俺と愛バのマイソロジー   作:青紫

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代替物

 改造デバイスの密売は短期間の内に大きな利益を上げた。

 大がかりな犯罪組織からチンピラや小悪党、そして訳アリの一般人まで、十分過ぎるほどの買い手がいたおかげで売り手市場だったのだ。

 違法だろうが何だろうが、安易に力が手に入る便利道具は魅力的である。

 例えそれが、自身を危険に晒すリスクがあるとしてもだ。

 

 破竹の勢いで上がる収益に売人たちは笑いが止まらない。

 まさに千客万来の様子を見て、しばらくはこの調子で稼げると誰もが思った。

 今日も明日もウハウハ!だと調子に乗っていたのだ。

 

 しかし、真っ当な方法ではない金儲けなど長く続くはずもない。

 終わりの時はあっけなく訪れる。

 それも、最悪の獣を引き連れて。

 憧憬と畏怖の象徴にして可憐なる戦闘集団、トレセン学園が動き出したのだ。

 

 

「騎神双獣撃!」

 

 クロが両拳から覇気を飛ばす。

 放たれた覇気は技名が示す通り、命中した敵を餓狼の如く食い破った。

 デバイスの装甲ごと弾け飛んだ敵を見て首を傾げるクロ。

 

「うまくいかないなぁ。もっとこう、バキューン!からズバーン!となるはずだったのに」

「クロさん。伏せて!」

「わっと」

 

 指示に従い身を低くした直後、クロの頭上を数発の覇気弾が通過する。

 微かに青白く放電した弾丸、それを撃ち出したのは指を銃の形に構えたアルだ。

 クロに襲い掛かろうとしたチンピラ風の男たちは、顔や腹に覇気弾の直撃を受け次々と倒れていった。

 

「ありがとアル姉」

「ご無事で何より。今、私が出した覇気弾……30点ですね」

「自己採点厳しいねえ」

「一直線の雷が敵を黒焦げにしながら貫通していく。と、いうのが理想なのですが、難しいです」

「お互い射撃戦は不慣れだからね。まだまだ的はいるみたいだし、めげずに練習しよう?」

「そうですね。今度はもっと覇気を溜めてから撃ってみましょう。マサキさんにライデンインを習得した私をお見せするためにも……ううーん、むむむむむ」

 

 額に二指を当て覇気を溜めることにしたアル。

 その姿は有名なナメック星人を連想させる。

 アル姉さん、あなたが撃とうとしているのは、ライデインじゃなくて魔貫光殺砲です。

 

「しゃ!アル姉のチャージ中は、私がじゃんじゃん撃っちゃうぞ」

 

 クロは気合を入れ、再び双獣撃の発射態勢を整える。

 そして、自分たちを見守る優しいくも麗しい存在を半眼で睨んだ。

 なんなんだぁその目は?近視か?

 

「シロ!サボってないで仕事してよ」

「はいはい。こっちは順調ですよー」

 

 勘違いするな。私は皆がやりすぎないよう監督をしているのだ。

 断じてサボっているわけではない。

 大体ですね。私まで参戦したら一瞬で終わってしまうでしょうに。

 前の方では、ココがソロで奮闘しているので安心。

 私は陣形の中央に位置して指示と野次を飛ばす係に徹する。

 今の作戦は『バッチリがんばれ(不殺でお願い)』だ。

 

「シロちゃん。いい加減働こっか?」

 

 実体剣にて敵を切り伏せたココが『働け!』と笑顔でプレッシャーをかけてくる。

 彼女の周りには、服を斬り刻まれてパンイチになった男たち。

 むさ苦しい男たちが『キャー!』と悲鳴を上げて戦意喪失中だ。

 なぜ、揃って乳首を隠すのだろうか?

 

 私要らなくね?

 自分が出るまでもなく制圧完了しそう。少々退屈である。

 

「働きたくないでござる。マサキさん欠乏症でござる。やる気力50を下回ったでござる」

 

 やる気の無さをアピールしてみた。

 そして始まる仲間たちからのブーイング嵐!

 

「マサキさん欠乏症はみんな一緒です!我慢してください」

「役立たずのサトイモは畑に帰れ!そして戻って来るな!」

「ヨゴレ芸人枠!オチ担当!公式でも異常者!」

「あー聞こえない聞こえない。マサキさんの声しか聞きたくない」

 

 私たちチーム"ああああ"は密売組織の潜伏先を絶賛襲撃中である。

 学園を敵に回した、哀れな連中を懲らしめるだけの簡単なお仕事です。

 担当する区域の敵を早々に蹴散らした私たちに待っていたのは、追加のお仕事(おかわり)だった。

 現在、遊撃部隊としての活動を強いられてるんだ!

 人手が足りない区域や他チームの補助に駆り出される。ぶっちゃけいいように使われています。

 司令部の命令通り、敵を探してあっちへこっちへの繰り返し。

 改造デバイスの保管場所である怪しい工場や倉庫に突入するのも、本日これで4度目だ。

 施設内部から群れた雑魚敵がワラワラ湧く姿も見飽きた。

 あー、今すぐマサキさんに会いてぇ。禁断症状が出るほど愛してます!

 

 もう無理マジで飽きた。

 全員が作業の目になり始めたので対策を考える事にする。

 とうい訳で、気分転換にフォーメーションを変えてみよう。

 私とココが前に出て、アル姉さんとクロが後方に下がる陣形だ。

 いつもと前衛後衛を交換したのだ。

 雑魚敵の皆さんには、実践を兼ねた修練に付き合ってもらおう。

 近接格闘戦を主体とする脳筋二人は、苦手な遠距離攻撃や射撃練習をすることにしたらしい。

 二人が試行錯誤しながら暴れているだけで、敵がみるみる減っていく。

 アホは命中精度とか考慮していないので、流れ弾に注意だ。

 

 で、前衛になった私とココなのだが、別に接近戦が苦手な訳ではない。むしろ大好物だ。

 銃や弓を使うのはあくまでも趣味なのだよ。

 今、ココは剣を私は徒手空拳で頑張っている最中です。

 

「頑張っているの私ひとりだよ!」

「うるさいですね。何なの?セイバー目指してるの?サムライレムナントなの?」

「手伝ってよ!」

「新衣装の私を差し置いて、セイバー気取りのココなら単騎でも大丈夫ですよ」

「あ、そこ気にしていたんだ」

 

