クエストに行った先で俺の愛バとルクスの愛バたちが遭遇した。
挨拶だけということで本格的な戦いにはならなかったみたいだが、何やらロックオンされたらしく迷惑なライバル宣言もかまされたのだと。
次に接敵する日がいつになるかわからない。準備だけは怠らないように、俺と愛バたちはより一層修練に励むのだった。
天気の良い休日。今日は絶好のデート日和だと思う。
待ち合わせ場所は家から15分程歩いた場所にある総合公園だ。
ベンチに腰掛けた俺はデート相手の彼女が来るのを、のんびりと待っている。
手持ち無沙汰なので公園を訪れた人たちを観察してみよう。
レッツ!ヒューマンウォッチング……どれどれ。
子供を真ん中にして手をつなぐ仲睦まじい家族連れ、いいですね~俺もいつかあんな風に、なんてな!
はしゃぎながら追いかけっこをする少年少女たち、転ばないように注意しなよ。
ブランコに座ったまま
芝生の広場で戯れる犬とその飼い主、あそこはペットを放してもOKらしい。犬かあ、散歩とか大変そうだけど一緒に暮らしたら楽しそうだな。
気になった犬と飼い主に注目する。
犬の毛色は白黒、ボーダーコリーかな。古くから牧羊犬として重宝されてきた犬種だ。
飼い主は俺と同い年ぐらいの女性、スポーティかつガーリーなファッションが素敵ね。
飼い主が手提げ鞄から円盤状の物体を取り出す。お、あれはフリスビーじゃないの。
やるのか?やってくれんのかい。
「それっ!取ってこーい」
「ワウッ!」
女性が投げたフリスビーを猛ダッシュで追いかけるワンコ。
その駿足で目標に追いついたワンコは見事円盤をジャンピングキャッチした。
どうだ!と言わんばかりの堂々とした走りで、飼い主の下まで戻って来るワンコ。
「クーン」
「よしよし、カッコよかったわよ、アストレイミラージュフレームセカンドイシュー」
「ワフンッ」(`・∀・´)エッヘン!!
「名前ながっ!!」
思わずツッコんでしまったじゃないか。
いやいや長すぎでしょ。なんでそんな名前をチョイスなさったのか謎だ。
ペットに長ったらしいモビルスーツ名を付けるとは、変わったセンスの持ち主ですな。
なぜだか今一瞬、姉さんの顔が浮かんだ。
俺の名前を考えたのは姉さんらしいが……まさかな。
しばらくフリスビー犬の雄姿を見学していると、円盤を咥えたワンコが飼い主ではなく俺の方に駆け寄って来た。
「お、どうしたどうした?お前のご主人はあっちだぞ」
「ワウ~?ワウッ!」
「もう、何やってるの。うちの子がすみません~」
「ああ全然大丈夫ですよ。ん?フリスビーを俺にか?」
愛犬が迷惑をかけていると思ったのだろう、飼い主さんも申し訳なさそうにこちらへやって来る。
焦る主人を尻目に、ワンコは俺にフリスビーをぐいぐい押し付ける。
その目は期待に満ちていた。
「どうやら、あなたに投げてほしいみたいです。あの、ご迷惑じゃなければ、この子と遊んであげてくれませんか?」
「いいんですか!うわー、実はちょっとだけ、やってみたかったんです」
「そうなんですか。よかったねーアストレイミラージュフレームセカンドイシュー。このお兄さんが投げてくれるってさ」
「ワンッ!」
飼い主さんの許可も出たし、フリスビー犬を体験しちゃうぞ。
力加減を間違えないように、と。
「そ、それっ!」
「ワンワンワン!」
俺の投げたフリスビーが真っ直ぐに飛んで行く。
それを追いかけるワンコはトップスピードから全速力を出す。
生き生きと走る姿が勇ましく美しい。まさに躍動!
ワンコは
「おお!やった!」
「ナイスキャッチ!」
俺と飼い主さんが歓声を上げる。
円盤を咥えたワンコは『見てたか?俺はやったぜ!』という誇らしげな顔つきで戻って来る。
「すげぇ!よくやったな。アストレイミラージュフレームセカンドイシュー」
「うんうん。頑張ったねーアストレイミラージュフレームセカンドイシュー」
「ワオーンッ!」
愛バたちにやるみたいに、たっぷりとワンコを褒める。ふむ、よき毛並みだ。
俺と飼い主さんに撫でられたアストレイミラージュフレームセカンドイシューは千切れんばかりの尻尾を振って大はしゃぎだ。
なでなでに勤しんでいると飼い主さんのスマホが軽快な音を奏でる。
彼女は『すみません』と断ってから通話をし始める‥‥‥ありゃ男だな。
通話を終えた彼女は公園の入り口方面を見た後、俺とワンコを見やる。
「えっと、非常に図々しいお願いがあるのですけど……」
「了解です。少しの間、アストレイは俺が見てます」
「え!聞こえていたんですか。やだなあ恥ずかしい///」
なんとなく察しただけだ。
彼氏が公園の近くまで来ているから会いに行きたいのだろう。合ってる?
「そうです。彼氏ったら犬嫌いでミラージュを見たら発狂して全裸になっちゃうんです」
「それは大変ですね。彼氏さんは一度病院に行ったほうがいいと思います」
「ご心配どうも。では、お願いします。すぐ戻って来ますので」
「はい。いってらっしゃーい」
「WAON!」
一時的にワンコを預かることになった。
すぐ戻って来るって言ってたし大丈夫か。
長い名前を略しても特に文句言われなかったなあ。だったら短くてもいいのでは?
「もう一回やっちゃう?」
「バウッ!」(いいぜ、早く投げな)
やる気満々なセカンドイシュー。
その意気やよし!ならば、こちらも応えねばなるまい!
