幼女生活四日目(試練最終日)
シャミ子の提案(わがまま)で始まった"変化の試練"も本日が最終日だ。
今日を乗り越えれば俺は男に戻ることができる。
そして機甲竜という頼もしい味方が増えるって訳さ。
ルクスとの決戦で切り札となりえるその力、期待させてもらうよシャミ子さん。
今日一日、どうか何事もなく過ごせますように・・・・・・フラグとか言うな。
〇
「これより会議をはじめる!」
理事長の一声で緊急の職員会議が始まった。
議題はもちろん、昨日発生した"生徒三名病院送り事件"である
参加しているのは理事長とその秘書の姉さん、あまり見ない上層部の役員が数名、主要な教職員とギルドの関係者、そして生徒会長のルドルフだ。
ついでに、リンクデバイスの解析を依頼したタキオンもいる。
まず最初に事件の概要が説明され、倒れた生徒たちが無事であることが報告された。
「三名とも今朝方目を覚ましました。幸い後遺症もなく、数日間の検査入院で元の生活に戻れるでしょう」
進行役を務める姉さんの報告に一同胸を撫で下ろす。
会議に集った誰もが生徒の安否を気にしていのだ。
一番の心配事が解消された次は、一体なぜこのような事件が起こったのか調べる必要がある。
「彼女たちが倒れた原因はリンクデバイスにあると思われます。詳細はタキオンさん、お願いします」
「ここからは冴えわたる頭脳を持つ私が引き継ごう。昨日、ミニカピバラ君から預かったデバイスを解析した結果を報告する」
説明を引き継いだタキオン。芝居がかったジェスチャーを交えた口調が少々ウザいけど我慢する。
会議室に設置された大型モニターにはデバイスの全体像が表示されている。
タキオンがノートPCを操作すると、デバイスの内部構造が透けて見える図に変わった。
「このデバイスは偽造品だ。粗悪な部品を使い低コストで製造されたゴミ!」
偽造品か、そんな事だろうと思ったよ。
タキオンが調べるまでもなく見た瞬間に解っていたぜ!フフン!
「と、思ったら大間違いだ。得意満面だったミニカピバラ君、残念だったね」
違うのかよー。恥ずかしいから皆こっち見ないで////
赤面した俺を姉さんが隠し撮りしているのをよそに、タキオンの説明は続いて行く。
「このデバイスは何者かの手によって改造されたものだ」
「改造?それって合法なのか」
「もちろん違法だとも。しかし、この改造品、使用者を単純に強化する点だけ見れば、正規品より優れているね」
それってすごくないか?
そんな物があるなら誰も正規品を買わなくなるだろ。
「安全装置など必要無し!設定以上のリンク係数を叩き出すことのみを追求!使用者が望むだけの覇気をリンク相手から強制徴収してどこまでもパワーアップ!体が動かない?なら神経をハッキングして動かしてあげるね♪ただ強さを求める者の声に応えたい!その結果、使用者の身が滅ぶことになろうとも本望だろう!死ぬまで戦え死んでも戦え!と言う強い意思を感じる。まったく素晴らしいwww」
一息に説明するタキオン。好きな物を熱く語る時のキモオタみたい。
例デバイスは随分とヤバいこと代物だったようだ。
タキオンの気持ち悪い説明を聞いた皆が騒然とするのも無理はない。
昨日、俺が授業で注意した欠陥を全部乗せした凶悪デバイス来ちゃったよ。
安全装置の解除にその他諸々・・・使う奴のことまるで考えてない仕様が逆に清々しいわ!
「コレコレ、私が作りたかったのはこういうのなんだよ」
「作るなバカ」
「被験者として申し分ない人材は確保済みだというのに、近頃は無難な研究ばかりでウンザリしていた!そうだよねぇミニカピバラ君?」
「こっち見んな」
「先を越された気分だ。こんなものを見せられたら、私の研究意欲は有頂天にならざるを得ない!!」
「たづなさん」
「ありがとうございました、タキオンさん。もう結構ですので退場してください」
「もう帰っていいぞ。早くどっか行け」シッシッ!
