俺と愛バのマイソロジー   作:青紫

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下品です。
気を強く持ってお読みください。


はだかのおウマさま

 トレセン学園敷地内、主要施設群から離れた場所にその魔窟は存在した。

 操者も愛バも話題に事欠かない要注意人物たち、

 チーム"ああああ"のメンバーが(たむろ)する基地である。

 ただの物置と化していた小屋を劇的ビフォーアフターして完成した基地は、

 チームが出入りするようになってから幾度となく改築が施され、今では大変過ごしやすい場となっている。

 休憩時間など、暇を見つけては基地で羽を伸ばすのが愛バたちのルーティンだ。

 

 融通の利くカリキュラムを採用している学園では、

 午前中にさっさと授業を終えて、午後の時間は丸まる自由時間にすることも可能だ。

 やるべき事をやり結果を残してさえいれば、文句を言う者はいない。

 仕事に青春に、そして恋愛に忙しい愛バたちには理想の環境が整っている。

 そんな訳で学業を終えた愛バたちは、今日も自然と集まり操者が来るのを待っている。

 

 基地内ではクロ、シロ、アルの三名がマサキを待ちながら思い思いに過ごしていた。

 ココは所用で出かけているらしく、まだ到着していない。

 

 あ、どうもシロです。

 真名サトノダイヤモンドです。

 もはや女主人公と言っても過言ではない、私視点でお届けします。

 私の視界をジャックするか、精神を同調させるなりして、お楽しみください。

 読者様のたくましい妄想力に期待しております♢

 

 〇

 

 ふざけたことに、キリュウインとか言う人間(ヒトミミ)がマサキさんを目の敵にしているらしい。

 『そろそろ狩るか・・・♠』と愛バ一同が思う今日この頃だ。

 

 今日は全員揃って旧校舎ダンジョンで修練をする予定。

 ダンジョン攻略も佳境に入って来ていて、

 地下100階層まで、もうすぐのところまで進んでいる。

 果たして、待っているのは何か?大ボスか?はたまた、金銀財宝か?

 『地下101階層発見!まだ下があるぞ』的な展開は、めんどうなのでやめてほしい。

 

「シロさん。飲み物、ここに置いておきますね」

「ありがとうございます……ん…あちち」

 

 アル姉さんが淹れてくれた温かいお茶を頂く。

 猫舌を我慢して、少量ずつ飲むのが美味しいのですよ。

 口内に広がる香ばしい味わい、玄米茶とは渋いチョイスだ。

 

 ソファに腰かけ、クエストの事後処理をまとめたレポートに目を通す。

 

 先日、学園は大規模緊急クエストを発令した。

 腕利きの騎神を出動させ、違法デバイス密売組織の潜伏先を襲撃したのだ。

 警察とトレセン学園が協力した本作戦は大成功に終わる。

 密売組織は一掃されて、街がまた少し綺麗になったと偉い人が言っていた。

 その際、マサキと愛バたちは宿敵ルクスに遭遇するというハプニングがあったりするのだが、

 マサキの事情を知る関係者以外には、その事実は知らされていない。

 

 大きな戦果を上げたチーム"ああああ"には、クエスト報酬がたんまり贈答された。

 我々の評価も上がり、実に気分がいい。

 戦果ランキング一位は学園最強を誇るリギルだったそうだ。

 二位がスピカで"ああああ"は三位入賞だ。

 ルクスの邪魔が入らなければ、自分たちこそが一位だったのにと、クロがぼやいていた。

 

 (気になる報告は……あった、これだ)

 

 E地区とG地区では現場に踏み込んだ時、売人のチンピラどもが既に無力化されいたとの報告がある。

 学園の騎神が到着する前に何者かの襲撃を受けたと推測される。

 現場にあったはずの違法デバイスが持ち去られている時点で、怪しいなんてもんじゃない。

 後日判明した事だが、他にも複数の場所で似たような事例があったらしい。

 

 (十中八九ルクスの仕業、やってくれる)

 

 私たちがルクスと相対している最中、裏で仲間を動かしていたのだ。

 奴は組織的な活動ができるだけの人員を揃えていると見ていいだろう。

 違法デバイス事件はルクスにとっても不都合であり、デバイスの回収に出張って来たわけだ。

 私たちとの対話は本業のついでかよ。なめやがって。

 

 ルクスが気にするデバイスか、

 マサキさんは赤い核石を見たと言っていたが、それが関係しているのだろうか?

 タキオンさんにデータを回してもらって、私の方でも解析してみよう。

 

 読み終えたレポートをテーブルに置く。

 お茶をまた一口飲んでから、肩を回しグキグキと鳴らした。

 

 (胸部が重いと肩が凝りますね)

 

 以前、マックイーンさんの前で同じ発言をしたら、もの凄い目で睨まれたのを思い出す。

 たまたま一緒にいたスズカさんは『脂肪の塊にすぎぬぅ!』とか吠えていたなあ。

 一息ついたので、他の連中は何をしているのだろうか?

 私は室内を見渡す。

 

 同サイズのバストをお持ちのアル姉さんは、私のすぐ横で熱心に雑誌を読んでいた。

 ニヤニヤしていてちょっと気持ち悪・・・アレは、結婚情報誌"ゼクシィ"だとぉ!

 なるほどなるほど。

 マサキさんにじわじわプレッシャーをかけるおつもりか?

 

「未来のための予習です」

「はぁ……まあ、いいですけど」

 

 私はチラッとテーブルに目をやる。

 そこにはアル姉さんが持ち込んだ雑誌類が、これ見よがしに置かれていた。

 

「"たまごクラブ"はやりすぎでは?」

「"ひよこクラブ"もありますよ。シロさんたちも一読をおすすめします」

 

 アル姉さんの中では、未来の明るい展望が広がっているんだろうなあ。

 私もそういう事を考えない訳ではないけど・・・

 あまりのプレッシャーでマサキさんを押しつぶすのだけは勘弁してください!!

 焦り過ぎて引かれない事を祈ります。

 

 クロは私から強奪したニンテンドースイッチで遊んでやがる。

 これまた私が設置した壁掛けテレビをモニターにして、大画面で楽しんでおるわ。

 長いボス戦を乗り越えたらしくクロは『しゃあ!やっと倒せた』とガッツポーズしていた。

 CV:若本らしき軽快なキャラクターボイスが聞こえていたのだが、

 どうやら、それも終わったようだ。

 

『ムムカ……愚かすぎだぜ…』

 

 ベジータ!じゃなくて、画面の中のダンバンさんが名セリフ言った。

 プレイしているのは名作RPG"ゼノブレイド"か・・・

 あーネタバレしてぇーーー!

 

 (ダメですよ。クロさんの楽しみを奪ってはいけません)

 (わかってますよ。クリアまではネタバレ禁止、常識です)

 

 既プレイ済みのアル姉さんに釘を刺された。

 そうですよね。ゲームは先の展開をワクワクしながら進めるのが楽しいんだよ。

 クロにはゼノブレイドという作品をしっかり堪能してもらわないと。

 

「ディクソンさん。早く仲間にならないかなぁ?カッコイイおやじ枠は必要だよね」

「……」

「……」

「機神って絶対悪い奴だ。復活した巨神がピンチに助けてくれる神展開、期待してるよ!」

「……くっ」

「……ww」

 

 クロ・・・愚かすぎだぜww。

 何も知らないクロの発言にツッコミしたい衝動に駆られたが我慢する。

 顔を見合わせた、アル姉さんと私の思いは一つだ。

 

 ((ネタバレしてぇぇぇーーー!!!))

 

 ゲームを進めた先でクロが『うわぁぁーー!マジかよこんちくしょう!』と悶えるビジョンが見えた!

 なんという愉悦!ゲーム開発者もしてやったりだろうな。

 

「ごめん、遅れちゃった。あれ?マサキはまだ来ていないんだ」

 

 キリの良いところでゲームを中断したクロを交えて談笑していると、ココがやって来た。

 

「遅かったですね、授業が長引きましたか?」

「違う違う、屋台がとっても繁盛しちゃって大忙しだったの」

「あの無許可営業、まだ続けていたんですか。そのうちマジで捕まりますよ?」

「今日はたづなさんと理事長が食べに来てくれて、生徒会の人たちもいっぱい替え玉してくれんだ」

「食ってる場合か!?ちゃんと取り締まれ!」 

「ラーメンの味で懐柔してみせるとは、やりおるわ」

 

 ココは趣味でラーメンの屋台を不定期で営業している。

 学園内のどこかにランダムで出現する事のみが知られ、正確な場所も営業時間もはっきりしない。

 店主であるココの気が向いた時のみ営業するという、大層ふざけた屋台だ。

 しかし、そこのラーメンを食した者は誰しも『異様にうまい!』と、口を揃えて絶賛するのであった。

 学園七不思議の一つに列挙される神出鬼没の屋台。

 その噂は口コミで広まり、今では常連客やコアなファンも相当数いるのだとか。

 『運よく見つけたらラッキーなので授業をサボってでも行くべきですわ!』

 と、マックイーンさんも褒めちぎっていたっけ。

 

 ほぅ、集客は期待できるしリピーターも定着しているのか。

 正式な許可を取って出店するか、食堂の限定メニューなんかに加えてもらえば、そこそこ稼げそうだな。

 

「わかってないなーシロちゃん。幻の屋台ってところに、みんなロマンを感じているんだよ!」

「知らんがな」(´・ω・`)

 

 屋台が神出鬼没な理由、それはココがチートスキルを使ってるからに他ならない。

 ココのスキル空間収納にかかれば、どこだろうと瞬間的に屋台を出し入れ自由なんだよね。

 収納すれば重い屋台を引く必要はないし、食材の鮮度も温度も入れた時点のものに保存されるんだってよ。

 私たちもよく荷物を預けたりするので、日頃からお世話になりっぱなしだ。あざ~す!

