俺と愛バのマイソロジー   作:青紫

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エンカウント

 不測の事態があったものの、デモン掃討作戦は続行される。

 監視衛星にドローンを駆使した捜索と午前中に接敵した群れの行動パターンを予測したことで、デモンの大群が潜伏している場所を新たに割り出したのだ。

 

 午後から作戦は至ってシンプルなものになった。

 強力無比な戦闘力を持つ少数精鋭を独立部隊として編制し、大量のデモンが巣食っていると思われるポイントへの威力偵察を行う。

 やや遅れてから、残りの部隊は東西に分かれてデモンを包囲しながら進軍を開始。

 周辺の敵を掃除しながら独立部隊と合流、全軍の力をもってデモン殲滅を目標とする。

 ただし偵察の結果、デモン側とこちらの戦力差が大きくかけ離れ勝機が見えないと判断された場合は作戦を中止し、掃討作戦は後日に延期。準備を整えてから再度アタックをかけることになる。

 

 危険な役回りである独立部隊に選ばれたのは、まだ年若いウマ娘たち。

 チーム"ああああ"の4名、アル、ココ、クロ、シロであった。

 

「威力偵察?全て倒してしまってもかまわんのだろう」

「「「「どうぞどうぞ!」」」」

 

 司令部とのやり取りは大体こんな感じで終わった。

 いける!と思ったならデモンの巣窟で暴れてもいい、(むし)ろ全部やっつけてくれたら万々歳!

 と、いった様子で偉い大人たちが揉み手をしながら4人を送り出したのである。

 

「まあ、いいんですけどね。危険手当でボーナスも頂けるようですし」

「ガッポリ稼いでマサキさんを驚かせましょう」

「そしてたくさん褒めてもらう!」

「最高の報酬は操者の喜ぶ顔だよね」

 

 4人は高速で森林を駆け抜ける。

 道中で散発的に遭遇するデモンはすれ違いざまに片付けておく、撃ち漏らした奴は後から来る部隊に任せていいだろう。

 目的地に到着して暴れ回るのが自分たちの仕事だ。

 速やかに急行し、速やかに終わらせ、速やかに帰る。早くマサキに会いたい一心だ。

 

「今頃きっと、お仕事中ですね」

「マサキさんは人望ある方ですから、最近は医務室を訪れる生徒も多いです」

「うー、それはちょっと心配だな」

「どこかのメスウマにちょっかい出されてなきゃいいけど……」

 

 操者が人気者になって鼻が高い。けどその分、余計な虫が寄って来るのは勘弁してくれ。

 今朝のマーキング、もっと強めにやるべきだったかなと思う4人であった。

 

 ●

 

 トレセン学園、昼過ぎ頃。

 午前中に館内プールで行われた水練は血の池地獄になったりして大変だったが、何とか事態は終息した。

 

「うーん」

 

 医務室には椅子の背もたれに寄りかかりながら伸びをしているマサキがいた。

 今日は医務室を訪れる生徒が二割増しで多い。

 ケガ人相手にヒーリングを何度も行い、治療報告と電子カルテをまとめていると、あっと言う間に午後の時間帯に突入した。

 

「理事長が無茶な思い付きを実践するからなんだよな」

 

 昨日姉さんと遊んだスマブラが大層お気に召したらしく『生徒たちが学園で大乱闘したら最高じゃん』という思考に辿り着いた理事長は、朝礼で意気揚々スマブラ大会の開催を宣言したのだった。

 そういう事情で今日の学園は午後からリアルスマッシュブラザーズ大会の会場に変貌を遂げた。

 今も教室棟の屋上から叩き落された生徒の悲鳴が聞こえる。それ以上の歓声も聞こえる。

 安全に配慮してリギルのメンバーと教官陣が審判と救助隊をやっているので、今のところ重傷者は出ていない。

 トレセン学園ではこういったイベント事は度々あるので皆慣れっ子です。

 

「ウ~ララ~♪」

「あれま、元気なお客さんが来たぞ」

 

 桜色の毛をなびかせながら元気いっぱいなウマ娘、ハルウララが入室して来た。

 これこれ、ちゃんとノックしなさいな。

 愛バの写真を見てニヤニヤしている場面を見をられたら恥ずかしいでしょ!

 

「スマブラ大会はどうなった?確かウララも出場していたよな」

「ん-とね。なんかすぐ終わっちゃったんだ」

「負けたのか、そいつは残念だったな」

「みんな楽しそうに落ちていくんだよー。だから、私も続いて屋上から飛び降りた!そしたら失格になった、えへへ」

「不戦敗やんけ。飛び降りてケガとかしなかったか?」

「キングちゃんが受け止めてくれたから大丈夫。キングちゃんも試合放棄で失格になったけど」

「キングうぇ……保護者も大変だな」

 

 UC基地にいた頃からウララの世話を焼いていた、キングの保護者っぷりは健在らしい。

 

「ならどうして医務室に来たんだ?」

「あ、そうだ!監視に来たんだった」

「かんし?俺の監視か」

「そだよー。ちゃんとお仕事しているかウララが見張るんだよ」

 

 誰の差し金だろう?姉さんやミオあたりか?

 愛バが不在だからサボると思われてんのかな。俺って信用ないのね。

 

「ね、ね、なにして遊ぶ?」

「仕事中だからな。雑談ぐらいなら付き合うけど」

「じゃあじゃあ!お話しようお話。キタちゃんのことを話してよ。普段はどんな感じ?どの位強い?騎神拳はどこまでマスターした?」

「クロのことを?‥‥‥ウララはクロと仲良かったっけ」

「私はキタちゃんの大ファンだよ。気になる人のことは何でも知りたいな~」

 

 ファンなのね……愛バたちにはファンクラブが出来るほどの人気があると知っているが、こんなにグイグイ来る子は久しぶりだ。

 クロの許可なく個人情報や戦力についてバラすのはダメだろう。ここは、当り障りのない情報のみにしておくのが吉だ。

 

(ほとん)惚気(のろけ)話になるけどいいかな。クロのカワイイところはだな‥‥‥」

「カワイイと聞いて!すかさず登場!!」

「あー!カレンちゃんだあ!」

 

 また来たよ。どうしてみんなノックしてくれへんの?

 ドアを勢いよく開け放って新たなウマ娘が入室して来た。

 ポーズとか目線とかが何かとあざとい子だ。

 

「カレンが来たよ、お兄ちゃん。どうどう?嬉しいでしょ」

「ウララの目って綺麗だよな。桜の花びらを思わせる淡いピンク色」

「マサキの目もキレイきれい~。メロンソーダみたい」

「二人でガン無視はやめて!」

 

【カレンチャン】

 旅をしていた時に出会ったウマ娘の一人。

 ウマスタグラムで、300万フォロワーを誇る自撮りの天使。

 質の悪いファンに囲まれて困っていたところに、偶然通りかかった俺は成り行きで彼女を助けたことがあった。

 そのお礼としてクロシロに提供する覇気をもらい、ついでに映えとは何ぞやの講義を受け、自撮りの極意も教わったのだった。

 トレセン学園に入学できたということは、やはり強かったんだな。

 可愛いだけじゃないカレンさん……さんじゃなくてチャンでしたね。

 

「カレン、何度も言ってるが"お兄ちゃん"やめてくれ」

「えー、カレンがこう呼ぶと大抵の男は喜んでくれるんだけどなあ」

「俺さあ、妹萌えじゃないみたいなんだよね」

「知ってるよ!マサキは負の三冠王なんだって。えーと、マザ?シス?ロリ?のコンコンコン?」

「なんてこと、カレンの可愛さが通用しないなんて。負の三冠恐るべし!」

 

 負の三冠とは失礼な!

 誰が言い出したんだよ……心当たりが多すぎる!

 母と姉と愛バと幼女とその他に萌えて何が悪いか!

 なんと言うか妹萌えは、別次元の俺が既にやっちゃてる気がするんだよね。

 

「医務室に映えはないぞ。カレンもケガしていないようだし、スマブラにお戻りなされ」

「カレン、いいところまで勝ってたんだよ。だけどゴルシちゃん無茶苦茶やって……」

「酷い目に会ったんだな。心中お察しします!」

 

 午前中に医務室を訪れた生徒たちから聞いた話は本当だった。

 ゴルシが鎖付の(いかり)を振り回して暴れていると!どこから持って来てんだ!

