俺と愛バのマイソロジー   作:青紫

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仮面女子会

 夜の街を軽やかな足取りで移動するウマ娘がいた。 

 走る、跳ぶ、登る、ぶら下がる、乗る、転がる、 回る、バランスを取るなどの動作を用いながらの移動をしているのは、戦闘服に仮面を身に着けた騎神、マーテルだ。

 

「どこまで行くんだよ」

 

 マーテルは一人ではなかった。その腕に銀髪の幼女、マサキをしっかりと抱いている。

 アクロバティックな移動にもかかわらず、マサキの負担にならないよう配慮する余裕があるようで、彼女の技量が高かさが(うかが)えた。

 

「夜のお散歩は嫌いですか?」

「嫌いというか、もう帰りたい。あんまり遅くなるとマズい」

「『愛バ四人に怒られちゃうー』とか思ってます?」

「思ってるよ!」

「なら心配いりません。向こうは作戦が長引いているみたいで、まだ時間があります」

「わー、学園の情報筒抜けだあ」

 

 建造物の屋根から屋根へ飛び移り、時には壁を蹴るなどして移動するマーテル。

 道なき道を行く彼女はマサキの宿敵であるルクスの愛バだ。

 本来なら敵同士、出会えば即刻開戦で死闘を演じて然るべき相手のはず。 

 そのはず、なのだが。

 

 ・・・・・・・・・・

 

 少し前のこと、MML団アジト廃ビルの屋上にて。

 自己紹介を終えたマーテルは誰かが口を挟む前に動き出した。

 いきなりの敵愛バ登場で、パニックを起こした俺を有無を言わさず抱き上げる。

 MML団たちに『私たちはこれで失礼しますね』と、軽く頭を下げてから走り出し跳んだ。

 状況についていけない、未だ頭の中がぐるぐるしている。

 俺はどうするべきなのだ?誰か教えてくれ。

 背後からロリスキーたちの『またお会いしましょうマサキ様~』と言う声が聞こえた。

 あいつらは今後どうなっていくのだろうか、もう悪さをしないと思うけど怪しい行動は控えてほしい。

 俺へのストーキング行為はやめさる。絶対にやめさせる!

 

「変わったお友達が多いんですね~」

「あれは信者だ。ウマ仮面のお前が変わったとか言うな」

「これは流行最先端のファッションです」

「嘘つけ、操者の趣味に合わせているだけだろ。正体隠して何を企んでいるのやら」

「まだ秘密です。もう少し仲良くなったら教えて差し上げます」

「仲良くねぇ……」

 

 これもルクスの罠だったりするのか?

 マーテルが何を考えているのかわからないが、油断はしないようにせねば。

 今日はもう油断しまくっておかしくなりそう!

 

 そして、夜のお散歩へ続く・・・

 

 ルクスの愛バに捕まるぐらいなら、MML団に捕まっていたほうがマシだった。

 不安だ、不安すぎる。尻の湿布がようやく温くなってきた事だけが救いだ。

 

 (今はどうすることもできない。ここは耐えるしか…)

 

 覇気を使い果たした俺に抵抗する術はない。

 スマホもないし思念通話を飛ばすことも不可能・・・これは詰んだか。

 今日ピンチ多くね?厄日だ。

 速度を落としたマーテルは、俺の両わきを支えて持ち上げる『高い高ーい』してんじゃねぇよ。

 

「他界他界~」

「縁起でもない!」

「別に取って食べたりしません。リラックスですよ~、はい、リラ~ックス」

「不安が顔に出て悪かったな。怯える俺をどうする気か教えもらっていい?事と次第によっては失禁も辞さないから覚悟しておけ」

「それは大変!ですが、こんなこともあろうかと紙オムツを持っていますよ。パンパースとムーニーどっちにします?」

「メリーズで頼む……じゃなくてぇ!あ、やめ、脱がそうとするなー!」

 