 便利すぎません?一家に一台備えて安心ファイモーションだ。

 いいなあ、私もアイテムボックスほしい。

 スーパーでエコバック忘れた事に気付いても、悔しい思いしなくてすむんだもん。

 

「それにもう無許可じゃないんだな。本日付けで営業許可書発行してもらっちゃった」

「あー、そういうこと。理事長たちから提案されたんでしょ?『我々を味で納得させる事ができたら認めてやる』的な勝負をさ」

「料理漫画によくある展開ですね。何はともあれ、おめでとうございます」

「ありがとう。よかったらみんなも食べに来てよね。替え玉一回ぐらいならサービスしちゃうから」

 

 身内のよしみで一杯ぐらいタダにしてくださいよ。

 ケチくせぇな。

 

「うーん。マサキとアルはタダでもいいけど、クロシロちゃんは日頃の行いがね~」

「ケチー!」

「ドケチインモー!」

「ココさん。食べ盛りの二人がかわいそうです。何とかなりませんか?」

 

 おのれ、意地悪インモーめ。

 そして、アル姉さんは大天使ですこと。

 ほらほら、心優しきアル様のお願いを聞き届けなさいな。

 仮にも年上なんだから、年下の妹分にひもじい思いをさせないでくださいよ。

 

「わかったよ。ただし!私のことを"お姉ちゃん"と呼んでくれたらね」

「ココお姉ちゃん。シロ、お姉ちゃんのラーメンお腹いっぱい食べたいな!」

「はい、シロちゃん合格!いつもそうなら可愛いのにね」

 

 フッ、チョロいな。いとも簡単に無料ラーメンゲットだぜ。

 食欲の前には、つまらんプライドなど問題にならん。

 ココをおだてて美味いもん食えるなら、妹ぶりっ子も演じてみせるダイヤモンドです。

 さあ、クロも私に続け・・・おーい、どうした?

 

「次はクロちゃんの番だよ。"お姉ちゃん"って言えるかな?」

「いやっ!」

「クロさん?」

「どうしました?ちょっと我慢してココを持ち上げれば、タダでラーメン食えるんですよ?意地張っも損するだけです」

「いやったら嫌なの!」

「……私、マジでへこんでいい?嫌われすぎてショックなんだけど、泣きそう」(´;ω;`)

「ああ、ココさんが崩れ落ちて…クロさん、ココさんの何がそんなに嫌なんです?ニンニクと豚骨を浴びるように消費する癖に、体臭が変化しないのがムカつくからですか?」

 

 それ、アル姉さんが思うムカつきポイントですね。

 

「アルまで酷いよ!私は三食ラーメンでも大丈夫な体なの!ちょっとお口が臭う時はごめん!」

「そんなので、マサキさんとキスする時どうするんですか!」

「マサキにもニンニク食ってもらうんだよぉ!はい、解決」

「毎回そんな苦行にマサキさんをつき合わせるなんて鬼畜です!」

 

 年長組がヒートアップして口論を始めた。

 ここはしばらく様子を見よう。

 

「へぇー。マサキの口がちょっとニンニク臭いからって、アルはキスしないんだ?」

「そんなことはありません。私は例えマサキさんの口から下水の匂いがしても、貪るようにキスする女です!」

「それは病院に行った方がいいよ、二人とも」

「モンダミンを口移しで飲ませ合いすれば、アフターケアもバッチリです」

「モンダミンは吐き出すのが正解だよ。飲んじゃダメ!」

「では、リステインにします」

「問題はそこじゃない」

 

 アル姉さん、薬用マウスウォッシュを飲み物だと勘違いしていた。

 ヤベェなあ、怖いなあ、これがアル姉さんクオリティだなあ。

 

 アル姉さんとココはまだ何やら言い争っている。

 あれはあれで仲がいいんだろうな。もう放って置こう。

 それよりも、意地を張ってるクロは何なんでしょうね?

 

「ク~ロ。さっきの態度は何ですか?さすがにココが不憫ですよ」

「呼びたくない…だけ……」

「……もしかして、照れてます?」

「ち、ちがっ////」

「マジかー。本当はココ大好きかぁ」

「違うって言ってんだろ!すり潰すぞサトイモ!」

「はいはい、そういうことにしておきましょうね~。もう、クロってばカ~ワ~イ~イ」

「死なす!」

「あ、耳はダメ。耳を絞って捻じって結ぶのは、らめぇぇーー!」

 

 大事な耳に乱暴されてしまった。

 うう、酷いわ。訴えてやる!

 『シロの耳は大きくて可愛いなあ』と、マサキさんが褒めてくれた自慢の耳なんだぞ。

 えーと、ここがこうなって・・・よっと。

 ふぅ、なんとかほどけた。

 

「今日のところは引き下がるけど、いつか絶対に"お姉ちゃん"と呼ばせてみせる。覚悟してなさいクロちゃん!」

「諦めてよ。そんな日、絶対来ないから」

「ムキ――ッ!可愛くないなぁこいつめ!コイツめ!」

「ちょ、おぱーい揉まないで」

 

 今もじゃれ合っているし、仲が悪い訳じゃないんだよな。

 

 クロがココを"お姉ちゃん"と呼びにくい理由、何となくわかる。

 あれだ、私が継母のハートさんを"お母さん"と呼べないのと一緒だ。

 勘違いしないでほしい、私はハートさんの事を嫌ってはいない。むしろ大好きだ。

 父の再婚相手として十二分に認めているし、私を実の娘クロと平等に愛してくれている。

 私には勿体ないくらいの、本当によくできたお母さん・・・だからこそ、躊躇する。

 実母との関係を破綻させたような奴が『お母さん』なんて呼んでいいのかと思ってしまう。

 父とハートさんとクロ、せっかく築いた仲良し家族の三角形。

 そこに割り込んで崩すのが、また壊すかもしれないのが、怖い。

 そんな事は起こらない、心配しすぎだと言ってくれるのでしょうね。

 でも、怖いものは怖いのだ。

 だから、申し訳ないけど、ずっと待ってくれているのを知ってはいるけど。

 ヘタレな私の覚悟が決まるまで、もう少しだけ時間がほしい。

 近いうちに絶対、胸を張って『お母さん』呼んでみせるから、待ってて。

 私が呼ぶなら『母様(かあさま)』かな?

 クロみたいに『ママ』って呼ぶのはハードルが高い。

 

 私のハートさんに対する気持ち。

 きっとクロはココに対して、似たような心境なのだろう。

 

「ココのことは好きけだけど、初対面で敵認定してしまったのと、そのあと散々"インモー"と呼んで(さげす)んだことでジレンマが生じたのでしょう。今更どの面さげてと思う気持ちと、アル姉さんにするように甘えてみたい気持ちがこじれてしまい、自分でも混乱している」

「さすがシロさん。クロさんのことをよく理解してますね」

「クロちゃん////私のことをそんな風に」ポッ

「やめろぉ!口に出して分析するなぁ―――!!」

「ヨワムシMIRROR HEART(ミラーハート)~いつだって天邪鬼(あまのじゃく)~素直にはなれない…なってあげない~♪」

「うはっ!クロちゃん可愛すぎ!」

「歌うなサトイモ!何だその歌詞!?」

 

 政宗くんのリベンジ1期OP『ワガママMIRROR HEART』より抜粋ですが何か?

 クロの心情を表すのにピッタリだと思いましてね。

 つい口ずさんじゃいましたよ。

 

「たぶん、二人っきりになったら思わずポロっと言いいますよ『お姉ちゃん…あ!』しまったぁー恥ずかしい///みたいなw」

「フフ。クロさん、とても可愛らしいです」

「そ、そんなシュチュエーション来ちゃったら、私はクロちゃんを全力で押し倒す!」

「ヤメロォォォ!これ以上、私の心に触れるなぁぁぁ――――!!!」」

 

 おやおや、クロがメンタルブレイクしてしまったぞ。

 ハートさんの娘だけあって、ハートが弱点なんですねー。なんちゃってw

 ハハハハ、痛い痛い。

 それ以上は流血沙汰になるからやめてね。

 マジで謝るからやめてくれよう。

 お前、顔真っ赤やぞwww

 あ、うそうそ、血で真っ赤になるのは私になりそうだからやめて。

 

 なぜか私だけビンタされた。一発ではなく何十発もされた。

 痛いなぁ、口の中切れちゃったじゃない。

 ほっぺたもヒリヒリするぜい。

 でも、ダイヤモンドは砕けない!すぐに回復しまーす。

 

 真っ赤になったクロは、アル姉さんのに抱き着いて()ねてしまった。

 アル姉さんとココに慰められ、よしよしされている。

 妹分の可愛い一面を目撃した二人は、ほくほく顔でクロを撫で回しご満悦だ。

 天然で愛され上手なクロ、私にはない才能だ・・・

 う、うらやましくなんてないんだからね!

