俺と愛バのマイソロジー   作:青紫

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お助けください

 秘密を明かしてくれたクロは程なくして、いつもの姿に戻った。

 すると、覇気の嵐は収まり渦巻いていたアレやらコレやらも大人しく消えていった。

 地下道場の結界には相当な負荷がかかったようで、柱には大きな亀裂が入り床に描かれた陣は所々消えかかっている。

 これはもうリフォーム工事が必要なんじゃない?と思ったが、昔からクロの解放日に付き合っている住職さんたちの手にかかれば一晩で修繕しちゃうのだそうだ。

 匠の技すげぇな。

 

「もう慣れちゃってるからさ。今はこっちのほうが楽なんだよね」

 

 元に戻ったクロは自分の身体を確かめるように首や肩を回しながらそう言った。

 最初はそれなりに苦労したらしいのだが、今では呼吸をするかのように当然の如く普段の姿を維持し続けられるんだと。

 うむ。いつものクロもいいが真実の姿をしたクロ、略して真クロも捨てがたい!

 

「マサキさんが望むなら、いつでも真の姿になってあげる」

「いいの!じゃあじゃあ、お風呂中にお願いしたい」

「いいよ。あ、でもお風呂が吹っ飛んじゃうかも」

「それはイヤン!」(/ω\)

 

 真クロ状態になると覇気の爆裂が起こった挙句、例のアレがウジャウジャ出て来てエライ事になるんだと。

 そうするとクロの周囲は被害甚大になってしまうわけで、家のバスルームなど木っ端微塵だ。

 厳重な結界が張ってある地下道場や迷惑のかからないダンジョン内ならともかく、おいそれと変身するのはNGなのだ。

 従って、お風呂で真クロはお預けである。ちくしょーめ!

 

「非常に残念だ。残念無念!」

「ごめんね。もっと強くなって覇気の制御が上手になったら、もしかすると大丈夫になる…かも?」

「わかった。その時が来るのを楽しみにしてる」

「あんまり期待せず気長に待ってて」

 

 待ってる。期待はしておくからな。

 

「真クロモードは封印だ。俺との約束な」

「了解!マサキさんの許可あるまでは"本当"には誓ってならない」

「もちろん、やむを得ない緊急時には俺の許可は待たなくていいからな」

「うん。わかってる」

「……たまには見せてほしいけどな」

「二人っきりのときに、だね」

 

 胸に飛び込んできたクロを目一杯撫でる。うむうむ、可愛い奴め。

 こうして、俺とクロの絆レベルが上がった!もう三段階くらい一気に上がった。

 

 ●

 

 寺から北島屋敷に戻ると最初に訪れたときより以上に歓待された。

 クロが俺にべったりくっ付いているのを確認した黒服さんたちが、はやし立てながらクラッカーを鳴らす。

 黒陽さんは『しゃー!見たかババア!やったぜババア!』と歓声を上げ、巨漢の黒服(ジョージさんと言うらしい)に『オヤジ落ち着いて』とたしなめられていた。

 

 北島組一同が俺とクロの行く末を心配していたらしい。

 宴も成功バージョンと失敗バージョンの二通りを用意していたんだと。

 クロの本性を明かすということは、それほどの一大事だったというわけだ。

 結果は見事成功!俺とクロはお別れすることなく、これからも共に歩んで行く。

 屋敷の入口に飾られた横断幕には【祝!やったぜお嬢!末永くお幸せに!】と毛筆で書かれている。

 ジョージさんの直筆らしい。うーん達筆だなあ。

 ゴミ箱に突っ込んである失敗バージョンの横断幕には【哀!泣かないでお嬢!男なんてシャボン玉よ!】と書かれていた。

 こっちじゃなくてよかったと心底思う。

 

 乾杯の合図と共に祝勝会という名の宴が開催された。

 集まった北島組の人たちで大きな屋敷は内も外も人口密度がエライ事になっている。

 ご近所の人たちや関連企業の重役たちもお祝いに駆け付けてくれたそうで、ギュウギュウですわ。

 半分以上が強面なのだが誰も気にしない。

 本日は無礼講ということで飲めや歌えやの大騒ぎだ。

 主賓である俺とクロはあっと言う間に囲まれてしまった。

 

「「「「お嬢!おめでとうございます!」」」」

「ありがとう。心配かけてごめんね」

「ご成婚はいつになさいますか?ワシら一同いつでも駆けつけますぜ」

「気が早いよ。まあ、そのうち、ね」

「ヒュー!お嬢が照れてるぞ」

「何なら今ここでやっちまえ!」

「もう////急すぎるってば」

 

 と言いつつ、満更でもないクロ。はにかんだ表情がカワイイ。

 結婚かぁ……4回すんのかなあ?

 それぞれのプランもあるだろうし4人同時だとかなり揉めそう。

 もしやるとすれば、彼女たちの希望に沿った式になればいいと思う。

 なーんて!気が早いつーの。

 

「おう、飲んでるかい若?」

「飲んでません、飲めませんから。若ってなんですか?」

「なんでぇ、若は下戸なのかい」

「つまんない~。ちょっとでいいから飲んでよ~若~」

「コラッ!無礼講とはいえアルハラは厳禁だ。若、炭酸飲料なら大丈夫ですよね?どうぞ」

「ありがとうございます。若ってなんですか?」

 

 グラスに注がれたジンジャーエールを手渡される俺。

 もう既にできあがっていらっしゃる黒服さんたちに背中をバシバシ叩かれたり、肩を組まれたり、お尻を触られたりして絡まれてしまう。

 こういうのは飲みの席ではよくあることなので受け流す。

 若?ワカ?……受け流せない文言が聞こえているのは気のせいか?

 

「お嬢の男ってことは、いずれ北島組の若頭になられるんでよね?だから若って呼んでます」

「なりません!俺は教職なんですけど」

「今時ダブルワークなんて珍しくもないですぜ。うちにもいろんな副業で稼いでる奴がいますんで」

「兼任ですよ兼任~。はい、何も問題ない」

 

 トレセン学園の教官を副業にしろと?

