俺と愛バのマイソロジー   作:青紫

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キリュウインアオイの憂鬱

 おれはおとこにもどった

 

 女として過ごした長いようで短い一週間は終わりを告げた。

 苦難の末に俺は本来の肉体を取り戻したのだ。

 

 起きた時には性別(オス)に戻っていたのですよ。

 幼女専用パジャマがピッチピチッになって弾けてバーン!な目覚めでした。

 どおりで朝からすっぽんぽんだよ。

 

 シャミ子を信用していないわけじゃないけど、体がちゃんと元通りなのか要チェックや。

 鏡に全身を映し触って確かめる。うむ・・・何も問題はないな。

 久しぶりの再会を果たした相棒も、朝から『ただいま!』と自己主張の激しい奴だ。

 おっほっほっほ〜 元気だ( ^ω^)

 良く戻って来たな、お帰りなさい!!!

 

 今日から気持ちを切り替えて頑張ろう!おー!

 

 因みに今日は休日である。

 愛バを誘ってどこかに出かけようかな。

 久しぶりにサイゼリアにでも・・・ん?、一瞬イラッとした。

 なんだろう。嫌いな奴と行動が被ってしまったかのような不快感!

 サイゼに罪はない。罪は無いのだが、今日のところは別の店にしよう。

 

 ・・・・・・・・・

 

 愛バに『戻ったぞ(´▽`*)』とLINEで連絡すると、すぐに家へとやって来てくれた。

 息を切らせながら参上した我が愛バたち。早い!

 アルとココの髪は少々乱れている。急いで来てくれたんだなあ。

 なぜかクロとシロの体には小さなガラス片が付着している・・・まさか、寮のガラス窓を突き破って来た!?

 

「ふぉぉ!復活の男マサキさん!オスだぁぁ!」

「ついてますか!ついてますよね!確認させてください!」

「よかったぁ。やっぱり男らしいマサキさんが一番です」

「なんか覇気の流れ変わった?ふーん、あの試練も無駄じゃなかったんだね」

 

 男に戻った俺に対する愛バたちの反応は上々だ。

 心配かけたな。ちゃんと相棒は無事帰還したから安心しなさい。

 

「復活記念にお出かけしないか?」

「「「「行きます!」」」」

 

 軽く身なりを整え、クロシロのガラス片を取り除いてから出発した。

 5人揃っていれば街をブラブラするだけでも楽しい。

 適当にショッピングやらを楽しんだ後、"びっくりドンキー"で昼食を取る事にした。

 ハンバーグステーキ!(゚д゚)ウマー

 トレセン学園が近いせいか、チェーンの飲食店といえども気合が入っている。

 とにかく量が多いのだ。もちろん、人間の胃袋を考えたサイズもあるので心配ない。

 食欲旺盛な愛バたちの食事風景は見ていて微笑ましい。

 可愛い顔して、特大のハンバーグをペロリと食べちゃうんだからな。

 

「そういや、ルクス腕ついてたな」

 

 ドリンクを飲みながら駄弁っていると、不意に思い立った言葉が口をついて出た。

 

「どういうこと?」

「あいつの右腕、ちゃんとあったよな」

「うん。残念ながらルクスは五体満足だったよ」

 

 耳ざとく聞きつけたココが俺の問いに答える。

 クロ、シロ、アルの三名は、俺の御側役ローテーションをどうするか論争中だ。

 

 異世界転移させられる直前に、ルクスの腕を食い千切ったこと。

 その腕をブラスターで焼却処分してやったことを説明した。

 腕を食い千切ったとか、ハンバーグ食べている人前でする話ではない。

 お食事中の店内に気を遣って、ココだけに聞こえるようヒソヒソ小声で話をした。

 

「ふーん。あの血痕、マサキが一矢報いた結果だったんだ」

 

 あの時は、俺もルクスに刺されていたし結構ギリギリだった。

 痛いわ、腹立つわ、もう転移しそうだわで、無我夢中のワイルドファングよ。

 

「引いたか?ごめんね、こんな操者で…」

「何言ってんの。最後まで抵抗したマサキは凄いし偉い!私もみんなも誇らしく思うよ」

 

 ココに褒められちゃった。

 外じゃなかったら、ココの胸にダイブして"よしよし"されているところだ。

 

「それは帰ってからね♪」

「わーい(≧▽≦)」

 

 ルクスに一矢報いてやり、隻腕にしてやったはずなのに。

 なんで腕が再生しているんですかねぇ?

 

「義手か?もし、ルクスがサイコガン撃って来たらどうしよう」

「直接触れたわけではありませんが、あれは生身だと思いました」

「生えてきたのかな。トカゲの尻尾みたいに?」

「再生能力か、それに類する高度な医療技術を保持しているとも考えられます」

 

 論争が一段落したのか、他の愛バたちも話に参加してきた。

 

「俺との戦闘中は傷を治す素振りは見せなかったがな。腕失くした時もキレて(わめ)いているだけだったし」

「ルクス自身の能力ではないなら、仲間に回復役か医療関係者が……発見次第、優先的に処理すべきです」

「だね。放置していたら面倒だもん」

「うちはマサキさんが、殴れるヒーラーでよかったね。どのポジションでも任せられるし」

「操者さえ無事なら、我々はずっとバフ効果の恩恵に与れますも。やはり、マサキさんは死守せねば!」

「過信はしないでくれよ。俺ってばやられる時はアッサリ逝くからな。これまでだって何度も・・・敗けて、まけ・・・て・・・」(´Д⊂グスン

「「「「泣かないで―!?」」」」

 

 苦い敗北の記憶が蘇って来たので泣きそうになった。

 店内の喧騒に紛れて落ち込む俺は愛バに慰められるのであった。

 

「ありがとう。おかげで持ち直した」

「よかったです。デザートを追加して気分を上げましょう」

「北海道ガリバーソフトいっちゃいますか?」

「ジョッキパフェもお願いします」

「ガリバーライスもだ!」

 

 デザートをおかずに白米とな?それってアリなのか?