 フンだ!私はマサキさんにしてもらうからいいだもん!

 

 クロがいつもの調子を取り戻し、私の口内出血が止まるまで数分かかった。

 

「マサキさんは…まだ来ないみたいですね」

「どうする?何かして遊ぶ?」

「いい機会だから、あの事を決めちゃわない。アル、例のヤツ持ってる?」

「はい。こちらに」

 

 アル姉さんはファイルケースから紙切れを取り出し、テーブルの上に置いた。

 それは一枚のチケットだった。涙もろいことで有名なチケ蔵先輩のことではない。

 チケットにはこう書いてある。

 

『豪華!"温泉旅館"1泊2日ペア宿泊券』

 

 違法デバイス事件解決の特別報酬として、理事長にもらったものだ。

 太っ腹な理事長は『成果に見合った報酬は当然ッ!』という考えの人で、こういった特別報酬を頻繁にくれたりする。

 因みに、リギルとスピカにはチーム全員分の旅行券が送られたらしい。

 活躍ランキング三位の"ああああ"はペアチケット一枚にまで減少・・・ちょっと酷くない?

 小姑の悪意を感じる!!

 

 豪華!などと書いてあるが、正直このレベルの旅館なら全然大したことはないと思えるぐらい、生まれも育ちも裕福な私たちである。

 家の名前を出せば、更にハイグレードな宿泊施設を貸し切りだってできる。

 もっとも、家の権力を振りかざすまでもなく、今こなしている仕事やクエストの稼ぎだけでも泊まるだけなら十分可能だ。

 その気になればいつでも、マサキさんを誘って高級リゾートホテルへGO!できる。

 できるのだが・・・

 

「マサキさん、そういうの遠慮しちゃんですよねー」

「「「だよねー」」」

 

 うんうんと全員が頷く。

 マサキさん、お金に関して私たちを頼ろうとしないんですよ。

 むしろ、デート中とかは率先してお支払いしてくれる。

 以下、お金についてトークしたマサキ発言集。

 

『俺には小市民な生活が性に合ってる』

『豪遊とか散財はなあ…勿体ないと思ってできぬぅ」

『ギャンブル?あー無理ムリ無謀』

『もちろん、よく考えた上で豪遊したいと思うのなら止めはしない』

『お金は大事。いざという時のため、コツコツ貯蓄もアリだよな』

『俺にじゃなくて自分のために使いなさい』

『そりゃ金は欲しいけど、もっと大事なもの手に入れちゃってるから』

『お前たちがいてくれるだけで十分なんだよ』

『まさにプライスレス!』( ̄▽ ̄)

 

「『お前たちがいてくれるだけで十分なんだよ』脳内リピート不可避!うわぁー!もう超好きぃ!!」

「マサキさん語録に永久保存決定です。思い出すだけでご飯三杯…いや、釜ごといけます」

「払います!私が全部払います!全財産で、マサキさんの人生に寄り添う権利をお買い上げします!」

「もし、マサキがホストだったらヤバかった……破産からの泡風呂コースまで一直線!」

 

 まあ、私なら泡風呂に沈んでも返り咲いて見せますけどね。

 お風呂屋さんを乗っ取って、また、マサキさんを指名するのです。

 連日シャンパンタワーを入れて、マサキさんをナンバーワンにしてみせます!

 

 マサキのためにお金を使うことに迷いはない。

 じゃんじゃん使って喜んでもらえるなら、それだけで嬉しい。

 たまには遠出して、旅行を楽しんだり素敵なホテルで一夜を明かしてみたいのだ。

 しかし、むやみやたらと金銭を使うことをマサキは良しとしない。

 そこに振って湧いたのが『温泉旅館宿泊券』である。

 クエストを頑張って手に入れたよ、ご褒美に一緒に行ってほしいな?

 そんな風に誘えばマサキもきっと了承してくれるだろう。

 つまり、このチケットは・・・

 

『マサキと温泉旅館でイチャイチャできる券』

  ↓

『マサキ1泊2日独占券』

  ↓

『これはもうハネムーンのリハーサルだ!』

  ↓

『他の三人に決定的な差をつけるチャーンス!』

 

 私たちにとって、喉から手が出るほど欲しい"魔法のチケット"に他ならない。

 

 しかも、ペアってところがミソだよね。

 ペア・・・お邪魔虫がいない、二人っきりてことよ!

 そう思えば、全員ご招待券じゃなくてよかったかもしれない。

 温泉へ行くのは二人、一人はマサキで確定だとして残り一人は・・・

 もちろん、これから決めるのだ。

 

 既に室内は私を含めた四人の覇気とやる気で満ち溢れている。

 全員がチケットを欲し、マサキと一緒に行くのは自分で決まりだと思っている。

 

「二人っきりの温泉旅館、何も起こらないはずはなく……チェックインからアウトまでイチャイチャラブラブ。最高じゃないっすか……」

「温泉で身も心もリラックスしたあとは、浴衣姿の私を召し上がるのですね。朝チュンコース予約しておきます!」

「露店風呂はもちろん混浴……あ、ダメだよマサキ、貸し切りだからって、こんな開放的なところでなんて///もう、仕方ないなあ///」

「お風呂のあとはマッサージで日頃の疲れを癒してあげる。もう、マサキさんったら、モナドをこんなにおっきくして////ここにもマッサージが必要かな?」

「「「モナド言うなww」」」

 

 それぞれが妄想に浸り夢を見る。

 この夢を現実する者こそ、彼の愛バに相応(ふさわ)しい。

 

 バカな発言をしたクロは、シュルクに土下座して謝るんだも。

 マサキさんのモナドは、未来永劫ダイヤちゃんが独占管理するべきなんだも!

 と、私の中のノポン族が申しております。

 

「じゃあ、ちゃっちゃと勝負しようか」

「争う必要あります?どうせ、私が勝つのに」

「やってみないとわかりませんよ」

「みんな泣く準備をした方がいいんじゃないの?」

 

 争奪戦が始まる。

 こうなることはチケットを入手した段階で読めていました。

 

 私たちは今まで何度もマサキさん絡みで争って来た。

 勝負方法の話し合いは毎回揉めるので、めんどくさい。

 それに疲れた私はたちは、事前にくじを作る事にしたのだ。

 こんなこともあろうかとね!

 上部に穴の開いた箱に競技種目を書いた紙を入れておいて、代表者一名が引くというシンプルなものだ。

 一人につき四枚の紙が配られ、そこに自分の勝ち星が狙える種目を書き箱に入れる。

 くじの総数は16枚。四分の一の確率で自分のヤツが当たるのだ。

 

「今回も私が引いていい?」

「どうぞ」

「たまには私が引きたいです」

「シロちゃんはダメ!大人しくしてなさい」

「(´・ω・`)ショボーン」

「よーし、私に有利なの来い!来てくれい!」

 

 くじは基本クロに引く。

 正々堂々とした勝負を好む性格なので、信用できるという理由でだ。

 私だと紙の材質や折り目を記憶して不正を働くかもしれないと疑われている。

 ちぇ、信用無いな。

 箱に仕掛けをしようとして見つかったのがマズかったなあ。

 一応、年長組の二人がクロの動きに目を光らせる中、抽選箱から二つ折りにされた紙片が引き抜かれた。

 

「お……やった!私が考えたヤツ来たよ」

「「「うわぁ……」」」

 

 喜ぶクロとは裏腹に、私たちはげんなりした。

 こいつのかよ……やだなあ。

 クロの選ぶ種目は体を動かすモノが多く、肉体的にしんどいのがほとんどだ。

 前々回、アル姉さんが優勝した"相撲(すもう)"は白熱しすぎてしまい、

 部屋の中がしっちゃかめっちゃか!

 『もう、インドア相撲は禁止よ!』と、オネエ化したマサキさんに怒られたのは忘れられない。

 格闘技系だったら外でやらないと、また怒られちゃう。

 

「勝負方法は……"野球拳"に決定したよ!」

「「「なんでだよ!?」」」

 

 野球拳について説明は要るまい。

 じゃんけんを行い、負けた方が服を脱いでいくという宴会芸だ。

 スケベ親父が、若い女の子とやってみたい遊戯として根強い人気がある。

 普通のじゃんけんではイカンのか?

 どうしてクロはこれを紙に書いたのだろう?

 

「脱衣させることで、敗者に屈辱を与えられる。こんな愉悦ゲー他にない」

 

 ろくでもない理由だった。

 最近、ゴルシさん辺りに悪い遊びを吹き込まれるようになったのがいけないんだ。

 クロの教育はチーム全体で取り組まないといけません。

 でないと、この子どんどんバカになるよ。

 

「自分が敗けることは考えていないのですね」

「当然!勝つのは私だもん」

「いいでしょう、やりましょうよ。全員フルフロンタルにしてやります」

「そうと決まれば早く始めよう。マサキが来る前に終わらせるよ」

「「「おおー!」」」

 

 温泉旅館宿泊券を賭けた"仁義なき野球拳大会"

 その火蓋が切って落とされた。

 

 〇

 

 一回戦 クロVSアル・・・勝者クロ

 二回戦 シロVSココ・・・勝者シロ

 

 私とクロは一枚も脱ぐことなく、あっさり勝負は終わった。

 年上二人弱すぎw

 これが若さの勝利というヤツです。

 

「あの、もう下着は身につけても……ダメですか?」

「ストレート負けだなんて、こんなはずじゃ」(;´д`)トホホ

 

 全裸になった年長組の二人が床にしゃがみ込んでいる。

 露になった胸を腕で隠し、大事な所は器用に尻尾で隠してるアル姉さんとココ。

 エロい!写真撮ったら高値で売れそう。

 

「勝者が決まるときまで、敗者は全裸待機だよ!」

「そこで見ているがいい。私たち死亡遊戯をねぇ!」

「寒いから早くして」

「ココさん。くっついてもいいですか?人肌で温めてください」

「いいけど、ちょっとおぱーい触らせて」

「マサキさん以外の人はお触り禁止です。どうしてもと言うのなら、ワンタッチにつき10円払ってください」

「アルはもっと自分の価値を理解した方がいいね……はい、100円」

「毎度ありです♪」

 

 やっっすい!特売すぎて引く。

 1000円払って100回揉ませてもらおうか?