 ココは最近、たづなさんから剣の指導を受けていて、メキメキ腕を上げつつある。

 日本刀型の武装、シシオウブレードを巧みに操り敵をバッタバッタと切り伏せてく姿は、ちょっとだけカッコイイ。

 時代劇のクライマックスで将軍が暴れ回る、処刑用BGMが聞こえて来そう。

 

「アル姉、シロのサボり許していいの?」

「許しませんよ。帰ったらマサキさんに『働かないサトイモがいた』と報告します」

 

 おおっと、脳筋たちがヒソヒソ不穏な話をしているぞ。

 

「マサキさんにチクられても嫌だし、そろそろ働きますか」

「最初からそうしてよ。敵の数が多いんだからさあ」

 

 ふむ、ただ素手で殴るのは芸がないな。

 ココを見習って、私も剣で華麗に戦ってみたい。

 

「ココ、私にも剣をください。エクスカリバーとかでいいですよ」

「注文が贅沢だなあ、聖剣なんて持ってるわけないでしょ」

「じゃあ何でもいいです。早くレンタルさせろ」

「もう……はいコレでいい」

 

 ココが空間収納、略して空納から取り出したのは一本の剣だった。

 何の変哲も面白味もない鋼鉄製の剣・・・特徴が無いのが特徴みたいな。

 

【ダイヤははがねのつるぎをてにいれた そうびしますか?】

 

「アル姉さん?突然、何の真似ですか?」

「お気になさらず。ただのシステムメッセージです」

 

 ドラクエ大好きアル姉さんがナレーションを入れてきた。

 酔ってんのか?ちょっとウザい。

 

「シロ!」

「何ですかクロ?」

「武器や防具は装備しなきゃ意味がないよ!」

「そうだね。ちゃんと装備しろ装備」

「うっっぜぇぇ!!」

 

 クロとココもウザくなってきた。

 はいはい、装備しますよ。

 受け取った剣を確認する。これ、私の覇気に耐えれるの?

 リシュウ・トウゴウの作品をいくつか所持している、私の審美眼で鑑定しちゃる。

 ふむふむ。これは大量生産された『はがねのつるぎ』

 全力で振るうとすぐ砕けてしまいそうだ。

 ケガをしないように指先を覇気でコーティングして刃の部分に軽く触れてみた。

 うーん、切れ味はそれなり・・・

 

【ダイヤは2のダメージをうけた ダイヤはしんでしまった】

 

「今のダメージ判定あるの!?私のHPすくなっ!!」

 

 HP2てなんだよ。紙装甲ってレベルじゃねーぞ!

 ダイヤちゃんそんなに(やわ)じゃないよ!

 マサキさんからは『至高の柔らかさ』と大好評な部位もあるけどさあ。

 まあいい。

 

 作戦を『おれにまかせろ』に変更。

 あとは私がやる。アホ三匹はそこで見てな。

 

「クソっ!トレセンの騎神どもめ!生きて帰れると思うなよ」

「アニキの仇だぁー。奴らを血祭りに上げろー!」

 

【ばかもののむれが あらわれた】

 

 『ばかもの』アル姉さんも言うようになったな。

 増援追加、この雑魚たち本当にキリがない。

 これまでにも結構な数を倒したはずなのに、まだ増えたか。

 無限に湧きはやめてほしい。

 

「下がっていなさい。ここからは私のターン!」

「はいはい。好きにすれば」

 

 ココが退いたのを確認し、私は剣を無造作に構える。

 剣術の経験?見よう見まねですが何か?

 フフフ、私のアバン流刀殺法を見せる時が来ましたか。

 登下校中アバンストラッシュで傘を壊した思い出は伊達じゃないですよ!

 

【ダイヤのこうげき】

 

「そこだぁ!」

「うわぁぁ!何だコイツ!?急に動きが」

 

【ダイヤのこうげき】

 

「もういっちょう!」

「い、いや……母さん!!」

 

【ダイヤのこうげき】

 

「出て来なければ、やられなかったのに!」

「しっ死にたく……」

 

【ダイヤのこうげき】

 

「抵抗すると無駄死にをするだけだって、何で分からないんだ!」

「たっ助けて……」

 

【はがねのつるぎは くだけちった】

【ダイヤは とびひざげりを はなった!】

【ダイヤは こしを ふかく おとし まっすぐに あいてを ついた!】

【ダイヤは もうどくのきりを はきだした!】

 

 〇

 

【ばかもののむれを やっつけた】

 

 そんなこんなで、私の華麗な剣捌きの前に敵はいませんでした。

 制圧完了!もう帰ってもいいですか?

 

「やはり壊れましたか。グッバイ!特に思い入れのない、はがねのつるぎ」

「これレンタルだからね?あとで弁償してもらうから」

「シロさん、途中から素手で暴れていました」

「そりより毒吐いたんだけど!?アレなんだったの?きっっしょっ!!」

 

 終わったことをグダグダ言うんじゃありません。

 ああもう!雑魚の返り血ばっちい!

 

『チームああああ応答しなさい。チームああああのバカども応答しなさい』

 

 耳に装着したインカムから呼び出しの音声が響く。

 うわっ、小姑だ。居留守使いてぇ。

 応答したくないけど、ここで無視するとあとで酷いことになる。

 仕方なく代表で私が応答することになった。貧乏くじ!

 

「ただいま留守にしております。ご用の方はピーと言う発信音のあとにメッセージをどうぞ……ポーッ!!

「それ以上ふざけるなら、耳も尻尾も引き千切るわよ?」

「ごめんなさい。どうかお許しください。他の三人は存分に千切っていいんで私だけは助けて!」

「「「おい!!」」」

 

 マサキさんとファーストコンタクトした時も『引き千切る』と言われた気がします。

 さすが姉弟、血は争えませんねえ。

 もし、私以外の三人がウマ耳も尻尾もない無個性キャラとなったらどうなる?

 ウマ娘好きのマサキさんは、私のみを愛するのでは!

 いえーい!私の独り勝ち!と、妄想を手早くすませる。

 

「そこはもう終わったのね?」

「はい。今しがた片付きましたけど」

「追加のオーダーよ。悪いけど、至急向かってほしい場所があるの」」

「拒否権は……」

「有ると思うな」

 

 ウマ使いの荒いたづなさん。いつか下剋上してやる!

