俺と愛バのマイソロジー   作:青紫

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レッツスイミング

 最近、愛バたちと姉さんの関係が改善されているように感じる。

 学園の廊下ですれ違うだけでも威嚇し合っていた以前とは異なり、立ち止まって会話をしているところをよく見かけるようになった。

 報告によると姉さんと愛バたちは休日にショッピングに出かけたり、ランチをご一緒したりする程度には仲良くなっているらしい。

 操者としても弟としても大変喜ばしいことだと思います。

 そう、とてもいいことのはずなのに……ちょっとジェラシー感じちゃうの!!

 

「みんなが姉さんと仲良くなってくれて嬉しい。でも、なんだかちょっと寂しい」

 

 本人たちの前で素直な気持ちを吐露(とろ)したら、愛バにも姉さんにも熱烈な抱擁(ほうよう)をされました。

 それぞれが優しい言葉をかけてくれたのが嬉しすぎて、(むせ)び泣いたわ。

 要約すると『寂しがることなんかない、何があってもあなたは大切な人』なんですと。

 

 俺は本当に幸せ者だ。

 彼女たちの恥ずかしくない自分でいられるよう、俺も頑張る。

 

 ●

 

 早朝、マサキの住居前に愛バたちが集合していた。

 

「では、行って参ります」

「頑張って来るから、期待しててね」

「よーし、大活躍してチームの名声値を上げちゃるぞ」

「帰ったら、たっぷり褒めてください。約束ですよ」

 

 今日は特別な学外クエストがある日だ。

 学園から遠く離れた場所で行われるため、それに参加する愛バたちは朝から長距離移動をしなくてはならない。

 今俺はクエストへ向かう愛バたちを、お見送りをしているのである。

 このクエストに参加するのは愛バたち4人のみ!俺は学園での通常業務というお留守番をします!

 

「名残惜しいがここまでだな。くれぐれも気を付けて、行ってらっしゃい!」

「「「「行ってきます!!」」」」

 

 ああ、愛バたちが行ってしまう。

 朝日に照らされる彼女たちのなんと美しいことか!

 う、うう、我慢がまんがまん我慢‥‥…でっきーーーん!!!

 

「待ってーーー!」

 

 歩き出した愛バに追いつき4人まとめて抱きしめる。

 愛バたちも抱きしめ返してくれる。もう、揉みくちゃのおしくらまんじゅうですよ。

 

「マサキさん、心配し過ぎですよ」

「離れても心は繋がってます」

「寂しいのはお互い様、ちゃんと帰って来るから」

「大丈夫、大丈夫だよ」

 

 うん、うん、わかってる、わかっているんだ。

 お前たちのことは心から信頼している。それでも、心配なんだ。

 

「"ワンフォール・オールフォーワン"の精神を忘れるな、全員で協力すればお前たちは無敵だ」

 

 えーと何か他に言う事はないか、あーでもない、こうでもない。

 

「忘れ物は無いな?ケンカしちゃダメだぞ、他の皆様に迷惑かけないように、ケガには十分注意して、危なくなったら休んで隠れてすぐに逃げろ、無理は禁物、いのちだいじに」

 

 お見送りの儀は長引いていた。

 既に一人づつハグをして頭を撫でてマーキングされて『行ってきます』の後に堪らんようになって揉みくちゃ!の流れを繰り返している。

 これが3回目の揉みくちゃである。

 

「うわっと!あ、アンタたちまだやっていたの?」

「リューネか、今いい所だから邪魔しないで!」

 

 大家のリューネが様子を見に来た。

 一向に出発しない愛バたちとそれを引き留める俺にドン引きして呆れ顔をしている。

 ほっといてくれます?

 

「もう早くしなよ。集合時間に遅れてもいいの?」

 

 リューネの言う通りだ。これじゃあ、余裕をもって早起きした意味がなくなる。

 

「マサキさん、そろそろ行かないと」

「ああ、ごめんな。何度も引き留めて」

「マサキさんの気持ち、すっごく嬉しいよ。だから気にしないで」

 

 4人から体を離す。愛バたちの温もりから離れると途端に寂しくなる。

 耐えろ俺!今日中に帰って来るのだから全然我慢できるぞ、できるもん!

