マサキ、マッスルアリーナで迷子になる。
「参ったなあ」
「ニャーン」
気が付いた時、俺はマッスルアリーナの外に出にいた。
どうやらパッシブスキル"方向音痴EX"が発動してしまったらしい。
不定期で発動するこのスキルのおかげで昔から苦労が絶えないのだ。
地図を見ていても問答無用で道に迷ってしまう迷惑スキル……いらなかったなあ。
今回は元いた場所に戻ろうとして、何故か外の出てしまったパターンだ。
情けない!こんなんじゃいつまで経っても愛バに心配かけちまうな。
俺、まだ20代なのに徘徊老人のような真似を…
愛バたちからGPSをプレゼントされる日もそう遠くないかも(;´д`)トホホ
「戻らないと、表彰式が始まっちゃう」
「ニャー」
「はいはい、にゃーにゃー」
「ニャーン」
「猫ですか?猫にようはありませぬ。アリーナの中に戻ってそれから」
「ニャーニャーニャウン」
「にゃーにゃ―うるさいですね。猫語なんてわかんねぇよ!」
「ロリコニャース」
「今バカにしたな!?」
今俺は不可思議な現象に襲われている。 屋外に出てからずっと耳元で『ニャーニャー』鳴き声が聞こえるのだ。
気のせいかと思ってずっとスルーしているのに、全然鳴り止まないのよ。
辺りを見回しても猫の姿なんで何処にも見えないんだよな。
誰かが猫をペット用ケージに入れて運んでいるのかもと思ったけど、そんな人はいない。
「そこの道行く人~すみません。あのですね、さっきからずーっと猫の鳴き声が聞こえたりしていませんか?」
通行人に猫の声がしないかを聞いてみた。
わからなければ質問をする。当たり前だけど重要で確実な方法よ。
「はぁ?猫ですか、ちょっとわかりませんね」
「あんちゃん、真っ昼間からラリってんのか?ほどほどにしときなよ」
「うーん。僕には聞こえないなぁ」
「猫??知らなーい」
複数人に聞き取り調査した結果、この『ニャーニャー』は俺にしか聞こえていないことが判明した。
耳鳴り?耳鳴りってヒーリングで治るのかな。それより耳鼻科に直行して専門医に診てもらったほうがいいだろうか。
「ニャーン」
「にゃーんと申されましても。俺の幻聴じゃないのなら、せめて姿を見せてくれよ」
「ニャー…」
「おい大丈夫か!急に元気が?おーい」
「二ャ…ァ…」
「あ、あれ?ちょっと、ねえ?」
「……」
「聞こえなくなった。やった!耳鳴りが治ったぞ。あーよかったよかった」
「……」
「さあ会戻ろうか、愛バたちがまってるぞー」
「……」
・・・・・・・・・・・・・・・
「どこにいるんだよ!あー、まったくもう!なんで俺が」
結局、猫を探してしまう俺でした。
だってさあ、最後に聞こえたか細い声が、すごく辛そうだったんだよ。
どこだどこにいる?
そもそも、探しているのが本当に猫かどうかも怪しいのに何やってんだろ。
姿形もわからないアンノウンを俺一人で探せってのは無理があるよ。
愛バの協力を仰いだほうがいいか、探知能力に優れたシロならばすぐ見つけ……ん?
弱弱しく点滅する何かが宙を舞っている!?真っ昼間なのに蛍?
そんなはずはない、あの光は……
「また光った!やはり……覇気の粒子光?見つけた」
蛍じゃない、覇気の粒子が光って見えているのだ。
目を凝らしてやっと見える弱く儚い光、普通の人たちには感知できなくても当然だ。
力なく点滅するそれは、なけなしの覇気を振り絞って作られた救難信号に思える。
あ、消えちまった!光が漂って来た方向は……あっちだ。
アリーナに隣接された樹木の多い運動公園、その一角にある茂み中でそれを見つけた。
「お前か、俺を呼んだのは?」
「ミャゥ……」
体を丸めうずくまっていた猫?は俺の姿を見て小さな声を発した。
両手の平に収まる程度の小さな体は鈍い光沢を放つ銀の色。
金属や機械部品で造られているはずなのに、その神核からは生命の鼓動を確かに感じる。
先端が束ねられた尻尾が5本、前足と後足にはブレード状の突起、異常発達した大きな耳、トサカのような頭部パーツには青い鉱石が埋め込まれ王冠を被っているように見える。
コレどう見ても猫じゃないよー!
猫っぽいけど別の何かだよ。ロボ猫?メカ猫?ちょっと待て、こんな感じの奴らを俺は知っているぞ。
謎のメカ鳥"カナフ"謎のメカ鮫"ケレン"
そして今度は猫で来たか。
「お前傷だらけじゃないか!とりあえずヒーリングだ」
メカ猫は全身に傷を負っていた。何者かと激しい戦闘を行った代償であるかのような傷跡。
片耳は千切れ、後ろ足が一本欠けているのは、見ていて可哀そうになってくる。
大分消耗しているのか神核の鼓動も酷く弱々しい。
「心配しなくていい。俺はお仲間を治療した事もある」
凝縮した覇気を込めて治療を開始する。ワンコ―にやったときよりも強力なヒーリングだ。
やっぱり、このメカ猫もメカ鳥と同じだ。俺の覇気を貪欲にグビグビ吸収しおるわ!!
「すげぇ回復力!もう治ってきてる」
言ったそばからメカ猫の耳と後ろ足がみるみる再生していき、数分で元通りになった。
各所の傷も塞がって、頭部の青い鉱石も美しい輝きを取り戻す。
メカ猫に備わった高い再生能力のおかげか、治療はすんなり完了した。
「もう大丈夫だ」
メカ猫は目をパチクリさせた後、体をブルブルと震わせた。
本物の猫が顔を洗うような仕草をしてから、俺の顔をジーッと見つめてくる。
仕草がカワイイ。
「命の恩人ですけど何か?」
「フニャー」ゴロゴロ
ゴロゴロ喉を鳴らしたメカ猫は俺の手に顔を擦り付けて来る。
あ、なんか愛バたちのマーキングっぽい!俺ってばメカ猫に懐かれてるー。ちょっと嬉しい。
感謝のマーキング後、メカ猫は俺の指を甘噛みする。くすぐってぇww
「お腹が空いているのか?よしよし」
「ミャウーン♪」
指先から覇気を流してやるとメカ猫は嬉しそうに声を上げる。
両前足で俺の手をガッツリホールドして指を咥えている。
おお、吸われてる。覇気をチューチュー吸われておる。
逃げたりしないから落ち着いてお食べなさい。
「カナフとケレンはお前の仲間だろ。お前も俺に会いに来たのか?」
「ナーゴ」
「待っていたか、ケガをして動けなかったんだな。可愛そうに」
「ナウゥー」
「ザ・ナ・ヴ……そうか、お前の名前はザナヴだな」
「ニャウ」
「カナフとケレン、あいつらトリップした俺を放置して消えたんだぜ。薄情だと思わない?」
「ニャーン」
「どうせ声も姿も俺にしか認識できない系だろ。そのせいで不審者扱いよ」
たっぷりと覇気を補給したザナヴは元気を取り戻した。
ピョンピョン跳ねまわった後、俊敏な動きで俺の腕を駆け上がり頭の上に座った。
コラコラ、急になにをしとんねん???
不思議な事に、頭にいるザナヴの重さはほぼ感じない。
「ゴロニャーゴ」
「ごろにゃーごじゃないが!?何故そこに鎮座したのか説明したまえよ」
こいつ、恩人の頭上で
「ウニャ~」
「何ッ!お礼に道案内をしてくれるだって!そいつは助かる」
「ニャロ」
ナビゲーション役をゲットした。猫の恩返しされちゃいます。
メカ猫を頭に乗せたまま移動開始。こいつ、頭を振っても全く落ちる気配がない。
「ニャーン」
「はいはーい『真っ直ぐ進め』だな」
「ニャ!?ニャニャッニャッ!」
「え!?なぜ曲がったのかって?フッ、曲がった先にロリがいたからさ」
「ニャーン、ロリコンシスベシ!」
「痛い痛い!ご、ごめんって尻尾ペシペシやめて」
「ナウ~」
「アリーナの玄関口まで戻ってきたぜ。さあ、ここからだ!のりこめぇ~!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ザナヴのナビは正確で紆余曲折あったが、なんとか表彰式が行われる会場までたどり着けた。
「お前のおかげだ、ありがとよ」
「ミャオーン」
俺が到着したときには式典が既に始まっていた。
轟級試験、総合成績一位のクロが記念トロフィーを受け取る瞬間をバッチリ目撃。
他の見物人に負けないよう、俺も大きな拍手で祝福する。
写真はアルが撮ってくれていると思うが、俺のスマホでも何枚が撮影しておく。
愛バとのメモリーアルバムが、これでまた充実しちまったな。
笑顔のクロが手を振っている。うーん可愛いですね~。
「ニャゥ?」
「あの子は俺の愛バだよ。可愛いだろ?」
「ニャ~」
「そうそう、真の姿は髪が……貴様知ったな!!他言無用で頼むぞ」
「ニャニャニャ」
「『アレはヤバい』か、知ってる知ってる~。でも、好きなんやで」
ザナヴがクロの正体を初見で見破りやがった。こいつ、できるな!
正体不明のザナヴが敵か味方かわからないのに、クロの秘密を知られたのはマズかったか?