 

 たづなさんによると、ここから離れたポイントを担当中の警官隊と連絡が取れなくなったらしい。

 指定された場所は念の為に人員を配置した港だ。

 貨物船に紛れて逃亡を図ろうとする輩を想定して網を張っておいたのだ。

 他より少々手薄なのだけど、配備された警官隊がチンピラ崩れ程度には後れを取らないはず。

 何かイレギュラーな事態が発生したか?

 

「了解。チームああああ、現場に行ってみます」

「頼んだわよ」

 

 たづなさんとの通信を終える。

 作戦も終わりに近づいているが、他の場所ではまだ戦闘が続いている。

 頷き合った私たちは現場に急行するのであった。

 

 虫の知らせというやつだろうか。

 思えばこの時、私は何か嫌なものを感じていたのだ。

 移動中、口数の少なかったクロたちも何か察知していたのかもしれない。

 私は信心深い方ではないので、今日の運勢がどうだろうと知った事ではない。

 だけど、もし、今日の運勢を占ってみたら・・・きっと大凶と出るはず。

 

「来たか。待ちわびたぞ」

 

 磯の香りがする現場に到着した私たちを、ひとりの人物が出迎えた。

 

「なんだてめぇ……」

「ねえ、ココ」

「この人ですか?この人が」

「この覇気…忘れもしない。こいつだよ!」

 

 十数名の警官隊が倒れ伏す中で、たったひとり悠然と立つ人物。

 やったのはこいつで間違いない。

 強い覇気だ。だが、心身がざわつくような不快感を伴う覇気だ。

 全員の耳と尻尾が逆立つ、見ているだけでムカムカする。

 クロは牙を剝いて唸り、アル姉さんは放電を開始している。

 ココにいたっては既に複数の武器を構えての臨戦態勢だ。

 

「久しいなファインモーション、他の三人は初めましてかな?」

 

 そいつを私はじっと観察する。

 僅かな情報も見逃さないように、全身の感覚を使って観察する。

 中世の騎士を思わせる仰々しい装甲の着いた戦闘服、風になびくマント付き。

 ボイスチェンジャーを通した耳障りな機械音声。

 中肉中背、性別不明、身長はやや高いか?、臭いなし、得体の知れない雰囲気。

 顔は見えない。だって、何時ぞやテレビで見た仮面を着けているのだから。

 

 お前か・・・お前が・・・

 お前のせいで1stの私たちが、大勢の罪なき人たちが、そしてマサキさんが・・・

 

「ようやく会えたな。マサキの愛バたちよ」

 

 そいつは心から嬉しそうな様子で両手を広げる。

 一挙手一投足がムカつく野郎だ。

 

「私の名はルクス。お前たちの敵だ」

 

 仮面の宿敵ルクスは、優雅に一礼してみせるのであった。

 

 〇

 

 思いもよらぬ敵(大ボス)と遭遇した。

 雑魚狩りで多少の疲労はあるが、まだまだ全然いける!

 全員のやる気は十分、クロなんていつ突撃してもおかしくない。

 

【ルクスを ここで しとめますか?】 【はい】or【いいえ】

 

 (おススメは『はい』です)

 (『はい』だよ!)

 (『はい』でしょう!)

 (『はい』しかないね!)

 

 満場一致きたぜ!

 私たち愛バの心は一つ、目の前のルクス(ゴミ)肉塊(生ゴミ)に変える準備はオッケーだ!

 こいつ結局ゴミじゃねーか!!

 

「そう(はや)るな。私に戦う意思はない」

「信用できません」

「そうだよ!ここにいる警官隊、やったのはお前だろ?」

「我々の逢瀬(おうせ)を邪魔されたくなかったのでね。申し訳ないが、彼らには眠ってもらった」

 

 ルクスが言うように倒れている人たちは生きている。

 でも、警官に暴行を加えたので公務執行妨害です。またひとつ罪を重ねましたね。

 

「私は君たちとの対話を望む」

 

 は?はぁ?はぁぁぁぁぁぁ?

 

「ふざけないで!ラースエイレムまで使用して襲って来た奴が何を!」

「なんだ、私は時間停止まで使ったのか。それはすまなかったな、狙うのはマサキだけだと決めていたんだが」

 

 こいつ他人事みたいに。

 狙いはマサキさんで、ココと戦ったのは不可抗力とでも言うのか?

 

「この間、あなた愛バを名乗る騎神にお会いしました」

「明確な敵意を感じましたよ?それについてはどう説明するのです?」

「私と愛バは利害の一致から手を組んでいるが、それぞれの標的は違う。私はマサキを倒したい、そして私の愛バは君たちを倒したい、解るか?」

「それって…」

「そうだ。君たちがマサキと契約し徒党を組んだからこそ、我らも団結したのだよ」

 

 ルクス一味誕生のきっかけは、私たちがチームになったからだってさ。

 害虫が類は友を呼んで群れたのを、人のせいにすんなよ。

 

「言いたい事はそれだけですか。心残りが無いようでしたら消えてくれます?この世から」

「まだ話足りないな。真実を知りたくはないか?」

「あなたの口から出た真実に価値など見出せませんけど」

「場所を変えよう。こっちだ」

「勝手に何を!」

 

 私たちが従って当然みたいに、背を向けて歩き出すルクス。

 余裕の態度がムカつくわ!殴りてぇ。

 

「どうした?……何!……ああ、そうか、わかった」

 

 不意に立ち止まったルクス、誰かと話してる?

 仮面に通信機が内臓されているのか。

 ルクス隙だらけなんだけど、今チャンス?バックアタックしちゃう?

 

「今、大変興味深い連絡があった。フフフ、想定外の事ばかりしてくれる……」

「何がおかしい!」

「いやいや失礼。やはり奴は普通ではないと再認識したものでね」

 

 悪寒が走る。

 何か途轍もなくマズい状況に陥っている気がしてならない。

 ルクスは懐から取り出したスマホを見て、また笑った。

 

「私の愛バが銀髪の幼女を保護したらしい」

「「「「なっ!?」」」」

 

 待て!落ち着け。

 動揺を誘うハッタリの可能性もある。

 ルクスがスマホに表示された画像を見せつけるように掲げた。

 そこには、見間違えるはずのない銀髪幼女、私たちの操者マサキさんの姿が!