 

「ぐぐぐ、い、行ってくれ、俺の寂しんぼメーターがリミットを迎える前に」

「マサキさん!あんなに辛そうに」

「みんな行くよ!マサキが食いしばっている内に行かなくちゃ!」

「後ろ髪を引かれるとは正にこの事!動け、動け、私の足!」

「絶対帰って来るから!待っててマサキさん!」

 

 ぐおお、封印が持たない!?俺の心に住む別人格"サビシガリータ"が復活しそうだ。

 

「さあ行くんだ!行けぇぇーーー!!俺の愛バたちよぉーーーー!!」

「「「「今度こそ、行ってきます!!」」」

 

 4人は元気に駆け出して行く、その背はあっという間に小さくなっていった。

 それでいい、お前たちは振り返ることなく、ただ前だけを見て走っていくんだ。輝かしい未来に向かってな。

 はい、クサさ最高潮!

 

 お見送りの儀 完!!

 

「終わった?」

「終わったよ。朝からお騒がせしたな」

「ホントにねww」

 

 残された俺はリューネと一緒に眩しい朝日を見つめる。太陽さん今日も照らしてくれてサンキュー。

 やれやれ、自分のせいで朝からドタバタしちゃったわ。

 

「朝ごはん食べた?」

「まだ。何、マサキがご馳走してくれんの?」

「残り物でよければ」

「全然いいよ、ゴチになります。あのマサキがねぇ、料理するようになったかw」

「あんま期待すんなよ。愛バたちの手料理に比べたら酷いもんだ」

「フフ、謙遜しなさんな。どれ、幼馴染としてがマサキの男飯を批評してあげよう」

「お手柔らかに」

 

 リューネを部屋に招いてブレックファーストと洒落込む。

 金髪巨乳の幼馴染に俺の男飯は概ね好評だった。この女、朝からメッチャ食うなww

 

 〇

 

 職員室、マサキは隣席のミオと雑談しながら業務日報を(まと)めていた。デスクワーク多いよ!

 

「ふーん。じゃあ今リンクも切っちゃってるんだ?」

「そうなんだよ。愛バたちが言うには、リンクアウトした状態で何処までやれるか検証したいんだと」

「まあ、常時接続なんて普通はありえないからね。素の状態の自力を把握しておくことも大事だよ」

 

 リンクアウト、覇気循環を停止した状態で愛バたちを送り出した。

 今日はそれでクエストをこなして来るのが目的だ。だから余計に心配なのよね。

 リンクした状態がノーマルだったので、急に繋がりが無くなると喪失感が半端ない。

 

「大丈夫かな。道に迷ったり、お腹が空いて辛い思いをしていないかな?」

「子供じゃないんだから、心配性だなあ」

「あいつら、体の発育はご立派だが子供だぞ。大人が子供を心配するのは普通だ」

「子供に手を出す大人は異常だけどね」

「うるせー、相思相愛だからいいんですー。それぞれの親御さんも了解済みですー」

 

 愛バたちは年相応に子供っぽい可愛いところと、しっかりした大人として振る舞える美しさを兼ね備えている。本当にいい女たちなんだぞと、惚気てやるぜ。

 『はいはい、よかったね~』とミオには軽くあしらわれた。悲しい。

 

「マサキ、ちょっといいか?」

「あ、ゲンさん」

「ゲンちゃん、いたんだ」

「ずっとな」

 

 もうゲンさんったら、いたのなら遠慮せずに声をかけてくれていいのに。

 俺とミオが楽しそうに会話していたため、今まで話しかけるタイミングを逃していたようだ。

 気が付かなくてごめんね。

 

 【ゲンナジー・I・コズイレフ】

 

 良いガタイ、濃い顔付きと印象に残りやすい見た目とは裏腹に無口で存在感がないムキムキマッチョの先輩教官だ。

 肉体と同じく強靭な覇気の持ち主であり、腕っ節はかなり強い。

 口数は少ないが情に厚く生徒思い、授業や修練中には熱血コーチと化す。

 元水泳のオリンピック金メダリストという経歴を持ち、見た目に反して絵画や文学に詳しい芸術家肌な一面を持っている。

 

 俺は親しみを込めて"ゲンさん"と呼ばせてもらっている。

 ミオや生徒たちからは"ゲンちゃん"という愛称で通っている。

 本人は『ちゃん付け』に照れながらも満更ではない様子。

 こう見えて、学園人気教官ランキング上位勢のゲンさんであった。

 

