俺と愛バのマイソロジー   作:青紫

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昇級試験

 【騎神】

 戦闘技能を有するウマ娘の総称

 

 一定の戦闘能力を持つウマ娘であれば騎神と認められる。級位の取得は必須という訳でもない。

 しかし、級位を取っていると何かと便利で融通が利くのも確かな事実である。

 騎神特権による優遇措置を受けることができ進学や就職に有利になるばかりか、クエスト報酬や給料査定にもボーナスが発生する。何より経歴に箔が付くのが嬉しい。

 ウマ娘に生まれた者ならば、級位の取得を目指しておいて損はない。

 『普通自動車免許ぐらい取っておきますか』ぐらいのノリでウマ娘たちは級位取得試験を受けるだ。

 

 文武両道かつ実力主義のトレセン学園では、卒業までに<烈級>以上の級位取得を推奨している。

 推奨であって強制ではないので、OGの中には級位なしで卒業した奴もいる……うちの母さんがまさにそれだ。

 タキオンやデジタルといった『こいつら戦えんの?』と思うような問題児たちですら、烈級騎神なのだと知ったときは『強さとは一体……』と頭が痛くなったものだ。

 トレセンは名門の騎神養成校、どいつもこいつも強いのが当たり前。

 変態かどうかは関係ないらしい。

 

 騎神には強さに応じたランク制があるのはご存知の通り。

 下から順に<烈級>→<轟級>→<超級>→<天級>という称号が採用されている。

 

 <烈級>

 デバイスや銃火器で武装した人間と同等の戦力とみなされる級位。※個人差があります

 人数が最も多い級位。つまり、ほとんどの者が烈級止まりで生涯を終える。

 初級だと侮る事なかれ、しっかり修練を積んでいないと合格は厳しいぞ。

 

 <轟級>

 更なる努力を重ねた者が辿り着く級位。

 ここまで来れば誰からも一目置かれる存在だと思っていい。

 高難易度のクエストを任せる場合、轟級以上が望ましいというのが一般的だ。

 様々な場所で各種ボーナスの支給も期待できるぞ。

 戦闘をメインとする職業に就く気があるならば取っておきたい。

 

 <超級>

 文句なしに精鋭中の精鋭!天賦の才を持つ者だけが至ることができる級位。

 覇気の高等制御術を身につけたのみならず、様々な特殊技能を有している猛者だらけ。

 あらゆる業界から引っ張りだこ間違いなしの、まさにエリートウマ娘だ。

 特権や優遇措置もかなり手厚い。戦場での単独行動や現場指揮権の委譲すら可能とする。

 

 <天級>

 この世のバランスブレイカー。世界に五人しか確認されていない生ける伝説。

 世界の構成元素である属性をまとった覇気を操り、人知を超えた天変地異を引き起こすという。

 DC戦争で活躍した後は、田舎で隠居生活を満喫中という噂だが定かではない。

 試験を受けてなれるものではなく、偉業を成し遂げ恐れ敬われた者が自然と<天>の称号を授かるのだ。

 天級騎神の全てが日本在住であることに、各国が危機感を抱いているとかいないとか。

 ※古代遺物の応用術式が弱点で、短命であるとの噂もあるが……

 

 〇

 

 年に数回行われる"騎神昇級試験"

 その試験会場にマサキと愛バたち五人は訪れていた。

 

 メジロ家が運営する総合体育館、通称"メジロ・マッスルアリーナ"

 命名したのは筋肉大好きライアンさんかな?

 その内部は受験者の雄叫びに観戦客の声援、そして闘気と熱気が溢れていた。

 

「そこまで!」

 

 審判の鋭い声が飛ぶ。

 四つのブロックに分かれて行われていた試験。

 受験者同士の模擬戦闘、その一つが早くも終了したのだ。

 

「勝者!キタサンブラック!」

 

 ジャッジするでもなく、圧倒的強さを見せつけた勝利者の名前が呼ばれた。

 それは競技用のスポーツウェアを着用した黒髪赤目のウマ娘。マサキの愛バ、クロであった。

 

「「「「オオオオォォォォーーーーー!!」」」」

 

 瞬間、会場を埋め尽くさんばかりに湧き上がる拍手と歓声。

 黒髪赤目のウマ娘は応援してくれた観客たちにお辞儀をしつつ、手を振る。

 その眩しい笑顔と愛らしい仕草、そして彼女が披露した実力の一旦に周囲は魅了される。

 鳴り止まない歓声の中、クロは尻もちをついたままの対戦相手に手を差し伸べてその身を立たせる。

 

「縁があったらまたやろうね」

「はは……いや、もう、完敗すぎて悔しいとすら思えない」

 

 両手で握手をしブンブン振るクロ、相手の顔は引きつっているが気にしない。

 試合を見た観客たちのざわめきが聞こえてくる。

 皆が口々に試合の感想や考察を行っている。

 

「強かったな」

「それに可愛いい!」

「ああ、そこが重要だ」

「強すぎだろ!平均試合時間2分弱で全戦全勝、おまけに使ったのは片腕のみだぞ!」

「どこの所属だ…こりゃスカウト連中が黙ってないぞ」

「フッ、これだから素人は困る」

「なんだてめぇ?知ったかぶりやめろや」

「騎神の試合を観戦し続けた俺情報によると。彼女はサトノ家のご令嬢、その一人だ」

「な!?クレイジー(ダイヤモンド)の相棒かよ!どうりで強いわけだ」

「あれが黒い阿修羅‥‥」

 

 クレイジーと言う単語が聞こえて肩を振るわす愛バたち。二人とも笑いすぎやで。

 ここに本人がいなくてよかった。諸事情によりクレイジーと呼ばれた彼女は別行動中である。

 

「数年前の昇級試験、初参加で試験管を半殺しにした逸話は騎神ファンの間じゃ有名だ」

「おっそろしいな!」

「また一人、とんでもねぇ轟級騎神が誕生したってこった。めでたいめでたい」

「俺、手を振ってもらちゃった……惚れたぜ///」ポッ

「阿修羅なんて通り名から強面ガチムチ娘かと思ったが、予想に反してクッソ可愛い~」

「推しが増えちまったな。ファンクラブ設立も時間の問題だ」

 

 ホッホッホ、残念じゃったのう若人よ……その子は既に売約済みなのじゃ。

 運よく競り落とした幸せ者とはわしじゃよ!マサキじゃよ!

 試合後の一礼を終えくるりと向きを変えるクロ、俺とバッチ目が合う。

 

「マサキさん!勝ったよー!ブイッ!」

「頑張ったな!本当によくできましたぁ!」

 

 ダブルピースしながら駆け寄って来るクロ。俺に注目が集まるが気にしない。

 殺人タックルで抱き着いてくる彼女をいっぱい褒めていっぱい撫でる。

 よーしよしよしよしヾ(・ω・*)

 北島屋敷から戻って以降、クロの調子はすこぶる良好だ。

 秘密を俺に明かしたことで胸のつかえが取れたらしく、彼女は前にも増して晴れやかに笑う。

 俺たち間のリンクも真クロモードを見越した調整を入れたので循環効率がアップしているんだ。

 もちろん、試験中のリンクは反則なので今は切っています。

 

「クロさん。見事なストレート勝ちでの昇級、おめでとうございます」

「何事の無く終わってよかったね。これでクロちゃんも轟級仲間だ」

「アル姉、ココ、二人とも応援サンキュー!ハイタッチしよう、ハイターッチ!」

「「「ウェーイ!!!」」」

 

 俺と一緒に観戦していたアルとココもクロを労う。

 仲良くハイタッチする愛バたちのじゃれ合いにホッコリです。

 

「シロは?私の活躍見ていないなんて薄情だなあ」

「受験者が多いから手続きが長引いているんじゃない?

「シロさん、今頃イライラしながら待っているのかしら」

 

 この後はシロの試験をみんなで観戦する予定だが、当の本人が戻って来ない。

 まだ時間がかかりそうだな……

 

「悪い。便意を(もよお)したからトイレに行って来るわ」

「大丈夫?ついて行こうか?」

「いやいや、俺は大人だぞ。トイレについて来てもらうような年齢じゃない」

「この前の夜を忘れたの?ついて行ったばかりだけどww」

「あれは仕方なかろう!寝る前にホラー映画鑑賞に付き合わせたココが悪い!」

 

 もうやめてよね~おねしょしたらどうすんのよ!