 まれに発揮されるアル姉さんのズレた価値観には困ったものだ。

 これはマサキさんが泣いちゃう案件なので修正の必要ありと記憶しておこう。

 

「アル姉もココも裸で何やってんだか」

「知らん!アル姉さんの乳が10回揉まれている間に勝負つけるぞ」

「あとは、サトイモの皮をキレイにむくだけ。マサキさんと温泉旅館はもらった!」

「ぬかせ。裸族の仲間入りをするのはてめぇの方だよ」

 

 私とクロは視線は絡み合い、バチバチと火花を散らす。

 決勝戦だ。勝った方がマサキさんと温泉旅館へ行く。

 この勝負、愛ゆえに勝たなくてはならない。

 

 いざ尋常に、やぁぁぁってやるぜっ!!

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「よっしゃ勝ったぁ!」

「あーもう!今のはチョキを出すべきだった」

 

 私とクロの決勝戦。

 互いの実力は拮抗し勝負は長引いていた。

 今の状態を説明しよう。

 

 私、残り二枚。

 上半身裸で下半身はスカートと下着を残すのみ。

 クロ、残り一枚。

 上半身裸で下はパンツ一丁だ。

 

「あと一枚、あと一枚なのに……なぜだ、なぜ勝てない!?」

窮鼠(きゅうそ)猫を嚙む。クロはシロの内臓をぶちまける!常識だよ」

「意味がわからん!」

 

 最初のうちはクロの衣服を順調にはぎ取っていたのだが、

 パンイチになったクロは覚醒し、今では私を窮地に追い込んでいる。

 チッ、追い詰められたアホのしぶとさを侮っていた。

 奴は想像を絶する動体視力をもって、私の出す手の形を読んでいやがるのだ。

 私の得意とする、心理戦やフェイントも通用しなくなってきている。

 マズい。非常にマズい展開だぞこれは。

 

「どっちが勝つと思います?解説のココさん」

「勢いに乗っているクロちゃんかな。むきサトイモ完成待ったなし!」

「外野、うるさいです」

 

 観戦モードに入った裸族二人が好き勝手言ってくれる。

 

「早く脱げよ。シロもパンイチになっちゃえ」

「わ、わかってますよ。ええいクソっ!」

 

 私はスカートに手をかけ、一思いに脱ぎ去った。

 気分は売れっ子ストリッパー!

 観客がマサキさんならポールダンスもしてみせる。

 なんという屈辱か!

 私のパンイチ姿がアホウマ三名に惜しげもなく晒されてしまっている。

 しかしだ、これで私も底力の発動条件を満たした。

 勝負はここからだ!

 

「「「……」」」

 

 どうして全員無言なの?

 あーなるほどなるほど。

 私のパンイチ姿、そのあまりの美しさに言葉も出ないのか。

 ちょっと、みんなガン見しすぎー。

 さすがの私も照れちゃうぞ////

 

「ねえ、それ何のつもり?」

「パンイチダイヤですけど何か?」

「それはいいんだけど……何で男物の下着履いているの?」

「うん?ああ、これが気になっちゃいますか」

 

 私は自分の下半身を見る。

 そこにはあるのは、女性用の可愛らしいショーツではなく、男性用のボクサーパンツだ。

 無駄を省いた形状にスポーツブランドのロゴ入り。

 どう?なかなか似合ってますよね。

 

「これはマサキさんが……」

 

 なぜこの下着を履いているのか説明しようとしたのだが、

 クロの叫びで中断を余儀なくされた。

 

「マサキさんのパンツ盗んで履いているだとぉぉーー!この変態イモ娘が!」

「万死に値します。警察に突き出す前にパンツは回収しましょう」

「パンツ泥棒は極刑だ。貴様には無のような死を与える!」

「話聞けや!これは、マサキさんが履いていたヤツじゃないです」

「信用できるか!」

「そうです。それは、マサキさんがよく身につけているブランドのパンツです!」

「どおりで、見覚えがあると思った」

 

 だから話を聞けってば!

 最初に言っておくが、三女神様に誓って盗みなど働いていない。

 これはだな、マサキさんがサイズを間違えて購入したヤツを譲ってもらったんだよ。

 

「なーんだ。紛らわしことしないでよ」

「でも、マサキからもらったのはズルい」

「私たちに黙っていたのも、感心しません」 

 

 そんなの早い者勝ちじゃい!

 私は好きな人と同じ物を身に付けたい欲に従ったまでよ!

 試しに履いてみると、これがなかなか良いもので驚いた。

 着心地よく丈夫でしっかりした作り、激しい動きにも追従する柔軟で通気性の良い素材は快適だ。

 尻尾を出す穴が無い事だけが不満だな。

 メーカーさんには、是非ともウマ娘用を作ってもらいたい。

 今ではハイブランドのショーツより、こっちを履く方が楽チンだったりする。

 

「これを履いていると、マサキさんの食いつきがいいんですよね~」

「あ?」

「は?」

「今なんつった?」

 

 ボクサーパンツスタイルを披露したところ。

 マサキさんの好み『男物を着る女の子って可愛いよね』にヒットしたらしく。

 『いい!凄くいい!シロ、大好きだ』と褒めてくれました。

 その日の夜はいつもより・・・きゃっ!////

 これ以上はトップシークレットです。

 ウフフフ(n*´ω`*n)

 

 ちょいと惚気てしまったが、気を取り直して野球拳を続けましょうか!

 待っていてください、マサキさん。勝つのは私です!

 さあ!いざ・・・あれ?あれれ?クロ、クロ―!聞いてる?続きやるよ?

 

「おい、そのパンツこっちに渡せ」

「はい?何を言って━━」

「私のショーツと交換だ。文句ないだろ?」

「あるわ!何でお前のふんどしと、神聖なるボクサーパンツを交換せにゃアカンの?」

「そのパンツ、シロには勿体ない『クロにこそ相応しい』とマサキさんも、たぶん言う。それと私のショーツはふんどしではない!」

「やめろ離せや!私の大事なパンツから手を離せぇ!」

 

 無茶苦茶なことを言い出したクロが、私のパンツをむんずと掴んだ。

 やめーや!伸びるでしょーが!

 アル姉さん、ココ、助けて下さいよ。

 クロの奴が理不尽な物々交換を持ちかけてきて困っているんです。

 

「シロちゃん。とりあえず、それ脱ごっか?」

「へ?」

「理不尽ですよね。シロさんだけ、愛されパンツを頂戴するなんて……」

「二人ともクロの味方を!?え、ちょ、待って」

「これは私の物です。皆さんにボクサーパンツはまだ早い」

「パンツに年齢は関係ないよ。だから、私がもらってもいいよね!」

 

 アル姉さんとココも私のパンツを掴んできたぁ!?

 待って、本当に待って、何が起こっているの?

 

「離してよアル姉!これは私が履くべきなんだぁ!」

「クロさんはふんどし()めてワッショイが似合ってます。ほら、ここは任せてワッショイしてください」

「わかった。クロちゃんはふんどし、アルにはドスケベ下着、私がボクサーパンツで決まりね」

「私が履いているんだから私のだろ!お前ら自分が何をやっているのかわかってる?冷静になれ!」

 

 うわぁぁぁーーーー!パンツが!私のパンツがぁ!!

 三方向に引っ張られて見るも無残な姿に!?

 もう原型留めてないよ。これパンツと言っていいのか?

 客観的に見て、穴の開いた(いびつ)な布切れに素っ裸で(またが)るダイヤモンドです。

 プール回の将軍かよぉぉ!!

 それにしても、ウマ娘の怪力にここまで耐えるパンツすげーな。

 尊敬の意を込めて、パンツさんと呼ばせてもらおう。

 今助けるから、もう少しだけ頑張って私のパンツさん。

 

「そうだ野球拳!野球拳しましょうよ!まだ私とクロの決着がついてな……」

「「「もう野球拳なんか、どうでもいい!!!」」」

 

 今までの苦労を水の泡にしやがった。

 どいつもこいつも、バカばっか。

 

「だったら温泉旅館チケットをめぐる勝負の行方は?」

「最終的に、パンツを獲った者が勝者だ!」

「「異議なし!」」

「アホかぁ――!いい加減目を覚ませぇぇぇ!」

 

 渾身の力を込めてパンツを引っ張るアホウマ三名。

 私の抵抗も虚しく、パンツさんは伸びきって(ひも)状になっている。

 これが紐パンですか?

