コードネーム『デモン』
数十年前から突如として日本各地に出没し、人類に敵対行動をとる謎の怪物たち。
その正体は、正式名称『妖機人』と言う生体兵器であり、何らかの影響で人を襲うように変質した言わば『悪の超機人』
デモンは確かに危険な奴らではあるのだが、ウマ娘という生まれついての強者やデバイスという兵器で対抗手段を備えているこの世界では『ちょっと強い害獣』程度の認識に収まっている。
だからといって、放置しておくと個体数が増え市街地に出たりするので迷惑極まりない。
その為、定期的に駆除が行われているのは誰もが知るところだ。
年に数回開催されるデモン大規模駆除活動の季節が今年もやって来た。
マサキの愛バたちはこれをクエストとして受注し参加するのである。
〇
「超機人てのは、グラスさんと覆面レスラーが連れている自立行動型デバイスのことだよね?」
「そうです。大昔の古代人によって作り出された半生体兵器の生き残りが、あの青龍と白虎ですよ」
「ざっくり言うと悪い事をする超機人が妖機人、つまりはデモンのことです」
「バラルとかいう秘密結社もデモンを使うけど、アレは使役者の命令に基づいて行動しているの。今回、掃除する対象は人の手を放れ暴走もしくは野生化した個体たちだよ」
「へぇー、ためになるね~」
デモンについての知識を復習しながら道行くウマ娘たち。
マサキの愛バである4人はクエスト開催場所に向かっていた。
電車から降りた後は持ち前の脚力を活かした走行と徒歩で移動し、目的地である場所へ辿り着いた。
軽い足取りで歩くことしばらく、前方に見える広場や建物群から多くの覇気を感じるようになる。
ここは○○県○○市にある、メジロ家が日本各地に所有する演習場の一つである。
都会の喧騒から離れた山間部に設けられたその場所には、本日のクエスト参加者が集合して大賑わいを見せていた。
広場に設置された沢山の仮設テント、宿営地も兼ねた本部建物、駐車スペースには大量の物資を積んだトラックと人員を送迎して来たバスが何台も見え、どこもかしこも人で溢れている。
ここが本クエストの前線基地となる場所だ。
「おお!集まってる集まってる」
「凄い人数、はぐれないように注意しましょう」
「どいつもこいつもギラギラしてますね~。血気盛んなことです」
「イベント前の空気だ、なんか好き」
辺境の演習場にしては立派過ぎる設備の数々はさすがメジロ家といったところだ。
『お金かかってるな~』というクロの呟きに皆が同意する。
「受付はこちらでーす!クエストに参加される方は順番に並んでお待ちください」
「救急キット等、支給品を無料配布しています。必要な方はご自由にどうぞ~」
「君、可愛いね。どうかな?僕の愛バになってくれないか……ダメ?残念だなあ」
「操者募集中でござる!拙者を甘やかしてくれる、高収入のイケメン男性はいるでござるか?」
「安いよ安いよ!今ならこちらのコンバットナイフがなんと!もう一本付いて来る」
「メロンパフェいかがっスかあ~、メジロセレクション認定のメロンパフェを本日限定で販売中だよ!あのマックイーン様もパクパクされた激旨スイーツをご賞味あれ~」
行き交う人々は年齢性別問わず様々だ。
軍服や戦闘服に身を包んだ者、制服姿の学生、着ぐるみや特殊メイクで仮想した者、早くもデバイスを展開した者や刀剣や銃で武装した危ない連中もかなりいる。
その殆どから強い覇気を感じる。一部のスタッフを除き、戦うための技術を身に着けた者ばかりが集っている。
そんな人波をかき分けて列に並び待つこと数分、受付を済ませて参加登録をしてもらおう。
「チーム"ああああ"4名確認致しました。まあ!中央のトレセン学園から……頑張ってくださいね、ご活躍を期待しています」
「どうもです」
当り障りのない返答をして案内された宿営地に向かう。
御三家出身だと知られるのは時間の問題だが、自分たちから吹聴する気は毛頭ない。
コネ、権力、七光り、ご威光、と言われるものの使いどころはわきまえているつもりだ。
全員が幼少期から鍛えたスルースキル持ち、勝手にヒソヒソされる事には慣れっ子である。
短機関銃で武装した警備兵に会釈をしつつ、ゲートを通り抜け宿営地の中に入る。
無骨なコンクリート壁の内装はデザインより実用重視であることが伺えた。
クエスト参加者への説明会が行われる屋内修練場を目指して移動するとしよう。
「屋台いっぱい出てたね」
「出会いを探している人もいました」
「人が集まる=チャンスと捉える者もいるということです」
「少々緊張感に欠けるけど、何事も楽しもうとする姿勢は素直に『いいね!』と思うよ」
屋台を見る時間があればお土産を買うのもいいかも知れない。
歩きながらそんな話をしていると、程なくして屋内修練場へ到着した。
扉を開くと先着者たちの値踏みするような視線が絡みつくが、想定内なので全力スルー。
素早く空いている席を見つけて4人並んで腰かける。
「私たちもだけど、なんか若い子多くない?」
「今回から学生の参加枠を増やしたそうですよ。ルクスというアホのせいで、何処も人手不足なのです」
「使える強者は子供でも使えってね。いい時代になったもんだ」
「年上の先輩方に恥じない行動を心がけましょう」
会議室内の人口密度がピークに達した頃、戦闘服を着込んだ風格ある集団が登場する。
アルによると、メジロ家機動部隊員のちょっぴり偉い人たちらしい。
つまり、あれがクエストの責任者並びに司令官たちだ。無駄に偉そうなので間違いない。
一番偉そうで
「えー、お集まりの皆様~本日は恒例行事であるデモン掃討作戦へのご参加、誠にありがとうございます。現時点をもって参加は締め切らせていただき、これより本作戦の説明に入らせていただきます。休憩無しのぶっ通しで参りますので、トイレに行くなら今の内です。後、説明中の飲食は自由ですが音の出る物や臭いのキツイ物はご遠慮ください。クチャラーは出ていけ!ゴミは指定の場所で回収しておりますのでポイ捨や不法投棄は‥‥‥」
偉そうなのは見た目だけで、マイク越しに話す口調は丁寧で腰の低い男だった。
クチャラーに嫌な思い出でもあるのだろうか?
◎大規模クエスト【デモン掃討作戦】の概要
デモンの群れが生息している場所を特定した。これを大人数でもって強襲し殲滅するのが本作戦だ。
確認された生息域の三ヵ所を同時に攻め一網打尽を狙う。
今クエスト参加者は総勢542名。その内100名は全国の騎神養成校から選抜された学生。
部隊をÅ班、B班、C班の三班に分け、参加者の実力と経験を考慮した上で人数を割り振ることに決定。
部隊の指揮は主催者側のメジロ家機動部隊員と、ギルドから派遣された戦闘屋のベテランたちが執る。
「私たちは…C班だそうです。位置取りは、かなり後方ですね」
「学生は大人たちの補助と後方支援メインだって。こんなんで活躍できるのかな?」
「まあまあ、サポートも大事な仕事だよ。気を落とさずに頑張ろう」
「デモンは予想外の行動をとることで有名です。油断せずに参りましょう」
説明会が終わった後は外に出て、それぞれが決められた班へと分かれていく。
C班の指揮をとる部隊長は
でもまあ、私たちの操者には天地がひっくり返っても勝てないけど!勝てないけど!大事なことなので以下略・・・
部隊長は名簿を手に、班員の出席確認をしていた。
「えーと……"ああああ"と言うチームの人はいるかい?居たら返事してくれ」
イケメンが『ああああ』と困惑気味に言う。周りもなんじゃそりゃ?という顔を浮かべてキョロキョロする。
おっふ!めっちゃ恥ずかしい!!けど、ここで黙っている訳にもいかず。
「ここにいるぞ!」
元気なクロが恥ずかし気もなく挙手して返答した。この子の無邪気さ時々怖い!