 ただでさえ、愛バたちから御三家入りしろとか言われているのに北島組の若頭だと……

 いやーきついっスわあ。僕にはとてもできない。

 え?え?これってマジなの?若頭決定事項なの?

 黒服さんたちから『逃がしませんよ』的な圧を感じる。怖い。

 

「みんな!無茶言わないで。結婚も若頭もルクスを倒してからなんだよ」

 

 わたわたしている俺をクロがフォローしてくれた。

 そう、そうなんですよ。ルクスの仮面を叩き壊すまで若頭なんて知らないんだからあ!

 

「わかりやした、若(仮)」

「勝手に盛り上がってすみません、若(仮)」

「若(仮)こっちの料理も食べてくだせぇ。美味いですよ」

「若(仮)……いい男……ポッ////」

「まて!若(仮)はみんなのアイドルだぞ。年上ですけど兄貴って呼んでいいっスか」ハアハア

 

 うん。何もわかってないね。(仮)を付けたからって許されるか!

 またホモがいますね。

 

「マサキさんをエロい(ホモい)目で見た奴!一列に並んで歯ぁくいしばれぇぇーー!」

「「「「ひぃぃー!かんべんしてくだせぇお嬢!!」」」」

 

 どこにでも湧くホモさんたちに激おこのクロが襲い掛かる。大慌てで逃げ惑うホモさんたち。

 宴会での暴力沙汰は慣れっこなのか、集まった人たちはテーブル上の料理に被害がでないよう上手に避けている。

 歓声と野次と笑い声が飛び交う中で賑やかな宴は続いた。

 

「マサキ、ちょっくらいいかい?」

 

 宴も中盤に差し掛かった頃、黒陽さんに声をかけられた。

 少々お話があるそうで自室まで来てほしいそうだ。

 断る理由は皆無なのでついて行く。酒臭い宴会場の空気から遠ざかりたかったのもある。

 

一升瓶(いっしょうびん)をラッパ飲みしていたはずなのに、素面と変わらないのはさすがですね」

「俺っちにとっては酒=水みたいなもんよ」

「アルみたいなことを仰る。自分だったら即行でぶっ倒れてゲロゲロコースですよ」

「そうかい。ゲロゲロコースなら飲まなくて正解だよなあ」

 

 屋敷には黒陽さんの自室といわれる部屋がいくつもある。

 その中で壁一面を本棚で埋め尽くされた部屋に通される。自室3号(書斎)だそうだ。

 

「待ってろ……えー、あったあった」

 

 本棚の隙間から何かの紙切れを取り出す黒陽さん。

 それは古ぼけた1枚の写真であった。

 

「こいつを見てくれどう思う?」

「すごく大きい、じゃなくて!写真ですか、これは……クロ!??」

 

 写真には小学校低学年ぐらいの少年と少女が写っている。

俺の目は少女のほうに釘付けになる。

 誤解無きように言っておくが、ロリコンセンサーが反応したからではない。

 写真の中の少女が小さい頃のクロにそっくりだったからだ。

 

 満面の笑みを浮かべた少年は黒陽さんだろう、どことなく面影がある。

 それに対して少女はつまらなそうにそっぽを向いている。写真も嫌々撮られた感ありありだ。

 出会った当時のクロがやさぐれていたら、多分こんな感じになると思う。

 グレてるけどそこがまた可愛いな。ごめん、ロリコンセンサーやっぱり反応してるわ。

 

「似ているだろ?そいつは俺っちの妹、白月(しろつき)だ」

「なるほど、妹さんでしたか」

 

 北島白月(きたじましろつき)黒陽(こくよう)さんとは5つ年の離れた妹だそうだ。

 

「こいつがまた闘争本能の塊みたいな奴でよう。物があれば壊す、ケンカは売るし買う、とにかく暴れ回って手が付けられねぇクソガキだった。俺っちも何度泣かされたことか……」

「ご苦労されたようで」

「そんでな、あいつが15になった誕生日だ。家から忽然(こつぜん)と姿を消したかと思ったら数日後、人里離れた山中で見つかった‥‥‥死体でな」

「亡くなった!?何かの事件に巻き込まれたとか」

「そうじゃねぇ。アレは自殺だ、いや、自滅ってのが正しいか。あいつはな、自身の覇気に食われちまったんだよ」

「食われた?覇気暴走……メルトダウン」

「詳しいな。さすがウマ娘専門校の教職だ」

 

 教官試験や治療師の勉強中に散々学習した。操者としても知っておくべき知識なので詳しくて当然です。

 

 先天的に強い覇気を持つ者に見られる症状で、内包する覇気が制御不能に(おちい)り暴走状態になってしまう者がいる。

 感情抑制が効かず気性が荒くなったり、脈絡もなく突発的に暴れたりする。それだけならまだいい。

 症状が進行すると、強すぎる破壊衝動に心身を蝕まれ自傷行為や他者を害してしまうこともある。

 そして覇気暴走の最終段階、大きく膨れ上がった覇気が暴発し周囲一帯を巻き込んでの大破壊に及ぶという。

 まるで命を燃やし尽くし溶かし尽くす爆弾。この危険で恐ろしい現象は"メルトダウン"と呼ばれている。

 メルトダウンを起こした者の末路は一つ、死だ。

 

 テスラ研に引きこもっていたアルがまさにこの状態一歩手前だったわけで、彼女を救えたことは本当に幸運だったとしみじみ思う。

 

「勝手な推測だがよう。あいつは自分の運命ってのを知っていたんだろうな」

 

 懐かしむように悔やむように語る黒陽さん。

 15歳になった白月さんは自分がメルトダウンを起こしそうだと悟ったのだ。

 だから、他者に危険が及ばない山中に向かった。誰にも助けを求めず‥‥‥たった一人で人生を終えるために。

 どれほどの苦悩が彼女を襲ったのか、俺には計り知れない。

 

