前途有望な若人たちと遊んでリフレッシュした・・・チンチン。
突然だが、養護教官の俺がどんな仕事をしているか教えて進ぜよう。
医務室での応急処置をはじめ、毎日の健康観察、身体測定の実施、環境衛生など、学校全体の保健の管理を担い、生徒たちが元気に楽しく学園生活を送れるようサポートしている。
ザックリ説明するとこんな感じだ。
授業をするために教壇に立つこともあるし、同僚のお手伝いをすることもある。
他にも、パトロールをしたり悪事を働いた生徒を捕まえたりと、突発的な雑務も何かと多いんだよ。
さて、お仕事頑張りますか。
今月の保健便りを作成して、不足している医薬品の発注も・・・あ、そうだ。
何故か食堂で錯乱した生徒たちのメンタルケアをウエンディ教官に相談しておこう。
女子にあるまじき卑猥な単語を口走っていたから少々心配だ。思春期のリビドーが暴走したんだろな・・・哀れな。
体の傷は治せても、心の傷は専門外な俺である。
こういう時は臨床心理士の資格を持つウエンディ教官を頼るべし、デリケートな問題は同性の方が話しやすいだろう。
「そろそろか…」
時計を確認すると、もうすぐ次のお世話係がやって来る時間だ。
愛バたちの根回しもあってか、ネームド連中が率先してお世話をしてくれる。
本当にありがてぇこったな。
「失礼します」
時間ピッタリに一人のウマ娘が入室して来た。
デスクチェアを回転させて来訪者を迎えることにする。
「ドーモ。エイシン=サン。アンドウマサキです」
「ドーモ。アンドウ=サン。エイシンフラッシュです」
俺のアイサツに即時対応しての返答・・・やるな。お茶目さんなところも好感がもてるぞ。
彼女はドイツ生まれの黒髪ウマ娘、エイシンフラッシュ。
サトノ家従者部隊に席を置く騎神で、同じく従者部隊のスマートファルコンとは公私共に仲がいい。
じゃれ合ってる姿をよく見かけるが、今日は一緒じゃないようだ。
「ファルコンは従者部隊の定例報告会に出席しており不在です。必要なら呼び出すこともできますが?」
「聞いてみただけだ。仕事ならしゃーないわな」
俺のことは二の次にしてもらって全然構わない。
みんなには自分の仕事や遊びを優先してほしい。お手すきの際にちょっと手助けしてくれたら、それで十分なのだ。
「マサキさんのサポート、精一杯尽力いたします。何なりとお申し付けください」
「ん?今何でもするって言った?」
「お嬢様方には秘密ですよ」
俺の顔を覗き込むようにしたかと思うば、人差し指を口に当てちょっと小悪魔ポーズを決めるフラッシュさん。
可愛すぎか!惚れてまうやろーー!
「いやいやいや!冗談だから本気にしないで、顔近いっス///」
「冗談なんですか?残念」
「大人をからかうんじゃありません」
「気が変わったならいつでも言ってください。お待ちしております」
愛バがいるのを知ってなお、俺を惑わすよう言動をする奴は結構いるが・・・お前もか。
キッチリしていて真面目な子のはず、なんだけどなー。
出会った当初はクロとシロの操者をヤンロンにする代わりに、俺の愛バになってもいいとか提案していたけど、割と本気だったのかしら?
「愛バがダメなら愛人枠でもかまいませんよ」
「かまうわ!シロたちに殺されるわ!」
「略奪愛からの国外逃亡、アルダンさん用に準備していたものを更に練り上げた強化プラン、私自らが実行に移す時が来ましたか」
「来ないし絶対に失敗するからな。手の込んだ自殺はやめようぜ」
「一人では逝かせません」
「ヤベェよ、手の込んだ心中だったよ」
俺相手にはっちゃけるフラッシュ。
ファル子もシロたちもいないので、羽目を外しているのかな?