「変わったチーム名だね、イタズラでもしたのかな?まあ、よくあることさ。うん、4人ちゃんといるね」
「全てはご入力から始まったのです。私がバカだったと今は猛省しております」
イケメンの爽やかスマイルで羞恥が緩和された。ありがてぇ!
周りの人たちも『あー、俺も昔やったなあ』『照れてて可愛い~』『若気の至りね、わかるわ』とコメントしてくれた。
優しい大人の対応あざーす。
IDを確認の終えて班の一員に加えてもらった。
C班は他の二班に比べて人数は少な目だ、ざっと見て100人前後がいいとこだろう。
でも、部隊長を始めとするメンバーは皆和やかな空気を纏った人格者で構成されているっぽい。この班で良かったと思う。
「C班の学生は君たち4人だけだ。無理せず後方支援に徹してくれればいい」
「勘違いしないでね、学生だから甘く見てる訳じゃないわ。あなたたちを大事にしたいからなの」
「有能な後輩が育ってくれると俺たちもありがたいってことさ。今日は戦場の雰囲気だけでも感じ取ってくれよ」
「がははは。もちろん、チャンスがあれば前に出てくれても構わんぞ。デモンどもをボッコボコにしてやんな」
「それにしてもカワイイね!今いくつ?何処から来たの?操者は?」
「突如として現れた美少女たちにカッコイイ姿を見せつける俺‥‥‥超やる気出て来た!!」
「モテない野郎はこれだから。あなたたちは変な男に引っ掛かるんじゃないわよ」
「飴ちゃん食べるかい?いいのいいの、気にせず取っておきなさい」
あっという間にC班のアイドルに
大人たちに囲まれて少々気後れする。人懐っこいクロは貰った飴をさっそく頬張りご満悦だった。
学生が私たち4人だけで他の班員は経験豊富そうなメンバーが揃っている。
これは、割り振りにメジロ家の介入があったのだろう。
御三家のウマ娘に何かあったらと危惧して、最も安全かつゆるいC班に組み込まれたのだ。
(余計な事を‥‥その采配が裏目に出ないといいですね!)
(申し訳ありません。後で実家にクレーム入れておきます)
(C班は結局ハズレなの、アタリなの?)
(どっちでもやるべきことは変わらないよ。頑張る、無事に帰ってマサキに褒めてもらう)
(ラジャー!)(^^ゞ
メンバーの自己紹介と作戦の確認を簡単に終えた頃、全員に支給された通信機に本部からのアナウンスが届く。
『作戦開始時刻になりました。総員、順次行動開始してください。ご武運を』
イケメン部隊長が全員の顔を見渡し号令をかける。
「よし、C班これより進軍を開始する!焦らず騒がず確実にやって行こう!」
「「「「「おおーー!!!」」」」」
作戦が始まった。
緩い空気だったC班の面々は気合を入れ直し、陣形を組んで移動を開始する。
大人たちに遅れないように4人もその後を追う。
「こんなの従者部隊の仕事と一緒で余裕だよ、よ・ゆ・う」
「と、慢心している奴から逝く。きっと『エリック上田』みたいな死に方をします」
「ゴッドイーターwやーめーてーよー」
「エリック上田さんはどの様に亡くなられたのですか?」
「後輩の前でイキり散らしていたらザコに不意打ちされて食われた」
「まあ怖い」
「戦場でよそ見しちゃダメってことだよ。反面教師にしよう」
4人の会話を耳にした大人たちは苦笑いする。
何も難しい事は無い。いつも通りに仕事を終えて、それぞれの平穏と安息が待つ家に帰るだけでいい。
そう、誰もが信じて疑わなかった。
【8:00】デモン掃討作戦開始 総員目標へ向けて進軍
【9:00】A班とB班の現地到着完了 休眠中のデモンを多数発見、予定通り攻撃開始
デモン群の覚醒を確認、各班交戦に突入
A班戦闘開始、敵数約500 B班戦闘開始、敵数約600
C班……状況を報告せよ
【9:10】C班より緊急連絡! 敵数約2000オーバー!尚も増加中
デモンは休眠状態ではなくこちらを待ち伏せしていた可能性大
未確認の個体も確認、至急応援求む!繰り返す、至急‥‥‥
●
デモンの巣を目指して森林地帯を進軍中、イレギュラーな事態が発生。
戦闘開始後、僅か10分足らずでC班は窮地に陥っていた。いきなりの大ピンチである。
不快な叫びを上げて襲い掛かって来る異形の軍団を前にC班の前衛組はパニック寸前だ。
飛び交う弾丸に光線や衝撃波、斬撃や殴打の破壊音もとどまる事を知らない。
「囲まれてやがる!くそっ、こいつら何処に隠れてやがった?」
「本部との連絡は?」
「通信が不安定で何とも、届いていたとしても救援が来るまでかなり時間がかかる」
「おいおいおい!後衛たちと完全に分断されたぞ!マズい、助けにいかねぇと!」
「どうやって?こっちも手一杯なのよ!」
「慌てるな!こういう時こそ冷静に、あわてなーいあわてない、一休み一休み~」Zzz
「寝ている場合か!少しは慌てろやボケ!」
「何やってんスか部隊長!!イイのは顔だけか?働いてから死ね!」
「はいはい、わかってますよ。陣形を組み直しつつ後退!遺憾ながらこの場を放棄して撤退する」
「「「「了解!!」」」」」
作戦開始前の情報によるとデモンは全て休眠状態にあり、先制攻撃の後こちらが終始有利で事を進められるはずだった。
だが、蓋を開けてみればデモンは目を覚ましており逆にこちらが罠にハマる結果となった。
無差別に人を襲うだけのデモンが、策を巡らせたとでも言うのか?それとも別の何かが?
何かがおかしいと全員が感じているが、悩んでいる余裕は無い。
今はこのピンチをどう切り抜けるかを考えなくてはいけない。
分断された後衛たち、どうか無事でいてくれと皆が願う中で状況は更に悪化する。
植物や動物に見えるキモイの混じって、機械の体に歪な肉片がくっ付いたような化物が現れたからだ。
「見て部隊長!見慣れないデモンがいる」
「アレはデモンなのか?機械部品が多すぎるような…」
「元工兵の俺には解るぜ。あの半身はリオンだ!デモンの奴ら、AMと融合してやがる!!」
「マジかよ!?」
「きめぇ!進化に失敗したデジモンみたいで、きめぇ!」
リオンは史上初の量産型アーマードモジュールであり、世界的に普及した最初期の起動兵器である。環境や用途に合わせたカスタマイズを施されて現在も多くの現場で活躍しているロボットである。
それをデモンが体の一部として取り込んで利用している!?
そんな事例は今まで聞いたことが無い。やはり何かがおかしい。
リオンと融合したデモンは機械パーツの背部テスラドライブで浮遊し、腕に備え付けられた機関砲を撃ってくる。
奴め!AMのパーツを完全に自身の一部として使いこなしていやがる。
「数がまた増えた!いよいよヤバいぞ」
「退避!退避するんだ」
「負傷者には肩を貸してやれ!何としても生き残るぞ」
新型が現れてからデモンの動きがより苛烈になった。
指揮官の登場に戦意高揚したかのように雄叫びを上げ、なりふり構わず攻撃して来る。
倒しても倒しても敵の増援は止まず、C班は消耗戦を強いられ後退もままならない。
(登場してから積極的に攻めてこない、何がしたい、何のために、何を待っている?)
