トレセン学園敷地の北東には旧校舎が建っている。
出入り口は物理的にも呪術的にも頑丈に施錠されており、教職員であろうとも許可が無ければ立ち入り禁止の場所だ。
学園改革の大規模工事においても解体を免れたようで、現在も時の流れから取り残されたかのように、ひっそりと
主要な建物から離れた位置にある旧校舎へわざわざ訪れるのは、一部のオカルトマニアと裏取引を行う不届き者ぐらいのものである。
旧校舎の内部が外界と隔絶された異界迷宮、
そんな所へ毎日のように出入りする奴らがいて、中で何をしていようが誰も気に止めない。
人目を避けて修練をしたい、訳アリ連中にとっては大変都合いい環境が整っている。
そんなこんなで、マサキとその愛バたちは放課後や空いた時間に旧校舎へ繰り出しては、修練と探索に勤しんでいるのであった。
もちろん、学園側の許可は取ってあるのであしからず。
在りし日の天級騎神も、ダンジョンを出入りして心身を鍛え抜いたという。
その息子たちが世代を超えてダンジョンを利用しているのは、果たして運命なのだろうか。
このダンジョンは元々最下層は地下30階までのはずだったが、マサキ達が探索を続ける内に新たな階層が出現した。
現在は地下60階まで探索完了している。この頃から、地上1階に転送陣が設置されるようになり、10階層ごとにワープできるようになっていた。クッソ便利!
入る度に構造が変化する迷宮、一定時間で復活する
誰が何の目的で造ったのかは不明だが、地下30階にあったクロスゲートの安置場所というだけではなさそうだ。
どこまで続くのか?真の最下層には何が待っているのか?
少しの不安とそれ以上の期待を胸に、操者と愛バたちは今日もダンジョン攻略に励んでいる。
〇
地下50階層の大広間。
空間に響き渡る轟音と衝撃の中、ウマ娘たちが戦闘を行っていた。
マサキの愛バ四人と50階層のボスエネミーが戦っているのだ。
敵はかなりの大型で見た目の威圧感もさることながら、攻撃の激しさと威力は十二分な危険性を主張している。常人ならば数秒待たずに命を散らしてもおかしくない状況。
だというのに、彼女たちには慌てた様子もなく会話をしながら余裕の戦闘を続けている。その身のこなしは驚くほど軽く大型エネミーの攻撃は一度たりとも彼女らに当たっていない。
「アル!そろそろ大技いってみようか」
「わかりました。必殺の一撃をお見せしてましょう」
「シロ!出力もっと安定させてったら」
「とっくにやってます!考え無しに突っ込むのが悪いんでしょ」
デバイスを装着したクロとアルが前に出て戦闘を行い、シロとココは指示を飛ばす傍ら器用に抱えた小型PCに何やら打ち込んでいる。
四人は今、新しく開発された試作型デバイスの実戦テストをしている真っ最中だった。
「ファンググリル開放、いけるよ!」
「イグニッション!」
アルの掛け声と共にデバイスのリミッターが解除される。
猛獣の口を連想させる両肩部と両腰部から炎にも似たエネルギー光が噴出した。
アルは左拳にエネルギーを集中させながらボスエネミーへと一直線に突貫する。
「行きます!バーニングブレイカー!!」
渾身の力を込めた正面からの一撃!気合と共にアルはただ真っ直ぐに拳を突き出す!
接触!そして破壊音!結果は御覧の通り、ボスエネミーの巨体に風穴が空いていた。
大きなダメージを負ったエネミーは崩れ落ち光となって霧散していく。討伐完了だ。
拳を振り抜いたアルは自身の勢いを巧みに制御しながら停止する。
「あら?」
「どうしたの?」
「腕が、動きません」
「見せて」
急な違和感が左手を襲う、攻撃に使用した拳から腕にかけての部位に力が入らない。
糸が切れたような感覚は数十秒、すぐに回復し、その後の動作には何も問題がなかった。
「恐らく必殺技の反動だよ。デバイスの一時停止と同時に腕まで動かなくなるなんて……欠陥品アリアリだなあ」
「問題はありますが、きっと、いいデバイスになりますよ。この子は」
「うん。今後に期待ってことで……よし、一通り済んだよ。向こうはどうなったかな~」
「何やら言い合いをしているみたいですが?」
「またぁ?いつもの事とはいえ、よく飽きないなあ」
テストを終えたアルとココは、クロとシロの方を見る。
終始和やかな空気で事を進めた自分たちと違い、向こうはずっとギスギスしっぱなしだ。
いつものことなので年長組は放っておくことに決めた。
「アル姉たちに先を越された!なんだよもう!」
「ちょっと、こっちのテストはまだ終わっていません。次の武装を試してください」
「もう敵がいないのに?やる気出ない~」
「いいからサッサとやれ!わがままが過ぎると、マサキさんに嫌われますよ」
「う、それは嫌だ。えー、次はマシンガンポッド??」
「はい、ポッドアウトしますよ」
デバイスの使い方をよくわかっていないクロを待たず、シロはPCからの遠隔操作で武装を起動させる。
クロの背部から四つ物体が躍り出た。それは二門の砲塔が付いた楕円形をしてる。なるほど、名前の通りマシンガンポッドだ。
四つのポッドは自らの推進機構により、クロの周囲を飛びながら旋回している。
射出元のクロが動けば、それに追従するような動きをするポッドたち。
