俺と愛バのマイソロジー   作:青紫

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一難去ってまた一難

 オッスオラマサキ!

 今、見知らぬ男たちと快適とは言い難いドライブの真っ最中だ。

 仮病ババアの罠に掛かってご覧の有様だよ!

 愛バの忠告を無視した大バカ者とは俺のことだ。

 

 でもさあ、いきなり睡眠ガスを幼女の顔面に噴射するなんて酷い奴らだと思わない?

 もろに吸い込んで意識を失った俺は、奴らのワンボックスカーまでご招待されたって訳。

 怪しいババアを助けようとしただけなのに、なぜこんな目にあわなくてはならんのか?

 おのれ幼児誘拐犯たちめ!人の善意を踏みにじった報い、思い知らせてやるから覚悟しておけ!

 

「よく眠ってる。何だ、この子、めちゃクソ可愛いんだけど?」

「数日間、吟味した中でも最高の幼女だぜ。苦労した甲斐があった」

「途中で起きたりとかしませんか?」

「即効性かつ強力な睡眠薬を使った。アジトに着くまでは起きるはずねぇ」

「そっか。ならば今がチャンス!天使の寝顔を凝視せざるを得ない!」

「お前だけズルいぞ。運転変われや!」

「しゃ、写真は?撮影してもよいのでしょうか」

「丁重に扱えと言っただろう。お触り厳禁だ」

 

 車内にはババアに変装していた奴を含めて4人の男が乗っている。

 後部座席に寝かされた俺を今すぐどうこうする気は無いようで安心した。

 今どの辺だろうか?拉致された場所からは大分離れたと思う。

 寝顔を見られていると思うと、迂闊に目を開けて外を確認することもできない。

 

 眠っている癖にごちゃごちゃ考え事をしているのはおかしいだって?

 フフフ、気付いたか。そうだよ!俺は寝たフリをしているだけだ。

 眠気でふらついた瞬間、誘拐犯たちに気付かれないよう、とある行動をしたのが功を奏した。

 何をしたのか説明すると、以前にゴルシからもらった激烈冷感湿布"ゴールド湿布"を体に貼り付けたのだ。

 うひぃー超爽快!COOL!COOL!COOL!COOL!

 痛みを伴う程の冷えを感じて『あひゃぁ(゚∀゚)』と叫ばなかった自分を褒めてやりたい。

 我慢した甲斐があり、眠気には何とか抗うことができた。

 ありがとうゴルシ。クソの役にも立たないなんて言ってごめんね。枯れ木も山の賑わいだったよね。

 一つ誤算だった事がある。ポケットに入れっぱなしだった湿布に気付き、貼り付けるまでほんの僅か、どこに貼るかなんて選んでいる暇は無かった。

 だからって、どうして尻に貼るかなぁ・・・おかげで自慢のロリヒップがキンキンに冷えてやがるぜ。

 寝たフリしながら凍える尻に耐えるのは中々の苦行である。無事に帰れたら愛バに尻を擦ってもらおう。

 

 ようするに、俺は逃げようと思えば逃げる事ができた。

 でも、それをせずに大人しく捕まってやったのには理由がある。

 幼女誘拐などロリコン(善)の俺には許せぬ犯罪だ。多少なりとも懲らしめてやらなければ気が済まない。

 そう思い立ったが吉日。今日限りの幼女姿でワザと捕まり奴らの懐に潜り込むことにした。

 可能な限り情報収集した後は華麗に逃走!警察とギルドに『タスケテ―!』と駆け込めば任務完了だ。

 俺は転んでもたたでは起きない男!己に課したこの重大ミッション、成し遂げてみせる。

 

 尻の感覚が麻痺して来た頃、車はようやく停車した。アジトに到着したらしい。

 車を降りて行く男たち。ここからは徒歩で移動かしら?

 体を持ち上げられる感覚、男の一人が俺をお姫様抱っこして運ぶ気だ。

 もう変なところ触らないでよね、金取るぞ?

 

「うへぇ、階段で4階まで行くんスか…エレベーターは?」

「とっくの昔に故障中みたいだな。年季の入った廃ビルだけの事はある」

「アジトにできる場所があるだけマシと思う事にしようぜ」

 

 廃ビルか、悪い奴のたまり場としは定番のチョイスだ。

 男たちはぶつくさ言いながらも軽快な足取りで階段を登って行く。

 程なくして4階へと到着した彼らは迷うことなく進んで行き目的の場所へたどり着く。

 新たな人の気配がする。待ち構えていた何者かと会話をしているみたいだ。

 

「戻ったか。それで収穫は?」

「バッチリだぜ。ほら見ろよ」

「うおっ!こいつは……すげぇ美幼女連れて来たな」

「そうだろ。このレベルの幼女には滅多にお目にかかれないぜ」

「通ってもいいよな?」

「ああ、みんな首を長くして待っていたぞ」

 

 話をしていたのは奴らの仲間でアジトの門番らしい。

 開け放たれた扉の先で誘拐実行犯たちを待っていたのは歓声の嵐であった。

 拍手と労いの言葉で気を良くした男たちは、戦利品である俺を『どうだ!』と言わんばかりに見せつけている。

 それにより仲間たちの熱気と興奮は更に強くなる。

 『よくやった!』『おお、そいつが』『ヒャッハー!極上の幼女だ』等々の叫びが部屋を埋め尽くす。

 バレないように薄目を開けてみたが、ざっと見て30人前後ってところか・・・少ないけど女もいる。

 

「待っていましたよ。首尾良くいったようですね」

「「「「ロリスキーさん!」」」」

 

 何やら偉い奴が登場したっぽい。

 騒がしかった室内が静かになり、実行犯たちも恭しい態度をとっている。

 なるほど、リーダー様のご登場ってわけか。

 ロリスキー?それが名前だとしたら相当ふざけてるな。

 

 俺の体は柔らかなクッション性のある場所、恐らくソファーの上にでも寝かされた。

 目を瞑っていてもジロジロと見られているのを感じて居心地が悪い。だから、金取るわよ?見物料払いなさい。

 

「へへ、見て下さい。どこに出しても申し分ない幼女ですよ」

「どれどれ……こ、この幼女は!?」

「うぇ!この子でもダメですか?ロリスキーさん面食いにも程があるでしょ」

「そうではありません。この子は偉大なる"あのお方"と入れ替わりに現れた存在です。BBAたちが常に護衛をしていたので接触は諦めていましたが、まさかこの様な形で手に入れることができるとは……でかした!あなたたちは大変良い仕事をしてくれました」

「やった!俺たち二階級特進ですかい」

「バカ、それだと殉職したみたいだろ」

「褒美は……これなどいかがでしょう?」

「こ、これは!?ロリスキーさん秘蔵の激レア"ロリブロマイド"」

「ピントがややズレているが間違いない。こんな貴重な物を、本当にいいんですか?」

「非常に貴重な品ですが、大仕事をやり遂げたあなたたちに相応しいでしょう。一枚しかないので拝むのはケンカせず順番に、あと保存には細心の注意を払って……聞いてますかー?」

 

 激レアブロマイド!?み、見たい、見たいけど我慢だ。

 とっくの昔に気付いていたが、こいつらはロリコン(悪)の集まりということでOKね。

 さて、ここからは慎重に動かないとな。

 しばらく寝たフリで聞き耳を立て、隙をみて奴らの人相を確認する。

 最低でもロリスキーとやらの顔はしっかり覚えて帰らなければ、脱出方法も考えないといけないし、やる事いっぱいだ。

 

「入手難易度最高ランク、とある令嬢の幼少期隠し撮り写真」

「すごい!すごすぎる。こんなのが拝めるなんて夢みたいだ」

「撮影した奴は命知らずだな。マジで尊敬するわ」

「で、この子は一体誰なんです?」

「お前そんな事も知らねーのか?前髪に特徴的な形の模様が入っているだろ」

 

 令嬢の盗撮写真とはいい趣味してんなあ。それは貴様らロリコン(悪)には過ぎたる物だ。

 どこの誰かは知らないけれど写真は没収して、お焚き上げするのがいいだろう。

 これが愛バや知り合いの写真なら永久保存待ったなしだけど、そんな事あるわけないよな。

 はははは・・・

 

「え!?嘘、これマジっすか!」

「そうさ、クレイジーな噂の絶えないウマ娘と言えばわかるだろう。みんなで正解を言うぞ、せーの」

「「「「サトノダイヤモンド!」」」」

 

 は?キレそう。

 

ちょっとその写真、見せてもらえますか?