「マサキさん。この後のご予定は?」
「切り替え早っ!ええと、練武場とクラブハウスを回って屋内プールにも…」
急に真面目になったフラッシュにこれから向かう場所を伝える。
学園内の各施設を回って空調や換気が行き届いているか?プールの水質は保たれているか?などを測定するのだ。
これは環境衛生のお仕事ってやつよ。
「施設の管理者が上手い事やってくれているけど、情報の共有はしておきたいからな」
「快適な学園生活が送れるのも、マサキさんたちのおかげですね」
「褒めても何も出ないぞ。じゃあ、頼めるか?」
「はい。安全確実にあなたを運びましょう」
椅子に座ったまま手を伸ばす俺をフラッシュは軽々抱き上げる。
・・・わかっていたけど、なかなかのモノをお持ちですな。
わーい!シロアルと同レベルのおぱーいだぁ。
「88です」
「シロとアルより
さて、バスト88を楽しみながら移動開始だ。
「待ってください。出発前に質問があります」
「何?」
「意味不明なマーキングメッセージがでかでかと描かれていますが…これは」
「聞くのはめっちゃ怖いけど。頼む、教えてくれ」
犯人の心当たりが多すぎてわからんな。毎度のことだがやりたい放題されている。
俺はお前たちのメモ帳じゃないんですけどねぇ。
「"ノーチン"とは一体、何かの暗号でしょうか?」
あいつら覚えてろよ。
ギャルは油断できないと深く心に刻み込んでおこう。
「ごめん、消しといてくれる。一言一句完膚なきまで徹底的に!!」
「余程の重要機密なのですね。わかりました、完全消去いたします」
フラッシュに上書きマーキングをしてもらったぞ。
ノーチンが跡形もなく消えていることを祈りつつ、今度こそ出発しよう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「数値は……うん、大丈夫そう。ご協力ありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそわざわざご足労いただいて」
プールの管理者がタイミング良く水質検査を行うというので立ち会わせてもらった。
検査結果は問題なしで一安心だ。
もし何かしらの異常があればプールの利用を停止した上で学外の専門機関へ調査を依頼しなければならないところだった。面倒な仕事が増えなくてよかったぜ。
管理責任者と他の作業員たちにも俺の状態(幼女化)が伝わっているので仕事に支障なし。
『お嬢ちゃん、勝手に入って来ちゃダメだよ』などと言われずにすんだ。
「今ので最後ですか?」
「そのようだ。付き合ってくれてありがとう、フラッシュ」
「この程度、造作もありません」
学園のあっちこっちへ移動したので疲れているのではと思ったが、ウマ娘には無用の心配だったな。
ましてや彼女は轟級騎神、幼女を抱えて歩こうが走ろうが消耗はしない。
「予定より早く終わったな」
「やはり屋根伝いに移動したのは正解でした」
「たづなさんや風紀委員に見つかったら一発アウトだから注意しろよ」
「ファル子じゃあるまいし、見つかるようなヘマはしません」
ワイヤーなしの立体機動は痛快で爽快だけど、学園では緊急時以外は禁止されている。
『超パルクール走行禁止』が人間の学校で言うところの『廊下を走るな!』に該当する。
トレセンでは走ること事態は禁止されておらず『ぶつかるな!』『事故るな!』『保険には入ったか?』だからな。
姫ことカワプリが何度も事故っては怒られている。
「サポートは終了ということで、よろしいでしょうか?」
「ああ、もう戻ってくれていいぞ。本当に助かった」
俺一人だったらまだノロノロと歩いていただろう。だからマジで感謝だ。
「では、ここからは自由行動に移らせていただきます」
「あいよ。ここで解散にしよう・・・て、おーい、どこ行くねん?」
フラッシュは俺を抱っこしたまま歩き出す。解散しないの?
「少し散歩に付き合ってください。お嬢様たちが帰還するまでの間マサキさんを独り占めです」
「まあ、それぐらいなら」
フラッシュのことだ、俺のスケジュールも把握済みに違いない。
元より、パトロールも兼ねて学園内をブラブラする気だったから、少しぐらい散歩に付き合うのもいいだろう。
散歩と言っても歩くはフラッシュで、俺は抱っこ状態ですけどね。
「ダンケダンケ~」
「
「ダンケシェーン」
「上手ですよ。ちゃんと『どうもありがとう』に聞こえます」
せっかくなので、散歩がてらフラッシュのドイツ語講座を受けている。
本場の発音をしてくれる講師が素晴らしいな。
顔もスタイルも良い美少女ウマ娘の講師が非常に素晴らしいですぅぅ!
ヤベェよ。近頃オトナシさんの『素晴らしいです病』がうつってる気がするわ。
途中、作業着姿の男女数名とすれ違った。
彼らはこちらに向かって会釈したので俺たちも返す。
「今のは?」
「治安局の捜査員ですね。マサキさんが代表者と話をつけたと聞いてますよ」
「次長やってる奴が昔馴染みだっただけさ」
あれがフェイルの言っていた人員か。
いつルクスが来てもいいよう、出入り業者に扮して学園を見張ってるんだな。
「治安局が間に入ったことでメジロ家との協同も期待できます」
「そいつはよかった」
「対ルクスという名目上ですが、一歩前進したことは間違いありません」
どうだルクス、お前への包囲網は確実に狭まって来ているぞ。
ぶっ飛ばした後はてめぇの素顔を日本中に晒してやるから覚悟しろよ!
震えながら待ってろやボケ!
「それにしても、今のマサキさんは可愛いらしいですね」
「お褒めいただきどうも」
「すれ違う人たち皆が羨望の眼差しを向けて来ますので優越感に浸れます」
フラッシュがニンマリしている。なんだか楽しそうね。
「記念撮影をしましょう。はい、
今のはドイツ語版『はい、チーズ』か。
片腕で俺を抱っこしたまま、もう片方の手で器用に自撮りをするフラッシュ。
いい写真が撮れたらしく満足気だ。
そのまま彼女はスマホを操作して何処かに写真を送っている?
「あまりに可愛いので両親に見てもらいたくなりました」
「ご両親に送ったんかい!は、恥ずかしい///」
「さっそく父から返信が来ましたよ『空輸してくれ』だそうです」
「何をじゃい!?俺か?俺を空の便で送れってか!フラッシュの実家はどこよ?」
「ベルリンに決まってるじゃないですか」
「ドイツの首都じゃん。国際便は嫌よ」
「あ、母からも『クール便で♪』と」
「俺は荷物じゃないし、ドイツにも行かん!」
空輸も冷凍もされてたまるか!