「ターゲットへの攻撃は、ある程度自動化されているようです‥‥‥使用感はどうです?」
「なんで
クロの背から伸びる四本のケーブルはポッドへと繋がっている。
どうやらそれがお気に召さないらしい。
「クロの空間認識能力でファンネルは100年早い!インコムに改修してやっただけでもありがたく思え!」
「私は
「あんたはどう考えても
獲物を前にした時の顔芸が蜂楽そっくりなんですよクロは。
ボスエネミーはアル姉さんが駆除したが、ザコはまだ何体か残っている。試し撃ちにはあれで十分だろう。
「ほらほら、的に向かって射撃するんですよ。隙あらばソードとレールガンの方も試してください」
「待って!このデバイス、私と適性があってないよ。相性悪すぎ」
「あのねぇ、私がテストする予定だったものを、駄々をこねる誰かさんに譲ってあげたの覚えてますか?」
「うー」
「うーうー言ってもダメです。やるといったからには最後までやれ」
今クロが装着しているデバイス"サーベラス"は射撃戦仕様。近接戦闘特化のクロには厳しい装備だろう。
テスターをやりたいと言ったのはクロ自身なので最後まで責任もってやってもらう、データ入力とかはどうせ無理だろうし。
「頑張れー頑張ったら多分マサキさんが褒めてくれるぞー」
「よーし、やってやる!ポッドちゃんたち、敵はあそこだ!撃て撃てー」
チョロいクロにやる気を出させてテスト継続する。
そうそう、そんな感じでポッドのコントロールを‥‥‥おい、何やってんの。
「か、
「バカヤロウはお前だ!!あーもう、ココ!アル姉さん!クロがセルフ緊縛状態になったんでヘルプです!」
マシンガンポッドより先行して動き過ぎたのか、有線が絡まるアクシデント発生。このバカチンが!
ポッドのコントロールも下手くそだ。クロには最初から最後までポッド任せのフルオートのがよかったみたいだ。
三人でアホを救出した。手間かけさせやがって。
「リードが絡まって困ってる、ワンちゃんみたいだったね」
「犬になるのは愛する操者の前だけ、忠犬クロ爆誕!」
「こんなバカ犬、仏のマサキさんでも保健所送りにしますよ」
「マサキさんはそんな酷いことしない!毎日ドッグランに連れてってくれるし、毎食高級ドッグフードだもん!」
「クロちゃんの脳内にあふれ出す存在しない記憶w」
「このバカ、一瞬で犬の記憶を捏造しやがった。怖ぇよ!」
「クロさんはいい子ですから、マサキさんは捨てたりなんかしませんよ」
「だよね~。アル姉わかってる~」
「アル姉さんはまたそうやって甘やかす。ちゃんと躾ないと後悔しますよ」
駄犬がテスターでは碌なデータが取れない、次で最後にしよう。もうちゃっちゃと終わらせよう。
「TEアブゾーブ、スタート!バイパス解放」
「え!私まだ了解してないよ」
「黙って前を向いていなさい。バレル、セット!展開!」
「んぎゃ!?頭に何かが、前が見えねぇ!」
「慌てない、すぐにカメラが起動します」
バックパックに背負われていたデバイスのパーツが形を変える。
各種センサー類と長い砲身が、戸惑うクロの頭にスッポリと被さった。
肩に担ぐのではなく頭部に発射台を設置するとか、中々面白い設計だ。
アル姉さんとココも「おお!」と感嘆の声を上げた。
「特徴的な変形機構ですね」
「あれ、頭からブッぱする気なの?変なの」
サトノ家とファイン家の技術部が試行錯誤で共同開発した結果がコレです。もう遊んでいるとしか思えない。
新型の開発にはどこも躍起になっているが、TEアブゾーバーとか挑戦的過ぎです!
下手に予算を与えたのが間違いだった。けど、こういうの嫌いじゃないです。
「ターゲット、ロック!セイフティ解除!」
「こっちで操作できないんだけど!勝手に進めないでよ。あれ?なんだか頭の上が温かくなって」
砲身が割れ発射口が現れる。その中心へ眩い金色のエネルギーがどんどん集まっていく。大気中のターミナスエナジーが収束している証拠だ。
ちょっと足りないか、不足分は無駄に元気な装着者の覇気で補うように設定しておこう。これでいい!
「チャージ完了!クロ、しっかり踏ん張っていなさい!」
「待って待って、私の準備何も完了してないよ!あー覇気持ってかれてるー!頭があっちぃぃーーー!」
後はザコエネミーに向けて撃つだけだ。アル姉さんとココも「やーっておしまい!」とキラキラした目線をくれている。
よーし!やっちゃうぞー!エンターキーを押しながら叫んじゃうぞー。
「ターミナスキャノン!ディスチャージ!!」
「ぎょえぇぇぇ!?」
変な声を上げるクロの頭部砲身から眩い熱線が発射される。光の帯は的のザコエネミーを跡形もなく消し飛ばした。
威力はまあまあですね。チャージタイムとかを加味すると‥‥‥うーん、まだ改良の余地があり。
「おお!凄い!このビーム、私が撃ってるんだよね!カッコイイーー!」
余裕が出て来たのか、クロが興奮した声を上げる。
んん?なんか長くない?いつまで発射しているのです?
「クロ、もういいですよ。テストを終了してください」
「今いい所なんだから、もうちょっと撃たせてよ」
「ダメです。早く終了してください」
「砲身が焼き切れるまで撃ち続けてやる!!」
何を考えているのですか!砲身が焼き切れたら、アンタの頭も焦げますよ?