 なぜか紙オムツを持参していたマーテル。

 何だコイツ?オムツが必要な事態を想定する思考にドン引きである。

 必死の抵抗も虚しく嬉々として俺を脱がしにかかったマーテルに尻を見られてしまう。

 

「あの、お尻が異様に冷えていますけど。何か貼ってますけど、何ですかコレ?」

「お気遣いなく、名誉の負傷ですので」

 

 俺の尻を凍傷寸前まで追い込んだ湿布をようやく剥がす機会が訪れた。

 ポイ捨てする趣味はない、役目を終えた湿布はポッケに回収だ。

 尻は大変だったけど、MML団の睡眠ガス対策として役立ったのは事実だ。ゴルシには礼を言わないとな。

 

「ヒーリングしますね。お腹の傷も一緒に治しておきますよ」

「ちょ、直に触るのらめぇ」

 

 マーテルの手が俺の腹と尻を撫で回した。きゃっ!どこ触ってんの////

オークのブラスターが掠った腹と冷えた尻が癒され、みるみる回復していく。

 このヒーリングテクニック、中々のものだと言わざる得ない。

 

「やるじゃない」

「ふふっ、プロのあなたに褒められるなんて、光栄です」

「どこで覚えた?」

「尊敬する人の真似をしただけですよ」

「ルクスはヒーリングもできるってか、ムカつくわ~」

「さあ、どうでしょうね」

 

 何その言い方、ヒーリングはルクスから学んだわけじゃない?・・・ま、どうでもいいか。

 身のこなしからマーテルの腕は相当なものだと思う。おまけにヒーリングまで使えると来ている。

 残りの奴らも全員このレベルだとしたら苦戦は必至。

 しかし、俺たちだって強くなっているんだ。勝つのは俺と、その愛バたちだ!

 その前に、今現在のピンチを切り抜けねば。

 

 ヒーリングを施してくれたマーテルは再び速度を上げる。

 夜景を見る余裕が出て来たのは、敵であるはずのマーテルが思いのほか気安い奴だったからだ。

 我ながら気を許すのが早すぎだと思う。

 命の恩人だし、今のところ丁寧に扱ってくれるから、いい奴かもと勘違いしそうになる。

 愛バにこんな事を言ったら、きっと叱られるんだろうな。

 

「着きましたよ」

「なんか見た事のある建物だ」

「ビルドンホテル最上階のヘリポートです。どうです?ここだと夜景が一層綺麗でしょ」

「確かに綺麗だ。そろそろ降ろしてくれる?逃げる気も力もない」

「はーい。お疲れ様でした」

「仮面とってくれる?顔が見たい」

「それはダメでーす」

「ちっ、ノリの悪い奴」

 

 人払い済みのヘリポート、今からこんな所で仲良くトークするの?

 

「全員揃うまで、もう少し待ってください」

 

 何ぃ!仲間を呼ぶ気だとぉ?

 

「幼女相手に集団フルボッコの刑を命令したか。さすがルクスさん、鬼畜の極みですわー大っ嫌いですわー」

「そんな命令されてませんよ。ちょうどいいので、ご挨拶をしようと思っただけです」

「挨拶するなら顔ぐらい見せろ」

「それはそれ、これはこれ……来ましたよ。みんないい子ですね」

 

 え、嘘?本当に誰か来ちゃうの?誰だろうと幼女姿で敵に会いたくなかったー!

 一人、また一人と新たな敵が登場する。

 全員がウマ娘だということを加味しても、かなりの修練を積んだと解る動作。

 ウマ娘は壁を登ったり、隣のビルから大ジャンプするのがデフォルトなの?

