俺と愛バのマイソロジー   作:青紫

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超時空テレビ

 いろいろあって疲れたが、何とか帰宅することができた。

 

 家についてからは、別行動中に何があったのかを尋問され、愛バたちに許しを乞いながら説明をした。

 メッチャ怒られた。

 年下の愛バたちに説教されてちょっと泣きそうなった。実際泣いた(´Д⊂ヽ

 でも、怒りながら愛バたちも泣きそうになっていたので、どれだけの心配をかけてしまったのか思い知った。

 自分の軽率な行動を深く反省し、心の底から謝り倒してようやく許してもらえたぜ。

 

 マーテルたちの匂いが付いているのを大層嫌がった愛バたちにより、全身をゴシゴシと力強く洗われてしまった。

 そして風呂上りには入念な本気のマーキングが待っていましたとさ。

 たっぷりお説教を食らったあと、たっぷりイチャついて、幼女生活最終日は終わったのだ。

 

 〇

 

 俺は眠りについたはず・・・

 

『戦え』『戦え』『戦うんだ』

 

 あ?

 

『使命を』『己が使命を果たせ』『逃げることは許さない』

 

 あちゃー、久しぶりに来ちゃったよ。

 

『奴を倒せ』『奴を倒さなければ』『今度こそ勝利を』

 

 気付けば俺は謎の声に囲まれていた。

 四方八方から一方的に声を浴びせられてウンザリする。

 『使命』だの『戦え』などと、毎回似たような事を言うんだよな。

 

『お前の番だ』『お前しかいない』『お前がやるんだ』

 

 シャミ子と修練するようになってから、大分頻度が減ったけど。

 未だに週一ぐらいのペースでこの声に悩まされる。

 心地良い眠りに落ちたと思ったらこれだぜ?気分悪いわ。

 翌日の寝覚めが悪くなるから勘弁してほしい。

 

『そのために生まれた』『そのために生かされた』『そのためのディーン・レヴ』

 

 そっか、ルクスにアストラナガンと名指しされちゃった事を気にしてるのね。

 俺が平然としているから、心配になったという訳か。

 『こいつに任せて本当に大丈夫か?』とでも思っているんだろう。

 

『使命を忘れるな』『受け入れろ』『それがお前の運命なのだ』

 

 俺は今までこの声をクボのものだと思っていた。

 だが、どうやら違うようだ。

 寝ている俺を取り囲んでいる大勢の気配は、全てがバラバラで統一感が無い。

 なぜだか知らんが、分かるのだ。様々な年齢層の男女が集まっていることに。

 人間もいればウマ娘もいるし、大人も子供もおねーさんもいる。

 こいつらは何者だ?

 クボが嫌がらせのために雇ったエキストラだったら、幻滅しちゃうなあ。

 

 声だけじゃなく、視線もビンビンに感じる。

 そんなに見ちゃイヤン(/ω\)

 怖すぎじゃね?ホラー苦手な俺に何してくれてんの!

 金縛り状態で碌に目も開けられず、一方的なお小言を聞かされるってどんな拷問だよ?

 理不尽に一矢報いるため、こっちから話しかけてみたいと思います!

 今、俺の声は出ないので思念通話をやるみたいに念を飛ばすのだ。

 

『使命を果たせ』『なんとか頑張れ』『とにかく頑張れ』

 

 頑張れって・・・おざなりになってきてない?

 使命ですね。はい、わかってまーす。

 わかっているので、静かにしてもらっていいですか?。

 

『使命だ』『お前の使命を』『使命を━』

 

 おだまり!!

 

『・・・・』『・・・・』『・・・・』

 

 一喝して黙らせてやった。

 なんだ、俺の声ちゃんと届いているじゃんかよ。

 台詞をキャンセルされてビックリ!してやんの。

 

『話しかけて来た!?』『何だこいつ』『変だこいつ』

 

 こいつこいつ、うるさいわ!

 お前らこそ何なの?大勢で押しかけて、一体何人いるのよ?

 

『今日は30人』『これでも人数を絞った』『抽選方式』

 

 多いよ!

 人数絞ってそれなら、謎の声たちの総数はもっと多いのか。

 少なくとも100人以上いるってこと!?うわぁ・・・

 

 それで、あなたたちは何者なのでしょうか?

 

『我々は敗者だ』『何も守れず』『何も救えず』『惨めに敗北した』

 

 何人かが深いため息がつく音が聞こえた。

 場が一気に沈み、お通夜みたいな空気になる。

 自分たちから敗者だと言っておいて、勝手にへこむのやめてくれますか?

 

 なんとなく察したぞ。

 謎の声たちは正体はきっと、別の世界で元凶と戦い散っていった戦士たち。

 その残留思念、無念の声なのだ。

 じゃあ、俺の先輩ってことかい!?

 先輩たちチーッス!本日はお日柄もよく、ご機嫌いかがでございましょうか?

 

『先輩?』『そんないいもんじゃない』『負け犬』『そう、我らは負け犬だワン・・』

 

 語尾が『ワン』になるほど落ち込んでいらっしゃる!?

 もー!暗い暗い暗い!もっと明るく行きましょうや。

 先輩たちがどんな酷い目遭い、どんな最後だったのか、俺には想像もできません。

 俺みたいな奴に同情されても腹立つだけでしょうから、簡単に気持ちが解るとは言えないし、慰めたりもしません!

 だけど、俺、頑張りますから。

 頑張って元凶のクソ野郎には落とし前をつけさせます。

 先輩たちの無念、怒りも悲しみも全部全部、百倍、いや千倍にして返しやりますよ。

 

『いい奴だ』『いい子だ』『ええ子やね』『ウホッ!いい男・・・』

 

 先輩たちが感極まっている。

 よしよし、このまま成仏してくださいな。

 南無阿弥陀仏~南無阿弥陀仏~。

 

『繰り返してほしくない』『お前には』『我らと同じ思いをさせたくない』

 

 もう、心配性なんだからぁ。

 念仏変えてみるか?

 何妙法蓮華経~南無妙法蓮華経~。

 

『強くなれ』『守り切れ』『抗うのだ』『我らは』『お前をの勝利を信じるぞ!!』

 

 南無八幡台菩薩!!