ちょっと聞いてみるか……
「お前らってルクスの手下とかじゃないよな?ルクスってわかるか、あのクソ仮面」
「グルルルル~」
「お、ルクス嫌いなの?だよな、あいつムカつくよな」
ザナヴから嫌悪の感情が伝わってきた。これは嘘をついていないと思う。
少なくともルクスが差し向けたわけではなさそうだ。
だとすれば、このメカアニマルは誰が何のために?なぜ俺のところに?
表彰式は淡々と進行して行く。
試験合格者の中から上位数名が記念品を贈呈され、偉い人からお祝いの言葉をいただいて終了だ。
今回の試験で、騎神として華々しい一歩を踏み出した者、力及ばず悔しい思いをした者もいるだろう。
ワンコ―がそうだったように『諦めなければ夢は叶う』なんて無責任なことを言うつもりはない。
どんな結果だったとしても、死力を尽くして戦った彼女たちを俺は尊敬する。
最後にシロの番がやってきた。
飛び級試験の唯一の受験者にして合格者。
見えない尻尾で攻撃するという不可思議かつ圧倒的な実力を披露した彼女には、会場のあちこちから惜しみない賞賛が嵐のように降り注いだ。
シロに贈られたトロフィーは金のオスカー像ならぬ"金のフルフロンタル像"であった。
『なんでだよ!』とツッコミながらも、やけくそで全裸男を高らかに掲げるシロ。
そんな彼女に会場中から、たくさんの笑い声と拍手が送られた。
『金のフロンタル像とったどーーー!』と咆哮するシロ。
いい顔をしているww
「ニャムニャム」
「『アレもヤバいっスよ!』と言われてもなあ。クロと同じくシロのことも大好きなんよ」
「ニャモン」
「『物好きめ』だってか、そうかそうかwww」
シロとクロには十分注意しろとザナヴは言う。アルとココを見たら同じように評するのかな。
ご心配どうも。でも、ヤバい子ほど可愛いんだぜ、癖になっちゃうぐらいにな。
表彰式は和やかな雰囲気のまま終了した。
ここからが大変だったり…という俺の考えは杞憂にすぎなかった。
クロとシロの下へファンが殺到して大混乱!な状況は起こらない。
それも、優秀な警備員たちのお陰だ。彼らによりバッチリ整列させられたファンは比較的大人しくしている。
『マナーの悪い奴は問答無用で叩き出す』と警告したのが功を奏したようだ。
「握手会の
「フニャーン」
一人当たりの持ち時間10秒で次々と人員を捌いて行く。
その間、クロとシロは慣れた様子でファンに愛想を振りまいている。
10秒間のふれあいを望む列は、クロシロ以外の騎神たちの所へも続いていた。
みんなそれぞれの推しがいるようですな。ま、クロとシロの行列が圧倒的長蛇の列だがな!
どこの人気アイドルだよ!?
この光景をファル子が見たら嫉妬しちゃうのでは……『しゃい☆』(# ゚Д゚)ノ
「はい、ここまででーす。ふれあいコーナー終了~」
「解散解散!すみやかに散れっ!散れっつってんだろ!」
「「「「そ、そんなぁーーー!?」」」」
「うるせー!当初の予定時刻すぎてんだよ!次っ!マスコミ連中出て来いやぁ!!」
握手会強制終了!駄々をこねるファンたちを警備員が解散させる。
続いて、雑誌記者やカメラマンたちが登場。
『合格おめでとうございます』『今のお気持ちは?』『好みのタイプは?』
質問攻めにされる騎神たち、カメラのフラッシュが眩しいっ!目がチカチカする。
「フシャァ―――ッッ!!」
「何?何事?わかった!眩しいのダメなんだな」
「フンニャローコンニャロー!!」
「気付いていたけど、お前の鳴き声おかしいよね?ぎゃー!頭皮に爪を立てたらアカンて!!」
カメラのフラッシュに驚いたザナヴが急に暴れ出した。
痛い痛い痛い!頭で爪を砥ぐのはやめてーー!ハゲちゃうーー!
今にもマスコミさんたちに飛びかからんばかりの暴れっぷり!
マズいと思った俺は力ずくでザナヴを捕獲して抱き上げる。髪が何本か抜けたぁ!
おーよしよしよし、興奮しなくていいからな~。
ここは赤ん坊をあやすように、トレセンの鬼子母神クリークママの見習って『いい子いい子~』するのだ。
愛バたちには申し訳ないが、会場から一旦退散することにする。
「フッー!フッー!」
「そんなに眩しかったのか?ここまでくれば大丈夫だぞ」
「ニャモ」
「謝らなくていい。誰にだって苦手なものがあるよ」
マスコミの取材が続く会場から出るとザナヴは大人しくなった。
あの興奮っぷりは何だったのか?
ふーやれやれ、人の熱気に当てられて疲れたな。中に戻るのはもう少し後にしよう。
壁際に設置されたベンチに腰かけてちょっと休憩。
ザナヴは俺の膝で丸くなろうとする。そのまま寝る気なのかい?
硬質なのにどこか温かさ感じるザナヴの体を撫でていると癒される。
これがペットセラピーですか。
「お前らは一体何なんだ?カナフもだけど、あの傷は誰にやれれた?」
「ニャーン」
「『いずれわかるさ…いずれな…』だと!教える気はないってことね」
「セヤデ」
「今喋った!?」
「ニャフンニャフンッ……ニャ、ニャーン」ウルウル
「つぶらな瞳でこっち見んな。取り繕うの下手くそかw」
この世界は可能性に満ちている。
異世界への門はあるし、超機人にデモンなんてのもいる。ペルさん、シャミ子、クボみたいな神様的上位存在にも会えた。
本当に不思議なことや不思議な奴らがいっぱいだ!
だから、喋るメカ猫の一匹ぐらい存在していてもおかしくないと思う。
俺なんて育ての親が天級騎神だからね!これだって凄い奇跡だろ?
「と、いう感じでおk?」
「ミャオン」
『そんな感じで頼むわ』と鳴いたザナヴは丸まって目を閉じる。
あらら、本当に寝てしもうたわ。
こやつめ安心しきりおってからに……ふわぁ……なんだか俺も眠たく……なって。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ペットセラピーが効果てきめんだったのか、ザナヴを膝に抱えたまま眠ってしまったようだ。
「ザナヴは、いないか……」
カナフやケレンの時と同様、俺が寝ている間にどこかへ行ってしまった。
帰る瞬間を見せたくないのかしら?つれないねぇ。
「あ、起きた」
「マサキさん、大丈夫ですか?」
「ココ、それにアルか、表彰式後の騒動はどうなった」
「クロさんとシロさんは、まだ記者のインタビューを受けていますよ」
「人気者だな。なあ、この辺に不思議な猫がいなかったか?」
「猫?猫なんて見てないけど。それよりもさあ、いつまでそのポーズ決めてるの?」
「俺は何か変だろうか?」
「「変だよ(です)」」
目覚めたときの俺は、四つん這いの姿勢から尻を高い位置に上げ、手を前へ伸ばし、あごと胸を床に付けた状態のポーズを決めていた。
これはヨガで言うところの『猫の伸びポーズ』である。
ザナヴの猫が移ったのかしら。
「珍妙なポーズで気絶している男がいるって、救急車呼ばれるところだったんだよ!」
「パトカーじゃないところに優しさを感じるぜ」
「何度呼びかけても起きませんし、通行人からスマホのカメラで激写されまくってますし、私とココさんで今の今まで、お守りしておりました」
「迷惑かけたな二人とも、サンキュ」
ポージングを解除して立ち上がった俺は、腰を軽く左右に捻ってストレッチ。
はわわ、体中がバッキバキよ。ヨガのポーズもやりすぎると逆効果だな。
「マサキは、行く先々で珍プレーをしないと気が済まないの?」
「そういうわけじゃないけど。珍プレーする俺は嫌いか?」
「まさか!好きに決まってるよ」
「操者の奇行を受け入れてこその愛バですものね」
「ならばよし!」
ありがとう、ココ、アル、愛バ二人の寛容さに感謝だ。
ザナヴのことは後ほど説明するとして、今はクロシロの下へ行こう。
会場の中では未だにたくさんの記者に囲まれているクロとシロの姿があった。
こりゃあ、当分終わりそうにないぞ。
「インタビュー長引いているな」
『サトノ家令嬢の二人、鮮烈なる轟級デビュー』てな感じでマスコミにとっては格好のネタだ。
長らく噂のみが先行していたサトノ家令嬢にして、あの強さと美しさに愛らしさ。
ネタとして取り上げることで、記者としての評価や自社の売り上げに大きなプラスになるはず。
この機を逃すまいと、記者連中は必死に食い下がっている。
マスコミ対応は慣れているとはいえ、クロとシロの二人にも疲れが見え始めている。
「仕方ない。助け船を出しますか」
「ココさんが行くならわたしも」
アルとココをここで投入するだと!?