タキオン、お前はもういらない子だ。
邪魔だからさっさと会議室から出て行ってもらいたい。
「こんな所で油を売っている暇はない。さあ、ミニカピバラ君!共に限界を超えた先の世界を目指そうでじゃないか!はははははは・・・・はッ!?」
姉さんが謎のスイッチを押したと同時にタキオンの姿が搔き消えた。
直前まで彼女が立っていた床に穴が空いている。
数秒後、落とし穴は何事もなく塞がる。そこに罠が設置されているとは思えないほど綺麗に塞がった。
たった今一人の生徒が消えたが、誰ひとり心配していない。
何も問題がないので会議を続けよう。
「目を覚ました生徒から聞き取り調査したところ、最も症状の重かった生徒が全てを白状しました。二週間ほど前にチンピラ風の男から多額の現金と引き換えに入手したそうです」
あの痙攣していた子か、早く元気になるといいな。
「何故ッ!我が校の生徒が闇取引に手を出したなどど……理由は?」
「進級してから成績が伸び悩んでいたそうです。同期生に置いて行かれる焦りから愚かな行動に走ってしまったと、本人は述べています」
教官たちが腕組みをして唸っている。競争激しいトレセン学園ではそう珍しい事じゃない。
劣等感に
俺にもシュウという高すぎる壁がすぐそばに立っていたから、その気持ちょっとだけわかるんだよな。
今じゃ壁を壊す事を諦めて、壁に寄りかかって楽してるけどね!!
やべぇデバイスの購入はチームを組んでいた三人の総意によるものだったらしい。
成績不振に陥った彼女たちは魔が差してしまったのだ。
彼女たちなりに悩んでいたのは解るが、お
「(退学とかにはならないよね?)」
「(一週間の停学に三ヶ月間の奉仕活動が妥当かしら。これでも減刑されたほうよ)」
姉さんとアイコンタクトで会話。
三人の処分は既に決定してるようだ。学園を去る結果にならなくて良かったと思う。
もし、デバイスの力に溺れ他者を害するようなことがあれば、その結末は今より悲惨だったろうからな。
「私は彼女たちの心に寄り添えなかった……心理カウンセラー失格ね」
「ウェンディ教官のせいじゃありません」
「そうですよ。この様な事態になったのは学園全体の責任であります」
「何かしらのサインは出ていたはず、それを見逃してしまったのが悔やまれるな」
「今後はより一層注意深く見守っていきましょう」
落ち込むウェンディ教官をみんなで励ました。
俺の同僚たちは生徒に負けず劣らず仲がいい。和気あいあいとした素敵な職場です。
多感な時期の生徒たちを守るため、これからも互いに協力し合っていきましょう。
「我々は今回の事件を重く受け止め再発防止に努めなくてはならない!」
理事長の言葉に一同は頷く。
その後、俺とルルが事前に会話したように、再発防止策と生徒のメンタルケアを今後どうするかが話し合われた。
俺も養護教官としての観点からいろいろと発言させてもらった。
ちょっとキリュウインさん、こんな時まで噛みついて来ないでくださいよ。会議の進行が滞るでしょ?
背後で姉さんが『斬首する?しちゃう?』のジェスチャーをしていることには気付かないほうが幸せだ。
会議に参加している上層部の人たちも頭を捻って積極的に意見交換している。皆、真剣そのものだ。
保護者や関係各所への対応と説明責任も果たさなければならないし、矢面に立つ理事長や役員方は大変である。
「マサキ教官をメインに据えた動画を作成し、公式サイトにアップしては?」
「それはいい!ラブリーでプリティな幼女が一生懸命に説明と謝罪を行う姿は、心打たれるものがありましょうぞ」
「上手くいけば学園を糾弾する声も減るかもしれませんな」
名案とばかりに役員連中がアホなこと言い出した。
期待を込めた眼差しが不愉快極まりない、絶対やらねぇからな。
「黙りなさい!」
怒った姉さんが会議用テーブルを拳で『ドンッ!』と叩き、年上の役員たち縮み上がらせた。
姉の迫力に役員のおっさんたちのみならず、理事長や他の人たちもビビっていた。俺もビビったぞ!