 寝る前に怖いの見ちゃダメ!!

 

「マサキさん。一人でトイレまで行けますか?ちゃんと帰ってこれますか?」

「悲しいぐらい信用がない!?」

「心配しているのです。これだけの人混みですから‥‥‥」

 

 方向音痴な俺を心配してくれるアル。

 最近は大分マシになってきているのだが、傍から見るとまだ危なっかしいのかな。

 

「俺は必ずお前たちの下に帰って来る。だから、行かせてくれ」

「マサキさん‥‥‥はい。あなたを信じます」

「トイレ行くだけなのに何これ?死地に(おもむ)く前か!」

 

 アルと二人でちょっと壮大な雰囲気出してみた。

 

「早く行って来なよ。漏れたらどうすんの」

「私たちはここでシロさんを待っていますね」

「しゃあっ!行ってくるぜーー!」

「どうか、よき排泄を」

「「行ってら~」」

 

 愛バたちに見送られトイレに向かう。小走りで!うう~トイレトイレ~。

 気合を入れる声や歓声がそこかしこから聞こえてくる。

 会場内ではまだ他ブロックの試合が続いているのだ。クロのところが早く終わり過ぎただけ。

 今日この場所で頼もしい仲間が、競い合う商売敵(ライバル)が生まれているんだな。

 名前も知らぬ騎神たちのこともマサキ応援しちゃう!みんな頑張って!

 おっと、立ち止まっている場合ではない。出すもの出して早く戻ろう。

 

 〇

 

「スッキリしたぁ」

 

 トイレから出た俺は心身ともに清々しい気分だった。

 あー出した出した。小だけのつもりが勢い余って大も出した。

 スッキリしたので、早いところ愛バたちと合流しよう。

 手を拭いたハンカチをポッケにしまっていると、目の前を小さな子供が横切った。

 

 (ロリウマ娘……4、5歳ぐらいか。中々の美少女ですな!)

 

 幼女がいると『つい目で追っちゃうんだ!』

 これは愛バたちとは別腹ですよ?

 未来ある幼女の安全と成長を見守るのは俺の重大な使命だからな!

 今、クボからの『違うそうじゃない』という電場を受信した気がするが黙殺!!

 

 (あらあら、はしゃいじゃって。会場の熱気に当てられたのかな?)

 

 小さなウマ娘は大はしゃぎで走り回っている。

 元気なのはいいが、ちゃんと前を見ていないと危ないぞ~。注意したほうがいいのかしら?

 声をかけようとしたが一足遅かったようだ。

 幼女が前から歩いて来た人にぶつかってしまった。

 

 (言わんこっちゃない……ん?)

 

 幼女はポテンッと尻もちをついてしまう。

 ぶつかった相手はこれまたウマ娘‥‥‥うわっ!ガタイがメチャクチャいい。

 全くのノーダメージで幼女を見下ろすのは、筋肉ムキムキマッチョのウマ娘だった。

 ライアンが涎を垂らしそうなほどの見事な筋肉だ。張り付いたシャツからシックスパッドが透けている。

 

「ご、ごめんなさい」

「……」

 

 慌てて立ち上がった幼女はマッチョに謝罪しようとして……

 

 (危ねぇっ!?)

 

 アクセル発動!!

 無言で口角を吊り上げたマッチョが、何をしようとしたかを察した俺は飛び出した。

 間一髪で幼女を後ろから抱え離脱することに成功する。

 ただし、咄嗟に動いたために勢いを殺し切れなかった。

 幼女を抱えたまま変な体勢で近くの壁に激突してしまう。

 

 (ぐぁ痛ってぇー!もろに背中打った)

 

 俺の痛みはどうでもいい。

 それよりこっちを優先だ。幼女に簡易メディカルスキャン……よし、幼女は無事だ!

 助けた子供にケガをさせるなど、医療関係者としてあってはならないからな。

 なぜ俺がこのような行動をとったのか?

 それは、マッチョのウマ娘が幼女を攻撃……足蹴にしようとしたからだ。

 な、何をするんだぁー!許せん!

 

「へぇ……」

 

 マッチョはゲスい笑みを浮かべて俺を見る。

 自分の足が空を切った。その結果を作った俺を品定めしているようだ。

 こっち見んな!

 

「ちょっと!危ないじゃないですか!」

「はぁ?何がだよ」

「あなたは今、この子を蹴ろうとしました。俺、ちゃんと見ましたよ」

「知らないねぇ。なあ、お前たち?」

 

 俺が抗議の声を上げるとMマッチョは後ろに連れ立っていた取り巻きたちに声をかける。

 マッチョがでかすぎて気付かなかったが、数人のウマ娘たちと一緒だったらしい。

 

「私らには、その男がガキを抱えて壁にぶつかったように見えたっスよ?」

「うわ、まさかこいつ誘拐犯なんじゃ」

「逃げようとして勝手に自爆したのか、ダセェーーwww」

「マジヤバ、ロリコンかよ。ウケるwww」

「おまわりさーん。ここにロリコン誘拐犯がいまーす」

 

 確かに、傍から見ると俺の行動は幼女をかっさらった後に、もんどり打って壁に激突したヤベェ奴だ。

 口々に俺を罵った奴らは指を差しながらゲラゲラと笑い出す。

 これにはウマ娘好きの俺もイラッとした。

 

 (うっせぇ!ブゥゥゥ―――スッ!)

 

 如何に容姿端麗とはいえ、全くもって美しいとか可愛いとか思えない。

 いつも見ているトレセンの生徒や愛バたちに比べるとブスだな。

 本当にブッサッ!!顔じゃなくて腐った性根がブサイクなんだよ!

 

 俺が壁に激突した音とマッチョ軍団のゲスい笑い声によって、周りに人が集まって来た。

 みんな何事か?と心配そうにこちらを見ている。

 俺は言い返そうとして……できなかった。

 

「何だ?言いたいことがあるなら言えよ」

 

 マッチョにビビったわけでは断じてない。

 抱っこされたままの幼女が俺の服を掴んで、小さく震えているのに気付いたからだ。

 幼女は今やっと自分の状況が飲み込めたのだろう。

 自分の不注意から、他者の暴力を誘発してしまったことを。

 大人から向けられる強く濁った悪意に恐怖して震えているのだ。

 ブスマッチョなんか知らん!

 今はこの子を落ち着かせることを優先する。

 

 (大丈夫、俺がついてる。よしよし、何も怖いことは無いぞ)

 

 少量の覇気を込めてゆっくり頭を撫でてやる。

 意図が伝わった幼女は俺の顔を見上げた後、ぎゅっと抱き着いてきた。

 心配ないない、無問題だよ。

 俺ならあの程度のマッチョ、指先一つで『ひでぶ!』しちゃえるからね。これマジだから。

 

「はっ!躾のなってないガキに、ビビッて言い返せないヘタレ男かよ」

 

 マッチョが吐き捨てるように告げる。

 取り巻きが『情けない』だの『だせぇ』だの騒いでいるのが我慢。

 俺は幼女を安心させるのに忙しいのだ。

 それにしてもこいつら、質の悪いジャイアンとスネ夫たちだな。うっっざ!!

 

「何の騒ぎですか?」

「ここは試験会場ですよ!迷惑行為は控えてください」

「チッ!!」

 

 騒ぎを聞きつけた警備が駆け寄って来る。

 舌打ちしたマッチョは俺たちを睨みつけて嫌な言葉を吐いた。

 

「おいガキ、お前みたいな雑魚がちょろちょろしてんじゃねーよ。目障りだからな」

「アンタいい加減に」

 

 キレそうになった俺を幼女が服を引っ張って引き止めた。

 まだ怖いだろうに、マッチョに向かって言葉を発する。

 

「いいの、わた、私が悪いから……ぶつかって、ごめんなさい……」

 

 相手の目を見てしっかりと謝罪した。

 この子、俺が思っているより強い子だ。

 トイレに行ってよかった…強い子に会えて… ※ハマーン様リスペクトです。

 

「雑魚は雑魚らしく、最初からそういう風に縮こまっていればいいんだよ。そこのヘタレ、お前もだからな。覚えとけ!」

「「「「「だっせぇーーwwぎゃははははははははww」」」」

「フンッ、行くぞお前ら」

 

 マッチョたちは警備の声を無視して歩き出し去っていった。

 駆けつけた人たちの消極的な態度をみるに、マッチョたちはそれなりに強いのか?