 

「カレンちゃんも監視するの?」

「監視はウララちゃんに任せようかな。カレンはこの三冠王に妹の良さを説き伏せないといけないから」

「仕事の邪魔すんなら帰れよ」

 

 と、言いつつもお茶の用意をする俺です。

 書類仕事の合間にお喋りするぐらいはいいだろう。

 ウララもカレンも俺が知らないジャンルの話題を振ってくれるので結構興味深い。

 俺の惚気話も嫌な顔せず聞いてくれるし。

 

 (今頃どうしてるかな?頑張り過ぎていないか心配‥‥‥だが、信じてるぞ)

 

 チラリと横目で壁掛け時計を確認する。

 まだ早いが、この後行く所があるので準備もしておこう。

 頑張ってビックリさせてやるとしますか。

 

 ●

 

 前線基地から距離にして約数キロ、森林地帯を抜けた先の平地が戦場となった。

 デモン大群に対するはたった4人のウマ娘。

 自分たちの縄張りに現れた獲物を前に、デモンたちは歓喜し(たけ)り狂い我先にと襲い掛かる。

 幸か不幸かこの時、デモンは気付いていなかった。

 獲物は彼女たちではなく自分たちのほうだと。現れたのは哀れでか弱い被害者ではなく、凶暴で獰猛(どうもう)な死神であったことを……

 

「索敵終了。周囲に敵影なしです」

「ふー、暴れた暴れた」

「これだけやればデモンも()りたと思うよ」

 

 戦闘開始から1時間弱、戦場にはかつてデモンだった大小様々な残骸がぶちまけられ転がっている。

 午前の戦闘で倒した2000体を上回る数との闘いになったが、4人は慌てることもなく処理を開始した。

 旧校舎の地下ダンジョンに出て来るエネミーに比べればどうということもない。

 ただ、とにかく数が多かったので最後の方は全員が単純作業で疲れた目をしながら戦っていた。

 4人の頑張りもあってデモンの大群はここに殲滅されたのである。

 

「逃げた奴は追わなくていいの?」

「後から来る主力部隊が片付けますよ。少しぐらい仕事を残してもバチは当たりません」

「だよねー……クロちゃん、スカートの(すそ)が切れてるよ」

「ココだってデモンの体液かかってない?」

「嘘!?どこに?」

 

 ケガはしなかったものの、衣服の損傷や汚れは逃れようが無い。

 ココが予備の制服を持って来ているので、あまりに酷い場合は着替えることも考慮に入れておく。

 今回はまあいいだろう。

 

「司令部への報告終わりました。現在、主力がここを目指して順調に進軍中です。彼らの到着まで2時間程でしょうか?これにて、私たちの仕事は十二分に達成されましたね」

 

 通信機で司令部と連絡を取っていたアルが戻って来た。

 

「司令部は何か言ってた?」

「『もう終わったの!?うそーん』ですって」

「当然の反応ですね」

「主力の到着まで休んでいいそうです『よくやってくれた!感謝する』とお褒めの言葉をいただきましたよ」

「やった!感謝されるって嬉しいね」

「これにて追加報酬頂きです」

「ついでに名声もね」

 

 戦闘を終え報告も済ませたことで空気が弛緩(しかん)する。

 4人は軽くハイタッチして喜び合う。

 戦闘後のスキンシップはマサキも奨励(しょうれい)している"ああああ"の大事な儀式だ。

 戦闘後はそれぞれの損傷チェックを忘れずに行う。

 デバイスのエネルギー残量に武器と弾薬の確認、軽い擦過傷(さっかしょう)にはヒーリングをかけ、汚れはタオルで拭き取る。

 乱れた髪と尻尾の毛もササッと直しておく。

 

「お腹空いた…」

「無理もないです。昼食を食べ損ねていましたから」

「そこでお弁当の出番だよ」

「ここではアレなので場所を変えましょう。先程、景色のいい場所を見つけたんです」

 

 デモンの残骸に囲まれての食事は勘弁願いたいので、ランチのために移動開始。

 アルが見つけていた場所はデモンによって荒らされた様子もない、比較的綺麗な草原だった。

 

「草原というよりここは崖です。崖っぷちです」 

「でも景色は最高!遠くまで見渡せる~」

 

 転落すればただではすまない、崖っぷちでのランチタイム。

 レジャーシートを広げ全員におしぼりを配るココ、おしぼりが熱々だあ!

 オッサン臭いと言われようとも顔を拭いてしまう。

 続いてペットボトルに入ったお茶、ファイン印の"うほほーい!お茶ぁ"も手渡される。

 どう見てもパクリ商品です。

 

「そしてこれがお待ちかねの、弁当だあ!」

「「「おお!重箱キターー!」」」

 

 収納空間から風呂敷に包まれた重箱型の弁当箱が4つ登場したことで、全員のテンションはMAXだ。

 

「ラーメンじゃない…だと…!?」

「この匂い、まさかこの弁当は!!」

「気付いたね。そうこれを作ってくれたのは、我らが操者マサキだよ!!」

「「「ギャー――!!マサキさん最高ッッ!!!」」」

 

 キャーじゃなくてギャーだ!もう嬉しすぎて叫ぶしかない。

 あの人はどこまで私たちを喜ばせてくれるのだろうか。

 

「お、メモが入ってる。読むよ・・・」

 

 クエストお疲れ様。

 頑張っていますか?お前たちの事だからきっと大丈夫だと信じています。

 ココにお弁当を渡しておくので、ご自由に召し上がってください。

 中身は全部おにぎりです。キャラ弁は俺にはまだ早かったよ‥‥‥

 少々形が悪いのには目を(つむ)ってくれるとありがたいです。

 では、引き続き頑張ってください。最後まで気を抜かずしっかりやるんだぞ。

 

 ・・・・・・ヤッベッ!泣きそう。

 

「自分、涙いいっスか?マサキさんの愛に溺れそうです」

「早く開けよう!そして食べよう!」

「ですね。もう辛抱たまりません」

「じゃあ、いっせーので!オープン~」

「うひょー、おにぎりパーティーや!」

 

 二段重ねの重箱、その(ふた)を外すとメモにあった通りのおにぎりが顔を出す。

 重箱にぎっしり詰められたおにぎりからは美味しそうな匂いがして、食欲をかきたてる。

 4人は頷いて手を合わせる。食材と愛する操者に感謝して……

 

「「「「いただきます!!」」」」

 

 綺麗に拭いた手でおにぎりを掴み全員同時に口へ運んだ。

 途端、口の中で弾ける米と海苔(のり)、そして具材の香りと味わい。

 

「「「「うますぎるッッ!!」」」」

 

 これは、やめられない止まらない!

 よく噛んでじっくり堪能しつつ、次のおにぎりへと手が伸びてしまう。

 重箱の1段目は海苔に包まれた三角のおにぎりたち。

 具材は梅、おかか、昆布、鮭といった定番の物に始まり、シーチキン、肉みそ、半熟の味付煮卵、佃煮(つくだに)などが入っている。

 2段目には色とりどりで目にも鮮やかな混ぜご飯系のおにぎりが詰まっている。

 ワカメと青菜、鶏五目、チャーハンやカレーピラフ風のご飯を握ったものだ。

 どれも一つ一つ丹精込めた手作りのおにぎり。形が少々悪いのも全く気にならない。

 4人分しかも、これだけの具材を準備して握るのは中々に大変だったことだろう。

 早起きして私たちのために作ってくれた、そのことが途轍(とてつ)もなく嬉しい。

 

「うーまーいーぞー!こんな美味(うま)いおにぎり初めてだよ」

「右に同じ。どんなフルコースより、このおにぎりには価値あります」

「焦らずよく噛んで食べましょうね。ほら、お茶もありますから」

「味わって食べないとバチが当たるよ。はぁ、ホントに美味しい」

 

 米の一粒も残さないように真剣に夢中で食べる。

 味はもちろんいいのだが、このおにぎりにはそれ以上に優れたポイントがある。

 それはマサキが手作りしたということだ。

 

 マサキの覇気には感情が乗り他者に伝わり安い傾向にある。

 契約者である愛バはより鮮明にその感情を読み取りやすい。

 数々の修羅場と厳しい修練を(くぐ)り抜けたことで以前に比べて制御が格段に上手くなった今でもそれは変わらない。

 ネガティブな感情はかなり隠し通せるようになったが、ポジティブな感情はふとした拍子に漏れ出てしまうのだ。それは相手に対する好意だったり、大切に思ったり、大事だよと伝えたい真摯(しんし)で温かな気持ちだ。

 それはマサキに近づいたり触れられた瞬間に強く感じる。

 そして、彼が触れたり作ったりした物品にはそれが長い間残留する。料理などはその最たるものだ。

 

 おにぎりを咀嚼(そしゃく)するごとにマサキの思いを感じる。目を閉じれば彼が料理中の情景すら浮かんで来るようだ。

 早朝、自宅のキッチンで沢山のおにぎりを(こしら)えるマサキ。

 大変な作業であるにもかかわらずその表情は何だか楽しそうだ。

 

『よっ、はっ、とっ……うっし!これで完成だ』

『炊飯器いっぱいあってよかったぜ。残った分は朝飯にするとして』 

『うーん、ちょっと形がイマイチだけど許してくれよ』

『あいつら、ちゃんと食べてくれるかな?美味しいって言ってくれるかな?』

『これを食べて少しでも元気になってくれたら嬉しいな』

『どうか無事に帰って来ますように』

 

 おにぎりには私たちへの愛と祈りが込められている。

 マサキさんの心遣いに涙腺が・・・あ、無理、もう泣く、絶対泣く!