 マサキさんの写真!?きっと奴の愛バから送られたものだ。

 そうだとすると、ルクスの言っていることは本当でマサキさんがピンチってこと!!

 

「どうやら『マサキ』と名乗っているらしいが、君たちの知り合いかな?どう思う?」

 

 この野郎!!おちょくってやがる。

 

「クズですね。解っていましたが、あなたは本物のクズです」

「対話が聞いて呆れる。脅迫の間違いでしょ」

「人質を取らないと話もできないのですか?とんだ痴れ者ですね」

「死ねばいいのに」

 

 恨み言を述べながらも大人しくついていく。

 人質を取られたとあっては従うしかない。

 

 (うがぁーーー!悔しい!!この屈辱忘れてなるものかぁ!)

 (殺す。絶対に殺す。マサキさんに何か有っても無くても殺す)

 (でも、マサキの顔、なんだか楽しそうに見えたんだけど?)

 (敵陣のただ中でも余裕の態度を崩さない。さすがマサキさんです)

 

「勘違いしないでもらいたい。マサキを保護したのは全くの偶然であり、我々が意図した事ではない」

「はっ!どうだか」

「廃ビルの屋上から落下中だったところを救出したらしい。人目を忍んで紐無しバンジーとは、相も変わらずエキセントリックな奴だ」

「マサキさん何があったの!?」

「覇気を使い果たした状態での高所落下は命に関わる。マーテルがいなければ、私との再戦も叶わずマサキは終わっていただろう。少しは感謝してもいいのではないか?」

「それが本当なら。マサキさんはマーテルとやらに、感謝の土下座を披露してますよ」

「お前たちの操者は敵に土下座をするのか……いいのかそれで」

「マサキさんは感謝の心を忘れない礼儀正しい人なの!お前と違ってな!」

 

 敵だろうと命の恩人には感謝を伝えるべし!

 とか言って、マジで土下座してそう。マサキさんならやる。きっとやる。

 それで、いつの間にか敵の女と仲良くなって・・・・・・あ、この流れはマズい!!

 

 (ピンチなのマサキさんじゃなくて、私らだ!)

 (マサキさん、どうか早まらないでー!)

 (顔も見せない女に負けるなんて、納得できません!)

 (だ、だ、大丈夫だよ。仮面とったらどうせブスだよ。そうに決まってる!)

 

 呆れたように首を振るルクスを放置して、愛バたちは苦悩するのであった。

 

 ルクスに案内されたのは、港で働く職員たちの詰所だった。

 人払いは既に済んでいるらしく、ルクスは当然のようにズカズカと入室する。

 古ぼけた外観とは裏腹に室内はリフォーム工事の行き届いた、お洒落空間であった。

 テーブルに用意された席は5つ、ルクスの隣とか嫌なので椅子を引き寄せて四人並んで座る。

 全員が席に着いたのを見てルクスが話し出す。

 

「なんと答えるか分かり切っているが。あえて問おう」

 

 ルクスは一呼吸おいて質問した。

 

「マサキの愛バを辞めるつもりはないか?」

「「「「ない!」」」」

 

 マサキさんの愛バでいることは、息をするぐらい当然のこと、私たちの存在意義だ。

 辞めろと言われて『はい辞めます』と答えるウマは、ここにいるはずがない。

 

「ま、当然の反応だな。気が変わったらいつでも言ってくれ」

「変わることはないので、期待するだけ無駄です」

「君たちを敵に回すのは、私としても心苦しいのだよ」

「どの口が言っているのか」

「先程も言いましたが、あなたのところの駄バやる気満々でしたよ?」

「私は愛バの自由意思を尊重している。だが、君たちを狙う事を思い止まるよう、説得してもいい」

「あいつらが説得して聞くようなタマかよ」

「話し合いが無理なら力づくでだ。マサキと関係を断ってくれるのなら、責任もって君たちを守ることを誓おう」

「キモッ!」

「きめぇ!」

「気持ち悪いです」

「オ゛ォエッッ!」

 

 『守る』キリッ

 みたいなことを言われて吐き気がした。

 マサキさんの口から聞くと嬉しい言葉も、ルクスに言われると不快極まる。

 本気で吐きそうなココの背中をアル姉さんが擦っている。

 発射する相手を見誤るなよ。"にんにくたっぷりラーメンゲロ"はルクスにぶっかけてやれ。

 

 私たちの拒絶反応にルクスは微動だにしない。

 内心ショックで固まっているんじゃね?

 

「くだらない話はそれだけですか?無駄に時間を浪費してしまいました」

「いいや、本題はこれからだ」

「早くして、マサキを回収して帰らないといけないんだから」

「真実を知りたくはないか?」

「またそれか……なんなんだよ」

「私の話を聞いた後も、マサキと共に歩むと誓えるかな?」

 

 勿体ぶりおってからに、言いたいなら早く言えよ!

 ルクスは私たちの顔を見渡してから、本日のメインテーマを語り出す。

 これを教えたくて仕方が無かった感が出て凄くウザい。

 

「君たちの操者、あの男は人間ではない」

 

 あ、はい。知ってます。

 あの人、普通じゃありませんよねー。

 最近では、美女化したり幼女化したり大変です。

 

「アンドウマサキというのも仮の姿だ」

 

 お?

 

「神の器になり損ねた欠陥品にして代替物(だいたいぶつ)。世界を狂わせる異物であり終末装置」

 

 おお?

 

アストラナガン・オルタナティブ……それが奴の正体だ」

 

 〇

 

 終わりを告げる神《アストラナガン》の代替物(オルタナティブ)

 

 ルクスの言葉に何を思ったのか、即座に否定する声は上がらなかった。

 

「それが本当なら、詳しく聞きたいものですね」

 

 射抜くような眼差しでダイヤモンドは問いかける。

 先程から、ちょこちょこ変顔で嫌がらせをしてくるのは、彼女なりの精神攻撃か?