 エレベーター使って来いよ。

 

「はぁ、急に呼び出したと思ったら、こういう事か…」

「あー!ちっこいのがいる。何?なになにさらって来たの?」

「え?えええ!?聞いてないんだけどぉ!」

「やるのですね!やっちまうのですね!キャーッ!全員でフルボッコなんて野蛮ですわ!」

「落ち着いてくださいな。お客様が怖がってしまいます」

 

 来たのは5人。マーテルを含めて総勢6人の敵が集まったことになる。

 お揃いの仮面を着けたウマ娘と俺は対峙する。

 いやー!足が震えそう。というか、ビビりな俺はもう震えてるよー!

 ダメよ、マサキ!あなたはチーム"ああああ"の誇り高い操者でしょ。

 奴らのペースに飲まれたらアカン。

 ここは空気を読まず、ズバズバ切り込んで行くのが吉だ。

 

「アンドウマサキだ。趣味はルクスを呪うことです。よろしくお願いします」

 

 先に挨拶してやったぞ。ほら、そっちの番だ。

 マーテルが『簡単に自己紹介をどうぞ』と仲間を促した。

 

「はいはーい!私ウェール、キタちゃんと本気の勝負したいなあ」

 

 無邪気さの中に滲み出る戦闘意欲の持ち主、ウェール。クロを狙っているらしい。

 6人の中ではもっとも小柄で元気いっぱいと言った感じだ。

 

「ベルスよ……アンタねぇ、愛バの教育ちゃんとしなさいよ。特に!あの狂ったサトイモ!」

 

 ガリルナガンのデバイサーであるベルス。ここへも空を飛んでやって来た。

 うちのシロが何かやらかしましたか?

 許してつかあさい。よく誤解されるけど、とってもいい子なんですぅ。

 

「フルーメンですわ。アルダンとは運命の好敵手(ライバル)でしてよ」 

 

 お、おう。

 こいつがアルダンの愚痴っていた『勝手にライバル認定してくる迷惑な奴』か。

 初対面ですけど、頭が残念な気配がしましてよ。

 

「アエルと言う。ファインを倒すのこの私だ。邪魔立てするなら貴様も、貴様の仲間も全て倒す」

 

 冷徹かつ冷酷な雰囲気を醸し出すアエル。何ピリピリしちゃってんの?

 あ、これ自他共に厳しい(めんどくさい)奴だ。

 ココがもの凄く嫌そうな顔で『やだな~ストーカーこわいな~』と言っていた。

 

「クラルスです~。皆様、眠たくないのですか?私は今すっごく眠いです……( ˘ω˘)スヤァ」

 

 立ったまま寝ちゃったよ。何がしたいの?何しに来たの?

 直接戦闘には参加しないサポートタイプだと聞いているが、本当のところはどうだろう?

 こいつに関してはマジでよくわかんね。

 

「改めましてマーテルです。私たち6人がルクスさんの愛バ。覚えてくださいね」

 

 ウェール、ベルス、フルーメン、アエル、クラルス、そしてマーテルの6人。

 以前、シロたちが遭遇したルクスの愛バである。つまり俺の敵だ。

 無力な幼女と騎神じゃ勝負にすらならない。

 ひとりでも厄介極まりないのに、それが6人、これどんな無理ゲー?・・・勝てるわけがない!

 

「挨拶も済んだし、部外者の俺はそろそろ退散しますね。お疲れ様でした」

 

 丁寧にお辞儀をして立ち去ることにする。

 奴らを刺激しないようにさり気なく自然な感じで、行ける!

 

「待ってください。まだ肝心のお話ができていません」

 

 はいダメでした。マーテルに肩を掴まれて引き止められてしまう。

 

「そうだな。このまま帰すわけにはいかん」

「ホーホッホッホ!こういう時は情けなく『くっ、殺せ!』と、ほざくがいいですわ」

「くぅ~殺さないでくれると非常にありがたいっスわ」

「大変素直でよろしい。ご安心なさい、弱者をいたぶる趣味はございませんの」

「マサキの台詞、なんか微妙に違わない?」

「シッ!フルーメン(アホ)が気付いてないからスルーするのよ」

「あの~早く本題に入りませんか?でないと…私また眠ってしまいます~」 

「なあ、今まで寝ていた奴がなんか言ってるぞ」

「「「「そいつはほっとけ!」」」」

「みんないつも通りですね」

 