戦闘の最中、部隊長は新型を注意深く観察していた。
試しにアサルトライフルの掃射を新型へ向けてみると、即座に他のデモンが楯となり被弾する。
(はっ、そいつは壊されたくないってことかい)
それが解れば十分だ。
「新型を集中して狙うぞ。他デモンの注意が逸れた瞬間逃げる!全員で超逃げる!」
「「「「「それっきゃない!!」」」」
「今だ!各員、一斉射!!」
「「「「「了解!!オラオラオラオラァ!!」」」」」
手持ちの重火器を全弾撃ち尽くすように乱射するC班メンバー。
集中砲火された新型は回避行動を取ることもせず、周りのデモンが身代わりとなって倒れて行く。
思った通り、デモンの群れは新型を守るのに必死だ。
これで退路は確保できた、今の内に‥‥‥
「部隊長っ!」
「何!?」
「―――――」
油の切れた歯車が軋むような声が通り抜けると同時に強い衝撃。
部下に押し倒される部隊長に見えたのは、自分を庇い背中を斬られる部下の姿だった。
デバイス装甲と戦闘服の防護を容易く切り裂いたのは新型デモン。
他のデモンを楯にしているだけだった新型が、信じ難い速度でこちらに迫り攻撃を仕掛けてきたのだ。
「ヤロウ!ふさげやがってぇぇ!」
仲間を攻撃された他のメンバーが激昂し、浮遊し旋回する新型デモンを射撃するが難なく躱される。
新型の腕には中型の実体剣アサルトブレードが握られている。リオンの標準装備であるが、切れ味が元々のブレードと違いすぎる。
デモンの覇気でリオン本来のスペックと武装が数段以上に強化されているようだ。
(行動パターンを変えた、こいつ学習している?)
高速で浮遊しブレードによる斬撃連続で見舞って来る新型、静観していた時の動きとは桁違いのスピードだ。
他のデモンも攻撃に転じて来た。光明が見えた矢先にマズい状況へと戻されてしまった。
「しっかりしろ!ちょっと背中斬られただけだろ、おい!」
「くっ、イケメンなんて庇うんじゃなかったぜ……もういい、俺のことは……置いていけ」
「バカな事を言うな!次の合コン、美人ウマ娘を呼ぼうって言ってたじゃないか!彼女作るんだろ!」
「ウマ娘の彼女か……欲しかったなあ、愛バになって結婚して…やがて、うまぴょい」
「すればいい!存分にぴょいればいい!どんな子がタイプだ?お前の好きそうな娘に声かけまくってやるから諦めんな!」
実は旧知の仲であった部隊長とそれを庇った部下のやり取り。しょーもない!
デモンの迎撃に忙しい他のメンバーは『後にしろよ』とツッコむ気力も余裕もない。
「俺は、そうだな、後衛にいる子たちが超タイプだな。くそ、もっと話しておけばよかった」
「あれか!アレは無理だ!4人とも極上の美少女ウマ娘だぞ。イケメンを自負する俺が不整脈起こしそうなったレベルの女だ!」
「はは、お前めっちゃキョドってたもんな。俺は立派に戦ったと、彼女たちに伝えて‥‥‥くれ」
「自分で伝えろ!イケメン庇ったブ男はカッコイイって言われたいだろうが」
「ブ男……言う…なや」
ブ男が気を失って倒れる。イケメン部隊長はその体を支え、迫りくるデモンを睨みつける。
「部隊長指示を!」
「自爆っスか?今こそ自爆スイッチを押す時っスか?」
「誰でもいい、誰か何とかしてくれーー!」
「あー貧乏くじ引いたあ!簡単なクエストだと思っていたのになあ!」
「死んだら化けて出てやる!デモンなんか大っ嫌いだ!」
「部隊長結婚して!」
「部隊長って元ホストってマジ?」
「ぶたいちょう!!」
「ブタイチョウ!!」
「あー、うるさいうるさいうるさーい!!!」
未だに死傷者が出ていないの奇跡だが、こうしている間にもドンドン削られていく。
負けだ。デモンの戦力を見誤ったこちらの完敗だ。
この分だとÅ班とB班の方にも新型や増援が出没している可能性がある。救援はどう考えても間に合いそうにない。
(万事休すか)
ならば、一体でも多くのデモンを道連れにしてやる。
俺たちがここで倒れても、誰かが仇を取ってくれる事を信じる。
俺が元ホストだとバラした奴もついでに許さない。
覚悟を決めてライフルの銃口をデモンに向ける。近接戦用のビームソードも何時でも抜けるように準備。
C班の皆、こんな部隊長ですまないな。どうか、1人でも多く生き残ってくれ。
「今から俺が新型に特攻をかける。陣形はもうバラバラだ、各自散開してなりふり構わず逃げろ!」
「そんな!部隊長!」
「いいから行け!‥‥‥うぉおおおおおおおおおっ!!」
己を鼓舞するように雄叫びを上げて特攻する。
(合コン楽しみだったのに、あークソっ!ついてねぇ)
ウマ娘の彼女は俺だってほしいんだ。
後衛に回した4人のウマ娘。まだ学生だと言うのに、どえらい美人で可愛かった。
何処のお姫様が来たのかと思って心臓が跳ね上がったわ!
(神様!せめてあの子たちは助けてくれよな)
自分の行動が誰かの生に繋がる事を願いながら、新型デモンと相対する。
ライフルのトリガーに指をかけて引く、デモンがこちらを袈裟斬りにせんとブレードを振り下ろす。
僅かに向こうが速い!舌打ちが辞世の句になりかけた。
その時、戦場に雷光が走った。
「━━━━」
地を走る雷光は人も障害物も避け、一直線に新型デモンへ向かいその体を絡めとる。
その動きは森を縦横無尽に走り抜ける大蛇の如し。
苦悶の叫びを上げ暴れようとするデモンの体が、雷光のやって来た方向へと引っ張られて行く。
そこに走り込んで来るウマ娘が二人、姿を現す。
「クロさん!」
「ほいきた。キモイのはぶっとばすよ!」
先行していた黒髪のウマ娘は周りの木々を足場にしながら曲芸の高速移動。まるで猿だ。
雷光に引っ張られたデモンに接触した猿娘は、その頭部を事も無げに殴り飛ばし一撃で沈黙させた。
デモンの頭部がいとも簡単に弾ける瞬間を目撃した周囲は唖然とする。
「何っ!?」
「新型がたった一撃で」
「しかも素手だぞ!あの子、武器もデバイスも使ってねえ」
黒髪のウマ娘は両手に包帯らしき布を巻いているのみ、単純な
その体中に
黒髪が新型を片付け終わると、更なる雷光が二本走る。
デモンを絡めとり軽々と引きずる雷光の向かう先には、発生原であるウマ娘。
「二体同時、蹴り砕きます!」
涼やかな声と共に、ぶち込まれる強力無比な回し蹴り。
二体のデモンたちは抵抗の声を上げる暇もなくズタボロに破壊された。
両腕のみならず、全身から青白い雷を出しているウマ娘。
白銀の装甲を持つデバイスと風に揺れるマフラーを装着した姿は見るものの心を奪う。
「う、美しい」
「雷の覇気!?あの子は一体!」
「何だったいい!メッチャ助かった」
本能から危険を感じ取ったデモンたちは、新たな乱入者である二人のウマ娘に殺到する。
目を合わせて頷きあったウマ娘たちは交戦を開始、それはもう一方的な戦いとなる。
デモンの屍が積み上がるまで大した時間はかからなかった。
「遅れてごめんね。これでも急いで助けに来たんだ」
「負傷者がいるようですね。治療符をいくつか持って来ているのでどうぞ」
戦闘という掃除を終わらせた二人はC班前衛部隊に死者が出ていないことに安堵する。
一連の行動に唖然としていた部隊長たちは、この時になってようやく会話が出来るようになった。
「君たちは後衛の」
「はい。"ああああ"の者です」
「私たちもデモンの群れに襲われてね、後衛の人たちは本部まで撤退したよ。全員無事だから心配ご無用」
「じゃあ、ここまでは」
「我々二人が先行して駆けつけました。後二人は後衛を送り届けてから来ます」
「たった二人で、デモンの群れを抜けて来たのか?」
「そうだよー。ん?アル姉、おかわり来ちゃうみたい」
「あらあら、クロさんの鼻は覇気センサーより鋭敏ですね」
おかわりと言う単語に嫌なものを覚える暇もなく、デモンの増援がこちらへ向かって来る。
その数は先程よりも更に多い。
「ちょっと多い。めんどくさい」
「皆さんを守りながらだと大変です。ここは逃げた方が……よろしいですか部隊長?」
「あ、ああ」
撤退を決めた二人にその場の全員が同意する。