 

「本当に勘弁してください。今ならまだ紐パンで済みますから、手を離して━━」

「「「うおぉぉぉーーー!!」」」

「やー!ウマの耳に念仏ぅぅぅ!」

 

 聞く耳もたずの三人が更なる力を込める。

 するとどうなるか、わかりますよね。

 

 ビリッ・・・

 

 え?やだ、パンツさん!?

 そんな!ヤダ、ヤダヤダヤダ!

 今あなたを失うわけにはいかないの!

 諦めないでー、バニング大尉ぃぃぃ!

 

 ピッ・・・ビリ・・・ビリリリリィィィーーー!!!

 

「「「裂けたぁーーー!?」」」

「ギャァァァーーーッ!やっぱりこうなったかぁ」

 

 憐れなり!パンツさんは見事爆裂四散!

 私が悲鳴を上げると、なぜか加害者連中も悲鳴を上げたのがムカつく。

 部屋の中を千切れ乱れ飛んでいく、パンツだった物たち。

 それが落下するまで、スローモーションで見えた。悲しかった。

 

 頼みのパンツさんを失った。

 フルフロンタル・ダイヤモンド爆誕である。

 静まり返る室内、一分ほど経過した後、クロが白々しい咳払いをした。

 

「コホンッ…じゃ、じゃあ、野球拳は私の優勝ってことで、いいよね?」

「いいわけあるかぁ!お前のふんどし寄越せやぁぁぁーーー!!」

「ひぃぃ!シロがパンツハンターに覚醒した!?助けて―!」

「いけない。シロさんを止めないと」

「その前に、自分のパンツ隠しておいた方がいいよ。どうせ、クロちゃんの次に狙われるのは、私たちだからさ」 

「クロさん、ごめんなさい。私は自分の下着を守るので精一杯みたいです」

「二人とも役立たず!」

 

 パンツさんの無念を晴らすべく、覚醒した私は諸悪の根源へと襲い掛かった。

 そう、この(いくさ)はもう、奴のふんどしを奪わなければ終わらないのだ。

 

「愚かなるクロよ、覚えておけ。(パンツを)()っていいのは()られる覚悟のある奴だけだ!」

「そんな覚悟したくない!」

 

 必死に逃げ惑いパンツを守ろうとするクロだったが、

 怒りで各種ステータスの上昇した私には敵うべくもない。

 

「い、いや、来ないで」

「お前も『全裸(かぞく)』だ」

「ファミパンはいやぁぁぁーー!」

 

 チェックメイトだ。

 私は、怯えるクロの下着へと掴みかかった。

 

 〇

 

()ったどぉーー!」

 

 私はクロから強奪したショーツを握りしめ天高く掲げる。

 全員が全裸になってしまったが、

 その手にパツンを掴んだのはこの私!サトノダイヤモンドだ。

 私を恐れたアル姉さんとココは、ちゃっかり自分の下着を隠してしまっている。

 よって、残った最後のパンツを手にした者が勝者である。今そう決めた!

 勝敗はここに決したのだ。

 

「返して、返してよぉ」(´Д⊂グスン

「どうしてこんなことに、私たちには争う以外の道はなかったのですか?」

「終わった?もう服着ていい?」

 

 あーっはっはっはっ!愉快愉快!

 敗北者どもの悔しそうな顔が見れて大満足だ。

 

 "野球拳大会"優勝はサトノダイヤモンド!

 

 途中から野球拳していなかったけど、勝ったので良しとする。

 見てますか、パンツさん。

 あなたの死は無駄ではありませんでしたよ。

 

「勝った!勝ったぞ!うおおおぉぉぉーーーー!やったぁーーー!」

 

 私は何度も拳を突き出し、勝利の雄叫びを上げ続けた。

 一時はどうなる事かと思ったが、終わりよければ全てよし。

 マサキさんとラブラブ温泉♪楽しみだな~。

 

 私はとっても有頂天であった。

 だから、普段はいち早く気付くようなことにも反応できずにいた。

 クロたちが一点を見つめて固まっていることにも、

 いつの間にか、出入口の扉が開いていることにも、

 そこに、今の状態を一番見られたくない人がいることにも。

 

「……何を……して…いるんだ?」

 

 なんだ、愛おしいマサキさんでしたか・・・

 マサキさん!?!?!?

 どうして?なんで?一体いつから?私は何で裸なの?

 

 う、うわぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ―――ッッ!!!!

 

 違う、違うんです!コレはその、ただちょっとしたレクリエーションで、

 裸?いや、裸なのはちょっと、今日は気温が高いなーと思ってハハハハハハハ。

 何も!何もやましい事はしていません! 

 他の面子は知りませんが、ダイヤモンドだけは今日も品行方正であります!

 

 今すぐにでも弁明をしたいのに、声が、声が出ない。

 あまりの状況に身も心もフリーズしてしまっている。

 それは、クロたちも同様らしく、私を含めた裸の愛バ四名は操者を見たまま微動だにしない。

 マサキさんは小刻みに震えながら、再び問いかけて来た。

 

「お前……たち…一体、何を……」

 

 あーマズい。マサキさんの目がぐるぐるしていらっしゃる。

 混乱して爆発する寸前のテンパったマサキさんだ。

 ちょっとでも刺激すると、一気に暴走を始める非常に危険な状態なのは、

 よーく知っている。

 

 どうする、どうする、どうすれば?

 落ち着け、私は人より考える力に秀でている。それを今こそ使うのだ。

 脳みそをフル活用して、並列演算処理と思考加速を行う。

 僅かな時間で、何通りのもの解決策を導き出し最適解を選べばいい。

 

 まずは状況を整理しよう。

 マサキさんは私たちのあられもない姿を目撃してショックを受けている。

 その姿とは・・・

 

【クロ(全裸)】 

 私にパンツを獲られて泣きべそをかいている。

 その表情には羞恥も含まれており、ほんのり顔が赤い。

 目が潤んでいて、なんかちょっと色っぽいのがムカつく。 

 

【アル(全裸)】 

 私を止めようとして、後ろから抱き着いた感じになっている。

 マサキさんに裸を見られてスイッチが入ったのか、ちょっとハアハアしている。

 この状況で発情するとは、ドスケベは格が違った。

 

【ココ(全裸)】 

 どさくさに紛れて、クロのおぱーいを揉んでいた。

 こいつ・・・楽しんでやがる。

 マサキさんに見られて焦ったのか、奇妙(ブサイク)な笑みを浮かべたまま固まっている。

 

【シロ(全裸)】 

 私はクロのパンツを握りしめ『我が生涯に一片の悔い無し!』と、

 ラオウのポーズで停止中。

 他の三人と違い、大事な部分を尻尾で隠すこともなく大胆に見せつけている。

 全てをさらけ出したその姿、まさに威風堂々!!どう見ても変態じゃねーか!

 こんなの北斗の長兄ラオウでじゃないわ、

 露出を極めし裸の王様、言うなれば裸王(らおう)のダイヤモンドだ。

 

 ふむふむ、オッケー理解した。

 つまるところ、このチーム"ああああ"基地内の惨状を目撃した者は・・・

 

 "ウマ娘 プリティパンツレスラーズ(18禁)"

 セルラン一位を狙える今世紀最大の意欲作!

 今なら事前登録で、星5限定キャラ

 【裸王・サトノダイヤモンド】がもらえるよ☆

 

 こんな感じのPVが脳内を駆け巡ってしまうわけですね。

 えらいこっちゃで!

 

 操者の留守中にパンツレスリングではっちゃける、ド変態の愛バたち。

 今、淫靡なレスリング大会は終了し、優勝者である私が表彰台の上で感極まっている瞬間を見てしまった。

 きっと、マサキさんの目には、そう映ってしまっている。

 

 最悪だぁ!!

 

 フリーズしている場合じゃねえ!

 動け、動いてくれ私の体、言え、言わなくちゃ、マサキさんに伝えないと。

 私は止めたのに、パンツレスリングを無理やり強要されたと言うんだ!

 クロ、アル姉さん、ココ、の三バカが再起動する前に、私だけは被害者だと印象付けなくては!

 

 一触即発の空気が満ちる中、私たちもマサキさんも、動かない、動けない。

 そのまま数分間が経過して、新たな乱入者が登場する。

 

「マサキ、大丈夫?中で何が……え?えぇっ!ええええええええ!?」

「何?面白い物でも見つけ……ほんぎゅぇわぁぁぁぁぁーーー!?!?」

 

 真っ裸の私たちを見た二人のウマ娘が奇声を上げた。

 立ち尽くすマサキの後ろからひょっこり現れたのは、

 メジロドーベルとアグネスデジタルであった。

 なんだか嫌な組み合わせだ。

 

 二人の叫びでギリギリ保たれていた均衡が決壊する。

 現状に耐えられなくなったマサキさんの顔色が赤くなったり青くなったり。

 そして、ついに爆発する。

 

い、いやぁぁぁーーッ!ガチレズ四姉妹ぃぃぃーーッ!!

 

 顔を両手で覆ったマサキさんは不可思議なワードを叫びながら逃走した。

 もの凄いスビードで走り去り、あっと言う間に見えなくなる。

 ガチレズ?四姉妹?

 待って、それって・・・私たちのことですかい!?

 

 パシャッ、カシャッ、カシャカシャ、パシャ、カシャカシャシャシャシャシャシャ・・・

 

 音のする方に目をやると、ドーベルがスマホのカメラをこちらに向け、連続でシャッターを切っていた。

 無表情で撮影ボンタをタップしている。

 何してんだてめぇ!撮ってんじゃねーよ!