 とにかく、嫌な嵐は過ぎ去った。胸がムカムカするがゴルシに絡まれたと思って諦めよう。

 あいつらゴルシの何倍もウザかったけどな!

 

「うう……ヒック……うわああああん」

「あらら、泣かないで。もう腹立つマッチョは消えたからね~」よしよしヾ(・ω・`)

「ごめ……私の……せい…で、ロリコンお兄ちゃんまで悪く……言われて」

「あんなの気にしないぞ。勝手に言わせておけばいいんだ」

「本当?‥‥‥ヘタレクソ雑魚ロリコンは優しいね」

「今のは気にするわ!!」

 

 助けた幼女からの罵倒!グサッときたぁ―――!

 

「ヘタレクソ雑魚てのは忘れようか」

「ロリコンはいいの?」

「フッ……もう、言われ慣れちまったのさ……アレ?なんか視界が歪むなぁ」

「あ、ロリコンが泣いてる」よしよしヾ(・ω・`)

 

 おのれマッチョ!幼女が俺をロリコンだと認識してしまったじゃないか。

 そして今度は俺がよしよしされちゃった!ロリベホマで完全回復ひゃっほー!

 

「ちょっと君、警備室まで来てもらおうか」

「え!?なぜですか。俺は何も悪いことはしていませんよ」

「君がその子を誘拐したと聞いたんだが?違うのか」

「ロリコンだとも言っていたような」

 

 幼女とのよしよしタイムを邪魔する者はだれじゃい!警備員だと?

 やれやれ、わかってねーな。

 俺はそんじょそこらのロリコンじゃない。高レベルなロリコン、いわゆる紳士だよ!

 騎神の級位に例えると超級ぐらいかな?

 

「とにかく!その子はこちらで預かろう」

「いやーー!助けてロリコーン!!」

「嫌がってるじゃないですか、やめましょうよ。後は超級ロリコンの俺に安心して任せてください」

「「任せられるか!!」」

 

 幼女が俺から離れないので警備員は大いに困ったらしい。

 結局、幼女を抱っこしたままの俺と警備員が一緒になって保護者を探し出すことになった。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「本当にありがとうございました。ほら、もう一度ロリコンさんにお礼を言いなさい」

「ありがとうロリコーン!」

「どういたしまして。今後、走るときはよく注意してな」

「うん。もう危ないことはしないよ」

「偉いぞ。じゃあ、俺はこれで」

「ばいばーい、ロリコーン」

 

 人でごった返す観客席で幼女の母親を無事発見した。

 迷子センターに駆け込む寸前だったお母さんは、俺に何度もお礼を言いペコペコ頭を下げた。

 俺の善行を見届けた警備員も一礼して去っていく。誤解が解けてよかったぜ。

 こうして紳士な俺は幼女を救ったのだ。

 『名乗る程のものではない』と言ったのに幼女がロリコン連呼するから、お母さんが俺の名前を露理混(ろりこん)だと思ってます。

 訂正するの面倒くさいので放置。幼女がロリコンを『ユニコーン』みたいに発音するのが可愛い。

 俺がデストロイモードになったら大変ですよ?幼女絶対助けるマンになります。

 

 〇

 

「ごめん!待たせたな」

 

 愛バたちの下に戻ったときは、かなりの時間が経過していた。

 

「ああよかった。無事に帰って来た」

「もう少しで探しに行くところだったよ」

「男性用トイレに突撃し、全ての個室を蹴り破るところでした」

「あっぶねーーー!」

 

 男性用トイレが愛バによって地獄になる寸前だった。セーフ!

 

「時間がかかりましたね。なるほど、大きい方でしたか」

「まあな」

 

 (背中、大丈夫です?)

 (全然平気だ)

 (何があったか、後で聞かせてください)

 

 シロも戻って来ていた。

 目ざといシロは俺が背中を打ちつけたことを見抜く。

 隠すような事でもないので、みんなには後でちゃんと説明しよう。

 

「私の試験まで少し間が空きますが、どうします?」

「今の内に昼食を取っておくか。外にフードコートがあったはずだ」

「ここのおすすめは、高たんぱくマッスル塩ラーメンだよ。隠し味に大豆プロテインがたっぷりの一品」

「私、たこ焼き食べたい。ソースの匂いに釣られてみる」

「いいですね。粉もんが私を呼んでいます」

 

 俺は何食べようかな。愛バと雑談しつつ移動しましょうかね。

 

「シロはどんな内容の試験を受けるんだ?」

「至ってシンプルなガチンコ試合ですって。対戦相手を倒せば晴れて合格だそうです」

「油断ならさぬように。試験には特別ゲストが来るそうですから」

「ほほう。ソースはどこですか?」

「実家からの確かな情報です。人手不足を補うため外部から試験官を呼んだらしいのです」

「メジロ家は相変わらずお忙しいようでなりより。そうだとすると、少しは期待できそうですね」

「現役のプロと戦えるかもしれないんだよね、羨ましいなあ」

 

 シロが受けるのは史上初の試みである飛び級試験だ。。

 通常、級位は烈→轟→超と順番に獲得していくものだが、飛び級試験はその前提を覆す。

 級位未所持のウマ娘が、烈級を飛び越えていきなり轟級の受験してよいことになったのである。

 これも政府肝いりの"騎神増員計画"の一端だろう。

 ルクスの件もあってか、今の日本国内はどこも戦力強化に躍起になっている。

 穏やかではないですねぇ。俺たちも有事に備えて鍛えに鍛えている最中だ。

 

「ねえ、アレ見てアレ……凄い筋肉」ゴクリッ

「すっげー本物かよ!」

「なんて威圧感。でも、どうして彼女がここに?」

 

 何だ何だ?何やら騒がしいぞ。有名人にでもあったのかな。

 ザワザワする人混みをかき分けて、のっしのっしと力強い足取りで歩く人物を視認する。

 

「あっ!あのマッチョは」

 

 そいつは先程ひと悶着あったいけ好かないマッチョとその取り巻き連中だった。

 うへぇ、嫌なもん見た。さっさと移動してご飯ご飯~……

 おい、なんかマッチョたちがこっちに来るんだけど?来ないでほしいんだけど。

 

「嘘ッ!カマセワンコ―だぁ」

「知っているのかクロ!俺にもわかるように教えてプリーズ」

「任せてよ。カマセワンコ―、数年前に行われたウマ娘格闘大会ヘビー級部門のチャンピオン」

 

 カマセワンコ―!?それがあのマッチョ娘の名前なのか。

 なるほど、それであの筋肉ってことかい。

 

「元々素行が悪くて有名な選手だったけど、そこが逆にカッコイイ!てな感じで結構人気があったよ」

「思い出した。あの人、何か事件起こしてなかった?暴行傷害で実刑判決されたんじゃなかったの」

「うん。対戦相手への執拗な死体蹴りや、レフリーや観客に手を上げる事もしばしば。最後は酒に酔って一般人にケガをさせちゃったみたい。それで、大会からは永久追放されたはず」

「選手生命を断たれた野蛮ウマが、なぜこのような場所に?」

「あの方、こっちに来てませんか……マサキさん、私たちの後ろへ」

 

 愛バたちが前に出て庇ってくれる。頼もしいね。

 ここは、お言葉に甘えて守ってもらおう。筋肉ダルマの圧から逃れるように後退しまーす。

 愛バが操者を守る防御陣形、たまには一般的なフォーメーションもいいですな。

 

 ワンコーたちは俺たちの前で足を止め、ジロジロと愛バたちを見ている。

 俺の愛バに何か文句でもあんのか?見物料取るぞコラッ!

 

「どいつがクレイジーDだ?」

「あ゛、出し抜けに何ですか?何様ですかコノヤロウ」

「お前か……ハンッ!どんな奴かと思ったら、こんな小娘だったとはなあ。噂は所詮噂か」

「失礼なんですけど、存在がマジ失礼なんですけど、今すぐ呼吸を止めてほしいんですけど!」

 

 不名誉な通り名で呼ばれた上に鼻で笑われたシロが怒る。

 こいつ、怖いもの知らずか?