 愛バたちが嬉しそうに注文しているので良しとしよう。

 ホント、彼女たちの体のどこにあれだけの食料が入るのだろうか?永遠の謎である。

 

 ルクスの腕の件、憶測ばかりで答えはでない。

 俺のヒーリングでも、失くした腕を再生させるようなマネは不可能だ。

 もげた腕があれば繋げることは可能だけど、それは俺が消してやったし。

 ピッコロさんのような再生をしたとでも?

 そんな事ができる常識外れのヒーラー・・・合法ロリのガッちゃんなら、出来そうではある。

 他は、この世界にはない未知の技術を使用した、とか?

 

 ルクスの話をすると気が滅入る。

 俺たちは、早々に切り上げて他愛のないトークを楽しむのであった。

 

 〇

 

 翌日、学園に出勤した俺は挨拶回りから始めた。

 

 この一週間、迷惑をかけた事の謝罪と、手助けしてくれた人たちへの感謝を伝えるためだ。

 

「お世話になりました。つまらないものですが、こちらを、どうかお納めください」

 

 ラ・ギアス銘菓の『天級饅頭ver.2.0』を手土産にして、学園内をあっちへこっちへ。

 

「おかげさまで、元に戻ることが……え?いや~もう女になる予定は無いっス」

 

 好評だった女マサキと幼女マサキの喪失に崩れ落ちる人もいた。

 元に戻っただけなのに、そんなにガッカリされると悪いことをしたみたいだ。

 彼女たちは愛されていたんだなぁ・・・どっちも俺だけど。

 

 教職員たちへの挨拶回りだけでも、結構な時間がかかった。

 仕事を手伝ってくれた人、抱っこしてくれた人、お菓子をくれた人、告ってきた人などなど。

 お世話になった人たちがいっぱいいるのだ。

 

「復活ッ!おめでとうと言うべきかな、マサキ君」

「理事長!一週間大変お騒がせ致しました」

「なかなか楽しい一週間だったな。学園に新たな風を巻き起こした事、あっぱれだ!」

 

 あとで聞いた話だが、女の俺を見て美容に気を遣うようになったり、幼女の俺と接したことで、母性に目覚めた生徒がたくさんいたんだと。

 元男には負けていられないとか、将来、あんな子供が欲しいとか、いろいろあったらしい。

 

「でも、ほんの少しだけ残念だわ」

「だよねー『ずっと女でいい』てな意見、マジで多かったし」

 

 テュッティ先輩とミオは、少し寂しそうだった。

 ほら、天級饅頭あげるから、元気出して~。

 ミオの要望に応えて、新しく地属性の味が追加されたんだよ。

 きな粉を練り込んだ生地に中身は芋あんで、全体的に黄色の饅頭だ。

 

「戻ったのならいい。これまで以上に仕事に励め」

「フッ、やはりマサキはイイ男だな」

 

 ヤンロンは今日もカッコイイなぁ、憧れちゃうなぁ。

 へへへ、ゲンさんだって男前だよ。

 おんぶや肩車してもらった二人にも世話になった。

 恩を返すためにも仕事を頑張らないと。

 

「たづなさん、ご迷惑おかけしました」

「無事に戻れてよかったわね」

 

 仕事中や人目が多いときの姉さんは、ストイックなクールビューティーで通っているので、やや素っ気ない。

 バリバリ働く自慢の姉はカッコイイ!

 

 (マイブラザーぁぁぁ!妹も捨てがたいけど、やっぱ弟最高ッッ!)

 

 心の中ではいつも通りのブラコンで安心した。

 

 俺のような奴を受け入れてくれた職場と気のいい同僚たち、本当ありがてぇこったな。

 トレセン学園という、恵まれた環境に就職できたことに感謝するぜ。

 

「キリュウイン教官も、お饅頭いかがですか?」

「いりません。そんなものでご機嫌取りしても無駄ですからね。一週間、部外者を学園に寄越したりして、何を考えているんですか!」

 

 いや、だからですね。

 銀髪の女と幼女は、俺本人だと何度説明したら、あ・・・行ってしまった。

 天級饅頭はミークに渡して受け取ってもらうことにしよう。

 俺の何が気に入らないのだろうか?

 キリュウイン教官と仲良くなるには、まだまだ時間がかかりそうだ(´・ω・`)

 

 もちろん生徒たちにも、男に戻ったことを報告して感謝の意を伝えた。

 特にお世話係を担当してくれたネームドたちには、心よりお礼申し上げる!

 畏まって頭を下げる俺だったが、みんな『困った時はお互い様』『気にすんな』と笑ってくれた。

 本当にいい子たちだよ。この中に、仮面の騎神たちがいるのが嘘みたいだ。

 

 女マサキの人気は生徒間にも波及していたようで、ショックを隠し切れない面々が嘆いていた。

 男に戻ったことを、あからさまにガッカリされると、こっちもショックなんだがな。

 恩返しをしたいので、要望があればリクエストしてくれい!

 抱っこを望む奴には抱っこを、運搬を希望する奴はそのまま運んであげた。

 他にも、ブラッシングをしたり、修練や補習に付き合ったり、遊んだりして、それぞれが望むお返しを実施していったのだ。

 一部のバカタレどもに『下半身を確認させろ!』とズボンを下げられそうになったりしたけど、これはさすがに返り討ちにした。

 姉さんにチクって説教部屋送りにしてやったぜ。

 

 これで一応、お世話になった返礼はすんだ。

 さあ、仕事だ仕事!今まで以上に頑張らなくっちゃな。

 

 ●

 

 私の名前は桐生院葵(きりゅういんあおい)

 騎神養成機関として名高い、日本トレーニングセンター学園で教鞭をとる若き敏腕教官だ。

 数多くの優秀な操者を輩出してきた名門、桐生院家の次期頭首でもある(`・∀・´)エッヘン!!