 女子が集まると賑やかなのは何処も一緒か、例え敵であってもそれが変わらない事にちょっと安堵した。

 いいぜ。ここまで来たら覚悟を決めよう。

 やることはMML団のときと一緒だ。こいつらから情報を引き出して、生きて帰る。

 生きて帰る!大事な事なので二度言いました。

 仮面ウマ女子会に参加してやろうじゃないか、女死会にならないことを心から願う。

 

「そんで?話ってなによ」

「ビビッている癖に態度でかいな」

「そこの寝坊助仮面、立ったまま寝るぐらいなら座って寝ろ。そして俺を膝枕しろ」

「ふてぶてしいにも程がありますわ。今の状況わかってますの?」

「はーい、どうぞです」

「「「やるのかよ!?」」」

「悪い子ですねぇ。膝枕のプロである私を差し置いてクラルスちゃんを選ぶなんて……悔しいですっ!」

 

 クラルスに膝枕をしもらい話を聞く態勢に入った。

 他のウマ仮面たちも腰を下ろす中で、アエルだけ立ったままだ。

 ああそう、彼女がこのメンバーのまとめ役なのね。

 俺の愛バたちに負けず劣らずの曲者揃いをまとめるなんて、めっちゃ苦労してそう。

 

「単刀直入に言うぞ。アンドウマサキ」

 

 アエルが俺を見下しながら言う。

 

「操者を辞めて愛バとの関係を断て!さすれば、我々はお前に手出しはしないとちか……」

「断る!」

「ふふっ、食い気味のお断り、可愛らしいですww」 

「マサキ様はそうでなくては…ふぁ…」

 

 絶対に飲めない条件を提示された。

 そんなの一瞬たりとも考える必要無し、断固拒否だ!

 

「ルクスにも手出しさせないと言ってもか?」

「断るッ!」

 

 何言ってんだ?守る気のない約束をチラつかされて、俺が揺らぐとでも思ったか。

 

「本当にいいのか?交渉するのはこれが最初で最後になるかもしれないぞ」

「くどい!ぜぇっったいにぃぃ断るッッ!!」

 

 交渉の余地など無い。俺とルクスの関係は最初からどうしようもないほど終わっている。

 1stの人たちに、ベーオウルフとルシファーの元になった向こうの世界のクロとシロに何をしたか、忘れたとは言わせねぇ!

 そうそう、俺を異世界送りにしてくれたよね?

 いや~楽しかったなぁエンドレスフロンティア。何回も死にかけたけど楽しかったなぁ!

 その度にルクスへの恨みカウンターが積み上がって、今フリーザーの戦闘力どころの騒ぎじゃないけどなぁ!

 

 怒り叫ぶ俺をクラルスとマーテルが落ち着かせようとする。

 ナデナデだけでは納まりません。尻尾じゃらしも追加してください。

 何?尻尾じゃらしをご存じない!?

 おいおい、操者と愛バ間のスキンシップが足りないんじゃないですかねぇ。

 

「残念、決裂しちゃったみたいですねえ」

「全ては予定調和だ」

「気にしなくていいよ。ダメ元で言ってみただけだし」

「どうせそんな事だろうと思ったわ」

「え?え?つまりどうなったんですの?」

「マサキ様は今まで通り敵ってことです……( ˘ω˘)スヤァ」

 

 全然残念そうじゃないところを見るに、俺がどう答えるかは解り切っていたらしい。

 だったらこの茶番は?こいつらの狙いは何だ?

 

「確かに茶番だな」

「もう、アエルさんったら。そんな事言わないでくださいよ」

「本格的な戦いになる前に、挨拶できてよかったですわ」

 

 そもそも、こいつら誰やねん?