「どうしたのゲンさん、誰かケガでもした?」

「違う。お前に頼みごとがある」

「いいよ。俺とゲンさんの仲じゃん、何でも言って」

「……マサキ////」ポッ

「ゲンさん////」(´∀`*)ポッ

「ちょっと!私を挟んで変な空気作らないでよ。二人とも頬を染めるな!気色悪い!」

 

 ミオが嫉妬して騒ぎ出した。┐(´∀`)┌ヤレヤレ

 君には俺とゲンさんの絆が不純なものに見えるらしいね、愚かなこと。

 

「今日の午後から水練(すいれん)の特別授業があるのだが、教官としてマサキも参加しれくれないか?」

「え、水練ってことは水中に入るんだよね。水練ねえ……水泳かあ」

 

 力になってあげたいのは山々だけど、水泳だと俺は邪魔にしかならないと思う。

 

「これでも元アスリートだ、お前の事情はわかっている。その上で頼みたい」

「マサキ、ゲンちゃんのお願い聞いてあげれば?医務室に(こも)っているのも退屈でしょ」

 

 それもそうか、うん、何事もチャレンジだ!

 

「そこまで言うなら参加させてもらうよ。ただ、俺は本当に役立たずだけど」

「構わない。お前が参加することに意義がある」

 

 ゲンさんの意図は不明だが、引き受けたからにはしっかりやろう。

 

 〇

 

 午後、屋内プールには水練に参加する生徒たちが集まっていた。

 通常授業とは違い自由参加なので、中等部と高等部の生徒が入り混じっている。

 全員が学園指定の水着を着ているので体のラインがハッキリと見て取れる。スクール水着ですよ!ひゃっほう!

 

「時間だ。これより水練を始める、皆揃っているな?」

 

 筋骨隆々とした肉体美を惜しげもなく晒したゲンナジーは集った生徒たちを見渡す。

 生徒たちから「はい!問題ありません」と元気な返答をもらって頷く、遅刻や欠席した者はいないようだ。

 

「今日は俺の他にもゲスト教官を呼んでいる。皆、知っているだろうが挨拶を頼む」

「ヤンロンだ。この講習を有意義な時間としたい、共に切磋琢磨しよう」

「「「「キャーッ!ヤンロン教官ーーー!!」

 

 挨拶をしたヤンロンに『カッコイイ―!』だの『素敵ー!』だの『抱いて!』だの黄色い声援が飛ぶ。

 なんだコイツ?モテモテやないか!!

 

「あらあら、焼けてしまいますね~エル?」

「みんな自重してくだサイ!ヤンロンはワタシとグラスの操者デス!シッシッ!」

 

 エルがプンスコ憤慨(ふんがい)してはしゃぐ生徒たちを牽制(けんせい)している、ヤンロンはちょっと照れながら咳払い。

 いつものやり取りらしく、その様子をグラスはおっとり見守っている。

 男女の操者と愛バはどこも大変なんですね。ものすっごくわかりますよ!

 

「あの、ゲンナジー教官?最初からとても気になっていることがあるのですが?」

「何だ言ってみろ」

「教官の隣にいる、その、フルアーマー潜水士さんはどちら様でしょうか?」

 

 生徒の一人から指摘があり、他の者たちも次々にコメントする。

 

「海猿だ、海猿がいる」

「一人だけダイビングする気じゃん」

「今、地上なのになんで酸素吸っているんですか?」

 

 最初から違和感をまき散らしていた人物はウエットスーツを着込み、酸素ボンベを背負っている。

 潜水マスクを付け、レギュレーターを口に加えているので顔が判断できず、誰なのかわからない。

 足には大きなフィンまで装備しており、ゲンナジーの隣まで歩いている途中に転倒していた。

 誰だかわからないが、バカだ、バカがいる。

 

「こいつは、もう一人のゲスト教官だ」

 

 背中を叩かれた潜水士はマスクとレギュレーターを外し顔を晒す。

 

「俺だ」

「「「「お前だったのか」」」」

 

 はい。みんなご存知のアンドウマサキですよ。

 『やっぱりな』『知ってた』とか言われているけど気にしない。

 

「水練に参加させてもらうことになったアンドウマサキです。よろしくお願いします」

「「「「あ、はい。どうもご丁寧に」」」」

 