「いっけぇーー!リープスラッシャー!」
「ワォン!」(バカ!力み過ぎだ)
しまった!思わず力が入っちゃった。
暴投されたフリスビーは先程より高速で宙を飛んでいってしまう。
しかも高い!あれじゃワンコのジャンプでは届かない。
完全に俺のミスだ。必死に追いかけるミラフレに申し訳ない。こうなったら俺が責任もってキャッチする所存であります。
アクセルの準備をするべく地面を踏みしめようとしたところで、颯爽と躍り出る人影が見えた。
疾風となった人影はあっという間にワンコを追い越し、フリスビーの下へ辿り着くと軽やかに跳躍する。
「取った!私の勝ちぃーー!」
「ワフ!?」
「ひゅーやるじゃない」
見事フリスビーをキャッチしてみせたのは俺の愛バ、クロであった。
ジャンプによって翻ったスカート、そこから瑞々しい太ももが露になっていらっしゃる。
公園にいる、俺を含めた男連中の視線は釘付けだ!ブランコおじさん!?元気になった!!
ちょっとーやめてよねー。うちの子を性的な目で見るの禁止なんですけどー!
ああいう無防備なところも好きなんですけどね。ちょっと心配になるわ。
スカート下に短パンを履いていなかったら厳重注意していたわよ。
「マサキさーん。取ったよー……うわっ!」
「ワウワウワウワウーン」
「ちょ、あははは、くすぐったいよ。わかったわかった、これはキミのなんだね」
「クーンクーン」
「邪魔してごめんね。ほら、マサキさんにもう一回投げてもらおう、ね?」
「ワン!」
犬と戯れる美少女‥‥‥ええやん。
クロもちょっと犬っぽいところあるし、一人と一匹は気が合うのかもしれない。
犬に例えるならクロは大型犬かなあ、シベリアンハスキーとかそんな感じ。
「マサキさん、お待たせ。ちょっと遅れちゃったかな?」
「このワンコと遊んでくれたから平気だ」
「ワンッ」
「そっかあ。キミのお名前は?なんていうのかな~」
「アストレイミラージュフレームセカンドイシュー」
「は?」
「この子の名前は、アストレイミラージュフレームセカンドイシューだ」
「ワオンッ」
「なげぇ!!」
俺とクロとアストレイミラージュフレームセカンドイシューは、しばしの間フリスビーを楽しんだ。
戻って来た飼い主さんに何度もお礼を言われながら、俺たちは公園を後にする。
「ワンコかわいかったー」
「だな。愛犬家になっちゃう人の気持ちもわかるぜ」
今日の俺はジーンズにシャツの緩い休日スタイル。
クロは肩だしのブラウスにチェックのスカート、健康的な肌が眩しい!
「今日はどこに行こうか?ノープランで出て来たけど、どうするよ?」
「それなんだけど。行きたいところがあるんだよね」
「じゃあ、そこに行こうぜ。場所はわかるのか?」
「地図はバッチリ頭に入ってるから任せてよ。マサキさんをご案内~ってね」
「なら安心だ。そんで?目的地の名称は」
「ジージの家」
「え?」
「私の祖父、お爺ちゃんにマサキさんを紹介したいな」
「なんですとぉ!!」
●
クロの祖父に会うことになった。いきなりすぎて軽くパニック。
『スーツなんか着て行ったら笑われるよ』と言うクロの言葉を信じて普段まま行くことに。
せめて菓子折りぐらいは持参せなアカンと思ったので、タイミングよく実家から届いていた菓子土産を鞄に詰め込んで再出発したのである。
やれやれ、この為だけに一時帰宅してしまったぜ。
今は最寄駅から電車に乗って移動中だ。
「お爺さんってどんな人?ココ爺様みたいな紳士だったりする」
「ないないwそれはないww。どこにでもいる普通の日本産ジジイだよ」
「そ、そうか。好きなモノやご趣味なんかは?」
「ジージの好みかあ。カラオケとか好きだよ、演歌歌わせたら超うめぇの!後は時代劇とか盆栽とか陶芸に骨董品の収集?ジジイっぽい趣味してる」
「なるほど‥‥‥」
小金持ちの純日本産ジジイを想像した。
クロはお爺ちゃん子みたいなので、孫にはべた甘で気のいいお爺ちゃんだろうなぁ。
なんだ、ビビる必要はないじゃないの。
ビシッと挨拶して俺とクロの仲を認めてもらえばいいだけだよ。楽勝楽勝!
「お爺さん!お孫さんを俺にください」セリフの練習
「わぁ、マサキさん気合入ってるー」
「まあな。ココ爺様にも勝利した経験者の俺に任せなさい」
「うん。その調子でどっしり構えていれば問題なし」
電車で一時間弱の駅で下車、そこから徒歩で向かう。
しばらくすると、町の景観が変わってきた。
「ここら辺は高級住宅街というヤツか」
「んー気にしたことないからわかんないなあ。割と大きな家が多いとは思うけど」
いや、ここに住んでいる人たちは明らかに高所得者の部類だろう。
駐車場に並んだ高級車はピッカピカだし、一軒一軒の大きさも半端ないでしょう。
ほら、そこの御屋敷なんて見るからにヤのつく職業の人たちが出入りしてそうじゃない。
屋敷をぐるりと囲んだ高い塀に威圧感のある立派な大門、この大きな屋敷だけ周りの家屋と明らかに雰囲気が違う、ハッキリ言ってしまえば場違いだ。
何なのここ?地獄の入口なの?
やだなぁ、関わりたくないなあ、は、早いとこ通り過ぎよう。
「着いたよ、マサキさん」
「‥‥‥あー」
着いた?今到着したって言った?