ファーストクラスを用意されても行かないぞ。
「『冗談です。教官殿、どうか娘をよろしくお願いいたします』ですって」
「遊ばれてた!?『ご心配なく。娘さんはとても立派に成長しています』と送ってくれ」
「わかりました……あの、母が胸の谷間寄せ写真を添付して『おぱーいは私譲り!』だと言っております」
「いらない情報ありがとう。もうツッコミ面倒くせぇ!」
日本とドイツで何を送り合っとるねん。
立派に成長したのは『人間的に』とか『騎神として』とかの意味で『おぱーい』に限定しとらんわ!
とにかく、俺のドイツ送りは諦めてもらわねば。
両親と少しの間やり取りを交わした後でフラッシュはスマホをしまった。
なんだか終始嬉しそうだったので、親子関係は良好らしい。
「愉快なご両親だな」
「退屈はしませんよ。日本へも快く送り出してくれた、自慢の両親です」
うんうん。尊敬できる親を持つ気持ちは俺にもよーくわかるぞ。
「うちの両親にも気に入られたマサキさんには"オニャンコポン"の名を授けましょう」
「お、おにゃ?何だそれ?」
「いつか娘が産まれた時に付けようと思った名前です」
「すげー反応に困る」(´・ω・`)
「どうか笑ってください、オニャンコポン…」
「さっそく使うのやめて」
猫っぽいゆるキャラみたいな名前を授かってもな。謹んで辞退しようと思う。
そうだ、忘れない内にフラッシュの神核チェックをしておかないと・・・あら?
「ヘルツリッヒ・グリュークヴンシュ(おめでとう)」
「教えていないドイツ語で、私の何をお祝いしたのです?」
「だって、契約してるから……操者を見つけたなら教えてくれよ」
「気付かれましたか、さすがですね」
神核チェックでフラッシュに操者と契約していることが判明した。
通りで覇気の流れが以前と違うわけだ。
ここは素直にお祝い申し上げよう。
俺に黙って契約したのはどこのどいつだ?とか思って嫉妬してはいけない。
「そんで?どんな人と契約したの」
「マサキさんも知っている人です。当てて見て下さい」
「何ぃ――!?ひ、ヒントをくれ?」
「男の人です」
「まさか……近所の飲み屋に出没するのんべえの"
「違います。後期高齢者ではありません」
男の知り合いでそこそこの覇気持ちとなると限定される。
ゲンさんでもないし、ヤンロンでもない、シュウは違う、フェイルも違うな。
「ヒントその2をくれ」
「口癖がトロンべ人です」
「はい、もうわかった!レーツェルさんだろ」
「正解です。まあ、わかりますよね」
口癖トロンべがあの人以外にいたらキツイ。
さすがレーツェルさんだ。黒髪ウマ娘の収集に余念がないぜ。
「カフェはこの事を?」
「もちろんご存知です。仲良くさせてもらっていますよ」
きっかけはフラッシュがネームドたちに自作のドイツ菓子を振舞った事だった。
それを大層気に入ったカフェは無理を言ってテイクアウトさせてもらい、レーツェルさんに食べさせたんだと。
レーツェルさんは一口食べただけで『トォロォンベェェーーッ!』と叫ぶリアクションを決めた。
嫌がるカフェからフラッシュの居場所を聞き出し、その日の内に契約を申し込んだらしい。
最初は拒否していたフラッシュだったが、しつこく食い下がるレーツェルさんに根負けした。
ファル子やシロたち、ドウゲンさんやサトノ家の同僚たちにも相談してみると・・・
『別にいいんじゃね?』『この人強いよ』『マサキさんには劣るけど及第点』
『後悔しないよう、自分で決めなさい』『メジロの黒旋風じゃん!?SSR引いたな』
とのご意見を頂戴したこともフラッシュの背中を押したんだと。
レーツェルさん、自分よりコーヒー美味く淹れるからという理由でカフェと契約した前歴がある。
今回は、ドイツ菓子が美味しかったんだな。
俺もフラッシュの作ったお菓子やケーキを差し入れしてもらったことがあるけど、ほっぺたが落ちると言っても過言ではないぐらい美味かった。
ドイツのご実家が有名な洋菓子店らしいのでさもありなん。
「トロンべトロンべうるさいのが難点ですが、高レベルの操者と契約できたことに不満はありません」
「ほぇー、そんな感じかぁ。で、レーツェルさんにのどこが好きなん?
女子高生と初々しい恋バナがしたい気分のマサキです。
「好き?……料理上手なところと、あの妙ちくりんなゴーグルは割と気に入って…」
「違う違う、そうじゃなくて男としての好き好きポイントが聞きたいのよ」
「ああ、そういうことですか。善良かつイケメンな部類だとは思いますが、私もカフェさんも彼に性的魅力は感じておりません」
「マジか!な、なんと淡泊な……」
「相互利益の一致による関係性です。操者として信頼はしていますけど、結婚したいとまでは思わないですね」
「友達以上恋人未満?」
「ファルコン以上マサキさん未満です」
「よくわかんね」
カフェもフラッシュも恋愛感情抜きなのか・・・もしかして、黒髪ウマ娘ってドライな子が多い?