調子に乗っていると良くないことが起きるのですから、やめてくださいよ。
それにしても、威力が減衰しないな?クロの覇気が多過ぎたかも。
仕方ない、こっちで強制終了するか‥‥
「ちょっ!傾いてる!傾いてますよクロ!!」
「あれ、あれれ?踏ん張りがきかな…ごめ!うわたぁっ!!」
「バカ!バランスは維持しろ、おおぉ!?こ、こっちはダメですってば!」
「無理~!!!」
クロがターミナスキャノンを発射を継続したままバランスを崩した。安定性を失った頭上の砲身が傾き照準が大きくずれる。
熱線がダンジョンの壁を床を天井を焼き、更にはその反動でぐるり回転したクロの体が私たちのいる方向へ!?
あ、これはヤバい‥‥‥どうしよう、オルゴンテイルの
オルゴンクラウドの障壁で防ぐ?でも、アル姉さんとココは?彼女たちまで包める程の壁をすぐに用意することなんて‥‥‥え?
刹那の時間、スローモーションで流れる世界で私は見た。
思考中で固まる私を庇うようにココが抱き着いて来て、アル姉が楯になる形で私たちの前に立ち塞がる‥‥‥は?二人ともバカですか?
この中で最も頑丈な私を何故庇う?オルゴンアーツ初心者で壁も
その顔、その目、ムカつく!『大丈夫、私たちが守ってあげる』だと?
こんな所で急な姉ムーブかまされても正直困るんですよ。二人だけならギリギリ回避出来たのに、お節介ですよ。
ああもう、仕方ない。全員を包むようにオルゴンクラウドを展開する!間に合うかどうかは知らん!
三人で仲良く熱戦を浴びればいいんでしょ。はいはい、焼きサトイモの完成ですよ~。
「「「《b》ぎゃぼぇぉぉぉーーーー!!!《/b》」」」
爆発オチなんてサイテー!!悲鳴が可愛くないけど許してね!!
●
無事とは行かなかったが、試作デバイスのテストは何とか終了した。
「ガルムレイド、重量に反して武装も装甲も物足りない感じがします。燃費も良いとは言い難いです」
「そうなると。追加装甲にバリア、射撃武装も欲しいところですね」
「サーポートメカをお供に付けるのはどうかな?犬…じゃなくて狼!狼型の自立行動メカが一緒に戦ってくれるの」
「今のひらめきはナイスです!そうか、強化パーツ自体が単体で動き、状況に合わせて合体分離すれば‥‥‥」ブツブツ
「鳥型のメカもお願いします。空中からの支援射撃はありがたいですよ」
「それもいただきます。二人ともよいアイデアを出してくれて助かりますよ」
「ねえ、耳と尻尾焦げてるけど大丈夫?ねえってば」(´・ω・`)
爆破オチを経験した我々三人のディスカッションはとても有意義です。
三人の耳と尻尾の毛が多少焦げていも問題ありません。元凶は黙って正座してろ!!
「サーベラスは……とりあえず、頭部キャノンは廃止する方向で!」
「「異議なし!!」」
「やっぱり
「‥‥‥ちっ」
「もうね、近接特化に調整しちゃうのもアリだよね」
「キャノンの完全撤廃は勿体ないです。やけくそで砲の数を増やしてみるとか」
「サーベラスだけに三つ首の三連撃ができたら、最高に熱いです」
「おーい。無視しないで~、足が痺れて来たから許してよ~」(´;ω;`)
今回のテストで得られたデータと装着者の感想。それと、思いつく限りの改修案を盛り込んだ資料をまとめて技術部に送っておこう。
これにて任務完了。あー、終わった終わった。
さてと、事故とはいえ壮大なフレンドリーファイアをかましてくれた、このアホの処罰はどうしてくれよう。
「反省しましたか?」
「した!すっごく反省した!ごめんなさい!」
「何が悪かったか、わかってます?」
「適正の合わないデバイスを無理に装着して迷惑をかけました!その結果、踏ん張りきれずに仲間を誤射してしまいました!」
強制的にデバイスを解除されたクロは、私たちに怒られて正座中の身だ。
その首には大きな文字で『私は悪いことをしました』と書かれたプラカードが下がっている。
なんとも情けない姿だが同情はしない。
もし、誤射したのが一般人だった場合には謝った程度で許されないのだから。
私たちのミスが学園の、ひいては操者であるマサキさんの責任問題になってしまうことを肝に銘じておかないと。
「シロが勝手にキャノンして頭が熱くてテンパったんだよ……」
こっちに責任を被せようとしてきた
素直に反省できない悪い子には躾が必要なようですね。
「マサキさんに叱ってもらいましょう」
「え!やだ、それはやめてよ!」
「あーあ、お風呂も添い寝もブラッシングも当分お預けになるね」
「罰として、なでなでもハグも禁止されますよ」
「やだやだやだ!そんなことになったら病む!一日8時間しか眠れなくなって病むーーー!」
十分な睡眠時間確保してるじゃねーか。
泣きわめくクロを見ても私は何も思わないが、年長組の二人は憐れんで折れてしまう。
甘い!甘いですよ二人とも!