「バーカ、おめぇが気に病むことじゃねぇ。もう過去の話さ」

「だって、白月さんが……」

「かわいそうだなんて言ってくれるなよう。あいつは早死にしちまったが、自分の生き様には満足していた。キッチリけじめをつけていったこと、兄貴として褒めてやりたいぜ」

 

 家から失踪した白月さんは置き手紙を残していたらしい。

 『じゃあなバカ兄貴。姉さんと末永く爆発仲良くしろよ』という短い文章だった。

 姉さんというのは腐れ縁の幼馴染であり、後に黒陽さんと夫婦になる女性のことだ。クロの祖母にあたる人のだ。

 手が付けられない暴れん坊の妹、その最後は家族の幸せを願って逝ったのだ。

 

 ここからが本題だと黒陽さんは話を進める。

 

「生まれたばかりのクロを見たとき、俺っちと女房は同じことを思ったよ『こいつは白月と一緒だ』てな」

 

 二人は一目で理解し、そして戦慄した。

 無邪気に笑う孫娘の中には、かつて失った少女と同等か、それ以上の怪物が宿っていることに。

 『あの子と同じ目にあわせてなるものか!』と黒陽さんたちは奮起した。

 特に祖母の入れ込みようは凄く、母親であるハートさんに事情を説明し育児のサポートと並行して、孫娘にある施術を行った。

 祖母が孫娘に一日も欠かすことなく何度も術を施す日々が始まった。

 それは成長したクロが自分自身で術をかけられるようになっても行われ、病に倒れた彼女が亡くなる直前まで続いていたという。

 クロのお婆さんは白月さんと本当の姉妹のように仲がよく、彼女が亡くなったことをずっと気に病んでいたのだ。

 

 亡き祖母との約束を守り続けるクロは、今も自身に術をかけ続けている。

 

「クロの見た目が変わるのは意図せぬ副作用ってところだな。最初に術をかけたとき、女房が『うわっw真っ黒赤目になりやがった!こいつはたまげたなぁww』てな感じで、ハートと一緒に爆笑していたのを思い出すぜ」

 

 赤子のカラーリングが突然変化しても動じない母と婆‥‥‥なんという胆力か!

 どこの家庭も母は強し、ついでに婆ちゃんも強い。メジロ家のばば様がいい例である。

 

 当時の思い出を語る黒陽さんは上機嫌だ。

 クロが祖父母の愛情に守られていたことがよくわかった。

 相槌を打ちながら話を聞いていると、心がなんだかあったかくなってくる。

 

「おっとすまねぇ。ジジイ一人で長々と話して悪かったな」

「いえいえ、貴重なお話を聞けてありがたいことですよ」

「結局何が言いてぇかっつーとな、おめぇには感謝してんだよう」

「こちらこそ。黒陽さんたちのおかげで、俺はクロに会うことができました」

 

 畳に座ったまま俺たちは頭を下げ合う。

 

「孫を受け入れてくれて、ありがとよマサキ。これからも、クロをどうかよろしく頼むぜ。ジジイからの本気のお願いってやつだ」

「クロを素直ないい子に育ててくれて、ありがとうございます。頼まれなくても、黒陽さんたちが呆れるぐらい仲良くしていくつもりなのでよろしくお願いします」

「言ってくれるじゃねぇのよう。そうでなくっちゃなあ!」

 

 お婆さん、そして白月さんも、きっと見守ってくれていますよね。

 心配しないでください、幸せになってみせますから。

 俺と愛バたち、他にもたくさんの仲間がクロと共にありたいと思っているのだから大丈夫ですよ。

 

「よっしゃ!今から俺っちとマサキはマブダチだ」

「ま、マブダチっすか?」

「いや待てよ、クロの旦那になる男なら身内も当然だな。いいねぇ!そうと決まれば(さかずき)交わすぞオラぁ!」

「えぇー」(*´Д`)

 

 うわーい、北島組の組長と盃交わすことになっちゃたぞ。

 若(仮)が現実味を帯びてきた。自分逃げていいっスか?

 

 鼻歌を歌いつつ黒陽さんは戸棚の奥から酒瓶と大きな盃を取り出し準備を進める。

 酒瓶は陶器製だから徳利(とっくり)と言うのかな?どうでもいいがピンチだ。

 盃になみなみと注がれた液体は白く濁っていた。それを俺に差し出す黒陽さん。

 

「俺は下戸なんです。アルハラは勘弁ですよ」

「安心しな。酒は酒でもこいつはただの甘酒だよ」

 

 言われてみればアルコール臭だけでなくほのかに甘い香りが、これなら大丈夫かな?

 黒陽さんがキラキラした目で俺を見ている。う、今更断れない雰囲気だ。

 

「じゃ、じゃあ少しだけ……」

「おう。グイッといけ!グイッとな」

 

 恐る恐る口に運ぶ……あら?あららら?

 スッキリした口当たりに濃厚かつ芳醇な甘い味わい、のど越しもいい。

 普通に美味しいんですけど。

 

「……美味しいです」

「そうだろうそうだろう!気に入ったならドンドン飲んでくれや、おかわりはたんまりあるでな」

「黒陽さんも飲んでくださいよ。今度は俺がお()ぎしますから」

「おっとっと、こいつはすまねぇな。とりあえず乾杯すっぞ乾杯!パワーをメテオに!」

「いいですとも!」

 

 意味不明な乾杯の音頭を合図に酒を酌み交わす俺と黒陽さんだった。

 甘酒おいしいー。下戸な俺でも楽しいお酒~。

 

 〇

 

「くおらぁっジジイ!マサキさんをどこへやった!正直に言わないと用水路に沈めるぞ!」

 

 黒陽の私室に怒鳴り込むクロ。

 宴会場からマサキと黒陽の姿が消えていることに気付いたクロは、屋敷中を捜索してここに辿り着いたのであった。

 

 (不覚!宴会で浮かれすぎてマサキさんを見失うとは……愛バ失格だよぉ)