いやいや、うちのクロは違うってば。そもそもクロは・・・アレだし・・・。
そういえば姉さんも俺以外には割とドライだ。うん、黒髪ドライ説あると思います。
「とにかくおめでとう。そして今後ともよろしゅう~」
「ありがとうございます。操者とカフェさん共々、よろしくお願いします」
「因みに、何て呼ばれてる?」
「トロンべです」
「ですよねー」
あの人、本気で黒髪全員をトロンべ呼びする気だ。正気とは思えない。
そんなので混乱しないのかと思ったけど、契約後の今ではなんとなく『トロンべ』の違いがわかるようになってきたらしい。
傍から見るとめんどうだなぁ。
そんなことを話していると噴水広場までやって来ていた。
学園内でも人気の癒しスポットは休憩するにはもってこいの場所だ。
噴水の中央には三女神像が・・・何度見ても全然似てねぇわ!
実物はアレの数百倍綺麗で可愛いのだと、声を大にして言いたい。
「三女神様と友達だなんて、羨ましい限りです」
「もう
「メジロの開祖だと言う……えーと、ジャミラ様?」
「シャナミアな」
水が弱点の悲しきウルトラ怪獣と間違われたシャミ子・・・知名度の差か。
そのジャミラ様が俺を幼女にした張本人でっせ。
「見つけましたよ!」
噴水広場に女性の声が響いた。何だ騒がしいな。
俺とフラッシュは一体何事かと辺りをキョロキョロしてみる。
「あなたですよ、そこのあなた!」
「ソコノアナタさんと言う人を探しているみたいですね」
「俺たちには何の関係もないな。行こうぜ」
「待ちなさい!そこ!エイシンフラッシュさんに抱っこされているあなたのことです!」
スルーしようと思ったが阻止された。
指先をビシッと突き付けて、どうやら俺をご指名らしい。
面倒事の予感がする。
「ど、どうしました?桐生院葵先輩」
同僚であり先輩教官でもある、キリュウインアオイさんが眉間に皺を寄せてご立腹である。
何か怒らせるようなことをしただろうか?心当たりがない。
「医務室で大人しくしていろと言いましたよね?どうしてここにいるのですか」
「各施設の衛生状態を見回っていましたけど、それが何か?」
「それはアンドウ教官の仕事でしょう。子供のあなたが代行する必要はありません」
「あの、だから俺がアンドウマサキで」
「はいはい、そういうのはもう結構です。学園の皆は
「マサキさん……まさか、この人」
「フラッシュが察した通りだよ」
「なんと厄介な、お嬢様方の"粛清リスト"に名を連ねているのも納得です」
あ、フラッシュが引いている。それも仕方がないというものだ。
なにせこのキリュウイン教官は頑なに、幼女の俺を"アンドウマサキ本人だと認めようとしない"のだから。
何度も懇切丁寧に説明したが、まるで信じてくれないのだ。
前段階で俺が女になった時も信じてもらえずに『レンタル彼女に仕事を代行させている』とか言ってたな。
幼女になったらなったで『育児放棄した隠し子』呼ばわりだもんな。
どんだけ俺のこと悪く見ているのだろうか?好感度は限りなくゼロに近いっぽい。
赴任してきた当初はすごく親切で頼りになる先輩だったのに、今ではご覧のありさまだよ。
「キリュウイン教官。この人は正真正銘マサキさんご本人ですよ」
「なんてこと優等生のフラッシュさんまで…アンドウ教官の毒牙はどれだけ学園を腐敗させるのかしら」
「酷い言いぐさだ」
「マサキさん。覇気を出してみてください、それならいくら頑固でも…」
「もう試したけどダメだった」
「だから騙されませんってば!血縁のある親子なら覇気が多少似通っていても当然なんです」
「正気ですか?どう見ても3歳児の幼女が出せる覇気量を超越してますけど」
「どうせ御三家の隠形術と変装術の組み合わせでしょう?そこまでして見栄を張りたいなんて、見苦しいにも程があります」
「話の通じない人ですね」
「だろ?ヤンロンやたづなさんも匙を投げたレベルの聞き分けの無さよ」
要領を得ないキリュウインさんの話をまとめると・・・
女にだらしがない俺が愛バ以外の女と子供を作り、育児放棄した挙句にその世話を学園の生徒たちに無理やり押し付けているという。
ろくでなし外道男のストーリーが完成していた。
「まったく、トレセン学園は託児所ではないんですよ。あなたの父親は何を考えているのですか」
「あなたこそ何を考えているのです」
「フラッシュ、落ち着いて。お言葉ですが、キリュウインさんが言う本物のアンドウマサキは、今どこで何をしているのですか?」
「そんなの知りませんよ。どうせ御三家からもらったお金で豪遊でもしているんでしょ。昼間からキャバクラ三昧とはいい御身分ですよ」
「俺は下戸だ!キャバクラなんぞ行く暇があるなら愛バとイチャついとるわ!」
「何ですかその言葉遣いは!ろくな躾もされていないのかしら」
「言わせておけば…」
「ふ、フラッシュ。抑えておさえて」
マズい、俺より先にフラッシュがキレちゃいそうだ。
ネームドたちは俺をいじって遊ぶ癖に、俺が悪意に晒されるともの凄く怒ってくれるんだよな。