 クソっ!先輩たち全然成仏しねぇ!

 シャミ子たちみたいに、このまま居座る気じゃなかろうな?

 

 激励してくれているみたいだし、気持ちはありがたいけど。

 週に何度も来られると、さすがに迷惑なので頻度を落として欲しいとか、思ったりして。

 

『わかった』『お前の負担にはなりたくない』『口を出すのはやめよう』『静かに見守る』

 

 希望が通った!

 意外と話のわかる先輩方だった。

 けど、俺を見守る会は解散しそうにないな。

 睡眠妨害の小言がなくなっただけ良しとするか。

 

『サボっていたら』『また注意する』『先輩からの叱咤激励』

 

 はい。お小言をもらわないよう。頑張りまーす。

 言いたい事を言って満足したのか、先輩たちは退散していった。

 

 〇

 

 そして、気づくと俺は・・・体が男に戻っていた!!

 

「おお!おお!これだ、これこそが俺だ」

 

 ちゃんと大人用の服も着ている。全裸のサービスシーンはおあずけよ(´∀`*)ウフフ

 ま、ここが現実ではなく、シャミ子たちが造った夢空間だからなんですけどね。

 

 先輩たち背後霊ズから解放された俺は、ここに飛ばされたらしい。

 飛ばされたのはシャミ子ハウスの玄関前だ。

 前回は無かった、カメラ付きインターホンを鳴らすとシャミ子の声が返事をした。

 

「はい。こここは、偉大なるシャナミア様とおまけ三女神の暮らす家です」

「マサキだ。男に戻ったマサキが来ましたよっと」

「本物だという証拠は?」

「は?おいおい、カメラで見えてるだろ。まさか、ボケたのか2000歳児?」

「本物のマサキなら、私を賛美していい気分にさせてください」

「めんどくさっ!いいから開けろよ。言う事を聞かないと、尻を泣くまでブッ叩くぞ!

「この私をスパンキング調教したいだなんて、さすがマサキ///」(*´Д`)ハアハア

 

 賛美はしてないけど、いい気分になったドⅯは玄関を開けてくれた。

 どうぞどうぞと手を引かれ居間に通される。

 ふにゃっとした笑顔のシャミ子は嬉しそうだ。

 

「変化の試練、お疲れ様でした。一週間よく頑張りましたね」

「最後の最後でバタバタしけどな」

 

 労いの言葉が身に染みる。

 ロリスキーたちMML団の信者(ストーカー)たちに、ルクスとその愛バとの接触。

 試練最終日にして、本当に濃い一日だったぜ。

 

「試練はこれにて終了です。マサキは正式に私の起動者となりました」

「そいつはどうも」

「もっと喜んでくださいよ~。私はとっても嬉しいのに」

「俺も嬉しいよ。それで機甲竜は?現実世界でも早く会いたいな」

「まあまあ、そう焦るものではありません。マサキに会う前に、十分なお手入れをしませんと」

「それって時間かかる?いつ頃に会えるの?」

「女は準備に時間をかけるものです。えーっと……1年以内にはなんとか」

「長いよ!お手入れとか別にいいから早く出て来てくれよ」

「2000年の引き篭もりをなめないでくださいね!外に出るのは相応の覚悟がいるのです!」

 

 待ってられねー!

 そんな悠長な事で、ルクスとの決戦に間に合うのかよ?

 

「私の力無しで勝てれば万々歳じゃないですか。余裕を持った勝利を目指しましょうよ」

「全部終わったあとに、機甲竜に出て来られてもな……シャミ子の存在意義がなくなるぞ?」

「その場合は、平和利用してくだされば。そうだ!マサキの家で養ってください、移動手段としてもペットとしても大活躍間違いなしです!」

 

 竜に乗って大空を移動か、ちょっと憧れるな。

 でも、家に機甲竜を置けるのか?駐車場に入るとは思えないぞ。

 全体像を知らないのけど、メカゴジラをワンパンできるなんて豪語するのだから、それなりの大きさだろう。

 

「一応聞くけど大きさは?」

「全長60メートルは軽く超えます」

「置き場がない!!」

 

 個人で所有するのは無理すぎるな。

 メジロ家所有の軍事基地とかで、御神体兼最終兵器として丁重に管理してもらうのが妥当だろうな。

 偉大なご先祖様の頼みとあらば、アルの実家も嫌とは言うまい。

 

「なるべく急ぎますから、待っててください」

「うん。期待して待ってる。ところで、メルアたちは?」

「あなたの愛バたちの所です。今日は『徹底的にしごいていやる』のだそうです。スパルタ式ですよ」

「何故?」

「一週間ぶりに男へ戻ったマサキ。欲求不満だった愛バたちは、きっとハッスルするでしょうね」

「お、おう」

「明日を思い浮かべながら眠りに落ちたところで、地獄の修練メニューがドーン!いい気味です」

「ひでぇ」

「これも彼女たちのため、()いてはあなたのためです。メルアたちは心を鬼にして指導に当たるのですよ。いい話じゃないですか」

 

 愛バたちは今頃大変な目にあっているのか、頑張って乗り越えてくれよ。

 

 今ここにはいないが、メルア、カティア、テニアの三人からも『試練クリアおめでとう』との言伝を預かっているらしい。

 三女神にも現在進行形でお世話になっている。お礼は何度言っても足りないくらいだ。

 

「頑張ったマサキには嬉しいサプライズがあります。じゃーん!これを見て下さい」

 

 シャミ子は居間にある家電を指差す。

 それは、今はもう懐かしいレトロなブラウン管テレビだった。

 リモコンではなく画面横のダイヤルを操作してチャンネルを変えるヤツ。

 ここには既に大画面液晶テレビがあるというのに、何なんだろう?