 頭を下げ丁寧に挨拶すると、ザワザワしていた生徒たちも呆気に取られたままお辞儀する。

 お世話になる人たちには礼儀を尽くす、これ基本な。

 

「そのふざけた格好はなんだ?」

「別にふざけてませんけど、(いた)って真面目ですけど?」

 

 俺からすればビキニパンツを履いたヤンロンとゲンさんの方がふざけていると思う。

 そんなに「ウホッ!」としてほしいのかい。二人の肉体は生徒たちの目に猛毒でしょう。

 さっきから血走った目でガン見している子もいるんだから‥‥‥なんだ、ベルりん先生でしたか。

 

「ともかくこれは没収だ。こんな物を背負っていては泳ぎの練習にならん」

「やめて!俺のボンベちゃん持って行っちゃダメぇーー」

 

 ヤンロンが手早く俺の酸素ボンベ奪い取った。酷いわ、窒息死したらどう責任とるつもりなの?

 それレンタルだから壊さないでよ。後で返却しないといけないんだから。

 

「その様子ではマサキさん、泳げないのですか?」

「どうやらそうみたい」

「あれ?人型の妖機人相手に水中戦をしていたはずデスが」

「あの時は無我夢中でな、長期戦になっていたら確実に溺れていたぞ」

「思いのほか危機的状況だったのですね」

「勝てて良かったデス」

 

 酸素ボンベを没収されて膝をつく俺を心配したのか、グラスとエルが話しかけて来た。

 操者は手厳しいが、愛バは優しい子なのね。

 

「誰にでも苦手なものはある。大事なのはそれを克服しようと努力し(あらが)う姿勢だ」

「わかった、俺やるよ。やってやるぜい」

「フッ、いい気合だ」

「因みに、ゲンさんの苦手なものは何?」

「ピーマンを食べられない」

「なんかカワイイ!」

 

 ゲンさんに励まされてやる気が復活した。泳げるようになってやろうじゃありませんか。

 

「泳ぎに不安のある者は俺が指導しよう。自信のある者たちはヤンロン教官と強化訓練をするといい」

「「「「はい!」」」」

「俺は?」

「マサキは、そうだな‥‥‥」

 

 〇

 

 水練には初心者から上級者まで様々なレベルの生徒が参加していた。

 俺意外の全員が「シンクロナイズド余裕っス!」じゃなくて本当によかった。

 

 学園の屋内プールは当然設備もバッチリだ。

 競技用の50メートルプールをはじめ、水深5メートルの深いプールに波を再現した流れるプールもある。

 これでウォータースライダーがあれば遊びまくってやるのに、と泳ぎの得意な奴は思うのだろうが、生憎と俺にそんな余裕はない。

 

「離さないでね!絶対離さないでね!」

「大丈夫だってば、私に任せんしゃい☆」

「その『しゃい☆』が胡散(うさん)臭い」

「ほらほら、沈んじゃうぞー。バタ足しっかりやっていこう」

「わ、わかった。エホッ、鼻に水がぁ~‥‥‥ツラい」

「弱音を吐いちゃダメ。ウマドルへの道も一歩からだよ」

「別にウマドルは目指して無いっス」

 

 酸素ボンベだけでなく足ヒレと潜水マスクも没収された俺は、ウエットスーツのみを装備中。

 頭をスッポリ覆っていたものではなく、顔や髪の毛は出せるヤツに着替えて来たぞ。

 

 ゲンさんの采配によって"俺に泳ぎを教える"有志を生徒の中から募ったのだ。

 幸いにも顔見知りが多かった上に『そっちの方が楽しそう』ということで多くの生徒が俺の指導役を買って出てくれた。ありがてぇことですよ。

 そうして今、スマートファルコンに手を引かれながらバタ足奮闘中です。

 

「息継ぎ忘れてる!?息継ぎしてマサキ!」

「プハッ!…はあはあ‥‥‥タイミングを逃…した…」ゼイゼイ

「限界まで我慢しなくていいんだよ。どうする、一旦プールサイドまで戻る?」

「やっと慣れて来たところだ、もう少しお願い」

「ん、了解~。頑張れ少年!」

「わては青年どすえ」

 