それこそ、マスコミの思うつぼなのではないか。
「逆だよ。私たちが行くことで記者の目を分散できる」
「後は、適当に煙に巻いておさらばです。そういうの得意ですから」
「俺も行こうかな」
「「ダメッ!!」」
「ダメかあ……俺邪魔ですか?」(´Д⊂グスン
「そ、そうじゃないよ。今マサキが出て行ったら、もっとめんどうになるから」
「御三家からの圧力…情報規制をかけているとはいえ、マサキさんのことを根掘り葉掘り聞きたい方々の前に出るのは、いささか危険かと思います」
そうか、二人は俺を邪険にしたわけではなく、守ってくれているんだ。
俺がマスコミの前に出ても、余計な発言で更なる混乱を引き起こすだけだよね。
わかってまーす。
「すまない。お前たちばかりを矢面に立たせて、すまない」
「お気になさらず。理由はそれだけではありませんから」
「どういうこと?」
「マサキ、記者たちの向こう側を見て、そーっとだよ」
「えーどれどれ‥‥‥ひょわっ!」
ココに指示された方向を見ると……ガチムチタンクトップの集団がいた。
クロシロには目もくれず、誰かを探すようにウロウロ徘徊している。
あいつら、まだ諦めていないのかよ!その執念が怖いわ!
む、無理だぁ。無理だよ。俺はこれ以上進めない!!((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
「守ります。あなたのことは私たちが絶対に守ってみせます」
「安心して、あんなむさ苦しい奴らに、マサキを好きにはさせないよ」
「ありがとう。本当にごめんーー」
「終わったら連絡するよ。スマホの確認、忘れないでよね」
「うん、待ってる」
「Aブロックの方で新製品の展示会が開かれているそうです。ご興味があれば行ってみては?」
「うん。行ってみるよ」
各自解散!
クロシロの事はアルココに任せることにして、展示会とやらに行ってみましょう。
タンクトップ兄貴ズに見つからないようコソコソと、その場を立ち去る俺だった。
〇
マッスルアリーナAブロックには、何とか迷わずにたどり着けた。
「こいつは、すごいな」
展示されている新製品とは、起動兵器やデバイスに戦闘服や騎神用・操者用問わずの各種装備類だった。
見知った大企業やテスラ研もブースもある。お、シラカワ重工も出ているじゃないですか。
展示されている無人機はデモンストレーション用の物以外は全てハリボテだ。
男心をくすぐるロボットたちがずらりと陳列されている様は、ワクワクすることこの上ない。
玩具コーナーも併設されていて、プラモやらフィギュアやら超合金やらが販売されている。
ネオさんがいたら、目を輝かせて突っ込んで行きそう。
スーツを着こなした営業マン、歴戦の風格漂う軍人、ロボ好きの子供、俺のような冷やかし。
いろんな人がこの展示会を見て回っている。
昇級試験を見物し終わってから、そのままこちらへと流れてきた人たちもいるみたいだ。
いくつかのブースを見物していると、気になる機体を発見。
メジロ家のロゴが刻まれた全長2メートルの青いPT、名称はR-GUNと書いてある。
「アールガンと読むのか?」
何だこのPTは、何やら運命的なものを感じる。
機体情報が羅列されている電子表示板によると、機体はまだ開発中でロールアウト時期は未定。
メタルジェノサイダーモードにより変形し、巨大な重金属粒子砲なる……だと!?
「そっかぁ。メタルジェノサイダーとはこれの事だったか」
奥歯に物が挟まったような疑問が、やっと解消された気分だ。
酷く懐かしいというか、ここではない何処かで、俺ではない誰かが、愛用していた機体…
リヴァーレ?知らない子ですね。
「フフフ……デッドエンドシュート……」
魂の奥底に眠る記憶に導かれるように、フラフラとR-GUNに近づいて手を伸ばした。
「展示品には触れないほうがいいですよ」
「きゃ、す、すみません!イングラムでプリスケンなあいつが勝手に!」
横から俺を制止する女性の声が聞こえた。
自分でも意味不明な言い訳をしてR-GUNから一気に飛びのく。
だよねー、触っちゃだめだよねー、イングラムって何なんだよねー!!
「なんかすっごい飛びましねww」カシャッカシャッ
「緊急避難するエビのような動きだったなww」
声のした方を見ると、二人の男女が笑っていた。
女の方は笑いながらも、カメラを使って俺を激写しているではないか。
腕も足もピーンッ!と伸びきった状態で飛びのいた姿がツボにハマったらしい。
やだ!恥ずかしい(*ノωノ)
「お見苦しいものをお見せしました」
「いえいえ、いい写真が撮れましたので感謝したいぐらいですよ」
「驚かせてすまないな。ああ、私たちはここの警備やスタッフではないので安心してくれ」
「はぁ。そうなんですか」
男女ともに俺よりやや年上に見える。
男は長身痩躯で、緑の長髪をゆるふわウェーブさせたイケメン。ウホッ!またしても、いい男!!
ノーネクタイに一目でハイブランドとわかるスーツをお洒落に着こなしている。
仕事の出来る青年実業家といった風貌だ。タワマンの高層階から下界の庶民を見下してそう……
なんかこの男、シュウにちょっと似てないか?
立ち姿一つとっても気品があるところや、大金持っていそうなところが似ている。
女の方もこれまた美人さん。
サラサラの長い黒髪を後ろで束ね、白いレディーススーツを着た妙齢の女性。
肩から提げたショルダーバッグと手に持った黒いカメラ、スーツのポケットにはボールペンとメモが収納してある。
仕事が恋人と言い切るバリキャリ女性。持ち物から推測するに職業はマスコミ関係だろうか?
『とても興味深いものを見つけた』みたいな視線を、俺に飛ばしてくる。
「予期せぬ巡り合わせもあったものだ」
「せっかくですので、何処かでお茶でもいかがでしょう?お二人の話、是非聞きたいです」
「そうしたいのは山々だが、次の予定が詰まっているのでね。私はこの辺で失礼するよ」
「それは残念です。ここは残された者同士、彼との親睦を深めましょうか」
「仕事熱心なのは感心するが、程々にしたまえよ」
「ご忠告痛み入ります。本日はお時間を割いていただきありがとうございました。次の取材も弊社と私を指名してくださると光栄です」
「考えておこう」
長髪イケメンは女に別れを告げると、俺がいる方へ向かって来た。
すれ違いざま肩に手を置かれたかと思ったら、こんなことを言った。
「今日はこれで失礼する。また会おう、マサキ」
「ほぇ???」
デデン!任務が始まる危険なBGMが流れた気がした。
な、何なのこの人?そこは『お前を殺す』って言いなさいよ!
実際にそんなこと言われたら即ポリスメンにお電話するけど。
まだ名乗っていないのに、どうして俺の名前を知っているんですかねぇ?
長髪からのフローラルで香しい匂いが、鼻腔をくすぐってますがな。
うーん。誰だったかなぁ??
「"
「いや、俺には何が何やらサッパリ。確かに貴公子然とした男でしたけど」
「す、す、す、す、すすすすすすすすすっっ」
「大丈夫ですか?目がイっちゃってますけど」
初対面の女が急にバグり始めた。
空中の一点を見つめながら小刻みに震える様子はただ事ではない。
危ないお薬でもキメちゃったりしてないよな?
「よければヒーリングしましょうか?俺、こう見えても治療師の……」
「素晴らしいですぅぅッッッ!!!!」
「うぉ!?ビックリしたあ」
至近距離で叫ばれたのでひっくり返りそうになった。
突如、絶叫した女に何事かと周囲の注目が集まる。
『お前の連れだろ?なんとかしろよ』みたいな目で見ないでー!
ヤダー!素晴らしく関わり合いたくないですぅぅ。
「本当に素晴らしい、さすがマサキさん!"みのるん"が自慢するだけはあります!」
「みのるん??えっと、あなたも俺をご存知なんですね」
「これは申し遅れました!私、こういう者です」
女はショルダーバッグから手のひらサイズのケースを取り出す。
そこから一枚の紙片を取り恭しく手渡してくる。名刺だった。
【○○社所属 月刊『騎神ジャーナル』担当記者
「オトナシ…エツコ…さん」
「はい!ようやくお会いすることができましたね。アンドウマサキさん」
瞳をキラキラさせながら、興奮気味に喜ぶオトナシさん。
長い間待ち焦がれた存在と、やっと会えたのが嬉しくてたまらないといった様子。
それが俺だと?
「本当にずっとお会いしたかったんですよ。いろんな人たちから、武勇伝の数々を伺っておりましたから」
「お恥ずかしい……どうせ
「そんなことはありません!とても愛情深い男性だと、皆さんおっしゃられていましたよ」
「そ、そうですか」(∀`*ゞ)エヘヘ
「特に小さな女の子に向ける愛情は常軌を逸するレベルなのでしょう?その辺り、ご本人から詳しく聞かせていただきたいです」
「悪質なデマでですね。それ誰から聞きました?心当たりはありますが、そいつらの名前を教えてください。名誉棄損で訴えますので」
「何度逮捕されても諦めず、有罪判決が下された法廷で幼女への愛を高らかに叫んだとか!横暴な権力に屈しないその姿勢、本当に感動しました」
「逮捕も裁判も記憶にございません!」
異議あり!!ものすごい誤解ですよ。
記者にデマ流すとか悪質すぎるだろ……マジで訴えるぞ?そして勝つぞ。
「わかっていますよ。経歴に傷がつかないよう全部、秘密裏に処理されたのですよね?何でも、マサキさんのロリ愛に感銘を受けた御三家頭首たちが全面協力したとか!持つべきものは権力者とのコネですよねー」
「御三家の人たちはそんなことしません!」
なんてこと言い出すんだ。実際そうなったら、やれそうだけどやらないよ!