 

 ジジイに指示された北島組の若い衆がクロの注意をマサキから逸らしたのも原因なのだが、クロは失態を演じた自分を恥じる。

 

 (今日の私ダメダメだぁ!しっかりしろ私、シロたちに腹立つ顔で見下されんぞ)

 

 マサキと黒陽が盃を交わしてしてから既に半刻以上経過している。

 ジジイに何か良からぬ事をされていなければいいが……

 

「クソ騒がしい奴だな。マサキならほれ、そこにいんだろうがよう」

「いた!よかった無事だね」

「うう……クロ?ごめん‥‥‥頭痛い」

 

 部屋に突入すると胡坐(あぐら)をかいたジジイが手酌で酒を飲んでおり、マサキは部屋の隅でグッタリしていた。

 顔色が悪く呼吸も荒い、漏れ出る覇気も『しんどいのです』と訴えかけて来る。

 

「どうしたのマサキさん?まさか……ジジイに掘られたの!?ふざけんなよ!くそみそジジイ!バーバの所に今すぐ送ってやろうか!あぁんん!!」

「なんてこと言いやがるんだ、このバカ孫は」

「違う…掘られてない。ちょっと飲み過ぎた……だけ……ウェップ」

「飲み過ぎた?ちょっと待って、この匂いはジージ秘蔵のお酒"どぶろっくG(グレート)"」

 

 マサキから漂う匂いでクロは何があったか理解する。

 こっちを見てニヤついているジジイがマサキに酒を盛ったのは明らかだ。

 "どぶろっくG"は甘酒に酷似した風味と味わいが特徴のお酒で、普段飲まない人でもグビグビ飲める一品だ。だがしかし、列記とした酒には違いないのでアルコール度数は高め。

 まだ屋敷で暮らしていた頃のクロもジュースと間違って誤飲し、ツライ二日酔い体験をしたものだ。

 

「事前に飲めない人だって教えたのに、何してくれとんじゃワレ!」

「下戸でも飲める酒を用意してやった俺っちてば優し……待て!老人虐待は勘弁な!」

 

 胸倉を掴み上げるクロに黒陽は必死の言い訳を述べる。

 

「だって飲みたかったんだもん!盃交わしたかったんだもん!飲みにケーションだもん!」

「『もん』て言うな気色悪い!」

「おめぇをモノにした"でっけぇ男"と酒を酌み交わしたい爺心がわっかんねぇかなー?」

「わかってたまるか!ジージの我儘にマサキさんを巻き込まないでよ」

「そうだな、おめぇの言う通りだよ。ジジイちょっと反省」

「ちょっとじゃなくて深く反省して」

「気が向いたらな」

 

 ジジイの処分は後で考えるとして、クロはマサキを介抱することにした。

 

「大丈夫、マサキさん?立てる?」

「う……頭ガンガンする」

「肩を貸すよ、よいしょっと……ジージ、私の部屋まだ残ってるよね?」

「おうよ。こんなこともあろうかと掃除は欠かしてねぇぜ!半分物置になってるのは許せ」

「今日泊まるから、部屋を使わせてもらうよ。いいよね?」

「うわーうわー!俺の家で!俺の家なのに!孫が男を部屋に連れ込む事態が大発生!盛り上がってきたぜぃ!」

「本当にごめんねマサキさん、クソジジイは放置して早くお部屋に行こう」

「見てるかババア、あのクロがいっちょ前に女してるぜ。マジうける~www」

「うるさーい!ボケ老人は一人寂しく酒に溺れてろ」

「ごゆっくり~www」

 

 (ふすま)を乱暴に閉めたクロはマサキに肩を貸しながら部屋を後にする。

 背後から黒陽の下品な笑い声が聞こえてきたが無視。今はマサキの体調が心配だ。

 

 屋敷の離れはこじんまりとしているが立派な造りをした建物だった。

 ここはその昔、クロたち母娘が暮らしていた場所なんだそうだ。

 

「変わってないな。手入れもしてくれているみたい」

 

 玄関の扉を開けてクロは中に入る。内部構造も記憶にある当時のままで安心する。

 部屋の間取りは3ⅬDKなのだが、その内の二部屋がよくわからない物たちで埋まっている。

 恐らく黒陽が趣味で集めた収集品の数々だろう。

 年季の入った鎧武者の甲冑や刀に槍に火縄銃、掛け軸や陶磁器が盛りだくさんだ。

 

 (どうせしまっておくだけなら換金すればいいのに)

 

 鑑定してもらえば高値が付きそうな物ばかりだが、興味の無いクロからすればガラクタ同然だ。

 似たような収集癖のあるシロが見たら狂喜乱舞するんだろうなと思う。

 

「ここはどこだ?」

「屋敷の離れだよ。昔、ママとここに住んでいたんだ」

「ふぇーそうなんだ。フラフラでごめんなさい、酔ったマサキがお邪魔しますよ~」

「はーい。狭い所だけど、どうぞおあがりください」

 

 まさか操者を、それも男を連れてこの場所に帰って来ることになるなんて思いもしなかった。

 昔の私が今の状況を知ったら『嘘だッ!』と叫ぶこと請け合いだ。

 青い顔をしたマサキはキョロキョロと部屋を見渡す。その視線がとある物体を発見した。

 

「アレはなんだ?木彫りの仏像……顔の造形が神がかってる。あそこにも、ここにも、一体いくつあるんだ」

 

 足元のおぼつかないマサキが部屋のいたるところに飾られている仏像群を見て怖がっている。

 木彫りの仏像たちは、以前シロが大量生産したものだ。

 処分に困っていたところを、仏像を気に入った黒陽がサトノ家から引き取ったとは聞いていたが、こんなところにあったとは。

 

「あの仏像たちはチュー魔人の被害者である、哀れな彫刻家の作品だよ」

「芸術はよくわからんが、さぞや名のある彫刻家なんだな」

「うん。マサキさんもよーく知ってるアホな奴だから」

 

 それにしても数が多すぎて不気味だ。何やら見張られているような気がして来る。

 魔除けというより呪いの置物と言われても否定できない。製作者がアレだから余計にそう感じる。

 

 (何体引き取ってんだジジイ!そんなに気に入ったのか、よかったねシロ!)