 

 最高の環境に最高の素質を持って生まれた私。

 幼い頃から麒麟児(きりんじ)としてもてはやされていた私は、周囲の期待にバッチリ応えてきたのだ。

 およそ挫折というものを経験することなく、とんとん拍子に人生を歩んできた。

 順風満帆な人生。それを成すために相応の努力を重ね、結果を出してきた自負もある。

 桐生院家の名に恥じぬよう、より一層の精進を積まなければならない。

 自分がやるべきことのためにも。

 

 私はウマ娘が好きだ。

 はじまりは昔、家の道場に出入りする騎神の強さと美しさに感動したことだ。

 人間近いようで違う。人という種を超えた上位存在に幼い私は心奪われたのだ。

 それは今もずっと続いている。

 

 ウマ娘好きな私は、家業である操者の道を迷わず選んだ。

 立派な操者になると心に誓った。

 素敵なウマ娘と契約して、そして、そして・・・うへへへ。

 はっ!今は欲望じゃなくて!ウマ娘への愛が溢れて脳が沸騰しかけただけ。

 何も問題ない。

 因みに私は百合ではない。ケモナー?何の事かわかりませんね!

 

 高等学校を卒業する頃、私はひとりのウマ娘と契約した。

 白いクリーム色の毛に、ボーっとした表情で虚空を見つめている事の多いウマ娘。

 ハッピーミークという名前の独特というか、つかみどころのない性格の子だ。

 彼女の家は桐生院家と懇意にしており、いずれは一族の誰かと契約する予定だった。

 所用で偶々ミークが家を訪れた際、彼女の実力を一目で看破した私は人生初のスカウトをしたのだ。

 彼女は強い。そして今後、さらに伸びる才能を秘めている。

 今のうちに契約して共に修練を積めば、轟級はおろか超級にだって手が届く逸材だ。

 

「私で、いいの?」

「あなたがいいんです。契約してくださいますか?」

「いいよ」

「やった!では、気が変わらないうちにこちらの書類に……ちょっ!何してるんですか!?」

「契約するんでしょ?噛ませて、血ちょうだい。ガブッといってチューするよ」

「いやいやいやいや!今時そんな野蛮な方法で契約する異常者はいませんよ!」

「そう?そうかな、そうなのかも…」

 

 こ、この子・・・ヤバい。

 口を開けたかと思ったら、私の首を噛もうとしてきた。

 今後は私の愛バとして常識を叩き込まないといけないなと、強く思った。

 激痛でショック死する可能性もある古式契約をするような輩なんぞ、このご時世では聞いたことがない。

 もしいたとしたら、よほどのアホか異常者だと思う。

 絶対に関わってはいけない。

 

 ミークと契約しただけで満足するような私ではない。

 機会があれば他の子とも契約したいと思っている。

 ただ、私の眼鏡に適うような子はなかなか見つからない。

 御三家に伝手があればよかったが、さすがの桐生院家も御三家相手では分が悪い。

 御三家の関係者やその血に連なるウマ娘なら、絶対に期待できるはずなのに、無理だよなあ。

 『愛バにしたいので御三家のウマ娘をくれ』などと、不用意に発現したら最後。

 即刻、桐生院家の取潰が決定するわ!お家断絶も一家離散も御免被る。

 今はまだ御三家と交渉するのはまだ早計だ。

 確固たる地位と実力を身につけ地盤を固めてからチャレンジしても遅くない。

 

 ミークがトレセン学園を目指すと言った。

 それはいい!非常にいい!だから、私もトレセンに行くと言った。

 私はただの操者で終わるつもりはない、歴史に名を残す騎神の操者になるのだ。

 『あの子は私が育てた!』と声高らかに言うのが私の夢だ。

 一族の教えが詰まった書物『操者白書』を手に、愛の鞭を振るう自分を想像すると顔がニヤケそう。

 こらミーク!『気持ち悪い』とか言うんじゃありません

 

 教官職に就けば、多くの優秀な子と接する機会も増える。

 きっと、愛バになってくれる子だって見つかるはずだ。

 例え契約に至らなくても、大好きなウマ娘たちを育み、社会に送り出す一助となるなら、こんなに幸せな仕事はない。

 操者にして教官。これが私、キリュウインアオイの天職なのだと思った。

 

「なんでついて来るん?」

「あら、嫌なんですか?本当は私が教官だったら嬉しいくせに~」

「ウザ」

「ミーク!?」

 

 ミークはトレセン学園に見事合格した。私の愛バなら当然の結果だ。

 私のほうも教官採用試験には無事合格できた。

 やたら迫力のある理事長秘書が面接官だったのだが、アレは何だったのか?

 私の本能がずっと『ヤバいヤバいヤバい』と警報を鳴らし続けた化物だったよ。

 敵に回したらアカン、絶対に逆らわないようにしよう。

 

 ミークと共にトレセン学園に行く日々が始まった。

 その設備と規模に驚かされ、教官と生徒たちのレベルの高さにまた驚いた。

 ここでなら。ここでなら、きっと見つかる。

 待っていて、まだ見ぬ私の愛バたち!

 

「私だけじゃ不満?」

「ミーク自身には満足してますよ。でも、私の覇気にはまだ余裕がありますし、もう2、3人追加しても」

「浮気者、ビッチ、尻軽」

「もう、この子ったら嫉妬しちゃって」

 

 ジト目のミークが失礼な発言をする。けれども私は動じない。

 この程度の毒舌でいちいち腹を立てるほど狭量ではない。

 愛バの独占欲からくる嫉妬だと思えば可愛いものだ。はっはっは!