気のせいじゃない、クロが地獄門前で立ち止まっている。
嘘やん‥‥もう勘弁してよ。
「ははは、クロってばお茶目さん。ここはね、反社会的なご職業の方たちが小指消失マジックの練習をしたり、気分が良くなる葉っぱで儲かる方法を相談する場所だよ。危ないから近づいちゃダメ!」
「凄い偏見wwそんなんじゃないってば。ほら入ろう?家の人たちにはもう連絡してあるから、みんな待ってるよー」
「いや、待って、これはホンマにアカンでっしゃろ」
「ただいまー!キタサンブラック、今帰ったよー!」
「ひぃぃぃー!大きい声を出さないで」
クロが門の向こう側へ届くよう大声で叫んだ。
やめなさい!せめてインターホンを押して間違えたと謝ってダッシュで逃げよう!
クロの声に反応したのか、木製の大門がゴゴゴッと音を立て内側から開いていく。怖いってば!
「「「「お帰りなさいませ!お嬢!!!」」」」
「ひゃっ!」
ドスの効きまくった声量をにビビッてしまう俺。
く、黒服が、黒服姿の男たちがズラッと並んでいらっしゃるーー!あ、女性もいますね。
「うん。みんなただいまー」
あわわわわわ!
90度の角度で美しいお辞儀した黒服さんたちは、どう見ても堅気ではない空気を持っている。
そして、お聞きになりました?門から屋敷の玄関口まで整列した黒服はクロのことを『お嬢』と呼んだのよ。
なるほどな。ヤクザ屋さんでしたか‥‥‥もうお家帰る!
「行こう、マサキさん」
「引っ張らないで、こ、腰が…あびゃびゃびゃ」((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
「生まれたての小鹿みたいwwほらほら、大丈夫だよ」
綺麗な砂利の敷かれた地面を歩く。
お庭綺麗ね、日本庭園かしら。
ねぇ、あの黒服さんメッチャ睨んで来るよ?俺、殺されちゃうの?
テンパった俺は屋敷までクロに引きずられることになった。情けないけど許して。
玄関口で靴を脱いでから、未だ呆然とする俺をクロが屋敷の奥に引っ張って行く。
屋敷の中にもたくさんの黒服さんやお手伝いさんがいて、俺とクロに挨拶しきた。
クロは勝手知ったる仲のようで、軽く挨拶を交わしながら進んでいく。
「ジージいないの?可愛い孫が帰って来たよー」
「おー、こっちだこっち。ジジイは部屋でダラダラしてるぞ」
「出迎えるという発想はないのか、ごめんねマサキさん」
クロの呼びかけに返答があった。姿は見えずとも声の主は活力に溢れていると感じられる。
お爺さんは部屋でダラダラ中らしい。
クロに案内された部屋は畳張りの和室だった。
和室の中央にはちゃぶ台と座布団、壁際には掛け軸や陶磁器が飾られている。
そこに作務衣を着た老人が胡坐をかいて座り、俺たちが来るのを待っていた。
「元気そうだな、クロ」
「ジージ!ただいま」
「おう、お帰りさんだな。で、そいつがお前の……」
「そう!この人が私の操者、マサキさん」
はっ!いかんいかん!呆けている場合ではない、挨拶しないと。
クロのお爺さんにあいさ‥‥‥お爺さん顔怖っ!!
な、なんすか、その傷は?顔の半分以上にザックリと切り裂かれたような傷があって迫力満点だ。
一見すると小柄な老人であるが、その体は細マッチョに鍛え上げられており、眼光も鋭い。
白く染まった短い頭髪と綺麗に整えられた
生気に満ちており覇気も人間にしては上々だ。
老いてなお豪の風格を漂わせる人物。これがクロの祖父か。
気圧されてばかりじゃいられない。
俺は佇まいを直しお爺さんの目を真っ直ぐ見据える。
「初めまして、アンドウマサキと申します。若輩者ではありますが、お孫さんの操者をしております。どうぞよろしく」
ご挨拶が遅れて申し訳ないと言う気持ちを込めて、深々と礼をする。
「なんでい、思ったよりまともじゃねーか。クロの話だと、かなりぶっ飛んだ野郎だって聞いていたんだがよう」
「マサキさんは礼儀正しくもぶっ飛んでいるから、カッコイイんだよ」
「かぁー、いっちょ前に惚気おってからに。なんだかジジイは切ねぇぞ」
首をグキグキ鳴らしながらお爺さんは俺の正面に立つ。
「俺っちがキタサンブラックの祖父、
差し出された手を握り返す。まずは握手ですね。
ゴツゴツした手は老人とは思えないほどの力強さだった。
『まあ座んな』と座布団を勧めてくるお爺さん。
クロは俺の隣に、お爺さんはちゃぶ台を挟んで向かいあうように座る。
俺はお爺さんのことを"
「へっ、ジジイでかまわねぇってのに。さん付け呼びなんて尻が痒くならあ」
「ジージはオヤジとか組長って言われてるんだよ」
「あ、やっぱりそっち系なんですね」
「勘違いすんなよう。俺っちの"北島組"は至極真っ当な堅気の優良企業だぞ」
北島組は古くから建設業で栄えてきた会社だそうだ。
現在ではサトノ家と懇意にしており、多方面で活躍し大きな躍進を遂げている。
関連企業、団体を合わせると御三家にも勝るとも劣らない勢力になるという噂だ。
「あの黒服さんたちは?」
「うちの従業員指定制服だ、他意はねぇ。黒いスーツ着てると"できる大人"って気がすんだろう?」
「あー、わかるような気がします」
そっかあ、ヤのつくご職業じゃなかったかあ‥‥‥表向きはですね。
あまり突くとやぶ蛇になりそうなので黒服についての追及はこの辺にしておこう。
そんなんより、御三家や俺の母姉たちの方がずっとヤバい!!