テーブルが無残に割れていないところを見ると、姉さんなりに手加減をしているはず。
ふと思ったことがある。隣席のミオだけに聞こえるよう思念を送ってみよう。
「(姉さん『黙れドン太郎』みたい)」
「(自分のために怒ってくれた姉に失礼なことを言うね)」
「(そうだよな。茶化してごめん)」
「(反省したならいい。会議中だからおふざけは自重しよう)」
「・・・・・」
「・・・・・」
「(
「(やwめwろww)」
ミオの返答は顔を見てりゃ大体解る。姉さんとドン太郎のフュージョンがお気に召したようだ。
俺たちは笑いを堪えるために、お互いを肘でつつきあったりした。
ドン太郎はどうでもいい。今はお怒りの姉さんに注目だ。
アホな役員たちめ、真面目な会議中にはおふざけが過ぎたよだな。反省しなさい。
「マサキの動画を作るですって?そんな事になったら、監督、脚本、演出、編集、その他全部私がやるしかないじゃない!!」
何言ってんだこの人?一番不真面目だったのは我が姉上様でした。
理事長やヤンロンたちが『何とかしろ』みたいな目で見て来るよ。マジで辛い。
手っ取り早く動画の撮影が不可能になる事実を教えてやらないといけない。
「事前にお伝えしていますが……俺、明日には男に戻りますけど?」
そういうことなんで、諦めてくださーい。
「はぁ~……マサキ教官、あなたには失望しましたよ」
「ふぅ~……もう戻らなくていいのに、もったいない……」
「へぇ~……今の内に握手だけでもお願いできますか?」
途端にやる気を失くす役員ども。ダメだこいつら。
理事長、クビにするならそこの人たちがおススメですよー。
「待ちなさいよ!!」
姉さんが再びテーブルを叩いた。またしてもご立腹な様子。
二回目の『駿川ドン太郎』にテーブルのライフは風前の灯火である。
「男に戻ってもいいから動画は作りなさいよ!は?意味がない?…意味はあるわ、私が個人的に楽しむという大いなる意味がある!そうだ、もういっそのこと学園の予算を投入して高画質VR動画を撮りましょう。シチュエーションは"大好きな姉にベタベタ甘えるシスコン弟"がいいわね。くあぁぁ今から楽しみすぎるわぁぁぁ・・・・・あッ!?」
理事長が謎のスイッチを押したと同時に姉さんの姿が搔き消えた。
直前まで彼女が立っていた床に穴が空いている。
なんかさっきも見た光景だな。そこはかとないデジャヴを感じる。
落とし穴が塞がると、理事長が大きなため息をついた。うちの姉がすんません!
幼女でなければ意味がねぇ!とばかりに、俺が動画出演する案はお蔵入りになった。
説明するにしろ謝罪するにしろ『妙な趣向を凝らさず真摯な対応を心がけるのが一番だ』
と、いうことで落ち着いた。
話し合いが終了した5分後、少々埃っぽくなった姉さんが澄まし顔で戻って来た。
戻って来ないタキオンがどうなったかは誰も気にしていない。
「うむ!大体の方針は決まったな。では、本題に入ろう」
威勢のいい理事長の声に場の空気が引き締まる。
「今回の事件、遺憾であるが生徒に非があるのは明らかだ。自業自得と言えるだろう」
そうだな。そこは当事者たちも理解して己の過ちに後悔しているはずだ。
「それでも、私は考えてしまう。そもそもこんな改造品が存在しなければ事件は起きなかったのではと」
理事長の言葉に感情がこもる。
覇気も既に発せられ強力なプレッシャーを周囲に拡散し始めた。
この場に集う皆が共有する感情を理事長は代弁してくれている。
事件が起きるまで気付けなかった不甲斐なさ、そして元凶に対する憤りだ。
「間接的とは言え、このデバイスに関わった者は我が校の宝である大事な生徒を傷つけた!到底許せるものではない!!」
あっつっぅ!!この理事長熱いぜ。
なんという熱量とカリスマ性!これがトレセン学園を背負って立つ女の気迫か。
姉さんが操者と認めた人だ。可愛いいだけの理事長であるはずがない。
今日の理事長はひと味違うぜ。"ロリじちょう"とか言ってごめん。
「諸君ッ!私は報復を地獄の様な報復を望んでいる」
「諸君ッ!私に付き従う教職員一同諸君」
「君たちは一体何を望んでいる?」
この流れ何処かで?後に続く返答も察したぞ。
「「「「報復(ラッヘ)!報復(ラッヘ)!報復(ラッヘ)!」」」」」
( ・∀・)ノ (>Δ<)ノ∩(´∀`)∩(・ω・)ノ( ̄▽ ̄)
フラッシュの物騒なドイツ語講座が役に立った。
理事長に感化された教職員たちは拳を突き上げ口々に『ラッヘ!ラッヘ!』と吠え猛っている。
ヤンロンとテュッティ先輩はちょっと照れながら、ミオはノリノリで叫んでいる。ルル……あの顔はダジャレを考をえているな。
そんな中、姉さんは興味ないとばかりに欠伸をしていた。マイペースで素敵。
俺は戦争(クリーク)と叫んで"でちゅねママ"が召喚される事態にならなくてホッとしていた。
「よろしい、ならば報復(ラッヘ)だ」
理事長、小太りの少佐殿に憑りつかれていない?