 

(いや)しか女杯殿堂入りのメス」ボソッ

「何だとコラッ!!」

 

 自分でもよくわからないが"卑しか女杯"という言葉にキレちまったよ。

 ちょっとだけ取っ組み合いになった。

 身体能力で劣っていても、負けられ戦いがここにある。

 痛い痛い痛い!待って!ローキック連打するのはやめて!

 

 なんだかんだで長い付き合いの私とミーク。

 ケンカしても仲直りは早いのだ。

 じっくり話し合いミークが折れる形で、愛バの増員を許可されたのだった。

 

「ぐふふ、見えます、愛バが増えすぎて困ってしまう未来の私が見えます!」

「捕らぬ狸の皮算用」

 

 ミークを説得し理事長からも許可を取った。

 よっしゃ、教官業務の傍ら愛バ探しを開始するぞー。

 きっと全部うまくいく、そんな予感と期待で胸いっぱい。

 サブタイ『キリュウインアオイ大勝利!希望の未来へレディ・ゴーッ!!』の始まりだぁ!

 

 そう思っていた時期が私にもありました。

 

「今日もダメだった……なんでぇ、なんでなのよぅ」

「サブタイ変えよう?次回『キリュウイン死す』デュエルスタンバイ」

「死なないし!デュエルもやらない」

 

 ある日の午後、休憩所も兼ねた学園カフェテリアにて。

 テーブルに突っ伏して落ち込んでいる私、キリュウインアオイの惨めな姿があった。

 ここ数日間、首を縦に振ってくれる子は一人もいない。お断りされ続けて心が折れそう。

 意気揚々とスカウトを開始しておいてこの様だ。

 マズいぞ。このままでは『キリュウイン死す』が現実味を帯びてしまう!

 

「そう落ち込まないでキリュウインさん。まだ始まったばかりじゃない」

 

 スカウトがうまくいかない私は、先輩であるテュッティ教官とお茶をしながら愚痴っていた。

 隣に座ったミークは私を慰めるより、学園内の売店で購入したコンビニスイーツを味わうことを優先したらしい。

 そのスイーツの代金、私が払ったのに・・・

 

「テュッティ教官はいいですよね。あのシンボリルドルフと契約したばかりか、今じゃ学園随一の強豪チーム"リギル"の操者なんですって。超強くて可愛い子たちとハーレム組めて満足ですか?幸せですか?そうですか!」

「私だけじゃなくて、ヤンロンもよ。一人じゃ絶対無理だし、ルナ……ルドルフやみんなが互いに協力し合ってチームは成り立っているわ」

「あー、うらやましいうらやましいうらやましい。そして妬ましい!」

「これは重症ね」

「アオイ、みっともないからその辺にして」

 

 私が理想とした操者人生を歩んでいる、テュッティ教官が羨ましくて仕方がない。

 この人とヤンロン教官は教官陣の中でも別格だけど、私だって負けていないつもりだったのに。

 騎神の頂点に君臨する天級騎神。

 その弟子と実子は伊達じゃないってことを見せつけられた。

 そんなの雇用しているトレセン学園が改めてヤベェ。

 

「私の、私の何がいけないんでしょうか?キリュウイン家の肩書ってそんなに重い?」

「キリュウイン家はともかく、アオイはたまにめんどくさい」

「めんどくさい女で悪うございましたぁ!ミーク~あなただけは見捨てないで~」

「めんどー」

「仲が良いのね。あ、来たみたい……こっちよ、ルドルフ」

 

 テュッティ教官の愛バ、生徒会長にして"皇帝"の異名を持つシンボリルドルフがやって来たようだ。

 周囲の『ざわ…ざわ…』より、覇気の大きさですぐにそのウマ娘だと判明する。

 おいおい抑えていてコレか、さすが皇帝様だ。

 

「お待たせした。それで、キリュウイン教官はどうして壊れているんだい?」 

「アオイは元々壊れているよ」

「それがね━━」

 

 隣に座ったルドルフにテュッティ教官が私の現状について説明した。

 スカウトがうまくいかない事もだが、ついでにミークの反抗期が永遠に続きそうな事も相談したい。

 

「キリュウイン教官は操者として申し分ないと思うが…スカウト中にどんなアピールをしているか聞いても?」

「まず、怪しく声をかけて相手を手あたり次第褒めちぎる。この時点でだいぶドン引き」

「ウソッ!?あれドン引きされてたの」

「そして、キリュウイン家の自慢話が始まる。長すぎるしウゼェから相手は大抵スマホを弄る」

「よ、良かれと思って」

「『あなたは私の愛バになるべきです!』痛すぎる決め台詞でトドメ」

「うわぁぁー!やめてやめてやめて」

 

 私がどんなアピールをしているのかミークが説明してくれたけど・・・これは酷いな。

 ぜ、全然自覚がなかった。私そんなことを言っていたの!?

 客観的に見て痛すぎる!そりゃあ、お断りされるわー。

 

「で、でも、待ってくださいよ。私が痛すぎる女だとしても、こうも連敗続きなのはおかしいでしょ?私の特技だって見せたのに……」

「特技?キリュウイン家に伝わる秘伝みたいなものかしら?」

「私自身が編み出した技も含まれます。実家で披露した時は、一族郎党が度肝を抜かれて拍手喝采でした」

「うん。痛いアオイだけど、嘘じゃないよ」

 

 相談に乗ってくれる二人には包み隠さず、特技の内容を教える。

 厳しい修練によって私の才が開花した結果、私は三つの特技を習得していたのだ。

 

 一つ、ヒーリング能力。

 

 リンク状態を維持したまま貴重な回復役もこなす事が可能なの。

 しかも、Bランク相当の治療師に匹敵する力なので軽傷程度なら治せる。

 テュッティ教官もヒーリング能力者(私より上位)なので、この力の有用性は理解できるはず。

 

 二つ、高度なリンク能力。

 

 デバイスの補助なしで複数人同時リンクができる。凄くない?