「かわいそうになって来た」
「シロさん。そろそろ許してあげては?」
「あーくそっ!わかりました。許します!許せばいいんでしょ」
「あ、ありがとう。本当にごめんなさい~」
「泣かない泣かない。クロちゃんはもう私たちを撃ったりしないよねー」
「うん。撃つならシロだけにする」(´Д⊂グスン
「おい!!」
いざという時に備え、オルゴンテイルを瞬時に展開できるようにもならないといけない。頑張ろう。
これで50階層エネミーは全滅させた。次の復活まではしばらく時間が必要だろう。
PCとデバイスをしまい、軽く伸びをすることで固まった筋肉のこりを解す。
ココから受け取った飲み物で水分補給‥‥‥ラーメン水とは何ぞや?
我慢すれば飲めるけどさあ、これ喉が余計に乾きます!
「マサキ、ちょっと遅いね」
「職員会議が長引いているでしょうか?心配ですね」
ここで待っているより、地上に戻ってお迎えに行った方がいいのかな?
「クロはどう思います?クロ?」
「がるるるるるー」
私の問いに応えない、クロは上への階段を睨みつけ犬のように唸っている。
敵を見つけた?嗅覚に優れたクロに遅れて、私の索敵にも反応あり!
旧校舎へ訪れる人物は限られている。ましてや、ここは50階層だ。単身でここまで下りて来たのなら相手は相当の手練れである。
悠然とした足取りで階段を下りて来たのは見知った女性であった、彼女はレディーススーツの上に職員用の上着を羽織った格好だ。その片手には訓練用の木刀が握られている。
その人物こそ、全校生徒たちが鬼だの悪魔だのと恐れる学園最強の騎神。
理事長秘書にしてその愛バ、教職員のリーダー的存在にして生徒指導教官。
そして、私たちの操者である、マサキさんの実姉!!
「「「「ぎゃー!たづなさん!」」」」
「はい、どうも。ぎゃーって何よ?相変わらず失礼ね」
「出たな小姑!!」と言ってしまうと一刀両断されてしまうので我慢します!
軽く手を挙げて応えるたづなさんは、気だるい感じを隠そうともせずに近づいて来た。
「なんか焦げ臭くない?」
「焦げたのです。このバカがやらかして焦げたのです」
「えへへ」
「何があったか知らないけど、全員無事ならいいわ。ここのボスは?」
「片付けは終わってる。たづなさんの出番はないよ」
「ふーん。やるじゃない」
教職員なので一応、私たちにケガが無いかは心配してくれたようだ。
たづなさんも無傷で何よりです。
ちょっとお顔に疲れが見えている気がするのですが、何かあったのでしょうか?
「どうしてこちらへ?マサキさんは」
「会議が長引いちゃってるのよ。私は飽きたから一足先に抜けて来たわ」
「サボってんじゃん」
「もう、めんどくさいのよ~。
「うわ、マサキさん大丈夫かな」
「他人事みたいに、あんたたちが学園でイチャコラするから風紀がどうのこうのと‥‥‥はぁ~」
桐生院……あの女、マジで厄介になって来たな。
マサキさんが赴任して来る前からウザかったけど。まだ私たちを諦めてないのか?
そのせいで、マサキさんにご迷惑をおかけするとは。そいつはめちゃ許せんよなあ!!
「焼く?」
「埋めますか?」
「海に沈めるに一票!」
「動物や虫に食わせる手もアリです」
「こいつら、もう死体の処理方法を相談し始めたわ。桐生院教官の処刑は決定事項なのね」
操者を害する者は速やかに処理する、愛バとして至極当然のことですが、何か?
「気持ちはわかるけど止めておきなさい。あんたたちが事件を起こしたら、マサキが管理責任を問われることになるのよ」
「わかってますよ。でも、脳内で
「それ私もよくやってるw」
「ともかく!勝手な判断で操者に迷惑かけんじゃないわよ」
「「「「うへぁーっス」」」」
「何その返事?了解したのそれとも拒否したの!?ちゃんと『はい』と言いなさいよ」
「私だって我慢してんのよ」と言いながらため息をつくたづなさん。
ブラコンの姉が我慢しているから、私たちにもそうしろとのお達しです。
桐生院には非常に腹が立ちますが、マサキさんに迷惑をかけるのは我々の本意ではないので堪えることにします。
この中の誰かがマジギレする前に大人しくなってもらいたいです。
さて、たづなさんの用件は私たちに釘を刺すことだけでしょうか?
終わったのなら早くお帰りください。
「じゃあ始めるわよ」
たづなさんは手にしていた木刀の切っ先を私たちに向ける。
「来なさい、稽古をつけてあげるわ」
‥‥‥嫌ですけど。
「帰りにゲーセン寄っていいですか?」
「いいけど、やりすぎないでよ。景品の乱獲でまた出禁になってもしらないから」
「夕飯のお買い物をしないと。えーと、今日の特売品は何かしら」ゴソゴソ
「そのチラシ見せて、あ、このカップ麺は箱買いだよ」
愛バ4人の気持ちは一つになった。逃げる一択です。
マサキさんも来られないようですし、帰りましょう~。
なんか怖い人が睨んでますけど、気にせず帰りましょう。
「あら残念。私に『参った』と言わせることができたら、コレをあげたのに」
上着の懐から何かを取り出すたづなさん。クーポン券?
はっ!そ、それは!
「福引で当てた"温泉旅館ペア宿泊券"よ。要らないなら、私がマサキと行って来るわね。楽しみだわ~」
「「「「待ってください!!」」」」
「何よ?姉弟水入らずの旅行を邪魔しないでくれる」
階段へ
温泉旅館、それは強い絆で結ばれた人をウマ娘が辿り着く最果ての楽園。
ここにペアで泊まるということは、つまり‥‥‥
『私たち付き合ってますけど?何なら結婚秒読みですけど!』と公然に宣言すると同義!!