「「「「え???」」」」」

 

 俺は飛び起きた。もう潜入ミッションとかどうでもよくなった。

 突然の事で面食らい対処不可能に陥った奴らに近づいて写真を凝視する。

 シロの写真は操者権限で没収だ。さあて、どんな場面を盗撮したのか見せてもらうぜ。

 

 そこには、前髪に白い模様が入ったロリウマ娘が写っていた。

 白くて丸い模様がかわ・・・丸?・・・あれれ、◇じゃなくて〇に見えるぞ。

 と、言う事はですよ。

 

「人違いじゃないか!!」

 

 ウマ違いとも言う。模様だけでなく、よく見たら顔も全然似てない。

 耳の形も大きさも、知的で何処か愛嬌のある瞳も、アレもコレも全部違う!

 こんなのうちの子じゃないよ。俺の知っているシロじゃない!

 

「もう起きただと!?薬の効き目が悪かったのか」

「なんかめっちゃキレてる」

「取り押さえろ。逃げる気だぞ」

 

 俺が動いたり叫んだりした後で、ようやく我に返った奴らが騒ぎ出す。

 だが、今はそんな事はどうでもいいいんだよ!

 

「この写真の子はサトノダイヤモンドではない!断じてない!」

「な、何を根拠にそのような事を、私がそれにいくら払ったかご存知なのですか?それは間違いなく本物だと……」

 

 俺の断定に震える声を出す男がいる。

 こいつがロリスキーか、何処かで見たようなヒョロガリ眼鏡野郎だな。

 

「シロのチャームポイントが全然違う。こんなもん間違い探しにもならんわ!」

 

 俺は怒りのままに説明してやった。

 ひし形の模様が正解だということに始め、本物がどれだけ美しく可愛らしいか懇々と語ったのだ。

 語っている最中にも、じっくり写真を見て解った事だが、不自然な背景と極微量な歪みのようなものを発見してしまった。

 もしかしてコレ、合成写真なのでは?そもそも写っているのはウマ娘じゃなくて、つけ耳している人間なのでは?

 

「バカな……それでは私は、私は…」

「詐欺られたな。そもそもコレどこで買ったんだよ?売った奴はもうとんずらしてるだろ」

「ウマカリで出品されておりました。とても丁寧な応対で、気持ちよく取引できたのですが…」

「大変っスよロリスキーさん!この子の言う通り調べてみたら、出品者が垢BAN食らってます」

「何ィィィーーー!?」

「あーやっちまったなあ」

「ロリスキーさん、お気を確かに」

「『ロリ物と聞いて購入したらBBA!』よくある事っス」

 

 のけ反りながら嘆き続けるロリスキーが哀れに思えてきた。

 慰めてくれる仲間がいて良かったな。

 

 参ったな、勢いで起きてしまったぞ。この時点で潜入ミッションは失敗だ。

 大体の人数と顔は確認できたし、俺はこの辺でおいとましようかな。

 そーっと、そーっと、抜き足差し足でね。

 

「お待ちなさい!」

「誰が待つかボケ。あばよ!」

「あ、逃げるぞ!」

「待て!」

「オーク!出番ですよオーク!」

 

 出入口扉目掛けてダッシュ!誰にも止められないぞ。

 ロリスキーがなんか喚いているが無視して行くぜ。

 

「ま、まつんだな」

「何だこいつっ!?」

 

 逃走ルート上の扉が開け放たれ、2メートル近い巨漢が現れた。

 筋肉質の太腕にでっぷりとした太鼓腹、ハゲ頭に豚によく似た顔面をしている。

 異世界ものに結構な頻度で登場するオークと呼ばれるモンスターそっくりだ。

 に、人間なんだよな?

 

「にがさない。おで、おまえ、つかまえる」

「やれるもんならやってみろ!」

 

 こいつ、たどたどしもの言いのパワータイプか、解りやすいな。

 オークと俺では体格差がありすぎる。それを上手く利用させてもらおう。

 考え無しに突っ込むと見せかけて急停止、大きな腕が空振りしたところで左側から一気に抜き去る。

 

「つ、つかまえたんだな」

「は!?え!?」

 

 ぶよっとした何かにぶつかる感触。これはオークの腹だ!?

 そのまま両腕で拘束されてしまう俺。

 お前怪力鈍重キャラじゃないのかよ。その見た目で反応速度がおかしいだろ!

 チッ、デブはデブでも動ける方のデブだったか。

 ミスった。最初からバスカーモードを使って逃げるべきだった。

 今からでもこいつをブッ倒して・・・

 

「がぁ!」

「ククク、オークを甘く見ましたね。大人しくしてもらいましょうか」

 

 体に衝撃が走る。ロリスキーが俺にスタンガンを押し当てたのだ。

 今日こんなんばっかりだ!だが、ここで気絶してなるものかよ。

 残念だったな。俺の尻はまだ冷えてるぜ!早くこの湿布剥がしたいわー。

 

 〇

 

 気絶こそしなかったが、電気ショックの影響で体に力が入らなくなった。

 今の俺は、ロリスキーたちによってロープで体をグルグル巻きにされ、ボロっちい椅子に座らされている。

 回復までしばらくかかりそうだ。逃げる隙をうかがいつつ、会話で時間を引き延ばそう。

 

「俺をどうするつもりだ?わかってんのか、これは犯罪だぞ」

「このスタンガンで気絶しないとは……ただの幼女ではありませんね」

「ロリスキーさん。こいつ普通じゃないよ、ヤバくないですか?」

「なんか嫌な予感がするっス」

 

 ロリスキーは先程の巨漢、オークを従えて余裕の態度を崩さないが、他の奴らは俺の存在に不安がっている。

 

「まあ待ちなさい。普通ではないこの幼女こそ、あのお方への供物として相応しい。そう思いませんか?」

「言われてみれば確かに」

「ロリスキーさんが言うなら、俺らは文句なんてありません」

「"あのお方"って誰だよ?」

「我らの神です」

 

 神?神の知り合いなら俺にもいる。夢に出て来るぐらい仲良しな神がな。

 

「神と言ってもあの方は実在する。言うなれば現人神なのです」

「あ、宗教とか興味無いんで結構です。神より、お前たちの事を教えてくれよ」 

 

 神について熱く語ろうしたロリスキーを制した。

 こいつにはヴォルクルス教団を率いていた頃のルオゾールと同じ臭いを感じるぞ。

 語りを邪魔されたロリスキーは気分を害した様子もなく『いいでしょう』と自己紹介に応じた。

 

「我が名は露理鋤(ろりすき)(みこと)。皆からはロリスキーと呼ばれております」

 

 ろりすき!?・・・すごい苗字だ。そして酷い。

 オリキャラの名前を考えるのが『クソめんどい!』という未知のプレッシャーを感じる名前だぜ。

 

「こちらの大男は大久田(おおくだ)(あつし)。団員の中でも随一の戦闘能力保持者で、あだ名はオーク」

「よ、よろしくなんだな」

 

 おおくだ・・・だからオークなのね。

 俺を捕まえた手腕は確かなようで、仲間内では一番強い奴ね・・・スピードもあるし要注意だな。

 

「他の者は、面倒なので割愛します」

「「「「ええー、そりゃないっスよぉー」」」」

 

 そうしてくれるとありがたい。№1と№2が判明すれば十分だ。

 ガッカリして肩を落とす団員たちだったが、ロリスキーとオークが目配せすると二人を中央にしてズラッと整列した。

 

「「「「我らはMML団!!」」」」

 

「「「「神の教えに従い尊くも儚い存在を見守る者なり!」」」」

 

「「「「すなわち!幼女大好きだぜー!!」」」」

 

 だぜー!じゃないが?

 30人近い大人が奇妙なフォーメーションを組み、声を揃えて何をほざいているんだろう。世も末だな。

 お前が言うなって思った?

 俺はこいつらみたいに群れたりしないし、迷惑もかけない。孤高の幼女愛好家だよ。

 

「そして偉大なる我らが神ぃぃ!その名も━━」

 

 ロリスキーが手で指し示す場所にスポットライトが当たる。

 そこにあったのは、豪奢な額縁に飾られたB1サイズの肖像画だった。

 どこかでというか、少し前までいつも見ていたような?最近見てないような男の顔に似ている。

 顎が異常に尖っているのが気になる。どこの学園ハンサムだよ。

 

アンドウマサキ様である!!

「「「「うおおおっ!マサキ様ー!マサキ様ー!マ・サ・キ!!」」」」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?( ゚Д゚)

 

「ごめん。もう一回言ってくれる?」

 

 気のせいだよな。気のせいに決まっている。気のせいじゃないとおかしい!

 

「アンドウ!マサキ!様であーるぅぅぅっ!!」

 

 気のせいじゃなかった・・・_| ̄|○ 

 やっぱりアンドウマサキと言っているよ。

 じゃあ、同姓同名という可能性は?