 ウマ娘なのは確定として、背格好や口調から当てはまる人物は・・・いない。

 いないよな?自信が無いけど、いるはずないと思う。

 

「無駄無駄無駄だよ~」

「何が?」

「今、私たちが誰か詮索しようとしたでしょ?それ無駄だから」

 

 ウェールやベルスが言うように俺はこいつらの正体について考えようとしていた。

 けど、頭に霞というかノイズが混じったように思考を散らされる。

 これがシュウの言っていた認識阻害?

 ご都合主義な不思議パワーのなんと厄介なことか。

 

「諦めろ。仮面の認識阻害は易々と解除できん」

「この仮面はマジもんの特注品でしてよ!なにしろ製作者があ━━」

「フーちゃん。喋り過ぎです」

「アーッ!ですわぁぁぁぁーーー!?!?」

「うるさいですねえ……( ˘ω˘)スヤァ」

 

 やかましい悲鳴が上がる。マーテルがフルーメンの背後に忍び寄り関節を決めたのだ。

 仮面の秘密を暴露しそうになったお仕置きだろう。

 アホが口を滑らす可能性があり、ならば、もう少し突いてみるか。

 

「お前らまさか━━」

「ねえねえ、お菓子食べる?」

「いらん!」

 

 俺が問いかけようとしたのをブロックするように登場するウェール。

 懐からポッキーを取り出して俺に突き付けた。食えってか?

 どうしてもと言うなら、ポッキーの端を口に咥えて勝負を挑んで来い。

 

「食べたらルクスの嫌いなもの教えてあげるよ?」

「たべりゅぅぅぅ!」

 

 ポッキーなんざサクサクッと完食してやった。

 勢い余って、ポッキーを持つウェールの指もサクサクしてやろうか?と思ったけど、変態チックなので自重した。

 ルクスの嫌いなもの=奴の弱点だろ?早く教えろよ。

 

「ルクスはね……マサキのことが嫌いなんだってwww」

「俺もじゃボケェェェ!!」

 

 俺だってルクスのこと嫌いじゃい。

 そうか、そうだったのか、俺こそがアンチルクスを体現する存在なのだ。

 ルクスめ!俺が万全の状態になるのを震えて待っているがいい。

 頼むから待って!俺今幼女っスから、可愛いだけの無力でか弱い存在っスから。

 

 ・・・・・・・・・ぴちゃ。

 

「冷たッ!?」

 

 俺の頬にどこからか謎の水滴が落ちて来た!?

 何だ?新手のスタンド攻撃か?

 

「大変!クラルスちゃん。(よだれ)垂れてます」

「何してんだおい!垂れてる、まだ垂れて来てる!!」

「起きろクラルス。膝上の幼女がご立腹だ」

「あはははははww宿敵に地味なダメージが入ってるww」

「う、うーん。何ですかぁ……あら…あらあらあら、私ったらはしたない////」

 

 三度目の涎が滴ったところで、やっと起きるクラルス。

 何してくれとんじゃ!いくら正体が美少女ウマ娘でも怒るわよ!

 

「口に入ったらどうしてくれる!」

「それはラッキーでしたね。おめでとうございます」

「何でご褒美もらった風になってんの?お前の涎にどれだけの価値があるんだよ?」

「先日、取引先の社長様に『キミの唾液を10万円で買わせてくれ!』と頼み込まれましたけど」

「売ったらダメ!その変態社長とは即刻縁を切ったほうがいい」

 

 変態の価値基準を真に受けちゃいかんのよ。

 このクラルスという騎神はどうにも無防備で危なっかしい。

 

「誰かー拭くもの持ってない?」

「ハンカチぐらい携帯しなさいな。コレ使うといいですわ」

「ありがとうございます。洗って返しますね」フキフキ

「俺を先に拭いてよ!あ!もうちょっとで顔が!?」

 

 口元を拭くために仮面を少し浮かすクラルス。

 顎のラインと口、鼻、その上のパーツも見え、見え、見え・・・

 