ウマ娘恋愛指南書にも書いてある『温泉旅館にゴールしたら勝ち確定!!』だと。
い、行きたい!マサキさんと温泉旅館、是が非でも行きたい!!
「目の色変えちゃって、やる気になったよう‥‥‥っ!いきなりかい!!」
即行でバスカーモードに入る!構える間も与えずに全員で一斉に襲い掛かる。
危険な餌をチラつかせた、たづなさんが悪いのですよ。
「勝負して頂きます!」
「そのチケットを寄越せぇ―――!!」
「温泉温泉温泉!マサキさんと温泉でうへへへ、うへへへへっへ」
「皆わかってるのかな。たづなさん倒した後に私たちの争奪戦が始まるってこと」
そんなことはわかっとるわい!
だが、まずは一番厄介な小姑を全員で倒すのですよ!
こうしてたづなさんとの稽古という名の戦いが始まったのです。
●
木刀を振るいマサキの愛バたちを退ける。
これで三人目、敗者たちは情けなく床に倒れ伏して‥何故か三人のアホが積み上がっていた。
「ま、参りました」
「無理、コレ無理~」
「し、尻がぁ、お尻が痛いよーーー!」」
目を回すアルダンを下敷きにして、キタとダイヤが重なるように倒れている。
キタは強打された頭を抱え、ダイヤは力いっぱいぶたれた尻を擦りながら悶絶している。
「酷いよたづなさん!アルとクロちゃんはともかく、シロちゃんのお尻に木刀ケツバット連打するなんて!」
まだ立っているファインが抗議の声を上げる。
「あの触手、尻をぶっ叩いたら消えないかな~と思って」
「尻がぁぁぁぁぁ、割れた絶対割れた三つ?四つ?五つに割れたぁ!」
やかましい叫び声を出し、尻を押さえているウマ娘がいる。
アレがサトノ家の至宝と言われた次期頭首?マサキはどうしてこんなアホを好きになったのかしら?
「あなたが最後の一人だけど、どうする?降参してもいいけど」
「勝ち目は薄いけど、まだやれるよ。ここからは私もコレを使ってみるね」
「木刀?」
「そう、ただの木刀」
いつの間にか、ファインが木刀を握っている。
へぇ、この私と剣で勝負しようっての?その意気やよし!
ファインは得物の感触を確かめるように木刀をブンブンと振って見せる。
その動きは全くと言っていいほど褒められたものではない。
(何アレ?ド素人もいいところじゃないの)
玩具の剣を与えられた子供がはしゃいでいるようにしか見えない。
一体何がしたいのかサッパリわからない。
ふと、ファインの持つ木刀の柄に彫られた『○○映画村』という文字が見て取れた。
修学旅行でイキった中学生のお土産か!!
ふざけている、本当にふざけているが、マサキの愛バたちの戦闘力は本物だ。
今、床で伸びている三人も斬艦刀を持って来なかったのを後悔するぐらいには強かった。
呼吸を整え、顔には出さないようにしているけど思ったよりも消耗させられてしまっている。
(これでマサキから『力を抑えるように』と命令されているのよね)
バカだけど、並大抵の騎神では相手にすらならないだろう。バカだけど。
「うん大体わかった。準備おっけー」
ファインの準備が整ったようだ。適当に木刀を振っていたのが準備ねえ。
「改めて、よろしくお願いします」
「ええ、よろしくお願いするわ」
互いに一礼して向かい合う。
私は中断に構えたが、ファインは特に構えることもせず木刀はだらんと横に下げたままだ。
それでどうする?
何かあるなら、弟の愛バを名乗る気があるなら、それを証明してみせなさい。
(でないと、こっちが一気に決め…っっ!??)
ファインは一歩、二歩、と進んでからの三歩目の足運びで急激な加速を行った。
床が砕けるような踏み込みと、そこから生まれる速度による高速の突きを放って来たのだ。
眉間狙い、こちらを一撃で仕留めるための技。
辛くも
それが無ければ、今ので終わっていた。私が秒殺されたという結果を持って‥‥
想定していない訳ではなかった、ここまで倒した三人も、気を抜けば即座にやられるような技を幾度も繰り出して来たから、彼女も何かやって来るだろうと思っていたはずだった。
(だけど油断した)
あの安っぽい木刀と素人丸出しの振りを見て『こいつにやられるわけがない』と剣の道を歩んだ私は油断した!油断させられた!
「あれ?上手くいかないなあ。一回しか出せなかった」
まさか、三段突きを再現しようとしたの?
首を傾げながら呟くファイン、私の木刀と打ち合いながら『こう?こんな感じ?』と誰かに向かってブツブツ言っている。不気味だ。
「っ!なめないで」
前に出る!ちょっと本気出す!一瞬でも驚愕させられたのがムカつく!
「わわっ、ちょ!いぃ!?」
攻めに転じた私の剣を受けきるのが精一杯のファイン、冷汗を垂らしながら必死で木刀を振い防戦する。
受けきっている?そう、それがおかしいのよ。
さっきまでは完全に素人だったのに、それがなぜ?
(私と対等に切り結べるなんて、ね)
圧倒的な実力差があるならば勝負は既に終わっている。
だが、両者は未だ健在。それどころか‥‥‥
(気のせいじゃない。この子、だんだん上手く強くなってる)
信じられない急成長"イキり中学生"が"それなりの侍"にジョブチェンジした?何が起こっている?