「同じく、サトノ家も仕事着は黒が基本だよ。クロはやっぱりすごい」(`・∀・´)エッヘン!!
「うんうん。クロはすごい」
自画自賛のクロを撫で褒めする。
黒陽さんはそんな俺たちを『ほほう』と言いながら見ていた。
どうです?俺たちとっても仲良しですよ~。
「黒陽さん、こちらをどうぞ。ささやかですが、お受け取りいただけますでしょうか」
持参した菓子折りをお爺さんに手渡す。
危ない、忘れるところだった。
「これはこれは、ご丁寧にありがとさんよ」
「開けていい?開けるよ~」
「なんでい俺っちがもらったのによう」
「固いこと言いなさんな。わあ、おまんじゅうだ!」
「ラ・ギアス銘菓"
「お口に合えば嬉しいです」
【ラ・ギアス銘菓"天級饅頭"】
母さんたち天級騎神が4人も揃ったことに、ハッスルした村長と村おこし実行委員会が勢いと試行錯誤の末に完成させた一品、村の新名物になるであろうと期待されている。
白、黒、赤、青、と四色の饅頭が二個づつ入って手頃な価格設定で販売中。
饅頭には天級騎神のアイデアが盛り込まれており『試作品食べ過ぎて飽きたわぁ』と母さんが愚痴っていたっけ。
シラカワ重工の全面バックアップを受けて日本各地のアンテナショップや土産物店に陳列されており、売り上げは上々。
ネット販売も行っており、ネットショップ最大手のウマゾンでも買えるぞ。
映えるお土産品としてSNSでも話題沸騰中だとか。半分に割った断面の写真がウマスタによく投稿されているらしい。
中身は白(風)ずんだ餡、黒(闇)ごま餡、赤(炎)チョコクリーム、青(水)カスタードクリーム
ハブられたミオが『私参加してないんだけどぉ!』とキレ散らかしたので、来月から発売されるバージョンには黄色(土)の饅頭が新登場する予定だ。
暇を持て余した天級騎神と村長たちの努力の結晶、それがこの"天級饅頭"だ。
「うま!うめぇじゃねえかよ。これマジでうまくね?」
「サイママたちやるじゃん!これで村の財政も潤うね~」
「母さんたちは一発商品だって言ってたぞ、タピオカと一緒だな。バズってる今の内に売れるだけ売り切って、人気低迷したら即行で止めるってさ」
「サイママたちすげぇ!」
因みに、現在まんじゅうが売れてウハウハの村長たちはこの事実を知らない。
一時のブームが去ったらガッカリするだろうな。
シュウ曰く、生産ラインは最初から別の商品に流用できるように設計されているので無駄にはならないらしいけどね。
お茶請けに出された天級饅頭をクロもお爺さんも絶賛してくれた。
よかったね村長、この分だともうしばらくは稼げそうですよ。
「そんじゃまあ聞かせてくれるかい?おめぇさん、マサキのことをよう」
「はい。包み隠さずお話します」
「それと、クロがよそ様に迷惑かけてねぇかも聞かないと、なあ?」
「むー私は大人しくいい子だもん」
「だ、そうだが?」
「ご心配なく。クロは本当にいい子です」
お茶を頂きながら、俺とクロと黒陽さんの三人でお喋りする。
俺とクロの出会いに始まり、長期昏睡の説明や学園での様子を語っていく。
ちゃぶ台の下でクロが手をギュっと握って来る。
そうだな。これまでいろいろあったよな、これからもたくさんの思い出を作っていこう。
「なんだなんだ?お前さん、あの仮面野郎とやり合う気なのか」
「もちろん私も一緒に戦うよ」
「危険が無いと言えば嘘になります。でも、俺にはクロの力が必要なんです。どうか…」
「そりゃそうだ、操者と愛バなんだから一蓮托生だわな。それについては文句ねぇよ。マサキと戦えるなら本望だよな、クロ?」
「そのとおり、本望だよ」
ルクスと俺の因縁、今後の始まるであろう戦いについて話しても黒陽さんは動じた様子はない。
孫娘が戦場に行くことになっても『本望』だと言い切る。
覚悟決まってんなあ、この祖父と孫!!
「サトノの嬢ちゃんに、えーと、メジロにファインの姫さんたちも愛バにしたってか、やるじゃねぇのよう!」
「恐悦至極です」
「その三人も強ぇんだろうな。で、おぱーいはどうよ?」
黒陽さんが胸の前で何かを揺らすようなジェスチャーをした。
ほう、あなたもお好きですかな?
「急に何聞いてんだセクハラジジイ!シロたちに代わってぶっ飛ばすぞ!」
「おめぇには聞いてねぇ!今は男同士で大事な話をしてんだ、ガキは引っ込んでな!」
「87、87、80でアレコレ夢が詰まってます」
「マサキさん!?真面目に答えなくいいよ」
ココは最近大きくなったので79→80ぐらいになってると思う。
「いいねぇ羨ましいねぇ。こりゃあ、うかうかしてらんねぇぞ85」
「何で私のサイズ知ってるんだよ!」
「俺っちぐらいになると、胸の大きさぐらい直感で当てられんだよ」
「クソどうでもいい特技……なんて恥ずかしいジジイなんだ」
手をニギニギさせる黒陽さんにクロが嫌そうな顔をした。
こうやって話しているとわかる。クロと黒陽さんは本当に仲のいい祖父と孫なんだと。
笑って冗談やバカを言って互いを思いあっている。家族なんだなあ。
しばらくの間、俺は自分のこと、そしてクロのことを熱く激しくたまに切なく語ってみせた。
孫の様子を嬉しそうに聞いてくれた黒陽さんは好々爺そのものだった。
「マサキ、おめぇがどういう人間か大体わかったぜ。クロともうまくやれてるようだな」
目を瞑って頷く黒陽さん。
これは好感触では?このタイミングを逃すべきではない。
ハッキリしゃっきり宣言しておこう。
「黒陽さん。大事なお孫さんを、キタサンブラックを俺にください。ずっと一緒にいたいんです」
俺が操者でクロが愛バであることを、どうか認めてください。
「ジ…お爺様お願いします。私もマサキさんと共にありたいと思っています‥‥‥から」
クロも俺に続いてくれる。二人で頭を下げてお願いした。
さあ、黒陽さんの返答や如何に?