 

「う、うわぁぁぁぁ!マサキさん最高だぁーー!ハイッ!」(´Д`)

「「「マサキさん最高だぜぇーー!!」」」

 

 私たちは涙が零れないよう天を仰ぎながら『マサキさん最高!』と三回唱えた。叫んだとも言う。

 周りに人がいなくてよかった……いてもやっていたけど。

 

「わしらは日本一の幸せ愛バじゃけぇのう!」

「マサキさん!ばりすいとーとよぉぉーー!」

「見てみいアル、嬉しすぎて二人ともおかしゅうなっちょるぞ。ああなったら(しま)いじゃ」

「おかしいのはココさんもどすえ。正気なのはわっちだけでありんす」

 

 感極まり言語に異常をきたしながらも、至福のランチタイムを過ごす愛バたちであった。

 

 ・・・・・・・・・・

 

「「「「ごちそうさまでした!!」」」」

 

 大満足のおにぎり弁当を綺麗に完食した4人。

 お腹も心も満たされて幸せな余韻に浸りながら休息を取ることができた。

 そろそろ活動を再開しよう。

 空の重箱とレジャーシート、デザートにつまんだ菓子類のゴミをまとめてココが収納する。

 ポイ捨て厳禁!後片付けは完璧だ。

 

「これからどうする?」

「味方が来るまでまだ時間がありますね」

「もう少し先まで探索したらどうかな。デモンがこの一帯に潜んでいた理由も知りたいし」

「でしたら、あの辺りを目指してみては?」

 

 見晴らしいのいい崖っぷちから気になる場所をアルが指差す。

 それは、明らかに人工物だと思われる建物群だった。

 

「森林地帯にポツンと現れた廃墟ですか、探索しろと言わんばかりのスポットです」

「これは行くっきゃない!」

「デモンの残党がいるかもしれない、警戒を怠らずに行こう」

「司令部に連絡しておきます。準備出来次第、出発しましょう」

 

 満場一致で廃墟探索にGO!することになった。

 

「行こうシロ!あそこを"ああああ"の領地にしてやろうぜ」ガシッ

「いや廃墟なんていらな…バカ!手を離せぇ、嘘!?飛び降りいぃぃーーぎゃあああぁぁぁぁ‥‥‥」

 

 年少組二人が元気よく崖からダイブして、消えた。

 クロがシロを道連れにしたように見えたのは気のせいだろう。

 

「落ちたね」

「落ちましたね」

「私は別ルートからゆっくり行こうかな。食後の急な運動は体に悪いし」

「何を悠長なことを、二人に遅れを取るわけには参りません。最短ルートで行きますよ」ガシッ

「引っ張らないで!嫌だってば、行くんなら一人でい…いやぁぁぁーーマサキーーー!」

 

 落下した先で合流して廃墟を目指す。

 クロとアルは『楽しかった』『壁蹴りすれば楽勝です』と笑い合っていた。

 葉っぱを体のいたる所に付けたシロとココは『マジありえん』『脳筋どもがぁ』とぶつくさ文句を言いっていた。

 全員無事なので結果オーライだけど、良い子のみんなは真似したらダメ!

 

 程なくして到着した場所には人やデモンの気配はない。

 元々舗装されていたであろう地面には雑草が生い茂り伸び放題になっている。

 この場所が長い間放置されていたことは明らかだった。

 建造物を見て違和感を感じる。内部に家具家電が見当たらないどころか、張りぼて状態の物も多い。

 基礎や外装までは工事したのに、中途半端に投げ出したみたいだ。

 

「作りかけ?途中で飽きちゃったのかな」

「そんな感じだね。町を作ろうとしていたが計画が頓挫(とんざ)してしまった、とか?」

「崖の上から見た時に思ったのですが、周囲一帯の土地が整備された形跡があります」

「ここに来るまで進んだ森の中や、デモンと戦った場所にも人の手が入っていたのかも知れませんね」

「怪しさ満載の場所は調べるに限る。少し入念にサーチしてみます。ふんぬっ!」

 

 シロがオルゴンテイルを顕現させて周囲の探索を開始する。

 6本の結晶尻尾が独立した動きを見せサーチしていく、途中で触ろうとしたクロの手をはたき落とすことも忘れない。

 地面に挿していた一本がピクピク反応している。何か見つけたようだ。

 

「ほうほう。デモンが集まっていた理由がわかりましたよ」

「教えて教えて~」

「地下に動力プラントが遺棄(いき)されています。その残留エネルギーにデモンが引き寄せられたのでしょう」

 

 更にサーチを続けたシロは地下施設への入口を見つけ出だした。

 分厚い防護扉は破壊されており、この先へ何者かが侵入した形跡が見受けられた。

 

「デモンがやったの?」

「わかりません。でも、この破壊跡は……古くても3ヶ月前ぐらいのものだと思います」

 

 警戒しながら地下に下りて行く。

 内部の補助電源が生きているようで人感センサーに反応した照明が行く先を照らしてくれる。

 残念ながら、エレベーターは故障していたので地道に階段を使って移動した。

 誰にも会うことなく最下層へ到着。完全に機能停止した動力プラントや起動兵器の格納庫を発見した。

 

「旧型のリオン……防衛型装備仕様か、ざっと見た感じ何体かいなくなってます」

「ねえ。新型デモンってさあ、ここのリオンと合体していたんじゃない」

「その可能性は大いにあるね。どうやってデモンがそんな考えに至ったかはわからないけど」

「ここの事も司令部に報告ですね。後でキッチリ調査してもらいましょう」

「こっち来て!パソコンあったよ。あーダメだ、全然動かない」

「任せな!端末が死んでいようとも、可能な限りデータをサルベージしてやります」

「ホントに便利な尻尾ですね」

 

 画面の割れたPCにシロがオルゴンテイルを接触させる。壊れた機器から強引にデータを吸い出そうというのだ。

 もうハッキングの域を超えているが、これもシロの優れた情報処理能力の賜物だ。

 普段の行動はアレだがシロの頭脳が異常なほど高スペックなのを仲間たちは知っている。

 

 (頭いいんだよなあ、アホだけど)

 (頼りになるね、アホだけど)

 (シロさんはアホ可愛いのです。アホ過ぎて、ときどき哀れに思ったりしますけど)

 (フフフ、尊敬の眼差しをビンビン感じますよ!もっとだ!もっと(うやま)って!)

 

 仲間たちが見守る中、目を閉じ集中していたシロはゆっくり開眼して独り言ちる。

 

「そういうことか…」

「一人で納得していないで説明!はよ」

「ここは建設途中で放棄された揺り籠(ゆりかご)‥‥‥シェルター一体型実験都市"クレイドル"が作られるはずだった場所です」

「まさか、クレイドルの予定地だったとは」

「んー聞いたことがあるような。何だっけ?」

「もう、座学の授業でちゃんと習ったでしょ」

 

 授業で習うとか以前に、クレイドルについては知っておくべきだ。

 私たちの操者と因縁深い場所なのだから。

 

「完成した実験都市1号"アースクレイドル"は、マサキさんが生まれた場所です」

「なんと!そ、そんな大事な場所だったんだ」

「それだけじゃありません。二十数年前……テロ組織連合の襲撃を受けて、アースクレイドルは壊滅しました」

「え、壊滅?それって……」

 

 二十数年前、多数のテロ組織が徒党組んでアースクレイドルを襲撃する事件が起こった。

 重火器で武装した無法者集団は都市を(ことごと)く破壊し、価値ある実験データやEOTを奪取したのみならず、逃げ惑う大勢の人々を虐殺した。

 死者行方不明者合わせて2000人を超える犠牲者を出したこの大事件は、当時の世間やメディアを大きく騒がせ、万全と言われていたクレイドルの安全性と信頼を大きく損ねる事になった。

 結果、各地で予定されていたクレイドルの建設は中止され放棄される。

 今、自分たちがいる廃墟はそのうちの一つだ。

 

「たづなさんとマサキさんは、アースクレイドル襲撃事件の生存者です」

「生存者‥‥‥じゃあ、マサキさんたちのパパとママはその時に……だから施設で育った…」

「メジロの執事長ウォルターが言っていました『とにかく酷い有様だった』と、地獄のような環境で奇跡的に生き残った少女と赤ん坊を救助したとも……それが」

「いつもの姿からは想像もできないけど、マサキもたづなさんもハードな人生だよ」

「ゆ゛る゛さ゛ん゛!!」

 

 クロがやり場のない怒りを滲ませながらギリギリと自身の腕を引き絞る。

 何だその無駄に力んだポーズは、バッタの改造人間に変身しようとしてるの?黒い太陽なの?

 

「マサキさんの人生を狂わせやがって!おのれクライシス!」

 

 なんでやクライシス関係ないやろ!

 

「事件の加害者たちは既にメジロ家によって一掃されています。ですよね?」

「はい。末端の構成員に至るまで洗い出し、数年かけて全員処断もしくは投獄したと聞いております。当時、最強と(うた)われた初代教導隊が尽力したそうです」

「中でも"暴君"と呼ばれた騎神が凄かったらしいよ。ベテランの戦闘屋が名前を聞いただけで震え上がり逃げ出したって伝説があるの」

「そっか、悪い奴らはもう成敗されているんだ。よかった」

「‥‥‥ですね」

 

 事件は既に終息し悪は断罪されている。それは良いことなのだろう。

 しかし、シロは知っている。事件を精査し知れば知る程、腑に落ちない事が浮き上がって来ることを。

 

 この事件は実に不可解な点が多くある。

 事件当日に防衛用に配備されていたはずの無人機がまともに機能していなかったこと、シェルター一体型と銘打った堅牢なセキュリティをテロ組織がアッサリ突破していること。

 突発的な通信障害が起こり救援の到着が大幅に遅れたこと、利害の一致すら出来たのかも怪しい多数のテロ組織が手を組んだ理由がハッキリしないこと。

 研究施設があった地点から異常な次元振動が観測されていたことなどだ。

 

 (研究施設にはクロスゲートがあったと記録がある。観測された次元振動、これは偶然か?)