 女子に手取足取りされて嬉し恥ずかしの青年マサキです。

 息継ぎはタイミングよく、水を怖がる必要はなし、バタ足は力任せにせず水を掻くように。

 おお、ちょっとイイ感じだ。これも下手くそな俺に辛抱強く教えてくれたみんなのお陰だ。

 今度はバタ足からカエルキックにチェンジ、ゆっくり確実に~。

 

「今日お嬢様たちは遠征クエストだっけ?」

「そうだよ。今頃何してんのかな」

「心配?」

「それなりに」

「お嬢様たちの強さは頭首様も理事長も認めてる。今日だって学園の代表として行ったんだから、心配ないない」

 

 そうだな。愛バのことは俺が一番に信じてやらないでどうするよ。

 俺だってやってやる。

 

「ファル子、手を離してみてくれ」

「いいの?エルちゃんたちが離した時は秒で溺れたのに」

「いいんだ、やってくれ」

「決意は固いみたいだね。わかったよ、ここ深いから気を付けて。いくよ、せーの……しゃい☆」

「シャイ★」

 

 ファル子が手を離す。頼みの綱を失った不安と喪失感に襲われるが問題ない。

 愛バたちを思えば、俺はどんな状況でも勇気100倍だ。

 大体ですね、人間はじっとしていれば浮かぶように出来ているんですよ。

 ここは慌てず騒がずゆったりと水に身を任せていれば、ほら‥‥‥

 

「ガボガボゴボ…ゴボッッ!?」

 

 あるれぇ~俺はどーして沈んでいるのかなぁ。

 そうか、そうだったのか、普通の人間は浮くけど、俺は浮かばない少数派の人間だったのだ。

 多数派には属さないクールな俺!これには愛バもニッコリ。

 んがぁっ、水が入って…あ、ダメ……意識がもう‥‥‥水死体は嫌だなあ。

 諦めかけたその時、誰かに腕を掴まれる感覚がした。

 力強く一気に水中から引き上げられる!?

 

「大丈夫かマサキ?」

 

 俺を救ってくれたのは太く(たく)しい腕。

 黒いビキニ姿のムキムキマッチョマン、ゲンさんだった。

 

「ゲホッ…ウェッホッ…た、助かったよゲンさん」

「危ないところだったな」

「ビックリしたぁ。マサキが即行で沈んで、ゲンちゃんがこれまた即行で助けちゃうんだもん。私の出番なかったよ」

 

 すぐ傍にいたファル子が行動するより早くゲンさんが救助してくれた。

 体感時間では長く感じたが、僅か数十秒の出来事だったらしい。

 水に慣れたつもりだったがまだまだだった。己のヘタレ具合を甘く見積もりすぎたぜ。

 

 ゲンさんとファル子に引っ張られプールサイドまで戻って来た。

 本日、何度目かの轟沈を披露した俺を指導役のみんなが心配してくれる。

 

「ファルコン、マサキさんに何かあったら我々の首が物理的に飛びますよ?」

「そんなのわかってるよ。今のはちょっとした事故だよじーこ!」

「無事だっから良いものを、これでほ従者部隊の面目が」

「ファル子を責めないでやってくれ。今のは俺が全部悪いんだ。ごめんなファル子、フラッシュも心配かけてごめん」

「マサキさんがそう仰るなら」

「私も、すぐに動けなくてごめんね」

 

 エイシンフラッシュがファル子を叱責するが、どう考えても俺が悪いので二人に謝っておく。

 そして、助けてくれたゲンさんに改めてお礼をする。

 

「ゲンさんは命の恩人だ。ありがとう」

「フッ…そう(かしこ)まるな俺とお前の仲だろう」

「ゲンさん///」(´∀`*)ポッ

「マサキ///」ポッ

「「「「キャー!ゲン×マサよーー!ゲン×マサが発展中よぉーー!」」」」(≧∇≦)

 

 見つめ合う俺とゲンさんに周囲の生徒たちが興奮しだす。

 初心者コースにいたライスとボンさんが「ゲンマサ???」と頭にはてなを浮かべている。

 君たちは知らなくていいからね~。どうしてもって言うならシュウに聞きなさい。

 

「おい、大丈夫なのか?」

「ああ、うん、お騒がせしました」

「まったくゲンナジー教官のみならず生徒たちにも手間を取らせて」ブツブツ

「いいんだヤンロン。元はと言えば俺がマサキを誘ったのだからな」

「そうですか。では、マサキは僕が見ていますので、ゲンナジー教官は初心者組の生徒たちを指導してあげてください」

「いや、向こうは一段落した。ヤンロンこそ上級者組を監督してやれ」

「あちらも僕が指導すべきことは終わりました。後は各々が自力でこなすでしょう」

「いや俺が」

「いえ僕が」

「やめてぇーーー!俺のために争わないでぇーーーー!」

 