「ダメじゃ」
「「は?」」
「ダメじゃぁぁーーーいいぃ!!」
「「なんでさ!!?」」
突然叫んだかと思うとちゃぶ台をひっくり返そうとする黒陽さん。必死に押しとどめる俺とクロ。
いやいやいや、待ってくださいよ!
今、オッケー出すところだったでしょう?まさかのダメだしにビックリだよ。
何の問題もなく好感触だったと思っていたのは俺だけなの?
「俺がマザコンのシスコンだからですか?それともロリコンだからですかぁーー!」
「え、おめぇそんな奴なの!?……うわぁ…」
黒陽さん引いちゃった。
違ったみたい。俺のバカ!言わなくてもいいことを暴露しとるがな。
「クロ、マサキにまだ見せていねぇだろ、なあ?」
「・・・・」
「ダメなのはマサキじゃねぇ。おめぇだよクロ」
「今日、全部打ち明けるつもり……だった」
「つもりじゃダメだってんだよ。俺っちの所へ来る前に見せるべきだは思わなかったか?」
「それは‥‥」
「今からだ、今から寺に行って見せてこい。おめぇら二人が今後もやっていけるかどうか、全てはそこからだ。俺っちが言ってることわかるよな?」
「……わかった行くよ。行って全部見せてくるよ!なめんなよジジイ!」
「最初からそうしてりゃいいのよ。ついでだ、婆ちゃんの墓参りにも行って来い『図体だけでかくなってすみません』て謝っとけ」
「うっせぇ!マサキさん、行こう」
「え、待って、どこに?」
クロに手を引かれ部屋から連れ出される。
寺?墓参り?お寺で俺に何を見せる気なの、わかわからん。
「行って来い。二人で帰って来ることを祈ってるぜい」
●
「やれやれだぜ。相変わらず騒がしい孫だっつーの」
部屋から出て行ったマサキとクロを見送った黒陽は顎鬚を撫でつけながら思案する。
孫娘の本性を見てもマサキは操者でいてくれるだろうか?
最悪"契約解除"もあり得ると思う。
そうなったとき孫娘きっと泣くのだろう。
「あいつの泣き顔なんざ見たかぁねぇ。でもよう……」
こればっかりは避けて通れない道だ。
孫娘の秘密はいつまでも隠し通せるわけがない。遅かれ早かれずれバレる。
知るなら早いほうがいい。深い絆ができてからの別れでは傷も大きくなるはずだから。
あの二人の親密さではもう手遅れだとも思うが‥‥‥それは仕方ない。
「今がその時だってわけだよなあ」
全ては操者である、あの男の器次第だ。
黒陽から見たマサキの印象は悪くはない。真面目な好青年でユーモアもあり、それなりの修羅場も潜ってきている。学園で教職に就いているのも評価できる。
あの孫娘が選んだとは思えないほどのまともな男で拍子抜けしたぐらいだ。
もっとこう、その、なんだ、世紀末ヒャッハー!みたいな野郎を想像していたのに。
モヒカンじゃねぇのかよう!
(あの覇気はかなりのもんだったぜい)
クロの話によれば、あの状態でもかなり抑えているらしい。
覇気だけで判断するなら"でっかい男"の基準は文句なしにクリアしている。
「オヤジ、入りますぜ」
「おう」
襖を開けて巨漢の黒服が入室して来た。
浅黒い肌にサングラスをかけた大男は北島組で幹部を任されており、数十人の部下を束ねている強者だ。
勤続年数も長く黒陽からの信頼も厚い。
「ジョージ、おめぇから見てマサキはどうでい?」
「少し殺気を向けてみやしたが普通にビビッてました。へっぴり腰が堂に入ってる男です」
「そうか。おめぇが出るまでもなく勝てそうか?楽勝か?ワンパンか?」
「オヤジ、寝言は寝て言ってくだせぇ」
ジョージと呼ばれた男はため息をつきながら次の言葉を吐く。
「あの男とは絶対に戦いたくありません」
「ほぅ。それはクロが連れてきたからか?御三家のお気に入りだからか?それとも、天級騎神の息子だからかぁ?んん?」
「それもありますが……お嬢と同じか、それ以上に感じるんですよ。あれを敵に回しはいけない、絶対に後悔するぞって」
「本能からくる危険信号がビンビンッてかぁ!そいつぁ愉快だ」
北島組の黒服たちは訳アリの者も多く過酷な状況下で生き残ってきた身の上故か、生存本能に長けている連中が揃っている。ジョージもその一人だ。
そんな男が、マサキを全力で危険視していることに黒陽は満足する。
「オヤジは何も感じなかったんですかい?」
「そこまで
「それでお嬢を出迎えなかったんですか、オヤジ……カッコ悪ぃ」
「仕方ねぇだろう!腰が抜けちまったんだからよう。回復するまで平静を装った俺っちを褒めて!」
「はいはい、腰抜けジジイですね」
「くそぉ、老人虐待で訴えてやんぞ」
黒陽は操者ではないが覇気の操作に長けている。
身体強化はもとより自陣に結界を張る術もお手の物だ。
屋敷の門をマサキが通過し、結界網に異常な反応があったとき『あ、死んだ』と思ったのは本当だ。
そういった理由でマサキがへっぴり腰になっていた時を同じくして、黒陽も腰をやらかしていたのである。
実際、目にした男は予想外に大人しいものだから、覇気の異常性がより一層際立って見えたが。
「お嬢たち、うまくいくといいですね」
「そうさなぁ。とりあえず宴会の準備はしといてくんな」
「祝勝会ですか?それとも残念会ですか?」
「どっちに転んでもいいように、うまいこと頼むぜい」
「わかりやした。オヤジも手伝ってくださいよ」
「かぁーこのジジイを酷使するとはふてぇ野郎だよ。いいぜ、特製ホールケーキを焼いてやらぁ!」