この女、権力に屈しない姿勢に感動したとか言っておいて、やっぱ権力者のコネ最高ー!と抜かしおったな。
「わかってます。秘密ですよね秘密‥‥‥記事にしたいところですが、御三家が怖いので私の胸にしまっておきます。うーん、残念」
「デマですからね?面白がって記事にしたら法的手段に出ますから、あしからず」
「裁判沙汰は避けたいですね~。私はマサキさんと違って法廷慣れしていませんからww」
「慣れてねぇわ!さっきからおちょくってますよね?権力者とのコネ、今すぐ見せましょうか?とりあえず、日本に住めなくして……」
「調子に乗りました!すみませんすみませんすみませんーー!マサキさんの反応が面白いので、ついからかってしまいましたぁ!どうがお許しを、国外強制退去やめてーー!」
土下座せんばかりの勢いで謝罪してきたので許すことにした。
次はありませんよ?
オトナシさんってば、クールビューティーな外見に反してお茶目な人だ。
「あなたのことを話すとき、みんな楽しそうに笑っていましたよ。マサキさんは多くの人に愛されているるようで羨ましい……あ、これは本当ですからね」
「みんな……」(*´▽`*)パァァ
そんな嬉しいことを聞かされたら、機嫌を直すしかないじゃない。
訴えるのは勘弁してやろう。
「素晴らしいですッ!!」
「またですか!?」
またもや『素晴らしいです』と叫ぶオトナシさん。
至近距離でやられるとビックリするなあ。
彼女の叫びが俺の脳にショックを与えたらしく、以前、愛馬たちから聞いた話を思い出した。
トレセン学園に出入りしている記者の中に、突然奇声を上げる風変りな女性がいるのだと。
『心臓に悪いからホントやめてほしい』とクロがぼやいていたっけ。
あなたでしたか、オトナシエツコさん。
「素晴らしい人には取材をしなくては!というわけで、いざ!突撃取材!」
「お仕事中でしたか、邪魔しては悪いので俺はもう行きます。さようなら」
「逃がしはせんぞ、取材対象!!」
「は、離せぇ!」
逃げようとしたらものすごい力で引き止められた。
オトナシさんの細くしなやかな手指が俺の腕を掴んで離さない。
何だこの力は?人間の女が出していい力の範疇を超えてるよ。
「フフフ、取材が終わるまで私の全能力は数倍に膨れ上がる(ような気がする)」
「なんて女だ、思い込みで火事場のクソ力を出しおった!」
「さあ、観念して取材を受けるのです」
「えぇーめんどい」(´Д`)
「まあまあまあ、そう言わずに~」
ペンと手帳を握りしめたオトナシさんはグイグイ俺に迫って来る。
本来なら美人に迫られて嬉しいはずなのに、鼻息荒く血走った目が爛々輝く彼女には危ういものしか感じない。
「今日はどうしてこちらへ?愛バの皆さんは?マザコンとシスコンの件についても何かコメントを!」
話を聞くまではどこまでも食い下がる!という熱意に気圧される。
取材慣れしている愛バたちに比べ、俺はこの追及を上手くかわす術を持たない。
「いっぺんに言われても困りますってば、あ、なんか鳴ってる、鳴ってますよ。オトナシさんのスマホでは?」
「誰ですか!こんな大事な時に、げっ!編集長……ちょっと失礼します」
チラッと見えたスマホの着信画面には『無能ハゲ』と表示されていた。
「はい、オトナシです。ええ、こっちは順調そのもので……はい、はい、わかってますよ」
電話口なのに完璧な愛想笑いを浮かべたオトナシさんは、丁寧な応対を交わしてから通話を終えた。
その途端に表情が歪む。
「セクハラしか能のないハゲ野郎め、私が出世した暁には閑職に追い込んでやる」
「お仕事大変そうですね」
「ええ、主にメンタルをやられます。すみませんマサキさん、取材途中なのに戻らないといけなくなりました。もっとお話ししたかったのですが……」
「俺のことはお気になさらず。早く戻ってあげてください。さあ早く」
「なんだか邪魔者扱いされています?まあいいでしょう、今日のところは潔く身を引きますよ。ですが、諦めたわけではありませんからね」
「はいはい。無能ハゲさんによろしく」
「やだもう見ないでくださいww」
『またお会いしましょう。約束ですよー』と告げてからオトナシさんは立ち去って行った。
ふーやれやれ、助かったぜ。
あのままではある事ない事ゲロった挙句、不利益しか被らない記事を書かれるところだった。
無能呼ばわりされた編集長とやらに感謝したい。でも、セクハラはダメよ。
俺のことを知る謎イケメンと、俺を取材したいオトナシさん。
いきなり登場して慌ただしく去って行った二人。
「……何だったんだ?」
そう呟いた俺に応える者はいない。
「何だったんでしょうね?」
いた!なんかすぐそばにいた。耳元から声がしたもん。
俺の背中にピッタリくっついているのは誰だ!?いやまて、当てて見せる。
このおぱーいの感触は‥‥‥
「シロ。いつからいた?」
「マサキさんが二人に絡まれている途中から見ていました」
隠形術で息を潜めたシロは俺の様子を伺っていたらしい。
二人が去って行ったのを確認してから、俺の背後に忍び寄ったシロ。
邪魔しては悪いと思ったのが半分、オトナシさんに会いたくなかったのが半分で、声をかけなかったのだと。
「絶叫女はともかく"風の貴公子"ともお知り合いなんて、さすが私の愛するマサキさんですね」
風の貴公子?あの、謎イケメンのことを指しているのかな……はて?
「その反応、彼が治安局の人間だと知らずに付き合っているのですね」
「付き合ってるというか、今日初めて会ったような?そうじゃないような……」
「よろしければ、彼についてご説明しましょうか?」
「頼む」
「彼の名前は"フェイルロード・グラン・ビルセイア"」
「フェイル……」
【フェイルロード・グラン・ビルセイア】
20代後半の若さで政府直轄組織、治安局次長の座まで登り詰めたスーパーエリート。
御三家にも勝るとも劣らない名家の出身でありなが、誰とでも立場を超えて気さくに語り合う柔軟さも備えている好人物。
真面目な性格で高潔な理想と信念の持ち主。人の上に立つ者としての責任感も非常に強い。
それでいて、あの美男子っぷりと人当たりの良さで組織内外に多くの信奉者を持つ。
彼に出会った人たちは言う、さわやかな"風"のような男だと。
「それで、付いた通り名が風の貴公子ね……」
「今、ものすっごい人気なんですよ。報道番組のコメンテーターにファッション雑誌の表紙を飾ったりと、各メディアに引っ張りだこの超爽やかイケメンです」
「フェイル…フェイル……王子!?」
「そうそう。王子なんてのも早い段階で呼ばれてましたね~」
思い出した!あのイケメン面にフェイルと言う名前、間違いない。
俺が高校生だった時の生徒会長にして、王子の異名を冠した男。
面倒見のメチャクチャいい先輩で、やんちゃ盛りだった当時の俺もすごくお世話になったのだ。
因みに、俺の初恋相手であるテュッティ先輩のハートを射止めた人物でもある。
あの時は『王子なら仕方ねぇ、勝てる要素ないもん』と二人を祝福したもんだ。
嘘でーす。一晩泣き腫らしましたよ。
「卒業してから何年も会ってなかったな。そうか、シュウから俺のことを聞いているんだ」
あの二人はラングラン高校イケメンツートップとして、絶大な支持を受けていたからな。
表の王子"フェイルロード"裏の王子"シュウ"……女子連中がまあ騒ぐ騒ぐ~。
下手なアイドルより人気だったから、二人の声を録音したデータを売ろうと男子連中(非モテ)と計画したこともあった。
シュウにバレて阻止されたわ!あと少しだったのに、もったいねぇー。
そんなこんなで、フェイルとシュウには今でも繋がりがあるんだろう。
俺の知らないところで……ちょっとジェラシー……今日はシュウに電話して問い詰めよう。
「なんと、マサキさんが在籍していた高校で生徒会長をしていたとは、昔から優秀だったんですね」
「そうだな。今も昔もエリートなんだよなあ」
「マサキさんは、"何王子"だったんですか?教えてくださいよ」
「王子なんて呼ばれたことないぞ。"アホの子"と呼ばれたことあるけど」
「見る目のないメスばかり。でも、そのおかげで私が愛バに収まったと思うと複雑です」
「いいんだ。俺がモテたいのは不特定多数の誰かじゃない、お前たち愛バにモテたいのだ」
「その願いは既に叶ってますよ」
「ありがとう、本当にありがとう」
優しく微笑むシロに最大級の感謝をする。
このままイチャイチャしたいところだが、公衆の面前なので自重した。
フェイルとはそのうちまた会えるだろう。
次に会ったとき、すぐに思い出せなかったこと謝らないとな。
高校時代の思い出を語り合って、どっぷり郷愁に浸りたいぜ。
〇
愛バたち全員の合流を待ってから、みんなで展示会を見て回ることにした。
アルとココに手を引かれて登場したクロは少しお疲れ気味だ。
「クロさん大丈夫ですか?ほら、マサキさんは目の前ですよ。元気出して」
「やっと取材が終わったと思ったら、スカウトの勧誘合戦勃発……つ、疲れた」
「乱闘にまで発展したのはビックリしたよ。タンクトップを着た人たちが『彼を出せー!』とか叫んでもうメチャクチャww」
乱闘が始まったことで、しつこい取材もスカウトも強制終了になったらしい。
マジであの会場から逃げて正解だったと思う。
頑張って応対したクロ、そのクロを見守って連れて来てくれたアルとココを労ってやらねば。
「『御三家と学園を通してからにしろやゴルァ!』と何度説明してもしつこくてさあ、『この機を逃さん』と意気込む人たちの圧が強いのなんの」
「ホントお疲れさん。俺もついさっき、マスコミの怖さを思い知ったところだ」
「シロさん、私たちを置いて一足先に離脱しましたね。何か申し開きはありますか?」
「あんなの付き合っていられませんよ。マサキさんを一人にしてまで応対する価値なしです」
「シロが正しいかも、私を残して逃げたのは許さないけど」
「無駄に愛想振りまいてバカ正直な応対しているからですよ。この八方美人!クロビッチ!」
「ビッチ言うな!尻軽じゃねーし!マサキさん一筋だしー!」
「二人ともその辺にしておけ、展示会を見る時間がなくなっちゃうぞ」
「ケンカで忙しいみたいですね。放置して早く行きましょう」
「だね。私とマサキとアルの三人で仲良く行ってみよう~」
「「おいて行かないでーー!!」」( ゚Д゚)( ゚Д゚)
アルとココに両腕を組まれて歩きだすと、大慌てで追いかけて来るクロシロであった。
「やっぱデバイスが多いな」
「戦場で必須の主力兵装です。今やデバイスは『造った分だけ儲かるドル箱』と言われています」
「少し前まではロボットだらけだったのに、今はデバイスとロボの半々」
「感染体の暴走が原因だろうね」
俺が異世界に滞在している間に、無人機のAIを狂わすウィルスがばら撒かれ日本各地に大きな混乱をもたらしのだという。それもルクスの仕業らしい、マジで迷惑な奴だな。
シュウが開発したワクチンプログラムで事態は終息したものの、この事件で無人機に対する信頼性が損なわれることになる。
この結果を受けて各企業や団体はデバイスの開発と改良に力を注ぐことになり、無人機の生産は縮小傾向にある。
どこのブース見ても、デバイスを前面に押し出した展示をしているのはそのためだ。
『戦争は人間同士で行うからこそ意味がある』でしたっけ?