 日本中探せばアンドウマサキなんて名前の奴、わんさかいるよね、ね!

 

「トレセン学園で養護教官をしていらっしゃる、アンドウマサキ様です」

「・・・・」(T_T)

 

 オッケーオッケー。わかった現実逃避はひとまずやめよう。

 まずは認める事から始めようじゃないか、どうやら俺は知らぬ間に神となっていたようだ。

 MML団というロリコン(悪)の信仰対象として祭り上げられてしまっている!?

 

「MMLとは何の略だ?」 

「マサキ様、マジ、ロリコン、の頭文字をとって……」

「バカ!バーカ!バ――カッッ!!ホントにバッカじゃねぇの!」

「きゅ、きゅうにあばれだしたんだな。お、おち、おちつくんだな」

「我らの団名をバカにするとは、なんと罪深い」

「このふざけた絵はなんだ!顎が尖りすぎなんだよ!最早ただの凶器だよ!」

「マサキ様のご尊顔を描いていると、つい筆が乗ってしまいましてな」

「お前が描いたんかい!」

 

 頭の悪い団名にも、ロリスキーが描いた鋭利な顎にも腹が立ってきた。

 何なんだよお前ら、俺を崇めたいのかバカにしたいのかハッキリしろよ。

 好き勝手に人を神様扱いして、そんなのルオゾールたちで間に合っている。

 

「我らの事は理解できましたな?次はそちらの番です。あなたのお名前を教えてください」

「……アンドウマサキ」

「そう、それこそが偉大なるお方の名前です。魂に刻みつけると良いですね。で、あなたのお名前は?」

「アンドウマサキ」

「神の名を呼ぶ時は『様』をつけて敬うのがよいでしょう。あの、名前を……」

「マサキだ。俺がマサキだ」

「頑なにマサキ様の名を呼んでいる。これは一体?」

「もしかして、この子、俺たちの仲間になりたいんじゃないっスか?」

「何ぃ!入団希望者だと!?」

「か、かわいいこは、だいかんげいするんだな」

「その若さでMML団の志に感銘を受けるとは、なんと聡明で純真なる魂」

 

 入団なんかするかぁーー!だからさぁ(# ゚Д゚)

 

俺がアンドウマサキだって言ってんだろォ!!

 

 いい加減頭に来たので、バスカーモード発動させた。

 体を拘束するロープを引きちぎり椅子から立ち上がる。

 

「なんだ何が起こった!?」

「やっぱり普通じゃないっスよ。あの子おかしいっスよぉ」

「この光……まさか全て覇気なのか?」

 

 舞い散る粒子光で辺りは騒然となった。

 多少なりとも腕に覚えがある奴らは、俺の覇気を感じ取り慌てふためいている。

 

「お前らぁ!誰の許可で団体結成しとるんじゃあああ、ああコラぁ?」

 

 一回りも二回りも大きな大人たちを威嚇しながら吠える。

 質問に答えたのは代表であるロリスキーであった。

 

「ある日、マサキ様が夢枕に立ちおっしゃいました『ロリスキーよ。同志を集め幼女愛を世界に広めるのだ。お前にその大役を任せよう、頼んだぞ』と」

「お前の夢というか、ただの妄想だろうが!俺はそんなことを言った覚えはない!」

「自分とマサキ様を混同するのはおよしなさい。不敬ですよ」

「俺が俺を名乗って何が悪い」

 

 ダメだ、話が通じない。

 俺がマサキ本にだと信じさせるにはどうしたら?もういっそのこと全員やっちまうか?

 

「聞き分けの無い子ですね」

「どっちがだよ」

「ロリスキーさん。お、俺たちはどうしたら?」

「あ、あぶないんだな」

「善意の協力者として丁重に扱うつもりでしたが、こうなっては仕方ありません」

 

 俺の覇気に危機感を抱いたロリスキー、息を整えてから宣言する。

 

「これより、マサキ様再臨の儀を執り行う!」

「「「「うおおおっ!待ってましたぁ!!」」」」

 

 団員たちの雰囲気が変わった!?

 威勢と活気を取り戻した団員が俺の周りをぐるりと取り囲む。

 なんだ?やる気か?

 

「へへへ、お嬢ちゃん。まずはこいつに着替えてもらおうか?」

 

 団員の一人が差し出してきたのは園児服、スモックと呼ばれるやつだった。

 何それ気持ち悪っ!着るかボケ!

 

「おい嫌がってるだろ。天使のようにカワイイ君には、こっちの衣装が似合うよ」

 

 別の男がミニサイズのナース服を取り出す。コスプレして白衣の天使になれと?

 はい、鳥肌が立ちましたよ。

 後退り首を振る俺に団員(変態確定)たちが、代わる代わる様々な衣装を着ろと要求して来る。

 悪夢だ。

 

「まてまて、引いてるだろ!やっぱセーラー服だよな、な!」

「おっと、こんなところに水着が……せっかくだから着てみない?」

「選り取り見取りだぜ。好きなの選んでくれよな」

 

 キモいよぉーー!!

 こいつら俺の幼児体形に合うミニサイズのコスプレ各種を完備してるよぉーーー!

 おまわりさんこいつらです。変態の巣はここです!今すぐ来て!!

 

「衣装は後回しにしようぜ。大事なのは心ときめくシチュエーションだ」

「「「「確かに!!」」」」

 

 変態たちは止まらない。俺のサブイボも治まる気配がない。

 

「俺のことはお兄ちゃん…いや『にぃに』と呼んでくれ!」

「バブみを感じてオギャりたい。甘えていいかな?」

「思いっ切り蔑んでほしいなぁ。具体的には『このブタ!』と言いながら足蹴にされると幸せ////」

「ダメダメ、この子には百合ん百合んの素晴らしさを教えるんだから」

「俺だって━━」

 

 コスプレの次は希望シチュのプレゼンが始まった。

 もう嫌、脳が腐りそうよ。

 

「全部お断わりだ!」

「「「「そ、そこをなんとか!!」」」」

「おい!これは一体どういう事だ?幼女の俺にもわかるよう説明しろ」

「これは儀式です。マサキ様を現世へと呼び戻すための儀式」

「意味わからん」

「簡単な事ですよ。我らが楽しく"幼女とキャッハウフフ"していると知れば、マサキ様は『まぜて~♪』と喜び勇んで現れてくれるでしょう」

「ロリスキー、あたまいいんだな」

「はぁぁっ!?」

「あなたほどの高レベル幼女ならば、マサキ様もご満足されるはずです。さあ、自信をもって!」

「が、がんばるんだな」

「いらん励ましをするなバーカ」

 

 俺がそんなのでおびき出されるバカだと思ってたのか!なめるの大概にしろよ。

 

 事件の全貌が見えて来た。

 アンドウマサキを神と崇めるMML団は、俺の姿を見て祈りを捧げる事を日課にしていたらしい。

 知らぬ間に集団ストーカーされていたとか、普通に怖いぞ。

 今気づいた。学園への登校中に見た変な集団はMML団で、トリップしていた怪しい男はロリスキーだったのだと。

 一週間程前から俺の姿が見えなくなり入れ替わりに謎の女が現れた。更にそれを小さくしたような幼女の登場にロリスキーたちは大いに混乱した。

 わけがわからない状況を都合よく解釈するに至ったMML団は、これを神(俺)からの試練だと思うことにした。奇しくも俺がシャミ子から試練を受けいる最中にこんな事に・・・マジ迷惑!

 ロリスキー曰く『信者たちよ、俺を見つけてごらんなさい~』という電波を受信したのだという。

 闇雲に探しても見つからないと判断したロリスキーは一計を案じ、ひらめいた。

 それこそが『美幼女を準備しておびき出そうぜ計画』だ。

 幼稚園をうろついていた不審者の正体は、神のお眼鏡に適う美幼女を見繕っていたMML団員である。   

 運命のいたずらか、それにまんまと捕まったのが俺だったとは・・・

 お前ら、神と崇める男をおびき出すどころか捕獲しているぞと、教えてやりたい。

 

 だが、その前に言いたい事がある

 

「そんな理由で誘拐などしたのか?攫われて恐怖する幼女の気持ちを、帰って来ない子供を心配する親やその家族の気持ちを、少しは考えろ!」

 

 俺だから良かったようなものを、普通の幼女が被害に遭っていたら大問題だぞ。

 

「我らとしても苦肉の策なのです。だが、マサキ様がお戻りなれば全て解決します」

「するかぁ!」

「あなたもマサキ様にお会いすれば解りますよ。あの方の御威光がね」

 

 何がMML団だ。こいつらわかっていない、本当に何もわかっていない!