 

「飛び級試験を受ける身の程知らず。しかも、それがあのクレイジーDだと聞いて面を拝みに来たんだが、ハズレだなこいつは」

 

 (マサキさん、無礼者の殺害許可を申請します)

 (気持ちはわかるが我慢だ。後で思いっきり撫でちゃるからな)

 (了解。気が変わったらいつでもご命令を、秒で八つ裂きにしてみせます!)

 

 怒ったシロの尻尾が苛立たし気に揺れている。

 結晶化しそうになるシロの尻尾をキャッチ!お触りして落ち着いてもらう。

 

「お前とじゃ、楽しめそうに無いな。どうせなら、そっちの"黒い阿修羅"とやり合いたかったぜ」

「私と遊びたいの?いいよ、いつでも受けて立つ」

「轟級に受かったからといって調子に乗るなよ。見た感じお前もハズレだな」

「うわームカつく。調子に乗ってるのはそっちじゃんか!」

「なんだぁ。ワンコ―さんに口答えしようってかあ!」

「阿修羅が何だってんだ。本格化したばかりのガキがイキってんじゃねー」

 

 クロにもケンカを売るワンコ―……バカなの?何がしたいの?

 取り巻きもクロを嘲笑うような発言を連発している。

 そんなに恐怖を教えられたいの?

 

「マサキさん、こいつら殺していい?」

「ダメ!」

 

 あらヤダ、クロちゃんってば直接聞いちゃったよ。それほどまでにムカついたんだな。

 そういうときは声に出さず目と目で以心伝心しましょうね。

 クロの尻尾もブンブンしてきたのでキャッチ!シロの尻尾と一緒に鎮静のお触りをする。

 イライラしているシロとクロを手で制し、アルがワンコーと対峙する。

 微笑みを浮かべる表情は普段と変わりないように見えるが、愛バたちの姉役である彼女も妹たちをバカにされて怒っている。

 

「ワン公さんでしたか?用があるなら早くしてください。無いならすぐに立ち去った方が身のためです」

「あん?何だお前は」

「ワ、ワンコ―さん。そいつ、メジロアルダンっスよ!」

「メジロ家を裏切ってサトノ家入りした、あの!?」

「別に裏切ってません!」

「雷の超級騎神、雷帝……」

 

 取り巻きの言葉に周囲の野次馬たちもざわつく。

 超級騎神は目立つ、それがアルのような極上の女でかつ、メジロとサトノに深い縁を持っているならなおさらだ。

 はいそこ!無許可での撮影はご遠慮ください!

 超級と聞いてさすがのワンコ―もビビったかと思いきや。

 

「くっ、くくくく……はっーはっはっはっ!!そういうことか」

「いきなり笑われる筋合いは微塵もありませんが」

「大したものだよなあ、御三家の威光ってのは!教えてくれよ、一体いくら積んだんだ?」

「おっしゃっている意味がわかりません」

「まさか級位が金で買えるとはな。それとも実家に泣きついたか?」

「あなた……私が不正を働いて超級騎神になったと、そう言っているのですね」

「違うのか?御三家の令嬢様ならそれぐらい軽いだろう、なあ?」

「……ウフフフフフ」(#^ω^)ピキピキ

 

 怖い!唇を嚙みながら下手くそに笑う、アルの笑顔が超怖い!

 もう!ホント何なのこいつ!破滅フラグを立て続けて何が楽しいの?

 愛バたちだけじゃなく御三家や昇級試験の運営にもケンカ売ったんだぞ。

 早く気付いてワンコ―!あなたは今、N2地雷の上でのんきにタップダンスしているのよ。

 

 シロクロの尻尾を緊急リリース!

 アルの尻尾をキャッチしてお触り……くっそ!シロクロ尻尾が腕に絡みついて取れない。

 三人分の怒れる尻尾を握ったのはいいが、これからどうしよう。

 

 (マサキさん。私、この方嫌いです)

 (だよね!わかってるよわかってるから。どうか、お鎮まりくだされ!)

 (不正などしていません。ちゃんと試験に合格したのです)

 (放電禁止!ビリビリしちゃダメだから―!)

 (私のみならず、試験を見届けてくださった多くの人を侮辱しました。許せません)

 (うんうん、許せないよね)

 

「いい加減にしてよ。ケンカを売るのがあなたの目的なの?」

「今度は誰だ?」

「みんなご存知、ファインモーションだよ」

「知らんな」

「知っとけよ!ボケがぁー!」

 

 ココも怒っちゃったよ。

 アルダンのことを知っていた連中も『知らね』『誰こいつ』と呟いている。

 ファイン家はメジロとサトノに比べてメディアへの露出が少ないから、知らない人は知らないのよ。

 

「ファイン?あの、マイナー御三家のファインか」

「マイナーで悪かったね!」

「知らないのか。ある業界では彼女はちょっとした有名人だぞ」

「日本全国津々浦々のラーメンを食したという、カリスマレビューアー"モーさん"を知らないとは……嘆かわしい」

「ラーメン愛に溢れた批評の数々は、名立たるラーメン職人たちも注目しているのにな」

「そこのお兄さんたち、どうもありがとう!後で一緒に自撮りでもいかがかな?」

「「「ヒューやったぜ!」」」

 

 ファンサービスで手を振るココにラーメンが好き男たちは歓喜する。

 知っている人たちがいてよかったね。

 ファイン家の頭首としてではなく、ラーメンレビューアーとしてだけど。

 

 (マサキ、写真ぐらいならいいよね?)

 (それぐらいのサービスならいいだろう。でも、お触りは許さない!俺が嫉妬しちゃうから)

 (わかったよ。で、この不敬がウマの形をした女はどうするの?)

 (どうしたもんかねえ)

 

 愛バたちじゃ会話にならないと察した。俺が出るしかないな。

 

「カマセワンコ―さん?」

「お、ヘタレ野郎じゃないか。まだこんなところにいたのか、幼児誘拐でしょっ引かれたのかとおもったぜww」

「「「「なんだと!!」」」」

「よせ、お前たちは黙ってろ……操者の俺がお聞きします。うちの愛バに何か御用ですか?」

「お前が操者だあ?笑わせんな」

「御三家ってのはよっぽど人を見る目が無いらしいw」

「あんなのが操者できるとか世も末だわ」

「「「「言ってはならんことを言ったな!!」」」」

「全員ステイ!下がれ、下がってーー!」

 

 だから一々挑発するなよ!その度に愛バたちが怒るので話が進まないだろうが。

 

「言っただろ、飛び級なんてふざけた真似をする。身の程知らずの顔を拝みに来たんだよ!」

「シロの顔は見ましたよね?だったら、もう用はないでしょう。すみやかにお帰りください」

「そういう訳にもいかないねぇ。そこのクレイジーが受ける試験の内容は聞いているか?」

「ガチンコ試合だと聞いています」

「そうさ!そいつの対戦相手がこのアタシ、カマセワンコ―だ!!」

「あ、そうですか。ご健闘をお祈りします」

「随分と薄い反応だな。可愛い愛バが衆人環視の中でボコられてもいいってのかい?」

「いいわけないでしょ。とにかく!お帰りください」

 

 早く!早く帰れ!愛バたちを抑えているのも限界が近いんだからね。

 この尻尾ども暴れやがるぜ!ぐあああっ!ココの尻尾も参戦して来たーー!

 

 シッシッと追い払う俺をワンコ―は睨みつける。じっとりとした視線が不快だ。

 

「……お前、よく見ると悪くないな」

「はい?」

「このアタシを前にして一歩も引かないか、ヘタレの癖にちったあ度胸あるな。アタシの操者にしてやってもいいぞ」

「「「「よーし!殺そう!!」」」

 

 愛バたちリミットブレイク!しかし、マサキが尻尾を引っ張るので寸前で停止する。

 マズいマズいマズい!愛バたちの瞳に『殺』の文字が宿り始めた。

 はい、どうどう。落ち着きなはれや!