デモン群との接敵まで10メートルに迫ったとき、上空から飛来した物体が地面に着弾し爆音と大破壊をもたらした。
結果、デモンたち相当数が周りの木々ごと爆発四散することになった。
「ミサイル!?本部からの支援砲撃か?」
「こんな森の中でか!友軍の位置も判明していないのに‥‥‥まさか俺たち見捨てられた!?」
「違う違う、これはたぶん」
「クロさん。どうやら、少しだけ頑丈なのがいたようです」
「ありゃ?さっきの見慣れない奴かな」
爆煙と粉塵の中から機械と肉片が融合したデモンが数体飛び出して来た。
部隊長たちが苦戦していた新型だ。
爆撃によりダメージを負っているがその戦意は失っていない、寧ろ負傷し同胞を倒された事でより勢いづいた感がある。
機関砲をでたらめに撃ちまくり、ブレードと肉片から生えた爪や牙を振り回しながら突撃して来る。
クロとアル、そしてC班の面々が身構える。
光が飛んだ。
「━━━━」
C班部隊の後方から複数の光が飛ぶ。
声にならない叫びを上げていたデモンの
新型デモンたちは倒れ伏し動かなくなる。
「わお!百発百中~」パチパチパチ
「フフン、これぐらいチョロいもんです。早撃ちダイヤちゃんとは私のことだ!」
「知らないよw」
後方の茂みより新たなウマ娘がやって来る。
一人は手ぶらで、もう一人は見たことのない形状のビームガンを持っている。
ミサイルコンテナのような物はどこにも見当たらないが、さっきのは誰がどうやって発射したのだろうか?
「シロ、ココ、来てくれたんだ」
「後衛の方たちは?」
「全員無事本部に送り届けましたよ。今頃、A班B班も撤退して作戦を練り直していることでしょう」
「ミサイル…距離が際どかったよ」
「あれを撃ったのはココです」
「えへへ、でも助かったでしょ」
4人が集合した。
戦闘服も兼ねた青い学生服を来たウマ娘たちだ。
僅かに残る幼さとウマ娘特有の強さと美しさを備えた娘たち。
その存在感にC班の大人たちは圧倒される。
「君たちは、一体……」
「私たちはチーム"ああああ"。トレセン学園から来たウマ娘です」
「トレセン学園、どおりで強いはずだ」
「そして、マサキさんの愛バだよ!ここ重要だから覚えて帰ってね!」
「マサキ?誰だ?すまない、聞いたことが無いな」
「ぐぬぬ。こ、これから有名になるんだもん」
「ええ。歴史に名を刻むこと間違いなしの御名前ですとも」
「当然、私のマサキだからね」
「私のです」
「私のだってば!」
「ケンカしてはダメです。マサキさんが呆れてしまいますよ」
「「「さーせん」」」
賑やかなやり取りにまたもや唖然とするC班たち。
「ははは、あははは。若いっていいよな」
「ブ男、気付いたのか?」
「カワイイ子の気配を感じてな。いてて、背中がいてぇー」
「元気じゃねーか。まあ、よかったよ」
「だな。俺たち全員生き残ったぜ」
部隊長とブ男(仮)が拳を突き合わせてお互いの無事と健闘を称える。
それを機に『た、助かったあ~』とあちこちから声が上がる。
緊張の糸が切れヘタり込む者や泣いている者もいるが、殆どはチーム"ああああ"に対して感謝の意を示す者たちだ。彼女たちに手を合わせて拝む集団も生まれている。
「治療符いっぱい持ってるから皆に配ってあげて、他の物資もあるからね」
「はいはーい。足りないなら簡易ヒーリングだよね」
「マサキさんから直々に教わった手並みを披露してあげますよ」
「はい、どうぞ。歩けない方はこちらへ、担架を使ってあげてください」
ココが収納空間から次々に救援物資を取り出して配布していく。
非現実的な光景の連続に大人たちはツッコミを忘れてしまう。
治療と補給を終えたC班は撤退準備に入る。
"ああああ"の4人は撤退する班員を護衛する二名と、残って戦線を維持する二名に分かれると言う。
それを聞いた大人たちは慌てた様子で異を唱える。
「では、今度は私とココが残ります」
「増援デモンの足止めだね。任せといてよ」
「待ってくれ!そんな危険な行為は部隊長として認められない」
『そうだそうだ!』『逃げるんだよぉ』『一緒に帰りましょ、ね』と心配そうな声が残留を決めた二人にかけられる。
困ったなあと笑みを浮かべる二人。
『大人としての面子が潰れる』とか『学生(子供)を残して逃げるのは後ろめたい』とかは気にしなくていいと説明する。
「バカな学生二人が命令無視の独断専行したとでも、言っておいてください」
「そうそう、勝手にやるから気にしないでいいよ」
「そうじゃない!俺たちには君たちを無事に連れ帰る責任があるんだ」
「私たちの力を信じられませんか?」
「俺だってプロの端くれだ。君たちがここにいる誰よりも強いのは理解できる。でもダメだ!」
「どうしても?」
「どうしてもだ。実力差があろうがC班の部隊長は俺だ、命令には従ってもらう。嫌だと言うなら君たちを派遣した学園や操者に抗議も辞さない」
「「「「それはやめてください!!」」」」
『操者に抗議~』の所で4人が慌て出した。よっぽど恐い操者と契約をしているのだろうか?
部隊長は意図せず彼女たちにの弱点を突いた事をこれ幸いと思い、彼女たちに撤退を促す。
「いい人なのに頑固だ。どうしよう?」
「仕方ありません。部隊長、こちらをご覧ください」
アルは懐から取り出したカード状の物を部隊長に手渡す。
「これは?」
「騎神のライセンスカードです。メジロポイントが貰えるキャンペーンを機に作りました」
「律儀に作ってるウマ娘、始めて見たよ」
「メジロポイントで交換出来る商品が微妙なんですよ。日本酒とかビールとかウイスキー‥‥‥これ作ったの、まさか…」
「職権乱用マッチポンプなの?アル中のアル!!」
「はい?ココさんたちが何を仰っているのか意味不明です。皆さんも作りましょう、今ならシークレットレア加工が無料ですよ」
「うわっwマジでキラッキラですよ。ちょっと欲しくなってきた」
騎神ライセンスカードは試験に合格し騎神と認められたウマ娘が作る事ができるカードだ。
身分証明書として利用できるのだが、特に携帯する義務は無い上に申請手続きがややこしいので、記念品のような扱いをされる一品である。
メジロ家認定のカードなので偽造するのは大変困難、仮に出来たとしてもメジロ家を敵に回すリスクを考えると割りな合わない。
カードにはアルの顔写真と真名に級位が表示されている。級位はでかでかと大きな金色の文字で書かれているのでどうやっても目立つ。
「…超級……だと!?」
部隊長が告げた級位に周りが反応する。
『マジで』『嘘っ!』『ほ、本物だ』とアルとカードを見比べながら戦々恐々とする。
「見ての通り私は超級騎神です。戦地での緊急事態発生につき、騎神特権を発動します」
騎神には級位に応じた様々な特典や優遇措置がある。
例えば、ギルドで高難易度の仕事を受注しやすくなったり、報酬額が別途上乗せされたりとかだ。
近年、増加傾向にあるものの、まだまだ貴重な超級騎神には騎神特権なるものまである。
その一つをアルが執行した。
「超級騎神である私とその所属チームは、これより戦況に応じた行動を取らせていただきます。よろしいですね?」
「しかし…」
「部隊長が踏ん張ってくれたお陰で死傷者ゼロです。後は我々に任せて、治療に専念してください」
「俺は別に負傷などしてな」
「はい無理しちゃダメ。気を張っているから痛みを感じていないかもだけど、腕折れてるよ。それにデモンの弾も何発かもらってる」
「ぐっ……」
新型デモンと戦闘した時の傷を指摘された部隊長は歯噛みする。
班員たちにバレないよう、覇気で自己回復に努めていたがアッサリ見抜かれていたようだ。
「他に超級の方はいませんね?では、今この場において公的に一番強いと認められるのは私です」
「このキラキラッのカードが目に入らぬかあ」
「ひかえおろう~、こちらにおわすお方をどなただと心得る」
「恐れ多くも"ああああ"のドスケベ娘、アル中様なるぞ!」
「3人とも『めっ!』です」パシンッ!ビシンッ!ベチンッ!