 

 もっとも、ジジイの興味は既に薄れているのだと思う。

 母屋の方に飾らず、ここに置いてある時点でお察しである。

 ジジイのお気に入りから外れてしまった仏像たちは、離れの新しき住人と化したのだった。

 ぞんざいに捨てると(たた)られそうで怖いから、処分したくてもできないのかも?とクロは推測した。

 

 物置となってしまった二部屋と違い、残りの一部屋、かつて母親と寝泊りしていた場所は整理整頓が行き届き家具家電も配置してある、ちょっとご休憩するには申し分ない。

 何よりも仏像が存在していないのがいい!

 

「ありがたい、布団が敷いてあるぞ。ちょっと横になってもいいか?」

「あ、うん、いいんじゃないかな‥‥‥もう、変な気を回してんじゃねーよジジイ」

 

 部屋の中央には布団が敷いてあった。布団は一つ枕は二つである!

 ちゃぶ台の上には紙切れが一枚『ごゆっくり♪』とジジイの筆跡で書かれたメモだ。

 その紙をマサキに見つからないうちに破り捨ててゴミ箱へ投入した。

 あの老害はいつからこうなる事態を予測していたのか、気掛かりでそして無性に腹が立つ。

 布団の上に力なくのっそりと寝そべるマサキ、頭痛はまだ解消されないらしい。

 

「うー、寝たからといってすぐに治るもんでもないな」

「無理に横になるより楽な姿勢で座っていたほうがいいと思う。酔い覚ましにお水飲む?」

「ああ、もらおうかな」

 

 冷蔵庫に冷えたミネラルウォーターを発見したクロ。

 適量をコップに注ぎ『こぼさないようにね』とマサキに手渡した。

 

「うまい。キンキンに冷えてますな~」

「それはよかった……マサキさん、疲れてるところ悪いけど今から騒がしくなるよ」

「ん?どうしたクロ」

「すぐ終わらすから、待ってて」

 

 マサキは見た。

 隣室に行ったクロがその手に長槍を持って戻ってきたのを、そして黒陽のコレクションであろう十文字槍を天井に突き刺す瞬間をだ。

 

曲者(くせもの)ッッ!!」

「なんで!?」

「ぎょわぁぁぁーーー!!」

 

 マサキの疑問の声と天井からの奇声が重なる。

 クロは我関せずドタバタと音を立てる天井に向けて槍を何度も突き刺す。

 いや、ホントに何事?

 

「ちょ、おま、やべ、ほげぇ」

「逃げ場はないよ。いいから!下りてこいやぁ!」

 

 クロの怒声が響くのと同時に天井から曲者が落下してきた。

 一応、マサキは曲者に気を遣って掛け布団を落下地点に放り投げておいた。

 

「あばばば、尻がぁー腰がぁー!」

「何やってるんですか黒陽さん」

「先回りしてんじゃねーよ!天井裏に潜んで何を企んでいたの!」

 

 曲者はさっき別れたはずの黒曜さんだった。落下時の打ち所が悪かったのか悶絶している。

 その間もクロは実の祖父をゲシゲシと足蹴にしていた。

 

「俺っちは泣く子も黙る北島組の長!北島黒陽だ。結構ヤバいジジイなんだぞう」

「知っとるわい。そのヤバい組長さんが私たちに何の用?」

「大事な孫娘の不純異性交遊を見守る義務があるってんだよう!」

「ないよ!これっぽっちもあるわけないよ!それに、不純じゃなくて清純じゃいボケ!」

「俺っちはなあ。天国のババアと妹に、おめぇの成長を報告すると決めてんのよ」

「ふーん。だから孫の情事を出歯亀(でばがめ)していいと?」

「出歯亀だとぉ!俺っちは覗き魔じゃねえ。"愛すべき健全なるおじいちゃん"なのだぁぁぁ!」

「こんなのが血縁者だなんて……情けなくて泣ける」

「クロ、例え爺さんが異常な変質者でも、お前のことを愛している」( ー`дー´)キリッ

「マサキさん////超好きぃ!!」ポッ

「ヒューヒューその調子だ!続けて続けて!あ、俺っちのことはお構いなく~」

「「出て行けクソジジイ!!」」

 

 息のあった動きで黒陽を家から叩き出すマサキとクロであった。

 マサキは弾みでクロと一緒に『クソジジイ』と叫んでしまうが、全くもって後悔はない。

 『きゃージジイ殺しよ~』と悲鳴を上げて外に転がり出る黒陽。このジジイ、結構余裕があるな。

 

「うわっ、今の悲鳴は?気持ち悪りぃな」

「今の声はまさか、オ、オヤジ!!」

「見ろ!オヤジが気持ち悪い動きで出て来たぞ。なんだこのジジイは」

「オヤジ!?大丈夫ですかい」

「作戦は失敗したんスか?だからやめとけと言ったのに」

「映像は?音声は?ちゃんと記録できたんでしょうね」

 

 北島組の面々が離れの外でスタンバっていました。暇人どもめ!