モビルドールを否定したトレーズ様も、これにはニッコリですよ。
「ことは全てエレガントに運べ……わかるなレディたち?」
「マサキさんがカリスマあふれるお顔を、素敵////」
「これには従わざるを得ない」
「でも、エピオンに射撃武器は欲しかったと思うの」
「そこはほら、ヒートロッドを上手く使うしかないです」
適当に呟いたのに反応を返してくれる愛バたち。ガンダムWは全員履修済みだ。
そうかと思えば、デバイスメインの流れに逆らうような企業もある。
ここはデバイスより無人機推しみたいだ。えーと、ウォン重工業?聞いたことが無い企業だ。
「中国に拠点を置く工業機械専門企業。人型兵器及び産業プラントの建設の技術力には定評があります」
「ゲシュタルトシリーズと呼ばれる機動性重視の人型起動兵器か、なんか防御力低そう」
「とあるシステムの運用を前提で開発されていますから、機体の安全性は二の次なのでしょう。あのシステムがまた曲者でして……この説明はまたの機会にでも」
「私の好みじゃないかな。デザインも微妙だし」
愛バたちは特に興味を惹かれなかったようで、ウォン重工業のブースを通り過ぎる。
俺は展示されていたロボットのレプリカを横目で見る。
機体色は白で頭部センサーと関節には赤い塗装がしてある。
だらりと垂れ下がった多関節の細い腕部が特徴的だ。
(名前は……バルトール。なんだか
少し気になったけど、愛バたち追ってその場を後にした。
待機状態でアクセサリーの形態をとるデバイス。
それが並べられた光景は、まるでジュエリーショップにいるみたいだ。
使用者の好みに合わせていろんなデザインの物がある。こういうの見ているだけでも楽しいよな。
「サトノ家とファイン家は共同出展なんだ」
「あら、従者部隊に配備される予定の凶鳥がありません」
「例の凶鳥虐殺事件で量産型ヒュッケバインのロールアウトが見送られたのです『ガリルナガンに狙われたら堪らない』と上層部が難色を示したのが痛かった」(;´д`)トホホ
「その代わりに既存のゲッシー強化プランが突き抜けた!これなんてプラズマステークが両手足に装着されるよ。ゴリゴリの格闘戦仕様が熱い!」
「ゲシュペンストは安心安定で良コスパの優秀デバイスです。サトノ製とは思えないぐらいに!」
うんうん。ゲシュペンストいいよねー。
デバイス化する前のヤツを装着して爆発してパンツ一丁になったこともあったねー。
クロとシロがゲシュペンストを猛烈にアピールする。
その語り口に見物客も足を止め興味深そうにデバイスを見ていた。
二人がサトノ家の令嬢だとわかったら驚くだろうな。
気付いた従業員たちは慌てて頭を下げている。
それに対しクロシロは『かまわんよ』『お仕事頑張ってね』と言い含めているようだ。
「ファイン家はデバイス出さないの?」
「今はまだお預けかな。うちのデバイスは1stで運用されていたヤツだから、いろいろと秘密にしたい技術もあるんだ」
「ココ、お主も悪よのぅ~。そのEOTはサトノとファインで独占だ。メジロに負けないよう、これからもどうぞよろしく頼みますよ」(・∀・)ニヤニヤ
「へっへっへっ、、シロちゃん程ではございませぬよ」(・∀・)ニヤニヤ
「悪代官と
「まあ怖い怖いwメジロもうかうかしていられませんね」
デバイスの展示をしない代わりにファイン家ブースでは、武器や戦地に持って行くと便利なグッズを多数展示している。
デバイスに懐疑的な人たちにはそれが好評なようで、結構見物人が多い。
戦闘服とそれの追加装甲やオプションパーツ、
お、この治療符は…覇気を補充することで繰り返し使えるのか、経済的でいいじゃないの。
俺の覇気だとチャージで符自体が『ボンッ!』と爆発しちゃうかも、検証用にいくつか買っていこう。
いざという時のために、各自で携帯している治療用アイテムを吟味しておいた方がいいな。
愛バたちの希望も聞いて、イイ感じのヤツを見繕っておくか。
ガッちゃん謹製の回復道具セット"
一通りの出展を見て回り最初の場所に戻って来た。
ここは会場の三分の一を占めるメジロ家のブースだ。
新型のリオンシリーズやその系列デバイス、メタルジェノサイダーなR-GUNもここに展示してある。
まあね、メジロ家だからね、どの製品もキラキラしていて質の高さが伺えるよ。
「ぐおぉ、メジロマークを付けたゲシュペンストがある」
「おのれ!恥ずかし気もなく堂々と展示しおって……何ですかこの金に糸目を付けぬカスタマイズは!うちよりクオリティ高けぇーー!」
さすがメジロ家、他社の物であろうと良い製品は認めて、自陣に取り込もうとするとこに懐の深さを感じる。
因みに、他社ブランドの製品を製造することOEM(オーイーエム)と言う。
メジロマークを付けた金ぴかゲシュペンストを前に崩れ落ちるクロシロ。 _| ̄|○
百式かな?
「やあやあ、カピバラ君ご一行じゃないか。こんなところで奇遇だねぇ、昇級試験はもう終わったのかい?」
「タキオンさん?どうして」
「テスラ研で開発した試作デバイスを展示しているのさ。メジロ家の全面バックアップを受けているからね、いい場所も確保できたよ」
マッドサイエンティストとして悪名高い、アグネスタキオンと遭遇した。
こいつのストッパー役であるカフェはどこに?
「カフェは最近、黒毛仲間ができたらしくてね。そっちとよろしくやっているよ」
「お、遂に見限られたか」
「まさか、あの子は私の助手だよ?何度浮気しても最後には私の下へ帰ってくるのだ」
「お前がそう思うんならそうなんだろう、お前ん中ではな」
「辛辣ゥゥゥ!それはさておき、カピバラ君たちも見学してくれたまえよ。さあさあ~」
「ちょ、わかったから押すな」
意外と力が強いタキオンに背中を押される。
案内されたのデバイス体験コーナー。要するに試着ができる広場ってこと。
ちょうど今、腕輪型のデバイスを着けたおじさんが装着するみたいだ。
「
「「「「ちょwww!」」」」
腕を高らかに上げたおじさんが『アムドぉ!』と叫んだ。無駄にいい声だ。
予想外のセリフに俺たちだけでなく、周囲の見物人たちも吹いたww
「あんなのでいいのかww」
「装着時のセリフも決めポーズも個人の自由さ。アムドは結構ポピュラーだよ」
そうなのかー。
俺も『変身ッ!』とか言ってみたいと思っている内に、おじさんの装着が完了した。
テストカラーなのか地味な茶色の装甲をおじさんがまとっている。ドヤ顔しとる!