 なんで俺の取り合いになっとんねんwww

 さてはこの二人、俺に負けないぐらいのアホだな。

 

「「「「キャーー!嫉妬に狂ったヤンロン教官が乱入したわぁーーー!」」」」(≧∇≦)

 

 それで君たちは更に喜ぶのね。

 

「王道のヤン×マサが来た!」

「しかし、ゲン×マサも捨てがたい」

「あわわわ、どっちを応援すればいいの?」

「カップリングは無限の可能性に満ちておる。心のままに好きな方を推すのじゃよ」

「あなたはカップリング仙人!?」

「「「「誰だよ!!!」」」」」

 

 うわー盛り上がってるな~。

 ゲンさんもヤンロンも既に落ち着いているのになあ。

 二人とも見てごらん、あの脳が腐り切ったウマたちを‥‥愛バたちにはああなってほしくない。

 

「燃料を投下した奴が何を言ってるデスカ」

「エルだって楽しんでいた癖に」

「どうせならヤン×マサ見せてくだサイ」

「それが愛バの言う事か」

「私はゲン×マサも好きですよ~」

「グラスまで、この学園の腐敗はどこまで進んでいるんだ!?」

 

 この腐海の浸食率、潰したはずの魍魎(もうりょう)の宴が復活していると確信するのであった。

 

「みんな、さっきから何を言っているんだろう?ねえ、ドーベル」

「フフフフ、(はかど)る。捗るじゃないのよ!」

「ド、ドーベ…ル???」

「リゾートプールで出会った三人の男。二人のマッチョの間で揺れ動く主人公と、愛ゆえに火花を散らすマッチョたち!これよコレ!こういうのを待っていたの!」

「うわっ!血が!ドーベルの鼻血でプールが血の池に!?」

「ゲン×マサ、ヤン×マサ単品に(こだわ)る必要は最初からなかった。今度の新刊はゲン×マサ×ヤンに決定よ!さっそく原稿を書かなくっちゃ……アレ、変だな立ちくらみが‥‥‥はふん」バタッ

「マサキさーん助けてぇ――!ドーベルが自ら生み出した血の池に沈んだぁ!!」

 

 血相を変えたライアンが俺に助けを求めた時、血の池周辺は阿鼻叫喚(あびきょうかん)の地獄と化していた。

 

「え?なんでプールが赤い?」

「ぎゃー!なんじゃあこりゃあ!」

「みんな!早くプールから上がって‥‥‥これで全員いる?」

「大変だ!ドーベルさんが底の方に沈んでるってよ」

「そのドーベルが元凶じゃね」

「誰か救助に」

「この血の池地獄に入って潜れと?」

「お前行けよ」

「私、宗教上の理由で鼻血に触れちゃダメなんだよね」

 

 緊急事態!アホな事件だけど緊急事態!

 俺は確かに泳げない、でも、俺はトレセン学園の教官だ!生徒を守る義務がある!

 体は勝手に動く、動揺した生徒たちより、ゲンさんやヤンロンより、誰よりも早く!

 こういう時の俺は酷く冷静に動ける。

 ドーベル今行くぞーーーー!

 

 〇

 

 まともに泳げない俺が真っ先に飛び込んだことで、周りは更なるパニックになったそうな。

 結局、その場にいた全員が血の池にダイビングして俺とドーベルを救助してくれた。

 ドーベルはウエンディ教官のいる医務室へ運ばれ、残った俺たちは血の池の清掃とシャワーを入念に浴びた後に水練を再開した。

 もう、みんな疲れているので水遊びタイムになっていたけどね。ゲンさんもヤンロンも目を(つむ)ってくれるようだ。二人とも生徒と一緒にビーチバレーしちゃってるよ。

 

 プールサイドで体育座りをしているとメジロパーマーこと、パー子が隣に腰を下ろした。

 