 

「さて、もういいでしょう。収拾がつかなくなる前に儀式を始めます。記念すべき最初シチュは・・・団員ナンバー25番にあなたの案に決定です」

「「「「おお……!」」」」

 

 強行突破で儀式を行おうとするMML団、説得する暇もありゃしない。

 最初のシチュ!?こいつらの望むプレイの全てに俺が付き合わないといけないのか?

 冗談じゃない。

 

「やったぞ。僕がトップバッターだ!さあ、お嬢さん。この哀れなブタを力の限り罵ってくれ!おっといけない、女王様と呼ぶべきだったね」ハアハア

 

 ドⅯ野郎が鼻息荒く迫って来た。よりによってお前かよ!!

 

このブタぁぁぁッ!!

 

 優しい俺は望みを叶えてやる事にした。

 覇気を込めた強力な金的蹴りをお見舞いしてやったのだ。

 

「あふん///」パタリ

 

 幼女の蹴りだと侮る事なかれ、ドⅯ野郎は衝撃で一瞬だけ宙に浮き、恍惚の表情で崩れ落ちた。

 

「25番が逝ったぁーーッ!?」

「ほっとけ奴も本望だろ」

「あの顔見ろよ。なんて幸せそう……」

 

 俺はファイティングポーズをとる。バスカーモードも再起動した。

 多少は回復した、いける。

 

「抵抗する気ですか、この人数相手に?」

「お前ら如きにやられる俺じゃねえ」

「さっき、おでにやられたんだな」

「そんな事知らね」

 

 やられてない。あれはちょっと油断しただけなのでノーカンだ。

 

「誘拐という暴挙に出たお前たちに、幼女と楽しく遊ぶ権利などありはしない!」

「確かに正論だな」

「惑わされてはいけません。早く取り押さえなさい!」

「よーし!あの子を大人しくさせた奴が好きにできるって事だな」

「へへ、俄然やる気が出てきたぜ」

 

 戦闘開始!とりあえず全員ぶちのめす事を目標に動くぞ。

 

「ひとつ、教えておいてやる」

「何だ急に偉そうにして━━」

幼女は手折るものではなく、愛でるものだ!!

「「「「ぐあぁぁ!なんと言う真理だぁーーー!!」」」」

 

 『幼女は愛でるもの』これこそがアンドウマサキの教義であり、宇宙の真理である。

 俺の言葉にヤックデカルチャーした団員たちが動きを止める。

 ショックを受けている時点で、お前たちには修行が足りない。幼女への愛が足りないのだよ!

 

「隙だらけじゃい!」

 

 手近な奴の腹に拳を突き出すと男が吹っ飛んだ。ひとつ!

 呆気に取られた隣の女に"見逃しちゃう手刀"を食らわし昏倒させる。ふたつ!

 みっつ、よっつ、いつつ、むっつ・・・このままドンドンいくぞ!

 

「「「「ぅゎょぅι゛ょっょぃ!!」」」」

「言ってる場合か!あべしッ」

「ロリ神様のお怒りじゃ!俺たちは禁忌に触れてしま……ぐへっ」

「待ってくれ!俺には大事な家族とも呼べるPCのお宝ファイルが大量に、あ゛あ゛」

「こんなところにいられるか!俺は家に帰るぞ。いやホントもう帰りますんで勘弁してく…れなかったぁーー!」

 

 30人以上がひしめく中、頑張って力の限り暴れた。

 俺が戦える時間は限られていて多勢に無勢な状況だ。急ぎつつ効率よく数を減らさなくてはいけない。

 

「ロリスキーさん!デバイスの使用許可を!」

「やむを得ません。なるべく傷つけないよう、お願いしますよ!」

「無茶を言ってくれる。手加減して勝てる相手じゃないってのに」

「お、おれも、いくんだな」

 

 残り数人になった。

 あともう一息だ。残ったのは戦闘訓練を受けた者らしく、デバイスの使用もためらわない。

 ロリスキーと、先程遅れをとったオークの姿も見える。

 

「装着!……は?あれ?」

「後ろだ!背中に幼女が張り付いてるぞ」

「どうも俺です」

「う、おお!?」

 

 敵の前でポーズを決めてデバイス装着とは、なめてやがるなぁ。

 その隙を見逃す俺じゃありませんことよ。

 装着中の相手に触れ、ちょこっと強引に覇気を流してやると・・・ほら、この通り。

 デバイスの顕現を妨害できるって訳よ。

 シュウが言うには『こんな芸当、バカかマサキしかやりません。というかできません』だってさ。

 はいはい、装着に失敗した奴の意識を奪っちゃおう。頸動脈を絞め絞めしちゃうぞー!

 

「そいやっ!」

「ふぐ……」

「またやられたぞ」

「接近されるな!距離をとってデバイスを」

「おっそーい!」

「こいつロリスキーさんを狙って!?」

「その首もらったぁ!」

「オーク!」

「まかせるんだな」

 

 オークは既にデバイスを顕現させていた。

 ロリスキーを庇うように立ち塞がる。

 使用デバイスは・・・ほう、ちょっとお高い"高機動型ガーリオンカスタム"じゃん。

 この動けるデブめ!

 スピード勝負?そんなのするわけないじゃない。

 小細工なしで直進、オークとぶつかり合う。

 

「な!?おでと、ちからくらべ、するつもり???」

「ああ、勝負だ」

「バカめ!どう見ても、そいつは無理ってもんだ」

「オークさん。やっちまってくださいよ」

 

 巨漢と幼女、互いの振りかぶった拳が激突した。

 ここだ!バスカーモード出力アップ!

 

「ああああ!」

「な、がぁッ!?」

 

 俺以外、誰も予想だにしていない結果が生じる。

 幼女の拳が巨漢の拳を打ち負かし跳ね上げたのだ。

 バランスを大きく崩すオーク、何が起こったかわからないといった顔だ。

 ロリスキーは握りしめていたスタンガンをとり落し、残った団員は言葉もなく立ち尽くす。

 まだ!次は足!続いてオークの足を攻撃した。

 踏ん張りが利かなくなった巨漢は背後の守護対象、ロリスキーの下へと倒れる事になる。

 

「う、うわぁ!」

 

 寸前のところで慌てて回避するロリスキー。奴が床に落としたスタンガンはもらったぜ。

 スイッチはコレかな?倒れたオークにスタンガンを押し当てる。

 

「ぐばべばば!?!?」

 

 一回じゃ気絶しなかったので何度も連打した。その度に大きな体が激しく痙攣する。

 オークの意識が落ちたのを確認して、ロリスキーを含む残存勢力を睨みつけた。

 

「まだやるかい?」

「くそぉ。ロリスキーさんだけでも助けないと」

「こうなったら死なばもろとも」

「やってやる、やってやるぞ!」 

「待ちなさい!これ以上戦ってはなりません」

 

 最大戦力のオークを失い、決死隊になろうとする団員をロリスキーが止めた。

 おや、ロリスキーの俺を見る目が先程までとは違う気がする。

 

「あなたは何者ですか?」

「お前たちが神だの何だと言ってる奴だよ」

「その様な事が、だが、その力、神々しいまでの覇気…まさか本当に‥‥‥」

 

 ゴクリと唾を飲みこむロリスキー。

 団長のただならぬ様子に、他の団員たちは顔を見合わせて困惑している。

 小刻みに震えるロリスキーは俺に向かって手を伸ばし、何度目かになる問いかけをする。

 

「あなたの……あなた様のお名前を、どうかお聞かせください…」

 

 ふぅー、やっと聞いてくれる気になったか。┐(´∀`)┌ヤレヤレ

 

俺はアンドウマサキだよ

「「「「ははーーっ!!」」」」

 

 本名を言うと、意識のあるMML団の全員が平伏した。

 俺をアンドウマサキだとようやく認識してくれたようで何より。

 これでこのバカ騒ぎも治まるな。

 

 〇

 

 平身低頭を続けるロリスキーたち、意識を取り戻した団員たちも、それに追従するから困ったものである。

 30人近い大人たちが幼女に平伏する異様な光景は怪しい団体そのものだ。

 ただ一人、オークはスタンガンの連打が効いたらしく未だに目を覚まさない。

 息はしているので、そのうち回復するだろう。

 

「ずっとそうしているつもりか?もう飽きたらやめようぜ」

「いえ、そういう訳には……我々は神であるマサキ様に牙を剥き、とんだご無礼を……合わせる顔がありませぬ」

 

 圧倒的土下座スタイルを崩さないMML団一行。

 される側になるのは久しぶりだが結構キッツイな。

 話が進まないので、とっとと顔を上げてほしい。

 

「今はこんな姿だけど、俺をアンドウマサキだと認めたってことでいいな?」

「その通りでございます」

「言う事は聞いてくれるのか?」

「なんなりと」

「じゃあ……くるしゅうない、皆のもの(おもて)をあげい」

「「「「はっ!!」」」」

 

 殿様風に言ってみると、全員が一糸乱れぬ動きで顔を上げた。こっわっ!