嬉しいけど、彼女たちがいつ暴れ出すか気掛かりでヒヤヒヤハラハラするぜ。
どうしてこうなった。
俺はキリュウインさんとも仲良くしたいと思っているのに、事あるごとに因縁を吹っ掛けられているような気がする。
俺以外の同僚や生徒たちにはすこぶる良対応なのに悲しい・・・新手のパワハラか?(´ω`)
「アンドウ教官が戻って来られないようなら仕方ありません。児童相談所に通報した上で御三家にも事の経緯を報告します。これで愛バなどにされている、
「それは…マジでやめておいた方がいいと思います」
「どう見積もっても、大恥をかくだけではすみません」
「今更止めても無駄です。恨むならあなたの父親を恨むのですね」
「えー、顔も知らない人を恨めと言われましても」
「マサキさん……」
俺は本当の両親の顔を知らない。
アースクレイドルの事件が両親の命を奪った。事件現場は相当悲惨な状態で瓦礫の山だったらしい。
だから、父さんの写真は何一つ残って無い。姉さんから口頭で聞く情報だよりに想像するのが精一杯だ。
し、しまった。俺の発言でフラッシュが悲痛な顔をしている。
フラッシュもクレイドルの事件や俺の出自知っている。
素敵なご両親が健在のフラッシュからすれば、俺の生い立ちは不幸に見えるのだろう。
周りの人たちのおかげで全然そんなことなかったんだよ。だから、君がが悲しむ必要はないんだ。
「マサキさんに向かって…父親を恨め…だと…」
俺を気遣うような顔していたフラッシュが、キリュウインさんを睨みつける。
悪気があろうが無かろうが、俺のデリケートな部分を攻撃したことが許せないと言った感じだ。
ヤバい、愛バが敵を認識した瞬間にそっくりだ。
「フラッシュさんも、その子の戯言に付き合う必要はないですよ。アンドウ教官たちの事はこっちに任せて、あなたは修練と勉学に勤しみなさい」
「キリュウイン教官に私の行動を左右される
「私はあなたのためを思って」
「ご自身の暴論を認めさせるためでしょう?さっきからチグハグな事をおっしゃってますよ」
「っ!?その子は私が保護します。さあ、こちらへ渡してください」
「キリュウインさん。俺は本当にマサキなんです、もう一度冷静に話し合いを……」
「アンドウ教官のことは信用に値しません。その子供である、あなたも同罪!そうよ、将来を約束された生徒を
キリュウインさんが俺を奪い取ろうと一歩前進した。マズいですって!
「
大きなため息をついたフラッシュはドイツ語で何かを呟く。
あまりいい意味の言葉ではないことだけは察した。そして・・・
「それ以上近づけば敵とみなし、攻撃します」
ゾッとするほど冷たい声で警告を発した。今度は日本語だ。
俺を奪われまいと腕に力を込め、殺気を乗せた覇気をキリュウインさんへ飛ばしている。
あわわわ・・・メッチャ怖い。
普段大人しくて真面目な子がキレるとマジで怖い。
「攻撃?教官である私を攻撃するですって!?フラッシュさん、あなた、何か弱みでも握られて」
「関係ありません。不愉快なので、今すぐここから立ち去ってください」
キリュウインさん気付いて!
フラッシュは『逃げる』ではなく『攻撃する』と言っているんですよ。
その気になればいつでも俺を抱えて逃げ出すことが可能なのに・・・
『お前ムカつくからボコる』『逃げるのはその後でな』と言ってるんです!コレ最終警告ですよ!
「私はお嬢様たちからマサキさんのことを任されました。つまり、今の私は彼の愛バも同然」
「な、あなたまでなんてことを」
「愛バの前で操者を
「くっ、本気なんですか」
「この私と…‥」
フラッシュの悪感情と覇気が膨れ上がる。ちょちょちょ!ちょい待ちぃーやぁ!
俺の気持ちはどうなるんです?
「戦争しますか?」
目をギラつかせたフラッシュの言葉にキリュウインさんが絶句する。
戦争はやめましょうや、せめて決闘と言ってよ。
こっわっ!!フラッシュの殺気マジ怖すぎぃ!
守られているはずの俺も縮み上がるほどの威圧感((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
どうすんの?キリュウインさん。今すぐに逃げたほうがいいですぞ!
俺なら迷わずそうするね。
「可哀想なフラッシュさん。あなたもアンドウ教官の被害者なんですね。大丈夫ですよ、私がみんな救ってみせますから‥‥‥例え、あなたと戦うことになっても!」
受けて立つ気だぁー!まさか、フラッシュ相手にタイマンを?・・・するわけないか。
愛バ連れていないのにマジでどうするんだろ?
「ハッピーミィィーークッ!カァァムヒアッッ!!」
キリュウインさんは首から下げたペンダントを天に掲げて高らかに叫んだ。
ダイターンやめてよね。
アホか!そんなんで愛バが召喚できたら誰も苦労しねーんだよ。
「アオイ、呼んだ?」
三女神像の後ろからヒョッコリとハッピーミークが現れた。
来たよww何故か来ちゃったよ。ずっとそこに隠れていたのか?
一体いつからスタンバっていたのだろう?