「「「あいたぁっ!!!」」」
勢いとノリでアルを黄門様の如く祀り上げる。
アル本人にはお気に召さなかったようで、3人は強烈な尻尾ビンタを尻に食らい悶絶する。
「アルチュー?」
「ど、ドスケベなのか」
「あんなに綺麗で可愛いのに強い!そしてエロい!」
「最高じゃないっスか」
超級以上の騎神は戦況に応じた行動を取る事が許されている。
指揮系統が混乱する上に余計な不和や軋轢を生むことになるので滅多な事では特権を使う者などいないが、今回は仕方がない。
ここまで言われてしまってはC班の大人たちも従うしかない。
それが、自分たちの安全を思っての行動だと理解したのだ。
「すまない。本部に戻ったらすぐに救援を寄越す。それまで何としても…」
「わかってますって。無理せず生き残ることに専念しますよ」
「さあ、早く行って。もうすぐデモンが来そうな予感がビンビンする」
「武運を祈る。C班前衛!総員撤退だ。急いで本部に戻るぞ」
「「「「了解!!」」」」
「じゃあね。すぐ戻るから、後よろしく~」
「シロさん、ココさん、いいですね。作戦は『いのちだいじに』ですよ?」
「了解です」
「お任せあれ」
クロとアルがC班を率いて撤退して行った。
残ったシロとココは仲間を見送った後に索敵を開始、周囲の状況を確認して次の戦闘に備える。
「見た?変なデモンがいたの」
「AMを取り込んでる肉片ですね。これまでにない新種ですよ、融合体と名付けましょう」
「ラボで分析してもらわなきゃだし、サンプルをいくつか持って帰ろうと思うんだけど」
「気持ち悪いので保管と運搬はココに任せます」
「私の収納空間に感謝してよね」
「うわーすごーい。憧れちゃうなーダイヤにはとてもできない」棒読み
「まるで心が籠っとらんな!」
と、言っている間にデモンの増援がやって来た。
シロは背部にマウントされたライフルを手に取り構える。両腰のホルスターにセットのビームガンも何時でも抜けるように準備しておく。
ココは収納空間から銀色の回転式拳銃を二丁取り出した。
「私も二丁拳銃でいってみちゃう」
「真似っ子ですか?ガンファイトで私に勝とうなんて千年…はや‥‥‥その銃は!?」
「気付いた?どうこれ、いいでしょう?」
「完全受注生産のGリボルバーカスタム!?それも初期ロットの、メジロ刻印入り限定シルバーモデルだとぉ!ほ、欲しい!」
「いいよね、この輝きと精密さ。職人の愛と執念を感じる」
「言い値で買おうじゃないか!売ってくれ、いや、売ってくださいココ!ココさんってば!」
「えー、どうしよっかなあ。普段からシロちゃん私に冷たいからな~」チラッ
「謝りますから。そうだ!私のビームガン"ショートランチャー"と交換しましょう。これは自分用に作ったヤツで性能は折り紙つき…」
「あ、デモン来ちゃう。この話は後でね」
「ひぃぃ!限定モデルでの戦闘はやめてください!いくらすると思っているんですか!それは鑑賞用にとっておくんですからぁーーー!」
「よーし、撃って撃って撃ちまくるぞ~」
「ダメ――ッ!未使用品がいいのーー!」
シロ、ココ、デモン増援と戦闘開始。
●
皆さんどうも、ラーメンとマサキが大好きファインモーションだよ。
今はデモンと戦闘中なの。
懇願するシロちゃんがあまりにもしつこいので、撃ちまくりは止めた。
Gリボルバーを収納して別の武器を選択することにしよう。
後日、Gリボルバーとシロちゃん秘蔵の"マサキ隠し撮り写真"を物々交換する手筈になっている。
風呂上りとお昼寝中のベストショット、いただきだぜぇ!
「ライフル、Nモードで狙い撃つ!」
シロちゃんのオルゴンライフルが軽快な音と共に実弾を吐き出す。
貫通力のある弾丸は接近していたデモン数体を撃ち抜き吹き飛ばしていく。
オルゴンライフルはビームガンのショートランチャーと同じく、シロちゃん自分用に開発した専用装備だ。
マサキが異世界から持ち帰ったデータと新素材を採用し、サトノとファイン両家技術部の協力をへて完成した武器はバスカーモード時の覇気にも耐えうる頑丈さを持っている。
ライフルはビームの『B』モードと実弾の『N』モードで撃ち分けが可能、二丁のショートランチャーと組み合わせることによりクロスボウを形成、結晶化した
と、自慢気にシロちゃんが教えてくれた。
「いい銃だね」
「女神テニアさんが昔使っていたという銃を参考にしました。我ながら自信作です」
「その調子でお願いね。さて、私はどうしようっか」
「休んでいていいですよ。マサキさんの愛バは私1人で事足りることを証明しましょう」
「そう言われちゃうと、休んでいる訳にもいかない、ね」
足元に手頃な石を見つけたのでデモンに向かって投擲。石つぶてを食らぇー!