 コスプレを強要された時とはまた違う、団員たちの熱い眼差しが怖い。

 

「俺の事をどこで知った?MML団結成に至った経緯は?包み隠さず説明してもらおう」

「わかりました。全てお話します」

「頼むよ」

「その昔、まだ世界が混沌のただ中にあった頃、神々と魔の軍勢が━━」

「はいストップ!」

 

 その語りは絶対長いだろ。不要な妄想はいいから、俺に目を付けたところから話せよ。

 

「ふむ。私とマサキ様の運命的な出会いからですね」

「今日が初対面のはずでは?」

「極短時間でしたが、お声をかけていただいた事があるのです。そう、あれは三年程前……」

「あ、回想に入るのね」

 

 三年前・・・ある街で某有名美術大学に通うロリスキーが暮らしていた。

 彼の趣味はテーマを決めず気ままに風景画を描くこと。

 そして、近所の公園で幼女たちを見守り、ほっこりする事だった。

 無邪気に遊ぶ幼女たちの声をBGⅯにして、キャンバスに筆を走らせるの日々のルーティーン。

 自分のささやかな楽しみを、他人に理解してもらおうと思わないし、理解されないとも思う。

 幼女に声をかけ、一緒に遊ぶなど夢のまた夢、それが即刻通報案件になる事を彼はよく知っていた。

 

 ある日、驚くべき光景を目にすることになる。それは子供たちに混じって遊ぶ変な男だった。

 自分よりやや年上の男は公園に寝泊りしているらしく、いわゆるホームレスだ。

 男は子供たちから『村長!村長!』と慕われており、村長と呼ばれる男は『ほっほっほ、今日も仲良く遊ぶんじゃぞ』と朗らかに笑っていた。

 子供たちと一緒に本気で遊び騒ぐ男・・・羨ましく妬ましいと、この時はそう思った。

 

 男は幼女、特にウマ娘の幼女に大人気だ。

 抱き着かれ、おんぶや抱っこをせがまれて、嫌な顔一つせずその希望を叶えている。

 嬉しそうな幼女の顔、それよりもっと嬉しそうで非常にだらしのない男のを見て『こいつは自分と同類なのでは?』と思うようになった。

 謎の男を観察して解った事だが、奴は子供たちの親と気軽に接していた。

 どう見ても素性の怪しい男なのに、不審者として真っ先に警戒されるべきはずなのに・・・何だそのコミュ力?

 親も親だ。何故その男と馴染んでいる?子供が何かされるとは思わないのか?

 昼間は子供たちと遊んでいる癖に、夕方から夜にかけては中学生ぐらいのウマ娘と仲良さそうにしているのも、訳が分からなかった。

 

 謎の男に対し、ロリスキーは身を焦がすような嫉妬心を感じている。

 それと同時に羨望と憧憬の感情も、日々募っていくのであった。

 

 ある夜の事、公園がいつも以上に騒がしかった。

 謎の男とウマ娘、他にも様々な年齢の老若男女がなんと、鬼ごっこに興じていたのだ。

 バカみたいに騒いで走ってクタクタになってもやめられない止まらない、本気の鬼ごっこ。

 気付けはロリスキーも参加していた。どうしてそうなったのかは、場の雰囲気に当てられたとしか言いようがない。

 序盤でアッサリ捕まってしまったが、不思議と気分は良かった。

 自分を捕まえたあの男に『ナイスファイト』と肩を叩かれた時は『ど、ど、どうも』と返す事しかできなかったが、男は親指を立てて笑ってくれた。

 男を中心に人の輪が出来ていた。誰も彼も楽しそうだった。

 その輪の中に自分が含まれている事が嬉しかった、誇らしかった。

 

 謎の男。いや、この人は凄い人だ。

 何が凄い?と具体的に聞かれると説明に困るが、とにかく凄い人だ。

 ロリスキーは目が覚める様な感覚に酔いしれながら、今後のことを考えた。

 この人のような強くたくましい男を目指そう。そうと決まれば、やるべき事はひとつ!

 弟子入りだ!この人の生き様を学ぶため、お傍に使える。自分の師匠になっていただくのだ!

 

「スズカたちとやった集団鬼ごっこ。お前もいたのか!?……ごめん、覚えていない」

「お気になさらず。当時の私は今以上にキモかったと自負しております故」

「自負するなよ。あーその、なんだ、もうちょっと体を鍛えて髪も短くすれば大分印象変わると思うぞ」

「お心遣いありがとうございます。マサキ様は短髪マッチョが好み、と」メモメモ

「メモせんでいい。それより続きを」 

「はい。私は弟子入りする決意を固めました、が……時すでに遅しだったのです」

 

 集団鬼ごっこした翌日、ロリスキーは師匠の姿を求めて街中を探し回った。

 慣れない聞き込み調査で判明したことは、師匠は既に旅立ったという結果だ。

 追いかけなくては、今を逃したらこの先一生会えない気がする。

 ロリスキーは旅立った。休学届を出し、両親を適当に説得して、師匠を追いかける旅を開始したのだ。

 

 旅立ってしばらくが経過した。

 幸運にもロリスキーはトレセン学園を出入りしている師匠を発見した。

 さっそく弟子入りを願い出たい、その気持ちをグッと我慢して一旦落ち着く。

 師匠の旅には何か重大な目的がある、それの邪魔をしてはいけないのだ。

 まずは情報収集をしなくては、自分は師匠の事を知らなすぎる。

 憧れに近づきたいという情熱と、元来の情報分析能力を駆使して師匠の情報を集め回った。

 

 師匠の名前はアンドウマサキ。これより、マサキ様と呼ばせていただこう。

 ウマ娘好きで幼女好き、重度のマザコンであり、そのうちシスコンも発症しそうな気配がある。

 旅の目的は幼い二人の愛バを救うため。

 なんと、なんという事か・・・愛するロリウマ娘をために、過酷な旅に身を投じているとは!

 私の目に狂いはなかった。やはり、マサキ様は尊敬に値すべきお方だ!

 この頃よりロリスキーは益々マサキに傾倒していった。

 

 マサキ様は旅を続ける。私はそれについて行く。

 こっそりと邪魔にならないように陰ながら応援するのが我が使命なり!

 そのために覇気の使い方も覚えた。隠形術と変装術、尾行のテクニックもプロ級になった。

 

「ずっとストーキングしてたのか!?怖いよ、声かけてよ!気付かなかった自分も怖いよ」

「なにぶんコミュ障なもので////」

 

 マサキ様にゴールドなんたらとか言う旅の仲間が出来た。

 悔しい!力と高度な戦闘技能があれば、そのポジションは私のものだったのに!

 いかんいかん、己の不甲斐なさを嘆く暇があるなら修練のひとつでもしよう。

 それに、私にも旅の仲間が出来たのだ。

 気は優しくて力持ち、頼りになるの巨漢、大久田敦さんだ。

 『お、おーくでいいんだな』との言葉に甘えて、オークと呼ばせてもらおう。

 オークとは商店街のお祭りで知り合った。

 せっかくお祭りに来たというのに、急な腹痛で苦しんでいたところを、颯爽と現れたマサキ様のヒーリングで救っていただいたのだ。

 その風貌から人に恐がられる事の多いオークにとって、マサキ様は救いのヒーロ―だった。

 『大丈夫か?食べ過ぎか?オグリのマネはしたらアカン!』と親身になって接してくれるマサキ様にオークは惚れ込んだという。

 『ま、まさき様は、さいこーなんだな』と、嬉しそうに言うオーク。

 そうでしょう!その気持ちはよーくわかりますよ。

 ここからは同じ志を持つ者の二人旅だ。いずれ同志が増えた時、オークは私の右腕…ナンバー2になるでしょう。

 

「マチタンの鼻血を治すついでに、そんな事があったような…」

「赤ちゃんプレイに没頭するマサキ様の雄姿は忘れられません」

「それは忘れろ」

 

 マサキ様、無人島生活からの~UC基地にご滞在。ふむふむ、さすがでございます。

 その後も日本全国を旅したマサキ様はファイン家と接触、行方不明となる。

 さすがでございま・・・行方不明?え?えぇぇぇぇぇーーーー!!??