 

「これはまた、随分と旧い型のテレビだな」

「ただのテレビではありません。マサキのあり余る覇気を流用して創り上げた、見かけ以上に高度で複雑な一品なのです」

 

 シャミ子が創ったという点に些か不安を覚える。

 何だったかな。前に愛バたちが夢空間で古いテレビを見たとか、誰かに会って話をしたと言っていたような・・・

 

「これこそが"超時空テレビ~愛おぼえていますか~"」

「超時空テレビ!?何が起こるの!どうなるの!早く使って見せて」

「いい反応です。それでは、ヤックデカルチャーなひと時をあなたに……スイッチオン!」

 

 シャミ子はテレビのスイッチを押した。

 しかし、テレビからは「ザーザー」という雑音が流れつつ、画面いっぱいに黒・灰・白色の無数のザラザラした点がゆれ動くのみ。

 チャンネルを何度変えても、それは同じだった。

 

「おかしいですね。チューニングがうまくいっていないのでしょうか?」バシバシ

「おい、そんなに叩いて大丈夫か」

「古来より、家電は叩いて直すものなのです。こいつめ!動けってんだよ!」バンッ!バンッ!

 

 シャミ子はテレビを乱暴に叩き始めた。

 それが功を奏したのか、画面の中の砂嵐が薄れて行き、やがてひとりの人物を映し出した。

 

「見えているか?■■■■■よ。ああ、マサキもいるのか」

「バッチリ見えてますよ。ようやく、お顔を見ることができました……ヒュー♪期待を裏切らないイケメーン!」

「お前は!?」

「マサキ、俺のことを忘れた訳ではないよな?忘れていたら、さすがに怒るぞ」

「クボォーーー!?」

 

 テレビに映るのは忘れもしない、俺というの因果の始まりとなった男。

 俺にディーン・レヴを譲り使命を託した神、アストラナガン。

 クォヴレー・ゴードンがそこにいた。

 

 〇

 

 シャミ子の力作、超時空テレビはクボとリモート通信できる装置でした。

 よくわからん別次元?別宇宙?にいると思われる奴と顔を見て話をできるなんて。

 マジですげぇ。

 

「前にテストした時は、偶々マサキの愛バたちが夢修練に来ていました」

「そうだったな。その時、俺とお前の関係について説明したが、問題なかったか?」

「めっちゃ助かった。特に昨日はな」

 

 そうだった!思い出したぞ。

 愛バたちは、このテレビを使ってクボからアストラナガン関係の説明を受けていたんだ。

 それで昨日はルクスの言葉に惑わされることなく、俺を信じてくれたんだ。

 事前の説明って大事だな。

 

「これからは、クボ様とこうやって話ができますよ」

「すげぇ、シャミ子すげぇ。見直したわ」

「俺からも感謝するぞ■■■■■」

「もう、クボ様。真名で呼ばないでくださいよ、マサキにはまだ秘密なんですから」

「では、シャナミアと呼ぼう」

 

 それでか、クボがシャミ子に呼びかける度に『ほにゃらら』と意味不明なノイズが聞こえていたのは。

 

「シャナミア、マサキを起動者として認めたのか?」

「はい。神竜の名において、マサキを起動者と認めます。試練も無事終えて、今は実体の方をメンテ中です」

「それは朗報だな。奴が動き出す前に間に合うといいが」

「その前に私の用事もありますけど。元凶もそうですが、()()も捨て置けません」

「どちらも、ぶつかる運命だ。マサキと協力して排除したらいい」

「なあ、二人は知り合いだったのか?」

 

 二人が仲良さそうに話すので質問してみる。

 

「メルアがマサキを見つけた頃でしたかね。クボ様の思念を私たち女神はキャッチしたのです」

 

 ぐーすか寝ていたシャミ子は、強力な思念波『マサキへの援助要請』を受信して叩き起こされたのだという。

 当初、マサキって何?知らね?と思ったシャミ子は二度寝を決め込む。

 しかし、メルアが男を後継者に選んだという情報で再び目を覚まし、その名前がマサキだったのでピンッ!と来た。

 それからの行動は早かった。自分の起動者選びの時まで、暇だったとも言う。

 思念波の出所を探り、それが別の時空からだと理解したシャミ子は機甲竜の通信機能を無理やり拡張&改造した。

 超古代文明の技術とシャミ子の天才的な発想と努力により、クボとの相互通信を可能としたのだ。

 それからは、短時間ではあるがクボと音声で意思疎通を図り、少しづつ情報交換を行っていたらしい。

  

 ヤバい、シャミ子が思ったよりめっちゃ優秀だった。アホの子だと思っていてごめん。

 時空電話、そして時空テレビを完成させるとは、やるじゃん。

 

「これまでは音声のみでしたが。やはり、顔を見て話せるのはいいですね」

「フッ、最初はモールス信号以下のやり取りだったからな」

「ですね。クボ様が『メソ』と謎の言葉だけを残した時は、一晩中『メソ』について悩みましたよw」

 

 いろいろと苦労があったらしいが、ちょっと楽しそうとも思ってしまった。

 何なんでしょうね。

 知らない内にライングループできてしまっていたような疎外感を感じるよ。

 

「マサキから構ってちゃんオーラが!?どうしましょう、"ぱふぱふ"いっときますか?」

「クボの見てる前じゃちょっと……」

「クボ様、5分ほど席を外してもらえますか?今からちょっと、おぱーいのフル活用でマサキを癒します」

「仲がいいんだな。わかった5分後に」

「いや、しなくていいから」

 

 しなくていいといったのに、シャミ子がハグしてきた。

 ちょっと癒された。

 

 〇

 

「ではでは、三者揃ったところでミーティングと参りましょう」

「ルクスにあったらしいな、その時の事を話してくれ」

「接触していた時間は愛バたちの方が長い。又聞きになるが、それでもいいか?」

「構わない」

 

 俺自身がルクスに会って感じたことや、愛バたちから聞いた情報をシャミ子とクボに話す。

 ミーティングの議題は『ルクス=元凶?』実際のところはどうなの?だ。

 洗いざらい話し終えると、クボは顎に手を当てて思案顔になり、シャミ子は目を閉じて腕を組んでいる。

 

「ルクスはクボ様とマサキのことに詳しい。これは元凶決定なのでは?」

 

 シャミ子があえて短絡的な意見を口にした。

 ここからは、三人で会話を交えながら考えを煮詰めていく方法にシフトだ。

 