 

「アンタたち最低ッ!でも、同人誌のネタ提供ありがとう!」

 

 お前ふざけんなよ!

 勝手に薄い本に登場させたら訴えるからな!

 

 今思い出した。

 このドーベルとデジタルは学園内では有名な同人作家(エロ漫画家)だった。

 ヤベェ奴らにヤベェ現場を見られてしまった。

 私もクロたちも、ダラダラと冷汗をかく。

 

「どうした?我々に構わず続けたまえ」

 

 もう一人の同人作家デジタルは地べたに座り込んで、なんか偉そう。

 私たちの全身を舐め回すように見定めている。

 そして、おもむろに取り出したスケッチブックにサラサラとデッサンを開始した。

 鼻からはずっと鮮血が滴っているが、気にもしない。

 

「ベルりん。次回作はこれで行こうと思う」

「了解よデジタル。これだけ新鮮な資料(ネタ)があるんだもの、もう描くしかないわ」

 

 作家どもの目がキラキラしている。

 楽しそうね。こっちは胃がキリキリしてきたのに。

 

「「"ガチレズ四姉妹物語『パンツレスリング編』"お楽しみはこれからだ!!」」

 

 最低の物語を描こうとしているのは理解した。

 こいつらが原稿を完成させる前に、消すしかないのも理解した。

 どうしてくれようか?

 

「う゛わぁぁぁ~~~んんんっ!!」

 

 同族の処分方法を検討しかけたところで、外から奇妙な声が響いてきた。

 情けなくもどこか庇護欲をそそるような、この泣き声は!?

 聞き間違えるはずがない、紛れもなくマサキさんだ!

 土煙を上げ、涙と鼻水を垂らしながらこちらに走って来る。

 あの様子では、学園を一周してきたのかもしれない。

 とにかく、戻って来てくれたのだ。

 何があったのか、ちゃんと説明をして諸々の誤解を解かなくてはならない。

 

 スタート地点に戻って来たマサキさん。

 彼の目線はあらぬ方向にあって、私たち四人とは決して目を合わそうとしない。

 そんな、う、嘘、嫌われた?

 

「わわわ、忘れ物ォォォーー!」

 

 ヤケクソ気味に何事かを叫ぶマサキさん。

 次回作について打ち合わせをしていた同人作家どもをヒョイっと持ち上げ、

 両脇に抱え込んだ。

 

「ちょっと、どこ触ってんのよ!」

「待ってよ!まだスケッチしきれていない箇所が、それぞれの乳輪の大きさが━━」

 

 忘れ物ってそいつらかーい!?

 生もの二匹を回収したマサキさんは、私たちに背を向けて立ち去ろうとする。

 少しだけ歩いたところで振り向いた顔は、捨てられた子犬のようであった。

 私たち四人の顔を順々に見て、目に大粒の涙を溜める。

 

「ご、ごゆっくりぃ!!」

 

 それだけ言い残し、マサキさんは激走していった。

 取り残される私たち、途轍もない喪失感に襲われる。

 このしょうもない、一連の流れで大切な人を失ってしまったと言うのか!!

 納得いかねぇ!

 

「ヤバいです!ヤバすぎます!ヤバすぎてヤバい!」

「追いかけないと!」

 

 ここに来てやっとフリーズが解除される。

 いち早く動き出したクロが、私の手からパンツをひったくり身に付けた。

 

「あ!ちょっと」

「何やってんの!シロも早く着替えるんだよ」

「はよせな!服、私の服はどこ?」

「あわわわわ、とんでもないことに、マサキさん泣いていました」

 

 急いで制服に着替え始める三人をよそに、私は自分だけ下着が無いことに気付く。

 

「パンツが無い!」

「うるせぇ!ノーパンで妥協しろや」

「嫌ですよ。スカートが風で(めく)れたらどうするんですか!」

「知るか!」

「そんなこと言ってる場合?パンツとマサキどっちが大事なの?」

「考えるまでもなくマサキさんですよ!でも、下がスースーするのはイヤンなの」

「シロさん。これを使ってください」

「さすがアル姉さん!予備のパンツを準備して━━」

 

 アル姉さんからパスされたのは、ドラッグストアとかでよく見る小箱だった。

 どのご家庭にも常備しておいて損のない、応急処置アイテム。

 

絆創膏(ばんそうこう)……これでどうしろと?」

「何も無いよりマシだと思って、さあ!思う存分貼ってください」

「どこにだよ!」 

「え、それは、まあ、大事な部分に////」

「余計変態チックになるわ!」

「じゃあもう、両乳首にでも貼ってろよ」

「名案だww」

「ブラジャーはあるわい!」

 

 ボクサーパンツを亡き者にした凶悪犯たちは、私を差し置いてサッサと着替えてしまった。

 悩んでいる時間はない、絆創膏・・・やるしかないのか?

 絆創膏の詰まった箱を開封するか本気で迷う。

 そんな私を嘲笑うかのように、さらなる衝撃の事態が待っていた。

 

「シロ、悩んでる暇はないよ。早くし……うぇ!?」

「え、嘘、そこまで!?」

 

 体からじんわりと力が抜け、一瞬だがふらついてしまう。

 軽い虚脱感に襲われたのは私だけではない、この場にいる全員だ。

 正常な川の流れをせき止められたような、大切な繋がりを断たれたような、

 この感覚は、まさか!!全員が顔面蒼白になる。

 

「リンクアウト!?私たち、マサキに見限られたぁ!」

「「「そ、そんなぁ!!」」」

 

 私たち愛バは、マサキさんだから可能な荒業、常時接続型リンクで覇気循環を行っている。

 余程の事が無い限り、寝ていようが気絶していようが、覇気は五人の間を回り巡り続けているのだ。

 接続も切断も基本操者次第。愛バの側からは緊急時の強制切断のみ許可されている。

 何の説明もなく行われたリンク切断、それが意味するところは、

 

『うわっ、あいつらガチレズパンツレスラーだったのか!?』

『ないわー。マジドン引きだわー』

『絶望した!変態な愛バたちに激しく絶望した!!』

『操者なんかやめて愛バは捨てよう。そうしよう!』

『女は信用できん。女は魔物じゃ!ウマ娘はケダモノじゃ!』

『恋愛するなら、ムキムキマッチョなアニキが一番だぜ」

『行くか、すばらしき発展場へ!』

 

 女性不信になったマサキさんが、マッチョと肩を組んでホテルイン!

 最悪な想像をしてしまい、吐き気がこみ上げてくる。

 やめてやめてやめて!ダメダメダメ!

 そっちへ行ってはダメですよ!

 

「やらせねぇー!絶対にやらせない!」

「ど、どどどど、どうしましょう。シャナミア様に頼んでマッチョメンに変身させてもらうしか」

「待って!まだ完全に切断されてないよ。僅かだけど繋がりが残ってる」

 

 何ぃ!?・・・集中集中・・・・・・ホントだ。

 とても細く頼りないが、完全に途切れているわけではなかったのだ。

 例えるなら、ネット接続を光ファイバーから電話回線に格下げされた感じ。

 若い私は知りませんが、ちょっと動画をダウンロードするだけで数時間、下手したらまる一日かかっていたなんて信じられない時代があったらしいのですよ。

 循環速度は恐ろしく低下したが、まだ覇気循環はされている。

 リンクは切れていない。

 セーフ!ギリギリセーフ!

 

「マサキさん。心の奥では、まだ信じてくれている!」

「行きましょう。今すぐお会いして全てを説明するんです」

「まだ間に合う。待っててマサキ!」

「え、ちょ、ま」

 

 突き落とされた奈落の底で、クモの糸を発見した気分になったのだろう。

 クロ、アル姉さん、ココの三人はマサキを探すため部屋を飛び出して行った。

 未だに全裸の私を残して!

 

 お、おいて行かれた。

 マジで私を置き去りにしやがった。

 この恨みはジャポニカ復讐帳に記録しておくからな!

 あいつら全員、壁尻の刑が執行されたらいいのに。

 尻の側に小汚いオッサンを配置してやるわ!

 

 完全に出遅れてしまった私は途方に暮れる。

 ノーパンか絆創膏かで悩んで、マサキさんを失うなんて事になったら末代までの恥。

 私はなんて、なんてグズでノロマなウマ娘なのだろうか。

 自分の愚かさに嫌気が差して来た。

 マサキさん、不甲斐ない私をどうか叱ってやってください。

 あなたの下に馳せ参じることすら叶わない。

 そんな駄バはひとり寂しく裸王として生きていきます。

 

「アンタたち、今度は何をやったのよ!マサキが泣きながら全力疾走しているって報告が━━」

「あ」

「あ?」

 

 私ひとりの"ああああ"基地に怒鳴り込む人物。

 それは、学園の守護神にして我らが小姑、だづなさんだった。

 私と目が合った彼女は石のように動かなくなる。

 見てはいけない物を見たって表情だ。

 

「邪魔したわね……」

「邪魔だなんてとんでもない!よくぞ来てくれましたよ、義姉上(あねうえ)様!」

「愛バがキチガイの上に露出狂だなんて、マサキが泣く訳だわ」

「大きな誤解が生じています」

 

 地獄に仏とは、だづなさんのことだったのだ。

 踵を返そうとするたづなさんを全力で引き留める。

 今はこの人だけが頼りだ。

 

「触んな裸王!露出狂がうつる」

「ついさっき獲得したばかりの称号を、何故ご存知か?」

「知らないわよ。いいから離して、そして服を着ろ」

 

 振りほどかれても私はめげません。

 だづなさんの正面に回り込み、何とか話を聞いてもらう。

 

「だづなさん!信頼するあなたに、重大なお願いがあります」

「聞きたくないけど、一応言ってみなさい」

「パンツ貸してくれませんか?今、履いているのかまいませ……ぐぼっぉ!?」

「殴るわよ?」

「殴ってから…言わないで……うー、いたた」

 

 普通にグーで殴られた。

 本当に容赦のないお方だ。

 痛い・・・けど、なんのこれしき!