わからない、わからないけど、この子は面白い!!
「師匠は誰?」
「この木刀かな」
「真面目に答えなさいよ」
「真面目に答えたんだけどなあ」
最早、剣豪の域に達した剣技を繰り出すファイン、防戦一方だったのが私を追い込むための動きに変わる。
うーん、稽古なのが実に惜しい、真剣で斬り合ったらさぞ楽しいことだろう。
口の端が笑みの形につり上がるの感じる。いけない、剣同士で戦うのが久しぶりでセイバーの血が騒いじゃったわ。
これは稽古なんだから自分の楽しみを優先させてはダメだ。この子の特性を見極めて伸ばしてやらないとね。
師匠も私を指導するに当たって、いろいろ考えてくれていたのだろうか?自分で言うのもアレだが、私はかなりの問題児だったから苦労させたと思う。
そういえば最近、連絡をとっていない。ボケていなければいいが。
「ココさん、凄いです。やればできるウマだったのですね」
「時代劇好きの私にはわかる。これはよき
「どうか仇を、私の尻の仇をとってください!やっちまえーーー!」
復活した外野がうるさい。
しこたまボコってやったのに、驚異的な回復スピードだこと。
木刀での攻防は続く。
剣の腕はこんなもんか。やるわね、本当に凄く上手く使えていると思う。
でも、私には届かない。だって、この子には剣士として戦った経験値が全く足りていないから!
(何らかの能力によって、一時的に剣の腕を上げたって感じね)
付け焼き刃にしては上等だけど、それでいつまで持つのかしら?
「これはどう」
「きっっつい!」
力を入れた横薙ぎを叩きつける。受け止めたファインは後退を余儀なくされる。
パワー勝負になってしまえばこちらが有利だ。
しっかり覇気を込めていないと木刀自体が砕けちってしまう。そんな一撃を連続で繰り出していく。
ファインの握る木刀が
「まだだよ!」
嘘っ、右からの攻撃!?
この子は確か左手に木刀を持っていたはず‥‥‥持っているわね、両手に!?
相手は何故か二刀流になってる!
もう一本はどこから?外野の連中が投げて寄越したのか?それとも、この部屋の何処かに隠していた?
何をしたにしても、それは私が見逃す程の一瞬で行われた。妙な手品を使えるようね。
「二刀流、ロマンですよね。巌流島の決闘みたいです」
「宮本武蔵ってさあ、不意打ち騙し討ちのプロだったんだよ。正々堂々と勝負した方が少ないの」
「三刀流!三刀流をやってください!刀を口に咥えるんですよ」
外野が好き勝手にコメントしている。三刀流は真似したらダメ!アレはゾロがやるからカッコイイの。
即席の二刀流にしては鋭い太刀筋を見舞って来るファインの動きは更に速くなる。
その全てに対応してみせるたづなの腕も大したものだ。
両者の距離がやや開いた時にファインは不可思議な行動をとる。
両手の木刀をたづなに向けて投げつけたのだ。
「そぉーれっ」
「武器を捨てる?勝負も捨てたってこと」
回転しながら弧を描いて飛ぶ二刀を弾き、前に出るたづな。
手ぶらで無防備なところに一撃を食らわせてチェックメイトだ!
ガキンッと硬質な音が響く。覇気を込めた木刀同士がぶつかり木製の得物から金属音に似た響きが生まれたのだ。
「ふぃー、間に合ったあ」
「だから…何でまた」
「あはw今イラッとしたでしょww」(*´▽`*)
「ええ、その通りよ!!」(゚Д゚)ノ
弾いた二刀が床に転がっているのを確認。ファインが新たな二刀を持って戦闘を続行しているのも確認。
今度はちゃんと見たぞ。私の目はバッチリと手品を目撃した。
何もない空間から木刀を引き抜く瞬間を見たぞ!!
この子は隠していた、いや、最初から持っていた。
見えない収納スペースを最初から持っていた!!
「アイテムボックスか!」
「私は
アイテムボックス、四次元ポケット、
本人にしか知覚できない空間に物品を入れ保管し持ち歩くことができる、超便利能力が存在する。
目の前の相手はその力を持っており、見事に使いこなしている。
(
覇気をより高度かつ柔軟に使用する者が起こす超常現象、それがスキル!
身体能力を向上させ自然治癒力をあげる基本的なものに始まり、対象から姿を隠す『隠形術』、離れた場所に移動できる『転移術』、覇気を使った歩法による『超加速(加速技)』、自己や他者の傷を治す『
その中でも特に希少なものがレアスキル。
扱える者自体が少ない上にどれも強力無比であり、一つ持っているだけでも羨望と嫉妬の対象だ。
天級騎神やそこのドスケベが使う『属性覇気』
マサキやアホの愛バどもが使う『
マサキが使う『エナジードレイン』
マサキがよくやる『どんな相手にも会わせてリンク可能な特質』
マサキが生み出す『無尽蔵とも思える桁違いの超出力覇気』
マサキが………
やだ!私の弟、レアスキル持ち過ぎぃ!
さすが私の弟!もう存在がウルトラシークレットレアよ。
これは、お姉ちゃんが大切に保護しないと!