この人について行くのちょっと不安になって来た。
「くくく、我が身に封印されし闇の力、解き放つ時が来たようだ」
「邪眼(老眼)の力をなめるなよ」
「ホッホッホ、我ら"天下り役員三人衆"に敵はおりませぬ」
さっきから実に鬱陶しい三人組がいる。明らかに非戦闘員の癖にやる気になっているのがウザい。
しかも、遅咲きの厨二病を発症した老害である。せめて邪魔だけはしてくれるなよ。
俺と目が合うと、三人揃ってサムズアップしやがった。こいつらも落とし穴にボッシュートしてくれないかな。
「自分たちが何を敵に回したか骨の髄まで思い知らせてやろうではないか!」
「「「「うおおぉぉーーー!!理事長バンザーイ!!」」」」
理事長の演説(茶番)で皆の心は一つになり報復の狼煙は上がった。
はいはい、ロリじちょう万歳万歳だね!
このノリいつまで続くの?幼女な俺は退屈で眠くなって来たのである。
先程のぐだぐだは何処へやら、あらゆる物事が次々に可決されていく様は見ていて清々しい。
敵勢力を洗い出し、投入可能な戦力を計算、最適な作戦が立案される。
まさに迅速果断!!
皆、敵側に猶予を与えるつもりなど毛頭ないらしい。
学園の戦力を知っている身としては哀れな敵に同情したくなるね。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「これにて会議は終了!諸君の奮闘に期待する。以上、お疲れ様でした」
「「「「お疲れ様でした!!」」」」
作戦も粗方決まり会議は終了した。
姉さんの号令が下り皆一様に動き出す。
「よっしゃ!忙しくなるぞー」
「愛バに連絡しないと、あの子たち今どこかしら?」
「ギルドとの連携?勝手にしろ。え?ああ、そっちは任せた」
「おーい、この厨二老害どもはどこに捨てたらいいんだ?」
「「「嫌じゃー!ワシらはまだやれるんじゃぁーー!!」」」
会議室のみならず学園全体が慌ただしくなり、バタバタと人が行き来する音がそこかしこから聞こえる。
理事長は演説で力を出し切ってしまい、会議の後半からずっと"ぐてーっと"してだれている。
俺も一緒にぐてーっとしちゃう。テーブルの上でこのまま溶けてしまそう。
はいはーい。"だれマサキ&だれ理事長"はご自由に撫でてもらって結構ですよー。
撫でると気力が上昇すると(主に姉さんから)大評判を頂いております。
「スピカだけじゃなくリギルも出すとは豪勢だな~」ぐてー
「君の"ああああ"にも出撃してもらうぞ」ぐてー
「過剰戦力ちゃいますのん?」
「腕利きを揃えて速攻でケリを付けるのが目的だ。過剰なぐらいで丁度いい」
二ヤリと笑う理事長。
今回の殲滅対象には学園に手を出せばどうなるか、わかりやすい見せしめになってもらう腹積もりなのがよーく解る。
俺の愛バを含むネームドたちが動くのだ。敵さんマジで終わったな。
「おお怖い怖い。理事長はおっそろしお人や~」
「君が言うかww」
学園の二大マスコットたる俺と理事長が愉快な会話をしていると、姉さんが鼻息荒く周囲を威嚇している姿が目に入った。
「あの子たち二つとも私のだから!絶対持って帰るから!」フンスッ!