 

「俺を操者にですか?」

「悪い話じゃないだろう。コネだけの小娘どもを捨てて、真の実力者であるアタシの操者になれるんだ」

「バッカじゃないの。マサキさんはそんなの断るに決まってる」

「なめすぎでしょ?私たちの操者が了承するはず……」

 

 操者になれというワンコ―。俺の返答は既に決まっている。

 

「いいですよ」

「そうそう。ダメに決まって……ちょ、マサキさん!?」

「そ、そんな!なんで!!」

「はっ!即決とは気前がいいな。あーそうか、御三家に無理やり操者やらされていた口か?小娘どものワガママに振り回されてご苦労さん」

「マサキさん……」

「マサキ……」

「アタシの操者になれば少しはマシな待遇になるぜ。まっ、最初は奴隷見習いだけどなww」

 

 ショックを受けて固まるクロシロ、悲しい顔するアルココ……心配するな。

 

「何勘違いしているんだ?」

「ああん?」

「お前の操者になってもいいと言ったが、条件がある」

「条件だとぉ、生意気いうじゃねーか」

「俺の愛バ、シロに勝って見せろ。万が一、いや、億が一お前が勝ったなら、操者でも奴隷にでもなってやらぁ!!」

「ほざいたなヘタレ!その言葉後悔するなよ。口約束だからって今更無かったことにはできねえぞ。この場にいる全員が証人だからな!」

 

 敬語も最早必要ない。失礼な相手には失礼を返す!

 俺の提示した条件を前に、ワンコ―は牙を剥いて叫ぶ。

 

「いいのか?本当にいいんだな!!おい!」

「しつけぇなあ、いいって言ってんだろ。お前と俺の愛バでガチンコ勝負じゃい!!」

「くくく、いいねぇ!楽しくなってきたぁ!試合が始まるまでの間、愛バとお別れ会でもしてるんだな!」

「嫌でーす。普通に楽しくランチしまーす」

「減らず口を、その自信は一体どこからくるんだ」

 

 自信があって当然だろ。

 シロの隣に立ってその肩に手をかける。尻尾がキュッと太もも辺りに巻き付いてくるのが信頼の証。

 

「この子は俺の愛バだぞ。お前みたいな奴に負けるなんて、絶対にありえない!」

「フンッ、口だけならどうとでも言える。いいぜ、首を洗って待っていな!逃げるんじゃねーぞ」

「「「「お前がな!!」」」」

「チッ……」

 

 愛バたち四人の気迫に圧され退散していくワンコ―たち。

 やっちまった。つい熱くなったことに反省!

 シロの気持ちも考えず、勝手に勝負を受けてしまった。

 

「勝手な約束してごめん、シロ」

「全く問題ありません。あのマッチョを処理する機会をくれたことに感謝ですよ」

 

 マサキたちの様子を見ていた野次馬たちが一斉に騒ぎ出す。

 

「決闘、決闘だ!!」

「カマセワンコ―VSクレイジーDだと!?こんな好カード観るっきゃない!」

「今の内に座席確保だ!」

「面白くなってきたぞー。そーれぃ拡散拡散~」

 

 大事になってきたぞ。それもこれもワンコ―が悪い。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 盛り上がる観衆をスルーしてフードコートにやって来た俺たち。

 ムカムカする気分を落ち着かせるために、少々やけ食いをしてしまったぜ。

 

「たい焼きうめぇ!」

「中身何だった?私のカスタードだったよ」

「ハバネロ納豆でした……辛っ!ネバっ!臭いキツっ!」

「十勝大納言を使ったつぶあんです。シンプルイズベスト」

「ご飯が欲しくなる海苔の佃煮、うーんミスマッチだ」

 

 今は愛バたちと、デザートに買った"ロシアンたい焼"きを食している最中だ。

俺のたい焼きには餃子が入っていた。猛烈な違和感があるが味はなかなかいい。

 

「カマセワンコ―があんな奴だったなんて。一時期応援していたのに…当時の私に謝れ!」

「小さい子に暴力を振るおうとしたんでしょ。サイテーだよ」

「マサキさんが勝負を受けた理由もわかります」

「アレは一度ぎゃふんと言わさないとダメですね」

 

 ワンコ―が幼女を蹴ろうとしたことも昼食がてら伝えてある。 

 愛バたちは益々憤慨してワンコーを軽蔑していた。

 

「それで、あいつの実力はどんな感じ?」

「格闘技選手だった頃はかなり強いと思っていたけど。今となってはわかんないなあ」

「現在、轟級騎神で超級への昇格も期待されているそうです。職業はフリーの戦闘屋、大手企業の用心棒として重宝されているようで、彼女を慕う同業者も多いのだとか」

「仕事は意外にもクリーン!私はてっきり、ヤクザのケツ持ち止まりかと思ったよ」

「性格は悪いが仕事は出来るタイプか、あんな態度じゃ無駄に敵を作って大変だろうに」

「天狗になっているのですよ。恵まれた力で何でも思い通りにして生きて来たのでしょう。かわいそうに……」

 

 カマセワンコ―は、誰かを思いやる心を学ぶことなく生きてきた。

 そう思うと哀れな奴なのかもな。

 

「メジロ家もどうしてあんなの試験官にするかね」

「実家がどうもすみません」

「アルは悪くない。どこも人手不足が深刻ってことだな」

「なんか怪しいんですよねー。最近のメジロ家は妙にごたついているというか……」

「ルクスのせいじゃね。あいつへの対抗策にみんな奔走してんだろ」

 

 たい焼きを食べ終えた。腹ごなしも済んだぞ。

 いい時間だ、そろそろ会場に戻ろう。

 

「いけるな、シロ?」

「お任せください。皆を代表して、あの勘違いマッチョを成敗してやります」

 

 シロのやる気は十分だ。

 一応注意しておくけど、やりすぎてもダメだからね!

 

 〇

 

 選手入場が始まる。

 

「赤コーナー!格闘技界の狂犬と恐れられたウマ娘が復活するぞ!」

 

 試験会場であるメジロマッスルアリーナの熱気は最高潮だ。

 騎神昇級試験の最終試合が始まるのを皆が待ちわびている。

 試合のために急ピッチで整備したのか、会場は様変わりしていた。

 これK-1だ!K-1の試合会場意識してるだろ。

 ノリがよいレフリーのマイクパフォーマンスにも熱が入ってくる。

 みんなこれが試験だってこと忘れてない?

 観客を入れている時点でおかしいから今更か……

 

「カマセワンコ―!カマセワンコ―の登場だぁぁぁ!」

 

 割れんばかりの歓声が轟く。誰かがゴクリッと唾を飲む。

 ワンコ―は傲岸不遜な態度のままリングへと足を踏み入れる。

 俺たちを見つけると二ヤリと嫌らしい笑みを向けてくるのでウザい。

 

「いいな~私のときもこれぐらい盛り上げてほしかったよ」

「ちょっとやりすぎな気もするけどね」

「シロさん。会場の雰囲気に飲まれないといいですけど」

 

 大丈夫、あいつはできる子。自慢の愛バだからな。

 

「続いて青コーナー!飛び級試験の受験者が満を持して登場するぜぇ!」

 

 ざわ…ざわ…会場に緊張が走る。

 心なしかワンコ―のときよりも空気がピリピリしているようだ。

 それもそのはず、皆は彼女を観に来たのだから。

 

「サトノ家の至宝!噂のクレイジーDとはこいつのことだぁぁぁ!!」

 

 めっちゃスモークが焚かれとる!?演出凄くない?いくら使ってるの?

 メジロ家の豪快さは、こんなところでも発揮されている。

 

「その輝きを目に焼き付けろ!サトノダイヤモンド!サトノダイヤモンドが来たぁーー!!」

 

 スモークを振り払い登場するのは見目麗しいウマ娘だった。

 整い過ぎた容姿に煌めきを放つツヤツヤな毛並み、そして抜群のスタイル。

 受験者用の黒いスポーツウェアも、彼女が着れば一流のドレスへと変貌を遂げるたかのよう。

 圧倒的存在感を放つウマ娘はゆっくりと歩みを進める。

 彼女の一挙手一投足に見惚れた観客からは、ため息すら漏れない。

 

 (シロの奴、よそ行きお嬢様モードに入っちゃってるww)

 (なんて分厚い外面なんだwww)

 (めっ!笑ってはダメですよ。とっても綺麗じゃないですか、ねえ、マサキさん?)