「見えそうで見えない?」

「そうですね!」

 

 仮面のチラリズムでは顔を見る事は叶わなかった。

 

 それからしばらく・・・

 俺は仮面ウマ女子会にすっかり馴染んでしまっていた。

 

「なあ、ええやろ?仮面外して素顔見せてくれや。膝枕したら俺らもう仲良しやろ?」

「ダーメですわ♪」

「いけません!敵の女と馴れ合うなんて不純で不潔で不義理です!」

「マーちゃんも敵だけどね」

「私は例外なんです!!」

「お前たち、あまり情を移すな」

「そうですわ!近い未来、必ずぶつかり合う運命の好敵手……楽しみでしてよ」

「私はサトイモさえ倒せれば、それでいいんだけどさ」

 

 膝枕担当のクラルス、何かと甘やかしてくれるマーテル、アホな発言が多いフルーメン。

 ツッコミ全般のアエル、無邪気なウェール、スマホを操作しながら相槌を打つベルス。

 

 情を移すなというアエルの言葉が胸に刺さる。

 ルクスはともかく、マーテルたち個人を心の底から嫌いになれるのか?・・・バカ、何を考えている!

 それがもう、ルクスの作戦なのかもしれないんだぞ?

 間違えるなマサキ。こいつらは俺の愛バを狙っている敵、俺の宝物を害そうとする敵なんだ!

 頭を振って気持ちを切り替える。今更だけど、完全アウェイでこの緩みっぷりはマズいでしょう。

 

「そろそろか……私は戻るぞ」

「じゃあ、私も帰ろっかな。ウェールはどうする?」

「途中まで送ってよ。いつもみたいにお願い」

「これにて解散ですのね。次は拳で語り合いましょう!では、ごきげんよう」

 

 仮面ウマ女子会は突然のお開きとなった。最初から終了時間を決めてあったっぽい。

 挨拶して操者を辞めろと言われ、そのあとは適当に駄弁っていただけだったな。

 俺を一瞥したアエルが振り向きもせず去って行く。

 ベルスはデバイスの翼を広げ飛び立つ。ウェールはその体にしがみついて一緒に帰るようだ。

 『ばいばーい』と二人して手を振るので、一応振り返した。

 フルーメンは、拳を突き出すポーズをしたあと、ごく自然にヘリポートから飛び降りた。

 『うぇぁ!ちょっと高過ぎましたわぁぁぁーーーッ!』という幻聴がした。

 

「では、私も御暇(おいとま)します」

「そっか。膝枕サンキューな」

 

 礼を言うべきか迷ったけど、お世話になったのは事実なので軽く頭を下げておく。

 涎のことはもう不問とする。

 

「マサキ様、どうかご壮健で……マーテル、あとを頼みます」

「お任せください。しっかり送り届けてみせますよ」

「くれぐれも、先走らないように。信じてますからね」

「大丈夫ですよ。心配性ですね」

「アエルさんは、あなたに相当な不信感をお持ちのようですわ。過度な介入はルクス様も良く思わないのではなくて?」

「あなたに言われたくないでーす。それに、バレたところで問題ありません。私は元からそういう契約ですし」

「全ては未練から来る衝動ですか?悩ましい生き方ですこと…」

「その通りですけど何か?」

「あの、俺を挟んで意味深な会話やめてくれる」

 

 マーテルと意味深会話を楽しんだ後、クラルスは『ごきげんよう』と一言告げて夜の闇に消えて行った。

 残されたのは、俺とマーテルの二人だ。

 

「お疲れ様でした。有意義な時間は過ごせましたか?」

「まあ……悪くはなかったよ」

「みんなの反応も上々でした。これでお互いに、後顧(こうこ)の憂いなく戦えますね」

 

 おやおや、今日のは親睦会ではなく決起集会でしたか。

 あいつらタ―ゲットの俺を直に見て、闘志を滾らせながら帰って行ったの?やめてよね!