 よくわからないが、反応したら負けだ。

 

「いいだろう。私が知る限りの情報を教える」

 

 そしてルクスは語り出した。

 狂人の妄想だと一笑に付すような、荒唐無稽で不可思議な。

 それでいて、あのマサキならば、それもあり得ると信じたくなる物語を。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 世界は一つではない。

 ここではないどこかには、数多の世界と数多の命が息づいている。

 その中には人類の及びもつかない超越的存在も確かにいるのだ。

 超越者のことを神と言い換えてもいいだろう。

 

 存在するからには神にだって役割がある。

 否、これが自分の役割だと信じて好き勝手に行動している。

 導く者、育む者、謀る者、壊す者、創る者、善神、邪神・・・etc.

 

 いつの頃からだろう、因果律の番人を気取る神が現れたのは。

 どこで発生し、どんな経緯で神へと至ったのか、それは多くを語らない。

 分かるのはとても強い力を持っていることのみ。

 自らを《アストラナガン》と呼称するそれは、時に邪神を退け、時に命を見守る。

 悪魔じみた威容に反し、世界の滅びを悲しみ、世界の再生を喜ぶ。

 冷たいようで温かな心を持った善き神だった。

 

 ある時、アストラナガンが今までにない奇妙な動きを見せるようになる。

 とある世界群への介入を積極的に行うようになったのだ。

 

 そこは、人とウマ娘が暮らす世界へが連なる宇宙・・・

 

 彼が介入した世界は遅かれ早かれ例外なく滅びを迎えた。

 次から次へと平行世界を渡り歩き、滅びを積み上げていく、それでも彼は介入をやめなかった。

 善神的な行いはフェイクだったのか、邪神の本性を現しただけなのか。

 本当のところは本人以外、誰にも分らない。

 

 1stと呼ばれる世界があった。

 ベーオウルフたちに滅ぼされてしまった後だが、ここにもアストラナガンは現れている。

 そして次はここ、2ndを目指した・・・

 

「アストラナガンが世界の滅びに関与しているのは明らかだ」

「世界を滅ぼすのが目的だと仮定して、なぜこの世界が対象に選ばれたのでしょうか?」

「さあ?ウマ娘という存在が奴を()んでいるのかもな」

「適当なことを……」

「クク、あながち間違いだとも思えないがね」

「続きを、マサキさんとアストラナガンの関係は?」

 

 度重なる転移を繰り返したアストラナガンは疲弊し、強大であった力も失われていた。

 1stへの到着が遅れたのもそれが原因であり、2ndへ渡る力はもう残されていなかった。

 だから別の方法を考えた。

 直接乗り込むのではなく、依り代である器を準備して2ndの住人として受肉する方法を。

 

 器に選んだのは強靭な覇気と肉体を持つウマ娘を産んだ前例のある夫婦、その第二子になる予定だった者。

 因果律を計測した結果、死産となる運命が決まっていた男児。

 その体に自らを宿らせ(ダウンロード)魂を定着(インストール)させれば完了だ。

 成長のため、ある程度の時間を必要とするが、2ndで活動する体を入手できるはずだった。

 

 だが、アストラナガンは予定外の行動を起こす。

 

 気まぐれなのか手違いなのか、それとも別の意図があるのか。

 アストラナガンは死ぬはずだった赤子を救ったばかりか、己の力、その源である動力炉を譲渡したのだ。

 人類には早すぎる、超々エネルギー永久機関。

 "ディーン・レヴ"と言う名の神核を。

 

「マサキさんの出す異常な覇気の理由」

「思った通りだ。ディーン・レヴはマサキが持っていたんだね」

「神様由来の力、私の操者マジでカッケー!」

「シャナミア様たちが気にするわけです」

「そうだ。奴は終わりを告げる神の手先であり、この世界に生まれ落ちた第二のアストラナガンとも言うべき存在だ」

 

 神の代替物・・・故に、オルタナティブ。

 真意は不明だが、彼の出現した世界の行く末は滅亡である。

 

「以上が、マサキの正体とその危険性についてだ」

「「「「…………」」」」 

 

 マサキの正体を知ってショックなのか、四人の愛バたちはしばらく黙りこくっていた。

 操者への疑念と不信、他にも様々な感情が入り乱れていることだろう。

 そんな葛藤を意に介さず、ルクスは言葉を続ける。

 

「私はマサキ(オルタナティブ)を倒し、滅びの運命とその連鎖を断ち切る」

「救世主にでもなるつもり?」

「必要とあらば」 

「世界を救うって?笑わせないでよ。だったら、あなたがしてきた事は何?どうして1stをあんな目に……」

「ベーオウルフとルシファー、あの二体を造ったのは私ではない」

「しらばっくれても無駄だよ。1stのクロシロちゃんに、何かしたところを見たんだから!」

「それは本当に私だったか?」

「何?」

「ディーン・レヴの力があれば、死にかけの破壊獣を召喚して戦っている風を装うことも、思い通りの幻を見せることも可能だろう」

「マサキの自作自演だっていいたいの?あなた自白していたじゃない、あれもこれもこれも、やったのは自分だって笑っていたくせに!」

「正直に言うと、あの時の事は断片的にしか思い出せない。やっていもいない罪を自白したような記憶も当然に無い。情けない話だが、強力な催眠(ギアス)らしき術をかけられたと思っている。気が付いた時、私はマサキと戦っていた自分に驚いたぐらいさ」

「そんな話を信じろって?バカじゃないの」

「バカだろうがそれが事実だ」

 

 怒りを露にしていたココ。

 いちいち反論するのにも疲れたのか、納得いかない表情で押し黙る。

 

 (シロちゃん。どう思う?)

 (嘘だ!と言い切るのは簡単ですが、何か釈然としないものを感じます)

 (本当のことも言っている、とか?)

 (何度も嘘をつきすぎて、それを真実だと思い込む病気の可能性も)

 

 虚言癖?