 なんと!愛バでない者でもリンク可能なのだ。凄いですよね?

 私の繊細な覇気制御にかかれば、初対面でも相手の特性を見抜き適切な覇気を配分し循環させることなど容易いのだ!

 あ、いや・・・容易いのは言いすぎました。本当はかなり苦労してなんとかできるかもという感じ。

 できることはできるから、嘘は言ってない。

 

 三つめは、実際に見てもらった方が早い。

 

 私は覇気を解放してその出力を上げる。

 するとどうだろう、私の体から薄くぼんやりと輝く光の粒子が出始めたではないか。

 今日はいつもより多めだ、漂う粒子はテュッティ教官とルドルフ、そして覇気を使えない一般人にも見えているだろう。

 視認できるほどに凝縮された覇気の放出と発光現象。

 こんな事ができる操者は、あの御三家にも存在し得ないと思う。

 

「出たwケサランパサランww」

「ミーク、違いますよ。これは覇気粒子と命名したんです」

「白だわ」

「白だね」

「あの、粒子の色じゃなくて、もっとこう『なんだとぉ!』とか『これがキリュウイン…』みたいな戦慄と驚愕リアクションをですね……」

「ごめんなさい。凄いわね、ええ、ホントに凄くとても凄いわ」

「ああ、今にも消えてしまいそうなぐらい儚い光がチンダル現象のようだよ」

 

 ※チンダル現象とは、光の特性によって起こる物理化学的現象の一つで、直進性の強い光が空気中に漂うホコリに当たることで光が拡散し、キラキラと光って見えるようになるもの。

 

 二人とも褒め方下手すぎ!なんにしても、あまり褒められている気がしない。

 これ実家では両親がお茶をマーライオンするほどウケたのに・・・

 ずっと粒子を出していると疲れるので放出終了。今日は5分以上持ったと思う。

 

「ヒーリングに高度リンクと覇気粒子、誰かを思い出す特技ね」

「奇遇だね。私も今、彼のことが頭をよぎったよ」

 

 テュッティ教官とルドルフの反応は微妙だ。そして別の誰かのことを考えている。

 気のせいか『もっとすごいの見たことあるわ』みたいな顔してるー!

 なぜなんですかぁ!私がスカウトした子たちも、みんな似たような反応して!

 おかしい、おかしいですよカテジナさん!

 

「カテ公はマジで頭おかしい。アオイはああなったらダメだよ」

「カテ公はどうでもいい。本当におかしいのは、求められる操者のレベルが高すぎるって事ですよ!」

「そうかしら?今挙げた特技を三つも見せれば、愛バは選びたい放題だと思うけど。ルナはどう思う?」

「声をかけた人選がマズかったのでは?断られた時、彼女たちは何か言ってなかったかい?」

 

 言ってたよ。

 なんかよくわからないけど言ってましたよ。

 『まき』がどうたら?『あいつのとは違う』とか・・・

 長身で美形だが、どこか危ない雰囲気のウマ娘に言われた言葉が特に印象に残っている。

 

「確か、ゴールドシップという子に『劣化版マサキじゃねーか!!』と笑われました」

「んっ!?……くっww」

「ちょっとルナちゃーんw笑っちゃダメよ~、( ̄m ̄〃)ぷぷっ!」

「おー、生徒会長がダジャレ以外で笑った」

 

 二人が互いを肘で突き合い笑いを堪えて…というか、もう完全に笑っている。

 何?今の何がそんなに面白いの?わけがわからないよ。

 

「いや、失礼。キリュウイン教官のスカウトが不調に終わった、理由がわかったよ」

「本当ですか!」

「ええ。それと同時に、あなたのウマを見る目が確かな事もね」

 

 よかった。理由さえ分かれば改善の余地ありだ。

 

「差し支えなければ、これからスカウト予定の愛バ候補たちを教えてほしい」

「はい、この資料にまとめてあります」

「これはまた、なんとも、狙いすましたかの様な人選」

「へぇーこの子もなんだ……やれやれ、どんだけ手を出しているのよ」

 

 愛バ候補たちをリストアップした書類をルドルフに渡した。

 興味深そうに閲覧するうちに、ルドルフとテュッティ教官は『あちゃ~』みたいな顔をするようになる。

 

「何かマズかったですか?フリーの子ばかりを選んだはずですが」

「マズいわね。このままじゃ、スカウト難航必至よ」

「このリスト以外の生徒なら問題なく愛バにできるだろう。私としてはそちらをおススメするが」

「そ、そんな、納得いきません!理由を説明してください」

 

 私がじっくりと厳選した愛バ候補たちだ。

 その実力も伸びしろも折り紙付き。

 今更、リスト以外の子を愛バにするなんてこと、私もミークも納得できない。

 

「リストの生徒たちは、()()()()との出会いがきっかけで、人間を見る目が肥えてしまっている」

「自分の操者になるかもしれない相手なら、尚更ね」

 

 テュッティ教官とルドルフが話してくれた内容は信じがたいものだった。

 

 私がリストアップした子たちは学園に来る前に"異常な覇気の持ち主"に遭遇していた。

 その人物は私と同じ特技を全て使えるどころか、何十倍も強力なものを、いとも簡単に行使することができるのだという。

 その出会いは彼女たちの価値観を一変させるほど鮮烈だった。

 "彼"が例外中の例外と理解していても、操者を決める際に比較せずにはいられない。

 『もっとすごいの見たことあるわ』のリアクションはそのせいだったのだ。

 

 一通りの話を聞き終えた私の感想は『さすがに話盛り過ぎじゃない?』だった。

 そんな奴が本当にいたとしたら、御三家が放って置くはずがないし、天級騎神ですら尻尾を振って会いに来てもおかしくないレベルの存在だ。

 考えられるのは、そいつが高度な幻術の使い手で皆を(あざむ)いているか、年若いウマ娘を言葉巧みに(たぶら)かしているのだろう。

 きっとそうに違いない。許せない!