 

 逮捕されたテロ組織幹部の供述も意味不明な箇所がある。どいつも虚ろな目で狂ったように似たような事ばかり言っていたらしい。

 『アースクレイドルを襲わなくてはいけない、その衝動に抗えなかった』『ただ光に導かれた』『あいつだ!あいつが来ないから』『でぃ……れ…‥ぅ』

 精神崩壊や獄中自殺する者も多くてまともな会話ができる相手自体が少なかったとか、精神鑑定を担当をした医者は罪の意識から来る意識障害がなんたらと適当な診断をしていた。本来なら公平を期すべきところではあるが、凶悪犯の戯言だど一蹴されてしまい詳しい調査は行われていない。

 

 (仮に供述がまともだと判断すると…テロ組織は誰かにそそのかされていた?この事件、まだまだ裏がありそうです)

 

 シロが頭の中で事件をまとめていると、クロがしょんぼりしていることに気付く。

 

「私バカだ…クレイドルやマサキさんの過去なんて知らなかったよ、知ろうとしなかった。こういうの今からでも、直に聞いていいのかな?」

「知りたいなら聞くべきです。マサキさんならきちんと教えてくれますよ」

「みんなは聞いたの?」

「ある程度は自力で調べて、後はそれとなく聞き出しました。事件についてはサトノ家でも鋭意調査中です」

「デリケートな話ですから安易な気持ちではダメですよ。真剣に受け止める覚悟が必要だと思います」

「踏み込むのは怖いよね。でもさ、好きな人のことは知りたいし、自分のことを知ってもらいたい。そう思ったら勇気出すしかないよ」

「そう、だよね。私も言わなくちゃ……だ」

 

 クロが何やら決意を固めたようだ。

 心配しなくていい、私たちの操者はとても度量の大きい人だ。彼なら何があっても受け止めてくれると信じようじゃないか。

 

 ●

 

 端末から破損して虫食い状態のデータを何とか吸い出し、地下施設を後にする。

 地上に戻ると眩しい陽光が目に染みた。

 

「そろそろ味方部隊が到着してもいい刻限です」

「ここで待つ?こっちから迎えに行った方が……」

 

 センサーに反応あり。私たち以外の何者かがこちらに向かって来る。

 

「誰か来るよ!デモンじゃない、人だ」

「あら本当、こちらに手を振って」

 

「「「「えっ!?」」」」

 

 4人は同時に声を上げた。

 近づいて来る人物は5人、男性3人ウマ娘が2人の組み合わせで、全員が迷彩柄の戦闘服を着こんでいる。

 その中の一人、先頭を歩きながら笑顔でこちらに手を振る男に注視してしまう。それは自分たちがよく知る男の顔をしていた。

 これはどうしたものかと考えていると、相手との距離は数メートルにまで近づいた。自分たちの顔を確認した男が嬉しそうな声を出す。

 

「よう!全員無事みたいだな。どうにも我慢できなくて、こうして迎えに来ちまったぜ」

 

 『ビックリしたか?』と愛想よく笑う男、こちらを見る眼差しは何処までも優しい。

 一番先に動いたのはやはりこのウマ娘。我らの切り込み隊長クロだった。

 クロは男の眼前まで一瞬で距離を詰め、その顔をマジマジと見つめた後、男の後ろに控えている男女に(いぶか)し気な視線を送る。

 

「誰?」

「ああ、この人たちはギルドのスカウトだよ。お前たちの活躍を聞いて『どうしても会って話したい』と言うもんだからさ、一緒に来てもらったんだ」

 

 戦闘服を着た4名の男女(女はウマ娘)はこちらに会釈して微笑む。

 クロは再び同じ質問をする。

 

「‥‥‥だから、誰?」

「なんだよ、怒ってるのか?勝手に連れて来たのは悪かったけど、話ぐらい聞いてあげてくれないか。お前たちもそう思うよな?」

「「「・・・・」」」

 

 男は同意を求めるようにシロ、アル、ココに声をかける。だが3人は俯いて黙ったままだ。

 そんな状況に少し慌てた男だが、すぐに持ち直す。

 男は4人の反応を、自分がサプライズで登場したことで歓喜し感情の制御不可となっているのだと、とても好意的に解釈した。

 

「機嫌直してくれよ。家に帰ったら念入りにブラッシングしてやるから、な?それでいいだろク……」

 

 頭を撫でようと手を伸ばしクロと言いかけようとした口は、次の言葉を発することはなかった。

 

お前が誰かって聞いてんだよぉーーー!!!

 

 耳と尻尾を逆立て、激昂したクロが男の顔面に鉄拳を叩きこんだからだ。

 

「げびゅっ!?」

 

 クロの拳は男の鼻を潰し、その体を後方へ弾き飛ばす。

 男は作りかけのビル群に突っ込み、鉄骨のはみ出た瓦礫の山へとぶつかり粉塵を上げながらようやく停止する。

 

「な!?」

「な、何を!」

 

 突然の凶行にギルドのスカウトだと紹介された男女は驚愕に身を固めつつ、危険を察知したのかデバイスを展開しようとする。

 だが遅い!

 即行かつ正確無比な発砲が行われた。

 

「ぎゃっ!」

「ぐああ」

「ああああああ!」

「あし、私の足がぁーー!」

 

 4人の大人たちは崩れるように倒れ伏し、足を押さえながらうめき声を上げる。

 無言のシロがライフルで4人の膝を撃ち抜いた結果だ。

 非殺傷のゴム弾に換装して発砲したので死にはしないが、膝の皿は完全に砕かれただろう。

 

「こ、こんなことしてただで済むと…」

黙れよ

 

 再び発砲!ゴム弾は男の頬に命中し、その骨を砕く。

 抗議の声を上げようとした男は大きくのけぞり動かなくなった。

 膝だけでなく、今の一撃で顔面の骨も破壊されたようだ。

 

「ひぃ」

「い、嫌ッ!」

悲鳴を上げるな神経が苛立つ

「・・・・うっ」

 

 シロの顔はどこまでも冷淡で冷めきった目をしていた。

 その全身から憤怒の覇気が立ち昇っている。

 これ以上ギャーギャー騒ぐようなら、ライフルをビームに切り替えて撃つぞ!威圧しているのだ。

 生殺与奪権を握ったシロを前に残された男女は黙ることしかできない。

 

 怒りで乱れた呼吸を整えたクロは瓦礫の山に近づく。

 ちょうど、先程殴り飛ばした男がよろよろと立ち上がるところだった。

 その時、血を垂れ流す鼻を押さえた男に変化が起こる。

 顔を中心に乱れたノイズが走ったかと思うと、その顔が変わっていく。

 痩せこけており、ギョロギョロ落ちくぼんだ暗い目つきに禿頭という、この男本来の顔に戻ったのだ。

 こいつ、ハゲとるやないかい!!

 

「ば、バカな!"変幻のアルコ"と称えられた、俺様の変身術を見破るとは……貴様らの操者を、アンドウマサキを完璧にトレースしたはずなのに!」

なめんなハゲ

「げぶぅぅっ!!」

 

 無慈悲なヤクザキックが発動!クロに腹を蹴りつけられたアルコというハゲは再び瓦礫に突っ込んだ。

 クロは仰向けに倒れたアルコの胸を踏みつけ、その胸骨がミシミシ悲鳴を上げるほどの負荷をかける。このまま心臓を潰してやろうか?

 痛みと恐怖で叫ぼうとしたアルコだったが、クロの顔を見て喉を詰まらせる。

 そこに……鬼がいた。

 

マサキさんはね

 

 真っ赤な目をした鬼は煮え(たぎ)る怒気を宿したまま言葉を紡ぐ。

 

お前みたいに臭くないし、そんなショボくれた覇気もしていない、やる事なす事全てがめちゃくちゃカッコイイ男なんだよ

 

 崇高な存在であるマサキさんを、汚したな!穢したな!侮辱したな!

 

言ってる事わかる?わかんないよね?わかるわけないよね?わかってたらこんな事しないよね?

 

 くだらない術でマサキさんを真似たばかりか、私たちを騙そうだなんて……

 あまりにも無知で無謀で無礼!

 愛バの前で操者を(かた)ったクズの末路がどうなるか、知ってるんだよなあ!おいコラハゲッ!

 

「お前はやっちゃいけない事をした。潰れろ」

 

 バスカーモード発動。オルゴナイトで固めた右足でアルコの顔を踏み潰そうとするクロ。

 

「殺すなっ!」

 

 シロの叫びがクロを止めた。琥珀色の瞳と緋色の瞳、二人の視線が交差する。

 

 (邪魔する気?まさか、殺人は倫理的にダメとかぬるい事ぬかすつもりじゃないよね?)

 (そいつにはまだ聞きたいことがあるだけです。処断はそれが済んでからでもいいでしょう?)