「マサキの保護もお世話も、私の仕事だから安心してね♪」
「だったら、弟を任せられるぐらいの強さを証明してみなさい!」
「うわっ!」
ファインの持つ二振りの木刀を砕く。
破片が飛び散る最中、残った柄から手を離したファイン。
直後、手元付近の空間に発生する歪み。そこから新たな武器が現れる。
一秒の半分にも満たない時で新たな木刀が両手にセットされる。
5、6本目が出て来た。
(何本持っているのよ)
「ボックスの容量はどの位?」
「あはは、教える訳ないよ」
「でしょう、ね!」
「あー、手が痺れて来たぁ」
メジロ家の教導隊にいた頃、私はボックス持ちに会ったことがある。
私より2、3年上だったが可愛らしい感じの雰囲気を纏った、女性隊員の部下だった。
彼女は戦闘は不得手だったが、情報分析能力に優れており、作ってくれるご飯も大変美味しかった。
ある日、上層部のバカが作戦のミスをやらかした。そのせいで、私の部隊が敵地に取り残される事態が起こった。
絶望的な状況で焦燥していく隊員たちをよそに、彼女は戦場のど真ん中で『アイス食べます?』と笑いながら言って、雪見だいふくを渡して来たのだ。
『全員分持ってますから、遠慮せずに食べてください』そう言ってアイスを配る彼女によって皆の緊張が解れ冷静になれたのだ。マジで頭が冷えた。
アイスは溶けておらずしっかり冷えていた、味わって食べた、美味すぎて泣いた。
敵の攻撃で一個落とした、三秒ルールなので拾って食べた、ムカついたので敵は皆殺しにした。
あの時の私はアイスで回復し、部隊のみんなと無事に生きて帰れたのだ。
基地に帰還した後、アイスを何処にしまっていたのか聞いてみた。
彼女は『私、これでメジロ家入りしたんです』と一芸入隊だった事を教えてくた。
その後、空中から菓子パンを出し入れする瞬間をじっくり見せてくれた。主に食べ物を入れているらしい。
いいなぁ、不思議だなぁ、便利だなぁと思ったことを覚えている。
アイテムボックスを使える者はメジロ家の部隊員でも僅か数人ほどだった。
その容量は人それぞれ、一番優れているとされた彼女でもボストンバッグ程度のものだったはず。
だったら、この子は何?
木刀を数本収納している時点て大分おかしいのだけど。縦長の箱、衣装ケース位かしら?
取り出す時間も異様に早い、よく目を凝らしてないとわからない早さだ。
私の知っている彼女は『うんしょ、よいしょ』言いながら数十秒まさぐって、ようやく一品出して来たのに。
「10本目っ!」
思い出と思考に浸りながらも戦闘は続いていた。今、10本目の木刀を破壊したところだ。
「まだあるよ~。たづなさん、いい加減、疲れて来たんじゃない?」
「それはあなたの方でしょ?腕、プルプルしてるわよ」
「わかってるなら空気読んで勝ちを譲ってちょーだいな、マサキと温泉行きたいの!」
「絶対嫌」
「クソ
「死なす」
「死なないよ、生き残って姉の所業をマサキに訴えてやる!『愛バをいじめる姉さんは嫌いだ』って言われちゃえ!」
「それは、マジでやめて」
余計な事を言えば本当にその口を塞ぐわよ?
11本目と12本目の木刀を出して来た。持ちすぎ!というか、映画村で木刀買い過ぎ!通販でも多いわよ!
まさか、
考えるな、相手が嫌になるまで全部壊してやればいい。という訳で武器破壊に徹してみることにする。
「飽きた」
「飽きました」
「長いですね。小腹が空いてしまいます」
外野連中は寝転がってヤジを飛ばすのにも飽きてしまったようだ。ウゼー!
「ねえココ、何かお菓子持ってないのーー!!」
「今、必死に戦っている私にかける言葉がそれかぁぁ!?」
「アレは持ってますね。何でもいいから投げてください」
「もう、うるさーい!コレでも食ってろ!」
ファインがボックスから取り出した何かをアホどもに投げつけた。
致命的な隙が生まれたが、かわいそうなので目を瞑ってやる。
キャッチした物を見るアホどもの顔が曇っていく。
「‥‥‥サバ缶」
「ガッカリです」
「タンパク質にDHAとEPAも豊富なんですよ。お料理にもいろりろ使えます」
文句を言ってる割には食べ始めるアホども。手づかみ!?行儀悪い!!
一番ガッカリしていた奴は汁までしっかり飲み干していた。
食べたら食べたでこちらに背を向け寝転がるアホどもはサッサと寝る体勢に入ってしまった。
ファインを応援する気は毛頭ないようだ。
「いい仲間ねw」
「嫌味か貴様!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
木刀の残骸で山ができ始めた頃、勝敗は決した。
「はぁ…はぁ…まだやれ‥‥‥ん?」
ファインの動きが止まる。手で何かを掴もうとして、諦めた。
「在庫切れだ‥‥‥降参します」
ペコリと頭を下げ、アッサリ負けを認める。
「いいの?他の武器は?」
「木刀で勝負するって決めていたから、全部壊された時点で私の負け」
「そう、じゃあお終いってことで」
「ご指導ありがとうございました」
「はいはい」
浮かんだ汗を拭い「疲れたもぉぉん~」と叫びながら寝ている愛バの群れに突撃ダイブするファイン。
「ぐぇぇ」と潰されたアホの声が聞こえるが、楽しそうなので放っておく。
マサキを取り合ってケンカばかりの関係かと思ったけど、仲いいんじゃない。
ひび割れた自身の木刀を見る。
訓練用とはいえ、使い手の覇気に耐えうる処理が施された特注の木刀が壊れかけている。
私自身の覇気とファインとの度重なる打ち合いで限界間地かだったのだろう。降参してくれたのは正直ありがたかった。
(あの子は何の処理もされていない、お土産品で対抗したってのにね)
あの安っぽい木刀が壊れないギリギリの覇気を微調整しながらずっと戦っていた。そのことに戦慄を覚える。
どれほど技量だというのか、それともそういうスキルなのか?