 洗脳に催眠で薄い本だなんて許しませんよ!

 

「今はリンクデバイスもある。妥協してまで操者を選ぶ必要はないと言う意見も多い」

「そうなのよね。操者としては厳しい時代になったわ」

「つまり、アオイがその"彼"以上の実力を示せなければ"愛バハーレム計画"は、おじゃん」

「な!?やらせません!やらせませんよ!そんなことぉぉーー!」

「キリュウイン教官!?」

「待って、まだコレ食べてない」

「お二人ともありがとうございました。ここのお代は私が払っておきますね」

 

 私はミークの腕を取り立ち上がる。

 いいでしょう、上等ですよ!やってやろうじゃありませんか!

 その"彼"とやらがどんなトリックを使ったか知りませんが、私の実力を持って虚飾の衣をはぎ取ってやりましょう。

 それにしても、ルドルフやテュッティ教官すら騙してみせるとは、侮れない相手なのかも?

 

 こうなったら当たって砕けろ、悩んでいる時間のが無駄だ。

 リストの上から順に片っ端からスカウトしまくってやるわい!

 レジで会計を済ませ、慌ててスイーツを口に入れたミークを引きずりながら、私は食堂を後にしたのだった。

 うおぉぉぉー!やったるぞーー!

 

「キリュウイン教官も災難だな。いてもいなくても、あいつは人心を引っ掻き回す奴だ」

「あら、いたのヤンロン」

「白々しいぞテュッティ。僕が後ろの席にいると解って話をしていただろう」

「偶然よ。そうよね、ルナ?」

「ノーコメントだ、気配を消していたヤンロン教官もどうかと思う。ところで、ヤンロン教官」

「なんだ?」

「グラスワンダーとエルコンドルパサーが探していたよ。もうすぐここに来るんじゃないかな?」

「急用を思い出した。失礼する!」

「めんどくさい男ねぇ。気になっているなら、素直にくっついちゃえばいいのに」

「う、うるさいな」

「さて、キリュウイン教官はどうなるのか?陰ながら応援させてもらおうかな」

 

 ・・・・・・・・・・

 

 テュッティ教官のありがたいお言葉通り、私のスカウトは難航した。

 当初の予定と違い、未だに愛バはミークひとりだ。

 そうこうしているうちに、あのストイックナイスガイのヤンロン教官が契約したという噂が流れて来た。

 リギルのニューフェイスを二人同時に『ゲットだぜ!』だってさ。

 私はこんな状況なのに…祝福したい気持ちより、うらやましい気持ちが勝る!

 ミークと契約できたことも、今ではまぐれだった気がしてきた。

 

「はじめまして、私はミオ・サスガって言います。こう見えても経験豊富で、ロリコンのナビゲーターや天級騎神ザムジードだったこともあるんだ。よろしくね!」

「拍手ッ!皆仲良くするように」

「「「「はーい!」」」」

 

 怪しさ全開の同僚が増えた。

 十代の少女にしか見えない外見で、経歴も意味不明だ。

 ザムジード?今、ザムジードって言った?頭の可愛そうな子なのかな?

 理事長の趣味というか、学園の採用基準がわからない。

 他の同僚は全く意に介さず、ミオ教官を歓迎している。

 

「よろしく~」

「あ、はい。よろしくお願いしま……すっ!?」

 

 握手に応じた手から伝わる覇気、この人、いや、コレ人か?

 もっと異質な何かだったら、何かだったら・・・・・・うん、考えるのやめよう。

 

「……賢明な判断だね

「え」

「なんでもないよ。キリュウイン家次期頭首とお近づきになれて嬉しいな~」

「は、はぁ」

 

 ミオ教官は田舎でニート生活を満喫中だったのだが、

 家主に『ニートを二匹も飼う趣味はない!』とキレられ家を追い出されたらしい。

 うわぁ、この人ニートだったのか。私の中でミオ教官の評価が一気に下がった。

 

「酷いよね。真性ニートのガッちゃんは、まだサイの家にいるのにさ」

「人聞きの悪いこと言わないで。師匠は天級印の治療符を自作してぼろ儲けしているんだから、決してニートじゃないわ」

「法外な値段で出品して殆ど売れてないけどね。ガッちゃんの主な収入源はラ・ギアス住民からの貢物だよ」

「水天が母上たちに寄生して生きているという噂は本当だったか」

「お、堅物そうなアンタはグラの息子だね。じゃあ、そっちのケーキに砂糖かけて食べそうな金髪巨乳が、ガッちゃんの弟子か」

「ヤンロンだ、母上から話は聞いている。大地の天級騎神、いろいろと学ばせてもらおう」

「テュッティよ。ケーキに砂糖をかけるのは普通でしょ?むしろ礼儀でしょ?」

 

 テュッティ、ヤンロン、ミオの三人には不思議な縁があったようで、すぐに打ち解けた。

 もしかしなくてもミオ教官は凄い人物だったようで、数日もしない内に二人と肩を並べる学園の名物教官となった。

 ゲンナジー教官?あの人も中々の傑物だけど、いまいち影が薄いんだよなあ。

 

 ミオ教官がヤベェ、あの人マジでヤベェお方だったよ。

 私が狙っていた愛バ候補たちを一気に七人もスカウトして、チーム"スピカ"設立。

 とんでもないスピードで躍進を遂げ、人気も実力も今ではリギルに迫る勢いだ。

 ここまで、赴任して来て一ヶ月足らずの出来事である。

 そういう活躍を私もしたかったー!してみたかったよー!ウワーン!