 マサキはドン引きし、クロは額に青筋を立てる。

 

「ジジイもみんなも、ホント何をやっているのかなぁ?かなぁ!!!」

「「「「ひぃぃ!!!!」」」」

 

 キレたクロの威圧に北島組は後退り、醜い責任逃れが始まる。

 

「俺っちは悪くねぇ!こいつらにそそのかされたんだよう!」

「あ!オヤジ、自分だけ助かろうとして」

「『俺っちに任せとけ、クロが立派な女になったか確かめてきちゃる』と意気揚々と出陣して行ったじゃないっスか!」

「『アイルランドのジジイには負けねぇ!跡取りはうちが先だってばよ』て言ってた癖に!」

「うるせぇやい!おめぇらだってノリノリだったじゃんよ」

 

 なるほど全員がグルだったわけだ。

 危ない危ない。離れでイチャコラしているところを、覗かれてしまうところだった。

 クロが一歩前に出る。北島組一同が一歩後退る。

 

「首謀者はジジイ、他のみんなは悪ノリしただけ。つまり『ジジイが完膚なきまでに悪い』でOK?」

「「「「はい、オッケーでーす!!!」」」」

「おめぇら、世話になった組長を庇おうって気はねぇのか?」

「「「「ないでーす」」」」

「ちっっくしょーーー!!!」

 

 普段の行いのせいか人望のないジジイであった。

 北島組は黒陽をクロに差し出すことにしたようで、抵抗し逃げようとする老人をグイグイ前へと押し出す。

 

「こうなったらやぶれかぶれだ!」

「ホント元気だなぁ、黒陽さん」

 

 パワフルな老人に感心するマサキ。自分が老いてもこうありたいものだ。

 

「クロ!そしてマサキ!」

「なんでしょう?」

「命乞いするなら早くね」

「老い先短いジジイ一世一代の頼みだ!後生だから、おめぇたちの"うまぴょい"見学させ‥‥‥」

もう黙れスケベジジイ!!

「ぐぇ……」

 

 一瞬で黒陽の背後に回ったクロは適格に頸動脈を締めて、スケべジジイの意識を刈り取った。

 崩れるジジイを傍に控えていた巨漢、ジョージが支える。

 

「ジョージさん。今晩はその老害をちゃんと見張っておいてよ」

「へい。お任せくだせぇ」

「みんなも!いくら組長の頼みだからってノリで動いちゃダメだからね」

「うう、お嬢がすっかり大人になっちまった」

「俺たちの天使が……」

「お前たちはまだいい、俺たち古参組にとってお嬢は心の支えだったんだぞ」

「お嬢!私、お嬢がうまぴょいするなんて信じたくない」

「これがNTRか……なんだが興奮してきたぞ」ハアハア

「俺にはオヤジの気持ちがわかるぜ。せめて、ちょっとぐらい、なあ?」

 

 北島組にはクロのファンが多い。

 マサキとの仲を祝福しつつ羨む気持ちも多分にある。

 クロはやれやれとため息をついたが、何処か憎めない構成員たちに呼びかける。

 

「みんなが私を慕ってくれるのも心配してくれるのも、よくわかってるよ」

「「「「お嬢‥‥‥」」」」

「だからといって、やっていい事と悪いことがあるよね。男女の幸せタイムを邪魔するなんてもっての外!」

「「「「すみませんでしたぁ!お嬢、そして若!」」」」

「俺は気にしてないですから。クロも、もういいよな?」

「うん。全部ジジイが悪いってことで今回は不問にするよ」

 

 マサキとクロの許しを得たことで北島組の面々は安堵の息を漏らす。

 

「じゃあ、さっさと撤収して。カメラや盗聴器は仕掛けてないよね?後で見つけたら怒るよ」

「さ、さすがにそこまではやってねえっスよ」

「一応信じるよ。わかっていると思うけど、今夜一晩は離れに近づくの禁止だからね。どうしても用があるならスマホに連絡して、覗きも聞き耳も気配を探るのもご法度だから。もし、万が一言いつけを破ったら、その時は‥‥‥」

「「「「その時は??」」」」ゴクリッ

 

ジジイもろとも北島組(おまえら)を消す!!

 

 その場にいた全員が『あ、このお嬢本気だ…』と思いましたとさ。

 怪しく鋭く光るクロの瞳は震えるほどに恐ろしかったという。

 

 〇

 

 気絶した黒陽と北島組が撤収した頃には、マサキの酔いも多少は冷めていた。

 今夜は屋敷に泊まることになったので、クロ以外の愛バに連絡を入れてからお風呂を頂くことにする。

 北島屋敷自慢の(ひのき)風呂は最高でした。

 酒が抜け切っていないのに長風呂したマサキの頭はまたしてもボーっとするが、今度はそれほど不快といわけではない。

 用意された浴衣に着替えて離れに戻ったマサキは布団へ倒れ込む。

 このまま寝てしまおうかと思っていると、湯上りのクロが部屋に入って来た。

 

「うぃ~いいお湯だった」

「お疲れ~。俺も今戻ったところだ」

「そうなの?家の風呂は男女分かれてるから一緒に入れなかったのは残念」

 

 屋敷の風呂は北島組で働く人たちにも開放されているので、男女別の区分けはキッチリしている。

 浴衣を着たクロは俺の隣に寝そべる。

 火照った身体から石鹸とシャンプー、そしてほのかな檜の香りがした。

 

「とんだ一日になっちゃったなあ」

「そうだなあ。でも、来てよかったと思うぜ」

「うん。私もそう思う」

 

 黒陽さんに会って、クロの秘密を知って、宴会を開いてもらって、盃交わして、スケベジジイだもんなあ。

 クロのお婆さんと叔母に当たる白月さんの事も教えてもらった。

 赤ちゃんだった頃のクロの様子も聞けたし、俺としては満足のいく一日だったと思う。

 

「クロのことをいろいろ知ることができた。余は満足じゃ」

「えへへ。私のことなら何でも教えてあげる……でね、えーと、そのね……」

「俺のことが知りたいか?」

「うん。シロたちに何か言われたの?」

「それもあるが、愛バたち皆には俺のことを知っておいてほしい。だから、聞かれたら話すようにしている。今回はクロの番だってだけさ」

「ごめんね。もっと早く聞けばよかった……なんとなくだけど気が引けちゃうというか、無意識に逃げていたんだと思う。自分のことだって隠していたし、ね」

「一向にかまわんよ。我慢できなくなったら俺のほうから突っ込む気だったからな」

「フフ、マサキさんに迫られたら何だって暴露しちゃうよ」

「ホントか~。だったら、風呂で最初にどこから洗うのか教えてくれぃ!」

「左のおぱーいから」

「マジか!‥‥‥あ、そういえばそうだったな」

 

 お風呂はしょっちゅう一緒に入っているので実は知っていた。

 俺のメモリーにはその時の光景を何度もリプレイできる機能が搭載されています。

 ウフフフ~素敵な思い出として、ちゃんと4人分ファイル分けして管理してるのよ。

 

 布団に寝転がったままクロとお喋りに興じる。愛バとのまったりタイム最高!