テイクアウトをご希望ですか?お
理事長だけで我慢して下さい。
〇
会議で決まった"改造デバイス密売組織を潰そうぜ"は即座に全校生徒へと知れ渡ることになった。
本作戦へ参加する精鋭チームたちが次々に出撃していく中、足手まといな俺はお留守番だ。
短時間しか戦えない俺が万が一にも売人たちに捕まるようなシチュは誰も望んでいない。
「いっぱい倒して来るからね」
「戦果を期待していてください」
「学園の名に恥じない仕事をしてきます」
「大船に乗ったつもりで待ってて」
学園の校門前で出撃する愛バたちを見送る。
一人一人に抱き着かれ、ナデナデスリスリハグハグとマーキングの嵐だ。
同様に出撃していく生徒たちがチラチラがジロジロ見て来るが気にしない。
「現場の指示をよく聞いてやり過ぎないように。そして、無事にちゃんと帰って来てくれ」
「「「「はい。行って来ます」」」」
たっぷりスキンシップをした後、待機していた車両に乗り込んで行く愛バ四人。
気負った様子もなく落ち着いた態度からは彼女たちの余裕と自身が伺えた。
この分だと全く問題なさそうだ。
発進して行く車両が見えなくなるまで、俺は手を振り続けた。
「行ったか」
「行ったね。ゲンさんも居残り組?」
「ああ。この後、授業があるからな」
「俺もだよ」
教職員も生徒も、その殆どは学園に残り、普段通りのカリキュラムを遂行していく。
理事長や幹部連中は学園の大会議室から作戦の監督と指揮を執る。
実働部隊として参加しているのは実戦経験豊富な手練れたちだ。
学園が通常運営されている間に不運な密売組織は課外授業の一環として潰される事だろう。
居残り組はそれを信頼して待っていれば万事オッケーなのよ。
「戻ろうか」
「うん」
ゲンさんに則されて校舎に戻る事にする。
幼女化も今日までなので肩車してもらえるのも、これで最後になるのか。
「男に戻っても、お前が望めば肩車ぐらい、いつでもしてやるぞ」
「嬉しいけど、恥ずかしい////」
ゲンさんに肩車される俺(成人男性)・・・うん、絵面が酷いな。
「俺がゲンさんに肩車のお返しをするって手もあるね」
「フッ…気持ちだけもらっておこう」
断られてしまった(´・ω・`)絵面は逆でも酷かったねー。
「愛バやネームドたちに抱っこのお返しをするのはどうかな?」
「彼女たちが望めばしてやるといい」
「嫌がれたらショックで泣く、そして吐く」
「そんな事はありえんだろう。あったとしても照れているだけだ」
「そうかなあ。そうだったらいいな」
お返し抱っこを拒否されたとしても、何かしらのお礼を考えておこう。
お世話になった人たちへの返礼か……何がいいかしらね?