 この頃、我々は同志を募り、団の前身となる主要メンバーも揃って来ていた。

 マサキ様の強さと優しさに感銘を受けた者、マサキ様のロリ魂に共感を持った者が導かれるようにして集合したのだ。

 ムフフ、SNSでの布教活動に精を出したかいがありました。

 そんな事より!マサキ様が、マサキ様がお隠れになってしまわれたぁーー!

 心労がたたって私は10キロ減量、オークは10キロ増量しましたよ。

 終わった、こ、この世の終わりだ。結局、話しかけられず弟子入りも出来ないまま・・・

 

 いや、まだだ!

 マサキ様はいずれご帰還なさる。その時のために準備を怠ってはならない。

 悲しみを堪え、ロリスキーは自分のやるべき事に邁進した。

 同志が20名を超えた記念でMML団を結成。

 マサキ様不在の今こそ我々の出番、愛する幼女たちをマサキ様に代わって見守るのだ。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 アンドウマサキ様復活ッッ!×5

 

 あの方は期待を裏切りません。思った通り五体満足でご帰還なさいました。

 あなたが神か?いや、神に決まってますね。

 弟子入りなど恐れ多い、これからは神に仕える一信者として崇めさせていただきます。

 いや~めでたい!MML団の全員でひっそりこっそり神の復活記念パーティー開催です。

 しかも、トレセン学園の教官としてご就任なされたとか!就任記念パーティーも同時開催です。

 これを機に、MML団の拠点もトレセン学園周辺に構えましょう。

 廃ビルのオーナーと交渉して格安レンタルできるよう致しませんとな!

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「こうして我々は、マサキ様のお近くで細々と活動していたのです」ドヤぁ

「うん。長期に渡ってストーキングされていた事実にドン引きだわ」

「お褒めに預かり恐悦至極」

「褒めとらん。なあ、トップの暴走を止めるのも部下の仕事だと思うけど?」

「「「「……ポッ////」」」」

「ダメだこりゃ」

 

 誇らしげなロリスキーと、俺に見られて赤面する団員たち。ダメみたいですね。

 オークは・・・まだ部屋の隅でまだ気絶している。

 

 俺はともかく、愛バや御三家の警戒網をかいくぐってストーキングしていたんだよな。

 それって結構すごい。デジタル並みにすごい。決して褒められた事じゃないけどね!

 

 MML団結成の経緯は解った。

 こいつら、集団ストーカーだけど無害なんだよな。そのはず・・・なんだよな。

 だったらなんで、ロリコン(悪)になるようなことをした。

 

「なんで誘拐を?幼女を手荒に扱って、俺が喜ぶとでも思ったか?」

「お叱りはごもっともです。ですが、我々にはこれしか……もう時間が無かったのです」

「???」

「明日までにマサキ様再臨の儀を執行しなければ、あなた様は永遠に失われてしまうのでしょう?そんな事になったら世界の損失━━」

「ちょっと待て!?」 

 

 俺、永遠に失われるの?初耳なんですけど!?

 大体、俺が愛バを置いていなくなるわけないだろうが。

 

「そ、それでは、マサキ様がいなくなると言うのは……嘘?」

「全部悪質なデマだ」

「お、おお、おおお、良かった。本当に良かった……」

 

 ざわ・・・ざわ・・・  ざわ・・・ざわ・・・

 

 ロリスキーは安堵からその場にへたり込んでしまった。

 団員たちも、自分たちが悪質なデマに踊らされたと知って騒然としている。

 こいつらMML団は、何者かにそそのかされて利用されたのだ。

 

「教えてくれロリスキー、お前たちを嘘の情報を流した奴は誰だ?」

「それは……マサキ様の愛バだとおっしゃるウマ娘から……」

「はぁ?俺の愛バが!?……どいつだ?クロ?シロ?アル?ココ?それとも全員か?」

「わかりません。私には年増BBAの見分けなどつきませんから」

「おい!今、俺の愛バをBBA呼ばわりしたか?」(#^ω^)ピキピキ

「し、失言をお許しください。何故、守備範囲から外れておりまして……面目ないです」

「俺の愛バ、若いカワイイ、以後、BBA呼ばわり禁止。オッケー?」

「「「「オッケーでございます!!」」」」

 

 全団員に厳命しておく。俺の愛バをババアなどとは言わせん!

 もし言ったら、俺が手を下すまでもなく愛バたちに消されるだろう。

 

「発言を許可願います!」

「団員ナンバー14!?控えなさい、マサキ様の御前ですよ」

「そういうのいいから。言いたいことは気にせず言っちゃって」

「ロリスキーさんじゃなくても見分けがつかないと思います。だってそいつは妙な仮面を━━」

 

う、ヴヴ……ヴォォォォーーーッッ!!

 

「何?てか今度は何ぃ!?」

「て、敵襲か!」

「違う、オークさんが、オークさんが!?」 

 

 雄叫びを上げ巨漢が立ち上がった。

 大事な話の途中だってのに・・・何なんだよ。

 意外と繊細で寝起きが悪いのかな?はた迷惑な奴め。

 

「オークさん、落ち着いて。ほら、マサキ様も見てますからね、ね?」

「グォォォォォーーー!」

「う、うおっとぉ!?」

「オークさんが乱心した!……危なっ!」

「何すんだこのデブ!」

「様子がおかしい……離れろみんな!攻撃されるぞ」

 

 オークは酷く興奮して手あたり次第に殴りかかっている。

 血走った目つき、血管の浮き出て膨張した筋肉、迸る覇気。

 力任せに滅茶苦茶暴れている。自分の事も、団員たちの事も、理解できているか怪しい。

 

「オーク!やめるのですオークッ!」

「よせ、ロリスキー!オークの奴はどう見ても異常だ」

 

 オークの攻撃は廃ビルの壁に穴を空け、備え付けの家具を粉砕する。

 とんでもない破壊力だ。奴が動く度に、ビル全体が揺れているように感じる。

 あ!床にも穴が空いた!?

 このままじゃ、最悪、ビルが倒壊して瓦礫の下敷きに・・・ヒェッ!

 

「マサキ様、我々が時間を稼ぎます。その隙にどうかお逃げ下さい」

「バカ言うな。お前らじゃアレは止められない」

「わかっております。ですが」

 

 団員たちが必死にオークを止めようと試みるが、どれも無駄に終わっている。

 慌てるな、こういう時こそ相手の情報を確認だ。じりじりと迫りくるオークをよく観察する。

 デバイスが顕現している。そこから立ち昇る異常な量の覇気・・・そして、微かな光。

 小さいけど嫌な感じがする赤い光!?

 

「アレも改造デバイスの暴走か!」

「知っているのですか、マサキ様?」

「実はかくかくしかじか」

 

 違法な改造デバイスが出回っていることを簡潔に説明した。

 

「何ですとぉ!?その様な危険なデバイスが存在するのですか」

 

 今頃、愛バたちや学園のみんなが密売組織を叩いているはず。

 世に出回った改造デバイスの一つをオークが偶々手にしていたと・・・偶然にしては作為的なものを感じるな。

 だが、改造デバイスなら俺の覇気で抑え込み、ヒーリングで治療可能だ。

 犠牲者が出る前に、俺がやるしかない!

 

「そこのデカブツ~!俺と遊ぼうぜ」

「ア゛ア゛ア゛アアアァァァ―ーーッ!!」

「マサキ様!?何を」

「お前らは逃げろ。あいつは俺が何とかする」

「そんな事できません!マサキ様を置いて我々だけ逃げるなど、できるはずがない!」

「ぶっちゃけ足手まといなんだよ。お前らを庇いながら戦う余裕はない」

「くっ……」

「あれ~?散々持ち上げておいて、いざとなったら俺の事を信用できないわけね。悲しいなぁ」

「滅相もございません!我ら一同」

「「「「マサキ様を信じております!!」」」」

 

 調子よくハモってくれちゃって。

 こいつらの事、全然知らないし迷惑な奴らだけど、俺を信じると言う気持ちに嘘はない。

 

 俺は三度バスカーモードを起動した。さすがに使い過ぎだ。

 残り時間はあと少し、その僅かな時間でオークを止めなければならない。

 

「ここは狭いだろう?屋上へ行こうぜ」

「ヴオオオォォォォ!!」

「ついて来い!」

 

 心配そうなロリスキーたちを残し、俺は屋上へ向かう。

 挑発が効いたのか、俺にターゲットロックしたオークは叫びながら追いかけて来た。

 急げ、急げ!止まったらやられるぞ。

 階段を駆け上がり屋上へ到着した。うへぇ、安全柵がボロボロで危険極まりない。

 

「フーーッ!フ―ーッ!」

 

 涎を垂らしながらオークが屋上へと現れる。

 正気ではないギョロギョロとした目で俺を睨んでいる。

 

「すぐ助けてやるからな。ちょっと我慢してくれ、よ!」

 

 デバイスの装着箇所は腕と脚と胴体に首回り、権限前の待機状態では首輪型だったと思う。

 オークの太い首に合うサイズがよくあったな。

 

 近づかなければ話にならない。

 一気に接近して、首にタッチするのが目標だ。

 そこから覇気を流し込んで暴走を止める。

 

「グアォォォォォ!」

 

 暴走で限界以上の力を振るうオーク。一発でも食らったら、その瞬間に敗北決定だ。

 オークの剛腕から放たれる拳撃を躱す。鋭い蹴りが飛んで来るがコレも避けてみせる。

 跳躍する。首、首、首だ!短い幼女の手を必死に伸ばす。首まであと少しだ!