「前みたいにウェディング仕様にしなくていいですからね。作るのも片付けるも、のめんどくさいは勘弁です」
「それが元パティシエの言う事か!いいからやるぜぃ」
黒陽とジョージは屋敷自慢の台所へ移動する。特注のオーブンが大活躍することだろう。
どんな結果になろうとも、孫娘とその操者が帰って来るまでに宴の準備だけはしておこうと思う。
「祝勝会になることを祈ってるぜ」
神に祈る趣味はないが、今日ばかりはクロとマサキのために祈願してもいいだろう。
●
齢60過ぎてケーキ作りにハマったジジイと元パティシエの巨漢がキッチンで大騒ぎをしている頃。
クロとマサキは北島屋敷から30分ほどの場所にある寺院を訪れていた。
手入れと掃除の行き届いた境内は厳かな空気で満ちている。
お寺の名前が"花京院"なので『レロレロですか?』と茶化しそうになったけど自粛した。
顔見知りなのか、寺の住職と和やかに会話したクロは『こっちだよ』とマサキの手を引いて境内を案内する。
目的のお墓へはすぐに辿り着いた。墓石には"北島家"と刻まれている。
ここにクロのお婆さんが眠っているのだ。
持参した線香を立て、クロと一緒に手を合わせる。
「久しぶりだねバーバ……今日は紹介したい人がいるんだ。じゃーん!この人が私の操者だよ」
クロが墓前に語りかけ俺を紹介してくれた。
「どうも、アンドウマサキです。お孫さんは、クロはとってもいい子ですよ」
「マサキさんはとってもいい男なんだ。どう?羨ましいでしょ」
自慢気に胸を張るクロにほっこりする。
(俺もこの子も一生懸命生きていきますので、どうか見守っていてください)
もう一度、深く
お墓参りを終えた俺たちの前に再び住職が現れる。
「準備ができました。こちらへ」
「ありがとう。結界の強度は大丈夫だよね?」
「ご心配なく。最大強度を維持しておきますので」
「解放日でもないのにごめんね」
「大恩ある北島家の頼みです。お嬢のご希望に沿うことを拙僧どもは嬉しく存じます故、お気になさらず」
「マサキさん。行こう」
「ん、ああ」
住職さんに会釈を返していた俺を腕をクロが引っ張っていく。
今日は彼女に案内されてばかりだ。
俺は方向音痴なので誰かに導いてもらえるのは非常にありがたいんですけどね!
クロと俺は寺の裏側に回り込み地下へ続く階段を下りる。
階段を下った先には堅牢でメカメカしい隔壁扉が‥‥‥うわー、いきなりハイテクになったな。
壁に設置してある端末に手をかざしたクロは静脈認証をパスしたようで扉が開く。
内部は石造りの空洞になっていて天井や床には曼荼羅っぽい何か、恐らく結界を張る魔法陣の類が描かれている。
学園の旧校舎ダンジョンやUC基地の修練場に似ている。ということは……
「ここは道場みたいなもんか?」
「そうそう。昔から北島家の人たちが出入りしている場所なんだ。覇気を使って戦える場所はジージの屋敷内にもあるけど、ここは結界強度が段違いで全力が出せるから」
「全力バトルと解放日には持って来いなわけだ」
"
アルクオン戦後の俺がやったアレ(尻尾ピーン事件)や、耳と尻尾を晒した姉さんのくしゃみのことだと思ってもらいたい。
強い覇気が体内で滞ると神核に悪影響が生じるため、覇気を扱う者は定期的にデトックスを行っている。
個人差はあるが数ヶ月に一回は行うものだ。俺や愛バたちは旧校舎ダンジョンで以外でやると騒ぎになるので結構気を遣う。
因みに、母さんたち天級は年に数回、一日中死んだように眠る日があってそれが解放日なんだと聞いた。仮死状態になってなんたらかんたら……いろんなやり方があるんです。
この寺の地下は北島組が修練と解放日を行う場所なんだそうな。
「ここじゃないと、みんなに迷惑がかかるから」
「今からクロの秘密ってのを拝ませてくれるのか?」
「うん。ずっと黙ってるわけにもいかないし、マサキさんも何か変だと感じていたでしょ」
「まあな」
「私が自分から打ち明けるまで、待っていてくれたんだよね」
「愛バを信じるのも操者の務めですから」
『あら~この子なんか変じゃない?』とは思ってたけどね。
俺の愛バはみんなそれぞれ個性的というか癖があるので、そんなに気にしてなかったけど。
秘密とやらが『他に好きな人ができたの』とかだったら泣くわ。ショックで灰になるわ。
「それは絶対にないよ。私が隠していたのは私自身のこと」
「ん~、実はクロは悪い子だった、とか?」
「近いかな‥‥‥」
クロは俺から少し離れる。俺たちは結界陣を挟んで向かい合う形になる。
「準備いい?」
「いつでもどうぞ」
「ビックリするなとは言わないけど、どうか目を逸らさないでほしい」
「任せろ。ガン見してやる」
「いくよ、マサキさん……」
クロは迷いを断ち切るように息を吐き、俺の顔を真っ直ぐに見つめた。
覚悟を決めた顔をしている。
「本当の私を見せてあげる」
●
私はマサキさんに全てを見せる。
そして私は変わるのだ‥‥‥変わったというより戻ったが正しいけど。
地下道場の景色が一変していることからもうまくやれたようだ。
あーいる。いっぱいいるな。やっぱり出て来たよ。そりゃ出て来ちゃうよね。
まだまだこんなもんじゃないけど、とにかくたくさんの
私自身は‥‥‥鏡がないからわかんないけど‥‥‥髪伸びてるかな?