ゲシュペンストより若干スリムな印象を受けるデバイスだ。
「"リュンピー"それがあのデバイスの名前だよ」
「お前にしては大人しいというか、地味過ぎるデバイスだな」
「確かにリュンピーは地味だがね。アレには可能性が詰まっているのだよ」
「ほう、七色に光る機能があるとか?」
「ないない。リュンピーに組み込まれる予定の疑似神核は特別品!そこから生まれるエネルギーを利用した武装の数々は……フフフ、これ以上はまだ秘密だ」
「嘘くせぇな」
リュンピーを身に着けたおじさんは、装備品の剣を振り回したり、銃を手にして試し撃ちしている。
エネルギー刃も打ち出される光弾もホログラムなので安全だ。
楽しそうなおじさんに触発されたのか、他にも試着を希望する人がわんさか集まって来た。
その中には俺の愛バ、クロとココも混じっている。
「武装はエネルギーソードとビームライフルのみ、あまりにもシンプル」
「試作品と言っただろう?リュンピーを素体にして、更なる新型を開発中なのさ」
「これがリオンシリーズを差し置いて、メジロ家の主力デバイスになると?」
「それはどうだろうね。サトノ君はどう思う?」
「面白味がないので、私だったら却下ですね。特別な疑似神核とやらが、どれ程の物かによりますけど」
リュンピーはメジロ家の次期主力デバイスとなる可能性があるのか?
シロは真剣な眼差しでカタログスペックを見ている。実家の脅威になりえるかどうかを考えているのだろう。
「あのフレームはPTともAMとも違います。むしろ特機に近いような、でも、それだとバランスが」
「おやおやおや~。姫まで私の作品にケチをつける気かい?引きこもり生活をサポートしていた身としては悲しいねぇ~」
「いえ、そういうわけでは。何かが引っ掛かるといいますか、初めて見た気がしないような?」
「メジロ家には古今東西の様々な物品が集まるからねぇ。私のインスピレーションを刺激した何かを姫が見かけていたとしても、不思議ではないだろう」
リュンピー……俺は『変な名前だな』ぐらいの感想しか湧かない。
タキオンが言うようにこれはあくまで試作品で、次に出て来るヤツは魔改造されてんのかね?
まだ仕事中だと言うタキオンに別れを告げて、展示会を後にした。
リュンピーを試着したクロとココの感想は『つまんね』だった。お気に召さなかったらしい。
時間はもう夕刻、食材を買ってから家に帰えることにしよう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
夕飯は俺の家で二人の『轟級騎神おめでとう!』パーティーが開催された。
アルが腕によりをかけ、てたくさんの料理作る。ココが自家製麺のラーメンを振舞い、俺はクロをシロを大いに褒め労ったのである。
今日は俺の家に全員でお泊りじゃい!
「邪魔!マサキは私と入浴するんだから!」
「違うよ。私とだもんねー」
「その隙は逃しません。二人が争っている今がチャンス」
「甘い!既に私は全裸ですよ。マサキさーん一緒にあったまってください~」
夕飯の後、愛バたちが混浴権をめぐって争っている。
シロ、全裸になるのは脱衣所にしておきなさい、フライング全裸は風邪の元だぞ。
一足先に入浴している俺は、湯船に浮かべた玩具"アヒル隊長"とピチピチちゃぷちゃぷ、お風呂を楽しんだ。
結局、俺が上がるまでずっと争っていた愛バたちは、女同士四人で入浴することになる。
浴室に四人はさすがに狭かったらしく、ぎゃーぎゃーと騒々しくも楽しそうな声が聞こえてきた。
仲良くしているみたいで大いに結構!
昇級試験に新しい出会い、楽しい一日でございました。
〇
一方その頃、マサキがいる場所から遠く離れた日本の何処か・・・
銀の体を持つ猫は主の下へ帰還していた。
「ニャー」
「やっと帰って来た。どこに行っていたの、ザナヴ?」
「ピー」
「クー」
「ほら、カナフとケレンも心配していたんだよ。何があったか教えて」
「ニャモン」
「そう。ルクスにやられた傷が深くてスリープモードに……動けなくて治してくれる人をずっと待っていたら遅くなったと……いろいろ言いたいけど、あなたを治せる人間って何?そんな覇気を持っている存在がそうそういるわけ、でも、現にこうして帰ってきたし……」
「クークー!」
「ピーピー!」
「え?二人もその人を知ってる。それじゃあ三人とも同じ人にお世話になったの……どんな偶然、いや、そうじゃない運命だ……これは何か、絶対にお礼をしないといけないね……クスッ、クフフフフ……見つけた」
「ニャーゴ」
「悪い顔してる?そんなことないよ」
「クー?」
「神体はもうないし、後は巫女の力を押し付け……ゲフンゲフンッ!正しい心の持ち主に託せばオールオッケー。これで私はお役御免~」
「ピー……」
「ハイ決まり。もう決めた~。そういうわけで、その人のことを洗いざらい詳しく……ふむふむ、ロリコンなのね……チョロいなwwwで、名前は?」
三体の神僕から情報を引き出した主は二ヤリと微笑む。
それはまだ幼い女の子、誰かさんのストライクゾーンばっちりの幼女である。
いつか運命が交差する日まで、幼女は彼を待つことにした。
「…マサキ。うん、覚えた。早く会えるといいね、マサキ……私に会ったその時は、今よりもっとずっと……」
幼女は宙を見上げる。
夢見るように恋焦がれるように、ちょっと悪い笑顔のままで。
「人間、やめてもらうね」
主の不穏な発言に三体の神僕は『やれやれ』といった感じに一鳴きするのだった。
〇
「ごめんなさい。待たせたかしら?」
「今来たところっス。全然問題ないっス!」
今日の俺は愛バ以外の女性と駅前で待ち合わせである。
浮気ではない!なぜならば、女性は俺の血縁者だからだ。
「喋り方変よ」
「姉さんの私服姿にドギマギしておるのですよ」
「あら、どこかおかしい?」
「よくお似合いです。弟として鼻が高い」
「ならいいわ。時間も勿体ないし行きましょう」
「かしこまり!」
トレセン学園理事長秘書にして鬼の生徒指導教官、駿川たづな。
真名"トキノミノル"と言うウマ娘で、俺の実の姉である。
今日の姉さんは普段の仕事着である緑色の秘書服ではない、髪型も違う。
背中の空いたニットセーターに、大胆なスリットが入ったスカートを着用している。
なんだこの姉は?童貞を殺すファッション一歩手前じゃないか。
体のラインが強調される服に、チラチラ見える美脚がヤバい!
うわーい!俺の姉エッッッロ!
サイドに寄せた髪は肩に流されていて、これまた普段とは違う印象……とってもいい!
ううーん、通行人の視線が痛いぜ。
姉さんの隣を歩く俺にどうせまた『もげろ!』とか思ってるんでしょ。呪ってるんでしょ!
「俺はもげない、もげたりせんぞぉ!」
「急に何!?どこかもげるの?」
「姉さんは何も心配しなくていい。これは男の尊厳を賭けた戦いだから」
「そう。よくわからないけど、私にできることがあったら遠慮せずに言いなさい」
俺だけに見せてくれる姉の優しい顔だ。
美人で強くて頼もしいお姉ちゃんは好きですか?もちろん大好きさぁ!
