断れません。
しょうがねぇなぁ、今日はバイトもないし二人の希望に答えることにした。
「やった!ありがとう、よーし頑張るぞー」
「ふふっ、これでアレも見つかったようなものですね」
「俺がいても役に立てるとは思えないが、いいのか?」
「いてくれるだけで十分だよ」
「私たちの任務はあなたと一緒にいる事です。アレの捜索はそのおまけですね」
本来の目的を見失うなよー。
それにしてもやけに一緒にいたがるな・・・まあ悪い気はしないけど。
三人で家を出て町を巡る。
スーツケースはとりあえず俺の家に置いておく。
またここに戻って来るのは面倒ではと思ったが、クロシロは「今日は身軽でいたい」との事なので二人がいいならと置いてきた。
最低限の荷物が入るボディバックを装備して移動する。
そういえば二人はスマホを持っていなかった、位置情報を追跡されないように実家に置いて来たらしい。
「アレの詳細を教えてくれないから、何を探せばいいのか全くわからん!」
「近くにあれば嫌でも気づくから大丈夫だよ」
「探し物はこちらに任せて、私たちとのデートを楽しんでください」
「やっぱり目的見失ってるよね?」
それからは何と言うか本当にただの"お出かけ"みたいになった。
歩きながら色々な話をする。
どんな食べものが好きかに始まり、趣味、家族の事・・・等々、話題は尽きなかった。
「え、マジで?そんなに早く知ってるのか!」
「"うまぴょい"でしょ?知らなかったら昨日、あんなに笑ってないよ」
「女の子は精神が早熟だとは聞いていたが・・・え~ちょっとショック」
「だいたい世の男性は女性に夢見すぎなんですよ」
「そうだねシロちゃんの中身・・・腐海そのものだもんね」
「うるさいです、聖杯の泥よりヒドイあなたよりマシです」
「どっちもどっちだな。結論![中等部のウマ娘は既に"うまぴょい"を知っているのが普通]でいいんだな」
「ええ、むしろ中等部で知らない子は・・・相当ピュアか、相当バカかですね」
そうか・・・トレーナーになってやりたかった事。
純真無垢なウマ娘に「ねぇトレーナー、うまぴょいって何の事?私に教えてくれる?」からの~"うまぴょい"の実現は難しいかもな・・・やっぱつれぇわ・・・。
「ピュアじゃなくてゴメンね。でも、うまぴょいするだけならきっと大丈夫だよ」
「あなたの願いを叶えてくれるウマ娘が二人います。中身に難ありですが」
自分で難ありって言うなよ。
俺の未来を案じてくれてる二人に感謝する、こんな子供に気を遣わせて情けねぇ。
クロシロも何年かしたら・・・いい男つかまえてイチャコラするのか・・・お幸せに!
「ありがとな。でも気遣い無用だぜ、自力でなんとか頑張ってみる」
「こっちがいいよって言ってるのに、変な所で真面目だね」
「悔しいですが今はまだ、子供にしか思われてないって事ですよねー。数年後はマジで覚悟してくださいね!」
途中で休憩を挟みつつ捜索する、気づけば夕方を過ぎあたりは暗くなり始めた。
そろそろだな・・・俺のスマホをシロに渡し、親にまず無事を伝える事、そして迎えに来てもらえと言う。
素直に従ったシロは少し離れて電話をかけ始める。
その間、クロは俺の手を握って少し寂しそうな顔をした。
サトノ家の迎えが来る事となった。
指定場所は俺の家から少し離れた波止場、スーツケースを回収して待ち合わせ場所に向かう。
大型クレーンや多数の貨物コンテナが積み重なって少し潮の匂いがする。
後ろ暗い連中が取引するような、いかにもな場所だった。
「結局見つからなかったな、力になれなくてすまない」
「そんなことありません。昨日も今日も十分、力になってくださいました」
「うん。昼間の行動も無駄じゃない・・・全てに意味はあるんだよ」
いよいよお別れの時が近づく・・・ああ、なんか凄く名残惜しい。
たった二日の付き合いなのに、本当に随分と絆されてしまったな。
何か言わないと・・・えーと・・・。
「なあ、最後に俺に何かして欲しい事はないか?もちろんできる範囲でだぞ」
「むしろ私たちがマサキさんに、何か恩返ししたいんだけど」
「お金も受け取ってもらえませんでしたし・・・本当にお人好しですね」
「いいから何かないか?もう本当に最後だぞ!俺がここまで言う事はたぶん二度とねぇぞ」
「そうだね・・・」
「そこまで言ってくださるのでしたら・・・」
クロシロがアイコンタクトして頷き合う。
あれ?この感じ・・・もしかして・・・俺、また早まった?
いや、二人とは今日でお別れだ、最後の思い出としてこいつらの希望は叶えてやりたい。
何をお願いされるのかな・・・最後に握手?それともハグかな、キスは・・・ねーよ!あってもほっぺにチューぐらいだろ。
よし!覚悟を決めたどんと来いやぁー!
「「マサキさん」」
来た!しかも二人同時発言・・・ラーミアの卵守ってる巫女さん、思い出すのは俺だけか?
「血が滴るほど強く・・・」
「傷跡が残るほど思い切り・・・」
この時俺はすっかり忘れていた、二人がただのウマ娘ではない事を・・・。
「「あなたの首筋を本気で噛ませてくれませんか?」」
俺ってほんとバカ・・・。