 小姑の嫁いびりにも負けない、健気なダイヤモンドです。

 

「タダでとは言いません。パンツをくれたら代わりに、この絆創膏を差し上げます。ナイス等価交換ですね!」

「斬るわよ?」

「抜刀するのはやめましょうや。マジで洒落になりませんってば」

 

 腰に下げた得物を鞘から引き抜くだづなさん。

 うはw殺されちゃうww。

 汚物を見るような目つきで睨まれて、ゾクゾクもしちゃう。

 刃物で脅されても挫けてやらない。

 私はそれほどまでにあなたのパンツが欲しい!

 

「どうしてわかってくれないのです?ウマ娘同士、助け合うべきでしょう」

「アンタと同族だと思うと泣けてくるわ」」

 

 ムカッ!そんなに言わなくていいじゃないですか。

 義理とは言えいずれ妹になる子に対して、冷たすぎやしませんか?

 怒った私は、正論をぶつけて勝負に出ることにした。

 はい論破!してやる。

 

「あのですねぇ、考えてもみてください」

「何よ?」

「今後一切、誰にも使用されること無く朽ち果てる、たづなさんの下半身より、今までもこれからも大切に使われる、私の下半身が優遇されるべきなのは、火を見るよりも明らかですよね?」

「……」

 

 使ってくれるのは、もちろんマサキさん。

 サトノダイヤモンドはマサキさん専用の最新型ワンオフ騎体なのです。

 テストパイロットすら決まらない"旧世代の欠陥騎(←たずなさん)"と一緒にされちゃ困ります。

 

「理解したのなら早くパンツください。脱ぎたてでも我慢しますから、ほらはよ」

「……」

「安心してください。絆創膏…きっとお似合いですよ」

悪・即・斬!!

「はぎゃぁ!?」

 

 返答代わり放たれた渾身の剣撃を、地面を転がるようにして回避する。

 今のは牙突零式(がとつぜろしき)!?なんちゅー技を再現してくれてんだ。

 回避がほんのわずかでも遅れていたら、私の上半身は千切れ吹き飛んでいただろう。

 論破されて悔しいからって、必殺技を出すのは大人気ないぞ。

 至極真っ当な意見を述べたと言うのに、たづなさんの逆鱗に触れてしまったようだ。

 

 『なっ! 何をするだァーッ』と抗議の声を上げようとしたが、無理だった。

 だって、今のたずなさんメッチャ怖いの。怖すぎるの!

 口から『ふしゅるるる…』と謎の吐息を漏らし、血走った目で睨みつけてくる。

 あんなのウマ娘じゃないわ!ただの鬼よ!騎神じゃなくて、実は鬼神だったの?

 たづなさんの目が『お前を殺す』って言ってるもん。

 目は口程に物申すとは、誠でござったな!

 

お前を殺す」デデン!

 

 おっふ、口でも言われちゃった。

 鬼と化した義姉からの明確な殺害予告いただきました!

 マサキさんのお声で聞きたいセリフだったのにー。

 

「もう、たづなさんったら冗談は顔だけにしてくださいよ。全然笑えませ━━」

「お前を殺す」

「えっと、それ、ガンダムWだと生存フラグで」

「お前を殺す」

「か~ら~の~?」

「お前を殺す」

 

 ダメだこりゃ。

 たづなさんは『おまコロ』としか喋らない、殺戮マシーンと化してしまった。

 ダイヤだけを殺す機械かよ!?

 どうする?戦うか?アレと?全裸で?無理だ!ぜぇっったい勝てねぇ!

 ならば、私のとるべき道はひとつ。

 

「ほぉら、取ってこーい!」

 

 野球拳のゴタゴタで床に落ちていた小冊子を拾い上げ、明後日の方向へ投げつける。

 勿体ないが、背に腹は代えられぬ。

 

「あれこそは『女マサキさん写真集』おやすみからおはようまで、マサキさんのあられもない姿が━━」

「お前をころ……何ですってーーー!?」

 

 殺意で塗りつぶされていた、たづなさんの瞳に生気が戻った。

 "女マサキさん"という言葉に反応したようだ。

 ブラコンっぷりを遺憾なく発揮した鬼は、小冊子を手にするべく機敏な動きを見せる。

 私に背を向けて駆け出すたづなさん。

 バカめ!隙を見せたな。

 今のうちに逃げる。超逃げる!

 私は脱ぎ散らかしていた制服を大急ぎで回収、全裸のまま外へと逃げ出した。

 

 〇

 

 この私が全裸外出してしまうとは、人生何があるかわからんね。

 しかも、学園敷地内でだよ。

 誰かに目撃されるわけにはいかないので、人のいないルートを選択する。

 幸いにも、基地の近辺には生い茂った森林と、旧校舎ぐらいしかない。

 旧校舎裏に身を隠して着替えを済ませれば、見つかる心配はないだろう。

 よし!いける。

 遅れてしまったが、今からでもマサキさんの下へ行かなくては。

 少しだけ希望が見えた矢先、耳をつんざく女の叫びが響き渡った。

 

「だましたな!やってくれたなぁぁ!サトイモォォォーーー!!!」

 

 基地のある方向から、背筋も凍るようなおっそろしい怒声がした。

 奴だ!ブラコン鬼神が怒りの咆哮を上げている。

 私の投げた物が"女マサキさん写真集"ではなく、"ダイヤちゃん写真中ベスト版"だとバレたのだ。

 きっと、写真集はビリビリに破かれてしまっている。

 マサキさんに進呈するはずだった、マイベストショットたちよ、

 安らかに眠れ!

 

 旧校舎目指してGOGOGO!

 もう少しで"裸王"の称号とお別れだと思うと・・・清々(せいせい)する!

 どうか、このまま誰にも会いませんように。

 

「え?ダイヤ…さん……え!?裸???」

「……」

「な、ななな、何て格好しているんですかぁ!ここは学園ですよ!?」

「……」

「アンドウ教官の仕業ですね。あの男に露出プレイを強要されてんでしょ!許せない」

「……」

「辛かったですね。でも、もう大丈夫ですよ。あなたの事はキリュウイン家が責任もって保護━━」

「邪魔」

「はんがっ!」

 

 喋る人型のウンコを踏んずけてしまった。

 誰だ、こんな所で野グソした奴は?

 ばっちいなあ。テンション下がるわー。

 

 そんな訳で旧校舎裏に到着した。

 この辺でいいか、鬼が来る前に着替えてしまおう。

 

 ・・・お着替え中・・・

 

 制服装備完了!(パンツ以外)

 さて、生きてマサキさんの下へたどり着くために、どう動くべきだろう?

 アレコレ考えた結果、クロたちと合流して、たづなさんのヘイトを分散させる方法が一番現実的であると思い至った。

 肉壁やデコイにしたら、恨みも晴らせて一石二鳥なのがいい。

 

「うーん。なんだか落ち着きません」

 

 全裸の時よりも下半身が気になる。

 スカートを履いてしまったことで、大事な部分の無防備加減が気になって仕方がない。

 何か凄くいけない事をしている気分だ。

 めっちゃスースーする!

 

「どこだっ!どこへ行った!逃げられると思うなよ!」

 

 うわ、追跡者(ネメシス)が私を探して徘徊している。

 クリーチャーの正体は、ブラコンを拗らせた、悲しきたづなさんである。

 そういえばあの人、メジロの教導隊時代には暴君(タイラント)なんて呼ばれていたらしい。

 誰かー!ロケットランチャー持って来てー!エイダァァァーーー!

 チマチマ妙なウィルスを作るより、たづなさんの細胞を研究した方が絶対ヤバいと思う。

 

 "ブラコンハザード・ラストエスケープ"【ダイヤ編】始まった!

 

 サバイバルの基本、まずはアイテムの確認・・・絆創膏しか持ってねぇ!

 こういう時こそ、アイテムボックスを持ち運んでいる、ココの出番なんですけどね。

 いないものはしょうがない。アイテムは現地調達だ。

 あ、グリーンハーブ(雑草)見つけた。

 むしゃむしゃ・・・マッズッッ!?ぺっ、ぺっ!