「どこから攻める?姉さん、買いたい雑貨があるって言ってたよね」
「先にマサキの服を見ましょう。私の用事は後でいいわ」
「いつもすんません」
「気にしないで、私が好きでやってるのよ」
姉さんは放っておくと、私財を投げ売ってまで俺の欲しい物を買ってくれようとする。
ありがたいことだが、俺も真面目に働いている社会人の一人だ。
生活に困らない程度の給料は頂いております。
欲しい物ぐらい自分で買うし、割り勘上等、何かもらったらちゃんとお返しもする。
お世話になりっぱなしの姉さんには、俺が全て奢るぐらいでも足りない。
そうだ、今日は姉さんの欲しい物をプレゼントしちゃおう。
姉の喜ぶ顔が見れるなら安いもんだぜ。
「またそういうことを……鼻血が出たらどうすんのよ///」
「それはやめて!」
姉さんは曰く、弟にキュンキュンすると姉力が暴発して鼻から出血するのだそうだ。
何度聞いても意味がわからん。
頼むから我慢してよ。この前、お店でやらかして救急車を呼ばれたのは記憶に新しいでしょ。
今日はいわゆる"姉の日"だ。
愛バと個別に一対一で過ごす日と同じく、姉さんと過ごす日なのだ。
月に数回設けられたこの"姉の日"に、俺と姉さんは離れていた時間を埋めるように仲良く過ごす。
例えばそれは、ショッピングだったり、映画を見たり、家でまったりしたり、虫取りをしたり、装備無しで登山をしたり、池の水全部抜いたり、熊を狩ったり、鮫を狩ったり、いろいろだ。
前回は徳川埋蔵金を発掘にチャレンジして、見事温泉掘り当てちゃったぜ。
俺と過ごしている時の姉さん、好きだなぁ。
普段の凛とした姿からは想像できないほど、よく笑い、よく泣き、よく鼻血を垂らす。
それが俺には凄く嬉しいのだ。
子供の頃からメジロ家の戦闘員として働き、過酷な日々を送っていた姉さん。
遊びたい盛りにできなかったことを、ようやく今叶えているのかも、そう思うとちょっと泣ける。
「『弟とやりたいことリスト』はまだ半分もクリアしていないわ。今日も悪いけど付き合ってもらうわよ」
悪いだなんて思わないで、俺は姉さんがいてくれて最高に嬉しいのだから。
"やりたいことリスト"だって!?やっぱり俺たちは似た者姉弟だよ。
「奇遇だね。俺も中坊の時に『もし姉がいたらやってみたいことリスト』なる黒歴史ノートを作成してことがあったよ」
「なにそれ!見せなさいよ。内容被っていたら絶対笑うww」
黒歴史ノートは実家にあるネクロノミコンを残して全て処分したので無理っス。
ネクロノミコンのほうも、いずれは消し去らないといかんな!!愛バばれしたので手遅れですが。
リストの内容を思い出せる限りを口頭で伝えると結構被っていることに驚いた。
スーパーイナズマキックが被っていたww姉弟でめっちゃ笑ったわ。
〇
「はぁ、せっかくの姉弟水入らずだってのに」
「まあまあ、姉さんの友人なら俺も会ってみたいし」
「空気読まない奴なのよね。ホント、何で私なんかに構うのやら」
ショッピングを楽しんだ俺たち姉弟が、そろそろ喫茶店にでも入ろうと考えていた時、姉さんのスマホに着信あり。
電話をかけてきたのは姉さんの友人らしく『弟との時間を邪魔するの?死にたいの?』と問いかける姉に『弟君?嘘ッ!会いたい会わせて会わせろください!』としつこく食い下がった。
姉さんの友人がどんな人なのか、気になった俺は『会ってもいい』と返事をした。
電話越しのケンカが長引くのも嫌だと思った姉さんは渋々承諾、今に至るというわけだ。
待ち合わせの場所は俺のよく知っているというか、常連ですらある喫茶店だった。
夜間営業中はバーに変貌する町の人気店"喫茶ヴァルシオーネ"に入る。
ドアベルの音が鳴ると定員の女性が愛想よく登場した。
「いらっしゃい!なんだ、マサキじゃん。あ、たづなさんも一緒だ」
「よう。今日はオーナー自ら店番かリューネ?」
「店長がぎっくり腰になっちゃってさ。私自ら出張って来たわけよ~。二名様ご案内でいい?」
「ここで待ち合わせをしてるの。変な女がお一人様で来ていないかしら?」
「変かどうかは知らないけど、そのお客様なら来てるよ。案内するね」
リューネにより店の奥に案内される。
奥のテーブル席には綺麗な女性が一人で俺たちを待っていた。
長い黒髪、パンツスタイルのレディススーツ、ポケットにはペンと分厚い手帳が収まっている。
つい最近どこかで見たような女性だ。こんなに早く再会するとは……
こちらに気付いた彼女は顔をパァと輝かせて立ち上がる。
「素晴らしいですッッ!!」
「うるさいわよ。それやめてって言ってるでしょ」
「……マジか」
この間、耳に刺さったばかりのセリフに呆然とする俺。
お客の事情には立ち入らない方針なのか、リューネは『注文決まったら呼んで』と厨房のほうへと引っ込んでいった。
「弟君を連れて来てくれてありがとう"みのるん"」
「みのるんはヤメロ」
「持つべきものは興味深い弟を持つ親友ね!ああ、素晴らしいわ!」
「本当は会わせたくなかったけど……面倒になったら帰りましょうね、マサキ」
「そんなこと言わないでよ。ちょっとだけ、先っちょだけ取材させてくれたらいいから」
「先っちょ言うな。わかっていると思うけど、下手な記事を書いたりしたら学園は出禁にして会社にクレーム入れるから。アンタの尊敬する編集長に『あなたが無能ハゲなんですか?』と直接聞いてやるから!」
「洒落にならないから絶対やめて!記事には細心の注意を払うから、弟君の個人情報は漏らさないことを誓うわ」
「まあ、私が制裁する前に御三家によって消されるでしょうね。好奇心は喪女をも殺す」
「喪女違う!あれ?私ってば超危険な案件に手を出してる……」
「今更気づいたの?うちの弟、か~な~りヤバいわよ」
「ヤバい弟、素晴らしいですぅぅぅぅ!!」
「お店に迷惑だからヤメロ」
気心知れた仲といった様子で会話する二人の年上女性。
彼女、姉さん相手だと砕けた言葉遣いになるんだなぁ…なんか新鮮だ。
俺は完全においてけぼり状態。二人を見て、なんか愛バたちみたいだな~と思ったりする。
姉さんが『放置してごめんね』と謝りながら、友人女性を紹介してくれる。
いや、もう知ってるんですけどね。
「マサキ、こちらの"
「素敵なニックネームをありがとう"みのるん"!そして……おっほん!先日ぶりですね、マサキさん」
「どうも。世間は狭いですね、オトナシさん」
「二人とも知り合いだったの?いつの間に」
「あれは先日の夜、お洒落バーで意気投合した私とマサキさんは酔った勢いでそのまま////」ポッ
「ハイ嘘乙!マサキは下戸です~。バーで飲んだりしたらゲロ吐いてぶっ倒れるに決まってるわ」
「さすが姉さん、わかってらっしゃる」
「むむ。慌てるみのるんが見たかったのに」
「気になっていたのですが、みのるんとは何ぞや?」
「ミノルだからみのるんです。私たちは"みのるん""えっちゃん"と呼び合う仲なんですよ」
「一回も呼んだことないけど?」
「だったら今すぐ呼んでみて。プリーズコールミー・えっちゃん、ハイ!」
「好きな物頼んでいいわよ、マサキ。変な女に会わせた償いに奢っちゃうから」
「わーい。じゃあ、このウマスタ映えしそうなハワイアンパンケーキを頼もうかな」
「あら美味しそう、私も同じものを食べたいわ。店員さん、すみませーん注文いいですか?」
「素晴らしく無視されてるぅぅ!!姉弟揃って酷い!店員さんパンケーキは二つじゃなくて三つにしてください!!」
姉さんは"えっちゃん"呼びを拒否。スルーして俺と喫茶を楽しむことにした。
それでもめげないオトナシさんも、ちゃっかり注文する。
速攻で運ばれてきたパンケーキはボリューム満点で見た目も華やか、クリームがタワー状になっとる。
ウマスタに投稿する気はないが、写真を撮ってみたくなる気もわかる一品だ。
(リューネさんや、これお前が作ったのん?)
(そだよー。マサキ達ならこれ頼むと思ってスタンバってたww)
(いい仕事をしてくれるぜ、パーフェクトだリューネ。褒めて遣わす)
(お褒めの言葉は食べてからどうぞ。さあ、おあがりよ!)
愛バだけではなく、幼馴染のリューネとも目で会話ぐらいできらぁ。
パンケーキは見た目を裏切らない美味さだったので、俺も姉さんもオトナシさんも大満足。
『素晴らしい!グルメコーナーで紹介しますぅぅ』とワンダフルなスクリームもいただきました。
騎神を紹介する雑誌でグルメコーナーなんてあるのか……
「その様子だと、二人は長い付き合いなんですか?」
「えー、それはですね……」
「言っていいわよ。マサキは全部知ってるから」
少し言い淀むオトナシさん、何かあるのだろうか?
「私とみのるんが会ったのは20年ちょっと昔、小学校入学以前」
「待ってください。それだと計算が、だってその頃は……」
「合ってるわよ。私がエツコと出会ったのは、アースクレイドルで暮らしていた頃だもの」
「そう!そうなんです。私がみのるんと仲良くしていたのはアースクレイドル、本当に懐かしい……」
「マサキは覚えてないでしょうけど。エツコはね、あなたを抱っこしたこともあるのよ」
「マジっすか!?」
「ええその通り、素晴らしいですッ!あの小さな赤ちゃんがこんなに立派に成長して、私の取材を受けてくれる。なんて、なんて素晴らしいのでしょうッッ!!」
なんと!俺とオトナシさんはアリーナ―での展示会が初対面ではなかった。
クレイドルに在住していた頃、ご近所でよく遊んでいた姉さんとオトナシさん。
姉さんは溺愛する弟である俺をオトナシさんに紹介し、互いの両親たちが見守る中でおっかなびっくり抱っこしてくれたのだそうだ。全然覚えてなーい。
「プニプニして本当に可愛かったわ。私が抱っこしてもスヤスヤ眠ったままで」
「目が合った瞬間ギャン泣きしたけどね。マサキは本能で姉の抱っこが一番だと感じ取ったのよ」
「みのるんの姉バカ!20年経っているのに酷くなってる姉バカ!」
「誉め言葉ね」
自我に目覚めていない俺の話……なんか恥ずかしい(/ω\)
「マサキさんが生まれてしばらくのことです。研究者をしていた私の父が転勤になって、クレイドルから引っ越して……それで、あの事件が起きました」
「……」
「怖かった。当時は本当に怖かったと記憶しています。みのるんの他にも親しい人たちがあの場所にはたくさんいたんです。思い出の場所だってたくさん、それが全部、あんな、あんな風に無くなるなんて……」
「もう終わったことよ」
幼いオトナシさんはずっとクレイドルのテロ事件が心残りだった。
運よく助かったことに安堵しつつ、親友たちを置き去りにして自分だけが助かったという罪悪感に苛まれる日々に苦しんだ。
「私が記者を目指したのは、ずっとみのるんの影を追い求めていたから……幼い私にとって強く美しいガキ大将の親友は最高のヒーローだった。もう一度会いたい、彼女のようなウマ娘に、この世の理不尽を吹き飛ばす力の象徴、騎神たちの中にいるはず……そう思ったんです」
「しかし、私は生きていましたとさ。そういうことでしょ」
「そういうことですよ!もう!再会した時、私がどんなに嬉しかったか、みのるんは知らないでしょ?あー、思い出したら来ちゃう、素晴らしいですぅぅぅぅっっ!!」
「うるさいなぁ」
駆け出しの記者だったオトナシさんは、トレセン学園で秘書をしている姉さんと再会した。
その時の絶叫は学園の校舎中に響き渡ったという。
「『緑の悪魔を取材して来い』と言われた私は死を覚悟していた。そしたらそれがみのるんで、素晴らしく驚きました」
「アンタよく気付いたわよね。こっちはすっかり忘れていたのに」
「そりゃあ気付くよ『みのるんが成長したらこんな感じでは?』と20年以上脳内シミュレーションを怠らなかった私ですから!」
「引くわー、しばらく私に話しかけないで。マサキにも近寄らないで」
死んだと思っていた姉さんにずっと執着していたのか、うん、ちょっと引く。
感動の再会かどうだったかは不明だけど、それから姉さんとオトナシさんの友人関係は復活して今に至ると言うわけだ。めでたしめでたし。
姉さんと目配せする。
パンケーキも食べたし、いい話も聞けた、長居は無用そろそろ店を出ますかね。
「帰るわよマサキ。パンケーキ美味しかったわねー」
「だねー。じゃあ、オトナシさん、俺たちはこれで帰ります。サヨナラ!」
「二人とも何か忘れていませんか?」
「ああ、お店への迷惑料はアンタが自分で払いなさいよ。一絶叫につき1000円ぐらいでいいんじゃない?」
「払わないわ!それより取材!取材させてくださいよ!」
「僕にはとてもできない」
「できますったら!私の質問に『はい』か『イエス』で答えるだけですから」
「絶対にNO!」
「みのるん!弟君を説得してよ」
「無理、嫌、駄目」
「あのことバラすよ?」
「は?何の事か知らないけど、勝手にすれば」
「マサキさん、幼女だったみのるんは赤ん坊のあなたに対しておぞましい……」
「マサキ!エツコの取材を受けてあげて!お姉ちゃん一生のお願いよ!!」
「さすがみのるん!最後は私の味方になってくれるのね♪」
「教えてくれ姉さん、アンタ俺に何をしたぁーーー!」
お口チャックした姉さんは無言で首を振り続ける。
ダラダラと滝のような汗をかいており、俺と決して目を合わせようとはしない。
このお姉ちゃん怖いよー!何があったか知りたいような、知らないほうがいいような。
よし!この事は忘れよう。俺は何も聞かなかったZE。
「では、取材と参りましょう。素晴らしいコメントをよろしくです」
「おー…」絶不調
「あーう」絶不調
「おーい、そこの姉弟元気だせー。えっちゃんの取材がはーじまーるよー」
「テンション高いっスね」
「ボソギダブバスバゴザバ」(殺したくなる顔だな)
「ここではリントの言葉で話せ!!」
ストレスのせいか、姉さんが一時的に日本語を忘れた。今のグロンギ語?