「無茶したね~」

「俺だけじゃなくてみんながなw」

「メジロの一員として礼を言うよ。ドーベルを助けてくれて、ありがとうマサキ」

「結局、俺もみんなに助けられたんだがな。ライアンは?」

「ドーベルに付き添ってるよ。それにしても鼻血ってww」

「ここにアルとマックがいなくてよかったな」

「ホントだよwあ、ブライトも今日はクエストがあるって言ってたな」

「まあ、全員に伝わるのは時間の問題だな」

「血の池の写真、もうネットにアップされてるんだよ『学園の怪異!血の池発生の謎』だって」

「うへぁ」

 

 高度情報化社会の怖いところよのう。

 1人1人がどこでもカメラを携帯しているんだから、そりゃそうなるわな。

 パー子と話している、とシャワーを浴びていた皆がリフレッシュして戻って来た。

 

「ふぅ、酷い目にあった」

「血の池もみんなで飛び込みゃ怖くないってか」

「十分怖かったよ。二度とやらない」

「マサキさん、まだ練習するなら付き合いますが、どうします?」

「いいよ。みんなは遊んでおいで、俺はビート板でも使って自主練してるわ」

「誰がビート版ですか!」

 

 スズカさんよぉ。

 誰も君のことを指したわけではないのに、何反応してんの?

 それって自分でビート板だって思ってるってことかい、卑屈すぎて怖いんだけど。

 

「スズカさんはビート板なんかじゃありません!綺麗な"まな板"ですよ!」

「スぺちゃん、何のフォローにもなってないわ!」

 

 妖怪(いた)女は放っておいて、上達した初心者組に交って練習させてもらおうかな。

 

 水の中に入っていると過去の記憶が呼び起される。

 懐かしいな。昔、川で溺れたところをシュウに助けてもらったこともあったけか。

 毎年、夏になると泳ぎを教えてくれたが、一向に上手くならなくて申し訳ない。

 

「水に入った俺は、シュウ曰く『足がつったカッパですね』だそうだ」

「お兄様酷いww」

「マスターは嫌味な男です。マサキさんを素直に応援することが照れくさいのです」

「でも、お好きなんでしょ?」

「う、うん///」

「ええ、まあ、マスターと認めるぐらいには////」

「ヒューヒュー」

 

 ライスとボンさんを惚気させてみた。あらヤダ、かーわーいーいー!

 

「みんな、遊んで来ていいのよ?」

「遊んでますよ。マサキさんと」

「俺に付き合ってくれんのか、ええ子やね」

「さあ、練習練習!今日中にマサキを泳げるようにするよ~」

「「「「おおー」」」」

 

 いろんな子に代わる代わる手取り足取りされちゃった(/ω\)イヤン

 そのお陰で、下手くそだった俺も結構上達したと思う。

 休憩を挟みつつ泳ぐ泳ぐ泳ぐ、慣れて来ると今の状況を見渡す余裕が出て来た。

 学園のプール、スク水を来た女学生たち、しかも全員が美少女ウマ娘‥‥‥これなんてエロゲ?

 教官になってよかったです!

 感謝の気持ちを込めて、みんなに合掌しておこう。

 

「何故拝む?」

「今更だが凄くいいものを見せてもらって感謝、この状況にも感謝、つまり君たちに感謝している」

「あー、エロいこと考えたでしょ!」

「そうですけど何か?」

「開き直ったw」

「俺、知ってるんだ。こういう時、下手に否定したり言い訳すると女子は余計にキレるってさ。だから、正直にいうわ。いーっやっほぅ!スク水エロいなぁーーー!!

「最低の発言なのに、なんて清々しい顔だ」

「セクハラですよ」

「ごめん、でも、みんながエロくて可愛くて、つい」(´・ω・`)

「こっちに責任被せて来た」

「いつものことですから大目に見ます」

「もう慣れちゃったよね」

「マサキ以外の男なら即通報案件だけどさ」

「かたじけのうござる」( ̄д ̄)

「武士かww」

 

 セクハラ発言が許されるか否かは、勝手知ったる仲なので見極められます。

 

「セクハラマサキにお願いしたいことがあるんだけど、いいかな?」

「何だファル子?金は絶対に貸さねぇぞ!」

「違うよ。えっとね、サトノ家にアイドル事業部を作ろうと思うんだけど」

「ほうほう、それで?」

「お嬢様たちに、それとなーく進言してもらえないかなーって」

「ファルコン、そんな野望を抱いていたのですか‥‥‥この計画はダメですね」

「お嬢様たちを味方に付ければワンチャンあるもん!そうだ!今ここに集まったのも何かの縁!みんなでウマドルやらない?いや、やるべきだよ」

「また無謀な事を、そんなの無理に決まってるでしょ。マサキさんもそう思いますよね?」

「俺は案外いけると思うぞ」

「まさかの賛成!?」

 

 俺の練習に付き合ってくれたみんなを見る。いけるんじゃね?