マサキさんは、マサキさんの反応はどうだろう?
怖がられるかな、逃げられるかな、嫌いだって言われたらどうしよう。
(嫌だ嫌だ嫌だよ!怖い怖い怖いよ!どうしようどうしようどうしたらいいの?)
もし拒絶されたら、そうなったら私はもう…‥
「‥‥‥クロ…それ‥‥‥お前なの…か?」
彼は私をじっと見ていた、じっと見てガタガタ震えていた。
酷く狼狽している彼を見て私は悟った。
(そっか……ダメだったか……そりゃそうだよね)
あんなに怖がっていた癖に、いざそうなって見ると『ですよねー』という感想しかない。
だってさ、常識で考えてもみなよ。
(こんな化物が愛バだなんて、私だったら絶対嫌だもん‥‥‥)
最初から無謀だったのだ。
いかにマサキさんとはいえ無理なもんは無理だろう。
むしろここまで本当によくやってくれた、よくしてくれた。
そのことには感謝しきりだ。
(ありがとうマサキさん。こんな私でごめんね)
本当にありがとう。もういいよ、もう私から解放してあげる。
大丈夫だよ。あなたの愛バはまだ三人もいるから、とっても素敵なあの子たちが私のことなんて忘れさせてくれるはず。
だから大丈夫。全然大丈夫‥‥‥平気だよ。
愛バとしての最後の務めだ。操者の幸せを願い笑顔で送り出さないと。
頑張れキタサンブラック、帰ったらジージに愚痴りまくってやけ食いしてやるんだから……
だから……それまで泣くんじゃない。
いい夢だった。
本当にいい夢を見せてくれた。
こんな私でもいい子に、あの人の素敵な愛バになれるんだって最高の夢を。
マサキさん、マサキさん、マサキさん、ああ、もっと呼びたかったな。
「マサキさん……」
「あ……あ‥‥‥おぉ」
マサキさん下を向いたまま震えてる。
もう応えてくれないのかな。私のこともう見たくないのかな。
すごく、ものすごく悲しいなぁ・・・
「きゃあぁぁぁーーーーーー!!」
きゃー?きゃーって……えぇー(´Д`)
マサキさんが急に甲高い悲鳴を上げたんだけど!?
ビックリしたのだろうけど、そんな悲鳴上げる?私そんなに酷い姿なのかな?
メンタルがへし折れそう。もうへこむどころの騒ぎじゃない。
「ク、ク、ク、クロォォ――――ッッ!!」
次の瞬間、マサキさんが叫びながらこちらに突撃して来た。
何?どういうこと?
唖然としている私を待つこともせず、マサキさんは正面から私に抱き着いた。
え、ちょっと!?
「なんだそれ!なんだそれ!なんなのそれーーー!」
「ちょ、マサキさんどうしたの」
「どうしたもこうしたもあるかいな!お前それ、それ、それは……」
肩を思いっきり揺さぶられた。もう何が何だかわからない。
興奮したマサキさんは目を血走らせ、ギラギラした瞳を私に向けたこう言った。
「めっっちゃくそ!カワイイやんけーーー!惚れ直したわぁ!超好きぃ!」
「え?は?好き?」
「好きです!俺の愛バになってください!」
「もうなってる」
「そうだったぁーー!俺って幸せを者だ!やったー!」
マサキさんがぴょんぴょん跳ねて喜んでいる。
私も周りのアレたちも、彼の異常なはしゃっぎっぷりに困惑する。
もう『どうしようこれ』としか思えない。
「もっとよく見せてくれ。ああ、マジで綺麗だ。本当に可愛い‥‥」ウットリ
「そ、そうかな///」
「そうなんだよ!いつものクロもいいけど、今のクロもいいよな。なんか特別って感じがしてさあ」
「マサキさん、嬉しいの?」
「嬉しいよ。だって愛バの新たな魅力に気付いたんだからな!もう、クロも人が悪いつーか、早く教えてくれればいいのに~。シロたちも秘密にしちゃって酷いじゃないのよ」
「シロたちは知らないよ。私がこうなるのを知ってるのはジージと北島組の幹部にパパとママぐらい‥‥‥シロ、アル姉、ココには言ってない」
「マジでー!勿体ないなあ、みんなに教えたらきっと喜ぶぞ」
シロはうすうす気付いているけど、敢えて聞いてこないんだろうなあ。
「マサキさん。喜んでいるところ悪いけど周りを見て」
「ん?ああ何かいっぱい飛んでるな……スカイフィッシュ的な?」
「未確認生物じゃないよ!アレが私から出て来たの見たよね?」
「うん。それが何」
「それがって……私の見た目も変だよね?」
「変じゃない!カワイイっていってんだろ!このヤロウ~」
「え、もう、反応が……じゃあ覇気はどう?私の覇気もうすごいことに」
「すごいとは思うけど、俺の覇気も中々のものだしー、特に気になりませんな」( ー`дー´)
「き、気にしないんだ」
「こんなことを気にしてたのか?‥‥‥あ、悪い、真剣に悩んで打ち明けてくれたのに茶化しちゃダメだよな」
マサキさんは私を撫でる。いつもそうしてくれるみたいに優しく撫でてくれる。
「俺はいつものクロも、今のクロも大好きだ」
「ホントに?ホントに本気で本当に?」
「ああ"腐りかけゾンビ"や"ぐじゅぶじゅグロスライム"に比べたら何百倍もマシだ!」