 (・・・・)

 (無益な殺生をしても、マサキさんは褒めてくれません)

 (チッ・・・・わかったよ)

 

 バスカーモードを解除したクロは踏み込もうとした足を下ろした。

 クロが思い止まってくれたことにシロは安堵する。

 

「・・・・あ、ああ、あうあう」

 

 極大の殺意を含む覇気を向けられ、実際に殺されかけたアルコは泡を吹いて気絶した。

 

「あームカつく!」

 

 クロは気絶したハゲの体を弱キックしてから、その場を後にする。未だに不機嫌という感情を隠しもせず、仲間たちの元まで戻って来た。

 クロとシロの動きをアルとココは止めようとしなかった。

 二人が動かなければ、自分たちが同じ行動をしていたと思うからだ。

 さて、雑魚の相手は終わった。本命の相手をしよう。

 

「いつまでそうしてるつもり?隠れる気ないでしょ」

 

 ココが動く、収納空間から取り出した二丁マシンガンを両手にし、自分から見て2時方向へ間髪入れず乱射する。

 そこには何もない誰もいないはずだったが、空間が突如として歪みそこから人影が飛び出した。

 隠形術で身を隠していた何者かが、すぐ傍に潜んでいたのだ。

 そいつの動きに反応し回避方向に先回りしている者がいた。全身から雷を(ほとばし)らせたアルだ。

 

「不愉快です」

 

 眉間に皺を寄せたまま雷の覇気を纏う蹴りを見舞う。完全に相手を捉えたクリティカルな一撃だ。

 アルの蹴りを食らった相手は地に倒れ伏すか、遥か後方へぶっ飛ぶことになるだろう。

 打撃音と衝撃が走る。攻撃の結果を確認したアルと仲間たちは目を見開く。

 

「まあ、怖い怖い」

「止めた!?」

「アル!放れて!!」

 

 攻撃は確実にヒットした。しかし、相手はそれを片腕一本でガードして見せたのだ。

 自信のあった蹴り技を防がれたことに驚愕している暇はなかった。

 

「どっせぇぇーーーいッッ!!」

 

 上空から新たな影が迫る。アルは咄嗟の判断でその場から飛び退る。

 気合の籠った掛け声と共に現れたそいつは、寸刻前までアルがいた場所に拳を着弾させる。

 大地が震え割れる。

 

「のわっ!」

「マジか!?」

「地割れ?ミオ教官じゃあるまいし」

 

 隆起した地面に飛び散る大地の破片を躱しながら、クロ、シロ、アル、ココの4人は身を寄せ合うように集合する。

 

「もう!接近しすぎだと忠告しましたでしょうに」

「ごめんなさいねぇ。どうしても彼女たちを近くで見たくて」

 

 地割れを起こした方がアルの蹴りを止めた方を叱責している。

 お前ら何者だ!と声に出そうとする前に、またしても乱入者が増える。

 妖怪地割起こし(仮称)がジャンプして来たであろう茂みの奥から現れ、悠然と歩いて来たのは二人のウマ娘。

 

「ドッキリ大失敗ですか。ふわぁ~‥‥‥面白くありませんこと」

「最初から期待はしていなかったがな、なんとも無様なものだ」

 

 招かるざる客はこちらと同じ合計4人。しかも、全員がウマ娘だ。

 横並びになったウマ娘たちは4対4で睨み合う形になる。

 もっとも、向こうの顔は見えないので視線が合っているかどうかは不明だ。

 そう、顔が見えないのだ。

 こいつら全員…仮面を装着で顔を隠していやがる!!

 来た、ついに来たか!

 

「ルクスに尻尾を振るアバズレのご登場か」

「フンッお互い様だろう」

「ああ゛!?」(# ゚Д゚)

「クロさんステイ!まだ早いです」

「元気ですね~。ふぁ…ねむねむ…」

「変な奴ら」

「ウフフ、そちらもですよ」

 

 認識阻害の仮面がある限り奴らの正体に辿り着くのは困難だ。

 だが、背格好や口調等の情報は記録して置いて損はないだろう。

 "ああああ"の4人は臨戦態勢を維持したまま敵を注意深く観察する。

 

 (一般的な護身用装備に流通品の戦闘服。デバイス類は携帯していないように見えます)

 (4人しかいない、前に会った二人はどこ?)

 (私の蹴りを止めた方、ただ者ではありません)

 (あの仮面、顔だけじゃなく覇気や他の生体情報も隠蔽してる。厄介だなあ)

 

「今日は、うるさいのと小さいのがいませんね?」

「ベルスとウェールは別任務中だ。我々は多忙なのでな」

「今日は何の用?ここでやり合うつもり」

「先程、大変不快なことがありましたので手加減は一切できません。やるならそのつもりで」

「そんなに怒ったら可愛い顔が台無しですよ」

「お前の顔も台無しにしてやろうか?」

「望むところですわ!しかぁし!台無しのボッコボコになるのはそっちです」

「ほざいたな。あの世で後悔させてやる」

「・・・・スヤァ」(˘ω˘)

「一人立ったまま寝てる奴いるんだけどぉ!」

「はっ!ね、寝ていません。寝ていませんったら、ねて……寝てました!!」

「正直か!」

 

 調子が狂う!寝不足なら帰れ!帰って永眠しろや。

 口を開けば挑発合戦が始まってしまう。

 めんどくせぇ、もう一気にやっちまうか。

 

「まあ待て、今日は挨拶に伺ったまでだ。こちらに戦闘の意思はない」

「質の悪いドッキリを仕掛けておいて何を言う」

「あの程度が見抜けないようでは、わざわざ相対する必要もないと思ったまでよ」

「試し行為ってヤツ?心底ムカつくんだけど」

 

 どうせこちらの事は把握されている。向こうが挨拶したいと言うならさせてやろう。

 それでどんな名前?ビッチ?それともクソ子か?何でもいいからはやくしろよ。

 

「我が名はアエル。覚えておけ」

「フルーメンですの。あなたたちを、ぶっ飛ばして差し上げてよ」

「ふわぁ……クラルスと申します。今日はポカポカして絶好のお昼寝日和で……ねむ(˘ω˘)」

「マーテルですよ~。敵同士ですけど仲良くしましょうね」

 

 傲岸不遜な態度を崩さないアエル、力自慢で頭悪そうなフルーメン、眠そうなクラルス、ぽわぽわした雰囲気のマーテル。

 それから、この場にいないベルスとウェール。以上の6騎がルクスの愛バということか。

 

 (覚えるのめんどっ!)

 (どうせ消す奴らの名前です。覚える必要無し!)

 (余力はあります。やれますよ)

 (やるんだね。いいよ、こいつらを倒してルクスの戦力を削ろう)

 

 飛んで火にいる何とやら、ルクスの愛バはここで始末する!やるぞ!覚悟を決めろ。

 覇気を練り上げ、仕掛けるタイミングを図る。

 そんな意図を知ってか知らずか、フルーメンが伸ばした指先をアルに突き付け宣言する。

 

「メジロアルダン!あなたはこの私がお相手いたしますわ」ビシッ!

「わざわざご指名ですか。もしかして、お知り合いだったりするのかしら?」

「それは秘密です。この瞬間から、あなたと私は宿命のライバルですの」

「そういうの困ります。本当にやめてください」

「嫌よ嫌よも好きのうちですわね。わかりますわ!」

「あ~ダメですこの方、会話が成立しません」

 

 変なのに目を付けられたアル、ご愁傷様です。

 『脳筋同士気が合うのでは?』と思ったけど、アル式バスターコレダーされたくないので口には出さない。

 勝手なライバル宣言に満足したフルーメンに変わり、今度はアエルが発言する。

 

「私の獲物はお前だ、ファインモーション」

「お断りだぁ!マサキ以外の相手に迫られても迷惑なだけだよ」

「お前の迷惑など知らん!我が願い成就のためにも勝負してもらうぞ」

「早押しラーメンクイズ選手権なら受けて立つ!」

「却下だ」

「ダメかぁ」(´・ω・`)

 

 ションボリするココ、ダメに決まってんだろ!

 残りの二人もライバル宣言して来るのだろうか?

 

「ウェールちゃんはキタちゃん、ベルスちゃんはダイヤちゃんにご執心みたいですよ~」

「「うわ、めんどくさ」」

「そう言わずに遊んであげてください。きっと、泣いちゃうぐらい楽しくなりますから」

「「なめんな!」」

 

 マーテルが知りたくない情報を教えてくれたのでテンションが下がる。あいつらの相手やだー!

 というか、誰が泣くか!泣かせてやるのはこっちなんだよボケが!

 こいつらは事前に戦う相手を決めているようだ。そうなると残りの二人、マーテルとクラルスにもターゲットがいるのだろうか?うまいこと誘導して、たづなさんとかに押し付けられたらベストなんだがなあ。

 

「そうなると、私たちのお相手は……やっぱりマサキ様かしら」クスクス

「「「「あ゛」」」」(# ゚Д゚)(#^ω^)(# ゚Д゚)(#^ω^)

 

 おいコラ今何と言った?