 (ああ、さすがシロだな。飲まれるどころか会場中を飲んじまった)

 

 "お嬢様モード"

 愛バたちが有する共通スキルだ。

 発動すると持って生まれた気品とオーラで威圧し相手を黙らせる効果がある。

 同時に、一定範囲内の人々を魅了し味方につけることも可能。

 

 これを発動させたシロの魅力は普段の五割増しだ。たぶんね。

 

 優雅にリングインするシロ。

 昼食前に会ったときとは違う彼女に、ワンコ―すら口をポカンと開けている。

 俺とシロの目が合う。

 

 (いいぞ、シロ!お前は美しい!)

 

 頷いたシロは会場を見渡した後にくるりふわりと一回転。

 観戦する全ての者に向け、最高のスマイルを放った。

 

『「「「「うおぉぉぉぉぉぉ――――――!!!」」」」』

 

 凄まじい歓声に会場が震える。耳がキーンとしちゃった。

 

「あれがクレイジーDだとぉ!?」

「すげぇ。まだ登場しただけなのに、なんかすげぇ」

「どこがクレイジーなんだ?確かに、クレイジーな美しさではあるが……」

「は、初めて、初めて見た。そして持っていかれたぁ―――!俺のハートぉぉぉぉ!」

「うっわっ!マジでメチャクソ可愛い!え……12歳!?!?」

「ダイヤ様~!ダイヤ様ーーー!」

「まさにサトノ家の至宝だな」

「Dじゃ!Ⅾ様がついに、世に解き放たれる時が来たのじゃぁーー!」

「ダイヤモンドは砕けない!」

 

 わお!シロ大人気ですやん。

 その子、俺のですよ?

 

「フッ、何も知らない連中はお気楽なことだ」

「またお前か知ったかぶり!」

「見た目の良さだけでクレイジーなんて通り名が付くわけないだろう」

「あーはいはい。知っていることがあるなら、はよいえ」

「クレイジーの前に彼女がなんて呼ばれていたか知ってるか?」

「知らんがな」

「シラカワシュウの再来、学会荒らしの"厄災(やくさい)"だ」

「やくさい?って何だ」

「その昔、5歳にも満たない彼女は父親に連れられて、様々な研究機関を訪れたという。父親曰く『うちのダイヤちゃん天才だから』だそうだ。娘の好奇心を満たせればそれでよかった。だが、話はそこで終わらない」

「続きを……」ゴクリッ

「それからだ。学会を去る研究者が続出したり、研究そのものが頓挫する事態が相次いだのは、彼女が潰した研究機関は片手じゃ足りないぞ」

「何をした、彼女は一体何をした?」

「良かれと思って、ちょっとしたアドバイスをしたそうだ。そのアドバイスとやらは10年単位の研究成果を五分で解き明かし、それを遥かに上回る物を最高効率で創造してみせた」

「ヤバすぎんだろ」

「考えてもみろ。生涯を捧げて追及してきた研究を、ふらりと訪れた幼女に数分で丸裸にされた挙句『こっちの方が効率いいですよ』『これじゃダメです。ここはこうしましょう』と悪気なく間違いを指摘され、その全てにおいて彼女の方が正しく優れていると思い知らされたらどうなる?」

「自信もプライドもボロボロになるな。ヒデぇことしやがる」

「当時のシンクタンクは、たった一人の幼女に震え上がったのさ。父親に叱られてからはアドバイスは止めたようだ」

「それで付いた通り名が"厄災"か……じゃあ、クレイジーってのは何よ?」

「小学校で全校生徒を巻き込んで暴れたらしい。クレイジーⅮはそこから始まり、数年前から各地の戦場に出没し噂になった『サトノ家に超ヤバい騎神がいる』『Dそれにあったら終わり』と」

「それがクレイジーD‥‥あそこにいる彼女か。それにしても、お前詳しすぎじゃね?」

「フッ、推しの情報は可能な限り押さえておく、それが真のファンたる者だ!」

「こいつ、メッチャいい笑顔で」

 

 長っっがぁぁーーーい!!

 知ったかぶりさんの解説がとても長いよう。

 偶然、近くにいた俺と愛バたちも思わず聞き入っちゃったじゃないの。

 

 (厄災だってよ。知っていたか?)

 (全然知らなかったよ。でも、シロなら普通にやってそう)

 

 クロも知らなかった情報らしい。この知ったかぶりさん何者なの?

 でもいいんだ。厄災だろうがクレイジーだろうが、シロは可愛い愛バなの。

 

「よう!クレイジーD。逃げずに来たことだけは褒めてやるよ」

「逃げる理由がありませんから」

「そうかよ。お前以外の受験者はアタシが試験官だと知った途端に全員辞退したぜ」

「品性下劣な勘違い女を倒すだけで合格できるというのに、勿体ないですね」

「戦場はなあ、温室育ちの小娘が立っていい場所じゃないんだよ!」

「温室の過酷さを知らないアホの発言いただきました」

「その威勢がいつまで続くか楽しみだな」

「そっくりそのままお返しします」

 

 バチバチと火花を散らす両者。それが観客の期待と焦燥を加速させ煽っていく。

 

 やれ!早く始めろ!最高の娯楽をお前たちの力を、見せろ!魅せろ!

 強者に焦がれ惹かれ憧れる我々に、夢のようなひと時を胸躍るような戦いを、どうか見せつけてくれ!

 

 レフリーによる形式的なボディチェックの最中、シロが振り返って俺の目を見る。

 

 (オーダーはありますか?)

 ("()()()いのちだいじに"で頼む)

 ("殺さないように痛めつける"ですね。かしこまりました)

 

 軽く微笑んでシロは前に向き直る。

 今のはオーダーミスじゃなかろうか?

 大丈夫大丈夫~俺はシロを信じる。マジで信じているからやりすぎないで!

 

「両者、試合前に礼ッ!」

 

 態度の悪いワンコ―も一礼ぐらいはちゃんとした。

 格闘技界から追放されていても、身にしみついたマナーぐらいは残っているらしい。

 

「見合って見合って~、はっけよーい……決闘開始(デュエルスタート)ッッ!!」

 

 レフリーの言葉がカオスなのは、彼もこの状況にテンパっているからだろうと解釈する。

 シロの轟級騎神資格と俺の進退を賭けた戦いが、今始まった。

 

 〇

 

 試合開始直後、先に動いたのはカマセワンコ―だった。

 覇気を漲らせた足で床を蹴り標的との距離を詰める。

 

 (チャンスだ。これはアタシにとってのビッグチャンス)

 

 退屈だと思っていたが、この仕事を受けて良かった。

 クレイジーⅮの噂は戦闘屋界隈では有名だ。そいつを公の場で叩きのめしたとなれば、かなりの箔が付く。

 自分を追放した格闘技界の連中にも、真の実力者がどういうものか見せつけてやれる。

 戦いをなめきった雑魚どもが騎神を名乗るのも前から気に入らなかった。

 選手生命を断たれた自分がどれ程の辛酸を舐めたのか、轟級騎神に至たるまでどれだけ修練を積んだのか、才能にも環境にも恵まれた奴らにわかるわけがない。

 騎神になるということは雑魚が思ってるほど甘くない。それを今日この場所で教えてやるのだ!

 

 マサキたちをずっと見下す態度をとっていたワンコーだったが、実のところ油断はしていない。

 彼女は見た目に反して用心深く堅実な戦いを好む。

 

 (ガキを助けたヘタレの動き、普通じゃなかった)

 

 あの瞬間加速、ただの人間であるわけがない。現に、奴の愛バは御三家のウマ娘が勢揃いしていた。

 本日の轟級試験をストレート勝ちした"黒い阿修羅"に、ファイン家のラーメン狂い、超級騎神の"雷帝"までいる。

 そして極めつけは、悪評絶えない"クレイジーD"だ。

 

 (正直、雷帝の登場には焦ったが、級位なしのコイツになら勝てる!!)

 

 戦いの前にあえて挑発して騒ぎを起こし、飛び級試験を大きな舞台へと整えたのもワンコ―の計算だった。

 衆人環視の中、クレイジーDを自分が圧倒する!