「どういう私を想定しているの!?怖すぎるよ!」
「異世界は広いんだぞ。"喋るガイコツ"や"オカマのネコさん"に"毒舌アンドロイ"なんかもいるしな」
「転移先で苦労したんだね」
「ああ、そのおかげで多少のことには動じません!」
「北島組にはビビってた」
「それはコレあれはソレ!お化けとヤクザはどうあっても怖いの!」
マサキさんはお化けとヤクザが苦手だ。あれは慣れるもんじゃないらしい。
北島組の制服、もっとファンシーなのにするべきだとジージに進言しておこう。
「ずっと悩んでいたんだな。ごめんな、俺が頼りないばかりに今まで打ち明けられなかったんだよな。許してくれ」
「そうじゃない。私が、ただ怖くて、勇気がなくて、き、嫌われたら‥‥‥どうしようって‥‥‥言い出せなかったの」
「今日は勇気を出してくれたんだな。ありがとう俺を信じてくれて」
「そうじゃない!私、諦めた、勝手に諦めてもう愛バやめようって‥‥‥信じられなかったんだよ。信じなくちゃいけなかったのに!」
「クロ‥‥‥」
「やっぱり愛バ失格だよ。操者のことが信じられないなんて、そんなのダメすぎる」
一人で先走って諦めた。ダメな子だ。自分が許せそうにない。
私なんてマサキさんの愛バにふさわしくない。
「お前がダメかどうかは俺が決める。結論!クロはダメじゃない。そんでもって俺はお前に愛バでいてほしい。頼むよ、俺と一緒にいてくれ」
「マサキ……さん…」
「愛バをやめるだなんて言わないでくれ。そんなこと言ったら泣くぞ。黒陽さんにしがみついて三日三晩泣くぞ?」
「ジージ大迷惑だww」
ジージにくっついてむせび泣くマサキさんを想像して笑ってしまった。
おっと、いけないいけない。私のせいで泣いてる人を笑うなんてダメだよ。
「ようやく笑ったな。ここに来てからずっと固い表情だったから心配したぞ」
少し屈んだマサキさんが私のおでこに自分のおでこをくっ付ける。
顔が近いので照れる。けど、すごく嬉しい。
こうしているとリンクが強まって相手の思いがダイレクトに伝わって来るんだ。
(改めて契約しよう。キタサンブラック、俺の愛バになって一緒にいてくれ)
(……私でいいの?)
(お前がいい。お前とシロとアルとココがいいんだ!)
欲張りだ。でも、それでこそマサキさん。
(返事を聞かせてくれ)
(はい)
「私キタサンブラックは、アンドウマサキあなたを操者と認めます」
声に出して覇気も込めて一言一言を刻み付けるように返答する。
周りのアレたちも今の宣言を聞いている。聞いていて歓喜している。
「俺アンドウマサキは、キタサンブラックお前を愛バにする」
マサキさんの声が聞こえる。その言葉が聞けて満足だ。
もうこのまま死んでも‥‥‥よくない!けど、それぐらい嬉しいってこと。
「ずっと一緒だよ?」
「ああ、ずっと一緒だ」
そう言って彼は私を優しく抱きしめてくれたの。
少し前の怯えていた私に教えてあげたい『今日は私にとって最高に幸せな日になるんだよ』と。
●
そして私は思い出す。
優しかったバーバが死んだ日のことを……
「いいかいクロ……よくお聞き…」
「バーバどうした、またどこか痛いの?」
「ああ、どこもかしこも痛いさね。それより、いいかい」
入院中の病人にしては力強い眼差しにちょっと怯む小さな私。
やせ細った手を伸ばすバーバ、その手で私の頭をグリグリ乱暴に撫でる。
「お前はキタサンブラックだ。ブラック……黒じゃないといけない…」
「うん。わかってる」
「私が術をかけてやれるのは今日が最後。明日からは教えたとおり自分でやるんだよ」
「起きた時と寝る前は要チェック。ちゃんと覚えてるよ」
「最初は窮屈だろうさ。だが、それが当たり前になったとき、お前はみんなと一緒に歩んでいける。一人にならなくても、あの子みたいにならなくても……」
あの子というのは誰だろう?
わからないけど、バーバが私を心配しているのは理解できた。
「本当の私はダメなの?悪い子なの?」
「ダメじゃない、悪くもない、ただちょっと、いやかなり、危なっかしいんだ。それをみんなは怖がる‥‥‥離れて行ってしまう」
「それは嫌だなあ。じゃあ、黒になるしかないんだね。頑張るよ」
「ああ頑張りな。サボるんじゃないよ、あたしゃずっとお前を見てるからね」
「うげー」
「フフ、頑張んなクロ。一生懸命生きてりゃそのうち‥‥‥」
バーバは笑う。ニッコリ笑う。その笑顔が好きだった。
『若いころは超絶美人!』とジージが褒めていたのも頷ける。
「本当のお前をもらってくれる、本物の男に巡り合えるだろうさ」
もらってくれるって…物みたいに言わないで思ったものだ。
しょうもない嘘をつくジージと違って、バーバは言う事はいつも正しかった。
このときの言葉もやはり正解だったようで……
本物の男はちゃんと私をもらってくれたのだ。
本当のクロがどういう状態なのかは、まだ秘密です。
考え中とも言う。