独特な『ぬぼ~』とした雰囲気をもつ白髪のウマ娘ハッピーミーク。
彼女はキリュウインさんの愛バで『なんでもそつなくこなす』非常に優秀な轟級騎神として名高い。
「よく来てくれました、ミーク。さあ、戦闘準備を」
「あ、マサキさんだ。はろ~」
「はろはろ~」
「フラッシュさんも、はろ~」
「こんちにはミークさん」
「ミーク!挨拶は後にして、戦闘が始まってしまいます」
「アオイ。とりあえず謝ろっか」
「なんで!?」
「一部始終見てたから……いつもの言い掛かり、よく飽きないなぁと思ってた」
「言い掛かりじゃありません。私はみんなために」
「ごめんなさい。アオイには後でよく言い聞かせるので許して」
「ミーク!?」
ペコリとお辞儀をするミーク。
俺とフラッシュに誠心誠意謝っているのが伝わって来る。綺麗なお辞儀だ。
よかったぁ。愛バのほうは話が通じそうだぞ。
ミークが謝罪したことで、フラッシュも怒りを鎮め覇気を抑えることにしたようだ。
「さあ、アオイも謝って」
「嫌ですよ。私は頭を下げる気なんてありません」
「格式ある操者は礼節を重んじる。桐生院家は礼儀を守れと教えたはずだよ…」
「ですが!」
「おじぎをするのだ!!」
「ブホォッェ!?!?」
「「腹パンしたぁ!?」」
ミークの拳がキリュウインさんの腹部にめり込んだ。
何度も打ち込んだ経験があるかのような、鋭くそして手慣れた動き。
ありゃ相当痛いぞ。
「ミ、ミー…ク…‥‥ぅ…また……しても…」ガクッ
「やれやれだね」
白目を向いて気絶するキリュウインさん。
崩れる落ちる寸前の操者をミークはしっかり支えた。
「言いたい事はあるだろうけど、今回はコレで許して?ダメ?」
「私はマサキさんに従うのみです。どうします?」
「いいよ。そもそも俺が幼女になったのが悪いんだし、キリュウインさんも本当は悪い人じゃないって知ってるからな」
姿形がコロコロ変わるような奴を安易に信用できないという気持ちは解る。警戒されて当然だ。
そもそも、俺の周囲や学園の人たちがアッサリ受け入れすぎだと思う。
「寛大な御心に感謝を……後日、改めて謝罪するね……じゃあ、サラダバー」
「気を付けてな~」
キリュウインさんを担いだミークは深々と一礼しから去って行った。
向かう先はきっとウエンディ教官の所だろう。
キリュウインさんは俺からヒーリングされたくないだろうし・・・正しい選択だ。
ミークのおかげで事なきを得て正直ホッとした。
「ふーっ、何とか終わったみたいだな」
「差し出がましい真似をして申し訳ありませんでした」
先程の殺気はどこへやら、憑き物が落ちたようなフラッシュが謝罪してくる。
俺の覇気に当てられて暴力的になったのだとしたら、こっちが全力で謝らないといけないけど。
そんな感じでもなかったと思う。
「戦争というワードを出すから焦ったぞ」
「確かに軽率でした。ですが、どうしても許せなくて」
トレセン学園には一般の学び舎とは異なる校則や決まりごとが多々ある。
その一つが、揉め事処理のために"決闘"システムを採用していることだ。
話し合いで物事が解決しない場合、第三者の立ち会いの下でルールに則った勝負を行い、勝った方の言い分を通すのが決闘だ。
普段なら決闘と言ったはず。しがし、キレたフラッシュは"戦争"と言った。
『決闘なんかで終わらせない、お前はここで始末する』と言ったようなものだ。
俺がフラッシュの覇気から感じたのは"怒りと覚悟"だ。
『教官に歯向かって罰せられようが犯罪者の汚名を被ろうが知った事か!』
『私はこの人を守る!』『彼を、その父親を侮辱するな!』
ちゃんと伝わったよ。本当に愛バたちの代わりを務めようとしてくれたんだな。
だけど、教官として操者として一人の大人として叱らなくてはならない
教官相手の暴力行為は最悪退学になっていたかもしれないんだ。
「らしくなかったな。
「面目次第もございません」
「俺を守ろうと必死だったのは解る。でも、さっきのはやりすぎ」
手を伸ばしてフラッシュの頬をペチペチ叩きながら、軽くお説教。
今朝、愛バたちから説教された身で何やってるんだろうな。それはそれ!これはこれだ!
フラッシュは困ったような顔で黙って俺のお叱りを受けていた。
『もっと自分を大切に』とか『俺のせいで退学などさせん』とかいろいろ言った気がする。
そして、最後に一番伝えたい、これだけは言っておかないと・・・
「俺のために怒ってくれてありがとう。すげー嬉しかった!」
しょげてしまっていたフラッシュの耳がピンッと立って復活した。
俺を見る目が光りを宿したようにキラキラ輝きだす。
「オニャンコポン!」ぎゅ~
「ふぎゃ……ひ、人違いです」
感激したフラッシュは俺の名前を激しく間違えながら熱烈な
むぎゅぐぐ、バスト88に溺れちゃう!