 

「アースクレイドルのことは姉さんに聞いた方がいい。俺が物心ついたのは、孤児院で園長の髭を引っ張ている時からだからな。母さんに会ってからが俺の本番って感じだ」

「孤児院……寂しくなかった?」

「全然。園長も同じ境遇の仲間たちも良くしてくれたからな……ただ、当たり前に両親がいるってのには憧れていたなあ。あれ?それだと、やっぱ少しは寂しかったのかねぇ」

「ウマ娘好きはその頃から?」

「それはもち……いや、この時は……すまん、どうやら俺の中でまとめ切れてないや」

「いいよ。話したくなったらいつでも聞くから」

「すまんな。で、ラ・ギアスでは、あんなことやこんなことがあってだな」

「うんうん。それでそれで」

 

 まだ話していない俺の幼少期を思い出しながら聞かせる。

 クロからはシロに会う前の生活やお婆さんについて教えてもらった。

 ここまで、黒陽さんもクロも父親について全く話題に出してこない。

 きっと、サトノ家や北島組全体でのタブーなんだろうなあ、俺も父親いないし気にならない。

 実の父親には悪いけど『気にしたら負け!』と思っております。

 

 たくさんの思い出を話す。そうすることで互いの理解を深め繋がりを強くする。

 

「小学校の時は慈善事業に精を出したから『お助けキタちゃん』なんて呼ばれていたよ」

「へぇー、具体的にはどんなお助けをしていたんだ?」

「えーと、逃げたペットの捜索、ケンカの仲裁、テストの点数改ざん、不倫の証拠隠滅、半グレ集団の殲滅ぐらいしかしてないよ」

「ヤバいのが混じっていたが、俺の気のせいだな!」

「マサキさんは小学生時代のあだ名ってある?」

「『シュウのおまけ』とか『お母さんが神すぎる男』とはよく言われたなあ」

「それは周りの見る目がなかったんだね。こんなに素敵な人なのに」

 

 仕方ないんや。母さんとシュウにネオさんが強キャラすぎて、平凡な俺が浮いていたのはよーくわかっている。

 ごくまれに『この人怖い』と言われることがあったけど、あれはショックだったぜ。

 俺を怖がるのはウマ娘が多かったような……ああ、なるほど、母さんに封じられた覇気を感じとっていたのか。

 今になって気付いたわ。漏らしちゃってごめん。

 

 お喋りしながらイチャイチャゴロゴロしてると、夜も更けてきた。

 そろそろ寝ましょうかね。

 

「マサキさん。ぎゅー」

「あら、甘えん坊さんだこと」

 

 クロが抱き着いてくる。こちらからも抱きしめ返す。

 はだけた浴衣から覗く肌が艶めかしい。

 フウウウウウウ〜〜〜

 クロの体温と柔らかさを感じていると……

 なんていうか……その…下品なんですが…フフ……だっち……しちゃいましてね………

 

「マサキさん?」

「ごめんなさい!俺のキラークイーンが暴発しそうで」

 

 空気読め!北島屋敷でハッスルするわけにはいかんのじゃよ。

 

「フーン、そうなんだ。キラークイーンがねぇ」

「そうそう。こいつがホント節操のないヤツで困ったもんだ」

「よいしょっ、と」

「なぜ俺に覆いかぶさるのかね?」

「ん~、他意はないよ~ただの掛け布団だよ」(・∀・)ニヤニヤ

 

 クロが俺の上に乗って来た。こいつ!ワザとやっておるな。

 ダメぇーそんなに密着されると起爆しちゃうのー。

 

「ねぇ"お助け"してあげようか?」

「はい?えっと、なんだって」

「スタンドが言う事きかなくて困ってるんだよね。私が"お助け"したほうがいいのかなって」

「それは、つまり…そういうこと?」

「決めるのはマサキさん。何もせず、このまま寝るでも全然いいよ」

 

 待ってくださいよ。

 ほら、離れているとはいってもね、お爺さんや北島組の人たちもいる敷地内でねえ。

 それに思い出の場所なんでしょう?そんなところでいたしてよいものやら。

 俺が葛藤している間にも、掛け布団化したクロはスリスリしてくる。

 アカンて、それはホンマにアカンのやで。

 

「人払いは済ませた。ジジイは絞め落とした。ここで何があっても私たちだけの秘密」

「俺に、どうしろというのだ?」

「素直になればいいのだよ。いつやるの?今でしょ!」

「今なのか!?」

 

 あ、コレは俺よりクロのほうがやる気満々ですね。

 クロってば舌なめずりしてるもん。獲物を狩る目つきだもん。もう逃げられないぞ!

 

「どうする?マサキさんは"お助け"されたいのかな?」

 

 "お助け"が隠語になっとるがな。

 俺はどうしたい?お助け……お助け……お助け……ぐぬぬぬぬ~ん。

 決めた。せっかくだから俺は"お助け"されることを選ぶぜ!

 

「クロさん"お助け"一丁よろしくお願いします!!」

「はーい、ご注文承りました……ファイナルアンサー?」

「ファイナルアンサーだよこんちくしょー!」

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥正解♪」

「やったぜ!」

 

 はい。そういう訳でね。暗転タイムなのですよ。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・たっぷりお助け(意味深)されちゃった(/ω\)イヤン

 

 〇

 

 翌朝、クロに朝風呂を勧められたので浴場へGO!