 

「━━ゥゥゥッッ!」

 

 何を?オークが息を吸い込んで・・・しまった!?ブラスターが来る!

 

「ウォォォォォォ――――!!!」

 

 オークが口から凝縮された覇気の熱線を発射した。

 俺自身もよく使うから寸前で何をするか解ったが、既にジャンプした後だ。このままじゃ直撃する。

 飛び上がった俺の体を動かす方法、空気の壁を蹴りもう一段上に飛ぶ。

 やり方は知っている。だが、幼女の体で可能なのか?

 いや、飛んでみせろ!俺はあの人の息子だぞ、やれないはずはない。

 出会った時からずっと大好きな、優しくて強くてカッコイイ最強の騎神、母さんのように!!

 飛べ!!

 

風精加速(シルフィードアクセル)!」

 

 間一髪、風の加速技で二段ジャンプを成功させた。

 オークのブラスターが腹を掠め痛みが走る。だが回避した!

 致命傷が避けられたのなら御の字だ。

 幼女の体で加速技を使った脚、しばらくまともに動かないだろう。

 もう後がない。次のアタックで決めなければやられる。

 

 姿の消えた俺を探すオークがキョロキョロしている。

 上から来るよ?気を付けろぉ!

 

「どっこいしょッ!」

「!?!?」

 

 自由落下に身を任せ、オークの首に取り付くことに成功した。首のデバイスに触れて覇気を流す。

 俺を引き剝がそうと狂ったように暴れ回るオーク。

 離すかよ・・・ここまで来て離してたまるか・・・絶対に助けるんだ。

 両手にありったけの覇気を集中させた。すまんなオーク、少々荒療治になるぜ。

 戦闘可能時間は既に超過済み。シャミ子が設定した安全措置により、もうすぐ覇気が使えなくなってしまう。

 時間がないのだ。デバイスの破壊とヒーリングを同時にやるしかない。やったるわ!

 

「止まれよぉぉぉおおおおおおお!!!」

「ア、ア、ガウオアウァァァーーーーッッッ!!」

 

 俺の全身から大量の覇気が放出される。

 緑の輝きを放つ粒子光は俺とオークを飲みこみ、渦となって天へと昇っていく。

 頑張れ俺、もう少し、もう少しだ。

 

 デバイスに亀裂が入り砕け散る。よっしゃ勝った!

 機能を失った残骸が覇気の粒子に変換されて消えてゆく中、キラリと光る何かが視界に入った。

 

 (首の……中枢の部品から何か……赤い、結晶!?)

 

 小さな赤い結晶体、俺は確かにそれを見たのだ。

 憎たらしいルクスが使用していた・・・赤いオルゴナイトを・・・

 

 〇

 

 ロリスキーはマサキの後を追い屋上へ向かっていた。

 マサキには逃げろと言われたが、居ても立っても居られなかったのだ。

 

 (二人を残して逃げる訳にはいきません。お叱りは後ほど、甘んじて受けいれましょう)

 

 マサキは敬愛する神であり、オークはMML団創設前からの盟友だ。

 二人とも大事な存在。ぶつかり合うというのなら見届けなくてはならない。

 オークの様子は極めて異常であった。

 直接戦闘を苦手とするロリスキーにも尋常ではないと感じとれるほど、凶暴な覇気が膨れ上がってしまっていた。

 あの状態が続けばオークの命に関わるかもしれない。

 それを相手にするマサキも危険だ。あの小さな体での戦闘はやはり無理がある。

 力を使う度に息が上がり辛そうにしていた事を、ロリスキーは目撃していたからだ。

 

 (二人とも!どうか無事でいてください)

 

 息を切らせながら階段を駆け上がる。

 仲間の団員たちもついて来ているが止めはしなかった。

 きっと、考えている事は同じだ。

 このような事態に陥ったのは全て我らMML団の不始末が原因だ。

 騙されたとは言え、愛すべき幼女を誘拐し、その被害者がマサキ様本人であるという事態を招いた。

 最低最悪の失態である。これ以上、マサキ様を失望させるわけにはいかない。

 何より、ここで逃げたら自分たちを許せそうにない。

 我らはMML団だ。いざとなったら、この命に代えても神を、マサキを守るのだ。

 決意を胸に屋上への扉を開け放つ、そこで見たのは・・・この世の物とは思えない光景だった。

 

「こ、これは!?」

「美しい・・・」

「奇跡だ。これぞ神の奇跡に違いない」

 

 屋上は緑の輝きで溢れていた。

 目も眩むばかりの光の本流は渦巻きながら空へ、まるで光の竜巻だ。

 摩訶不思議で恐ろしく、息を呑むほど美しい、幻想的な光景にロリスキーたちは目を奪われ立ち尽くすのであった。

 こんな事ができるのは、こんな奇跡を起こせるのは、マサキ以外に有り得ない!

 渦の中心点に彼らはいた。

 団員たちは目撃する。叫びながら暴れるオークの首へと必死でしがみつく、神の姿を。

 

「この!クソデバイスがっ!止まれぇぇぇっ!!」

 

 神はオークを助けようとしていた。

 散々無礼を働いた我らを逃がし、その仲間を助けようとしている。己の危険も顧みず。

 なぜ?どうして?自分たちMML団は許可なく勝手に活動していたのだ。

 あなたにとって、俺たちは迷惑なだけの存在ではなかったのですか?

 助けてもらえる義理などない。自分がマサキの立場だったら見捨てて当然だと思う。

 なのに…どうして……どうしてどこまで…

 

「それが、マサキ様だからですよ」

 

 団員たちの疑問に応えたのはロリスキーだった。

 

「あの方の懐は奈落の底よりなお深い。ご自身がどんなに弱っていようとも、我らを疎ましく思われていても、救いの手を差し伸べずにはいれれない。そんな情愛に満ちた方なのですよ」

 

 彼はこっそり見て来たのだ。

 愛バを救う度の最中、マサキが打算も理由もすっ飛ばして人助けをするところを、何度も何度も見て来た。

 今回も同じ。マサキにとって、誰かを助けたいと思い行動する事は至極当然なのだ。

 そんなマサキだからこそロリスキーは憧れた。MML団を創ったのもそんな彼を応援したいと思ったからだ。行き過ぎたファンクラブ(ストーカー)状態になってしまったのは不可抗力だ。

 マサキはきっとオークを救ってくれるだろう。

 ならば、我々MML団がこの場ですべきことは、この奇跡を一秒たりとも見逃さない事だ。

 

「我らが神の雄姿を、その目に焼き付けるのです!」

「「「「おおーーッ!」」」」

 

 本音を言うと、眩しいし危ないので誰も近づけない。(´・ω・`)

 不甲斐ない我らをお許しください!

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 MML団が固唾を飲んで見守る中、光の渦は収束し消えて行った。

 残されたのは、膝をつき動きを止めたオークと、その背で荒い呼吸をしているマサキだった。

 

「収まった……オークさんは助かったのか?」

「見ろ!二人とも無事だ」 

「やってくれた。マサキ様がやってくださったぞ!」

「うぉぉぉー!すげぇーー!俺たちの神ヤバくない?」

「うう……なんか、泣けてきたぜ」

「無理もねぇ。俺たちは神の奇跡ってヤツを目撃しちまったんだよ」

 

 団員たちが歓声を上げた。そして口々にマサキを褒め称える。

 奇跡の救出劇を目の当たりにして涙を流す者もいた。

 ロリスキーも感動に打ち震え、視界が滲んで来ているが落涙は我慢する。

 まずはオークを介抱し、疲弊したマサキを労わり休んでもらわなくてはならない。

 泣くのも、叱られるのも、マサキを胴上げするのも後回しだ。

 こちらに気付いたマサキが疲れた笑みを浮かべながら手を挙げる。

 『こっち何とかなったぞ。もう安全だ』と言ってくれているようだ。さすがでございます!