「お嬢様たちがマサキさんの愛バになった理由、改めてよくわかりました」
「そうかい」
「少し……妬けてしまいますね」
おっふっふ。そういうこと言うから、アホな俺が勘違いするんやで。
「オニャ…マサキさん。私、とても美味しいケーキ屋を知っているのですが、一緒に行きませんか?」
「それってドイツにあるご実家じゃないだろうな?さすがにそれはないかww」
「・・・・」
「何故黙る!?」
本気だったのか・・・ドイツにお持ち帰りするプランは即刻破棄してくださいな。
「マサキさん。私の目を見て
ドイツ語講座の続きか?受けて立つぞ。
「ええと、イッヒハーベディッヒゼアリープ……どうだ?」
「はい♪今日のところはこれで満足しておきます」
「どういう意味?ねえ、今のどういう意味?」
「さあ、何でしょうね」
「む、教えてくれないのか。シロに聞いたらわかるかな?」
「やめてください!死んでしまいます!」
「えぇ」(´Д`)
フラッシュがどうしてもと頼むのでシロに聞くのはやめておくことにする。
結局俺は何を言わされたんだろう?
チンチンとか卑猥な言葉は勘弁してほしい。
今日はもう日本語で散々言ったからな!
キリュウインさんとひと悶着あったが、俺とフラッシュは学園内の散歩を楽しんだのだった。
〇
旧校舎ダンジョン地下10階。
「テンペストランサーッ!!」
オルゴナイトの槍がアインストを模した雑魚エネミーを貫く。
骨で作られた外見のエネミー(クノッヘン)が光となって霧散していった。
一体撃破!
「まだ来るか」
一つ倒しても終わらない。
左右から新たなクノッヘン二体が俺に向かって同時攻撃を行う。
右の奴のかぎ爪をランサーで受け流し、左の奴にブラスターを発射する。
口が小さいので光線もかなり小規模なものになるが、怯ませるには十分だ。
左手にオルゴナイトを生成、結晶の杭となった拳(フィンガークリーブ)が怯んだ左側のクノッヘン、その胴体に突き刺さる。
「砕け散れっ!」
撃ち込んだ杭は敵の胴体を容易く貫通して爆発する。
オルゴナイトの欠片が舞い散る中、残る最後の一体がこちらの首を切断せんと迫る。
全部見えてるぞ。そんなんじゃ当たらねぇ!
躊躇なくランサーを手放なす。小さな体を更に低くして爪を回避、追撃も地面を転がるようにして全て躱し切る。
はっ!チビなのも案外悪くないな。背後とったぞー!この骨野郎!
「オルゴナイト、バスタァァーー!!」
敵の背中目掛けてジャンプ、俺はオルゴナイトの削岩機(でっかいドリル)を生成し仕留めにかかる。
クノッヘンは最後の抵抗とばかりに背中の骨を伸ばし突き刺そうとするが、太くて硬いドリルが全てを砕く。
服が少々破れたけど気にしない。これでしまいじゃぁーー!!
・・・数秒も経たないうちに上半身を削り切ったドリルが霧散してゆく。勝ったな。
「これにて戦闘しゅうりょ!?っとと」
ビームが体をかすめた。ちょっと破れていた服がガッツリ破れた!?愛バにもらった服が台無しやんけ。
奥のフロアにいたエネミーが戦闘音を聞きつけてこっちにやって来たみたいだ。
ビームで砲撃してきたのは植物の蔦らしき物体の体をもつエネミー(グリード)。
鞭のようにしなる触手と中心にある玉?からのビームが厄介な相手だ。
遠くからボコスカ撃ってんじゃないよ。ブラスターの威力に期待できない今は接近するしかない。
「
足底に力を込め加速技を発動させる。
近づけ、近づいて敵の核を破壊しろ。それで終わりにしようぜ。
きゅ、休憩したい・・・全身が『もう無理~疲れた』と言ってる気がする。
俺の体よ、もうちょっとだけ我慢してくれ。
ビーム砲撃が止まない。
正面からまともに食らうが、オルゴンクラウドの障壁でガードする。
ちっ!今ので余計な力を使った。疲労で回避が甘くなってるぞ俺。
でも、ここまで近づけたなら俺の間合いだ!
何でもいい武器を生成して一気に片付けるぞ。
「オルゴンマテリアライゼーション!」
ここぞとばかりにオルマテを叫ぶ。さあ、覚悟しな。
「……あれ?」
出ない・・・何も出ない・・・オルゴナイトが生成できない!?
覇気の残量はまだ大丈夫だけど、なんで?
不測の事態で焦っていると、脳内に聞き覚えのある声が響く。
この声、シャミ子か?
『オルゴンアーツの使用は幼女体には負担が大きすぎます』
『ですので、安全装置として使用回数に制限を設けておきますね』
『私ってば意外と尽くすタイプ。アフターフォローもバッチリなシャミ子でした♪』
『なお、このメッセージはマサキがピンチの時、脳に直接音声が流れる仕組みで━━』
バカ―ーー!そういうのはピンチの前に教えてよ!
重要事項説明を怠るなんてありえないんですけど!
「うあああああ!シャミ子を呪う暇もなく触手が!」
何本もの触手が絡みついて動きを封じられる。
そして、エネミーの中心にある玉の点滅、明らかにビームをチャージしている。
これで拘束してビームでトドメって流れですか?
「おやめくだされ!こちとら、か弱いい幼女ですぞ!」
泣き落としが効くような相手じゃないのはわかっているが、一応言ってみた。
ここで倒れたらダンジョンの入口に戻されたり・・・しませんよねーわかってまーす。
ヤベやべ矢部!ビームが溜まってる溜まってる。
障壁が使えないなら、せめて覇気で痛みを和らげて・・・どちらにしろビームに耐え切らないと終わりだぁ!