 ヴォルクルス神殿で遭遇したルクスは、自分こそが悪事を働いて来たのだと自白していた。

 そして、昨日のルクスはアストラナガンやディーン・レヴという単語をごく自然に使い、俺の誕生秘話まで喋ってくれたらしい。

 事件の中心人物でしか知り得ない、深い情報を知っている。

 つまりは犯人。元凶はこいつだぁ!となれば簡単なんだけど。

 

「なぜかルクスは俺こそが世界を滅ぼす元凶だと思っている。悪神クボの手先だから戦うんだとよ」

「悪神…俺がか?」

「自分こそが正義の味方で、マサキたちが悪ですか。見事に逆転しちゃってます」

「ヴォルクルス神殿での自白も、戦いを仕掛けたのも、催眠をかけられたせいで記憶がない。それをやったのも俺だってさ」

「マサキと愛バの仲を引き裂こうとして、嘘をついた可能性は?」

「無いとも言い切れない。だが、愛バたちはルクスが本心で言っているように感じたらしい」

「それも仮面の機能では?顔と名前が隠せるなら、心すらも隠蔽できる……とか」

「タラレバの話をすればキリがないな」

 

 そうキリがないのだ。

 全ては憶測であり、俺たちは奴とその背後関係を知らなすぎる。

 

「ルクス、クォヴレーという名前に『誰?』と反応したらしいぞ」

「何?それはおかしいな。元凶本人ならば俺の名前にそんなリアクションを返すはずは……」

「やはり、違うのでしょうか」

 

 ルクス元凶説、考えだしたらマジでキリがない。

 

「ルクスとは戦うことが確定しているんだ。やっつけた後で『こいつが元凶だったのか~』と判明しても、結果オーライだよな」

「過程はどうだっていい、元凶さえ倒せれば文句はない」

「難しく考えすぎるのも良くないですよね。とりま、ルクスはぶっ飛ばして損はないです」

 

 シャミ子の言う通りだな。

 

 次、ルクスと元凶が別人だった場合。 

 力と情報をルクスに与えた協力者が近くにいるはず。そいつが元凶だ。

 俺はこっちの説を推したいと思う。

 

「俺とマサキの事を教えてルクスを仲間にしたか、催眠や洗脳でルクスを支配下に置いたかだ」

「操られているのなら、ルクスの抜け落ちた記憶や、あやふやな言動にも説明がつきます」

 

 ルクスが本人の意に反した行動させられている?

 俺に対する明確な敵意には、奴本人の熱がこもっているように感じた。

 あれが、操られている奴の反応とは思えない。

 

「どうなんだろうな?」

「どうなんでしょうね?」

「戦っていれば否が応でも相対する時は来る」

「結局はルクスを倒してからだな」

 

 三人で頭を捻っていても答えは堂々巡り。

 とりあえずルクスは倒しておいて、元凶かどうかは後日調べればいい。

 そういう結論に落ち着いた。

 違っていたとしても、ルクスという手駒を失えば元凶から何かしらのリアクションがあるはずだ。

 

 果たして真実はいかに?

 

 〇

 

「ルクスは一旦置いておいて、その愛バ6人には見当がついているのですか?」

「いや……」

「確証はないが、心当たりはありそうだな」

 

 ああそうだよ。誠に不本意だがあるんだな、これが。

 

「多分、俺の知り合いだと思う」

 

 それも・・・

 

「トレセン学園、生徒の誰かだ」

 

 ルクスの愛バたちは、生徒たちの中にいる!

 

「そう思う理由はなんでしょう?」

「俺の幼女姿を見ても『なんでそうなった?』と、誰も質問しなかった。もう俺自身から説明を受けているんだから、当然だよな」

「それだけで生徒を疑うのは、早計ではないか?教職員や生徒の関係者で、お前の幼女化を知っていた者もいただろうに」

「距離感と俺の扱いが手慣れていたんだよ。アレは幼女の俺を世話した経験者の動きだ」

 

 被介護者(俺)の勘が働いたのである。

 生徒、それも仲の良いネームドたちじゃないのかと・・・

 仮面の力で顔も名前も探れないとしても、受けたお世話と恩はこの体が覚えている。

 でも、それでも、やっぱり顔と名前が出てこない!

 頭にノイズが走る。知っている情報と記憶がどうやっても結びつかない、正体である生徒にたどり着けない!

 なんてもどかしい・・・犯人のトリックに翻弄される探偵の気分だ。

 

「密着からの神核のチェックは問題なかったのですよね?」

「そんなもんいくらでも誤魔化せる。ただでさえ、俺は鈍いらしいからな」

 

 奴らは、俺が触れてもルクスの愛バだとバレない対策を常日頃から準備していた。

 用意周到で抜け目がない。

 悔しいがルクスたちの手際は見事だ。

 

「学園にスパイが……」

「生徒を疑うのは面倒だし疲れる。学園を辞めたり、無実の生徒と疎遠になったりするの嫌だ。現状は、向こうが動くのを待つしかない」

「俺が言えた義理ではないが、後手に回っているな」                                                                                                                                                       

「職場に敵がいたら仕事どころじゃないでしょ。今すぐ全校生徒を尋問するのです。なあに、鼻からうどんを食わすと脅せば、どんなじゃじゃウマでも一発でゲロりますよ」

 

 シャミ子、それはお前だけだ。

 

 生徒たちを疑いたくない、尋問なんてしたくない。

 未来を担う学園生たちが、ルクスの下で怪しい活動をしているなんて信じたくないのだ。

 それに、仮面の騎神たちと実際に会ってみて、悪い奴らだとは思えない自分がいる。

 俺はウマ娘に対して非情になれはしない。

 

「あれ?私に対する雑な扱いの数々は?」

「好きな子ほど意地悪したくなるってやつさ☆」

「なら仕方ないですね!えへへ////」

 

 スリスリして来るシャミ子の頭を撫でる。

 よしよし、チョロカワイイ奴め。

 

「マサキ、お前のその優しさが、足元をすくわない事を祈る」

「甘いのは重々承知だ。それでも俺は……信じていたい」

 

 学園で切磋琢磨する生徒たちを、特に仲良くしてくれるネームドたちを、

 命を救ってくれたマーテル・・・

 彼女たちのことが頭をよぎる。

 

「いいじゃないですか。私はマサキの優しくて甘くて、愚かなところさえも、好ましく思います」

「シャミ子……」

「足元をすくわれても転ばなけばいいのです。転んだとしても立ち上がればいい。私とクボ様も全力で応援しますから」

「そうだったな。マサキ、優しい自分を貫きたいのなら、強くなるしかないぞ」

「わかった。二人がいてくれるなら心強い」

 

 俺は優しくなんかない。

 自分の我儘で周りに苦労をかける、エゴの塊だ。

 そんな俺に助力を惜しまない、奇特な神様が背中を押してくれるのだ。

 もう、やるしかねぇ!