 団員たちと共に急ぎ馳せ参じようと思った、その時だった。

 

「ブルワァァァーーッ!」

 

 停止していたはずのオークが再び動き出していた。

 自身の背に居座るマサキを太い腕で掴んだオークはあろうことか、その小さな体を投げ飛ばした。

 邪魔な虫を追い払うかの如く、乱暴に軽々と、それでいてありったけの力を込めながら、マサキは前方へと投じられた。

 咄嗟の事態にロリスキーたちも、力を出し切っていたマサキも抵抗もできず、反応できなかった。

 マサキの体が安全柵にぶつかる。ボロボロに錆び付いていた柵は本来の機能を果たすこともなく破損し、ぶつかった対象と共に宙へと投げ出された。

 敬愛するマサキがビルの屋上から落下した。その事実に、ようやく我に返ったロリスキーは絶叫するのであった。

 

「マ、マサキ様ぁぁぁーーーッ!!」

 

 〇

 

 自分の身に何が起こったか理解した時には、全てが手遅れだった。

 俺の名を叫ぶロリスキーとその仲間たち、最後の力で俺を投げ飛ばし、今度こそ倒れ伏すオークの姿が一瞬だけ目に入った。そして、背中からボロの安全柵にぶち当たる。

 体に痛みと衝撃が走る。それだけならまだいい。

 その後に訪れた、浮遊感の意味を認識して焦る。

 

 (落ちた!?)

 

 錆び付いた安全柵は俺の体を受け止めきれず、壊れて地面へと真っ逆さま。

 俺も同じ運命を辿る事になる。

 MML団がいた四階から屋上までの登った階層は三階分、このビルは地上七階建てと言うことになる。

 高さは凡そ20メートル。覇気も使えない人間が飛び降りた場合、十分死に至る高さだ。

 何とかしないといけないのは解っている。でも、体が動かない。

 バスカーモードもアクセルも、使用限界とっくの昔に超過してしまっている。

 もう覇気が出せない・・・今の俺は貧弱なただの幼女にすぎない。

 

 (バチがあった……のか)

 

 愛バの忠告を聞かず、のこのこと単独行動をした。その結果がこれだ。

 まさかこんな事になるなんて思わなかった。試練最終日に油断した俺の致命的ミスだ。

 ルクスと対決するでもなく、こんなところで俺は終わるのか?

 せっかく、クボやシャミ子たちが力と思いを託してくれたのに、まだこれからだってのに・・・

 何も果たせず、何者にもなれず、友や愛する者を残して死ぬ?

 

 (嫌だ!嫌に決まってんだろ!)

 

 MML団に遭遇して結構な時間が経過していた。日はとっくに沈んでおり辺りは暗い。

 俺は夜の闇に飲まれながら落ちていく。

 クロ、シロ、アル、ココ、姉さん、母さん、みんな・・・ごめん。

 バカな俺で本当にごめん!

 せめて一人じゃなければ、愛バじゃなくてもいい、誰かと一緒だったなら結果は違ったのか?

 愛しい人たちの顔が浮かんでは消え、愚かな自分への憤りで心が塗りつぶされる。

 

 (くそっ!クソクソクソ、くそぉぉぉ―――ッ!!)

 

 どうにもならない状況へ悪態ばかり思いつく。

 あーなんてこったい。あの世へ旅立つ覚悟も準備も全然できてないよ。

 本当に終わり?ワンチャン助かったりしない?ほら、猫みたいにさ。

 猫は優れた平衡感覚を所持した動物で、落下の瞬間に着地の動作を促し体を反転させられる能力があり、しなやかな筋肉とクッション性のある肉球によって落下の衝撃を和らげ、着地を成功させるという。

 幼女の俺にもできたりしませんかね?無理かぁ、猫でも着地可能限界は7メートルだっていうしなあ。

 7メートル・・・地上三階ぐらいなら落ちても平気って事!?キャットランディングすげぇ!!

 やはり猫は良い、猫は全てを解決する、猫と和解せよ、ねこですよろしくおねがいします。

 猫に縋っとる場合か!

 

 助けて、助けてくれ、助けてほしい。

 チクショウ!愛バいれば、こんな高さ屁でもないのに。令呪があったら今絶対使っているのに!

 クロ、シロ、アル、ココ、誰か一人でも召喚できれば、この窮地を脱せるのに。

 この際、贅沢は言わない。ゴルシでもアグネスでも誰でもいい、誰か・・・

 

助けてくださいーーー!

 

 悲痛な叫びが虚しく夜空へと響き渡った。

 その声に応える者はいないと知りながら、俺は叫ばずにはいられなかった。

 もうだめぽ。゚泣(゚´Д`゚)゚。・・・・・・あ?

 今何かが視界に入った。一瞬だったけどあれは、助走を付けてこちらに走って来る人影のような??

 

 隣のビル、そのガラス窓が勢いよく突き破られた!

 

「呼ばれて飛び出て、ぱんぱかぱーん!」

「おわっ!?」

 

 ガラスを突き破り跳躍した何者かは、ドンピシャのタイミングで落下中の俺の下へと現れた。

 手を伸ばし体を受け止められた!?

 この優しくも力強い抱き方を俺は知っている。

 まさか、本当に来てくれるとは俺の思いが天に通じたのか!

 

「こんな時間に紐無しバンジーなんて危ないことして、悪い子ですね~」

 

 好きでやったんじゃない。と、反論しようと思ったが、ピンチを救われた嬉しさでそれどころじゃない。

 諦めかけたところに颯爽登場!救いのヒーローはいたんだね・・・ヤダー惚れちゃうわ////

 俺を抱きかかえた救い主は、片手の五指を廃ビルの外壁に突き立てブレーキとする。

 ブレーキはガリガリと音を立て縦五本線を壁に刻みながら、救い主の体を廃ビル二階辺りで停止させた。

 

「と、止まった」

「上まで戻りますね」

 

 え?地上に降ろしてくれるんじゃないの?

 言うが早いか、救い主は廃ビルを登り始める。屋内の階段を使わず外壁を蹴って、あっという間に屋上へ。

 驚愕の姿勢で固まっていたロリスキーたちを飛び越えて、屋上へと着地した。

 

「はい、到着です」

「助かったぁ……」

 

 生きてる。俺は生還したのだ!

 MML団の面々が俺の下に駆け寄って来た。随分と心配かけたな。

 抱っこを解除してもらってコンクリの床へと立つ。

 ここ屋上だけど、地に足が付いているだけでも幸せだ。

 

「おお!マサキ様!」

「ご無事でしたか!いやはや、今のはさすがに焦りましたよ」

「愛バを連れて来ているとは、抜け目のないお人だ」

「オークさんも気を失っているだけで無事です。全てマサキ様のおかげっスよ」

 

 ロリスキーたちが俺の無事を喜んでくれた。

 デバイスの呪縛が解けたオークも無事か、本当によかったな。

 

 愛バがついて来ていることは、俺も知らなかったよ。

 てっきり全員が改造デバイスの売人摘発(殲滅)作戦に参加すると思っていた。 

 もしかして、幼女の俺が心配になって途中で切り上げて来たとか?だったら悪いことしたなあ。

 

「マサキ様救出のお手並み、素晴らしい動きでした」

「本当にタイミングばっちりで驚きましたよ。あ、もしかしてずっとスタンバってました?」

「もうBBAとは言いません。あの、お名前を伺っても?」

「マサキ様の許可を取ってからにしろ。顔を隠しているから基本秘密なんだろうさ」

 

 まあ、愛バの紹介くらいはしてもいい・・・今、なんと言った?()()()()()・・・

 待てよ、待て。俺を助けてくれたのは、本当に愛バだったのか?

 愛バのような気がしただけで、俺は救い主の顔をちゃんと確認してはいない!?

 

「そうですね。初対面ですから、自己紹介は必要ですよね」

 

 この声、愛バ四人の誰とも違う。

 違う!こいつは俺の愛バではない。こいつは、こいつは・・・あーすっげぇ嫌な予感がする。

 俺はゆっくりと振り返った。

 ピンチを救ってくれた奴の姿を確認する為に、つま先から徐々に上へと視線を向けていく。

 見慣れぬ戦闘服を着たウマ娘だ。スタイルがいい!暴力的ですらある、おぱーいがイイ!

 そうじゃなくてぇ!顔だ顔を見ろ!

 顔・・・見えない。それもそのはず、頭部にはどこかで見たような仮面を装着していたからだ。

 

「はじめまして、私はマーテルですよ。仲良くしてくださいね、悪い子のマサキさん♪」

 

 シロたちから聞いた情報と合致する。

 ルクスの愛バ六騎の内の一人、マーテルと名乗るウマ娘がそこにいた。

 

 俺のピンチはまだ終わらない。

 

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