 なんと!檜風呂では仁王立ちした黒陽さんが待ち構えていた。

 

「どうだった?」

「何がですか?」

「どうだったのかって聞いてんだよう!」

「フフフ……」

「こいつ、意味深な笑いをしやがって。楽しんだみたいだな、ああコラッ!」

「フフフ……暴れないでくださいよ‥‥‥フフ……メタルジェノサイダー……」

 

 なんだろう『フフフ……』で大抵のことは乗り切れると信じている俺がいます。

 メタルジェノサイダーってなんやねん?

 

 追及してくる黒陽さんを華麗に躱し、風呂と朝食を頂いてから北島屋敷を後にすることにした。

 黒服さんたちが会うたびに『ゆうべはおたのしみでしたね』と(のたま)うので嬉し恥ずかしでしたわ。

 

「お世話になりました」

「また来いよ。北島組一同はいつでもおめぇを歓迎するぜい」

「はい。機会があればお願いします」

「クロ、マサキにしっかりついて行けよ。この男を逃がしたらもう後がねぇぞ」

「言われなくてもわかってるよ。ジージはハッスルしすぎないように、みんなも元気でね」

 

 屋敷の大門前で別れの挨拶をする。

 黒陽さんと北島組の黒服さんたち総出でお見送りしてくれる。

 次は他の愛バたちも連れてこられたらいいなと思う。

 

「じゃあ行くか」

「うん。帰ろう」

「ありがとうございました。それでは俺たちはこれで、またお会いしましょう」

「またねジージ。またね、みんな~」

「行って来い!ジジイはおめぇたちの行く末を楽しみにしてるぜい」

「「「「いってらっしゃいませ!お嬢!いってらっしゃいませ!若!」」」」

 

 若はやめてほしいのです。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 マサキとクロが去った後、黒陽は私室の仏壇前で手を合わせていた。

 

「見たかババア、俺っちの言った通りになっただろう?」

 

 そこにいるかのように、亡くなった女房に語りかける。

 

「あいつは白月の二の舞にはならねぇ。俺っちみたいな、いい男を捕まえて幸せになるんだよ」

 

 自分程ではないがマサキは中々にいい男だと黒陽は思っている。

 孫娘には人を見る目があったということだ。

 

「すまねぇな白月。おめぇの時もこんな風にしてやればよかったのか……ま、おめぇじゃ無理かw男運悪そうだもんなあwww」

 

 『うるせぇ!バカ兄貴』と憤慨する妹の姿を幻視して笑う黒陽。

 クロがマサキとこの先も生きていくことで、白月も少しは浮かばれることだろう。

 

「これからもクロを見守ってやってくれ。俺っちはそうだなぁ……」

 

 昨夜、宴会場で撮った写真を眺める黒曜。

 マサキとクロが北島組の黒服に囲まれて笑っている一枚だ。もちろん俺っちはセンターよ!

 

「婚礼を見てから、いや、やっぱ二人のガキは見てぇよな。よっしゃ!」

 

 黒曜は仏壇前で宣言する。

 

「俺っちがそっちに行くのはまだ先になりそうだ。ひ孫の顔を見てからにするぜい!」

 

 生き甲斐が増えた。長生きはするもんだと黒陽は思うのであった。

 

 〇

 

 北島屋敷を早朝に出立したため、住み慣れた街に戻ったのは午前9時頃になった。

 二連休なので本日も仕事はお休みだ。

 まずはクロと共に家に帰って、この後の予定を決めよう。

 愛バたちを呼んで何処かに出かけるか?それとも家でのんびり過ごすか?どうしようかな。

 

 クロと仲良く腕を組んで歩いていると、道行く人たちからチラホラ視線を感じる。

 俺の愛バが可愛くてすみませんね!優越感!!

 ほほう。何やら視線がキツくなってきましたよ~これもう殺気こもってない?

 やめて!調子にのってすみません!謝るから許してたもれ。

 

「おやおや、二人仲良く朝帰りですか。うらやまムカつきますね!」

「げぇ!シロ!!」

「『げぇ』とはなんですか、失礼な奴ですね」

 

 視線の正体はシロだった。

 朝から元気なクロとシロは出会った瞬間からいつもの漫才的会話を繰り広げる。

 この光景も見慣れたもんだ。

 

「おはようございます、マサキさん。昨日は北島組にご招待されたようで、大変でしたね」

「おはよう、シロ。黒陽さんたちには良くしてもらったから大変ってことはなかったぞ。わざわざ迎えに来てくれたのか?」

「ええ。クロが我儘(わがまま)を言ってないか心配だったもので」

「フンだ!ちゃんといい子でいましたよーだ」

「どうだか。ゆうべも無理を言って迷惑かけたんじゃありません?お助け(意味深)していたりして……」

「「ブ―――ッッ!!」」

 

 シロの発言が的を得すぎていたのでクロと吹き出してしまった。

 この子の読み、ホント半端ないわ。

 

「え?マジですか。マサキさん、キラークイーンがバイツァ・ダストしちゃったんですか」

「スタンド名まで当てるな」

「もういいじゃん!放っておいてよ////」

「むー。次の暗転シーンは私の番ですからね!そこのところよろしくです」

「メタい発言もやめい」

 

 シロは俺に近づき空いているほうの腕を組んできた。

 クロとシロに挟まれることにより両手に花状態です。優越感アップ!

 

「ちょっと前まで抱っこしてたのになあ。今じゃコレだもん」

「今でも抱っこしてくれていいんだよ。してあげてもいいけど」

「二人同時だと難しいな。四人だともうどうしたらいいのやら」

「私のオルゴンテイルなら、数人はまとめて運べますよ」

「尻尾とか隠し腕的な武装っていいよな~ロマンだよな~」

 

 三人で家を目指して歩く。

 こういう何でもない日常が幸せだったと、後ではなく今この瞬間に気付きましょう!

 クロとシロのおぱーいがメッチャ当たってくるのはとっくの昔に気付いてます。

 超幸せです。

 

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