 不公平じゃね?

 

「こっちには顔すら見せてくれないのに……」

「そこはほら、幼女化中に攻撃しなかった。という事でチャラです」

 

 それを言われると・・・うーん、でも顔は見たかった。

 

 さすがのルクスたちも、幼女をボコボコにするのは気が引けたらしいな。

 奴のひん曲がった性格から予想すると『フッ、弱ったマサキを倒しても意味がない』とか言ったに違いない。

 その余裕ぶっこいた態度、きっと後悔する日が来るだろう。

 たぶん最終決戦でルクスは思うのだ『あの時、幼女を始末しておけば…甘かったのは……!!!』

 とか後悔して死ぬ。太陽に挟まれて死ぬ。ざまぁww

 

「私たちも行きますか?」

「その前にちょっといいか」

 

 移動を開始しようとするマーテルを引き留めて、俺はその場で土下座した。

 今の姿、愛バには見せられない!

 

「どうしたんですか?そんな事されても、戦いは止められませんよ?」

「わかってる。ルクスやお前たちとの戦いが避けられないのは、よーく解っている」

「だったら━━」

「これは今日の分の礼だ」

 

 今の俺にできる感謝の示し方、これしか思いつかない。

 マーテルは敵だ、倒さなくてはならない相手だ。

 でも、今日は彼女に助けられたのだ。ならば、お礼は言うべきだろう。

 

「ありがとうございます。あなたは命の恩人です」

 

 廃ビルから落ちた俺をヒーローみたいに救ってくれた。ヴィランの癖に命の恩人なのだ。

 ヒーリングをして傷を治してくれた。尻も温まったぜ。

 女子会の最中、クラルスと一緒に俺を守ってくれていた。

 他の四人が変な気を起こさないように、ずっと牽制してくれていたんだろ?

 膝枕も涎も、場を和ませる演技・・・いや、あれは天然だな。

 今、ルクスが攻めて来ないのも、マーテルたちが何か進言した結果だったりして・・・

 

 マーテルが何を考えているかわからない。

 だけど、とにかく、全部ひっくるめて、彼女に感謝を伝えなければ。

 敵とか味方とか、今だけは関係ない。

 誰かに良くしてもらったら、ちゃんとお礼を言う。当たり前の事をしているだけだ。

 

「本当にありがとうございました!」

 

 俺は頭を擦り付けるようにしながら礼を述べる。

 今まさに我が心は明鏡止水の境地に至る。体が金色に光っていないことを祈る。

 

 深く長い土下座を続けた・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ反応がない?

 いきなりの土下座にドン引きして先に帰ったとか、ないよね?

 

「えい!」

「いてっ」

 

 良かった反応があった!というか今、頭を軽く小突かれた?

 顔を上げると、しゃがんだ体勢で俺にチョップを繰り出すマーテルがいた。

 

「敵に何をやっているんですか?本当にあなたは、おバカさんですね」

「バカで結構。これが俺なりのけじめだ」

 

 例えマーテルと戦う事になっても、意思が揺らがぬように、ちゃんと戦えるように・・・

 伝えるべき事は今この場で伝えておこうと思った。ただ、それだけだ。

 

「感謝の気持ちは十分伝わりましたから、もうその辺にしておいてください」

「あ、うん」

「まったく、こんなところを誰かに見られたら勘違いされてしまいますよ?」

 

 それはルクスにだろうか?それとも、俺の愛バにだろうか?どっちもか。

 

「とにかくだ。今日、助けてもらった恩は忘れない。ルクスの愛バでも、お前の素顔が思ったより残念だったとしても!忘れない」

「今ちょっとディスりましたか?忘れないなんて、軽々しく言わない方が賢明です」

「それでも忘れない。忘れないったら忘れないの!」

 