命中して砕け散る石、食らったデモンは怒りの叫びを上げる。
いきり立ち向かって来るデモン、その体をシロちゃんの放つ弾丸が無慈悲に貫く。
「ストラ―イク!でも、石の強度が足りなかったぁ」
「また、原始的な」
「古来より投石は実戦的かつ有効な攻撃方法だよ」
「ネイチャーウェポンはドンドン使っていくスタイルですか。割と好きかも」
話している間にもデモンはやって来るが、シロちゃんが近づく奴らを一層してくれるので安心。
ちょうどいい機会なので、私のスキルについて解説しちゃおう。
一つ目は"
お父様譲りの力で、ファイン家の血を引くものが極まれに発現させる空間制御能力。
内緒の手品だと言って、お菓子をよく出してくれた優しいお父様……種も仕掛けもあったんだね。私にも出来たよ。
子供の頃、収納出来る物の大きさは手のひらサイズで容量も手提げ鞄ぐらいが限界だったけど、1stの私と融合したりマサキと契約したことで、今では結構な大物も入れることができちゃうの。
C班のみんなに渡した救護セットや各種武装をメインに収納しているけど、空間に収めた物は温度や鮮度を保つことが可能なので、食材や料理を入れておくのにも大変重宝しているよ。
収納容量はナイショ、近頃ドンドン大きくなっているような気がしないでもない。
やっぱり、マサキとの結びつきが強くなってからだよね……えへへ、愛だよね愛。
「収納した物をずっと放置した場合はどうなるのです?」
「消えるよ」
「どこに!?」
「たぶん、私の覇気に変換されて消滅するんじゃないかな」
「ということは、アイテムボックスの正体はココの胃袋なのでは……キモ怖い」
「何でも捕食吸収しちゃう、シロちゃんの尻尾も大概だと思うけど?」
いろいろ試した結果、一ヶ月すると収納した物は消えてしまう。
だから、日頃からの整理整頓はもちろん、何を何時入れたのか忘れないように注意しないといけない。
仕事先で買ったご当地のカップ麺を忘れて放置した挙句、食べ損ねた悔しさも今も忘れない。
「その空間内がどうなってるのか興味深いですね」
「残念ながら確認できないの。一度、カメラ突っ込んでみたけど何も映らなかったし」
「気になりますね。ちょっと私を収納してみてくださいよ」
「怖いもの知らずだね!でも無理。理由はわからないけど生物はどうやっても入らないの」
「そいつは残念です。いざという時シェルター代わりになるかと思ったのですが」
大して残念な様子でもなく、デモンを撃つ作業に戻るシロちゃん。
なんだ言ってみただけか。こいつめ、最初から期待していなかったな。
「そろそろ真面目に手伝ってくださいよ」
「一人で事足りるんじゃなかったの?」
「思ったより数が多い。今はココの手も借りたいところです」
「仕方ないなあ」
二つ目のスキルは"
アイルランドのお爺様に聞いたところ、王族の中でも金色の瞳を持つ者は、音楽や絵画などの芸術分野に優れた功績を遺して来たのだという。
お母様も私も金色の瞳を継承しているので、お爺様はもしやと思っていたらしい。
お母様はとても料理上手な人だった。見惚れるような包丁捌きをよく覚えている。
リクエストすればラーメンからデザートまで何でも作ってくれた。満漢全席を作った時はお父様と二人で『ヤベェ!』と叫んじゃったよ。
今思えばあれもスキルだったのだ。お母様の"解"が"食材と調理器具"の最適な使い方を読み取っていた。
歴代の王族たちは楽器や画材に"解"が反応していたのだと思う。
私は再び石を拾う。すると、不思議なことが起こる。
物言わぬはずの石が話しかけて来たのだ。
『この俺を選ぶとは、中々の目利きだな、嬢ちゃん』
『力を貸してくれる?』
『おうよ。へへ、この森林に居座ること幾星霜。ついに俺の時代が来たぜ』
これは私の脳内に溢れるイメージであり、実際に会話はしていない。
頭に飛び込んで来る膨大な情報を私の脳がパンクしないよう処理した結果の会話形式だ。
マサキと女神様の通信のように、石とのやり取りは刹那の時間で行われるので戦闘に支障なし。
わかる、解る、理解した。
どのような握り方で、どの程度まで覇気を込めればいいかが全部解る。
『覇気を込めるよ』
『待ってました。もっと強くてもいいぜ』
『これぐらいかな』
『イイ感じだ。さあ、思い切って投げつけてくれや!』
『いくよ!』
次に理解するのは発射台に見立てた自分の体だ。
野球よりサッカー派なんだけど、今この瞬間の私はエースピッチャーになる。
筋肉の使い方、力を込めるタイミング、覇気の配分、ピッチングフォームは完璧だ。
『今だ!ぶちかましてやれ!』
『せーのっ!』
大きく振りかぶって……投げる!
「フッ!!」
覇気を込め投げられた石は十分な速度と威力もった武器と化す。
顔がムカつくと評判の植物型デモンに命中し、その体を抉り破壊する。
自らに込められた覇気と衝撃の負荷により、石は砕けながら地面に落下してしまった。
『やったな。石ころにしちゃあ、いい仕事だったろう?』
『うん』
『短い間だが楽しかったぜ。あばよ』
『ありがとう助かったよ』
手を放れた石からは会話などできるはずもない。
だから、投げつけた後はこんな感じだろうなという、私の妄想にすぎない。
頑固親父風の石に感謝だね。
「『武器だ』と判断した物の使用方法を瞬時にマスターするスキルですか」
「うん。武器自体が最適な使い方をレクチャーしてくれる感じなの」
正確には、"殺傷能力ありと判断した物"限定に私の"解"が発動する。
石ころでもボールペンでもガラス片でもロープでもいい。
私が武器だと認識してしまえば、それは立派な武器となる。後はオートで発動可能、武器に合わせた戦闘技能がインストールされる。
知識だけを詰め込まれた経験値不足状態なので、何度か同じ武器を使って体を慣らすと更に良い。
歴代王族の中でもあまりに物騒かつ戦闘特化された"解"の持ち主が私ってことになるのかな。
マサキと戦っていく上ではありがたいので全く不満はない。
でも、お爺様を心配させたくないので『ラーメン限定で発動した』と嘘をついている。
『ラーメンをより深く熱く食べる方法が理解できるの!麺をするるタイミングバッチリ』
『そ、そうか……おのれ、またしてもラーメンか…』
お爺様、ガッカリというか呆れてしまっていたな。ラーメン嫌いにならないといいけどw
さすがに投石では限界がある。
庫から散弾銃"Ⅿ13ショットガン"を取り出しデモンへ発砲する。
接近していたデモンがヘッドショットを食らい絶命する。
ポンプアクションで
文句を言いながらもカスタムしてくれたシャカに感謝したい威力と爽快感だ。
「その調子で頼みますよ。チートスキル憧れちゃうな~」
「・・・・」
「なんですかその目は、褒めているんですよ?」
「べっつに~」
チートスキルとか……あなたに言われても、ねえ。
私に言わせればスキル無しで異常なスペックを誇る、シロちゃんの方がチートだと思う。
"解"の完全上位互換である優秀な頭脳に、オルゴンテイルの捕食機能、素の戦闘能力も高い。
たぶんだけどこの子は‥‥‥いいや、ムカつくから認めてやらない!
こっちは必死だってのに、涼しい顔してドンドン先に行っちゃうんだからなあ。
庫があって本当にで良かったよ。
「負けないからね」
「はい?デモンごときに負けはしないでしょう」
「デモンにも、シロちゃんにも、負けないよ」
「え?何このウマ、私も標的にしてる!?ココが乱心したぁ!二人とも早く戻って来てくださいよ――!」
勘違いしたままライフルをぶっ放すシロちゃん。私に背中を見せないように警戒中。
私も負けじとショットガンを何度も撃つ、庫に弾はたっぷり用意して来たので大盤振る舞いだ!