 

 リストにまたバツ印が増えた。

 今のが、最後の一人だったのに・・・私は目の前が真っ暗になった。

 

「はいお疲れー。愛バ候補リスト、最後のひとりも無事終了~」

「は、はははははっ、これは夢です。夢ですよね?本当の私は今、たくさんの愛バに囲まれてハーレム生活を謳歌中なんだ。あはっ、あははははは」

「おーい。現実みろー、愛バは私ひとりだよー」

 

 間延びしたミークの声が聞こえるが頭に入って来ない。

 ここで終わりなの?

 こうなったら、ミークを最終段階まで鍛えに鍛えて上げ、チマチマ限界突破の育成をするしかないんだ。

 

「全ステSS+のパーフェクトミークを目指すしかないじゃない!」

「やめてー、私にアオイの黒い欲望ぶつけるのやめてー」

「ミーク、一緒に山籠もりです。トレセンを辞めて二人でギアナ高地に修行の旅へ!」

「絶対行かねー!」

 

 ミークを最強の騎神へと昇華させるため、明鏡止水の心を手に入れる手段を模索し始めた頃だった。

 見慣れぬウマ娘と二人と廊下ですれ違った。

 今の!?リストに載ってない、あれ程の逸材を私が見逃していたなんて!

 凄まじく洗練された覇気と肉体!豊富な実戦経験と信念を持ち合わせた強い眼差し!

 今までスカウトして来た生徒とは何かが違う。

 私は一瞬で魅了された。

 声、そうだ声をかけないと!

 

「あの!少しお話を」

「はい?何でしょうか」

「キリュウイン教官、だよね?一体何かな」

「えー、ここではちょっと、カフェテリアまで来ていただけますか?」

 

 少々困惑気味だったが、二人は快く応じてくれた。

 そしていつも以上に気合と熱を込めてスカウトした。

 

「ごめんなさい。私には心に決めた人がいますから」

「同じく、ごめんね。私も操者一筋だからさ」

 

 クッソっ、二人とも既にパートナーを見つけていたか。

 この二人を愛バできた人物は何たる幸運の持ち主なのか、どうやって契約にこぎ着けたのか教えてほしいぐらいだ。

 早々に話を切り上げて颯爽と立ち去る二人組、引き止める暇もなかった。

 お断りが手慣れすぎていると思ったら、二人はかなりの大物だった。

 メジロ家の秘蔵っ子であるメジロアルダン、ファイン家頭首のファインモーション。

 学園に来るようになったのはここ最近であり、仕事でしょっちゅう休学するため、私と接触する機会に恵まれておらずリストに載っていなかったのだ。

 欲しい!非常に欲しい!

 キリュウイン家とつり合いが取れるどころか、声をかけるのも(はばか)られる存在。

 それが今、教官と生徒として会話に交渉が可能な立場にいる。チャンスだ!

 一回振られただけで諦めるものか!

 私はその後も、二人に会う度に積極的に話しかけスカウトを怠らなかった。

 しかし、結果はいつもNO!

 断られる時の台詞は大体同じ『操者がいる』だった・・・マジで誰だよ!?

 

「いや、操者いるって言ってるじゃん。さすがに諦めなよ」

「ハッタリかもしれません。現に、その操者とやらは一度も姿を見せないし、リンクもしていない」

「あれは本気だと思うけど」

「そうだとしても、諦めきれません」

「しつこい女は嫌われるよ」

 

 メジロアルダンとファインモーションの二人と中々会えなくなった。

 きっと、仕事が忙しいのだろうな。

 ミークはストーキングしすぎたせいで、二人が私を避けるようになったと言っているが、そんな事は無いと思う・・・たぶん。

 

 そして、季節は巡り・・・

 

「編入生?」

「そうです。この時期にトレセンへ編入するなんて、相当な訳ありウマ娘ですよ」

「それをスカウトするって?どんな子なのかもわからないのに?」

「サトノです」

「は?」

「今度編入してくる生徒は二人ともサトノ家のウマ娘です」

「お前マジか?死ぬ気か!?」

 

 混乱したミークの言葉使いが荒れているが無理もない。

 サトノ家と言えば御三家でありながら、何かと良くない噂のある一族だからだ。

 メジロ家がやらない仕事でもやる。とにかく無茶苦茶やる。

 頭首から末端まで構成員がヤバい奴らだらけで組織されており、ノリとその場の勢いで生きているような連中だと言われている。

 特に、次期頭首である"Ⅾ"とその相棒の"黒髪"はサトノのヤバさを体現したかのような怪物。

 倫理観を持ち合わせない、ぶっ壊れウマ娘らしい。

 嘘か誠か、何年も眠っていて小学校を最近卒業したとか、妙な情報もあるが今はどうでもいい。

 とにかく会って話がしたい。

 怖いもの見たさというのも多分に含まれているが、会ってみたい。

 

「キタサンブラックです。みんな仲良くしてね」

「サトノダイヤモンドと申します。不束者ですがよろしくお願いします」

 

 当たりだ。それも大当たりのSSR!

 級友に囲まれている彼女たちを遠巻きに目撃しただけで、ハッキリと確信した。

 この二人も他のウマ娘とは違う別種の存在だ。

 アルダンとファインに感じたものと同質の、強大な力を秘めているに違いない。

 

 サトノ家の評判も誇張された噂にすぎなかったようだ。

 どんな子かと戦々恐々していた自分がバカみたい。

 二人とも礼儀正しく品行方正で、凄くいい子じゃないか。

 溢れ出る気品と優雅な物腰し、蝶よ花よと育てられた良家のお嬢様って感じで、何もおかしなところはない。

 よーし!やる気が出て来たぞー。

 お願いします!どうか私の愛バになってください!後悔はさせませんから。

 

「お断りします。私には愛する操者がいますから」

「右に同じです。キリュウイン教官はご自身の愛バ、ミーク先輩を大事にしてあげてください」

 

 はいはい、お断りは想定内じゃい!なんかもう慣れて来た。

 諦めませんよ!そして逃がしません。

 ミーク?なんで私を羽交い絞めするのです?