 クラルスの放った言葉に耳と尻尾だけでなく青筋も立ててしまう。

 

「いいですね。ルクスさんの前に、私たち二人のおもてなしを受けてもらいましょう~」

「「「「殺す!!」」」」

「たっぷり遊んでもらった後は一緒にお昼寝して……操者になってもらうのもアリ?……キャッ///私ったらはしたない」(´∀`*)ポッ

「「「「ぶっ殺す!!」」」」

 

 はいダメ―!こいつらアウトー!殺意メーターぐんぐん急上昇!

 マーテルとクラルス、この二人をマサキさんに近づけてはいけない。迅速に処理しなくては!!

 

「お前たち、今の発言は背信とみなすぞ」

「何を本気にしているのですかぁ?冗談に決まってます~」

「私たちにはルクスさんがいますもんね。フフフ」

「まったく、戯れが過ぎる」

 

 まとめ役となっているアエルは気苦労が絶えないと見た。そっちも大変なんだなあ、知らんけど。

 

「た、助けて……殺され…る」

「アンタらルクスの手下なんだろ!助けてくれるよな?なあ!」

「こんなヤバい連中だなんて聞いてない!何とかしなさいよ!」

「ん?ああ、まだいたのか」

 

 シロのライフルに膝を破壊された連中が、アエルたち仮面のウマ娘に助けを請う。

 しかし、アエルたちの反応は冷めていた。

 

「失敗した挙句に尻拭いまでさせる気ですかあ?無能な上に悪い子さんたちですね~」

「『あの程度の連中簡単に騙せる』と息巻いて出て行ったのはそちらでしょ。あら、言い出しっぺのアルコさんはどちらに?」

「瓦礫を枕にお休み中みたいです。泡まで吹いてらして、それはそれは気持ちよさそうに……ふぁ」

「変幻のアルコなどと調子に乗った奴の自業自得だ」

「そんな!俺たちはルクスのために……」

「手柄のためだろう?マサキの愛バを術中に()めれば楽勝とでも思ったか、浅薄も(はなは)だしい」

「そんなおバカさんは、我々もルクスも必要としてませんの。おわかりになって?」

「……うう」

「クソっ、ちくしょう…‥」

 

 アエルたちの助けは望めないばかりか切り捨てられた連中は、項垂れて呻くことしかできなるなる。

 同情はできないが哀れな光景である。

 

「挨拶はここまでだ。そこにいる連中はもう我々とは無関係、煮るなり焼くなり好きにしろ」

 

 踵を返して立ち去ろうとするアエルたち。待てやコラ!

 言いたい事だけ言って"ハイ!さようなら"なんて許すわけない。

 ルクスの愛バだ!!ルクスの愛バだろう!?

 なあ ルクスの愛バだろうおまえら

 首置いてけ!! なあ!!!

 

「逃がすと思うか?」

「思うな。間抜けなお前たちが私たちを逃がしてくれると、信じているとも」

「「「ぶっ飛ばしたらぁーーー!」」」

「そういうところが、間抜けと言うんだ」

「!?みんな待って!」

 

 アエルたちに襲い掛かるクロ、シロ、アルの3人。沸点が低い!

 仲間たちが突撃する中、ココだけは相手がどう動いても対処できるよう全体を俯瞰(ふかん)することを選択した。

 そうして見た。

 アエルがその手に握り込んだスイッチらしき装置を押し込んだのを……そのポーズ何?モナリザの手に"だっち"する爆弾魔なの?

 アエルの手から光が溢れた。

 

 (赤い光!?これってまさか)

 

 見覚えのある赤い光は瞬間的に半径数メートルのドーム状フィールドを形成。

 そして世界が停止する。

 止まっている。牙を剥き前傾姿勢で突撃するクロも、凶悪な面で銃を構えたシロも、プラズマビュートを放とうと両腕を振りあげるアルも、みんな停止したまま動かない。

 

「ラースエイレム!またなの!?こんなチート兵器を恥ずかし気もなく」

 

 ラースエイレム、限定空間内の時間停止させるとんでも兵器。

 その空間で活動可能なのは特殊な神核"時流エンジン"を持つココと、ラースエイレムを発動させた術者のみ!

 眼前にアエルが迫っていた。その手にはビームソードが握られ、こちらに斬りかかる。

 

「フン、やはりお前は動けるのか」

「こんなの卑怯でしょ!何考えてるの」

 

 収納空間から取り出したプラズマカッターでアエルのビームソードを弾く。

 その後も、2度、3度とエネルギー刃を交差させ斬り合う二人。

 

 (マズいな。リンクしていれば時流エンジンの効能をみんなに付与できたのに)

 

 マサキが一緒ならラースエイレムも無効化できた。やっぱり操者は偉大だなとココは思う。

 たづなさん程ではないがアエルの剣も中々の腕前だ。これが稽古なら剣には剣で相手をしてやってもいいが、そんな義理はない。

 マシンガン?ライフル?それともバズーカぶっ放してやろうか。

 

「判断が遅いぞ」

「うるさいな」

「今も昔もお前は何も守れない。大人しく引きこもってラーメンでも食べているんだな」

「偉そうに!何様だよ。ラーメンバカにすんな!」

「また失くすぞ?」

「!?」

「戦友、仲間、故郷、家族……次に失うのは愛しい操者だ。それにお前は耐えられるのか?」

「余計なお世話だぁーーー!」

 

 心配される筋合いはない!

 確かに私は失ってばかりだったけど、それ以上に得たものがある。

 それを知らない奴がゴチャゴチャうるせぇ!マサキは絶対に失くさないんだから。

 

 この物言い、アエルはこいつは……前の私が1st出身者だと知っている。

 1stの関係者?それとも過激派の残党か?わからなけど。

 こいつは私とファイン家のことを熟知した上で刃を向けてくる相手なんだ。

 

 (ああもう!因縁って奴はどこまでもしつこい)

 

 マサキが頑張ってベーオウルフとルシファーを倒してくれたのに……何も終わっていなかった。

 不覚!後始末がちゃんとできてきなかったぁー!

 後でルオゾールに仕事を頼んでおこうかしら、ファイン家から離反した1st出身者の動向を総ざらいする必要が出て来た。

 /(^o^)\ナンテコッタイ

 

「ルクスと組んで何する気?あなたの望みは何?」

「我が願望はただ一つ、貴様との決着だ」

「なんだ、やっぱり過激派の残党なの?」

「貴様を倒さない限り、私は先に進めない、進めないのだ!」

「知らんがな」(´・ω・`)

 

 こいつ逆恨みとかで襲って来ているわけじゃない?それよりも拘りや執着を感じる。

 どっちにしろストーカーだぁ!ヤダ―――!

 

「一対一で勝負したいって?そのためにラースエイレム使うとか、一々大袈裟なんだよ」

「安心しろ、現存するラースエイレムはこれが正真正銘最後の一つだ。それも持って後数十秒」

「信用できるの?」

「1stのために身を捧げた戦士たちに誓おう。ルクスも私も金輪際ラースエイレムなど使わない」

「はいはい。そうい事にしてあげる、よっと!!」

「小細工を」

 

 交差する剣戟と会話の最中、ピンを外したグレネードをアエルの足元に放ってやった。

 爆破範囲から逃れるためアエルは後ろに下がる。バカめ!

 このグレネードはピンを外してから爆破までちょいと長めに設定してあるのだ。

 アエルが逃げた先に必殺シュートを決めてやる!いっけぇーー……あ、ヤベッ!足が滑ったぁーーーー!

 想定とは違う角度でココの足がグレネードに接触、放物線を描き地面を数度バウンドした先には‥‥‥不運な奴がいた。

 

 (シロちゃん!??ごめんねぇーーー!)

 

 無駄だと思いつつ声にならない声で謝罪するココ。

 時間切れ、ちょうどラースエイレムが解除される。そして時は動き出す。

 

「ハチの巣にしてやんよ!ん?何か……ひょ??」

 

 シロの近くへ転がったグレネード、彼女はそれが何の前触れもなく出現したように思ったことだろう。

 それが爆発した。

 

ごぉぉぎゃぁぁーーーーんんんんっっ!!

 

 哀れなウマ娘の妙な断末魔が響き渡った。

 

「シロ!やられたの」

「そんなシロさん!くっ、よくも!!」

「え?え?私は何もしてませんわ」

「ふぇ。お一人で勝手に自爆したのでは?」

「不思議なこともあるものですねぇ~」

 

 咄嗟に力んで踏ん張ったのか、爆風で飛ばされることはなかったシロ。

 彼女は煙を上げながら前のめりで地面に倒れる。爆発の影響で自慢の尻尾と髪が少し焦げているのも無残だ。

 

 (だ、大丈夫だよね。死んでないよね?シロちゃんだもん、平気平気!)

 

 頑丈で回避能力も高い癖に、ネタっぽい攻撃はモロに食らってしまう。彼女の芸人魂がなせる技には感服する。

 

「ファイン、仲間に対するその所業……さすがに引くぞ」

「誰のせいだと思ってるの!」

「お前しかいない」

「ですよねー!わかってまーす!」

 

 後ろにいたはずのココが何故か前に出ており、アエルと衝突している。

 クロとアルはその事にギョッとするが、敵を前にして深く考えている余裕はない。

 二人はフルーメンとマーテルに狙いを定め突撃する。

 

「シロの仇ーーー!」

「絶対に許しません!」

「身に覚えがありませんわ!」

「どうしましょう。これでは収拾がつかなくって、夕方のタイムセールに遅れてしまいます」

「では、私の出番ということで~」

 

 静観していたクラルスが両手を合わせて何事かを呟く。

 瞬間、彼女の体から淡い桃色の霧が立ち昇った。

 

 (煙幕!?)