 生意気な小娘と目障りな御三家をこき下ろし、自身への賞賛はうなぎ登りだ。

 これは一石何鳥にもなる、おいしい戦いなのだ。故に負けるわけにはいかない。

 当初の予定に無かった、マサキを操者にするという話も報酬が増えて願ったり叶ったりだ。

 クレイジーな小娘には精々踏み台になってもらおう。

 

 相手は微動だにせず構えてすらいない。棒立ちのままこちらを見ている。

 ここまでの観察でクレイジーについてわかったことを思い返す。

 どういう戦闘タイプなのかは注意していれば推測可能。

 全体の筋肉量、間合いの取り方、最もわかりやすかったのは視線だ。

 銃を使う奴特有の視線、攻撃対象を点で捉える目の動きは誤魔化し切れていない。

 

 (少数派の中遠距離支援タイプ、お気に入りの武器は銃ってところか)

 

 この試合は素手による格闘戦がメインだが、覇気を使った飛び道具は許可されている。

 相手の戦法は十中八九、覇気弾による射撃だ。

 狭いリング上を逃げ回り、一定の距離を空けつつ射撃を行って来るはず。

 だが、そうはさせない。

 

 ワンコ―が選んだのは速攻だった。

 相手に時間を与えてはダメだ。頭がきれるこいつは時間が経てば経つほど、厄介になることは目に見えている。

 考える暇も覇気を練る隙も与えずに一気に勝負を決めるのが最善策。

 だから行く、様子見などせずに最初から全力をぶつけるのだ。

 

 ワンコ―は実戦で培った戦闘技巧を余すことなく使用する。

 覇気を集中させた足底が地面を蹴りつける瞬間に解放!爆発的な瞬発力が超加速を生んだ。

 ワンコ―は知らなかったが、奇しくもそれは、マサキが加速技(アクセル)と名付けた歩法に酷似していた。

 

 (更にダメ押しのぉーー!超筋肉防壁(スーパーマッスルバリヤ)ッッッ!)

 

 加速しながら筋肉を膨張させる。

 血管が浮き出るほどに張り詰めた肉体を覇気が駆け巡る。

 肉体強化と共に防壁を展開するワンコ―の得意とする攻防一体の技だ。

 この状態になったワンコ―の体は、銃弾すら通さない高い防御力を誇る。

 特に腕部の防壁は固く、その気になればロケットランチャーですら弾けるとまで言われている。

 

 (そらっ!撃って来い!全弾弾き返してやるよ)

 

 両腕を楯のように構え突撃していくワンコ―。

 覇気弾で迎撃されるのは想定済み。射撃への対策はバッチリだ。

 後は、得意のインファイトに持ち込んでしまえばこっちのもの。

 だというのに…‥

 

 (なぜだ?撃ってこない?)

 

 ダイヤは迎撃どころか未だに何の反応も示さない。

 試合開始直後の油断?即行にビビった?いいや、こいつはそんなウマではない。

 棒立ちなのは罠か?何だ?何かを企んでいる‥‥‥だとしても、それがどうした!

 賽は投げられたのだ。ここで躊躇するようならば、初めから勝負など仕掛けていない。

 プロとして、轟級騎神として活動してきた自負もある。

 臆することはない、クレイジーの企みも何もかも力でねじ伏せてやればいいだけ。

 

 (そのキレイな顔をボコボコにしてやる!!)

 

 ダイヤは最早眼前だ。

 両腕のガードを解いて拳を振り上げる。完全にもらった!

 脳内では『勝ったッ!カマセワンコ―栄光への第一歩完!』のテロップが流れ始めている。

 ワンコ―は吠え猛りながらダイヤへと襲い掛かった。

 

「キャオラァッッ!!」

 

 カマセワンコ―は決して弱い騎神ではない。

 マサキたちに悪態をつきながらも『彼らは普通ではない』と本能の警告を感じ取っていた。

 得体の知れないダイヤに対し舐めプを選ばず、最初から全力で決めに行ったことも評価できる。

 

 だがしかし、今回ばかりは相手が悪かった……本当に悪すぎた。

 ワンコ―がそのことに気付くまであと少し。

 

 〇

 

「キャオラァッッ!!」

 

 マサキは、ワンコ―が妙な声を上げながらシロへと殴りかかるのを見た。 

 愛バたちは今のを聞いて『ブフッww』と可愛らしく吹き出している。

 試合開始直後にワンコ―は加速技らしき歩法でシロに迫った。

 独力でアクセルを習得したのだとすると、ワンコ―は優秀な騎神なのだなと思う。

 迎撃を警戒して防壁を張りつつの突撃、しっかり防御も固めてくるあたり慎重な奴だ。

 さあ、どうするシロ?

 

「出たぁーー!ワンコ―さんの秒殺速攻ッッ!」

「一気に決める気だ。やっちまえ!」

「速すぎんだろ。ダイヤ様逃げて―超逃げてーー!」

「リョナ展開は勘弁な」

「きゃあ!やられちゃうわ」

 

 歓声と悲鳴が同時に上がる。

 美しき少女は屈強な女戦士の手によって無残な姿を晒すであろう。

 ワンコ―にとっては最高の未来、シロやマサキたちにとっては最悪の未来だ。

 会場に集まった多くの者に最悪の未来を予見されてもシロは動かない。

 

 パシンッ!!!

 

 打撃音が響き渡った。

 

 (は?)

 

 ワンコ―は混乱した。相手に届くはずだった自分の拳、手ごたえが無い。

 攻撃が失敗に終わったのはわかるが、なぜ失敗したのかがわからない。

 打撃音が思っていたものと違う。さっきの音はまるで、誰かが張り手を食らったような…‥?

 そこでようやく気付いた。

 

 自分の顔が前ではなく横を向いていることに。

 遅れて、右頬にひりつくような痛みが走ることに。

 ポタポタと赤い雫が床に滴っていることに。

 それが自分の鼻から出ていることに……自分は今、リング上で無様に鼻血を垂れ流している!?

 

「ちょっと撫でただけですが、もうお終いですか?」

「てめぇ・・・!!」

 

 癇に障る声が聞こえた。

 正面に向き直ると、すまし顔のダイヤがいた。

 

 (こいつ!アタシの顔にビンタくれやがったなぁぁ!!)

 

 腕を振りあげた瞬間、自分の顔は無防備になっていた。

 理屈は不明だが、防壁の隙間を縫って強烈なカウンタービンタをかまされてしまったのだ。

 見えない、全く見えなかった。

 奴の立ち位置は最初から変化していない。カウンター後に元の場所に戻った?

 だとしたら、異常なスピードだ。スピード特化型超級騎神レベルの超高速起動?

 そんなわけあるか!とワンコ―はかぶりを振り、そして思い当たる。

 

 (わかったぞ!これは覇気弾だ)

 

 手練れの中には覇気を自分好みに変化させ細工を施してから、相手にぶつけることができる奴もいる。

 こいつはその細工が得意なのだろう。

 命中後に破裂して衝撃でダメージを与える特殊弾、通常弾と違い飛距離は短いが威力に勝る、それを今使われた。

 おまけに隠形術でステルス加工までしてやがったのだ。

 こちらが速攻を仕掛けて来ると読んだ上で不可視のカウンターショット。

 手痛い先制を食らったワンコ―はさすがに舌を巻く。

 

 (ちっ!予想以上にヤベェ奴だ。だが、からくりはもう読めたぜ!)

 

「なめるなクレイジーィィッッ!!」

 

 距離は既に詰めた。自分の間合いだ!今度は横殴りの一撃で狩りとってやるぜ。

 そこからワンコースーパーコンボダイムの始まりだぁぁ!!

 最初の一撃で自分をフッ飛ばす腹積もりだったろうに、残念だったな!

 このワンコ―様はただの騎神じゃねぇ、強え騎神なんだよ!

 筋肉防壁はこのまま維持、奴をよく観察しろ、発射場所であろう指先の動きをよく見るのだ。

 弾丸はどこだ?いつ撃って来る?撃って来い!さっきのはまぐれだと教えてやる。

 …………あれ?まてよこいつ、ずっと両手組んでいないか!???

 

 パァンンッッ!!

 

 先程よりも快音が響き渡った。

 

「ブベッ!」

「何をしているのです?隙だらけですよ」

 

 今度は左頬に強烈な衝撃、目から火が出るような威力だった。

 唾と鼻血をまき散らしながら多々良を踏むワンコ―。

 

 (何が……覇気弾じゃ……ない…)

 

 弾丸による攻撃ではない。

 今のは明らかに、何かで頬をぶっ叩かれた!