程なくして、C班を本部に送り届けたクロちゃんとアルが合流した。
4人になった私たちは一気に攻勢に出てデモンを殲滅するのであった。
●
C班が前線基地に撤退したことにより、A班とB班にも撤退命令が出た。
予想を超えるデモンの数に新型が確認されたとの情報も飛び交い、司令部は一時騒然として緊張が走った。
C班前衛組に多数の負傷者が出たものの死人はおらず、A班B班の人員も無事であった幸いである。
無謀にも増援の足止めに残った学生がいるとのことで、実力者のみで構成された救助隊が編成されて現地へ急行する。
しばらくして、ピンピンした学生4名と狐につままれたような顔をした救助隊が無事帰還。
基地で無事を待ち望んでいた者たちは拍手喝采のガッツポーズで出迎え。誰もが自分たちと仲間の無事を喜び合った。
デモンの追撃はなかったがクエストの本懐は未達成だ。
司令部は作戦の練り直しを行い、午後から改めて攻撃を仕掛けようとしていた。
時刻はちょうどお昼を過ぎた頃。
クエスト参加者には交代で見張りをしながら補給を行うように伝達された。
戦闘で疲弊し腹を空かせた人で食堂は溢れかえり、外の出店や屋台も大賑わいである。
どこからかキッチンカーもやって来ており、商魂たくましい者たちの客寄せ合戦も展開されている。
デモンの動きによっては、いつまた戦闘が開始されるかわからない状況だ。
しっかり食事を取り、次の戦いに備える事の重要性を誰もが理解しているのでランチ時は真剣なのだ。
『食える時に食っとかないとね!』と偉い人も言っていた気がする。
「よう!生きていたか」
「そっちもな」
基地内食堂でかつ丼を食べていた男に声がかけられた。
声をかけてきたのは、トレイに焼き魚定食を乗せ同じメジロの戦闘服を着た男である。
二人とも30代前半のメジロ家機動部隊の隊員であり腐れ縁の同僚である。
今回の作戦では別の班に配属されていたが、こうして無事に再開したことで笑みがこぼれる。
拳を突き合わせて互いの健闘を称え、相席して一緒に飯を食べることにする。
「お前C班だったんだろ?マジで災難だったな」
「ああ、今度ばかりはマジ終わったと思ったぜ」
「何でも超強い騎神が大活躍したって話じゃねーか。詳しく聞かせてくれよ」
「……この目で見た俺にも理解し難い話になるぞ。それでもいいか?」
「おう。デモンから皆を守って見事逃げ切るなんて大した連中だがいたもんだ」
「適当な情報が伝わってるな。あいつらは逃げたんじゃない、残ってデモンを皆殺しにしたんだ」
「は、はぁ?皆殺しって、数は2000を超えていたんだろ。どこの所属だ?さぞかし名のある騎神なんだろうな」
「トレセン学園の生徒だ」
トレセン学園と聞いた男は驚きつつも納得の表情を浮かべる。
前々回の掃討作戦で活躍したシンボリルドルフ率いる学生部隊の武勇は今でも語り草だからだ。
その前例もあって、今作戦での学生参加者枠を増やしたのである。
やっぱりあそこの学生は他とは違うな、と男は思う。卒業したら即行でプロか御三家入り確定だろうとも。
「なんだC班には皇帝様の騎神部隊が参加していたのか、ならしゃーないな。で、どうだった?数十人のウマ娘だ。気になる子の一人や二人いただろう」
「4人だ」
「たったの4人か。面食いのお前は相変わらず厳しいねぇ」
「違う。C班に配属された学生は4人だけだ。あいつら4人だけで、2000体以上のデモンを倒しちまったんだ…無傷でな」
「いや、いやいやいや!さすがにそれは」
「嘘だと思うだろ。俺だってそう思いたいよ。でも、見ちまった解っちまった。アレは次元が違う生物だってな。デモンや俺たちが束になっても敵う相手じゃない」
「・・・・」
かつ丼をかきこみ頭をかかえる同僚に言葉を失う。
4人に助けられた後、救助隊に志願した男が現場に戻って見たのは、焼け野原になった森林と無数に転がるデモンの残骸。そして談笑しているウマ娘4人だったという。
「綺麗な顔してよ、マサキがどうとか言って笑ってたんだ。助けに来た俺たちに『ご苦労様です。こっち終わったので次に行きましょう、次』とアホ抜かすのを引き留めて連れ帰って来たんだ」
「とんでもねぇな。で、そのお嬢ちゃんたちは?」
「司令部に行って散々説教と感謝された後は、軍とギルドのスカウト連中に囲まれていたぜ。ありゃあ民間や御三家からも間違いなく声がかかるな」
「ほーう。どんな奴らなのか俺も一目見たかったぜ‥‥‥何だ?出入口が騒がしいな」
「噂をすればだ。ほら、アレだよ」
かつ丼男が顎でしゃくるようにした先には、食堂にたった今入室して来たウマ娘が4人。
青いトレセン指定の学生服を着た身目麗しいウマ娘で、そこにいるだけで得も言われぬ気品と存在感を醸し出している。極限まで抑えているであろう覇気は、その残滓だけでも尋常ではないことがわかる。
彼女たちが入室した瞬間に食堂は静寂に包まれ、すぐに騒めきを取り戻した。
噂はあっという間に駆け巡り、同じような会話をしていた者ばかりなのだろう。
彼女たちの後ろや周りにはスカウトを断られた連中が諦めきれずにくっ付いて来ているが、完全にスルーされている。
進行方向の人波はモーセの奇跡の如く割られていく中、4人組は会話に夢中だ。
「だからさあ、マサキさん担当日変わってよ~。ねえったら」
「嫌ですよ。アル姉さんの後は特に嫌です」
「え、私何かやっちゃってますか?」
「何と言いますか、アル姉さんが担当した次の日…マサキさんが、いつもよりお疲れになっている気がします」
「そ、そうでしょうか」(;'∀')
「そうだよ。なんかゲッソリしてるもん!いっぱい遊んでほしいのに気を遣っちゃう」
「どうせ夜のイグニッションしているんでしょ。イヤらしい~」
彼女たちは周りを気にすることもなく食堂のカウンターへ向かう。
会話内容に聞き耳を立てても、何の事かわからない。
「違いますよ。イグニッションはするものではありません。させるものです」
「迷言きたよ」
「マサキさんにイグニッション!していただき、ディスチャージ!までもっていけば、勝ったも同然です」
「どうしよう。もうエロい意味にしか聞こえない」
「エロい意味で言ってますからね!」( ー`дー´)キリッ
「「「このドスケベ、強い!!!」」」
まるで意味がわからんぞ!
だがしかし、エロい話をしているっぽいのは何となく察した。
とびきりカワイイ娘たちのエロトークに食堂に詰めかけた人々は興味津々だ!!
「なんか軽く食べときますか?」
「頼むならドリンクだけにしておいて。実はお弁当持って来てるんだ、全員分あるから安心してね」
「まさかのラーメン弁当?」
「どうかな~、期待してていいよ」
「そこまで言うなら。見せてもらいましょうか、ココ弁当の性能とやらを」
「楽しみですね、お弁当」
ドリンクを注文し終えた彼女たちは空いている席を探すが、簡単には見つからない。
ランチタイムのピークを迎えた今、飢えた人でごった返す食堂では無理もない。
そんな彼女たちにチャラそうな男が先陣きって声をかけた。
「お嬢さんたち、ここ空けるから座りなよ」
「あ!ズルいぞてめぇ。こいつより俺が先にどくから座ってくれ」
「嫌ね、下心丸出しの男は。あなたたち、こっちに来なさい。私のチームと相席しましょうよ」
「よかったら奢るよ。君たちの武勇伝をたっぷり聞かせてほしいな」
「いや待て!ここは俺が」
「私が譲るんだってば!」
席譲り合戦勃発!