 

「前から思っていたけど、みんな自分の容姿を軽く見てるよな。こんだけ綺麗で可愛いならアイドルでも食っていけるだろ?レース選手のウイニングライブあるじゃん、あんな風に歌って踊れたらすぐに人気でると思う。まあ、芸能界で生き残るのは大変だろうけどな」

 

 愛バたちもそうだが、自分がどんなに尊い存在かわかってねーだろ。

 無頓着って程でもないが『こんなの普通ですよ普通』とか平気でいうからね、普通に謝れ!

 

「もし愛バたちに出会ってなかったら、全員に『契約してくれ!』て土下座で迫る自信あるもん。断られても多分、懲りずにお願いしまくっていただろうなぁ‥‥‥あっ!今の愛バには内緒な、オフレコで頼む」

 

 口が滑ったが間違ったことは言ってない。それぐらいみんな魅力的ってこと。

 

「そ、そうなんだ///」

「あ、ありがとう、ございます///」

「なんか熱くなってきちゃったね///」

「本当にこの人は///」

「もう///ホントにもう!だよ///」

「ワザとやってんのか、この無自覚ウマたらし!浮気ロリコン!」

「褒めたのに何で怒られてんの、俺!?」

 

 赤くなったり怒ったり、もう何なの何なの?

 はっは~ん。これが思春期ですか、心のバランスが乱れてるのね。

 いいのよ。そうやってみんな大人になっていくの。成長しているんだなあ、うんうん。

 

「聞きましたかヤンロン!今のはマサキを見習うとこデスヨ」

「真っ直ぐな愛情表現、琴線に触れるどころか刺さりますね~」

「マサキめ、また余計な事を」

 

 血の池地獄のハプニングはあったものの、水練の特別授業は成功に終わったと言える。

 最終的には俺も25メートルを泳ぎ切り、応援してくれたみんなも拍手喝采で迎えてくれたのであった。

 

 愛バたちは大丈夫かな?

 帰って来たら今日あったことを笑顔で語り合いたい。

 何事もなく無事に帰って来ることを祈っているぞ。信じて待っているからな。

 

 〇

 

 ゲンナジーは思う。自分の考えが間違っていなかったと。

 今日の水練にマサキを誘ったのは生徒のためである。

 マサキ本人が泳げるようになったのは喜ばしいが、それはおまけだ。

 

 他の教官たちからの報告通りだ。マサキが参加した授業では生徒たちの習熟度が跳ね上がる。

 生徒たちからは『マサキ教官がいる授業は楽しい、熱中できる』と評判がいい。

 

 今日、初心者組にいた者はマサキを反面教師にして全員が泳げるまでになった。

 上級者組はマサキにいい所を見せようと奮起し、いつも以上の力を出した。

 指導役をした者たちはマサキに教えている内に自分の改善点を見つけ出したり、人に技能を教えることの醍醐味に興味を示したようだ。

 他にも雑談や一緒に遊ぶことで、生徒間の協調性や仲間意識も育ったように感じる。

 無意識に漏れているマサキの覇気が疲労回復やストレスの緩和する。

 近くにいるだけで、覇気と神核を整える成分が出ている等という者もいる始末だ。

 

 トレセン教官になる前から何度か水泳のコーチを任されたが、一日でここまでの成果を出せたことがあっただろうか?

 ただひたすらに熱血指導をしていた自分にはできないことを、泳げない男がやってのけたのだ。

 

 (あいつは何かが違う。よくわからんが、凄い男だ)

 

 そして不愛想で無口な俺を慕ってくれる、いい奴だと思う。

 凄い男で、いい奴だ、つまり、いい男だ。

 

「マサキ‥‥‥いい男だ」

 

 ((((やはりゲン×マサか!!!))))

 

 ゲンナジーの呟きを聞いた生徒により、王道のヤン×マサを超えゲン×マサの人気が急上昇した。

 

 

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