木刀の在庫が切れたと言ったが、他の品が無いとは言っていない。
木片の残骸を見る。ざっと50本はあ破壊したはずだ‥‥教えてはくれなかったが、バカでかい容量を持っているはわかった。
「なるほど、それで庫か」
箱ではない庫だ。
あのウマ娘は手ぶらに見えて、常に大量の物品を運んでいる。
その中に収めているは果たして刀剣類だけだろうか?どちらにしろ、厄介な相手だと思う。
「温泉旅館がぁ~マサキさんとの素敵な一夜がぁ~」
「残念無念!でもでも、いつか絶対行くんだ!」
「そうですとも。宿泊券なんて必要ありません、自腹で行けばいいんですよ!」
「今の内からいいお宿を見つけておかなくっちゃ。検索検索」
あらあら、キャッハウフフしちゃって、若いわね~。
こういうことを思ってる時点で、私も年を取ったと感じる。ショック!
「ちょっといいかしら」
「宿泊券を譲ってくれる気になったの?」
「それはない。ファイン、あなた真面目に剣を学ぶつもりはある?」
「うーん。今は考えてないかな」
「そう、一応これを渡しておくわ」
ファインに紙の手書きのメモを渡す。
彼女は困惑しながらも受け取ってくれた。
「住所と電話番号?誰の?」
「私に剣を教えてくれた師匠の連絡先よ。どうせ暇しているだろうから、気が向いたら連絡してあげて」
「気が向かなかったら?」
「そのメモは破り捨ててくれていいわ?どうするかは任せる」
「たづなさんの師匠?どんな方なのでしょう」
「リシュウって名前のジジイよ」
「リシュウ…リシュウ・トウゴウのことですか!!」
アホが食いついて来た。確かに私の師匠はリシュウ・トウゴウと言うハッスルジジイだが。
「知っているのかシロ?」
「"剣聖"リシュウ・トウゴウを知らない方がどうかしてますよ!
よかったわねジジイ。サトノのお嬢様がファンですって。
「あー、思い出した。シロの部屋に飾ってある刀を作った人だ」
「シシオウのレプリカですけどね。観賞用として5歳の誕生日に父におねだりした宝物ですよ」
「まあ!5歳で観賞用の刀を?シロさんは芸術にも
「波紋がとにかく美しいのが特徴で、柄の飾りもすごく凝ってまして」
アホが語り出した。5歳で刀ってヤバ…‥‥あれ?私も確かそれぐらいから振っていたような。
このアホと違って、私の刀は実戦用で何度もぶっ壊したけどね。
「気が向いたらでいいから、ホント無理しないでいいから、ただのジジイだから!」
「そんなに言われたら気になるよ!剣聖と呼ばれるお爺様ねえ。まあ、行けたら行ってみるよ」
「それ、絶対行かないやつww」
職員会議は予想以上に長引いたようで、結局マサキが旧校舎に現れることはなかった。
たづなは愛バたちと連れ立って地上に戻ることにする。
転送陣を使えば1階まであっという間なのだが、修練を兼ねてザコを蹴散らしながら戻ることにした。
たづなはザコの掃討には手を出さない。
元気が有り余っている愛バの背中を見ながら、今日の稽古で解ったことを思案する。
メジロアルダン 【不安定なパワーゴリラ】
キタサンブラック 【威勢だけはいい戦闘狂】
サトノダイヤモンド 【変なの】
ファインモーション 【"庫" と"技量を上げる謎スキル"持ち】
大分端折ったが総評としてはこんな感じだ。
(全員まだ何か隠している。今はよくわからないわね)
アホでも変でも、強いなら何でもいい。
弟を守ってくれる存在は大いに越したことはない。
「強くなりなさいよ」
声をかけるつもりはなかったが、呟きは愛バたち全員の耳に届いた。
「どうした急に?」
「あんたたちにはマサキを死んでも守ってもらう必要がある。剣となり楯となり、その命が尽きるまで操者の敵を滅ぼし続けるの。それができないなら、今すぐ愛バをやめなさい」
思いを込めた覇気を愛バたちへと飛ばす。
幸い、目を逸らすようなヘタレはいなかった。それどころがガンを飛ばし返してくる。
「今更すぎてウケるw」
「覚悟はとっくにできております」
「当然のことをドヤ顔で言われてもねぇ」
「マサキさんは私たちの命です。命を守るためなら、どんな無茶無理無謀もやってのけますよ?」
いい顔、そしていい答えだ。
「ほんのちょっぴりだけど、認めてあげるわ」
「「「「ちょっぴりですかい!!」」」」
根拠はないが、この愛バたちならきっと大丈夫だと思う。
でも、まだ弟を盗られるのは嫌なんだよなあ~。
やれやれ、娘の結婚を反対する頑固おやじの気持ちがわかったわ。
そうだ、温泉旅館宿泊券は師匠にプレゼントしよう。
弟子の粋な計らいで湯治にご招待~‥‥‥あのジジイ、一緒に行く相手がいるのかしら?