 ルクスはどちらにしろ胡散臭い奴ということで結論付けた。

 

「それでどうする?」

「どうもしませんけど」

「ここまでの話を聞いて、まだマサキの愛バでいるつもりか?」

「そうですけど何か?」

 

 ルクスの問いかけにサラッと返答するシロ。

 

「愚かな、一時(いっとき)の恋愛感情で世界の滅びに加担するなどと」

「一時じゃありませんー!未来永劫続くラブハートですー!」

「ラブハート!?何を言って……なるほど、これが噂のクレイジーⅮ」

「クックック、マサキさんに狂って殉ずるならば本望!」

 

 だよなあ、お前ら?とシロは仲間たちに目配せする。

 

「当然!私はずっとマサキさんの愛バだよ」

「同意見です。あの人の愛バでいる事こそ、私が生きる意味」

「私たちは切っても切れない関係。運命共同体なの」

 

 胸を張って答えるクロ、アル、ココ。

 三者三様の決めポーズ付きなのが鬱陶(うっとう)しい。

 発言するたびに、しゃくれ顔を披露するD(ダイヤ)にはもう不快感しかない。

 操者への異常な心酔っぷり。これにはさすがのルクスも戸惑う。

 

「まるで話が通じない??……目を覚ませ、マサキは君たちのみならず、世界の全てを(むしば)む。言わば、この世界の病巣だぞ」

「んー?そうかな」

「病巣ってwあ、恋の病には絶賛感染中です!」

「ディーン・レヴに()かれ共鳴する神核を恋心だと勘違いしている。それがなぜわからんのだ!」

「聞きた?勘違いだって」

「幸せな勘違いなら望むところですよ」

 

 ダメだこいつら、何度説明しても惚気(のろけ)で返してくる。

 ショッキングな内容を受け止めきれずイカれたのか?

 いや待て、最初からこんな感じだったはず。ヤバい、これが奴らの平常運転だ。

 不自然なほどの余裕見せつける宿敵の愛バ。

 ルクスは己の考えが間違っていることに思い至った。

 

「そうか、そういうことか……()()()()()()()()()な?」

「♪~(´ε` )」

「マサキがアストラナガンだと()()()()()()()。知っていてなお、奴に寄り添うのか!」

 

 はい。そういう訳でネタばらし。

 衝撃の真実を語ってくれたルクスさんでしたけど、全部無駄でしたーwww

 マサキさん=アストラナガンは、愛バなら常識なんですけど。

 めっちゃイキって話すから、心の中で『もう知ってるわ!』と叫んじゃったぞ。

 話の途中で入れたリアクションは全てアドリブだ。

 1st絡みの(くだり)でココが熱くなったけど、何とか堪えてくれた。

 

 それもこれも、ルクスがどれだけの事情通か探りを入れるため。

 こちら側の持つ情報と比較してみてわかったこと。それは・・・

 ルクスが痛い奴だと言うことだ。

 

「長々と講釈垂れて気分良かったですか?無様ですねぇ」プークスクス

「『それが奴の正体だ( ー`дー´)キリッ』だってよw」

「オwwルwwタナwwティブwwねえねえ?それ自分で考えたの?ねえ?」

「『終わりを告げる神』ですか、胸が苦しくなりますね」

「私のおススメは『終末装置』というワードですよ。ゾワゾワします」

「「あ痛たたたたwww」」

「でも、マサキさんが好きそうなんだよなぁ。ノリで正式採用しそう」

「「「あーわかる!」」」

 

 おやぁ?ルクスなんかプルプルしてない。

 痛々しい自分をようやく理解したようですね。遅せぇんだよ。

 

「っ!だが、奴が滅びの原因には違いない」

「お前がそう思うんならそうなんだろう、()()()()ではな」

「何だと!」

「私たちの見解は違うんですよね」

 

 アストラナガンの目的は世界の滅亡などではい。

 逆だ。滅びを食い止め、世界を弄ぶ元凶を排除することこそ使命。

 善神として彼は戦っていたのだ。

 

「そんなはずは…ならばどうして、奴が現れた世界が(ことごと)く滅ぶ!」

 

 行く先々で世界が滅ぶのは、元凶が恐ろしく狡猾で強大な力を有しているためだ。

 いつも後手に回ってしまい、気付けば取り逃してしまう。

 致命傷を負い活動不能に陥ったことも一度や二度ではない。

 何度負けても立ち上がり、敵を追いかけ続け、たどり着いた先が2ndだった。

 そこで出会ったのだ。

  

 世界の命運と力を託すに値する。マサキという男に。

 

「なんだそれは!連戦連敗中の神が職務放棄したとでも言うのか!」

「クォヴレーさんは、マサキさんにバトンを渡したのです。今度こそ勝つために、自分よりも勝率の高いマサキさんに全てを賭けた」

「クォヴレー?何だ、誰だそれは?」

「おやおや、ご存じない!へぇー、そうですか、そうですか」( ̄m ̄〃)ぷぷっ!

「その目をやめろ!私を、この私を(さげす)むんじゃないッ!!」

「化けの皮が剝がれてますよ。紳士ぶったキモキャラはお終いですか?」

 

 ルクスが声を荒げた。

 『お前はその程度だ』と暗に告げるシロの目が、不愉快で我慢ならなかったとみえる。

 それでキャラを崩しては、余計に小物っぽくなると気付け、バーカ!

 

 (こいつ、クボさんを知らない!?)

 (それがわかっただけで十分です)

 (もういいですよね)

 (うん。こんなクソ仮面放置して、早くマサキを助けに行こう)

 

「お話はここまで、そろそろマサキさんを返してもらいましょう」

「本当にマサキと行くのか……どうあっても気持ちは変わらないか?」

「くどい!しつこい!どっか行け」

「選択を間違えたな。必ず後悔するぞ」

「それ、自分の愛バに言ってあげたら?」

「残念だよ。君たちとなら共に理解し合えると━━」

「いい加減にしてください!早くマサキさんを返して!」

 

 キレたアルがテーブルを蹴り飛ばした。

 身をかわしたルクスには当たらず、詰所の調度品なぎ倒しながら壁に激突するテーブル。

 ルクスは肩の埃を払う仕草をして、出入り口を指差す。

 

「外だ。もうそこまで来ている」

「「「「マサキさん!!」」」」

 

 四人は一目散に詰所の外へと駆けだす。

 果たしてそこにいたのは、

 銀髪幼女マサキと、それを抱っこした仮面の騎神マーテルであった。

 

「ねえ、まだ?」

「まだみたいですね~。ルクスさんたち、何を盛り上がっているのかしら」

「突入しようぜ」

「邪魔しちゃダメだって言われてますよ」

「俺とマーテルはたまたま入った部屋で、たまたま変態仮面ルクスを発見した。そういうことにすればいい」

「おー妙案ですね」

 

 気のせいか?やたら距離が近い気がする。

 敵同士であるはずのマサキとマーテルは、まるで本物の操者と愛バのようで・・・キレそう

 全然こっちに気付かないんだけど?二人の漫才始まってますけどぉ!