 誰が敵でもやるしかない、やるしかないのだ。

 そして、止められるなら止めるし、救えるならば救う。

 

 決意を固めると心が軽くなった。

 やっぱ相談できる相手がいるっていいよな。

 

 〇

 

 俺の神核となっているディーン・レヴ。

 元はアストラナガンのメイン動力炉だ。つまり心臓である。

 そんなものをあげてしまって、今更ながらクボは大丈夫なのだろうか?

 一つしかない臓器を提供したみたいなもんだろ?

 

「確かに、大丈夫とはいかない。だが『こんなこともあろうかと』というヤツだ」

 

 クボは自分の胸、心臓があるであろう辺りを拳で叩く。

 テレビの画面越しなので分かり辛いが、代わりの動力炉がクボを生かしている。

 そんな力の流れを感じ取ることができた。

 シャミ子も『おおー、あれが』と感心しているので、凄い代物なんだろう。

 

「ディーン・レヴを模して造られた新たな心臓。ディス・レヴだ」

「おお!マイナスエネルギーを吸収し糧とする機構を実装したのですか。昔、研究していた霊気反応炉に似てますね~」

「わかってくれるか。最大出力こそディーン・レヴに劣るが、覇気と霊気の両方を━━」

 

 シャミ子とクボの超技術談議が始まってしまった。

 クボは元気そうだし、心配ないってことだよな。

 よかった。俺のドナーになったから死にました!とか後味の悪いもんな。

 

「ただ、このディス・レヴをもってしても、そちらへは行けそうにない。もう少し時間があれば、夢を介さずに言葉を伝えられそうではあるが」

「気にすんな。度重なる転移と戦闘でボロボロだったんだろ?仕方ねぇよ」

「そうですよ。こちらは私とマサキにお任せください。クボ様は療養に専念なさっていればいいのです」

「すまない。恩に着る」

 

 ええんやで。困った時はお互い様だからな。

 

 本音を言うと『アストラナガンが二体!?\(^o^)/オワタ』

 とかルクスに言わせてみたかったけど。クボに無理をさせても悪いから諦める。

 

 前作主人公との夢の共演!熱すぎる展開だよなー。

 

「俺はアストラナガン・オルタナティブ」

「なんだそれは?」

「いや、ルクスがさあ、俺のことをクボの代替物(だいたいぶつ)だって言うのよね」

「ほほう。それでマサキがオルタナティブですか」

「ルクスの思い付きにしてはセンスあると思うんだよね。だから採用!」

「では、クボ様は『アストラナガン・オリジン』ですか?」

 

 オリジン・・・俺の厨二心が反応しちゃう。

 『起源』とか『始まりの~』という意味だったはず。

 

「オリジンだと?それは……俺の前任者が名乗るべきだ」

「え?お前の前にもアストラナガンがいたの!?」

「いたな。だが、気にしなくていい。とにかく、いけ好かない男だ」

「仲悪いの?」

「別に、関わりたくないだけだ……」

「おや、クボ様にしては珍しい反応です」

「記憶喪失になったり洗脳されたり、部下を裏切ったり、憑りついて体を乗っ取ったり、クローンが全員クズだったりするからな!」

「どうした?何か嫌な思い出があったのか」

「何がデッドエンドシュートだ!お前がデッドエンドされろ!」

「これは、相当溜まってますね」

 

 冷静なクボにしては珍しく憤っている。

 俺とシャミ子は顔を見合わせて思った『ああ、嫌いなんだな』と。

 クボが不機嫌になるので、前任者の詳しい情報は聞き出せなかった。

 せめて名前ぐらいは教えて欲しかったぜな・・・フフフ・・・

 

「俺のことはそうだな。"ディス・アストラナガン"で、どうだろう?」

「いい!とってもいい!」

 

 自分に新たな名を付けたクボは戦闘形態に変身してみせる。

 悪魔を思わせる威圧的な外観と、禍々しくも美しい黒と金のボディ。

 ゴルシの記憶で見た時の姿よりパワーアップしているように感じた。

 頭にディスが付く事で『ディス・レヴの力を得たんやぞ!』と主張されている。

 この機械的でありながら有機的な生々しさを感じさせるデザイン!嫌いじゃないわ!

 

「思ったんですけど『アストラナガン』とは、クボ様の真名みたいなものですよね?そんなホイホイ付けたり、改変してもいいのでしょうか?」

「気にしたこともないな。俺は仕事上『アストラナガン』を名乗るが、プライベートや友人には『クォヴレー』で通っている」

「役職名や称号だと思えばいいじゃん。書類の職業欄に『アストラナガン』と書いちまえ」

「好きにしたらいい」

「この投げやり感、心底どうでもいいんですね」

 

 養護教官とアストラナガン、二足の草鞋(わらじ)を履いている。

 それが俺なのです。(`・∀・´)エッヘン!!

 

「ディス・アストラナガン」

「アストラナガン・オルタナティブ」

 

 なんとなくクボと名前を呼び合ってみる。

 長いな。言いづらいな。

 

「ディストラナガン?」

「オ、オルタナティブ……」

 

 ちょっと略してみた。

 クボもオルタナティブの所だけ呼ぶ。

 

ディストラナガン!

オルタナティブ!