 駄々っ子のようになる俺。なぜこんなにもムキになっているのか、自分でもよくわからない。

 マーテルはきっと仮面の下で呆れた表情をしているのだろう。

 それでも、受けた御恩は忘れない。忘れたくないのだ。

 

「……忘れているくせに」

「え?」

「敵である私のことを忘れられなほど愛してしまうなんて!ルクスさんにどう説明したら……でもでも、こういうロミジュリ展開も嫌いじゃないです!むしろ好きです!」

「おい待てや、両陣営に多大な迷惑かける恋愛模様は勘弁しようや」

 

 一瞬だけ、マーテルが拗ねたように感じた。

 すぐに曲解と飛躍を得た戯言を抜かし始めたので、気のせいだと思うことにしたけど。

 今のは何だったのか?

 

 マーテルは何事もなかったように落ち着きを取り戻し、ケロッとしていた。

 手を引かれ立たせてもらい、そのまま抱っこされる。

 

「では、行きますよ~しっかり掴まっていてください」

「やっとか、あいつら無茶していなければいいけど」

「なんだ、気付いていたんですか?」

 

 鈍い俺でもさすがに気付く。

 先程の会合には奴が、マーテルたちの操者であるルクスがいなかった。

 その理由とは何か?

 向こうも同じ状況になっている。いや、ルクス自身が望んで状況を作り出した。

 今頃、俺の愛バとルクスが会っている!!

 俺の知らないところで、大好きなあいつらがルクスなんかと楽しくお喋り・・・許さぬぞ!

 何?お前もマーテルたちと和んでいただろって?

 お、俺はいいんだよ!ルクスはダメなんんだよ!そういうものなんだよ!わかってよ!

 

「急いで!早くしないと愛バが、俺の愛バたちがルクスのアホに穢されちゃう!」ペチペチ

 

 マーテルの仮面をペチペチして訴える。

 ついでに、豊満なおぱーいもペチペチしておく。バインバイーンや!

 

「私が素直にルクスさんの下へ連れていく保証はありませんよ?」

「今はお前のことを信用するしかない。頼む、俺を愛バとルクスの所に届けてくれ!」

「曜日指定だと明日以降になりますけど?」

「お急ぎ便で頼む!」

「はーい。マサキさんを最速でお届けしちゃいますよ」

 

 そう言ってマーテルは飛び降りた。

 高層ホテル屋上からの投身に怯んだ様子は全くない。

 彼女は俺を助けた時と同じように落下速度を制御してみせ地面へと降り立つ。

 すぐ傍で人型の何かが着地失敗したような痕跡を発見したが、俺もマーテルも見て見ぬふりをした。

 

「ルクスさんは、えーっと……多分あっちの方です。飛ばしますよー」

「事故らないように気を付けて」

 

 尋常ならぬ速度で走る。走っているのはマーテルで、俺は全く疲れないけど心の中で応援するぐらいはしよう。

 頑張れマーテル。ちょっとだけ回復した覇気を分けてあげるから頑張って。

 

 クロ、シロ、アル、ココ、待っていてくれ。今行く!

 こうしている間にも、愛バたちがルクスにあんなことやこんなことされていると思うと・・・

 殺意が湧く! 

 あ、なんか出そう。口からなんか出る。

 

ヤメロォォ…NTRはやめろぉ……」オォォォ

「あらヤダ、極大の怨嗟が漏れてます。なんてどす黒いオーラなのかしら」

 

 ああ、ルクス。お前にも味合わせてやりたいよ。

 俺の尻を散々苦しめた"極冷ゴールド湿布"の恐ろしさをなぁ!

 お前の正体が判明した暁には、尻だけとはいわず全身に貼ってやるぜ。

 股間を中心に貼ってやるぜ!

 

「アヒャヒャヒャヒャ!!!」(゚∀゚)

「何だか楽しそうですね~ウフフフ」(´▽`)

 

 怪しく笑う俺に釣られてマーテルも笑っている。

 奇妙な二人組みは超スピードで夜の街へ消えて行った。

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