 ブチギレそう

 

「だろ?『すみませーん、小便漏れそうなんでトイレ貸してくれます?』これで行こう」

「ルクスさんと愛バの皆さんが仲良くしていたら、すっごく気まずいですね!浮気現場目撃しちゃったみたいなw」

「その時は、()()()()を漏らして、雰囲気も何もかもぶち壊してやるわ!」

「操者としての尊厳もぶち壊されそうですねww」

 

 おーい、マサキさーん。こっちですこっち!こっち見て。

 早くそのウマから離れてください!

 

「よし行くぜ」

「行きましょう……あら?」

「なんだ、まさかルクスが先に漏らしたのか?」

「どうしてそうなるんですか、あなたの愛バが━━」

「え?もしかしてルクス倒しちゃったとか!?ごめんねーうちの子たち強くてさぁww」

「きゃっ!胸をペチペチしちゃダメです」

「すまない ただちょっと母乳が欲しくて……」

「出ませんよ、もう////」

 

 ナチュラルにセクハラしてるーー!

 そんな乳だけ女のどこがいいんですか!

 母乳ならいずれ飲ませてあげますから、戻って来て―!

 

「楽しそうだな」

 

 私たちを放置して仲睦まじい二人。

 そんな二人に、追いついて来たルクスが声をかけた。

 

「あ、ルクスさん」

「何ぃ!!」

「と、マサキさんの愛バが勢揃いです」

「何ィィィーー!…………い、いつからや?」

「漏らすどうこう言っている時には、いたみたいです」

「そうですか、ははは、まいったなぁ……やり直していい?」

「合わせますので、ご自由に」

 

 マサキさんはこちらをチラ見しているが、視線を合わせようとはしない。

 マーテルと頷き合ったあと『コホン!』と咳払いして、リテイクを開始した。

 

「おのれルクス!俺を人質にとり愛バを手籠めにするとは!この腐れ外道がぁぁ!」

「大人しくしなさい。無力なあなたはそこで愛バのNTRを見ているしかないのです!ですよね、ルクスさん?」

「あ、いや、なんだ」

「くっ!放せ、乳だけはやたら素晴らしい騎神め!こんなものに俺は屈しないぞ」

「フフフフ、その威勢がいつまで持つか。ほぉら、押し付けてあげます」

「や、やめろぉ!」

「こういうの好きなんでしょ?いっぱい甘えていいんですよ」

「ぐあああああ!何という弾力だぁ!」

「愛バの前で敵おぱーいに溺れる姿を見てもらいましょうね~」

「クロ、シロ、アル、ココ!俺の事はいい、俺に構わずルクスを!奴を倒すんだぁーー!」

 

 ルクス困ってるじゃねーか!

 『お前の操者だろ、何とかしろよ』とルクスが念を送ってくる。

 私たちだって困まっているんですよ!

 なので、こちらも『お前の愛バだろ、何とかしろよ』と睨んでおく。

 

「どう?いけそう」コソコソ

「バッチリです。名演技でしたね」ヒソヒソ

 

 いけるか!内緒話下手くそか!

 大根役者二人の声は丸聞こえだった。

 

「マーテル、そこまでしろ」

「はーい」

「マサキさん、あとでお説教です」

「\(^o^)/オワタ」

 

 とりあえずアホの二人の漫才を終わらせた。

 

「お話はうまくいきましたか?」

「見ての通りだ、物別れに終わったよ」

「こちらもです。わかっていましたが、残念でなりません」

 

 ルクスとマーテルが会合の結果を報告しあっている。

 私たちとマサキさんだって、この距離なら目だけで会話可能だ。

 

 (もしかして、愛バやめろとか言われた?)

 (そっちもみたいですね)

 (ああ、操者やめろってさ。即行でお断りしたけどな)

 (さっすがぁ!)

 (私たちも断固拒絶の意思を示しました)

 (鼻で笑ってやったよ)

 

 操者と愛バ、似たような状況にで、似たような交渉を持ちかけられたみたいだ。

 

「そこのデカ乳仮面!マサキさんを解放しろ!」

「いいですよ。ルクスさんと交換です」

「言ってる意味がわかりません」

「隠さなくていいですよ~。四人ともルクスさんを殺す気満々じゃないですか」

 

 ちっ!さすがにバレるか。

 少しでも妙な動きをすれば、ルクスの頭を吹き飛ばす準備は全員がしている。

 クロとアル姉さんは、いつでも殴れるよう覇気を溜めているし、ココはゼロ距離から砲を撃ち込むつもりだ。

 私はステルスにしたオルゴンテイルを展開、仮面ごと頭部を貫いてやるわ。

 

「よう」

「フッ、なんとも無様な姿だな」

「可愛いと言え!バーカバーカバーカ!」

「無理だな。中身がお前だと、おぞましいとしか感じない」

 

 マサキさんとルクスが会話する。

 因縁の相手を前に、ヒートアップする両者に愛バの私たちは入り込めない。

 もちろんマーテルも黙っている。

 

「全部お前のせいだ。お前の道連れで彼女たち皆は不幸になる」

「そんなことさせねぇ。マーテルたちは割といい奴なのに、なんでお前なんかと……」

「こちらの台詞だ、アストラナガン!」

「ああ、その話もしたの。ドヤ顔で語って滑ったんだろ?ププッ」

「自分が神の代替だとバラすアホはお前ぐらいだ!それを理解してなお、付き従う愛バもマトモではない」

「おいコラ!愛バを悪く言う奴は許さねぇぞ」

 

 このままだと口論がずっと続きそうだ。

 そう思われたとき、マーテルが一歩前に出た。

 

「では、お返しします」

「ひょ?」

 

 不意にマーテルはマサキの体を宙に放り投げたのだ。

 四人の視線がマサキに注がれた一瞬、示し合せていたように、ルクスとマーテルは動く。

 この場から逃走を図る気だ。

 

 (マサキさん!?受け止める!)

 (バカ!それは私に任せろ。クロはルクスをやれ!)