「何?私を放置して男同士で心を通わせてるの?それはもう、うまぴょいなのでは!?」

 

 言って嬉しい、言われて嬉しい、そんな思いを共有し合った。

 ついて来れないシャミ子が、ちょっと寂しそうだった。

 

「オルタナティブの語感は好きですが、代替物というのは失礼だと思います」

「そうか?俺は気にしないぞ」

「マサキはかけがえのない私の起動者です。代えなど利きません!」

 

 愛バたちにも似たようなことを言われたな。

 ありがてぇことだよ。

 

「真名がオルタナティブなんて認めませんよ。こうなったら私が命名します!」

「まーた、シャミ子に変なスイッチが入ったよ」

「マサキがよければ、俺に止める権利は無い」

「カッコイイ名前を考えますよ。うーん、んんん?私の要素も入れると、シャミコスキー……」

「大丈夫かコレ?」

 

 ああでもない、こうでもないと、シャミ子がブツブツ言いながら考えを巡らせ始めた。

 止めた方がいいかな?それとも、信じて任せてみるか?

 シャミコスキーは勘弁して。

 

「因みに、クボだったら俺にどんな名前を付ける?」

「アストラナガン・ロリコーン

「ゴルシ並みのセンス!」

「褒めるな照れる////」

「褒めてないよ!?」

 

 クボの中でゴルシの評価どんだけ高いんだよ!

 単身でベーオウルフとルシファーを食い止めた雄姿は、神も認めざる負えない偉業だったんだな。

 確かに、あの記憶で見た鬼気迫るゴルシはカッコよかった。

 でもなぁ、ロリコーンはないわー。

 自分に付けた『ディストラナガン』は奇跡的にうまくいった成功例だったみたい。

 

「決めました!■■■■■■です。アストラナガン・■■■■■■!」

「いいセンスだ。俺は気に入ったぞ」

「聞こえない!また『ほにゃらら』としか聞こえない!」

「ふふふ、それは万物が私の命名を真名だと認めてしまったからです」

「よかったな、マサキ。大変名誉なことだぞ」

「何が!?」

「あなたの真名は宇宙と世界の意思に深く刻まれました。超公式認定です!変更不可です!」

「喜べ、マサキ。いや■■■■■■」

「無茶苦茶言うな!自分には分からない名前付けられて『やりました!』とはならんぞ」

「真名は鍵の役割も持っています。然るべき時が来るまで、マサキにも愛バにも絶対に解りませんので、あしからず」

 

 シャミ子の真名が■■■■■■で俺の真名も■■■■■■

 黒い四角の六連・・・文章にすると余計に分かりにくいわ!

 

「真名解放の条件を教えてよ?」

「私の真名は機甲竜の力が必要となった時、マサキの真名は……」

「俺のは?」

「なんかもう、どうにもならない最終決戦で不思議なパワーが出たときに解放されます」

「漠然としすぎてる!?」

 

 6文字か・・・どうか、ペドフィリアとかじゃありませんように。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ふぁ……」

「マサキが眠たそうです。そろそろ解散しますか?」

「そうだな。俺も休むことにする」

「またこうやって話せるか?」

「毎日という訳にはいかないが、夢空間に来た際は気軽に連絡してくれ」

「クボ様、あまり無理をしてはダメですよ。ディス・レヴの調整と体の回復を優先させてください」

「了解した。シャナミアも機甲竜の整備を頑張ってくれ」

 

 そうそう。二人とも俺の相手より自分の体を大事にしてくれよ。

 シャミ子の膝枕に頭を乗せる。

 夢空間の終わりを告げる、慣れ親しんだスタイルだ。

 

「じゃあ、またな……おやすみ」

「おやすみ。しっかり眠るんだぞ」

「おやすみなさい。二人に、エロい夢を見たら私が主演登場する祝福あれ!

「「ええぇー」」(´Д`)(´Д`)

 

 最後にいらんことを抜かすな。

 そろそろ旦那のトーヤさんに怒られそう・・・シャミ子が。

 

 〇

 

 話はさかのぼって・・・ルクス視点

 

 幼女マサキとその愛バたちをに交渉を持ちかけ、にべもなく断られたルクスとマーテル。

 マサキたちが追撃して来ないことを確認して帰路に着く。

 人目に付かないよう辿り着いた場所は、彼らの隠れ家のひとつだ。

 二人は警備員の常駐するテナントビルへと入って行く。

 仮面と戦闘服を着けているにも関わらず、警備員は敬礼して二人迎え入れた。

 

「お疲れ様です!」

「ご苦労。留守中に何かあったか?」

「はっ!ウェール様とアエル様が訓練室を使用中。他の方々は既にご帰宅されました」

「あら~、二人ともルクスさんを待っていたんですね~」

「マーテル様。今日もお美しい……」

「君はマーテル素顔を知っているのか?」

「いえ。まだ拝見したことはありません。ですが、絶対美しいと魂で判断致しました!」

「ありがとうございます。いい子にしていたら、そのうちお見せしますね」

「はっ!首を長くして待つ所存であります」

 

 警備員にはルクスの息が掛かっている。

 と、いうよりも、このビルの全体がルクスの所有する物件なのだ。

 ビルで働くスタッフは全てルクスの部下であり、同志である。

 よって、仮面を着けていようが何も問題がない。

 

 仮面を装着したまま帰還した場合は、周囲から目立たない地下駐車場を出入口にしている。

 今のところ一般人に見つかった事はない。

 万が一目撃されても、3階にはイベント会社が入っていることを利用させてもらう。

 これはヒーローショーのコスチュームだと言い訳する予定だ。

 ま、下手にコソコソせず、堂々としていれば意外とバレないものである。

 

 ルクスとマーテルはエレベータで最上階を目指す。

 そこはルクスと愛バのプライベートルームがある場所だ。

 

「デバイスは回収できたのかい?」

「報告忘れるところでした。ごめんなさい、マサキさんが破壊しちゃいました」

「アレを破壊したか、中の核石はどうなった?」

「それもマサキさんが消したみたいです。凄かったですよ。数秒間でしたけど、天を貫く光の柱が綺麗でした」

「核石を見られた可能性があるな。だが、処分の手間が省けた」

「デバイスの出所はわかりましたか?」

「おそらく、ウォン重工業だ。シラカワ重工の台頭が、余程腹に据えかねているのだろうな」

「いつの間に技術提供したんですか?そんな話は聞いてませんよ」

「してはいないよ。私は、な」

「ふぅ……またですか」

 