昼間に見たキリュウインさんがミークを『カムヒア!』で呼びつけた技、俺にも使えないかな?
今すぐにでも愛バたちを召喚したい!母さんか姉さんでも可!
「タスケテー!このままじゃ幼女に触手プレイな薄い本展開がビームに!」
グリードの赤い玉が怪しい光で満ちていく。ああ、チャージ完了しちゃったのね。
覚えてなさいよ。ここで俺が倒れても、愛バたちがお前たちを殲滅することだろう。
フハハハハ!先に地獄で待ってるぞー!
え?結構余裕があるって?そりゃあねえ・・・あ、来た。
「シミュレーターのザコエネ風情が、何をやってるの…かなっ!」
日本刀らしき武器が飛来、回転しながら飛ぶそれは俺を拘束する触手を次々に切断した。
ひゃっほー!俺は自由だーー!地面に突き立った刀は放置して、はよ逃げなアカンで!
触手から抜け出した俺はすかさず逃走を図る。
ゴキブリのようにカサカサ高速で
「何その動き!?気持ち悪ッ!」
操者を気持ち悪いとは言ってくれるな。愛バからの罵倒は新鮮でゾクゾクしちゃう。
幼女ゴキブリ(俺)とすれ違った愛バは刀を回収、再生しつつある触手の持ち主に向けて刀を振りかぶった。
「チェストォォォォ!…なーんてね」
独特な叫びをあげて敵を一刀両断する。真っ二つですぞ!
二つに分かたれた敵が光となって消えていった。
新たな敵は来ない。インターバルに入ったようなので、しばらくは安全だろう。
「ありがとう、ココ」
「マサキ無事?ゴキブリみたいになってたけど無事だよね」
感動の再会とばかりに飛びつく、愛バは優しく受け止めてくれた。
ピンチを救ってくれたヒーローは愛バの一人、ココである。
最近、姉さんから剣術を学んでいるようで、大分板についてきた様子。
刀を投げる使い方は姉さん譲りなのかしら?
「服がボロボロになっちゃった…」
「あらら、まあ仕方ないよ。マサキ本体が無事なのが一番だからね」
刀(シシオウブレード)を空間に収納したココは俺の損傷具合を確認している。
「ピンチに颯爽と現れる薩摩武士……カッコよかったぞ」
「方向音痴の癖に一人で先に行っちゃうんだもん。あんまり心配させないでよね」
「ごめん。幼女で戦うコツがつかめたから試したくなって」
俺はココと二人でダンジョンの浅い階層を巡っていた。他の愛バたちはずっと深い階層を攻略中である。
ダンジョンでいろいろ試した結果、幼女の姿で戦う方法が判明したのだ。
覇気を全身に行き渡らせその状態を維持し続ける。薄い膜?というか衣服で全身を包むイメージを固めて少しづつ馴染ませる。
するとどうでしょう。低レベルのエネミーと戦えるぐらいには動けるようになりましたとさ。
これで最低限、自分の身を守ることができる。だけど油断は禁物だ。
衣服を全身に張り続ける状態(クロース状態)は覇気をドンドン消費してすっごく疲れる。オルゴンアーツに至っては回数制限まであるときた。
解除されると体力の無い非力な幼女に戻ってしまう。気を付けないといけない。
「戦えることがわかっただけでも大きな収穫だな」
「調子にのって無理しないでよ。いつでもどこでも駆けつけるつもりだけど、現実はそうもいかないだろうから…」
仕事とクエストが立て込んでいる愛バたちは学園を留守にしがちだ。
そのことを危惧しているんだろう。
「できるだけ一人にならないでね。ネームドのみんなに頼んでるからさ」
「うん。そうするよ」
「一人で幼稚園に行ったりしたら絶対だめだよ。どうしてもって言うなら、愛バの誰かを同行させて」
「えー、お前たち同伴で幼女出現スポット巡りは恥ずかしい////」
「幼女出現スポット巡りぃぃ!?そんなことする方が何倍も恥ずかしいよ!」
「そうかなぁ」
俺のおでこに自分のおでこを合わせるココ。
「そうだよ……心配してるんだから、ね」
「わかったよ」
「うん。わかればよろしい」
愛バたちが想いを伝える方法は様々だが、おでこ合わせは結構定番である。
勢いをつけすぎるとただの頭突きになるので注意。前にクロがこれをやらかして二人で悶絶した。
「アルたちもそろそろ帰って来る頃かな。私たちも地上に戻ろっか?」
「そうしよう。幼女の体力気力はもう限界だ」
「ところで……食堂を卑猥な言葉でミーム汚染した人たちがいるらしいんだけど、何か知ってる?」
「知らんな。思春期特有のはっちゃけだろ?」
「ベロちゃ……エアグルーヴからクレーム入ったんだけど『お前の操者だろ!なんとかしろ』だってさ」
「冤罪だな。会長のダジャレ攻撃で副会長も疲れているんだろう」
「へぇーそうやって白を切るんだ。じゃあ、このマーキングは何?意味不明な言葉が描かれてるんだけど、暗号?それとも隠語?」
「またかよ!消してもらったはずなのに…何て描いてある?」
「オニャンコポン」
「フラァァーーシュッッ!!」
あいつどんだけオニャンコポン気に入ってるんだよ。
まあいいや、ノーチンを愛バに責められなくて良かったと思うことにしよう。