 はっはーん。最近かまってあげてないから、寂しくなっちゃんたんですねー。

 可愛いところあるじゃない。

 

「冷静になれ!やめた方がいいって、マジで!これマジで言ってるからな!」

「止めても無駄です。ミークは黙って応援してください」

「応援より操者の命を守るのを優先させてもらうよ。あーもう、めんどい」

 

 キタサンブラックとサトノダイヤモンドにストーキング・・・じゃなくて熱烈スカウトを続行する。

 褒め殺しや、泣き落とし、手札を変え趣向を変え、いろいろ試してみたが、中々うまくいかない。

 最初は静観していたミークまでもが邪魔して来るようになった。でも、諦めない。

 

 何度目かのスカウトの後、ミークに命の危険があると忠告された。

 確かに今日は言い過ぎた。けど、腹パンはやめようよ。

 一向に姿を見せない二人の操者に苛立って貶めるような発言をしてしまった。

 まったく、あんないい子を放置して、何をやっているのやら。

 私が操者ならずっと傍にいて、寂しい思いなんてはさせはしないのに。

 

 不思議な男性に出会って道を尋ねられた。

 目的は私と同じスカウトだったらしい、あの覇気じゃ結果は目に見えているけど・・・

 ま、現実を知るのもまた修練ですよ。

 さあて、私は今後の対策を考えなくては、二人の好物を貢いでみるのはどうかな?

 どうしたんですか、ミーク?ああいう男性がタイプなんですか?

 え?凄くいい匂いがしたんですか。フーン、私にはよくわかりません。

 

 ●

 

 は?

 

 嘘、ウソウソウソッ!ちょっと待ってよ。

 操者?愛バ?誰が誰の?なんで?

 

はああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!?

「アオイ、うるさい」

「これが黙っていられますか!だって、だって!」

「マサキ教官、キタちゃんとダイヤちゃんの操者だったねwwよかったよかった」

「全然ッ!よくない!それに━━」

「アルダンとファインの操者でもあったよねwwいや~ビックリビックリ」

「私がスカウトに失敗した子たちとも、めっちゃ仲良しなんですよぉ!?ありえないーー!」

 

 不思議な男性の正体は学園に養護教官として赴任して来た新任教官。

 名をアンドウマサキという男だった。

 まあそれはいい。問題なのは、この男なんと!私が最終的に目を付けた四人のウマ娘たちの操者だったのだ。

 実在した事にもビックリだが、この妙な男が私より優れているとは到底思えない。

 何なんだこいつは!こんな男のどこがいいのか、全く以って理解不能だ。

 恋は盲目にもほどあるだろうが!

 だというのに周囲の評判は非常に良く、最初警戒していた生徒たちも医務室へ行くことへ抵抗が無くなって久しい。

 

「ヒーリングの腕前ホント凄いよ。治療師ランク特A免許保持とかヤバすぎ」

「それは認めますけど、あの覇気は!全然大したことないでしょう?」

「あれたぶん抑えてるだけ。それも、かなり強い拘束術式かなんかで縛りプレイ中」

「でも、でも」

「デモデモダッテはやめよう。アオイはさ、マサキ教官が単純に羨ましくて嫉妬しているだけなんだよ」

「ぐぬぬぬ!」

 

 そうだ。これは嫉妬だ。

 私がどれだけ口説き落としても『はい』と言ってくれなかった騎神たちが、彼の前ではデレデレなのにムカついているのだ。

 懐いているというレベルじゃねーぞ。あれはもう付き合ってるのでは?

 愛バだけじゃなくて、他の生徒たちもすごくフレンドリーに接していて距離が近い。

 みんな私には見せない表情をしている、めっちゃしている。

 同僚たちとも速効で打ち解けて、テュッティ、ヤンロン、ミオ、ゲンナジーと談笑中は、慣れ親しんだ友といった空気を出している。

 理事長とも旧知の仲であり、信じられないことに、あの恐ろしい"駿川たづな"が慈愛の表情で世話を焼いていたりするのである!?

 マジで何者なの?

 

 私の嫉妬心は日増しに増大していった。 

 彼の前では不機嫌になり、粗探しをして理不尽な感情をぶつける事もあった。

 それでも、アンドウマサキは困ったような顔をするだけで、丁寧に謝罪までして来るのだ。

 大人な対応に加えて逆に私を気遣うようなそぶりすら見せる。

 それが余計にムカついた。

 

「キタさんとダイヤさんが豹変っぷり見ましたか?あれじゃ下品なチンピラですよ!」

「私は今の二人の方が面白くて好き」

「御三家のウマ娘があんな醜態を晒すわけがない。アンドウ教官なんかと一緒にいるせいで毒されてしまったんですよ。そうに決まってます」

「いや、あれが本性だったんじゃないの?」

「私がなんとかしないと、このままでは学園全体が汚染されてしまいます!やはり、キタさんもダイヤさんも、それにアルダンさんとファインさんも、私が面倒みるしかありません!」

「うっわ、まだ諦めていなかったんだ。引くわー」

 

 いつしか私は嫉妬心と使命感をごちゃ混ぜにした、奇妙な感情に支配されていた。

 自分の間違いに気付くのはもう少し後になるのだけれど、この時はそれが正しいと信じて疑わなかった。

 ミークがいさめてくれなければ、もっと早く事を起こしていただろう。

 

「アンドウマサキ!あなたに決闘を申し込む!」

「はぇ?」

 

 私の我慢が限界に達し、アンドウマサキへと戦いを挑む事になるのは、

 きっと必然だったのだ。

 

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