 マーテルはため息をつく。

 ここ最近、急速な組織の拡大に伴って弊害が出て来たと感じる。

 ルクスの指示なしで動く連中がいるのだ。いわゆる、功名心功名心(功名心)にかられた先走り組である。

 以前、破棄されたクレイドル建設予定地でマサキに変装し、見事玉砕した連中もその類だ。

 

「無暗に協力者を募るの、どうかと思いますけどね」

「忠告有難く受け取るよ。だが、我々には数の力が必要だ」

「烏合の衆で勝てる程、マサキさんは甘くないですよ?」

「承知している。だが、止めるつもりはない。烏合の衆の中に、君たちの様な掘り出し物が、眠っていることもある」

「私たちは超レアケース。運よく6回大当たりしただけです」

「だったら7回目もあるかもしれないだろう?」

「それ危険な思考ですよ。6回で運を使い果たしたと思うのが正解です」

 

 この人、ギャンブルで破滅しそう。と、マーテルは思った。

 でも、ダメ人間は嫌いじゃないので放置する。

 

「大事になる前に対処したかったんですけどねー」

「こんなに早く学園が動くとはな。現理事長は生徒想いの人格者だ。尊敬に値する」

「でしょう!小っちゃくて可愛いのに、凄くしっかり者のいい子なんです」

 

 トレセン学園が改造デバイスの存在を知り、売人たちを襲撃するまでの時間が早すぎた。

 おかげで、ルクスたちが秘密裏にやろうとしていた仕事を奪われた形にはなった。

 赤いオルゴナイトの核石と、それを使った技術漏れを未然に防ぎたかったが、こうなっては不可能だろう。

 せめて、こちらに火の粉がかからないようにしなければ。

 

「足が付かないよう手筈は整えてくれ」

「そこはクラルスさんに丸投げです。彼女ならやりますよ、やらせますよ」

「君、クラルスに当たりきつくない?」

「気のせいです。膝枕する権利奪ったの許せないとか思ってないです」

「???仲直りは早くしたほうがいい」

 

 最上階に到着。

 マーテルは荷物を取りに自室へ、ルクスは長い廊下を真っ直ぐ進み突き当りの部屋へ。

 そこはルクスの自室を兼ねたリビングルームだ。

 広い部屋にはアイランドキッチンにソファーにテレビといった、小洒落た家具家電一式が揃っている。

 ガラス張りの部屋からは夜の街と、そこを行き交う人々が見える。

 もう少し高ければ、夜景も拝めただろうにと思うが、隠れ家のひとつでこれだけ揃って入れば十分だ。

 これ以上、贅沢を言うつもりはない。

 

 仮面を外し戦闘服も脱ぐ。

 邪魔なものを脱ぎ去り開放的な気分に浸る、この瞬間がルクスは好きだ。

 いつか、仮面なしで表舞台に立つ日が来るだろう。

 その時はそう遠くないと誓いながら私服に着替えた。

 

「ルクスさーん。入りますよ~」

 

 控えめなノック音の後、マーテルが部屋に入って来る。

 私服に着替えているが仮面はまだ装着したままだ。

 

「ノックは不要だと言っているだろう。この部屋は君たちの(くつろ)ぎスペースでもあるんだ」

「嫌ですよぉ。開放的な気分に溺れたルクスさんが、全裸でブレイクダンスしていたらどうするんですか?」

「どういう状況だ!そして私を何だと思っている!?やるわけないだろ!」

「マサキさんなら、やりかねません」

「ぐっ!マサキにできて私にできない事はな……これ対抗したらダメなヤツゥーー!?

「これ、頼まれていたお洗濯と、報告書です。あと、こっちのタッパーは、フーちゃんが作った肉じゃがっぽい何かです」

「ありがとう。冷蔵庫に入れておいて、あー報告書じゃなくて肉じゃがをね!」

「わかってますよ。からかっただけですww」

 

 頼もしい仲間である愛バたち。

 仮面を脱げば冗談も言い合うし、からかい上手にもなったりする。

 仕事を円滑に進める上でも、コミュニケーションは大事だ。

 愛バたちに窮屈さを強いている分、普段のじゃれ合いなどは好きにさせておく。

 偉そうにするの相手は、マサキだけでいい。

 

「それでは、今日は帰りますね。お疲れ様でした」

「お疲れ様。このあと時間はあるかい?ウェールたちを誘って外食でもどうかな?」

「ごめんなさい、実は先約があるんです。お友達と鍋パですよ~」

 

 『楽しみだなぁ』とマーテルは上機嫌だ。

 少し残念に思ったが、先約があるのでは仕方がない。

 愛バたちのプライベートは尊重する。

 大きな戦いが控えているとはいえ、若い彼女たちには友達付き合いも大事だろう。

 存分に青春を謳歌してほしいものだ。

 

「無用の心配だと思うが、気を付けて帰るんだぞ」

「はーい。そうだ!聞きたい事があるんでした。いいですか?」

「いいぞ。私はカレーを食べるとき、ルーとライスを混ぜ混ぜしたくなる」

「聞いてません。そうじゃなくて、ダイヤちゃんたちのことです」

「マサキの愛バ?それがどうかしたのかい」

 

 今日、相対したマサキの愛バたち。

 仮面越しにも伝わる尋常じゃない殺気を放っていたな。

 アレらは手強い、十分な対策を練らないとやられるのはこっちだ。

 

「もし、ダイヤちゃんたちが、マサキさんの愛バを辞めたのなら、あなたはどうしてましたか?」

 

 マーテルの問いかけ。愛バなら当然気になる問いだ。

 自分の操者としての度量、組織を率いていく覚悟を問われている気がした。

 もし、そうであったならか・・・そうだな。

 

「私の愛バに迎えようと思う。もちろん、君たちに相談してからにするが」

「ぷっ……そ、それ本気で言ってます?フフフフフ、おっかしいwww」クスクス

「身の程知らずだと言いたいのかい?さすがに傷つくなあ」

「違いますよー。これ以上、ストレスの元を抱え込むなんて言うから、マゾヒストかなぁと思ってw」

「誰がマゾだ!目下最大のストレス要因である、君がそういうこと言わないで」

 

 マーテルは肩を震わせて笑っている。

 確かに、笑われても仕方のないことを言った自覚はある。

 マサキの愛バたちを懐柔できたとして、そのストレスは想像を絶するだろう。

 今日、少しの対話をしただけで、あの様だ。本当にドッと疲れた。

 あんなのが傍にいたらハゲるわ、毛根死滅するわ。

 でも、あの力は非常に魅力的だ。

 あの四騎の戦闘力が手に入るのなら、ハゲてもいいと思えるほどに!