「最初の質問です。マサキさんは最低一日一回、幼女からロリコニウムという栄養素を摂取しないといけない体だと伺いましたが、本当でしょうか?」
「デタラメに決まってるでしょ!」
「そうよ!弟はアネニウムさえあれば生存可能なのよ。そんなことも知らないの?」
わかってないな。ロリコニウムの摂取は一日一回ではない、三日に一回ぐらいで十分だ。
へぇ、アネニウムというのもあるのか?初めて聞いたなぁ。
「三日に一回ですね。その間に運悪く幼女と出会えなった場合は、どうするのでしょう?」
「頼もしい協力者たちで代用します」
ターボとかフラワーとかウララたちからも、ロリコニウムは摂取できるのです。
本人に言ったら怒るので黙っているが、テイオーやマヤ、タッちゃん辺りでも可。
実は理事長でもいける。最悪、デジタルでもいける。
合法ロリのガッちゃんはメッチャいける!
「はいはい『真正でした』っと‥‥‥ショタとかには興味あります?」
「ふぁ~、ねみぃ……」
「眠たいの?姉膝枕いる?」
「『男児には興味を示さない』まるっと。年齢の近い男性はどうでしょう?同僚や幼馴染、この間の貴公子ともイイ感じと聞いていますが?」
「‥‥‥////」ポッ
「マサキ!そんな非生産的な関係、お姉ちゃんは認めません!」
「『まんざらでもない』ですね。うーん、でも、襲われるのは嫌も追加で…」
変なことばっかり聞いてくるな。
「マザコンですか?」
「はい」
「シスコンですか?」
「イエス」
「私はブラコンよ」
「みのるんには聞いてないわ!」
「異世界に行ったというのは?」
「ノーコメント」
「人間?」
「それ以外の何に見えます」
「体から緑の綺麗な石を出したとの目撃情報があるのですが?」
「ハハッ!意味不明」
「神様に会ったことがある?」
「面白カワイイ女神様の夢はよく見ますよ」
「マサキ、あなた疲れているのよ……」
「ええ、
「目の前にいる美人記者に一目惚れしてしまい、今すぐにでも告白したい?」
「おい、表出ろやオトナシ!久しぶりに…キレちまったよ…」
「みのるんには聞いてないわ!」
「結婚したらお嫁さんには、お義母様と同居はしてほしいと思っている?」
「そこは嫁姑で相談して決めてほしいですね。もちろん、嫁の意向に沿う形にしたいと思います」
「ふむふむ『マザコンだがエネ夫にはならない』ですね」
「姉との同居は必須よ。もちろん、嫁はいびり倒すわ」
「だから、みのるんには聞いてないわ!『みのるんは最低の小姑になる』メモメモ」
質問にはなるべく真面目に答えた。
どこ情報なのか、核心をつくような質問も飛び出すけど、そこはぬるりと躱しておく。
「愛バの皆さんからいろいろ聞いていましたが、予想以上に面白素晴らしい人ですッッ!」
「私の弟なのよ、当然でしょ」
「みのるんは予想通りダメダメで、みすぼらしいですッッ!」
「みすぼらしいって何よ!ケンカ売ってんの?屋上行くかゴルァ!」
『みすぼらしい』は『素晴らしい』の対義語です。
なんか、クロとシロみたいになやり取りになってきたぞ。
さっきからリューネが『なんとかしろ』とプレッシャー与えてくるのよ。
お店に迷惑をかける前に止めなくては!
「姉さんストップ。リューネがめっちゃ嫌な顔してるから、他のお客さんたちが、ワクワクしながらスマホかまえてるからぁ!」
「ぐふふ、いいのですか~『トレセン学園の暴力秘書、傷害罪で逮捕!?』という見出しで記事にしますよ~」
「やってみろ!殺人と死体損壊もプラスしてやんよ!」
「姉さん、やーめーてー!オトナシさんも煽らない!」
立ち上がって睨み合う二人を何とか座らせた。
店から叩き出されてもおかしくない程騒いでいるが、トレセンが近いこともあり、この店の常連は少々のトラブルでは動じない、むしろそれを楽しむ余裕を持っている。
黒髪美人の二人がメンチを切っていても、逃げるどころか入店して近くで見学希望する始末だ。
従って、喫茶ヴァルシオーネはそこそこ繁盛中である。
『お客さん増えてキター』と嬉しい悲鳴を上げたリューネは、キッチンとホールを忙しなく行き来している。よく働くオーナーだこと。
「エツコの相手でMPが削られたわ…マサキ、オトウトニウムを補給させて」
「お好きにどうぞ」
「あ~癒される~回復回復~」ぎゅー
姉さんは俺にハグをして、オトウトニウムなる栄養素を補給する。
仕事で疲れたときやストレスが溜まったときに、よくチャージなされます。
ついでに俺もアネニウムを補給しておくか……愛バたちのハグとはまた違ったやすらぎを感じるぜ。
「うわぁ、引くぐらい仲いいですね」
「そうですか?いたって健全な姉弟間の普通のスキンシップですよ」
「みのるんいいなぁ。私もチャージしていいですか?」
「ボソグゾ」(殺すぞ)
「今の聞きましたか!わざわざグロンギ語で『殺すぞ』て言いましたよ!このブラコン!」
「まあまあ」
手をワキワキさせながら接近を試みたオトナシさんを、姉さんが殺意を込めた眼力で威圧した。
我が姉はまたしても、リントの言葉をド忘れしたようだ。
これが頻繁に続くようなら病院に連れて行こうと思う。
「マサキさん、どうか私のことは『えっちゃん』と呼称してください」
「わかりました。今後は『エツコさん』でいきます」
「チッ!…今はそれで妥協します。気が向いたら是非『えっちゃん』もお試しください」
「いい加減諦めたら?『えっちゃん』はどうせ、この先も流行らないわ」
「みのるんにはわからんのですよ!『えっちゃん』はそのうち日本中でバズるんだからね」
取材を兼ねたお喋りはとても有意義だった。
話題が変わる度に姉さんたちが一触即発漫才を始めるのでハラハラしたが、これはこれで楽しい。
エツコさんと絡んでいるときの姉さんは生き生きしてる。俺に見せる顔とも違うし。
気の置けない友人がいるっていいもんだよな。
「エツコさん、これからも姉さんと仲良くしてください。よろしくお願いします」
「え!?それはつまり…みのるんを嫁にもらえと////」ポッ
「ちがーう」
「あ、私が花嫁でしたか。早とちりしちゃってダメですね~。さあ、みのるん!花婿として私をしっかりエスコートしてよね////」(*´ω`*)
「わかったわ。行先は地獄でいい?」
「フフフ…みのるんとなら、地獄の果てでも楽しいわ」
「ホントに仲良いなあ」
こんな感じで、姉さんの友人であるエツコさんと親睦を深めたのであった。
また一人、愉快な仲間が増えちまったな。
「素晴らしいですッッ!!」
うるさいですね。