 

 斬艦刀による一撃死が怖いので、防御だけでも固めておきたいところだ。

 学園の制服は見た目以上にの丈夫さと、高い防御力を誇るが、たづなさんの攻撃を防げるとは思えない。

 ほんの少しでもいい、生存率を上げるために必要なことは全部試してやる。

 

『何も無いよりマシだと思って、さあ!思う存分貼ってください』

 

 アル姉さんのふざけたセリフが思い起こされた。

 

「……何も無いより、マシ……なのか?」ゴクリッ

 

 ・・・・・・・・・・ちょっとだけ・・・

 

【ダイヤは ばんそうこうを そうびした】

【みのまもりが 1あがった】

【ばかさかげんが 20あがった】

【みっともなさが 50あがった】

 

 ちょっと、ステータスに失礼な項目追加するのやめてよ。

 なぜ素直にみりょくが上昇したと言わないの?もう、照れ屋さん♪

 パンツの代わりにはならないけど、多少、スースーが緩和されたので良しとする。

 

「マサキーー!マサキどこなの?返事をしてーー!」

「ここにもいない。一体どちらへ?」

「見つからない、やっぱり避けられちゃってるの…」 

 

 お?クロたちだ。

 学園を一周して戻って来たみたいだな。

 

「この薄情者どもが!よくもおいて行ったな!」

 

 三人の背後から、再会の喜びタックルをかましてやった。

 "ぼっち・ざ・だいや!"で寂しかったんだぞ!

 

「きゃっ!し、シロちゃん」

「どうしてここに?あ、服着てる」

「ついて来られないから、心配していたんですよ」

「もう!あれから大変だったんですからね!」

 

 たづなさんとエンカウントして逃げて来たことを、かいつまんで話した。

 

「災難だったね」

「まさに命からがらというヤツです」

「で、パンツは?」

「はいてない」

「ば、絆創膏は?」

「貼った」

「「「マジでか!?」」」

 

 マジだよ。悪いかこんちくしょう!

 

「ほんとクレイジーだよね。脳に何が詰まってるの?」

「うるさーい!元はと言えばクロのせいです!」

「さすがシロさん。期待を裏切らない汚れっぷり、お見事です」

「それ、褒めてませんよね?」

「常人にはできない事を平然とやってのける。シロちゃん、恐ろしい子!」

「そこにシビれる?あこがれるゥ?」

「いや、驚いて呆れただけ」

 

 貼れと言っておきながら、実際にやると引くなんて酷くない?

 

 ともかく、全員集合することができた。

 だが、まだピンチを脱したわけではない。

 焦らず騒がず、ここからも慎重に動かなくては。

 奴(たづなさん)に見つかれば、全てが無に帰すのだから。

 

「で、結局何をやらかしたの?」」

「パンツくれって言ったら、急に怒りだしたんですよ」

「かなり失礼だとは思いますが、それだけで?」

「シロだからなあ。無自覚に余計な事を言ったんだと思う」

 

 そうやってすぐ私のせいにする。

 たずなさんの沸点が低すぎるのが悪いんですよ。

 

「確かに、たづなさんは怒りっぽい」

「異常にキレやすい大人・・・更年期障害かしら?」

「更年期?マサキさんの持っている医学書で見たよ。そっか、たづなさん……」

 

 神妙な顔をしたクロ。

 いつの間にか、更年期の辛さを本で学んでいたらしい。

 なぜ、そこをピンポイントで学習したのか?行動の読めぬ奴よのう。

 

「もう閉経(へいけい)しちゃってるんだ……」

「クロちゃんww閉経は言いすぎwww」

「ん?何か間違ってた?」

 

 純粋(大バカ)であるが故に、とんでもないワードを口にしたクロ。

 閉経ってwヤベェ腹いてぇwww

 

「一度も攻められたことの無い城門がw永久封印ww無駄にセキュリティ強固www」

「"さいごのかぎ"を使っても開きそうにありません」

「アルまで何言ってるのw」

「【へんじがない ただの へいけい のようだ】」

「やwめwろwww」

「うぷぷっw」

 

 『弟にたかるハエ』と罵られ虐げられてきた恨みが、ここにきて爆発した。

 性格悪いなあとは思うけど、陰口でストレス発散しないとやっていられない事もある。

 こっちは命だって狙われているのだ。

 これぐらい大目に見てくれますよね。

 

「「「「あはははははwwぶひゃひゃひゃwww」」」」

 

 共通の敵を笑い者にして、チームの結束はより強固になるのであった。

 

 ふぅー、笑った笑ったww

 さあて、気を取り直してマサキさんを探そう。

 灯台下暗しとも言うし。

 案外近くにいた、なんて事もあり得る。

 

 ・・・・・・カサッ。

 

 物音?まさか、本当にマサキさん!

 でも、なんで上から?上?

 私は音のした方向、立ち入り禁止になってる旧校舎屋上へと視線を向け、

 そこから飛び降りる人影を見た。

 何か持って、いや、担いで・・・ヤッベェぞ!!

 

しぃぃーーーねぇぇ―ーーッ!!

 

 危なァーいッ!上から襲ってくるッ!

 各騎散開!全員が大慌てで、その場から飛びのいた。

 轟音と衝撃、爆ぜる大地。

 石の破片と砂埃、それとグリーハーブが散弾のようにぶちまけられた。

 先刻まで、私の立っていた場所に大きな何かが叩きつけられた結果、起こった破壊現象だ。

 

「「「「で、出たぁぁぁぁーーー!!」」」」

 

 クレーターを作った張本人。

 たづなさんの姿を確認して絶叫する私たち。

 彼女の手には一振りの長大な刀が握られていた。

 『それは 剣と言うには あまりにも大きすぎた』

 と、ナレーションが入りそうな刀の名前は"参式斬艦刀"

 たづなさん愛用の刀、その真の姿である。

 

「リミッター外したの!?学園内では禁止されていたはず」

「確か『理事長が泣く』とか言ってましたね」

「その禁を破ってまで、シロを殺したいってことだ」

「なんってこった!」

 

 なぜだ?なぜ接近に気付けなかった?

 まさか・・・この女、

 あれだけ怒り狂いながらも、隠形術を駆使して追跡して来た!?

 叫び声を上げたのは、自分が冷静ではないとアピールして、私の油断を誘うための演技。

 煮えたぎる怒気を抱えたまま、思考はどこまでもクールに行動する。

 それも全て、私という獲物を狩る目的のために・・・そこまでするのかよ。

 改めて、たづなさんの怖さを思い知った。

 

 でも、このタイミングで来てくれて、よかったとも言える。

 もう少し早かったら、さっきの陰口パーティーを聞かれていた。

 アレを聞かれてしまったら、全滅エンドが確定してしまう!

 

「だぁ~れぇ~が!閉経だってぇぇ!!」

 

 \(^o^)/オワタ\(^o^)/オワタ\(^o^)/オワタ\(^o^)/オワタ

 

 バッチリ聞かれちゃってました。

 あーあ、私たち詰んじゃってるよ。

 せっかく絆創膏を装備したのに、ここで終わりか・・・

 いいや!ままだ、まだ終わらんよ!

 マサキさんに会って、私はパンツレスラーではない!と言わなくちゃ。

 

 私には頼れる仲間(肉壁)がついている。

 たづなさんにビビッて、みんな目が死んでいるけど、

 最終的に、私が生き残ればよかろうなのだぁ!

 

「聞いてください!一連の騒動、その原因はクロです!閉経言い出したのもコイツ」

「な!私だけに罪を着せる気!?シロだって、たづなさんの城門をバカにしたくせに!」

「アル?"さいごのかぎ"使ってあげなよ」

「黙りなさい、ココさん!一番笑っていたのはあなたでしょ!」

 

 (はた)から見ると、醜い争いをしているようにしか見えないだろう。

 だが、私たちは生き残ることに必死なのだ。

 罪の擦り付け合いをしているようで、その実、ゆっくりゆっくりと後退していく。

 待て待て待て!か弱い私を前面に押し出すな。

 パンツ履いている奴が前に行けよ!こちとら絆創膏やぞ?

 一番防御に不安がある私を楯にするのは間違ってるって!

 

 もし、今死んだらどうなる?

 検死時に『こいつ絆創膏貼ってるw』と笑われるに決まっとるわい!

 ヤダー!検死はせめてマサキさんにやってほしいー!

 

 たづなさんは動かない。

 もしかして、許してくれた?

 などという、甘い考えは一瞬で吹き飛ぶ。

 たづなさんの全身と斬艦刀に、高密度の覇気が練り上げられいくのを感じる。

 あれは、力を溜めているだけだね。殺す気満々だね!

 どう見ても、必殺の一撃を放つ前だもん。

 薄っすら金色に輝くのもやめてくんねーかな?怖いから。

 顔すげぇww般若通り越して不動明王だもんwww

 

「もう無理!怖すぎ!私行くよ!」

「続きます。これ以上は持ちません!」

「逃げるんだよぉぉーーッ!」

「また置いてけぼりかーい!待って、ひとりにしないでーーー!」。゚(゚´Д`゚)゚。

 

 ダッシュ!

 もう、ゆっくりしている暇はない。

 私たちは脇目も振らず全力逃走を開始した。

 スカートが捲れるとか、ノーパンだとかを気にする余裕は無い。

 この逃走をしくじれば、全てが終わってしまうのだから。

 

「お前ら全員……(さし)になれぇぇぇっ!!!

 

 大上段から振り下ろされる斬艦刀。

 必殺の一撃は今、無慈悲に放たれたのだ。

 

 背後から迫まりくる、圧倒的な死の気配を感じながらも、

 私と仲間(腐れ縁)たちは、愛しい人の事だけを考えていた。

 

「「「「マサキさん!ばんざぁああいっ!!」」」」

 

 バ刺しになっても愛してくれますか?

 

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