 

「今のはifの話ですからね。現実に戻ってくだーい」

 

 マーテルの声で我に返る。

 危ない危ない、脳内でカツラを準備する算段をしていたところだった。

 

「その仮面、着けたまま帰るのかい?」

「え……あっ///き、気付いてましたよ。外し忘れていたなんて事はありません」

「気付いていなかったんだな」

 

 どこか抜けているマーテル、ちょっとホッコリした。

 いそいそと、仮面を外そうとする彼女に、私は自然と声をかけていた。

 

「もし、マサキが操者であることを辞め、一人になったのなら、君はどうしていた?」

 

 先程、自分がされたのと同様の質問だ。

 マサキが一人になったら、この騎神は一体どうするのか、聞いてみたくなったのだ。

 その答えが、分かり切っていたとしても・・・

 彼女の深い部分に踏み込む行為だとしても、聞きたかったのだ。

 

「そんなの、決まっているじゃないですか」

 

 仮面を外した彼女は笑う。笑っている。

 その姿から目が離せない、目を逸らした瞬間に殺されると思うほどに、目が離せない。

 美しい顔はそのままに、口元を吊り上げて目をギラつかせながら。

 酷薄に、凶暴に、鮮烈に彼女は笑っていたのだ。

 

私がマサキさんの愛バになって、あなたを潰しますよ

 

 言葉と同時にマーテルは覇気を解放した。

 『それが何か?当然の帰結ですよね』と、彼女の覇気が伝えて来る。

 内に秘めていた膨大な量の覇気は粒子となり、部屋中を漂い光り輝く。

 その輝きをルクスは美しいと思う反面で、忌々しいとも思っていた。

 

「なーんて冗談ですよ、冗談♪」

 

 ケロッとした態度で覇気の解放を停止する。

 マーテルの顔は、先程までのが嘘のように、いつもの柔らかな笑みに戻っていた。

 

「安心してください。今すぐ彼の下へ行くような、恥知らずではありません」

「そうしてくれると、助かる」

「ルクスさんにはお世話になってますし、義理と人情は弁えているつもりです」

「今はその言葉を信じよう」

「はい。()()、信じて下さって結構です」

 

 『今は』の部分を強調されたように感じる。

 この先はどうなるか分からないと、暗に告げらたようなものだ。

 

「ではでは、お疲れ様でした~」

「ああ、ゆっくり休んでくれ」

「はい。ルクスさんも、体調には気を付けてくださいね」

 

 マーテルは一瞬上を見上げたあと、部屋を出て行った。

 彼女を見送ったあと、ルクスは自分が極度の緊張状態にあったと気付く。

 僅かな時間で、今日、マサキの愛バを相手にしていたときと同じか、それ以上に憔悴していた。

 ルクスは汗をかいた手のひらを握る。

 

「よし、楽しく話せたな」

「どこがですか!」

「あいてっ」

 

 ガッツポーズを決めたルクス、その後頭部にツッコミが入る。

 軽く小突かれるようにチョップされたのだ。

 

「アエル!?いたのか」

「ええ。ずっと天井でスタンバってました」

「えー、何やってんの」

 

 愛バのひとり、アエルだった。

 今までずっと天井に張り付いていたと思うと少々、いや、かなり怖い。

 マーテルは気付いていた癖に、教えてくれなかったのだ。酷い!

 

「私のパーフェクトコミュニケーションを覗き見とは、あまり良い趣味とは言えないな」

「いやいやいや、今のは甘く見積もってノーマルコミュニケーションですよ。地雷踏んでましたよ!」

「はっはっは、私もね、それは薄々感じていたよ」

「ならば気を付けて下さい」

 

 アエルは頭を抱えた。

 きっと彼女は私を守ろうとして天井にいたのだ。

 やり方はアレだが、彼女の忠誠心は本物だ。

 愛バたちのまとめ役や、その他諸々の雑務処理、私の副官的業務まで・・・

 何かと苦労を掛けてしまっている事を申し訳なく思う。

 優秀すぎて、私への小言も多いけど。

 

「獅子身中の虫をいつまで飼うつもりですか?」

「彼女が役目を果たす時までは一緒さ」

「断言します。マーテルは必ず我々の敵になる。今のうちに何らかの手段を打つべきです」

「理解しているとも、しかし、それを差し引いても彼女は有用だ」

 

 そう、彼女は有用なのだ。

 対マサキとその愛バ用の切り札として、リスク覚悟で押さえておく価値がある。

 単純に強いという理由でも手元に置いておきたい。

 

「どうなっても知りませんからね」

「それは困る。私ひとりでマーテルを相手は無理!したくない!」

「はぁ……私に一任していただければ、いざという時の対策を考えておきます」

「最初から君を当てにしている。任せたよ」

「調子のいい事……これは保険も確保しておくべきか…」

 

 真面目なアエルに任せておけば、大抵のことは上手く運ぶ。

 信頼できる愛バがいるのは、いいものだ。

 

「ウェールと一緒に外食するつもりなのだが、君もどうだい?」

「マーテルに振られたから私を誘うとか。女なら誰でもいい、そんなあなたにドン引きです」

「誤解だ!最初から君も誘うつもりだったさ。で、どうする?」

「行きますよ。ゴチになります」

「決まりだな。今日はイタリアンを予定している。楽しみにしていたまえ」

「なるほど、無難ではありますが、女性を誘う店選びとしては合格です」

「なぜ上から目線なのか。まあいい、ミラノ風ドリアが私を待っているぞ~」

「サイゼかよ!!」

「え?みんな大好きサイゼリアに何か不満でも?」

 

 その後、ルクス、アエル、ウェールの三人は遅めのディナーを満喫したのであった。

 徒歩圏内にあるのに、なぜか隣県のサイゼリアまで車を飛ばした。

 『マサキにバッタリ遭ったら嫌だろう!』というルクスの一声が理由だった。

 

 

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