 (何か変ですこの霧…??)

 

 指向性を持った霧はクロとアルを包み込み、変化はすぐに表れた。

 クロが頭を押さえてふらつき出したのだ。

 

「うう、頭痛い……気持ち悪い」

「この感じは」

「悲しい事に、私は皆様ほどの戦闘力を持ち合わせておりません。ですが、ふぁ……こういう術だけは超得意です」

「やはり幻術ですか」

 

 幻術又は幻惑術、相手に幻を見せ惑わす術。

 視覚情報以外にも、様々な方法で五感や神核を刺激して対象を狂わせ攪乱(かくらん)する。

 凄腕の使い手ともなると、1人で数十人を同士討ちさせたり眠らせたりすることも可能なのだとか。

 猪突猛進タイプのクロとは相性の非常に悪い、絡め手の攻撃方法だ。

 幻術を発動したクラルスの声が響く。

 

「この霧はとっても強い酒気を帯びております。吸引すると悪酔いした状態になって、後は……ねむねむ」

「これダメ…う、クラクラする」

「クロさん!しっかりして」

「オウェッ!ちょっと吸ってしまいましたわ……ウェッ!!」

「よしよし、フーちゃんお酒弱かったんですね」

 

 霧の影響はフルーメンにも効果があったようだ。マーテルに背中を擦られ介抱されている。

 バカか?バカだな。

 

「そこでしばらく酔っていてください。その隙に私たちはスタコラサッサと」

「この程度……酔った内に入りません!!」

「ふぁ?」

「プラズマビュート!奴を逃がすな!!」

 

 クラルスに向けて電光の鞭を発射するアル。

 立っているのもやっとのクロとは違い、アルはしっかりと大地を踏みしめ敵を見据えている。

 寝坊助を捕まえ……

 

「やらせませんの!ウェッップ……」

「フーちゃん、無理しちゃって」

「助かりましたわぁ」

「くっ!この!」

 

 フルーメンがクラルスの前に立ちはだかり、えずきながらもプラズマビュートを拳で弾いてみせた。

 

 (拳圧で雷撃を防ぐなんて、このフルーメンと言う方……バカだけど強い)

 

「そうでしたそうでした、失念しておりました~。アルダンは()()()お酒飲んでますものねぇ。耐性があって当然です」

「いつもじゃないです!‥‥‥あなたは?」

 

 いつもと、クラルスは言った。その言葉にアルは思う。

 もしかして、彼女は自分の日常を知りえるぐらい近しい距離にいる誰かなのかと?

 刹那。気の緩みが生じてしまい、そこをマーテルに突かれる。

 

「いけませんねえ。お酒は飲んでも飲まれるな、ですよ。肝硬変さん♪」

「だれが肝硬変か!!しまっ…ぐぅぅ!」

 

 防御の遅れた胸部に強烈な衝撃と圧迫感、マーテルの掌底を思い切り食らってしまう。

 息が詰まる、呼吸が乱れる、後ろに飛ばされた自分の体を支えることができない。

 

 (せめて受け身は取らないと、おぱーいクッションが無ければ即死でした…)

 

 形が悪くなったらマサキさんガッカリするだろうなー。とか、いらん事を考えながら襲い来る衝撃に備えて‥‥

 

「アル姉さんを、スーパーキャーッチ!!」

 

 なんと!倒れていたはずのシロが起き上がりアルの体を受け止めた。

 衝撃は地面に挿したオルゴンテイルをアンカー代わりにして相殺する。

 アルクオン戦で前にマサキに受け止めてもらった経験が役立った瞬間である。

 

「無事ですか?アル姉さん」モミモミ

「シロさん…助かりました。もう、私のおぱーいから手を離してくれていいですよ。や、ちょ、放して!」

「おっと失礼。結構な揉み心地でございました」

「生きていたんですね。ちょっと焦げてますけどw」

「サトノ秘奥義の一つ、死んだフリ爆殺バージョンです。歴代頭首はこの技で何度も窮地を逃れたのです」

「さすがサトノ、変な技をお持ちですね。それで今の状況はかくかくしかじか……」

「全て理解した!」

 

 復活したシロ(焦げサトイモ)を加えて、これからチーム"ああああ"の大逆転劇が‥‥‥始まらなかった!

 

「そんな!私の活躍がぁーー!」

 

 ココと戦っていたアエルはクラルスたちと合流し、ルクスの愛バたち4人は撤退中だった。

 酔って酩酊状態に陥ったクロはマーテルに背中を押され、フラフラしながらもシロたちに合流。ココも何とか戻って来た。

 クラルスの出す幻術の霧が一層濃くなり、敵の姿がその奥深くへと消えていく。

 

「また会おう。チーム"ああああ"」

「アルダン、忘れるんじゃありませんわよ!ライバルですわよラ・イ・バ・ル!」

「次は、もーっといい子でいてくださいね」

「本日は楽しかったですわ。どうか、マサキ様によろしくお伝えください。では、おやすみなさいませ~」

「待てゴラァッ!ウェ…吐きそう」

「クロ?何故酔っぱらっているのです。はっはーん、さてはアル姉さんに一服盛られましたね」

「違います!今はそれどころでは」

「深追い禁止だよ!それにもう逃げちゃった」

 

 霧が晴れた後には敵の姿は残っていない。

 敵を取り逃がしてしまったことに悔しさが募るが、それ以上の疲労に襲われた。

 

「つ、疲れましたぁ」

「悔しいよぁ~頭痛いよぁ~」

「強かったですね」

「仮面がムカつく!こっちのことを一方的に知っているのがさらにムカつくぅ!」

 

 短い時間の邂逅(かいこう)であったにもかかわらずドッと疲れた。

 あの仮面を見た時から、妙に体が強張って普段どおりに動けていなかったのも反省する。

 デモンでも、ダンジョンのエネミーでも、仕事で捕まえる犯罪者でもない。

 今日現れたのはルクスの息がかかったウマ娘、明確な敵、絶対に倒すべき敗北は許されない敵だった。

 これではダメだ、もっともっと強くならないと、操者を守れない!マサキと共にいられない!

 それだけは絶対に嫌だった。

 

 ●

 

 アエルたちが去った後は事後処理に追われる事になった。

 

 今回は短い戦闘だったので損傷は大したこともなく軽めの治療で済んだ。。

 クロの酔いが冷めるまで看病し、シロが爆発で負った焦げを処理して衣服も着替える。

 変幻のアルコとか言うハゲと他4名を拘束し、味方主力部隊の到着を待った。

 

 結果として、デモン掃討作戦は大成功に終わり、司令部からは多大な感謝と報酬を頂いた。

 マサキに化けた不届き者、アルコたちの身柄はメジロ家に引き渡すことになった。ルクスについて念入りに尋問することをお願いしておくことも忘れない。

 放棄されたクレイドルと新型デモンの発生とその因果関係も報告した頃には夕暮れに差し掛かっていた。

 

「驚きましたね。マサキさんに化ける奴がいるとは」

「あんなの全然似てなかったよ!すぐ気づいたもん」

 

 帰る道中も今日あった出来事について話し合う。

 お喋りついでに、マサキに報告する情報を吟味し合っているのだ。

 

「敵はラースエイレムを使ったとか、お一人で頑張ったんですねココさん」

「ま、まあね。みんなを守りながらのガチンコファイトだったよ」」

「それで、あのグレネードはどこから?」

「アエルだよ!そう!あの偉そうなやつが放り投げたに決まってるよ。ホントに卑怯な奴め!」

「そうなのですか。爆発の瞬間に見たグレネードは確かファイン家で採用されているメーカー製の‥‥」

「シロちゃん疲れたでしょ!お菓子まだ残ってるよ、それとも何か飲む?帰るまでおんぶしてあげよっか?」

「む、何だか妙に優しいですね」

 

 シロに対して急に優しくなったココ。

 たまにある、お姉ちゃんムーブをしたいお年頃なのだと解釈することにした。

 

 そんなこんなでトレセン学園のある街に帰って来た。

 学園への報告は明日でよいと言われているので、マサキの家を目指す。

 

「あいつらまた来るのかな。嫌だなぁ、次は6人でさあ、うげー」

「ライバル認定とは面倒この上ないですね」

 

 ベルス、ウェール、アエル、フルーメン、マーテル、クラルス、どいつも厄介な相手である。

 正直もう会いたくないが、そうもいかない。

 

「マーテルとクラルスは……」

「マサキさん狙いとか言ってた!あいつらゆるさん!」

「そう、なんですけどね」

「シロさん?」

「私の気のせいでしょう。何でもないです」

 

 (一歩引いてるというか他の4人に比べ、こちらへの敵意を欠いている気がしたような…)

 

 疑問は残るが結論として、やっつけた後に聞き出せばいいと思うことにした。

 

 マサキの住居までもう少しの所まで帰って来た。辺りはすっかり暗くなっている。

 4人の尻尾がピンッと反応する。慣れ親しんだ大きな覇気を感じ取ったからだ。

 マサキがいる。

 家の中で私たちの帰りを待ってくれている。向こうもこちらに気付いただろうか?