〇
夕刻になった。
作戦はまだ終わっていないが、順調に進んでいるらしい。
「ポイントA2の制圧終了。チームスピカ、そのまま進軍してください」
「ルドルフ会長から入電、リギルは散開して追撃をかける模様」
「ちょ、ちょっと待って!チーム"ああああ"止まってください!その建物は壊しちゃダメ!」
「"ああああ"応答してください"ああああ"聞こえてんだろ?無視すんな!」
「それは味方の警官隊です!?何やってるんですか"ああああ"」
「ああああ、もうメチャクチャだよ。ああああ!ああああああああああああ?」
作戦本部の大会議室では、目まぐるしく変わる状況にオペレーターが必死に対応していた。
モニターに映る地図と監視カメラからの映像を見なくても、学園側が優勢だとわかる。
「常勝ッ!圧倒的ではないか我が軍は!」
「調子に乗ってると足元すくわれますよ」
「おお、マサキ君。どうした?やはり、たづなや愛バたちが心配か?」
「いえ。快進撃なのはわかり切っていましたから、それにしても『ああああああああ』うるさいですね?」
「君の愛バが景気よく暴れているせいだぞ。デモン掃討作戦の件といい、恐ろしいまでの力だな」
あれでも十分に手加減しているとは言わぬが花だな。
「このまま作戦終了まで見ていくか?」
「いえ。問題なさそうなので俺は帰ることにします」
愛バたちは言った『お帰りなさいと笑顔で迎えてくれる。それだけでいいんです』と。
無欲かつ俺を気遣ってくれる優しい愛バたちに感涙した。
お言葉に甘えて俺は明日からの"カムバック男人生"に備えるため、自宅にて愛バの帰りを待つことにしよう。
理事長に挨拶して学園を出る。帰宅じゃ帰宅~。
最後ぐらい自分の足で歩いて帰る事にする。
今日でこの体ともお別れか、そう思うと少し寂しい気もするな。
愛バに頼まれたのか?それともフェイルの差し金か?家路の途中まで俺を治安局員の二人組が護衛してくれた。
自宅まであと少し、最寄りのスーパーに着いたところで、もう危険はないと判断した二人は会釈してから姿を消した。無口なのね。
ちょっと買い物していこう。今日の晩御飯用と明日の朝食分のアレやらコレやら必要だ。
スーパーで食材を買い足していると、微笑ましいものを見る目で見られた。
"はじめてのおつかい"ではありませんよ?
今の自分が持てる量の買い物を済ませて外に出ると、入口付近で近所のおばちゃんたちが井戸端会議に勤しんでいた。
「あら~、マサキちゃんじゃないの」
「こんにちわっス」
「今日は彼女さんたちがいないのね?ケンカでもしたの」
「どうも学業が忙しいらしくて、俺だけ先に帰るように言われたのです」
「大変ね~」
このおばちゃんたち、俺が女になっても幼女になっても『あらまあ大変』ぐらいのリアクションで、普段通りに接してくれるのだ。
肝が据わっている。ご家庭では肝っ玉母さんなのかもしれない。
地域の情報を把握する上で、彼女たちのコミュニティに参加するのは有用だとシロが言っていた。
有用かはさておき、おばちゃんたちと顔見知りの俺も、気が向けば井戸端会議に混ぜてもらえるぐらいの関係性だ。
「あ!そう言えば聞いた?最近この辺りに不審者が出るんですってよ」
「私も聞いたわ。目撃されたのは、今ぐらいの時間よね」
「いやぁねぇ怖いわ~。マサキちゃんも気を付けなきゃダメよ?」
「俺なら大丈夫です。こう見えても強いんですよ」
「それでも心配だわよ。だって今のマサキちゃん、私が不審者だったら絶対襲っちゃうもん」
「「わかるわ~」」
明日、男の戻っていたら残念に思われるのかな。
いや、この人たちだったら『あらまあ戻ったの、良かったわね~』で終わるな。
不審者情報の交換も井戸端会議の醍醐味だ。こうやって防犯意識を日頃から高めておけば犯罪抑止になる。
「本当に注意しなきゃダメなんだから。おばちゃんの言う事は聞くものよ」
「不審者の目的はきっとマサキちゃんみたいな子なのよね……許せないわ!」
「そうね。見つけたら私の全体重で押しつぶしてやるわ」
「「やだ~犯人死んじゃうww」」
恰幅のよいおばちゃんが自慢のお腹を叩きながら『ガハハ』と笑った。
確かに、あの腹から繰り出されるボディプレスは強烈そうだ。
「ん?なぜ不審者のターゲットが俺みたいな子だとわかるんですか?」
「だって、ねえ……目撃された場所がアレだし」
「アレ?」
「不審者が出たのはね、この近辺にある幼稚園や保育園らしいのよ」
「な、なんですとぉー!!」
それって、仲間・・・では断じてない!
なんてこった!ロリコンが、俺以外のロリコン(悪)が出たというのかぁ!!