 (誰でもいいです!ルクスが逃げてしまいますよ)

 (とか言って、アルもマサキの方に!?あ、マーテルも逃げちゃう)

 

 結局、愛バたち全員がマサキを優先した。

 揉みくちゃになりながら空中キャッチした操者の無事を確かめているうちに、すっかり距離を離されてしまった敵を見る。

 ルクスはマーテルを傍らに置きながら、こちらに声をかける。

 

「交渉は決裂した。無駄な戦を避けようとした私の慈悲を、お前たち拒絶したのだ!」

「うるせぇ!ブサイクな顔みせろ!」

「覚えておけマサキ!オルタナティブにすぎない貴様の(おご)りが、全ての間違いなのだと」

「出たwオルタナティブww」

「え?今の俺のこと、何それカッコイイ」

「そしてこの反応である」

「やがて来る破滅の時まで、せいぜい人間のフリを楽しむがいい。そしてお前は知るだろう━━」

「なげぇ!目標ルクス!全騎撃ちまくれぇーーー!

「「「「了解!!」」」」

「クソっまだ、話の途中だ!コレだから貴様たちわぁぁぁーーーーー!

 

 俺の号令で愛バたちがルクスに集中砲火を浴びせる。

 シロが愛用のオルゴンライフル乱射し、ココが空納からミサイルランチャー召喚して発射する。

 クロとアルも各々の覇気を乗せた弾丸を、拳や脚から撃ち出している。

 マーテルに対する配慮が一切ないが、これも戦なので仕方なし。

 破壊の轟音と土煙が上がる。気のすむまで撃ち尽くしたところで、俺は待ったをかけた。

 

「ビックリしましたね~。お怪我は?」

「問題ない。君が庇ってくれるとは思わなかったな、マーテル」

「いえいえ、愛バとして当然の仕事をしたまでです」

「マサキの前でよくもまあ。君の割り切りは、いっそ清々しいな」

「仕事とプライベートは使い分けてこそ、ですものね」

 

 ちっ!やっぱりダメか。

 マーテルが愛バたちの攻撃を防ぎ、ルクスを守ったようだ。

 展開された障壁は、オルゴンクラウドに酷似している。

 そっか、ルクスとリンクしたのか。

 なんだかちょっと残念に思う。

 

「追撃しますか?」

「いい、もう間に合わない。ルクス、いつの日か必ず倒す!」

「いつかなんて日は来やしない。その前に、私がお前を倒すのだから!」

 

 キザったらしく一礼したルクスはマントを(ひるがえ)し去って行く。

 その背中を俺たちは睨みつけるのであった。

 

「私も失礼しますね」

「世話になったな」

「こちらこそ。お世話は楽しかったです。本当に……」

「敵、なんだよな?」

「敵ですね。少なくとも、そこの四人は気に入りませんから

「「「「あ゛あ゛あ!?」」」」(# ゚Д゚)

「では、またお会いしましょう」

 

 手を振ってルクスを追いかけて行くマーテル。

 隠形術を使ったらしく、二人はすぐに見えなくなった。

 

 お、終わった。

 長かったけど、これにてようやく解放されたのだ。

 

「お、おつか……あれ…」フラッ

「マサキさん!?」

「ちょっと、大丈夫なの」

 

 ふらついた体をシロが優しく支えてくれた。そのまま抱っこされる。

 ここまでいろいろあったので、幼女の肉体と精神は疲れ切っていたのだ。

 

「疲れた……早く帰りたい…腹も減った」

「すぐに帰ります。もう少しの辛抱ですよ」

「ごめん。話したい事いっぱいなのに、疲労がピーク」

 

 シロの胸に顔を埋める。

 ああ、やっぱり愛バのおぱーいはいいなあ。

 俺の帰るべき場所はここである。

 

「わかってるよ。敵に囲まれた大変だったんだよね」

「ええ。私たちがルクスと向かい合っている時、敵の女たちとハーレムだったんですよね」

「膝枕どうだった?私のより良かったかな?」

 

 あれれぇ?愛バたちの様子がおかしいぞぉ。

 なぜ俺がハーレムだったと気付かれた?ルクスのアホがバラしたのか?

 

「わかりますよ。マサキさんの体中から、こんなにもメスの臭いがするんですからねぇぇ!!」

「ひっ!まさかマーキングですかぁ!?!」

「それもあるけど!あのボケ女どもの臭いがマジでプンプンするんだよ!」

「大体何をされたのか、何をしていたかは、予測できます」

「ねえマサキ?怒らないから教えてよ」

 

 ココが怖い。いや、全員が怖い。

 シロの腕の中、小刻みに震えている俺には、どうすることもできない。

 

「あの乳、マーテルと随分仲が良いみたいだけど。どういう関係なのかな?」

「今日が初対面で、命の恩人、そ、それだけだ」

「本当かな?その割には通じ合っていたよね。昨日今日の間柄じゃないぐらいに……不思議だね」

「そうそう、ホント不思議なこともあるもんで……」

 

 俺のピンチ本番はこれからなの? 

 幼女最終日になにやってんだか。

 

「心配……したんだよ」

「人質になったって言われて、すごくすごく怖かった」

 

 あ、クロとココがちょっと涙ぐんでいる。

 怒っているけど、それ以上に自分の身を案じてくれたのだ。

 こんないい子たちを放置して敵と遊んでいるとか、俺はなんてゲスい男なんだ。

 反省しよう。そして愛バたちを大事にしよう。

 

「ごめん。俺もお前たちが心配で堪らなかった」

「はいはい、もうこの辺にしましょう。続きは帰ってからということで」

「密売組織の殲滅も終わっている頃です。司令部に連絡を入れて帰りましょう」

 

 ルクスとその愛バたちとの邂逅は、これからの困難を暗示しているようだった。

 頑張らなければ、とりあえず男に戻って、また頑張ろう。

 一筋縄ではいかない敵たちを倒さなければ、俺に幸せな未来は訪れないのだから。

 

「ご飯を食べたあとで、お説教タイムです」

「えぇ(´Д`)今日は勘弁してほしいかな……ダメ?」

「では、お風呂でお説教タイムです」

「もう一声」

「ならば!お風呂で洗いっこして、湯船でまったりお説教タイムです」

「望むところだぁ!」

 

 幸せな未来、結構すぐ来た。(*´▽`*)

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