噂の彼女たちとお近づきになりたいと思った連中が、きっかけを欲するがために起こった醜い争いである。
ドリンク片手の4人は面倒な事になったと言う顔をしている。
その光景を見ていた30代の男二人、焼き魚にかぶりついた方の男は呆れた表情を浮かべる。
「バカな奴らだ、どう見ても"高値の花"それも最高級品だってのがわかんねぇのか」
「何だそりゃ?お前こそ彼女たちの何がわかんだよ」
「俺はお偉方の護衛任務を何度もこなして来た。メジロ家の前はサトノ家で働いていた経験もある。だからわかる、あの4人からは権力者の匂いがするってな」
「へぇ。強いだけじゃなく、いいとこのお嬢様でもあるってか」
「恐らくな。あの4人からしたら、この場にいる全員が取るに足らない存在なのさ」
「なんか落ち込んで来た。今は飯だメシ!かつ丼に集中しよう」
「それがいい。俺たちには一生縁のない娘たちだ。さっさと忘れちまちまおう」
男二人は昼食に集中することにした。
食堂のメニューはどれも基本"ウマ娘サイズ"の量で提供される。従って、食べ応えはバッチリだ。
食べきる自信が無ければ『少な目』『人間用で』と注文時に言わなければ後悔する。
もっとも、腹を空かせた戦闘要員たちは人もウマ娘も関係なく大盛にされた食事を完食するのだが。
「チーム"ああああ"の皆さん、いらっしゃいませんか?"ああああ"の方たち、いたら返事してくださーい」
食堂にメジロの戦闘服を着た若いオペレーターが飛び込んで来た。
変な名前のチームを探しているらしい。
「ここにいるよ~」
「こっちです、こっち」
呼び声に反応するのは、騒ぎの中心になっていた4人であった。おい、チーム名なんとかしろ。
「良いかった、こちらでしたか。すぐに大会議室へお戻りください」
「えー、お説教はもうかんべん~」
「そうではありません。皆さんの実力を高く評価した司令部が重要任務を任せたいと」
「危険な任務の間違いでは?」
「確かにその通りですが、報酬は上乗せされます。任務達成の暁にはチームの名声もうなぎ登り間違いないかと」
「あら、その気にさせるのがお上手ですね」
「自由に暴れさせてくれるなら考えるよ」
「それは上の者と相談して決めてください」
「10分後でいいですか?ドリンクを飲む時間ぐらい許してくれるでしょう」
「わかりました。では、10分後にお待ちしています」
オペレーターは一礼して足早に食堂を後にする。
作戦司令部直々にお呼びがかかるとは、やっぱすげーわ!と周囲がざわつく。
結局、"ああああ"の4人は立ったままドリンクを一気に飲み干す。
豪快に一気した後、黒髪のウマ娘が『けぷっ』と可愛らしいゲップをしていた。
頷き合った4人は人の間を縫うように移動し食堂を出ようとする。
相手にされなかった連中の残念そうな呟きが漏れる中。
「・・・・ん?」
焼き魚の小骨と格闘していた男は"ああああ"4人の中一人、前髪にひし形メッシュの入ったウマ娘と目が合った。
「んんん?」
男の方は特に気にも留めなかったが、ウマ娘は怪訝な表情を浮かべたままドンドン近づいて来る。
「お、おい」
先程、忘れようと思った存在が急接近して来たことで、かつ丼を食べていた男が動揺する。
何事かと周りを見渡す間も接近は止まらず。ウマ娘はすぐ傍に立った。
恐ろしく整った顔立ちを近づけられ、男はさすがに焦る。彼女が見ているのはどう考えても焼き魚食っている自分だ。
『何か用か?』と言いかける前に、向こうが先に口を開く。
「もしかして、ゴンザブロウさん?」
「た、確かに俺はゴンザブロウと言う者だが、どうして君がそれを?」
焼き魚を食べていた男は
こんなウマ娘の知り合いに心当たりは無いはずなのだが。
「私ですよ私!ほら昔、父様に仕掛けたイタズラの経過報告をお願いした」
「イタズラ?経過報告……どこかで」
「
「!!」
ゴンザブロウの脳裏に電流が走る!思い出した。
いや、でもまさか、目の前の美少女があの・・・。
「ダイヤ様……なのですか!?」
「そうです。思い出してくれましたか」
ゴンザブロウの記憶はサトノ家で働いていた頃まで
ある日、執務室のソファーでうたた寝をしているサトノ家頭首に近づく小さな影見つけた。
頭首の娘である彼女は抜き足差し足で父親の所までたどり着き、手に持った何かを頭首様の顔に乗せようとしていた。
見て見ぬふりをすることも出来たが、一応護衛なので声をかける。
『何をしているのですかダイヤ様?』
『シッ!父様の
『ただのイタズラじゃないですか。やめましょうよ、後で絶対怒られますよ』
『黙っていてくれたら、お給料に色を付けます』
『俺は何も見ませんでした』
『物分かりの良い部下は好きですよ。いつ気付いたか、後で報告お願いします』
『かしこまり!』
頭首を起こさないようヒソヒソ声で交わされた密約だった。
その後も何度か同じような事があり、最終的に"飴細工で作ったグラサン"を装着した頭首が風呂に入るまで全く気が付かず『今日、なんか顔がベタベタする。これがオイリー肌?』と呟いていた上に、風呂上りに『僕のサングラス知らない?』と言っていたのには参った。
『湯で溶けたんですけどぉ!』『なんで気付かないのバカなのw』と二人して笑い転げたのはいい思い出だ。
その時の、短い間だが交流の合った美しくも可愛らしい令嬢が、目の前のウマ娘なのだという。
「懐かしいですね」
「いや本当に、それにしてもダイヤ様。随分と、いろいろご立派になられて!見違えましたよ」
「よく言われます。ゴンザブロウさんは老けましたねwその髭何ですかww」
「今の自分は部下もいる身です。そろそろ貫禄を出し行こうと思いまして」
急に始まった思い出話に周りはポカンとする。
かつ丼を食べていた男に至っては、プルプルと震えながら割り箸をへし折っていた。
「その戦闘服……メジロですね」
「これは!その、えっと」
「別に構いません。サトノ家は薄給でしたし、ゴンザブロウさんは派遣でしたし、私はとある事情でちょっと前まで爆睡してましたしー」(´Д⊂グスン
「申し訳ありません!ですが、このゴンザブロウ!サトノ家とダイヤ様たちにお世話になったこと、メジロ家に雇われた今も忘れたことは誓ってありません!」
泣き真似をするウマ娘に慌てて弁解するゴンザブロウ。
誇らしげに着ていたはずのメジロ製戦闘服を、今すぐキャストオフせん勢いだ。
その様子を見たウマ娘はケロッとした顔で微笑む。
「冗談です。でも、もしメジロ家に嫌気がさしたらご一報くださいね。家はいつでも歓迎します」
「ははは、その時はお願いします」
「シロー!何やってんの行くよー」
「あ、はーい。やれやれ、もう行かないといけません」
「ダイヤ様たちは次の作戦にも?」
「ええ。きっと敵の中枢に放り込まれますよw熱戦激戦バッチコーイてなもんです」
「武運長久をお祈り申し上げます!」
「ええ、お互い無理せず頑張りましょうね。では、ごきげんよう」
「は!どうかお気を付けて」
優雅な微笑みをして颯爽と立ち去って行くウマ娘。可憐だ!
その背が消えるまで敬礼のポーズを崩さないゴンザブロウ。
彼女の残り香と覇気が消えた頃、ようやく着席したその顔は満ち足りていた。
冷めてしまった味噌汁と一飲みして、向かいに座る青筋を浮かべたかつ丼男に声をかけた。
下手くそなウインク付きである。
「な?」
「な?じゃねーよぉぉ!!今の何だコラクソボケ!!」
「ん~前の上司にバッタリ遭遇しちゃったみたいな?」
「『俺たちには一生縁のない娘たちだ』って言ったのお前だよね!?」
「訂正しよう。お前にはなかったが、俺には縁が合ったみたいだww」
「「「「死ねぇぃーーー!!」」」」
かつ丼男だけでなくやり取りを見ていた周りも怨嗟の声を上げて殴りかかって来た。
ゴンザブロウを敵視する者が全方位から迫って来るが、当の本人は突然の再開に思いをはせ幸せそうだ。
「はぁ緊張した~。まさかあのダイヤ様がなあ。あんなに小さかったのに、あれが噂の本格化ってやつか、すげー美人になって、まあ昔からメチャクチャ可愛らしいとは思ってたがな」
「おい皆!こいつの戦闘服脱がすぞ!裸にしてデモンへのおとりにしてやろうぜ!」
「「「「賛成!!」」」」
「やめ、うぼあーーっ!ダイヤ様~ッッ!!」
食堂の乱闘騒ぎはしばらく沈静化しそうになかった。