 試合が始まってからというもの、ダイヤは下げだ両手をずっと組んだままだ。

 こちらに弾を飛ばしてはいない?だったら何を使って攻撃されているというのだ。

 

「て、クソっ…‥‥がっ!?」

 

 思考がまとまらない内に三回目のビンタがやってきた。

 下からアゴを殴りつけるようなアッパーカット。これもうビンタじゃねぇ!

 

 そのまま一方的なリンチが始まった。

 

 不可視の攻撃で顔を中心に全身を殴打される。

 ワンコーは何度も反撃を試みるが、その度にダイヤの攻撃は防御障壁の薄い箇所を適格に突いてきた。

 

 (何が、何が起こっている?こっちは一撃どころか奴に触れてすらいないんだぞ!)

 

 試合(リンチ)を観戦しいる人々も首を傾げている。

 

「なんだぁ!?ワンコーは一体どうしちまったんだ」

「一人で勝手に悶え苦しんでるぞ?はっはーん、ソロプレイ専門のドⅯだったのか」

「そうじゃねぇだろ!見ろ、傷がドンドン増えていってる。アレは攻撃されてんだよ!」

「でも、どうやって?クレイジーⅮは一歩たりとも動いてねえぞ」

「祟りじゃ!D様の祟りじゃ!」

「マジかよ祟りかよ!心霊攻撃とかアリかよ!怖えぇぇ」

「ふーむ。ダイヤ様ならやりかねませんなぁ」

 

 見えない攻撃について様々な憶測が飛ぶ中、マサキたちは驚いた様子もない。

 

「アレ痛いんだよなあ。模擬戦で食らったからわかる」

「マサキさんも?私なんて毎日ぶたれてるよ!ちくしょー」

「シロさんのアレは今日も生き生きしてますね」

「隠形+で見えなくしたのか、ホントいろいろ思いつく子だ」

 

 攻撃を受け続けたワンコ―は肩で息をしており、もうフラフラだ。

 ダイヤは冷め切った目でワンコ―を一瞥し口を開く。

 

「まだわかりませんか?」

「お前えぇぇ。一体何を…して……」

「よーく目を凝らして見て下さい。はい、目に覇気を集中集中~もっと精度を上げて!」

「集中…何を隠して」

 

 ダイヤはやはり隠形を使っていた。

 ワンコーは言われた通り覇気を目に集中、目が血走るほどに凝視する。

 攻撃を止めたダイヤは『ここ!ここら辺です』と何かをよく見ろと指差している。

 レンズのピントが合うように、最初は陽炎のように揺らめく何かが、だんだんと全体像を表していく。

 自分を攻撃していたものの正体がようやく見えた。だが……

 

「何だ、それは?」

「見てわかりませんか?これは私のチャーミングな尻尾ですよ」

「そんな尻尾のウマ娘がいるかぁぁぁーーー!!」

「えぇーまだ結晶化してないのに」(*´Д`)

 

 ワンコ―に怒鳴られたことでションボリするダイヤ。結晶化って何だ?

 隠形を看破したワンコ―が見たもの、それはダイヤの尻尾から伸びウネウネとうごめく触手たち。

 その数6本、ワンコ―をリンチしていたのはこの触手だったのだ。

 

「尻尾だって言ってんだろ!」

 

 覇気で腕や足のリーチを伸ばす術は確かに存在する。

 だが、尻尾を伸ばして自由に操るなど前代未聞だ。

 毛先から覇気を放出して束ね攻撃に用いるだと?思いつくか?思いついてもやるか普通?

 それにあの動きは、一本一本が意思を持っているかのようだ。自由自在すぎんだろ。

 普段から尻尾を手足のように使ってないと不可能な芸当……まさか、使っているのか?

 

 (覇気で構成された部分が丸ごとステルス……)

 

 ダイヤ本来の尻尾は何事もなく揺れている。そのことが逆に恐ろしい。

 そこから伸ばされた凶器は純粋な暴力装置だ。

 

「ウマ娘にの尻尾とは何か?」

 

 高速移動時の姿勢制御装置、戦闘時の余剰覇気放出装置、殿方を魅了するチャームポイント。

 暇なときの遊び相手、正直邪魔くさい!!

 ウマ娘にとって尻尾の在り方は千差万別だ。

 

「私の場合は手足であり耳目であり、操者にお触りしていただく部位であり」

 

 6本の尻尾が一斉に動き出す。

 見えるようになったからといって、この数を捌くのは骨が折れる。

 ワンコーは覇気を練り直し構える。フラついている場合ではない、やられるぞ。

 

メインウェポンです

「この、このっ!クレイジーがぁぁーーーーー!!」

 

 ステルスを解除した尻尾の動きは苛烈の一言につきた。

 上から下から横から斜めから、6本の尻尾はワンコ―を殴りつける。

 舞うように縫うように踊るように襲い来る尻尾たち、触れることすらできない。

 ワンコ―が後退する。

 ダイヤはゆっくりと前へ。

 

「あなたは三つの罪を犯しました」

 

 ワンコ―が後退る度にダイヤは前に出る。

 その間も尻尾の攻撃は止むことはない。

 

「一つ、子供に暴力を振るおうとした罪」

 

「二つ、私や仲間たちを侮辱した罪」

 

「三つ、これが最も重い……」

 

 ワンコ―はリングの端まで追い詰められていた。

 容赦のない攻撃を受け続けた彼女の衣服は破れ、体の各所は痣だらけ、鼻と口からは出血もしている。

 ボッコボコだ!もう本当にボッコボコだった。

 誰の目か見ても満身創痍のワンコ―、野次を飛ばしていた取り巻きたちも今は青ざめて悲鳴すら出せない。

 

私の愛する人を不快にさせた罪ッッ!

 

 顔をパンパンに腫らしたワンコ―は見た。

 眼前でダイヤが跳躍し華麗に一回転したのをだ。

 ふわりと捻る揺れる回る。そこから生まれるのは回し蹴りならぬ、回し尻尾!!

 6本の尻尾を束ねた大尻尾がワンコーの横っ面に直撃する。

 極太の鉄骨で力任せにぶん殴られたと同義、その威力をもってワンコ―をリングから叩き出した。

 

 仰向けに倒れたワンコ―はまだ意識を保っていた。

 リングアウトした自分を見下ろす存在に気付く。

 悔しい、情けない、恥ずかしいし腹も立つ。だが、それ以上に恐怖した。

 自分に完膚なきまでの敗北を突き付けた存在を、美しいと思ってしまったことに恐怖した。

 

 (わからない。わからない。こいつは一体……何だ?)

 

 戦いが始まってから自分はずっと疑問ばかりだった。

 どれだけ考えても答えは出ない。

 クレイジーDとは何だったのか?そもそもこいつはウマ娘なのか?

 結論、考えるだけ無駄無駄無駄!!

 自分如きが推し測れるような奴じゃなかった。うん、もうそれでいいや。

 

「これが……サトノ…ダイヤモンド……か」ガクッ

 

 ワンコ―が白目を向いて気絶した。

 我に返った取り巻きたちが大慌てで騒ぎ出す。

 

「ワ、ワンコ―さぁぁぁんんんっ!!」

「死んだ!?」

「死んでない!縁起でもないこと言うな」

「しっかりするっスよ!誰か救護班を呼んでくれーーー!」

「助けて!助けてください!この人、性格悪いけど後輩の面倒見はいい人なんだぁ!」

 

 ワンコ―は担架に乗せられ救護室へと運ばれていった。

 その様子を見届けたダイヤは振り返り、操者と視線を合わせる。

 

 (勝ちましたよ、マサキさん)

 (お見事でした)

 (いっぱい褒めてくださると嬉しいです)

 (オッケーよ。今日はみんなで合格祝いだ)

 

 他の愛バたちもウンウンと頷いている。

 

 試合内容にも現状にもついて行けず唖然としていたレフリーが再起動した。

 近くまでやってきたダイヤ相手にちょっと腰が引けているが、仕事を果たそうと奮起する。

 

「し、試合終了~!勝者ッ!サトノダイヤモンド!サトノダイヤモンドだぁぁっっーーー!」

 

 おめでとうシロ、おめでとうクロ、二人ともよくやったな。

 今日から君たちは轟級騎神だ!

 

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