 

「マサキさんの覇気!それと、何かいい匂いが…」

「今、会いに行きますよ!ダーッシュ!」

「あ、抜け駆けです」

「急げーー!全速全身だ」

「待ってよー!」

 

 マンションの階段を駆け上がり玄関扉を勢いよく開け放つ。

 

「ただいまです」

「ただいまー!」

「帰って来たぁ。ただいまだよー」

「ただいま帰りました」

 

 4人それぞれが帰宅の声を上げると、部屋の奥から望んだ通りの人物が姿を現してくれた。

 夕飯の支度をしていたのか、黒いエプロン姿のマサキだ。

 

「おう、帰って来たか。無事で何よりだ、アル、ココ、クロ、シロ、お帰りなさい」(*´▽`*)

「「「「ただいまーー!!」」」」

 

 もう一度ただいまを言って、全力で操者に甘える。

 マサキは慣れた手つきで、1人1人を丁寧に撫でたり抱きしめたりして労っていく。

 4人の尻尾がブンブンッビシバシッ当たって痛いのは我慢だ!もう慣れた!

 

「いろいろあったって顔をしてるな。後でじっくり聞かせてくれよ……シロ?なんか焦げてね?」

 

 やっぱり本物は違う。匂いも覇気も声も全てが最高!これこそがマサキ!私たちの操者。

 この人の真似をするなんて不届き千万!あの変装ハゲはもっと痛めつけてもよかったと思う。

 

 (ぐほぉぉ!マサキさん最高や~)

 (エプロン男子!破壊力ヤベェ!!)

 (結婚しよ)

 (結婚します)

 

 玄関で騒ぎ続けるのもアレなので、部屋に入って荷物を置く。ようやく一息つけそうだ。

 

「今、夕飯を作っているからな。先に二人づつ風呂入って来いよ」

「えー、マサキさんと一緒がいい」

「悪いな。俺はもう入っちまったよ」

「行くよシロちゃん!」

「ええ。マサキさんの出汁(だし)入り風呂に直行です」

「出汁って言うなよ」

「では、私たちはマサキさんのお手伝いをしましょう」

「うん。任せてよ」

「助かる」

 

 ココとシロが風呂に入っている間、アルとクロが夕飯の準備を手伝ってくれた。

 交代でアルとクロが入浴し、ココとシロが手伝いをしてくれる。

 全員の入浴とブラッシングを終えた頃に夕飯は完成した。

 

「今日のメインはこれだ!じゃーん!」

 

 ミトンを装着したマサキは大きな土鍋をテーブルに置かれたガスコンロにセットする。

 蓋を外すとグツグツと煮えた鍋から、温かな湯気と食欲をそそる匂いが立ち込める。

 

「これは!」

「おでんだぁ!」

「美味しそう」

「これは、お酒が欲しくなりますね」

 

 たまご、大根、ちくわ、こんにゃく、はんぺん、牛すじ、他にもいろんな練り物たちが鍋の中で踊っている。

 見ただけで美味しいと理解した愛バたちのテンションは上がる。

 

「前にUC基地で鍋パしたの思い出してなあ。ボノたちに頼んでレシピを教えてもらったんだ」

 

 お弁当に続くサプライズとはこの鍋の事だった。

 ネームドウマ娘たちに頼んで、放課後にレシピを教えてもらったり、食材の買い出しを手伝ってもらったのだ。みんなに感謝!

 

「見事なおでんですね」

「当初の予定では、もっとこう映える感じの鍋を目指したんだけど……気が付いたらおでんになっていた!すまん!」

「いいよ!全然いいよ。だって美味しいのわかるもん」

「味は期待していいぞ。ボノや姉さんにもお墨付きもらったし」

「お弁当に夕飯まで、本当にありがとうございます」

「あ、おにぎりどうだった?変じゃなかったか」

「最高だったよ。重箱は後で洗っておくね」

「嬉しいじゃないの。ではでは、今夜はおでんパーティーいっちゃいますかぁ!!」

「「「「いちゃいましょう!!」」」」

 

 その夜、おでんパーティーは大いに盛り上がった。

 マサキが作ったおでんとその他の料理に舌鼓を打ち。今日の出来事を報告する。

 マサキは愛バたちの話に一喜一憂。褒めてくれて、怒ってくれて、笑ってくれた。

 ルクスの愛バやマサキに化けた敵が現れたと言った時は、かなり驚いた様子で心配してくれた。

 『大丈夫だったか?』『ケガをしてないか?』『本当に無事でよかった』

 と青くなったり赤くなったり、顔色コロコロを変えてコメントしていた。

 

「やっぱりついて行けばよかった。俺の不在時を狙うとは……あのクソボケ仮面がぁ」ヽ(`Д´)ノ

「マサキさんこそ、大丈夫だった?」

「俺か?俺の方は特に何もなかったぞ」

「本当ですかあ?」

「他のメスウマにちょっかい出されてない?」

「あー、今日はウララとカレンが話相手になってくれたり、仕事手伝ってくれたなあ。あいつら、俺が寂しがってないか様子を見に来たんだと。ええ子やね」

「ウララさんにカレンさん?なんだか珍しい組み合わせですね」

「俺もそう思ったが、割と仲良かったぞ」

「へぇー、あの二人がねえ」

「後は、スク水ゲンさんが血の池プールでウマッシュブラザーズだっただけ」

「「「「何があったの!?!?」」」」

 

 説明を端折りすぎたので愛バたちを混乱させてしまった。

 これじゃゲンさんがスク水(女子用)を着てるみたいじゃないか!(/ω\)キャッ!

 

 たっぷり作ったおでんは大好評、みんなで美味しく完食しました。

 

 ●

 

 今日は全員でマサキの家にお泊まり決定。最初から決められていた。

 制服はもちろん、お泊りセット一式は完備済みなので何も問題ない。

 ベッドは使わず床に布団を敷いて眠ることにする。

 この場合、マサキを真ん中にして5人で寝ることになるのだが、誰がマサキの両サイドに陣取るかで揉める。

 すると愛バ間の熾烈な争いが始まるのだ!

 こういった争いはもう何回も行われたので、マサキも周りも慣れてしまったのだ!

 今日の勝負方法はマリオカートになった。何と!レトロなスーファミ版である。

 

「食らいやがれぇ!」

「やめて!やめて!赤甲羅はやめてください!ほげぇーーー!」

「ざまぁwwお先に!」

「あらら、自信満々だったシロさんが最下位ですねww」

「何で私ばっかり……貴様らグルか?グルなんだな!そうなんでしょ!」

「今頃気付いても遅いんだよ」

「ゲームだとシロちゃんの一人勝ちになるからね。そうはさせないってことで」

「ごめんなさい。でも、シロさんは強すぎますから仕方ないかと」

「い、いじめカッコ悪い。絶体絶命のピンチ……だが!ここから巻き返す!見ていてくださいマサキさん!」

「マサキさんはもう、お布団でウトウトしてるよ」

「マサキさーん!私の活躍を見てーーー」

 

 ゲームではしゃぐ愛バたちの声を聞きながらマサキはまどろんでいる。

 ここ最近のマサキは、寝る時に誰かが傍にいることに当たり前になっていた。

 並べて敷かれた布団の真ん中にいると、なんだか両サイドが酷く寂しい。

 

「お前ら……ゲームは程々にして寝るよ~……もう勝負とかいい…誰か俺の横に…‥来て……くれ」Zzz

 

 マサキの呟きを捉えたシロはコントローラーを投げ出す。マリカーしてる場合じゃねぇ!

 

「絶対遵守の操者命令!しゃーーっ!早いもの勝ちじゃーー!」

「コラッ!逃げんなサトイモォ!」

「暴れたらダメです!マサキさんが起きてしまいます!」

「そう言いながら超パワーで私を押しのけるアルは何なの?ゴリラなの?」

「なか‥‥よく‥‥しな‥‥‥さ」Zzz

 

 マサキの両サイドは早い者勝ちでクロとシロがゲット。アルとココは悔しいです!

 操者の穏やかな寝息を聞いていると心が落ち着く。それだけで幸せだ。

 灯りを落とした部屋の中でも操者の顔はバッチリ視認。ウマ娘は夜間視力も凄い。

 

「マサキさん寝ちゃった。寝顔か~わ~い~い~」

「ふと思ったんですけど。専業主夫をしてもらうのもアリなのでは?」

「想像してみよう。私が外でバリバリ働く、マサキには家事育児で家を守ってもらう。全然アリだね!」

「家に帰ると、エプロン姿の夫と子供たちが笑顔で出迎えてくれる‥‥‥めがっさ幸せです」

「『ご飯にする?お風呂にする?それとも……俺にするか?』なーんて言われちゃったら////」

「「「俺でお願いします!」」」

「だよねー」

 

 グフフ、未来予想図が捗っていかんな。

 マサキが専業主夫になってもいいように、稼げる女になることを誓う愛バたちであった。

 

「クロ、父様の介護よろしくお願いします」

「話の流れぶった切って何押し付けてんの!?リアルな老後問題怖ぇぇーーー!」

 

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