話を聞いた後、ダッシュで一時帰宅した俺は食材を冷蔵庫に詰め込み、再び外出した。
向かう場所はもちろん"就学前幼児施設"つまり、幼稚園or保育園である。
やましい事をするためではないぞ。愛すべき幼女たちを悪の手から守るための行いなのだ。
これはロリコン(善)からロリコン(悪)へ天誅でもある。
似たような趣向の奴が堕ちていくのを未然に防ぎたい気持ちも、少しはあるけどな。
「何も無ければそれでいい。ちょっと様子を見てすぐに帰ってくればいい」
自分に言い聞かせるようにして目的地へ向かう俺。まずは一番近い所にある幼稚園へGOだ。
愛バもネームドも護衛もいない状況での単独行動。この時の俺は完全に油断していたと思う。
言い訳になるが、明日には男に戻れるのだと
愛バにもおばちゃんたちにも散々注意しろと言われていたというのに・・・・・・
俺ってホントばか。
〇
「うん。異常なし」
幼稚園巡り三件目、施設をぐるりと一周した俺は電柱に身を隠しながら頷いていた。
不審者の姿は見当たらない。お迎えに来た保護者と仲良く連れ立って帰る幼児たちを襲うバカ者はいない。
平和だな。まあ、不審者ってのもデマや見間違いの可能性もあるしね。
もうすぐ暗くなるし、この辺で切り上げて帰る事にしよう。
不審者なんていなかったんやーこの街は平和で済みやすい街です。良かったよか・・・・お?
帰宅途中の公園でブランコを発見。もう長いこと乗っていないなぁ。
の、乗ってみたい。ちょっとだけ、ちょっとだけいいよね。
「おおーすっげー。たのしー」
一人でブランコに乗り『キャーキャー』大はしゃぎしてしまった。
明日これをやったら即通報ですわ。今だけしかできなハメの外し方ですよ。
ブランコ楽しいー。こんなにいいものだったのね。
「ねえ。そんなに楽しいの?」
「久しぶりだから、すっごく楽しいぞ」
「隣いい?」
「俺専用じゃないし、いいんじゃね」
「うん」
はしゃいでいる俺が気になったのか、一人の女の子が隣でブランコをこぎ出して仲良くなった。
それから10分もしない内に、公園で遊んでいる子供たちのグループに入団していた俺です。
男女混合の10人ほどのグループに俺はゲスト扱いでチヤホヤされていた。
「こう見えても大人なんよ」
「ええーうっそだぁ。この中だと、マサキちゃんが一番小さいじゃん」
「嘘じゃない。この姿でいられるのは今日限りだ」
「喋り方、男の子みたい」
「男だからな」
「なあマサキ、俺たちとサッカーしようぜ」
「いや、マサキは鬼ごっこの方がいいよな」
「バーロ―。こういう時はプロレスごっことかの接触系の遊びを選べ。ラッキースケベのチャンスだぞ」
「「「「その手があったか!!」」」」
「ちょっと男子ー。マサキちゃんにスケベ行為をしたら……社会的に死なすわよ?」
「「「「すんませんでしたぁ!!」」」」
「まあまあ、ちょっとぐらいならかまわんよ。俺でよければ、とらぶる体験しとけ」
「「「「こいつ女神か!!」」」」
「マサキちゃん!?男子の性癖破壊するのやめて!!」
俺は子供たちと童心に帰って心行くまで遊んだ。
そうこうしていると孤児院にいた時の懐かしい記憶が呼び起された。
あの頃も毎日たくさん遊んで、特に仲の良かった子といつも一緒に、一緒に・・・誰だっけ?
なんだか記憶が曖昧だ。俺と仲良くしてくれた子がいた事だけはわかる。
思い出せない・・・けど、大きくなって元気でやっていてくれたらいいな。
どっぷり日が暮れて子供たちとは解散と相成った。
俺は一日限りのスペシャルゲストとして彼らの思い出になり、そして忘れ去られていくのだろう。
これでいい、これでいいのだ。寂しいけど・・・サラバダー(ノД`)・゜・。
愛バが帰って来るまでに部屋の掃除をして風呂も沸かして・・・
「うう、持病の腰痛がぁ。いたたたた」
帰宅を急いでいると歩道に倒れ込む人影が見えた。
尻を高く上げうつ伏せになった老婆?すげー変なポーズだ。
「あーどこかに優しい幼女はおらんかね~。あいたたたたた」|д゚)チラ
ワザとらしい事この上ない。しかも、今こっち見た。
どうしよう?スルーしたいけど、本当に困っていたら大変だ。
ぱぱっとヒーリングして即行で立ち去ればいいか。
「大丈夫ですか?お婆さん?」
「おやまあ、なんと可愛らしい子だろうね。いたたた、腰が、私の腰が」
おまえのようなババァがいるか!!みたいなお婆さんだった。
こいつ男じゃね?ババアのヅラが少しずれてますよー。
筋肉質というよりヒョロガリ系のババア(たぶん変装)・・・スルーすればよかった。
「こんなに痛がっているのに、誰も見て見ぬふり、およよよ」
「それはあなたが怪しさ満点だからでは?」
「あー!こ、こ、腰がぁ!腰が私の仙骨が複雑骨折で粉々にーーー!!」
「それヤバいですよ!今すぐ救急車呼ばないと」
「救急車はやめとくれ、死んだ爺さんとの約束で救急車に乗ると、あたしゃ死ぬ!」
「それ約束じゃなくて呪いですよ。ええい!とにかくヒーリングだ」
「んおほぉ!腰がビクンビクンッしちゃうの」
「動かないでお婆さん正直キモイです。殴り飛ばしそうになるぐらい不快です」
ヒーリングをしてやったら気持ち悪さがアップした。
おい、腰動いてんじゃねーか!めんどくさいので適当に治して早く帰ろう。
・・・・・・・・・・・・・・・・ババアは腰を痛めてないし骨折もしていなかった。
途中で気付いた俺はババアの尻を蹴った。ババアは『ひぎぃ』と鳴いて飛び起きた。
「おかげさまでスッカリ元気になった」
「最初から骨折してないですよね?何が目的か知りませんが奇行は程々にしないと通報されますよ」
「お礼に我が家へ招待しよう。来てくれるよね」
「ババアのフリは止めたのですね。じゃあ、俺はこれで」
「ちょうどそこに白のハイエースがある。さあさあ、乗って乗って」
「誰が乗るか!もういい!今すぐ通報してやるから覚悟しろよ」
「てい」プシュー
「なっ!?」
スマホを操作しようとした俺、そこに隙が生まれた。
ババア(偽)は咄嗟に俺の顔目掛けて何かを噴射した!?何だコレ制汗スプレー?
驚いてスマホを落としてしまったじゃないか・・・あ、あれ?
「何だ…なに……しやがっ……」
「噴射型の睡眠薬だ。超強力だが体に害はない」
アホ!害が出とるわ。出まくっとるわ!
体がふらつく、意図しない強烈な眠気が俺を襲う。
てめぇ、こんな事してタダで済むと思うなよ。
俺に何かあれば黙っていないヤベェ奴らがたくさんいるんだからね!
「く…そ……」
ああ、俺はなんてバカなんだ。
こいつだよ、不審者の正体はこいつだったんだよ!
恐らく公園で遊んでいる時から目星を付けられ、俺が一人になるのを虎視眈々と待っていたんだ。
しかも、ババアに扮して仮病とか・・・こんなふざけたやり方で・・・完全に油断していた俺の落ち度だ。
もう、立っていることもできず地面に倒れる。
くっ!何とかしてこの危機的状況を知らせないといけないのに・・・思念通話は無理、できたとしても距離が遠すぎる。
「この子か?おお!すげー美幼女だな」
「こ、これなら、神も文句なしっスね」
「丁重に運んでやれ、この子は大事な供物だからな」
「追跡されぬよう、スマホはここで破壊しておけ」
「わかってるって」
声が聞こえる複数の男の声だ。さっきの車に仲間が乗っていたのか・・・
触んな!と抵抗することもできず、俺は男たちによって白のハイエースへと運ばれてしまった。
俺スマホ踏んづけて壊した奴、弁償しろ!
「行くぞ。皆待っている」
「ああ、全ては我が神のために」
何が神じゃ!シャミ子なら今頃きっと笑ってるはずだよ、チクショウ―!
意識が朦朧とする中で、俺は自身の情けなさと愛バたちへの申し訳なさでいっぱいだった。
ねえ、俺どうなっちゃうの?